暑いです。
非常に暑いです。
しかし、歩かないとどうにもならないので、隠者の居所と呼ばれる場所まで私達は歩き出しました。
グリムマギア地方を越え、私たちはサントプト地方へとやってきた。
自然豊かなソルジェス地方やグリムマギア地方とは逆に、サントプト地方はほぼ何もない砂漠であった。
砂漠……砂漠というか荒地かな?
隠者の道と言うらしいが、全然名前と違う。
ガチの砂漠。
マジでサボテンとか枯れた木とかがあるだけで、特徴と言える特徴はない。
そしてクソ暑い。
風が吹く度に熱気が顔や手、肌を晒している箇所に直撃する。
元々が汗かきな私は地獄と言える場所だ。
既に汗が肌からコップから溢れる水のように垂れ流している。
ダムの放流じゃないんだからさ……。
そして、汗臭くならないかと、心配になってくる。
是非ともモンスターでないでくれ。
こんなところで出てきたら、余計に汗かく……。
いま思えば東京スカイツリー並みのフラグを建てたと思う。
[襲えない狼はただの犬さ!!]
砂の中から何か飛び出してきた。
私たちは一斉に戦闘準備に入る。
私たちの前に現れたのは茶色い毛並みを持った狼だ。
[なぁ、そうだろぉ?]
狼が天に吠えると、砂中から次々と狼が姿を現したのだ。
ざっと20体ほどだろうか。
言った側からの戦闘開始である。
これが終わる頃には私の背中は汗にまみれているだろう。
私は心の中で落胆し、戦闘体勢に入った。
戦闘開始だ。
[犬か?狼か?お前はどっちだ?]
ボスであろう狼も仲間の狼に指示を出して、我々に襲いかかった。
しかし、私は真顔で砂を取り込んで、能力を使う。
私の姿が徐々に変化し、並み大抵の生物を遥かに凌駕する巨躯、全身に巨岩を纏った異様な姿へと変貌する。
更に、背部には岩塊に覆われた巨大な掌とも翼ともとれる器官があり、その姿は龍というよりは、古代遺跡の最奥に鎮座する巨神兵というべきだろう。
砂、土を吸収することで得る龍は地蹄龍アン・イシュワルダ。
その姿をみた狼たちは、恐怖の眼差しを向けて蜘蛛の子を散らすように逃げた。
「早速モンスター出てきたなー」
「サントプト地方のモンスターは縄張り意識が強くて、自分達の縄張りに侵入するものは誰であっても容赦しないからね」
「なーるほーどねー」
「でも、流石の"大いなる存在"さんには、勝てないと悟ったのか一目散に逃げたわね」
「せやな」
最早この姿になんの違和感も持たなくなった鈴亜とユイ。
まぁ確かに、いきなりこんな巨大なモンハンがいたら私だって逃げる。
しっかし……なぜここのモンスターたちは濃い台詞をはくのだろうか……。
そう考えたが、結局は何も出てこなかった。
もしかしたら、こちらの世界では常識なのかもしれない。
よく考えればここは異世界だ。
私の世界とは文化も何もかもが違う。だから、じゃないか?と思った。
「そういえば、ここからいつぐらいにサントプトつくの?」
「ここから五時間ぐらいかな?」
「なげえな」
「だから、早朝に出発しよう。って言ったの。夜だと面倒臭いし。砂漠しかないし、結構疲れるわよ」
「さよかー」
私は、それならとアン・イシュワルダのまま、歩き出すことにした。
しかし、歩き出した時、あることに気づいた。
テオ・テスカトルやネロミェールで感じたような翼の違和感はあったが、歩く時に感じた違和感はなかったのだ。 いや、訂正する。
後ろ足には絶妙な違和感はあったが、テオやネロ程ではない。
普通に歩ける。
「あれ、アン・イシュワルダ普通に歩けるぞ」
「マガラ骨格って人間で言うところの四つん這いの体勢とちょっと似てるから、歩けるんじゃない?」
「そういうこと?」
「しらないけど」
「まぁ、そういうことにしておこう」
私はアンイシュワルダになって歩き始める。
しかし、背中に妙な違和感を感じた。
「なんか、背中がもぞもぞするけど……」
「私乗ってるよー!」
『わしもー』
「なんで!?」
私はビックリして思わず声をあげる。
鈴亜は悪びれることもなく「このまま少しでも体力を温存しようかと」と言った。
ユイさんは、「面白そうだから」と。
まぁ、ええか。
身体を鍛えるにはちょうどエエやろう。
「さいでっか」
私はそう言って歩く。
ドスドスと鈍重な音を発てて、巨大な岩山が動いていた。
もちろん、縄張りとしているモンスターたちも古龍であるアン・イシュワルダの前では、指を咥えてみているしかなかった。
アン・イシュワルダになった影響からか暑さは一切感じなくなり、疲れもある程度解消された。
アン・イシュワルダのまま行けば五時間程度なら何とかなるのではないかと希望が見えてくる。
「アンイシュワルダに乗れるなんて夢にも思わなかったなー」
「私は自分がアンイシュワルダになって、他の人を背中に乗せて移動するとは、夢にも思わなかったよ」
「それもそうね」
ケタケタと背中で笑う鈴亜に、私も何故だか釣られて笑ってしまう。
その後、アン・イシュワルダのお陰もあり、私たちは問題なく隠者の道を越えることができた。
挙げ句、四時間も歩いたことで、アン・イシュワルダの形態にもちょっとだけ慣れてきたという特典つきだ。
背部の器官を動かすことは、まだまだダメだが……。
多分、今のところ古龍の中で一番アン・イシュワルダが使いこなせているかもしれない。
「隠者の道を抜けたー!」
「やっとかぁ……」
隠者の道を抜けた我々。
そして、そのさきには洞窟があり、私はこのまま入ろうかと思った。
おもったのだが、アン・イシュワルダの図体が巨大過ぎて入ることができず、仕方なく私は魔力を放出して人の姿に戻り、洞窟へと入った。
洞窟内は薄暗く、そして静寂だった。
しかし、その静寂を破る存在が現れる。
[グルングルングルングルン!!!]
バイクの真似でもしているのだろうか?
そんな声を上げながら、二、三匹の黒い犬がやってきたのだ。
しかもめっちゃリーゼント決めてるやつが……。
いやーもう嫌な予感。
あの宿屋のおっさんが頭に浮かび上がった。
[おい、にーちゃん肉出せや!!!]
リーダー角だろうか? 一際目立つリーゼントをしている犬がカツアゲみたいなことを言ってきた。
グルルルと歯を食い縛りながら威嚇する犬に、私たちは肉なんて持ってないよ?と素直に言った。
すると、犬は目を細めて近づいてくる。
[あ? あんだろうが……。肉出せや]
剣呑な表情で勝手に決めつけていい放つ様は、まさにチンピラである。
一歩一歩、舌を出して近寄ってきて、私たちは徐々に後ろへと下がった。
「誰こいつ」
「グレンドッグよ。面倒なやつに絡まれた……」
私の問いに鈴亜は心底うんざりしながら武器を構える。
私も刀を構えた。
[やんのか?]
[よえーくせに]
[噛み殺してやる!]
刀を出しても臆することなく余裕そうにする犬に鈴亜が先手を打つ。
「でや!!」
炎の魔法を唱えた。
犬の内部から大爆発し、犬は断末魔をあげることなく消滅した。
その光景に私は呆気にとられる。
「さすがやな」
「あんなやつ相手にしてるだけ無駄よ」
「そうやな……」
そのような会話をして、これといった散策はせずに隠者の居所に向かった。
サントプトへは必ずここを通らないと行けないらしいけど、それ隠者の居所じゃなくない?てか、もう地図にも書かれてるのに、隠者もくそもないやん。
洞窟を歩いているとき、そのようなことを心の中で考えていたが、あえて口には出さなかった。
「でも、なんで隠者の居所を通るんだろうね。隠者のしてないじゃん。龍輝もそう思わない?」
「まぁ、確かに、俺もいまそれ思ってたところ」
「でしょ?」
どうやら、鈴亜も私と同じようなことを思っていたようだ。
俺と鈴亜はユイさんのほうを振り向く。
それに気づいたユイさんは、その事について話し出した。
『そうじゃな、初めは邪悪大戦のときじゃ』
「ふむ」
『邪悪と全面戦争を行うとき、それを拒んだ人々がいたのじゃ。まぁ臆病者たちじゃの』
「ふむふむ」
『しかし、そのときはイクスの存亡をかけた戦い。逃げることなど許されるはずもなかった。その時に、そやつらが作ったのが、ここじゃ』
「ほう」
『戦いの中で、奴等はこの場所に穴を掘り洞窟を築き上げた』
「この洞窟、人工物なのかよ」
「は、はじめてしった」
この洞窟が人工的に作られたものだと知って私と鈴亜は驚いた。
『もちろん、戦いを終えた後も、彼らがこの場所から出ることはなかった。もし出たらどうなるか、なんてわかるじゃろうからのぅ』
「まぁ、せやな」
『素顔を知られては不味い彼らはローブを纏い、バレるのを防いだのじゃ。そして、この場所に住み着いた』
「なーる」
『時代が進むに連れて、この場所も皆に知れ渡り、いつの日か、この場所を隠者の居所と呼び、各地方の神官どもが、引退し隠居生活を送るための場所になった。ワシも今の大神官をやめたら隠者になるつもりじゃった』
「なかなか面白いな」
「そんな歴史があったなんて、知らなかったわ」
鈴亜も知らなかったらしく、凄い驚きつつ、話をきいていた。
私は1つ頭に浮かんだことを聞いてみる。
「ケミックさんも、大神官引退したらここに来るのかな?」
『絶対にない』
「だよな」
「あの人は、大神官やめたら地球連邦軍顔負けの艦隊作りそうなイメージがある」
鈴亜の一言に私は「なはははは!!」と爆笑してしまう。
確かに、あの人ならカイラム級やクラップ級をアホほど製造しそうだ。
鈴亜と私は話をしていると突如、奥から眩い光が見えてくる。
『じきにつくぞ』
「あれが隠者の居所?」
『そうじゃ』
我々は少し早歩きで居所へと向かった。
隠者の居所を向かうと、そこにはかなり大きい広間があった。
薄暗いが光るキノコやホタルのような虫を街灯代わりにしており、なんだろうか……すごい幻想的だ。
異世界の異界にきた感じである。
ポケモン剣盾でいうところのアラベスクタウンを彷彿とする場所だ。
そしてそこには、ユイさんのいった通り、ローブを身に纏った人々が闊歩して1つの都市のようだ。
ここを抜けるとサントプトなのだが、その前に少し休憩しようと鈴亜は言ったので、私たちはベンチらしいキノコの上に座り込んだ。
隠者の居所であるこの場所を見渡すが、まず薄暗い。
我々の世界でいうと、夏の逢魔が時だろうか、日が沈む瞬間の世界が青く染まる時、そんなレベルの薄暗さをしている。
周囲にホタルのような光る虫が大量にゆらゆらと揺らめき、光るキノコが街灯の代わりに立ち並ぶ。
それが光となっていて、上記にも述べたが非常に幻想的である。
「幻想的やな」
「そうねー」
「アラベスクタウンに似てない?」
「あ、それ私も思った」
『なんじゃそれは?』
「とある世界の街で、こんな雰囲気の場所があってね。その場所の名前がアラベスクタウンなの」
『それはすごいのぅ』
私たちは、休憩に雑談をしていると、黒いローブを纏った隠者と思われる人が、ゆっくりとこちらにやってくる。
その光景は、結構ホラーで心臓が喉から飛び出るほどに驚いた。
そして、「こっちに来なされ」と手招きをする。
私たちは、不審全開の状態で手招きする隠者に向かったのだ。
「怪しいな」
「ええ」
『大丈夫じゃ。きっと何かの依頼じゃろう』
「余裕だなおい」
びくびくしながら、隠者についていくと、一軒家の中にお邪魔することになった。
急展開に私はついていけなかったのだが、何とか脳をフル回転させて状況を整理した。
私たちを手招きしたローブの隠者はこういった。
「お主らは英雄じゃな?」
「あ、はい」
「そ、そうですけど」
いきなり喋ったので、少し驚いたが、嵐のように荒ぶる心を落ち着かせて、返事を返す。
「やはりそうか……。お主らに頼みたいことがあるのじゃ」
隠者は棚からあるものを取り出した。
「代々、受け継がれてきたこの魔物。ぜひ退治してはくれぬだろうか? ワタシの祖先が残した……。古来の大戦より受け継がれてきた災禍を……」
そう言いながら、棚から取り出した物を俺たちに見せてきた。
「わーお」
「……でたよ……」
『やはりな……』
それに私たちは眉唾を飲み込む。
隠者が持ってきた物は、見覚えがあったのだから……。
隠者持ってきた物。
それは……。
1つのとっくりだった。
続く
とっくり……。
これを見せてきたということは、言うこと一つだ。
アークヘイロスを討伐しろと。
まぁ、討伐しないとどうしようもないので、それを受けたのだけど……。
今度はどんなアークヘイロスに出会うのやら……。