OREHーKRAD 邪悪に支配された人々   作:楠崎 龍照

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私達はサントプトへと旅に出た。
しかし、そこにとある部隊を発見する。
異常事態であるが、いまは、手を出さずにアヴィ湖へと向かった。



19話 リベルトとアイゼン

 

 

 

鈴亜さんと旅をすることになり、最初に驚いたのが、鈴亜さんはユイさんの姿が見えるということ。

しかし、これは英雄の大体の人が見えているらしい。

ちょっとビックリした。

そんでもって、そんなこんなしているうちに賢者の港と呼ばれる場所に来た。

風が吹く度に、潮の香りが漂う。

しかも、私が住んでいた時に嗅いだことのある潮の香りとは全く違った。

鼻を突くような匂いではなく、ラベンダーのようなフレッシュな香りだった。

 

「すげえいい香り……」

「不思議よね……」

 

私と鈴亜さんは、この荒ぶる心をも癒すことができるであろう香りに感銘を受けた。

そして、少し道を進むと青い海が見えてきた。久しぶりにみた海に、私は無意識に歩くスピードが早くなる。

 

「早く海を見たいってオーラがすごい出てる……」

『子供じゃな……』

「だね」

 

二人は苦笑いをしながら、朱雀を見つめていた。

 

「すげえー!!!」

 

私は海を見て、初めて海をみた少年のように目をキラキラさせて、はしゃぎ回った。

私がいた和歌山の白浜等でみる海とは比べ物にならないくらいに透き通り、光輝いていたのだ。

正直、私が住む地球の何処の海を比べても、今みる海に勝るものは、絶対にないだろう。

透き通っているレベルではない。近くでみると「海がそこにある」と確認できない程だ。

地面の砂が鮮明に見え、小さな魚の群れが一定の方向に進んでいる。

まるで海の流星群とも言える神々しさと神秘さを兼ね備えた素晴らしい光景だ。

そして、私の耳に入ってくるのは、さざなみと、ゆったりとした風が聞こえるばかりだ。

 

「綺麗……」

 

鈴亜さんも、この海を見て目を光らせていた。

 

「やっぱり、いつ見てもここの海は最高に綺麗ね……」

「そういえば、鈴亜さんは何年ぐらいこの世界に?」

「私? 私はね。五年はこの世界にいるわ」

「そうなんですか」

「そうよ。龍輝さんは?」

「私は、つい最近です。数週間前ほどです」

「すごい! 一週間でアークヘイロスを2体も倒したんだ!!」

「まぁ、ですね」

 

私は鈴亜さんに褒められて、ぶっきらぼうに返答をした。

 

「早く、邪悪を倒して、異世界イクスを平和にしないとね!!」

「そ、そうですね!」

 

鈴亜の言葉に俺も同意する。

アークヘイロスでさえ、あのインチキ染みた強さだ。

邪悪の強さは計り知れないだろうことに疑いの余地はない。

早くすべてのアークヘイロスを、邪悪を討伐しなければならない。

そう思いながら、私たちは海岸沿いを歩き、次の街である砂漠の都市サントプトへと進んでいた。

しかし、それも不慮の遭遇で阻まれる。

 

『二人とも待つのじゃ!!』

 

ユイさんの大声に驚きつつも制止した。

理由は何となく理解できる。

海岸沿いの一番向こう。

防波堤を越えた先に、赤と黒のツートンカラーの装備を着用した兵士が二人、何やら武器を構えて立っていたのだ。

 

「なにあれ?」

「あれって、リベルト!?」

「リベルト?」

『かつて邪悪に協力した部隊じゃ、あやつらは、邪悪大戦の時、滅んだはず……』

「ほう???」

 

ユイさんの話を聞く限り、リベルトとは、邪悪大戦(邪悪軍と女神率いる英雄、イクス大陸の民で編成された軍で行われた大戦)が始まる一年前に、ソルジェスで「天位」と呼ばれる王となる者を決めようという大事な時期を迎えていたらしい。

天位の地位をかけて競っている候補者は2名。

一方は魔力に汚染されたソルジェスの大地を浄化した青年騎士アイゼン。

一方は野心が大きくソルジェスの有力な財閥の御曹司である青年リベルト。

リベルトは、自身がアイゼンに比べて人望も才覚も劣っていることに焦りを感じており、その差を埋める方法として外部勢力であるアルツゴール(現在のスカイポリス)の力を借りることを決意。

この頃、アルツゴールはソルジェスの勢力に対抗する為、中立国のサントプトに同盟を持ちかけて断られたという背景もあり、この天位候補であるリベルトの提案を渡りに船と受け入れたらしい。

これは、天位の地位に繋がれば攻略が容易となることを見据えての行動だった。

一方、協力を取り付けたリベルトは天位を得る為の準備を行うため、建前上は留学と称してアルツゴールへ向けて出国する。

時を同じくして、アイゼンは同盟国であるグリムマギアへ留学をしていた。

リベルトがアルツゴールで密かに策略を練っていたその頃、ソルジェスではモンスターや動物が人間を襲撃したり、これまで見たこともないような新種のモンスターが発見されるといった、様々な異変が起き始めていた。

事態を重くみたソルジェス議会は、これら凶暴化したモンスター勢力を制圧する為、中立国であるサントプトから武器を仕入れ、それぞれ留学中だった天位候補の2人を呼び戻したのだ。

戻ってきた2人と国民に向け、ソルジェス議会は次のように宣言した。

 

『モンスターを討伐し平和をもたらした者を、次の天位とする』

 

これを受け、アイゼンは軍隊を編成すると、すぐさまモンスターの掃討へと出発した。

一方のリベルトは、編成した軍勢を引き連れて女神の寺院(今は崩壊して存在しない)へと向かった。

表向きは「女神の寺院を保護する為」としていたが、そのアリ1匹逃さぬ徹底した包囲網に、人々は一抹の不安を感じた。

実質的に女神の寺院を掌握したリベルトは、副官を連れて寺院内部へ入ると、どこから入手したのか禁断の魔法を使って封印を解き、アークストーン結晶体を手に入手することに成功する。

アークストーン結晶体の力によって強大な魔力を手に入れたリベルトは、モンスターや手勢の兵士たちを操ってソルジェス外郭から占領戦を仕掛け、破竹の勢いで勢力を拡大。

このただならぬ事態にソルジェスのみならず、同盟国であるグリムマギア、そして中立であったサントプトも含めた3国は臨時で同盟を組み、この強大化していくリベルトが率いる勢力への対抗手段を模索する事となる。

この時、リベルトは邪悪によって裏で操られていたらしい。

結果、邪悪の発見が遅れ、邪悪大戦が起こったという。

必死の攻防の末、女神とアークストーン結晶を失い、途轍もない犠牲を払いながらも、邪悪を封印することに成功し、リベルト率いる部隊も壊滅。

イクス大陸は平和となった。

その時召喚された英雄たち(つまり、俺たちが元いた地球人たち)はアークストーン結晶がないために、イクス大陸で一生を過ごすことになった。

余談だが、アイゼンはこの後、行方不明になったという。

 

そして、いま、そのリベルト部隊が我々の目の結構奥にいる。

これは壊滅していたとされていたリベルト部隊だが、実は生き残りがいて、その残存部隊が潜伏して、邪悪の復活と共に再び旗を揚げたと推測ができた。

もし、この推測が本当だとしたらやべえことだ。

何故なら、邪悪大戦は300年も前の出来事である。

先程の推測が本当であるなら、リベルト残党部隊は300年も潜伏していたことになる。

頭を失った残党がそこまでするのだろうか?

 

「いまはさわらない方がいい感じかな?」

 

鈴亜はそういってユイさんに訊ねた。

ユイさんはうーんと言ってうつむき、悩みに悩んでいた。

 

『いまのところは……じゃな……。奴等の現状勢力がわからない以上、下手に手を出すのは、不味い。しかし、面倒なことになったのぅ……』

 

そういってユイさんは頭を抱える。

まぁ、聞いた話、結構面倒なことになったと、私も思った。

マフィーナを倒したと思ったらアホの御曹司の部隊まで登場ときた。私に休みはないのかい?

 

私たちは、リベルト部隊に見つからないようにヒソヒソとサントプト地方へと向かうこととなる。

 

 

 

なんとか、賢者の港を抜けて逢魔が辻という場所にきた。

名前に通り薄暗い場所であった。

しかし、今までとは違いモンスターの量が多かった。

モンスターに見つからないように、ヒソヒソといたのだが、そう簡単に通させてくれなかった。

 

[ヒーハー!!! 俺の世界は広がってるぜべいべー!!!]

 

ピンク色のスライムに羽を着けたような姿をしたモンスターが現れたのだ。

私と鈴亜さんは武器を構えて戦闘態勢に入った。そして、

 

『あ、あれは、、ああああ……!?』

 

独特のスライムをみたユイさんは凄い驚いて、狼狽していたのだ。

あ……。

私は察する。

 

「ルーガやん」

「そうね。そんなに強くないわ。集団で襲ってくるとちょっとだけ厄介だけどね」

「あ、いや、それはええんやが」

 

私はチラリとユイさんの方を見る。

案の定というか、やっぱり……。

凄いビビっていらっしゃる。

 

[ヘイヘイ!! 俺の覇気に屈したかああああい!!? カモンベイベーチョコベイベーーーー!!!!]

 

「「……」」

 

腹立つなぁ……こいつ……。

左右に跳ねまくり、無駄に煽り散らすこのアホに私は若干苛立ちを覚え始めた。

チラッと鈴亜さんの方を見ると、目を細くしてルーガの方を睨み付けていた。どうやら、鈴亜さんも私と同じことを思っているようだ。

 

[ええええええええ!!!! カカッテコイヤアアアアアアアアア!!!!]

 

この瞬間、私と鈴亜さんは自分の武器を振るった。

 

[ボオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!???]

 

「「死ねやあああああああああ!!!!」」

 

斬撃と魔法の攻撃、この2つが交差するようにルーガを襲い、ルーガは上空に悲鳴をあげながら吹き飛ばされた。

 

「全く、人をバカにして……」

 

鈴亜さんは呆れた顔をしながら、魔法杖をくるくるペンでも回してるかのように回転させながら言った。

私はユイさんの方を振り替えると、ユイさんは泡を吹いて気絶していた。

あまりの状況に唖然とする二人だが、更なる唖然とすることが起きた。

あのルーガがやられて駆けつけて来たのだろうと思われるルーガの群れが、私たちを囲んでいたのだ。

 

「はい?」

「は?」

 

あまりの状況に理解が追い付かず、私と鈴亜さんは間抜けな声をあげて呆然と立ち尽くすばかりであった。

 

[どうだい?僕のボディ……ステキダルォウ?]

[流石だジョニー!! 流石は僕のオムコさんだな!!]

[おいてめえ俺のベンツにぶつけやがったろう!! フザケンジャネエゾボケブッコスゾォラ!!]

[えー、私はジャイアンです! おい、のびたっ!いい道具もってんじゃねえかっ!!]

[何かがな来たときは左へ受け流してやれ!]

[いぃのちが欲しがったらさっさ3億円よぅいしやがれぇ!!]

 

口々に独特な台詞を吐いているが、そんなことを一々突っ込む余裕などなかった。

 

「「うわああああああああああああ!!!」」

 

鈴亜さんは、気絶しているユイさんをお姫様抱っこして、全力疾走。

一心不乱に逃げた。

 

[いくぜぃ!! 僕の絶対body!!! 僕の弾ける肉体で君たちを暖めてあげるぜ]

[逃げるのかい?ベイベー! せっかくの仲じゃないかぁ]

 

ルーガの大群はものすごいスピードで追いかけてくる。

私たちは後ろを振り向かず、無我夢中で走り去った。

 

「はぁはぁはぁはぁはぁ!!!!」

「ふぁ、はぁ、ひぁ、はぁ、はぁ……」 

 

そのお陰で何とかルーガの濁流から逃れることに成功し、いま私たちは木陰に身を潜めて休憩中である。

尚、ユイさんは未だに目が覚めない。

 

「ヤバかった……」

「ええ……」

 

二人は激しく息を切らしながら疲労していた。

しかし、二人が顔を見たとき、急に馬鹿馬鹿しくなったのか、二人して大笑いした。

そして、その大笑いを聞き付けた別のモンスターが二人の前に立ちはだかった。

 

[へーへへーのへー!!]

 

某RPGに居そうな木の化け物が現れた。それもむっちゃふざけた言葉を話している。

 

[俺はなぁ。あれなんだよ!!! あれだ!!! よくわからないけどあれなんだよ!!!!]

 

だから何なんだよ!!!

危うく突っ込むところだった。

 

[俺はなぁ。攻撃できないんだ!!! だから俺は今から逃げる!!! じゃあなリスト!!!]

 

「「……」」

 

颯爽と逃げる木の化け物(鈴亜さん曰くエルダーウッドという名前らしい。)の前に俺たちは、一体さっきのはなんだったのか、理解に追い付いてなかった。

てか、この逢魔が辻ってところはとんでもないモンスターしかいないのかよ!!

 

「なにさっきの」

「エルダーウッドって結構変人で、人を理解不能に落とさせるのが趣味なんだって」

「どんな趣味やねん!!」

 

色々カオス。

もうそれ以外に言うとこはない!!

 

 

とりあえず、こんな訳のわからないところから早く脱出したい。

鈴亜さんがユイさんをおんぶして、私たちは逢魔が辻を抜けてアヴィ湖と呼ばれる町に向かったのだ。

 

しかし、この時に訳のわからない奴が現れた。

現れたというか、いた。

 

[俺の名前はメッチャオワコン!!!よろしくな!!!]

 

「おい、ドングリが喋ったぞ!!!」

 

私の足元にある微妙に大きいドングリが喋ったのだ。

 

「メッチャオワコンっていうドングリよ。元々はさっきのエルダーウッドにくっついてたのよ」

 

[私は喋れません。ただのドングリです]

 

「じゃあ、何で声が聞こえるんや??」

 

[これは録音です]

 

「んじゃあ喋っとるがな!」

 

あまりの馬鹿馬鹿しさにもう突っ込むしかない。

鈴亜さんは、なんか爆笑してるし。

あー、早くここから出たい。

私はその気持ちでいっぱいだった。

 

 

 

あのいろんな意味で混沌とした逢魔が辻を抜け、湖の丘と呼ばれる所を乗り越えた先に、巨大な湖が広がっていた。

琶琵湖と大差ない程の規模で、その湖を囲むように建物が並んでいた。ここがアヴィ湖である。

 

「おおお、ここがアヴィ湖か」

「そうよ。琶琵湖に来たみたいよね」

「そうですね」

「うふふ」

 

鈴亜さんは私の顔を見て小さく微笑んだ。

私は「??」と声をあげて鈴亜さんのほうを見る。

 

「緊張解けた?」

「え?」

「さっきまで私に対して慣れてなさそうな敬語使ってたのに、エルダーウッドらへんから敬語じゃなくなってたから。緊張は解けたのかな?って」

「え?あ、あー。そういえば……」

「龍輝っていくつ?」

「23です」

「私より年上じゃん」

「失礼ですが、鈴亜さんはおいくつで?」

「18よー。それと呼び捨てでいいよ」

「あ、はい」

「敬語もいらなーい」

「はーい」

 

他愛のない話をしながら、私たちは今日泊まる宿を探した。

ルーガの時からずっと気絶していたユイが目を覚まし、辺りをキョロキョロと見渡していた。

 

「あ、目を覚ましました?」

「ユイさんおはようございます」

『んぁー、アヴィ湖のようじゃな?』

 

目を擦り、さらにあくびをしてそう答える。

逢魔が辻の時からずっと気絶してたのだが、どう考えても寝起きである。

 

「アヴィ湖で泊まるつもりなんですけど、どこかいい旅館とかあります?」

『ない!』

 

私の質問にユイは即答した。

勢いがありすぎて一瞬、何を言われてたか理解できなかった。

鈴亜に至っては目を瞑って悟りを開いていらした。

 

『アヴィ湖の旅館にまともな旅館はない!』

「私はアヴィ湖ちょっとだけ店を見回って、そのまま出たからよくわからないけど、まともな噂を聞いたことはないわね」

 

それを聞いて、私は頭を抱えた。

しかし、時間的に泊まらないといけない。これは避けられぬ運命なのだ。

私達は宿を探し回った。下の上ぐらいの宿があることを願って……。

 

『ん?』

 

そこにユイさんがある建物に目がついた。それに合わせて、私や鈴亜も目をいく。

 

『こんなところに宿なんてあったかの?』

「私も知らないわ」

 

二人はそういう。

外装等を見る限りレンガで作られた洋風の宿屋だが、明らかに最近建てられたと推測できるぐらいに汚れが見つからなかった。

 

「ここにしてみる?」

「せやなー。ここ以外ないし、賭けてみるか」

 

そういって、私たちは扉を開けた。

外装はレンガ作りだったのに対して、内装は驚くほどに和風。

フロントは芝生で包まれ、壁の端には滝が流れ、鹿威しが透き通った清音を鳴らしていた。

そして、受付に行く間に丹塗りされた木で作られたであろう太鼓橋があり、その下には川が流れ、よく見ると錦鯉が沢山泳いであった。

一応、言うがここはホテルのフロントである。

 

「いくらなんでもガーデニングしすぎやろ……。ほぼ外やん」

「ええ、これはすごいわ……」

『江戸の街を思い出すのぅ』

 

ユイさんがさらっとすごいこと言っているが、鈴亜が川を見つめて、言った言葉に流された。

 

「待って、イトウみたいな魚泳いでるわよ!!?」

「は?マジで?」

「ほら!」

 

鈴亜が指差す先には、マジでイトウが泳いでいた。

これにはビックリだ。

イトウなんて、街に行こうよどうぶつの森で母と妹が釣り上げているのを見たぐらいだからだ。

 

『ほう。これはイトウというのか』

 

ふわふわと浮きながら、除きこんでそういった。

 

『ワシが江戸の街に住んでおった時に川辺でよく見かけたのぅ』

「……」

「……」

 

……時代が違いすぎる。

私と鈴亜は万一致でそう思った。

とんでもない発言をしたせいか、俺たちは太鼓橋の真ん中で呆然と立ち尽くすばかりだった。

 

「とりあえず、チェックインだけしよっか」

「そうやな」

 

鈴亜と私は川を泳ぐ魚を懐かしそうに眺めるユイさんをほってカウンターに立った。

カウンターも檜で作られてそうな、汚れがない透き通った木本来の色をしている。

私は呼び鈴のボタンを押した。

鐘の音がチンっとこだまする。

すると、カウンターの奥の方から、明らか住職っぽい服を着た禿げた老人がゆっくりと現れた。

 

「この店の主人ですか?」

 

鈴亜はそういうと、老人は口を開く。

 

「どうも、私は生まれてきた時のことを覚えてません」

「あたり前でしょ」

 

老人に言葉に鈴亜は突っ込みを入れる。

分かって入れたのではなく、反射的に言ったのだろう。

 

「あなたが生まれてきた時のことを覚えていたら結構怖いわよ」

「許してチョーチンよ!」

 

ここで私と鈴亜、ユイさんは理解した。

これはダメだ。

絶対にダメだ。

いま、マジで確信した。

とんでもない宿に来たかもしれん。

脳裏どころか、全身を過った。

しかし、逆にどこに泊まるよと聞かれたらもう。

ここしかない。

他と比べてましと信じて……。

 

「えーと、今日一泊だけ泊まりたいのですが」

 

鈴亜はゆっくりと老人に話しかける。

しかし、老人はびくともしなかった。

 

「すみません。聞こえてますか?」

 

鈴亜は老人に語りかける。

すると、老人はハっとしたように、鈴亜のほうをみて。

 

「俺ですか?」

 

と自分の指を指しながらいった。

それに対して鈴亜は「当たり前でしょ」と突っ込む。

 

「えーと。よくわからないので、考えます。考えます!」

 

そういうと、老人は両方の手を自分の手に当て、息を吸い込んだ。

そして……

 

「胸に手を当て考え見れば!!!」

 

老人は大きな声で言ったあと、呼び鈴をチンっと鳴らして続けた。

 

「親父は俺より歳が上!!!」

 

「「『……』」」

 

こ、これはダメだ。

なんか迷言みたいなのが飛んできた。

鈴亜もユイさんも呆気に取られて開いた口が塞がってねえぞ!!

とりあえず、チェックインは済ますことが出来たのだが……チェックインって1時間も掛かるもんだっけな……。

私たちが泊まる場所は2階の225号室だ。

ロビーに入っても、この過剰と言える程のガーデニングされた部屋は変わらない。

日本の和をそのまま映し出したと言っても過言ではないだろう。

ロビーを抜けて廊下に出た。

昔によくある和風の建物のような廊下。

厳島神社のような回廊的感じだ。

私たちはこのTHE和風の宿に唖然としながら廊下を渡り階段を使って2階へと上がった。

階段の両端には左右対称に灯籠が一定の間隔で設置されており、階段の床には小さな石が敷かれていた。

和風特有の神秘さがもろに出ており、和風が大好きな私は感銘を受けた。

あの老人の趣味だとすれば、それは余程の和風好きなのだろうか?

それか、あの老人が英雄に日本の和や、ワビサビについて色々と話を聞いて、興味を持ったのだろうか?

なかなか興味深いが、まぁ、ええか。

 

「225号室ってどこだ?」

「ここじゃない?」

 

鈴亜の示す先には225号室の表札があった。

私たちは小走りでその部屋に向かい、ドアを開けた。

中は、予想通り、和室だった。

畳に掛け軸など和室その物ズバリである。

1つ言えることだが、「二人」用にしては多少広さがあることぐらいである。

私と鈴亜は荷物を置いて、一服。

早速ユイさんは宙に寝転んで目を瞑った。

 

「しっかし……」

 

私はアヴィ湖沿いに建てられた店や家々を思い出して呟く。

 

「んー?」

「アヴィ湖って琶琵湖周辺に似てません?」

「そうねー。もしかして、邪悪大戦終わりに、帰ることが出来なくなった日本の人々が、アヴィ湖周辺に建物を作る際、あえて琵琶湖に見立てたとか?」

「あー、それもありますね。なんとなくアヴィ湖って名前も琵琶湖に似てますし」

『くかー』

「もう寝てる……」

「よっぽど疲れてたんだね」

 

大の字になって宙で寝ているユイさんを起こさずに、静かに各々自分の時間を過ごした。

 

 

 

「飯の時間でございまああああす!!!!」

 

突然、その大声と共に超大型の龍ですら怯むであろう大銅鑼をヴァァワアアアアアアァァン!!!!と鳴らされ私たちは一瞬記憶が吹っ飛んだような感覚に襲われた。

ユイさんは飛び起きて早々に『ルーガでゴワス!!!???』等と言うのだから始末に負えない。

 

「ビッッックリしたああああもおおおう!!!」

「心臓止まるわ!!」

『耳がぐわぁんぐわぁんしておる』

 

「もういっっちょおおおおおおおお!!!!!」

「「『ひいいいいいいいいいいいい!???』」」

 

再び大銅鑼が鳴り響く。

もういっちょと言っている癖に5、6っ発は鳴らしやがるお陰で私たちは一瞬で戦闘不能に陥ってしまった。

 

 

 

耳がヒーヒー言うなかで、私と鈴亜(ユイさんは再び就寝)はテンションフルmixの状態で飯をすることになったのだが、その飯の内容で私たちはテンションフルMAXゲキヤバアゲアゲとなった。

そう、和風なる宿にあるであろう大宴会場に並べられた料理は、日本の和食。

超豪華海鮮料理だった。

高知県の郷土料理である皿鉢料理の三倍の豪華さと言えば伝わるであろう。

これには鈴亜と私は目の色変えてがっついた?

 

「くっそうまい!!!!」

「ホントなにこれ凄い美味しい!!!」

 

あまりの美味しさに感動しながら、海鮮料理を完食した。

 

海鮮料理を食べて満足した私たちは、風呂に入ることになったのだが、ここである問題が発生した。

どうやら、ここの風呂場は混浴という結構ヤバいものであった。

恐ろしい。

 

「混浴かー」

 

そういって、私は鈴亜の出方を伺う。

 

「ふーん」

 

あまりの言葉に私は言葉を失った。

 

「私別に気にしないよー」

「あ、そうっすか」

 

なんか、拍子抜けした感じだ。

鈴亜はよくても私がやべえんだよな……。

もう、色々と……。

てかさ、着替えも同じとか絶対おかしいだろマジで。

そして、私の後ろにはめっちゃ可愛い美少女。

こんなん興奮するに決まってるやろ!!!!

いくら、闇英雄で混浴やったとしてもや……。

しかし、それを鈴亜に悟られては色々とまずい私はバスタオルを腰に巻き、若干前屈みになり、桶を腰ぐらいの位置に持って何とか誤魔化している。

 

そして風呂場はというと、風呂場全体が檜で出来ており、さらに岩で作られた露天風呂に檜風呂と、和風を追求した風呂場となっていた。

あの主人、絶対に和風好きだわ。

 

「まぁ、予想通りですね」

「うん。私もこんな感じと予想してたわ」

 

そして、各々体を洗浄するのだが、問題がある。

鈴亜さんよ。

何も俺の横で体洗わんでもええやん。

色々と見えるのよ。

これ結構やべえぞ。

特に下半身。

私は煩悩と壮大なる決戦を頭の中で繰り広げながら、頭と体を洗った。

ちなみに鈴亜の方なんか見ていない。 あんなスベスベの妖艶たる肌をした全裸の美少女なんぞ見た暁にはどうなるかなんて火を見るより明らかだわ。

 

「ふひー生き返るー」

「ほんとー、マフィーナ戦や逢魔が辻の疲れが嘘みたい」

「やっぱり最高だわ風呂はー」

「ええ……」

 

湯気で何とか鈴亜の全裸が隠れて、助かっているが……。

何だろうかこの嬉しいような悲しいような微妙な気分は……。

 

「ところで、龍輝さっきから腰を異様に隠してるけど、別にいいんじゃない? こう言うのは不可抗力だから仕方ないと思うよ?」

「?!!?!!?」

 

突然の核弾発言に私はもう訳がわからんかった。

もう、何て言えばいいかわからない。

 

「そ、それでも、体が隠してしまうんですよね」

 

心臓の心拍数が目に見えて上がり、汗が吹き出ているのは、きっとこの風呂に浸かりきっているからだと信じたい。

 

「まぁ、確かにそうかもね。なんか余計なこと言ってごめんねー」

「あ、謝る必要ないよー」

 

平静を保っているが、心の中では荒ぶるバゼルギウスである。

ぶおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!!!!!

ひえええええええ!!!!ひえええええええ!!!!ひえええええええ!!!!(転倒してる時のバゼルギウスの声)

 

そのあと、特に何もなかったが、結構心臓に悪かった。

時間も時間なので、私たちは布団を敷いて寝ることにした。

因みに女の子と寝るなんてことは、人生で初めてである。

寝れるか非常に心配。

やはり先程のことも相まって、妙な興奮によるATフィールドにより睡魔が悉く弾かれている。

正直、もう私は徹夜を覚悟した。

しかしだ。

意外と睡魔は襲って来るもので、案外夢の中にすんなりと入っていったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

私の周りには、古龍たちがいた。

炎王龍テオ・テスカトル

溟龍ネロミェール

雷極龍レビディオラ

冰龍イヴェルカーナ

風翔龍クシャルダオラ

地啼龍アン・イシュワルダ

霞龍オオナズチ

天彗龍バルファルク

黒冠龍モルドムント

雅翁龍イナガミ

天廻龍シャガルマガラ

司銀龍ハルドメルグ

赤龍ムフェト・ジーヴァ

彼らはボロボロになりつつ、ある男に殺意の眼差しを向けていた。

私の目の前に、ある男がいた。

名前は知らない。

あったこともない。

その男は、私に向けてこう言いはなった。

 

「朱雀龍輝。テメエは、俺に殺される運命なんだよ!!」

「え?」

 

突然のことに私は戸惑う。

 

「何の夢もない。何の目標もない。そんなテメエに何ができる!!!」

「いやまてや私にだって夢や目標ぐらいあるわ」

 

何も知らないばか野郎にそう言われて少し腹が立った私は、その男にそう言う。

 

「へー、テメエのような"真に救いようのない人"にもあるんだな」

「むしろ、その"真に救いようのない人"だからこそ、持ってる夢なんだけどな」

「聴きたいねぇ。その夢とやらを!!」

「私の夢は……」

 

 

 

本当に

 

真に救いようのない人

 

だよ。

 

わたしは……。

 

 

 

 

 

 

続く




宿運ないなぁ……。
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