「龍輝どうしたの?」
「え?」
目を開けると、鈴亜が不思議そうな顔をして覗き混んでいた。
私は起き上がり、何が?と答える。
「なんか魘されてたけど……」
「そう……なのかな?」
鈴亜はそういっていたけど、よく覚えていない。
てか、私はどんな夢を見たんだ?やべえ全く思い出せん。
それはそうと、もう朝か。
私は起き上がると、鈴亜は私服に着替えて、昨晩に行った宴会場へと向かった。
朝食である。
「いただきます」
私は手を合わせて、食べるときの言葉を述べる。
朝御飯はトーストパンに目玉焼き、ウィンナー、サラダの洋食っぽさ満開の献立であった。
そして目玉焼きだが、我々の住む地球の一般的な目玉焼きよりも大きい。
二周りほどの大きさを誇っている。
なんかダチョウの卵を目玉焼きにしているようだ。
鈴亜に聞くと、これはイクスに住むブィシコックの卵らしい。
邪悪大戦後の英雄たちが、この世界に住むことになった際に、イクスの人々に目玉焼きを教えたとか。
パンやサラダも日本と変わらない感じだ。
なんなら、サラダに至っては具材も一般家庭に流通している野菜ばかりを使っている。
そして、何より上手い!!
ブィシコックの卵は程よい甘味があって、そのまま食べても美味しい。
柔らかく、口に入れるだけで蕩けるようだ。
歯の弱い年配の方には嬉しい料理であろう。
トーストも食べた時にサクッとして中はフワッと柔らかく、女性等におすすめできるものだ。
ウィンナーはヤバい、食べた瞬間、肉汁が口一杯に広がって、正直ご飯が欲しい。
これご飯と合わせたらご飯進むわぁ。
サラダはただ上手い。
ほんのりとした甘味があり、野菜独特の苦味は一切ないので、野菜が苦手な方々でも美味しく頂けると感じた。
「ごちそうさまー!」
「ごちそうさま」
私と鈴亜は食べ終わり、泊まっている部屋に戻った。
そろそろチェックアウトの時間だ。
俺たちは荷物をまとめ、宿からでる準備をしていた。
「よし、行こ!」
「せやな」
『さぁいくぞー!』
私たちは掛け声を言って、チェックアウトを済ませた。
その時の老主人のセリフは察するものがあった。
「はー、しかしまぁ、アヴィ湖は平和やなー」
「そうね、人々も活気的だし」
『そうじゃのー……。ん?』
ユイさんは、何かに気づいたのか、そのような声を出した。
『これって……まさか……!?』
「ユイさんどうかしました?」
「どったの?」
俺と鈴亜はユイさんに聞くが、ユイさんは慌てて手を振って何でもないと言った。
俺たちは不思議に思いつつも、それ以上は何も追求しなかった。
『……』
龍輝……鈴亜……すまぬ……。
「アヴィ湖を抜けると湖の港につくわ。そこからサントプト地方に入るの」
「なーるほど、じゃあ行きますか!」
『そうじゃの』
私たちは湖の港にいくことになった。
「すみません英雄の方々ですか?」
私たちを呼ぶ声がしたので、振り向くとそこには警備兵らしき人がいた。
「はい」
「どうしました?」
「この先に、獰猛と化したモンスターが多数報告されています。もしよろしければ、それらのモンスターの掃討をお願いしたいのですが……」
兵士が言うに、モンスターの討伐依頼のようだ。報酬も貰えるらしいので、私たちは了承した。
「獰猛なモンスターねー」
「逢魔が辻のモンスターは色んな意味で獰猛やったけどな」
そのような話をしながら湖の港を歩いていると、草むらから何かが飛び出してきた。
[今からね、ニャンチューの物真似をします。ミーはニャンチューだにゃああああん!!!!]
[俺のムスコが立ったときはな、こんなんなるんだぜこんなんにぃ!!!!]
[燃費をあげる一番の方法はクリープ現象、これで走れ!!!!]
[何かがなぁ右から来たときはな、左へ受け流してやれ]
ルーガが襲ってきた。
しかも紫色で、逢魔が辻にいたルーガとは少し違っていた。
彼らはウォールーガと呼ばれており、いわばルーガの上位種に位置する存在である。
基本的にそのモンスターの上位種は「ウォー」と名前がつくらしい。
俺と鈴亜は一斉にユイさんの方を見た。
『……』
ユイさんは目を瞑りながら、泡を吹いて死んでいた。
ため息を吐いた鈴亜はロッドを天に掲げ、バフを撒いてくれた。
力が漲ってくる感覚に襲われる。
「殺ろっか」
「ですね」
私たちはお互いに顔を合わせ、少し微笑んだ後、地面を蹴り、物凄いスピードでルーガに襲撃を仕掛ける。
「でやぁ!!!」
鈴亜はロッドに魔力を宿し、刃を形成しルーガに斬りかかった。
ルーガはそのまま吹き飛ばされ、他のルーガに衝突。
放たれた刃状の魔力は周囲の木々を伐採した後、消滅した。
「……ぜいぃぁ!!!」
私は刀を抜かずに、そのままルーガ。殴り伏せた。
一瞬だが、ルーガたちが怯む。
その瞬間を我々は見逃すはずもなく、全力で畳み掛けた。
光の爆発と魔力の爆発が発生するも、お構い無し。全力でウォールーガを叩きのめした。
更にその戦闘を察し、他の獰猛なるモンスターもやってくる。
[酒場では意識はあるの、アホは天然をキッパリ出す年収とスピードの4倍です]
[絶対にまつ毛マスカラ。本当に呆れるほど分かるほどカールマスカラ]
[世の中で本当に現れたと言われているルーガね。疑ってかかること]
[ボンレスハムを、どう飲んでいくかということ]
[ルーガは復活したアホです。本当にそうなの、わけワカメです]
[せいろなんてお蕎麦なんだ。こんなもんやれば誰にでも打てるようになる]
意味のわからない言葉をいいながら現れるのは、見覚えのあるモンスターたちだ。
ウォーエルダーウッド、ウォーメッチャオワコン、ウォーシュータープラント。
そして、始めてみる敵。
ワニのようなモンスターであるウォークロコダイル。
巨大な怪鳥、ウォーグリフィルス。
部隊を成しているかのようにやってきた。
その数、20ほどだ。
「なーるほどー!!」
鈴亜そういってニヤリと微笑み、ロッドを地面に突き刺す。
そして全ての敵を囲むほどの範囲を持つ魔法陣が出現する。
そして、その魔法陣の光は一層輝きが増してゆき……
「炎の究極魔術……エクリプスメテオ!!!!」
鈴亜がそう詠唱すると、鈴亜の少し上空に雲が渦を巻き、その中心から巨大な隕石が落下してくる。
気づいたモンスターたちは慌てて逃走に図るが時既に遅し。
大地を抉る勢いの大爆発と衝撃波、モンスターたちに襲いかかる。
俺は無意識のうちに刀を縦代わりにして、目を瞑った。
そして、目を開けるとそこにはモンスターの姿はおらず、巨大なクレーターがあった。
そして、私や鈴亜、木々などは光輝く壁によって無事だった。
「よし、終わりー!」
鈴亜はこちらを振り向いて、笑顔でピースをする。
その笑顔は非常に癒されるものであり、そして鈴亜の底知れぬ強さに驚くばかりである。
獰猛なるモンスターは先の攻撃によって全滅。
兵士の討伐依頼は無事完了となる。
私たちは、気絶しているユイさんを一旦そのままにして小走りでアヴィ湖へと戻った。
「ありがとうございます!! これで商人や住人たちも安心してサントプトの往来ができます!! ありがとうございました!!」
「いえいえ」
「困ったときはお互い様ですので」
「報酬です。受け取ってください」
兵士はそういって、私たちに報酬を差し出した。
「「ありがとうございます!!」」
私と鈴亜はお礼を言ってお辞儀をした。
そして私たちは走ってユイさんの元へと向かう。
「ユイさん起きてるかなぁ?」
「私の勘だと、まだ寝てると思うわ」
「まぁ、そうやろなぁ」
私たちは走りながらそのような話をした。
鈴亜の予想は的中しており、ユイさんは泡を吹いてぐったりとしていたのだ。
「龍輝どうする?」
「ちょっとだけここで待ちますか」
「そうね。さっきの技で魔力使いすぎたしね」
そういうと鈴亜は地面に座り込んだ。
やはり先程の魔法は相当魔力を使うものらしい。
「ねーねー、マフィーナのときモンハンの古龍になってたでしょ?」
「あー、うん。ただ、まだ成り立てだから、まだ全然戦える状態じゃないけどね」
「そうなの?」
「おん、それに魔力の扱いとまだまだやしな」
「それならさ、後で私が稽古つけてあげようか?」
「いいんですか?」
「もちろん!」
「ありがとうございます!!」
私は鈴亜にお辞儀をした。
その声でユイさんも目を覚ましたので、再び旅が再開する。
目指すはサントプト地方の隠者の道。
そこに向けて、私たちは湖の港を歩き出す。
先程の戦いによってモンスターがどこかへ逃げて道は静かだ。
港とは言うが、船らしき物は停泊しておらず、何故湖の港なのか不思議に思う。
「いま船は全部就航していていないのよ」
「なーる」
『この時間はサントプト地方に荷物を運んでおるからの。もう少ししたら、来るはずなんじゃが……』
ユイさんが高く浮遊し、目を細めてキョロキョロ辺りを見渡した。
すると、ユイさんは「あっ!」とした声を出して、我々が向かう方を指差す。
私たちはその指差す方をみて、俺は呆気にとられた。
空から、巨大な飛行船が港へと向かってくるのだ。
飛行船と言っても、我々がよく知るガス袋にヘリウムや水素を入れて浮かせるやつとは全く違い、帆船の両側面にプロペラがついた、ファンタジー感MAXの印象を受ける代物だ。
「飛行戦艦やん」
「いつみても凄いわね」
『まぁ、あんなデカブツ、誰が作ったかなんて一目瞭然じゃろう』
「ケミックさんか……」
『そうじゃな』
あの人がダブルピースしながら、得意気な表情を浮かべたビジョンが容易に想像できる。
『大都市スカイポリスもケミックの技術力を使った都市だと聞く』
「スカイポリス?」
『サントプト地方の更に先にある地方じゃ。邪悪に近い都市故に、天空に存在する都市じゃ』
「スカイピアかよ」
『なんじゃそれ?』
「あ、いや、こちらの話」
「フフ……」
私の話に鈴亜さんは、おかしくて笑っていた。
あの感じから鈴亜さんは、スカイピアのことも知っているのだろう。
そんな話をしながら、私たちはサントプト地方へと向かって歩き出す。
「なにあれ?」
私たちは足を止める。
目の前にモンスターがいた。
全員紫色をしている。ウォー種だろう。
[恋人は沢山いるけど、真の恋人は……自分だけさ]
[恋人は別れたって瞬時により戻せる]
[私に言い寄ってきた男は沢山いるけど、皆フッてやったわ。どいつもこいつもバカばっかり]
[俺に勝てるのは、俺だけだ]
[ヴァレンタインにチョコを貰ってないレディにホワイトディのお返しあげちゃったよテヘッ]
[ナンパができるようになれば、世界中どこでも彼女ができる]
「龍輝、どうする?」
鈴亜は私に聞くが私もわからん。
結構な数だ。
「鈴亜さん。もう一発あれできます?」
「無理。そこまで使える魔力ないよ」
「ですよね」
「古龍になって必殺技で蹴散らせない? スーパーノヴァとか水蒸気大爆発とかアブソリュートゼロとかアルティメットクシャストームとか」
「古龍の身体に馴れてないのに、そんなことできるわけないでしょ」
「そうよねー。あ、そうだ!」
「?」
鈴亜は私とユイさんの耳元で呟いた。
気乗りはしないが、これしか方法はないと悟り、協力することにした。
「いくよ?」
「あいよ」
鈴亜は水を生み出し、それを私が吸収する。
水の魔法を得ると同時に龍化能力も発動。
私の姿が見る見るうちに溟龍ネロミェールへと変貌する。
ウォーと冠する名前を持つモンスターたちは、ネロミェールの姿を見るや否や、怯え、後退り、蜘蛛の子を散らすように一目散に逃げ出した。
「ね? 意外といけたでしょ」
「そ、そうですね」
ネロミェールになった私は少し戸惑いながら、頑張って鈴亜の後ろをついていく。
未だに古龍の身体に馴染めず、あることすらも満足にできない状態だ。
こんなぎこちない歩き方するネロミェールとか見たことないわ……。
現在の自分の歩き方が、カメレオンの歩き方に酔っ払ったサラリーマンを足して2で割ったような歩き方を想像した私は、あまりにもバカマヌケ過ぎて笑ってしまった。
「どうしたの?」
『急に笑って、思い出し笑いか?』
「いや、いま自分の歩いてる姿を想像したら……バカすぎて……」
そう言い終わると、再び笑い出す。
笑いの壺という落とし穴にハマってしまった私は、ケラケラと爆笑する。
あれー、おかしいな、古龍は落とし穴にハマらないのに……。
「確かに、マヌケね……」
私の言葉に共感されたのか、私のマヌケな歩き方をする姿を見て鈴亜も爆笑し始める。
『能力を解除したらどうじゃ?』
「いんにゃ、古龍の身体に馴染みたいから、このままでええよ」
『まぁ、それもそうか』
「龍輝も大変ね」
「ああ、あの科学大神官さんにやられたよ……」
端から見たら美少女二人(一人)が深海に住んでいそうな龍を引き連れているという意味不明な光景となっている。
しかし、古龍の姿のおかげというべきか、さっきまで襲ってきた獰猛なモンスターたちの強襲は、パッと収まったのだ。
ネロミェール様々である。
そのお陰で、我々は簡単にグリムマギア地方を抜けれそうなのだ……が、どうやら時間的にこのまま行くのは危険らしく早朝にサントプトへ向かうことになった。
私は水を解放して古龍化を解く。
何となく近々筋肉痛になるのではないかと不安があった。
「じゃあ、ここでキャンプでもしようか」
「そやな」
『いいのー。ワシは周囲にモンスターがいないか見張っておるよ』
「あいよー」
鈴亜は手慣れた様子で巨大なテントを設営、私は薪を持って焚き火の準備に取りかかった。
こんな感じでええんか?
という不安に駆られながらも、多分……多分できた。
私一人なら、これくらいでええやろうとかなりの妥協ができるが、二人となると何となく妥協は許されないという感じが出てくる。
それ故に、これは大丈夫なのだろうか?と不安になるのだ。
「鈴亜さん、こんな感じで大丈夫ですかね?」
私は鈴亜に訊ねる。
鈴亜は、私が作り出したモノを見て「そんな感じ、上手じゃん!」と褒めてくれた。
正直かなり嬉しかった。
私は火をつけるため、木を擦って火起こしを始める。
鈴亜の魔法ですれば一発なのだが、魔法に頼りすぎるのは良くないということだ。
まぁ、言われてみればそうやな……。
「ふぅ……何とかついた……」
必死に火起こしをすること10分、ようやく火を起こすことに成功する。
それを薪に移して、焚き火が出来上がった。
「じゃあ、早いけど晩御飯にしようか!」
「そうですね」
私がそう返事をすると、鈴亜さんは鞄からインスタントカレーライスを取り出し、米をキャンプで良く見る炊飯器に入れて、炊けるのを待った。
「ねえ、龍輝」
「ん?」
「ご飯食べ終わったら、一回私と戦ってみない?」
「別に構いやしやせんけど、相手になりますかね」
「龍輝がどれくらいの実力なのか知りたい」
「さいですか」
『魔力とドラゴンの制御の練習にもなるじゃろ』
「そうですね」
まぁ、私も古龍を早く使えるようにしたいから、ええか。
私達は、カレーライスを早く食べて戦いをすることになる。
カレーライスの味は、ふつうの味だった。
本当に普通のカレーライス。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさまー!」
食べ終えた私たちは立ち上がる。
腕をうごかして軽いウォーミングアップを行い、少し開けた場所へと来た。
辺りは薄暗くなってはいたが、特に問題は無いとのことで、戦いが幕を開けた。
「全力できてね!」
鈴亜はそう言ったものの……。
全力ねえ……。
私は取り敢えず、走り出して殴りかかる。
現状の私にはそれくらいしか攻撃方法が見つからなかった。
しかし、それを鈴亜は軽くいなして零距離に近い至近距離で魔法をぶっぱなす。
私は一瞬にして上空に吹き飛ばされ、風が吹く音がしたことから風の魔術と予想できた。
「風の魔術……!!!」
私はそう呟いて落下しながら、その風を吸収した。
次第に姿が変化していく……。
全身は鋼のように灰色に、そして光沢を得た煌めきを放っていた。
それを見た鈴亜は「鋼龍クシャルダオラ……!!」と呟いた。
予想通り、といったところだろうか。
私もこうなれば攻撃の手段が増える。
今できることを全力でやるのみ。
「風の魔術!!!」
私は咆哮に近い声を荒げて風を放つ。
かなり不恰好であるが、かなりの風速の風が鈴亜を襲った。
本物のクシャルダオラなら、ここら一体の山々を薙ぎ倒せるんだろうなぁと思いつつ、鈴亜を吹き飛ばそうと風を放つ。
「かなり強いけど、まだまだね!!」
鈴亜は物凄い形相をして、両足から炎の爆発を発生させて、急接近してくる。
草食動物を捕らえる時のチーターのような形相に、私はかなり気圧されて逃げようとするが、クシャルダオラの馴れない身体ではまともに動くことができず、足が縺れて転倒。
「やぁ!!!」
私に近づき、炎の爆発を巻き起こした。
強大な威力の爆発を前に、成す術がなく私は吹き飛ばされる。
古龍の肉体+闇英雄の恩恵による影響により、痛みはさほど気にするものではないが、勝てる見込みがないことがあっという間に理解できた。
いや、元々勝とうとは思っていないが……。
「まだいけるでしょ?」
「多分……」
私は鉄の軋む音を鳴らしながら立ち上がる。
その時、とある戦法が頭に浮かぶ。
いけるか分からないけど、やってみよう!!
また、同じように風を飛ばす。
「……」
鈴亜は、少し眉を細めながら再び爆発の風圧で風を得て急接近する。
モンハンライズのマガイマガドみたいな事しとる……。
また、急接近して私に爆発を食らわせるつもりだ。
しかし、そうはいかない。
鈴亜が近づいた瞬間、私は前足を上げて天高く咆哮をする。
完全に油断をしていた鈴亜は、バランスを崩しながら、咆哮に怯む。
「くぅ……!!!」
膝を地面について激しく耳を塞いだ。
いま!
頭の中でキラリン!SEが鳴る。
私は風の魔法を使って風を上空に打ち上げるように発生させた。
そして、その影響で鈴亜は上空に吹き飛んだ。
「わ、わわああああああああ!!?」
鈴亜は全身をバタバタさせて、何とか体勢を取ろうとしている。
それを気にも留めずに、刀を抜いて刃がある方を地面に突き刺し、鞘の方を手に取り構える。
流石に刃がある方で攻撃をするのは、ダメだと思ったので、殺傷能力の少ないであろう鞘で攻撃をすることにした。
「あまいよ!!」
鈴亜は、炎の魔法を使って爆発を起こし、体勢を立て直した。
「は?」
何であの状態で体勢を立て直せるんだ?
更に爆発を利用してスピードを加速させつつ、私目掛けて炎の攻撃を何発も放った。
「このやろ……」
迫りくる炎を前に、私は自身の周辺に風を展開させて、鈴亜の炎を風と共に纏った。
「あぁっ……!!?」
火炎旋風のようなものに直撃した鈴亜は大の字になりながら吹き飛ばされる。
しかし、彼女は魔力を駆使して空を滞空した。
更に、腕から魔力で作られた剣を形成し私に斬りかかる。
よくよく考えてみれば、鈴亜って魔法使いにして遠中近距離すべてに対応できるのか……。
私は彼女の底知れぬポテンシャルに驚きつつも、全身から風をすべて放出する。
負けそうなので私は魔力を全て使って龍化を解除しようとしたが、彼女は私の旋風攻撃を魔力で象った剣で両断したのだ。
「んな……アホなああああ!!!!」
龍化が解除した私は叫び声をあげながら、ジャンピングダイブして攻撃を回避する。
「避けたわね!」
「そら避けるよ!」
仕方ない私は近くに転がっていた鞘を手にとって構える。
構えながら、チラリと焚き火の方を確認し、炎が消えていないことを確認した。
「行くしかない!!」
私は鈴亜に鞘を振り上げながら突っ走る。
彼女もそれに応じた。
鞘と魔力のや刃が交じり合う。
彼女のかなり力強い……。
魔法の影響か、何なのか分からんけど、見た目にしてかなり力を持っているようだ。
鍔迫り合いが続くなか、ジリジリと押される私。
このままでは負ける。
そう思った私は、ある賭けに出た。
一気に力を抜いて、そのまま背を小さくしゃがんで、鈴亜が体勢を崩した隙に焚き火の方に全力疾走して炎の魔術を得る。
この作戦を思い付いた。
上手くいくかは分からん。
やってみる価値はあると思う。
「(いくぞ……!!)」
私は一気に力を抜いて、しゃがみながら、斜めに飛び込む。
しかし、鈴亜は体勢を崩すことはなく、そのまま私の脇腹に足蹴りを食らわせた。
「えちょ!!???」
数年前に味わった痛みが脇腹に復活を遂げた。
私は少しだけ空を舞いながら地面に打ち付けられた。
割かし本気で蹴りやがったな……。
私は心の中でそう愚痴る。
「う……」
私は立ち上がろうとするが、目の前で鈴亜が剣をこちらに突き刺すような体勢でいた。
明らかなホールドアップである。
「負けた……」
私は膝をついてそう言った。
マフィーナの時もそうやったけど、強すぎる……。
かなりイカれてる強さだ。
「つ、つえええ……」
「龍輝もかなりいい線言ってるわよ?」
「お褒めにあずかり光栄でございまさーな……」
私は独特な言葉を口に出しながら、立ち上がる。
まぁ、分かりきってた勝敗ではあったが、ここまで強いと結構へこむな……。
『終わったかのー?』
ユイさんはふわふわと浮遊しながら、眠そうに言う。
それを見た私たちは、顔を見合って「寝よっか」と言った。
テントに入るまで、鈴亜が私の魔法について色々とアドバイスを頂いた。
言われたけどよく分からなかったから、次練習する時によく詳しく聞くことにしよう。
取り敢えず、寝よう……。
私達は大きなテントに入って寝袋を用意し、その中で眠りにつく。
明日はサントプト地方だ。
楽しみと不安がごっちゃになった気持ちを胸に、私は眠りについた。
続く
無事にサントプト地方にたどり着いたが……。
くっそ暑い……。
ガチの砂漠で笑えない。
ここから、賢者のナンチャラって場所にいくらしい。