それに何か森の様子が変だった。
何か……不気味なナニかがいる……。
私にはそんな気がしてならない……。
要約すると、あの森怖い。
現在、朱雀は巨大な木で休憩をしている。
余程、疲れがたまっていたのだろう。
「あー、心地ええ……」
その場は非常に静かで風が吹き、草原の揺らめく音が聴こえるだけだった。
「さて、そろそろ行きましょうか!!」
突然、そう言って朱雀は静かに言う。
商人も立ち上がり、再び貨車を動かした。
「ここを抜けて、少し歩けば巨木の森につきます!!」
「りょーかい!」
私は叫びながら必死に貨車を押す。
五分ぐらい押していると、巨大な木々が生い茂る森にたどり着いた。
ここを抜けなければならないようだ。
「もう少しです、頑張りましょう!」
「おーーーう!!」
商人の励ましの声に私は、掛け声みたいな言葉を発す。
私たちは巨木の森と呼ばれる森に入った。
聖殿の庭園→巨木の森
森の中は非常に薄暗く、昼だというのに、黄昏時のような雰囲気を出していた。
はっきり言って不気味極まりない。
「……暗い……」
私は必死に貨車を押しながら、そう呟いた。
明らかに、なにやらモンスターが現れそうな感じに私は、警戒心をマックスにする。
しかし、意外にもモンスターは襲ってくることはなかった。
貨車の車輪の音が、森に木霊するだけだ。
「出てこないものですね」
「でも、油断していると……」
突然、がさがさと草むらから音が聞こえてくる。
商人と私は貨車を動かすのをやめて、武器を構えて、音がした草むらの方を見る。
[ヒャッホオオオオオオ!!!! 俺はこのビッグウェーブに乗るぜえええ!!!!]
そんな大声を上げて飛び上げて現れたのが、ブヨブヨとしたピンク色の丸い生き物だ。
「(めっちゃRPGに出てきそうな魔物やな……)」
「英雄さま、気をつけてください!! ソイツはルーガ、貧弱そうな見た目ですが、非常に素早く、厄介な的です!!」
商人の言葉に私は武器を構え、重い剣を持って挑みかかった。
「うろあああああああ!!!」
[避けるしかない!! このバッドウェーブに!!!]
本当に素早い……。
素早いというか、すばしっこい!!
私の振るう剣では一向に当たる気配がない。
[面白そうじゃないか!! 乗るしかない!! このビッグウェーブに!!]
最悪なことに、我々の声を聞き付けた他のルーガたちがゾロゾロと現れる。
全員険しい表情をしてピョンピョン跳ねている。
「英雄さま!!」
「これはヤバい逃げよう!!!」
すると、商人はポケットから白い玉を取り出して、地面に叩きつけた。
すると、白い玉は破裂音を出して、白い煙を辺り一面に広がった。
ルーガたちは咳き込みながら、混乱していた。
「英雄さま、今のうちに!!!」
「お、おう!!」
そう言って、我々は全速力で貨車を押した。
ヤルソー将軍には申し訳ないが、もらった剣はその場に放り投げてしまった。
逃げるためだ……致し方ない……。
巨木の森→デモーアルー
気がつけば、巨木の森を越えて、目的地であるデモーアルーに到着していた。
「な、何とかたどり着きましたね……」
「ハァハァハァ……疲れた……もうなんでこんなに疲れなあかんねん!!」
関西の漫才のような突っ込みを一人で行う龍輝。
商人も息を切らしつつ、貨車にある積み荷からあるものを取り出した。
「英雄さま、助かりました!! これが報酬の武器です!」
満面の笑みで私に差し出したものは、pc356のハンドガンだ。
「あ、ありがとうございます」
私はそれを受け取る。
重たい。
ガチのハンドガンだ。
私は頂いたハンドガンを眺めていると、商人は更に積み荷から箱を取り出した。
「あと、これも差し上げます!」
「これは?」
「その銃で使用できる弾ですね。私の手作りで爆発する弾とか、魔力を込めた弾とか色々あるので、使ってください!」
「ほう、それは助かります!」
私はそう言って、ペコリとお辞儀をすると、商人もお辞儀を返した。
「では、私はこれで失礼します!!」
笑顔の商人は小さくお辞儀をしながら、市場と書かれた看板のある方へと行った。
「さてと……」
私は頂いたハンドガンと銃弾をリュックサックの中に入れて、これからどうしようか考えていると、あることに気づく。
「あれ? ユイさんは?!」
よくよく考えてみれば、ユイさんの姿がいない。
私は少し焦りながら、辺りをキョロキョロと見渡した。
やべえ、いねぇ……。
知らない街に一人でいるのは、かなりの勇気がいる。
日本ならまだしも、ここは異世界。
私の心臓はバクバクと激しく鼓動する。
『おーい、龍輝ー!』
「ど、何処いっとったんすか?」
市場の方向から手を振りながら、フワフワと向かってきた。
ユイさんは笑いながら、「荷物の上で一眠りしてたら、いつの間にかデモーアルーの市場におった」と言った。
「なーるね……」
どおりでいなかった訳だ。
私は苦笑いをする。
しかし、やはり知っている人がいると安心感が5倍ぐらい違う。
「それで龍輝、これからどうするんじゃ?」
「あー、日も暮れてきたし、どっか宿があれば、そこで泊まりたいな」
私がそういうと、ユイさんは「いい宿があるぞ」と、建物を指差す。
私はユイの指差す宿を見た。
その宿は至って普通の宿屋だった。
「ここか?」
『そうじゃ。ここは宿泊費が無料なんじゃ』
「おー!」
『ただ、寝床を用意してくれるだけで、飯などは自分で用意せねばならん』
まぁ、そうだよな。
ただ、ユイさん。別にどや顔で言うことでもないでしょうよ……。
私は呆れながらも、その宿へ向かう。とりあえず、小もないことが起こらないことを願いながら……。
「らしゃせーい!!ふぉー!!!」
宿に入るや否や、店員がハイテンションで出迎えてきた。
うわぁ訳のわからんやつが来やがったよチクショウメ……
「オおおオキャクサアンおヒトリサマー!??」
「ああ、はいそうです」
私が心底疲れた表情で返事を返すと、ハイテンションの店員は更にハイテンションになり……
「はあああい、サマーバケーショーン!!! アナタノ部屋はこっこおおおおお!!!! コケコッコオオオオオオ!!!!」
もう訳のわからん奇声を上げながら
部屋を案内しだした。
しょうもないことが起こるなと願った矢先にこれである。
こいつが鶏だったら今日の晩飯にしてやるのにと、私は心から思う。
「んうちのヤドハンミリョウですがああああ、ゴハンはソチラデゴヨヨウイネガイマアアアスふぉー!!!」
「あー、はいわかりました」
はよどっかいけ!
あれから20分ぐらいあのクソヤロウはこの場にいて、部屋の説明をしだした。
こいつが魔物だといいのにな~っと思いながら、真顔で見ていた。
ユイさんも死んだ魚のような目で見ていた。
多分、昔はあんな店員は居なかったのだろう。
ユイさんのあんな死んだ目は始めてみた。
いや、出会ってそんな日はたってないけど。
「すまぬ。龍輝、昔はあんなアホは居なかったのじゃ」
「いえいえ、ユイさんのせいじゃないですよ!」
謝罪するユイさんに内心意外に思ってしまった私であった。私は手を振ってそんなことないと言った。
あのハイテンションクソヤロウのせいで疲れがどっと来たので、飯を食わずに布団を敷いてそのまま寝た。
歯磨きせず、風呂にも入ってなかったが、もうそんなの明日で良いやと投げ出すほどに疲労感がきたのだ。
明日こそ何も起こらないことを願いながら。
いやあのハイテンションがいる限り、そうはならないのだが……。
朝の9時
めっちゃ心地のよい至福のときを過ごしていたのに、あるアホのせいで妨げられた。
「じりりりりりりりん!!!! さあ起きよう!!!朝だよコケコッコオオオオオオ!!!!」
そうあのハイテンション野郎である。私は意地でも起きぬと、布団に潜り込むが……
「こっこおおおおお!!!!コケコッコオオオオオオ!!!!ふおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
この野郎はわざわざ布団の隙間から大声でモーニングコールをしやがった。
「あああああああああああああああああ!!!!???」
私は鶏の大鳴き声を食らったように、打ち上げられた魚のように飛び上がり、左耳を押さえて悶絶する。
正直言って、マジでミンチよりひでえことにしてやろうと思った。
「おー……」
「あー……」
大声で起こされた俺とユイは目を擦り、左耳を押さえながら風呂に入って歯を磨き、宿からでた。
「もう、金輪際この店にはよらぬ」
「ああ。最悪だ……」
だいたいあいつのせいで疲れが取れていない状態で、更に追い討ちをかけるかのように、とあることが起こった。
「あら?あなたもしかして、英雄さんですか?」
「え、あ、はい」
誰かが声を掛けてきたので、私は振り返るとそこには、15世紀の西欧の服飾を彷彿とした、村娘全開の服を来た可愛らしい女性がいた。
「はいはい、なにかようです?」
「お願いをきいてもいいですか?」
「ええ、大丈夫ですけど……」
「あの、巨木の森で薬草を採集したいのですが……」
「あぁ、護衛的なやつですか?」
「はい! お願いします!」
「ええ、構いませんよ。いまからですか?」
「ええ、お願いします」
『わ、ワシはデモーアルーの市場でブラブラしておるから、終わったら市場に来てくれ!』
「あ、ちょ!?」
「英雄さま?」
「あ、いや。了解しました」
ユイさんは、なにやら慌てた様子で市場へと消えていった。
なんやなんや?
訳が分からなかったが、村娘さんを待たせる訳にもいかず、私は頭に疑問を残したまま、巨木の森に向かった。
巨木の森←デモーアルー
朝だというのに、相変わらず薄暗くて不気味だ。
「ここ、薄暗くて不気味ですよね」
「そうですね。あー、失礼承知の上で聞きますけど、お名前は?」
「私ですか? 私はマリアです」
「マリアさんですか、私は龍輝です。ところで、マリアさんは何故薬草を?」
「それは……」
[暑くなれよおおおおお!!!!]
大声をあげて草むらから飛び出す魔物、その聞き覚えのあるセリフに私は瞬時に持っているハンドガンを構える。
構えたは良いのだが、間抜けなことに弾を装填するのを忘れてた。
「(やっばい………どーっしょ……)」
取り敢えず、マリアさんを私の後ろに避難させつつ、辺りを見渡しながらマガジンを取り出す。
[もっとやれる!!! お前ならできる!!!!]
取り出した瞬間、イータープラントは大きな口を開けて、私に襲い掛かる。
「っち……」
舌打ちをしつつ、私は急いでマガジンをハンドガンに入れて、リロード。
「……!!!」
襲い掛かるイータープラントの口内に弾丸を3発撃ち込んだ。
[そう!!! もっとお前ならできる!!!!]
吹っ飛ばされながらも、イータープラントは私に励ましの声援を送り続けてくる。
これがまぁ調子狂うんだよな……。
しかしチャンスである、私は更に吹っ飛んだところに4発の弾丸をぶちこんだ。
[終わったぜ……真っ緑にな……]
何処かで聞いたことのあるセリフを吐いたイータープラントは、そのまま動かなくなった。
「ふぅううううう……焦ったぁ……」
「流石です英雄さま!!!」
パチパチと拍手をするマリアさん。
ニッコリとした笑顔で、癒されてしまう。
「ありがとうございます。それで、薬草の場所は?」
「えーと、もう少し先に進んだところに生えてあります」
「わかりました。早く向かいましょう」
私とマリアさんは早歩きで、その場所まで向かう。
「そいで、マリアさん、なぜ薬草を?」
「それは、いま弟が風邪で寝込んでいて……」
「あー、それはそれは……」
「普段は市場に行って薬草を買うのですが、今日は薬屋さんおやすみで……」
「あー、なかなかタイミングの悪いな……」
「ですから、私が薬草を取りに行こうと思ったんです」
「なーるほど」
ご家族の方は?
とかちょっと聞きたかったけど、さすがにダメかと思って踏みとどまった。
[乗るしかない!!!!]
「!!!」
「え?」
[このビッグウェーブに!!!!]
突如物陰から姿を表したルーガに私とマリアさんは一瞬たじろいだが、私はすぐにマリアさんを守るような態勢をとって、武器を構えた。
「うわぁ……」
他にも木々の間や草むらからゾロゾロと現れるルーガの群れ。
やーばい……。
「めっちゃいるじゃん……」
「そんな……薬草までもう少しなのに……」
昨日は、逃げたけど……。
今回は……。
一時的に撤退するか……。
私が頭をフル回転させて考えていると、突然ルーガたちの表情がみるみる内に恐怖の表情に変わっていく。
「「え?」」
私とマリアさんは訳がわからなかった。
辺りを警戒するも、ルーガ以外に敵はいない。
そして、突然……。
[にげろおおおおおおお!!!]
[大陸なんてあてにしちゃダメ!!!!]
[うわああああああああ!!!!!]
ルーガたちは声をあげて森の奥深くに逃げていった。
「何が……?」
「わ、わかりません……」
私はハンドガンをリロードしていつでも発砲できる態勢をとる。
マリアさんもキョロキョロと辺りを見渡している。
……いまかなり不気味な状況だ。
あのルーガの恐怖に支配されたような表情は尋常ではなかった。
得体の知れないモノを見ているかのような……。
一気に鳥肌が立ち始めた。
「マリアさん」
「は、はい」
私はマリアさんに話しかけた。
「……申し訳ないですが、一旦戻りましょう。この状況では薬草採集は危険です」
「そうですね……」
私とマリアさんは一時撤退をすることにした。
デモーアルーの道のりを走って逃げるように向かった。
『…………………………………………………………………………………………………………』
輪廻の闇英雄 朱雀龍輝やマリアには、見えていない。
巨木の森→デモーアルー
巨木の森を無事に抜けた私とマリアさん。
「薬草……残念でしたね……」
「はい……。英雄さま、ありがとうございます」
マリアは作り笑顔でお辞儀をした。
それが、私の心を締め付けた……。
頭より先に身体が動いた。
「ここで待っていてください。私一人で薬草をとってきます」
「え!?」
「薬草の姿形、生えている場所を教えていただけると幸いです」
私はマリアにそういった。
あー、これ森のなかで後悔するやつや……。
私は心のなかでそう呟いたが、遅すぎた……。
しかし、マリアさんは申し訳無さそうに「危険です。お止めになってください!」と制止する。
「いえ、いってきます。薬草の特徴を教えてほしいです」
ダーメだ。
やっぱり、言った手前、制止する言葉なんて私にはただの加速装置でしかない。
因みに多分、マリアさんが男性でもこの件はあっただろうと想像する。
責任感が強いのか、ただのバカなのか……。
自分でもわからん。
ただ、困ってる人を見過ごしたら、後でバチが当たるんじゃないか。
とか、絶対に後で後悔する「あの時助けてあげればよかった」とか。
私の事だから、そのことで3日から5日程は、苛まれるであろうことは、火を見るより明らかだからだ。
結局のところ、行ったら行ったで「行かなければよかった」と後悔をして、行かなかったら行かなかったで「薬草ぐらい私が取ってくればよかった……」と後悔する。
行くも地獄、引くも地獄。
正にこれである。
「では、これを……」
マリアさんは紙に薬草の絵を描いてくれた。
めっちゃ綺麗でわかりやすい絵だ。
「ありがとうございます。では行ってきます」
そう言って、私は全速力で巨木の森に駆け込んだ。
巨木の森←デモーアルー
「あー、なんちゅーこったよ……」
案の定は、私は薬草を取りに行くと言ってしまったことを痛烈に後悔していた。
「……さて、薬草だが……」
私は独り言を喋りながら、紙に描かれた薬草の形を覚える。
「……あれ?」
紙を見つめながら歩いていた私だが、少しだけ違和感を感じて、足を止めた。
「……」
静かすぎないか?
何も聴こえてこない……。
木々の揺らぐ音や草むらのざわめく音も、何も聴こえてこない。
「……」
私は何か変な恐怖を抱き、全速力で薬草の場所まで走り出した。
「あの日諦めた夢はまだー!!!」
恐怖を払拭するために、私は走りながら、とあるゲームの歌詞を大声で叫びながら薬草の場所へと走る。
怖すぎる……。
「走って走って、息を切らして……!!!」
歌いながら全力でダッシュする。
そして、マリアさんの言う場所にたどり着いた。
「ふうついた……怖かった……」
私は何も起こらなくて良かったとホッとして辺りに生えてある薬草を採集することにした。
「量はこれくらいか……?」
取り敢えず、袋いっぱいに薬草を詰めこんだ私は、立ち上がってデモーアルーに戻ろうとした。
すると、近くの草むらがガサガサと動き出した。
「!!!???」
私はあり得ないほどのスピードで振り返る。
「……」
私は恐る恐る、音がした草むらに近づく。
もちろん、ハンドガンをリロードして構えてだ。
「……」
誰もいない。
気のせいか……。
私は早いとこ戻ろうとした時に、あるものが地面に落ちているのに気づく。
「え?」
そこに落ちていたのは、私が昨日投げ捨てた剣だった。
しかし、その剣はバラバラへし折られていたのだ。
「……!!!」
ゾワリと寒気を感じ、全身に鳥肌が立つ。
なぜ、こんなボロボロになっているんだ……。
更に私は、自分自身に起こる異変に気づく。
「あれ……?」
私は涙が止まらなかった。
ポロポロと涙が溢れ落ちる。
訳のわからない恐怖に支配された私は、薬草を持って無言でデモーアルーに走り出した。
この森はやばい……絶対にやばいなにかがいる。
私は後ろを振り向かず、一目散に走り去った。
『…………………………………………………………………………………………………………………』
巨木の森→デモーアルー
「はぁ、はぁ、はぁ!!!」
私は息を切らしながら、デモーアルーに戻った。
「え、英雄さま大丈夫ですか?!」
マリアさんがあわてて私の方に駆け寄る。
私は、息を切らしながら「大丈夫ですよ。それより薬草を取ってきました」と言って、薬草が詰まった袋をマリアさんに渡した。
「こ、こんなにたくさん……。ありがとうございます!!! 感謝してもしきれないほどです!!!!」
「いえいえ」
「あの、報酬です。お受け取りください!!」
そう言って、マリアさんはお金らしき硬貨を取り出した。
しかし、私はそれを受け取らなかった。
「その硬貨で弟さんの好物を買ってやってください」
私はそういった。
マリアさんは涙目になって、必死にお礼をしていたが、私は先程の事が気になりすぎて頭に入ってこなかった。
「マリアさん……」
私が、さっき起こったことを話そうとした時だった。
巨木の森から三人の英雄らしき人々が和気あいあいと話をしながら出てくるのを見た。
「どうしましたか? まさかあの森で何か」
「あ、いえ、別に……。それより、早く弟さんのところに行ってあげてください」
「あ、はい。英雄さま、ありがとうございます!!!」
マリアさんと別れた後、私は先程巨木の森から出てきた三人の英雄らしき人に話しかけた。
「あの、すみません」
「ん? どうした?」
「えーと、先程巨木の森から出てきましたよね?」
「おう」
「出てきたがどうかしたか?」
「えーと、何か変わったことはありませんでしたか?」
私がそう訊ねると、三人の英雄たちは互いに目と目をあわせて「いや、特に変わったことはないな」「ああ、ルーガやイータープラントがうざいほど出てきたぐらいだ」「森のざわめきがあって、心地よかったわね」と言った。
「そう……ですか」
私が経験した事とは全く違う返答だった。
あれはなんだったんだ?
そう思うと余計に不気味に感じてしまう。
取り敢えず、私は三人の男女に「ありがとうございます」と言って、ユイさんが向かった市場へと走った。
『おー、龍輝どうじゃった?』
「いや、見事に依頼は達成できましたけど……」
『けど?』
「いえ、何か不気味な気配が」
『不気味な気配?』
私は先程起こったことをすべて、ユイさんに話した。
それを聞いたユイさんは「うーむ」と考えたかと思えば「もしかしたら」と言った。
「……???」
『デモーアルーには、とある眷属が封印されておる。もしかしたらそれが影響して……』
「……それヤバイやつですよね?」
『うむ。まぁ、龍輝にはまだ早いことじゃ、気にするでない』
「そうですかー」
『それより、これからどうするつもりじゃ?』
「飯食べたい」
『お金は?』
「……ない」
『……』
「……」
私とユイさんは無言で見つめ合う。
『薬屋も運の悪いことに、市場にいないからイータープラントの根も売れない……参ったのぅ……』
「ですね……」
私とユイさんが困っていると、店のふっくらとしたおばちゃんが声をかけてきた。
「あんたお金に困ってるのなら、少しの間だけ店番をお願いしたいよ!!」
「み、店番ですか?」
「そうだよ! ちょっと用事があってね! お願いできるかい?」
「え、ええ。まぁ……大丈夫です」
私はそう言うと、おばちゃんは私の腕を捕まえて店に引っ張り混んだ。
「じゃあ、頼んだよ!!!」
そう言って、おばちゃんは何処かへ行ってしまった。
「oh.....」
『龍輝頑張るんじゃ!』
「ユイさんも手伝ってくれても?」
『嫌じゃ』
「そうっすか……」
私はため息をついて、店員のバイトらしきことをすることになった。
「お兄さん、これとこれお願いします」
「おい、兄ちゃん、この食材いくらになる?」
「お兄ちゃん、これください!」
一時間ほど、私はお客さんとある意味での戦闘を繰り広げた。
そして……。
「ありがとー!! あんたのお陰で助かったわ!!!」
おばちゃんは上機嫌で私の背中をバンバン叩いた。
私は痛みに耐えながら、愛想笑いをする。
「はい、少し色をつけておいたわ! これで何か美味しいご飯を食べてお行き!」
「あ、はい。ありがとうございます!!」
そう言って、豪快に笑いながら店に戻っていった。
その後、私はユイさんにデモーアルーのオススメの料理屋を聞いて、その場所へと向かった。
「ごちそうさまでした」
そう言って、私は店を出た。
お腹いっぱいになったし、お金も充分にある。
私は、このままデモーアルーを出ようとしたが、デモーアルーの住人たちに色々と頼み事をされてしまい、全てが終わったときには夜になっていた。
『お疲れ様じゃったのぅ……』
「ああ、まさかあんなに頼み事をされるとは予想外やった……」
逃げた犬探しや、買い物のお使い、子供の子守りに、色々とやられた。
静寂に包まれるデモーアルーを歩く。
街灯が淡い光を放っており、昼の活気ある街とは対照に静かで幻想的な雰囲気に包まれる。
私は宿を探しており、不運にも全ての宿が満席だった。
「最悪だ……」
私はノッソノッソと歩いていた。
「今夜は野宿やなー」
私はそう呟いて、野宿ができそうな場所を探そうと考えていると、ユイさんの声が聞こえた。
『たつきー!!』
「おん?」
『宿を見つけたぞ!!』
「マジで!?」
奇跡だ!!
私はこの時、私に近づいてくるユイさんが女神にしか見えなかった。
私はもう驚きと笑顔が混じった希望の顔で目をキラキラ光らせながら、ユイに聞く。
「そこに案内してくれ!!」
私はユイに鬼気迫る表情で訊ねる。
しかし、ユイは苦笑いで目を反らした。
『まぁ、空いてるには、空いてるのじゃが……』
「??」
『いかない方が……』
「なんだっていいよ!! 宿に入れれば!!!」
『なら、そこにするか』
私はユイさんに連れられて、その宿へと向かった。
「らっっっっしゃいあせええええええおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」
「……」
咆哮がおれの耳を貫通する。
止まれる宿って……ここかよ……。
またあの、ハイテンション鶏野郎だよ……。
「お、お、おー。おおーおーおーお!!! お客さまきののののののののおおおおおおおおも会いましたねえええええええええええええええええ!!!!!!!いらっしぇえええええええええええええええええええい!!!!!!!!!!」
鶏が歩くような挙動で悲鳴をあげる。私は特大のため息をはく。
すると俺のため息をみたこのアホはスススット私の方にきて、俺の顔をじっと見つめる。
「ど、どうしました?」
「お、お、お、おー、お、お、おおー。おおおおおおおおおおおおお!!!!」
突然オペラを歌い出す。
こいつマジでなんなんだよ!!!?
「お客さまおおおおおおおおおおおおお!!!! おつかれでございますねんんんんんんんんんん!!!!!!!」
あんたのせいだよ!!!!
苦笑いをして誤魔化すが、正直言って、まじでぶん殴りたかった。
「だけど、あんしんしてくださあああああああああああああああああい!!!!!!」
「へい?」
「ここはンムリョウノやどやあああああああああああああああ!!!!!!」
「ええ、知ってますよ。昨日も来ましたし」
「ですがですがああああああああああああああああ!!!!!」
「……」
「もう一度せつめいしますねえええええええへへへへへへへへへへ!!!!!!!!」
コイツクスリ決めてるだろ!!?
なんなんだよまじでこいつ!!!
見ろよ!!ユイさんの顔を!!
死んだ魚の目をしてるよ!!
マジで生ゴミというより、排泄物を見るような目をしてるよ!!
おい鶏気づけよ!!
「さぁ、オヒトリさまーですねえええええええええええ!!!」
「ええ、ええ、ええ……なんでも良いから早く部屋を案内してください」
もう私のいまの頭の中は、休むことより、どうやってこの鶏を今日の晩飯にしてやろうかということでいっぱいだ。
「オヒトリいいいいいいいさまーばけえええええしょおおおおおおおおおおおおおおおん!!!!!」
もう、説明する気力すらないわ……。
鶏は両手をバタバタとして、マジで鶏なんじゃねえかと、疑いたくなる。
「ではあなたのお部屋はあちらですううううううううう、赤白黄色ふおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
アァもう、勘弁してくれ……耳がいたい。
ちょ、もう夜遅いんだから頼む……。
「クゥルッフウウウウウウウウウウウ!!!!コケコッコオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」
鶏と鳩の鳴き声をあげながら案内する。
さっきから耳鳴りが凄い……。
「コケコッコオオオオオオオオオオオココデスヨオオオオオオオオオ!!!!!!!!」
雄叫びをあげる鶏。
耳がいたい。
もう私は真顔で話を聞いていた。
「ありがとおおおおおおおおおございまああああああああああああすふおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」
腹立ったから、私も大声をあげて鶏と同じテンションで感謝する。
『(龍輝よ、ついに頭がイカれたか……)』
すると、鶏の店員は、目を丸くしてこういった。
「お客さま……頭は大丈夫ですか?」
「コイツ頭可笑しいんじゃねえの?」みたいな表情で俺の方を見つめる。
……あんたにだけは……言われたかねえええええええおおおおおおお!!!!!!
私の心の中の火山が爆発を起こした。
「あ、あはははは……ちょっと疲れたので、俺でお休みしますね。あははははは」
「病院を案内しますよ?」
「あーいえいえ結構ですよお?」
そういって私は扉を閉めた。
もう、怒りなんぞ優に超えて、笑えてくる。
多分いまの私は仏にでもなってるんじゃないかと思えてしまう。
『龍輝よ。よく耐えた!!』
称賛と拍手をするユイさん。
嬉しくねぇ……。
「あー、疲れた……」
ベッドを敷いた私は直ぐ様眠りについた。
朝の7時
朝……。
朝です……。
もう分かってると思いますけど、あの鶏に叩き起こされました。
耳がぐあぁんとして、意識が朦朧とする中……。
水を浴びて、歯を磨き、宿を出た。
まだ耳がキーンと金属音を打たれたような音がなっている。
私は亡霊みたいにのっそのっそと歩きながら、デモーアルーを出ようとした。
これ以上ここにいたら、また何か小もないことが起こりそうだと思ったからだ。
そして、それはものの見事に的中する。
突然、私に声をかける人がいた。
嫌な予感がしつつも私は振り返る。
「急に声をお掛けして申し訳ない。私はランカンと言います」
「はぁ……」
『ランカン、このデモーアルーを指揮する将軍じゃ……』
ユイが耳元で小声で説明をした。
それに私は嫌な予感が更に強まる。
「なるほどね……」
「突然ですか、英雄殿」
「はい」
「邪悪の眷属、アークヘイロス・ギルファーの討伐をお願いできますかな?」
「はい???」
続く
突然ランカンと呼ばれる将軍に邪悪の眷属を倒してくれとか言う無茶振りを言われた私。
まぁ、アークストーンが手に入るかも知れないということなので、その討伐に受けたのはいいけど……。
案の定後悔した。