OREHーKRAD 邪悪に支配された人々   作:楠崎 龍照

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イクス大陸の四大都市の一つグリムマギアへと歩き始める私たちだったが、向かってる途中にとある人物に出会った。
そして、その人物がとんでもない人だった。
更にその人物に進められた液体を飲んだことで、私の能力がとんでもないことになる。



14話 科学大神官

 

 

 

 

「めっちゃ耳痛い……」

『ワシもじゃ……』

 

変わらず、あの野郎の咆哮に叩き起こされた。

それも耳元でだ。

エアホーンの2倍以上の音量で、そんなことをされたら嫌でも目が覚める。 キーンと響く耳を抑えて風呂を入り、歯を磨き、宿を出た。

 

「……」

『……』

 

まだ耳がキーンと金属音を打たれたような音がなっている。

私は、さながら亡霊のようにのっそりと歩きながら、デモーアルーを出た。

 

『龍輝ー大丈夫かー?』

「なぁ、これが……大丈夫に見える……?」

 

眉をひそめて心配そうに見つめるユイさんに私は虚ろな目で、静かに返事を返す。

呪いに掛けられた憐れな青年という言葉が非常にお似合いである。

 

『みえ……ぬな。えーと、もう一泊する……?』

「いや、行こう。この場所から離れたい」

 

私は次の街へ行くため、向かうこととなった。

長い平坦な道を歩いていると、峠が見えてきた。

 

『この峠を越えたらグリムマギアにつくぞ!』

 

ユイさんは、子供が親に急かすように私を峠へと急がせる。

ていうか、まんま子供だ。

子供がおもちゃコーナーへと親を連れていくような表情と仕草である。

 

「この峠を越えるんか」

『辛いのか?』

「いんや? 向こうの世界ではよく散歩で峠を4つほど越えてたからなー、峠1つぐらい苦ではないで?」

 

それを聞いたユイは「はぁ?」みたいな眼を丸くして、口を大きく開いて驚く。

まぁ、そら散歩で峠を4つ越えると言われたら、誰でも驚きはする。

てか、それを聞いたみんなは私に対して「それは散歩じゃなくて、旅だろ」とツッコム。

これがテンプレである。

 

『お主、それは散歩じゃなくて旅であろう?』

「いや? 私は散歩気分で、普通の服装でスマホとサイフという軽装で行ってるから、散歩。旅はデカイ鞄に色々な荷物を入れて長い間歩いたりするから旅。こういうこと」

『とんでもない理屈じゃの……ということは、お主、一日で峠を4つ越えてその日で帰るのか?!』

「うむ、散歩だからな」

『……』

 

私のとんでもない発言に驚きと呆れで開いた口が塞がらず、呆然と私を見つめていた。

 

『龍輝、意外とやるのう……』

「まぁな。なら、登りますか」

 

[俺ハ今カラお前ヲ殴ル!]

 

「!?」

 

草むらから機械声の聞こえ、巨大なシルエットが私を襲った。

私は、間一髪のところで回避したので、大事は免れる。

 

「ぃやっべぇ……死んだ思た……」

『やつはトゥリルゴーレム、奴のパンチを受けると確実に死んでしまう。気を付けるんじゃ!!』

 

襲ってきた敵の名前はトゥリルゴーレムという。

ゴツイ身体に緑の苔が生えた樽を半分切って、鎧のように肩や胸、腰などに装着しているのが特徴だ。

ユイさんが遠くに離れて警告をするが、気を付けろつったって……どないせえと!!?

 

[避ケタカ!!]

 

そういって、殴った衝撃で地面にめり込んだ腕を抜いて、再び襲いかかる。

 

[攻メロ攻メロオオオオオオオ!!!!]

 

しかし……

 

「おっそ!!?」

 

あまりの遅さにビックリする。

本当に襲い。

攻撃力にステータスポイント全振りしたんじゃねえのかって思うくらい遅い。

本人は全力で走ってるつもりなんだろうけど、マジで子供の早歩きぐらいのスピードだ。

 

「これなら、なんとかワンチャン……!!」

 

私は走りながら、昨日頂いた刀を構える。

トゥリルゴーレムに急接近し、奴が殴る瞬間に鞘を抜き、腕の肌?らしきものが露出してるところに刀を突き刺す。

流石名刀、切れ味も折り紙つきのようで、驚くほどに深く刺ささった。

トゥリルゴーレムは怯むことなく、私を殴ってくるが、私は大根を斬るようにトゥリルゴーレムの腕を切断する。

切り口からオイルが漏れて、ネジやらバネやら機械のパーツが腕とともに落ちる。

 

[マダマダアアアアアアア!!!]

 

機械故か痛みを感じないようで、怯むことなく、切れていない左腕で殴りかかった。

私は刀を横に持ってガードする体勢を取るが、考えが甘かった。

 

「ぐぁ!?」

 

拳が刀を直撃し、そのまま私は吹っ飛ばされ、木に直撃する。

 

「あいたたたた…… 」

 

幸い、その木は枯れ果てており、それがクッション代わりとなって軽傷で済んだ。

 

[ウオオオオオオオオオオオ!!!!]

 

そのままその巨大な腕で傭兵を凪ぎ払う。

 

「どうしようか……。ん?」

 

私はあることが浮かんだ。

待てよ。

トゥリルゴーレムって機械やんな?

私は、鞄の中からペットボトルを取り出して、水を飲んだ。

 

「行くかぁ!!!」

 

水の魔法を得た私は、指から水の塊をピストルのように射ち出した。

そして、その水の塊はトゥリルゴーレムに直撃した。

怯むだけで粉砕することはないのだが、それでいい。

そのまま私は水をトゥリルゴーレムに射ち続けた。

すると、トゥリルゴーレムの動きが鈍り始めたのだ。

 

[ナン……ダトオオオオオ!!??]

 

機械が水に濡れたことにより、ショートしたのだろう。

流石のトゥリルゴーレムもこれには、ぎこちなく驚いたリアクションをした。

顔に変化はないが、声で狼狽してることがハッキリとわかった。

私はハンドガンをリロードしトゥリルゴーレムの機械が露出している箇所を5発撃った。

3発は樽で出来た鎧に命中したが、残りの2発は機械に命中し、爆発を起こした。

 

[ギッ!?]

 

「おらぁ!!!」

 

私は水を後方に噴射しながら、トゥリルゴーレムに突撃。

刀をゴーレムの腹に一刺、さらに片方の腕に持っていたハンドガンをゴーレムに全弾撃ち付けた。

 

[攻メロゼメロゼ……ロ……ロロロrorororororaaaaaaaAAAAAArrrrrrrrrrrr]

 

機械の核でも破壊したからだろうか? トゥリルゴーレムは不気味な音声を発して機能停止し、動かなくなった。

機動戦士の見すぎか、私はてっきり爆発すると思って、逃げ態勢に入ったが、どうやら杞憂だったようだ。

 

「ふぅうううううー……!!!」

 

私は刀を鞘に戻して、一息つく。

 

「やばかったー。マジで死ぬかと思った……」

『お主……やるのお……』

「まぁ、危うく地獄へと落ちるところやったけど」

 

笑う私だが、ユイさんはすぐに私のほうを睨む。

 

『龍輝……ギルファーの時も思っておったが、お主、普通の人間じゃないな?』

「今さらっすか……」

 

剣呑な顔つきで睨み付けるユイに、私は苦笑する。

 

『何者じゃ?』

 

ユイさんが剣呑な表情で言うので、私は頭をボリボリと掻きながらこういった。

 

「私は23歳童貞の魔法使い。朱雀龍輝ですよ!」

 

と。

 

『ぷっ……。あははははは!!』

 

どうよら、私の言った事がつぼったのか、あっはっはーと大爆笑するユイさん。

まぁ、本当の事だから仕方ない。

 

『よし。トゥリルゴーレムも倒したことじゃし、さぁ次の街へ向かうぞ~!』

「うーい!」

 

元気よくジャンプするユイさん。

私たちは歩みを進めた。

このあと、トゥリルゴーレムがまた俺たちを襲ってきたのだが、一応一戦交えているので、先程ではないが、まぁまぁ苦戦しつつも無力化することができた。

そうしてると、ユイさんが何かに気づいたのか、私の白鞘をまじまじと見つめ出した。

 

「どうしまして?」

『いや、この白鞘……中に魔法石が入っとるの』

「魔力を高めたりするんですか?」

『そうじゃ、この刀にはそれが埋め込まれており、これを持っているだけで、お主の身体に勝手に魔力が入っていき、魔力が増強されていくぞ』

「ほう、それは便利ですね」

『お主のその能力も強くなっていくの』

「おおおおおお、それは嬉しいことです!!」

『あくまで予想じゃがな』

 

予想外の言葉に私は歓喜の声をあげた。

このまま、私の魔力が強化されていけば、邪魔の眷属なんて割りと簡単に倒せるかもしれない!

なんて最高の刀なんだ。

ありがとうランカン将軍。

ありがとう職人たち……。

私は心から感謝した。

 

 

 

そんなことをしながら、私たちは次の街へと進むことになった。

次は、どのような街なのだろうか、私はワクワクしながら峠を抜ける。

 

無事に峠を抜けた私たちは賢者の丘と呼ばれる場所に来ている。

この峠を抜けたことで、私たちはグリムマギア地方に到着した。

 

『グリムマギア地方へとこれた。賢者の丘を抜ければグリムマギアへと着くぞー!』

 

妙に上機嫌でテンションMAXなユイさん。

 

聞いたところ、グリムマギアはユイさんの住んでいた都市のようだ。

何百年も戻ってないようで、久しぶりに帰れて嬉しいらしい。

……突っ込まないよ??

 

子供のように急かすユイさんに、私は早歩きでグリムマギアまで急ぐ。

しかし、いまの時刻は夜の7時ごろ。

このままグリムマギアまで行けば、着くのは10時らしい。

宿に泊まることができるのは、まぁ不可能だろう。

一番嫌なことをすることとなった。

そう、野宿だ。

 

 

 

「野宿嫌やなぁ……ていうか、テントとか持ってない……」

 

絶望する私。

 

『デモーアルーで買えばよかったの』

「忘れとった……」

『芝生で寝るしかないの』

「生まれて初めての経験やわ……」

 

私は肩をガクリと落とした。

はぁ、仕方ない。

どっか安全そうな場所探して寝るか……。

私は絶望のまま、場所を探そうとした。

すると、私に声をかける人がいた。

 

「あらー? 何か困り事?」

「ええ」

『お、お主は!?』

 

その声の主を見たユイさんは、目を丸くして驚き、声の主もユイさんを見て驚いていた。

 

「うわあお! ユイじゃん! 何してるのこんなところで」

『あ、いや、それは……』

 

おどおどするユイさんに、緑色の少しだけエロティックな神官服に白衣を着た黒髪の女性は、なにかを察したのか、ニヤニヤとし始める。

 

「ははーん? やらかしたわねー?」

『うっ……』

「まぁ、いいや。ねー、君さ。あれでしょ? 野宿するか迷ってるんでしょ?」

「ま、まぁ。それより、貴女にはユイさんが見えるんですか?」

「ええ、見えるわよ。私も神官だからねー!」

『龍輝、彼女は大神官ケミック。ワシと同じグリムマギアで大神官を務めておる。魔法と科学を両立させる変わり者じゃ』

「変わり者とは失礼ね! むしろ、科学と魔法を両立するスペシャリストと言ってほしいわ!」

『ワシにはよくわからぬ……』

 

ドヤ顔で語るケミックさんを見て、ユイさんはあきれた顔で呟いた。

 

「それより、君たち、私の家で泊まる?」

「え、いいんですか?」

『龍輝、やめておけ! コヤツの家に泊まった日には人生が終わるぞ!?』

 

ユイさんは鬼気迫る表情で制止する。

 

「失礼過ぎない? そもそも、こんなところで野宿してごらんなさいよ。そっちこそ人生終わるわよ!」

『うぬ……』

「それに、最近だとここらいったいはアンタの大嫌いなルーガがウヨウヨいるわよ」

『な、なんじゃと!?』

 

その言葉を聞いたユイさんは、声を荒げる。

 

「ルーガってあの、変なブヨブヨした?」

「そうそう、昔は巨木の森に生息してたけど、邪悪の影響でここまで来てるのよね」

「なるほど。それにしても、ユイさんってルーガが苦手だったんですね」

 

もしかして、巨木の森でユイさんが寝てたり、薬草集めの時、逃げるように市場に行ったのって……。

ルーガに合うのを避ける為だったのかな?

 

『龍輝、ケミックの家に泊まろう。ここにいては、死んでしまうぞ!』

「さっき言ってることとは全く逆のことを……」

『ワシは何も言っておらん……いいな……!!!!!!!』

「あ、はい。わかりました」

 

物凄い剣幕に気圧された私は、頷くしかなかった。

 

「じゃあ、龍輝だっけ? 二人ともこっちに来て!」

 

ニコニコとした笑顔で誘うケミックさんに連れられて、私とユイさんは彼女の家へと向かった。

ケミックさんの家は、何というか科学そのモノと言うべきものだった。

鋼鉄で出来た家に、指紋認証や網膜認証、多重に備えられたセキュリティ。

ハイテクノロジーの集大成とも言えるだろう。

ファンタジー世界の色濃いイクス大陸とは、かなりかけ離れた家だった。

 

「さー、上がって!」

「お、ぉじゃまします……」

『まぁ普通じゃな……』

 

中に入ると、そこに広がるのは普通のリビングだった。

どうということはない、ごく一般的なリビング。

キッチンがあって、テーブルがあって、ソファーがあって、テレビがあって、ゲーム機のような物があって……。

いや、よく考えてみれば普通ではないな。

この世界で、この現代に包まれたリビングは普通じゃない。

異様だ。

その反応を待ってましたと言わんばかりにケミックさんは、私の方を見てニヤニヤとする。

 

「ビックリした? 君の元いた世界の家のリビングそのものでしょ?」

「え、ええ。そうですね。どうして、このようなレイアウトに?」

「んー? まぁ、そっちの世界に憧れがあるからかな? 行きたいけど行くこと出来ないし、それならってことで。私の家の中だけでもってね!」

「でも、よく分かりましたね。家電製品とか」

「うん、私の一番弟子がね、そっちの世界から召喚された子なの。それで色々と聞いて、自分で作ってみたわけ」

「は? これ全部手作りですか!?」

「そうよ?」

「嘘やろ……?」

 

思わずため口になってしまう。

テレビやゲーム機……。まてこれps5じゃねーか!!

キッチンや冷蔵庫等の家電製品。

デスクトップパソコン。

オーディオ機器。

これら全てが手作りという。

 

「こんなの、私の魔法と科学力があれば直ぐに出来るわよ!」

「……」

 

あ、この人普通にヤバいわ……。

私は心の中でそう感じた。

 

『恐ろしいやつじゃろ?』

「うん。普通にヤバい。ユイさんよりヤバいわ」

『な、なんじゃと?』

「まーまー、それよりお茶用意するから適当に座って!」

 

そう言われ、私たちはソファーに座った。

ふかふかしていて、座り心地は素晴らしいものだった。

 

「はーい、おまたせー!」

 

そう言って、ケミックさんはやたら豪華なティーカップに紅茶を入れて、私達に差し出した。

 

「あ、ありがとうございます。いただきます」

『すまんが、ケミック、ワシは飲めんのじゃ』

「全く、不完全なアークストーンを使ってワケわからんことするから、こんな無様な結果になるんでしょーが」

『そ、そう言われると、返す言葉がないの……』

 

珍しく俯いてシュンっとするユイさん。

ケミックさんは、「こんなに美味しいのに」と言って、ユイさんの紅茶をごくごくと飲みほした。

私は猫舌なので、フーフーしてからチビチビと飲んだ。

なんか、懐かしい味……。

 

「せっかく、向こうの世界の紅茶を再現したのにー」

「あー、やっぱり」

「午後の紅茶っていう紅茶を頑張って再現したんだけど、似てた?」

「瓜二つですね」

 

私はそう言うと、ケミックさんは親に誉められた子供のように舞い上がっていた。

 

『変わらぬの~』

「誉め言葉として受け取っておくわ」

 

私はユイさんとケミックさんの話を流しながら、ぬるくなりかけている紅茶を飲み干して、一息ついた。

すると、ケミックさんは「あっ、そうだ!」と手をパンっと叩いて、奥の部屋へと走っていってしまった。

私とユイさんは、頭の上にクエスチョンマークを浮かべながら、互いの顔を見合った。

 

「ねーねー、龍ちゃんさ! ちょっとこれ飲んでくれない?」

 

そう言ってケミックさんは、私に一本の試験管を見せてくる。

試験管の中には青い液体が入っていて、何やら嫌な雰囲気がしてきた。

 

「な、なんすか?これ?」

 

私が、試験管の中を奇怪な表情で覗きながらそう言うと、ケミックさんはニヤリと笑みを浮かべた。

 

「ドラゴンになることができる能力を得る薬よ!」

「ワッツ!?」

『はい?』

 

私は思わず声を上げた。

何ならユイさんも奇々怪々な表情をしてケミックさんを凝視した。

どゆこと?

なにそれ?

悪魔の実??

 

「私が作った薬よ! これを飲むと、自分の想像したドラゴンに変身できる能力を得ることができるの!」

「はぁ、ちょっとよく、いまいち理解できてないのですが……??」

『ワシもじゃ……』

「だから、これを飲んだら龍化能力を得ることができるのよ!」

「そ、それを私が飲めと?」

「ええ! 前に開発した薬に改良を加えてね! それの実験をお願いしたいの!」

「………………」

『龍輝……やめたほうがいいぞ』

「そうですね」

「大丈夫よ、飲んで理性がなくなったり暴走したりしないから!」

『どっからその自信が出るんじゃたわけ』

 

ユイさんはジトーっとした表情でケミックを見つめる。

私は口を思いっきり閉じて、首を横に振った。

それを見たケミックさんはため息をついて「仕方ない……」と呟いた。

呟いたのも束の間……。

ケミックさんは、ポケットから取り出した怪しげなスイッチを取り出した。

そして、そのスイッチを押すと、機械の動く音が鳴り響き、壁が移動して部屋の空間が広くなり、天井も見る見るうちに上昇して、部屋自体が大きくなった。

 

「刮目しなさい!!! 私の科学と魔法の力を!!!」

 

そう天を貫かんばかりの声をあげる。

すると、ケミックさんの身体がドンドンと変化していき、頭から一本の角が生え、背中から巨大な翼が生え、全身が赤い鱗が現れて、お尻から巨大な尻尾が伸びてゆき、忽ち赤い四足歩行のドラゴンへと成り変わった。

 

「……」

『……』

 

あまりの出来事に私とユイさんは、あんぐりと開いた口が塞がらなかった。

ケミックさん……もとい赤いドラゴンは、口を開いて……。

 

「ほらね。理性の崩壊もない、暴走もない。大丈夫でしょ?」

 

エコーの効いたケミックさんの声が部屋内に響く。

 

「あ、ああ……そう……ですね」

『…………』

 

私は若干、引き気味で口を開く。

ユイさんは、あまりの衝撃に目を見開いてボーッと龍となったケミックさんを見つめていた。

すると、ケミックさんは目をニコッとさせて、元の人の姿に戻った。

 

「さて、そういうわけで、実験で飲んでくれない?」

「その前に……改良をしたならケミックさんが飲んでみては?」

「飲んだわよ」

「飲んだんかい!」

「飲んだけど、変わらなかったの。だから、他の人に飲んでもらおうと思ってね!」

「……」

「私の家に泊まるんなら、これくらいしてくれなきゃね♪」

「ケミックさんが、泊まらない? って言ったんでしょーよー……」

『これが狙いか……』

 

私はガクリと肩を下ろしながら嘆く。

ユイさんも手を頭につけて、ため息をついた。

 

「大丈夫よ。もし何かあったら、私がしっかり責任を取るから!」

「……」

「信用してないなー」

『信用する要素ないじゃろ』

「いや。うーん」

 

私は唸る。

これを飲んでもいいのだろうか?

……。

うーん。

飲むべきか飲まぬべきか……。

 

「大丈夫よ。責任取ってなんでもするわよ?」

 

そういうケミックさんは少しだけ色っぽかった。

私は、渋々頷いて、一息……。

そして、目を瞑って、試験管に入っている液体を一気に飲み干した。

 

『龍輝!?』

「おー、一気に!」

 

私の行動に、ユイさんは両手を口に持っていって驚き、ケミックさんは興味津々に見つめていた。

肝心の私はというと、飲んだ液体の味は、ブドウの味が口一杯に広がる。

てっきりくっそ不味い味がすると思っていたのだが、とある海賊アニメの見すぎだったようだ。

私はそれを全て飲んだ。

 

「どう?」

『龍輝大丈夫か!?』

「……ん? なんともねーぞ?」

 

私はキョトンとした表情をして、身体を見渡す。

ユイさんは、『失敗作じゃないのか?』と言った。

 

「龍輝の成りたい龍を頭の中で思い浮かべたら良いわよ!」

「なーるほどー」

 

私は、目を閉じて頭の中で龍の想像をする。

私の成りたい龍……。

やっぱり、天空の王者と称されたアイツかなー?

そう、私は空の王者の姿を思い浮かべる。

しかし、思い浮かべど、私は龍に成れることはなかった。

 

「あれ? おかしいわね……」

 

ケミックさんは首を傾げる。

段々と不安になってくる。

 

「その薬って本当に成れるんですか?」

「多分。ねー、本当に龍の想像した?」

「ええ、ちゃんと龍に……あれ?」

「どうしたの?」

「いえ、もう一回想像してみます」

 

私は違和感を覚えてもう一度、想像することにした。

もしかして、空の王者リオレウスはワイバーンであってドラゴンではない。

それなら、ドラゴンに変身出来ないのなら納得できる。

それなら、古龍を想像したらいいのではないかと、私は考えた。

そして、想像したドラゴンは古龍の王である赤龍ムフェト・ジーヴァ。

コイツも私の大好きな龍だ。

それを想像する。

しかし、私の身体はムフェト・ジーヴァに成ることはなかった。

次第に不穏な空気になっていく。

ケミックさんも、おかしいと言いながら、表情が険しくなる。

それからも、私は色々なドラゴンを想像した。

 

リオレウス→ムフェト・ジーヴァ→クシャルダオラ→キリン→イャンクック→ドスジャグラス→ドスジャギィ→ジャギィ→ランポス→アプトノス→コモドドラゴン→タツノオトシゴ。

 

あらゆるドラゴンの想像をしたのだが、全く変身できることはなかった。

 

「ケミックさん、絶対に失敗してるでしょこれ」

「そんなことはないわよ!」

『じゃが、こうも成れないとなると、明らかに失敗しとるじゃろ』

「何の素材で作ったんですか?」

 

私はふと思ったことをケミックさんに訊ねた。

すると、ケミックさんはとんでもないことを口にした。

これには私もユイさんも目が飛び出るほど驚愕仰天する。

リムジンに乗って、赤絨緞を盛大に歩けるほどド偉い内容だった。

 

邪悪の眷属、アークヘイロス・ドラコーイルを、とある少女が単体で討ち滅ぼした。

私はその時同行していて、ドラコーイルの遺体から血液を採取し、その血液をあらゆる魔法や科学技術を使って、生み出したらしい。

副作用もない最高の薬ができたのだ。

そして、それを実験として自分で飲んだ結果、ドラゴンになることができた。

 

らしい。

つまり、私は邪悪の眷属であるアークヘイロス・ドラコーイルの血液を飲んだと……。

 

「ちょっと待ってそれ大丈夫なのか!?」

「ええ、私も飲んだけど、大丈夫よ」

『本当か?』

 

ユイさんもケミックさんに鬼気迫る表情で問い詰める。

それでも、ケミックさんは臆することなく「問題ないわ」と言った。

しかし、問題ないと言われても、私は恐ろしいほど全身から冷や汗がナイアガラの滝のように吹き出る。

私は腕で溢れ出た汗を拭い、汗まみれの腕を見た。

その時、私は「あれ?」とあることに気づく。

もしかして……。

私の脳裏によぎる。

 

「どうしたの?」

「ケミックさん。水とかの魔法使えます?」

「ええ、使えるわよ」

「それを手加減した状態で、私に撃ってください」

 

それを聞いた二人は眉を細める。

 

「いいけど、大丈夫?」

「ええ、加減してくれると」

『龍輝なにするつもりじゃ?』

「まぁ、もしかしたらってことなので……」

 

そう言って、私は自身の能力について二人に話した。

 

「なるほどね。龍輝くんそんな能力があったのね」

『魔法使いとは言っておったが、なかなか面白い能力じゃの』

「まぁ、そういうわけなんで、ケミックさんお願いします!」

「オーケー、じゃあ水の魔法を使うわね!!」

 

ケミックさんは、詠唱をして青い魔法陣を展開する。

そして、水流を私目掛けてぶっぱなした。

私は迫る水流を吸収しながら念じる。

更に、頭の中で龍の姿を想像をする。

水の龍。

私には、アイツしか頭になかった。

水の古龍。

 

すると、私の姿は見る見るうちに変化していく。

 

長めの首にしっかりと身体を支える四肢と尻尾、そして背中に広がる全身を覆い隠さんばかりの巨大な翼に頭部から伸びる非常に長い髭状の器官。

鮮やかな色合いが特徴。

その姿は、ドラゴンながらも深海に住む生物とすらも思える姿をしていて、神秘的な姿をしていた。

 

私が想像した龍は、水を自在に操る古龍。

 

 

溟龍ネロミェール。

 

 

 

 

 

 

続く




ケミックさんが開発した薬を飲んだことで、私の魔法の能力は、魔法の属性に対応する龍に変身できる能力になったのだが、それがとんでもないほどに弱体化していたのだ。

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