そこは、自分の行きたかった世界とは少し違った場所だった。
ここはレインス・ヘイムスと呼ばれる国家。
極東の島国15個分もあろう巨大な国だ。
この国は科学技術力の発展が目覚ましく、その科学を用いて栄光を築いた大国である。
そして、自室のレイアウトのために家具を追い求め、悲運にも朱雀龍輝は、この地に降り立った。
「なにここ……」
扉を開けると、大きな街に出たのだが、未来的な街過ぎて戸惑ってしまう。
「絶対行く場所間違えたやろ……」
『す、すまん……』
私は肩をガックリと落とした。
着いてきたのか、輪廻の邪悪は頭を下げて謝った。
しっかし、邪悪というわりには腰低いなぁ……。
『戻る?』
「いんにゃ、面白そうやから、少しだけ探索してから帰る」
『そか』
私は適当にこの街を見て回ろうと決めた。
しかし、ここは本当に凄いところだ。
建ち並ぶ超巨大な高層ビルに、その周辺を飛び交う車のような乗り物。
私のいた世界とは、比較できない程に卓越した科学を持っている世界に来たと全身で感じ取った。
行き交う人々の姿はあまり、変わらないが、服装が未来的なファッションをしており、青いジーンズに深緑Tシャツのラフすぎる格好の私がかなり浮いていた。
人々も私の服装が気になっていたのか、ジロジロと見ていた。
『おい、かなり目立ってるで、帰ったほうがええんとちゃうか?』
「中学の頃に似たようなことあったから慣れてるよ」
『おめえ、なんかスゲーナ』
「ありがと」
他愛ない会話をしながら歩いていると、突然一人の女の子とぶつかってしまった。
「あ」
「のわ!?」
よそ見をしていた私は、バランスを崩して尻餅をついた。
「え、っと……。ごめん。大丈夫?」
「ああ、大丈夫や。そちらこそケガはないですか?」
そういって立ち上がる。
女の子は心配そうにこちらを見ていた。
物静かな雰囲気をする少女、よく見ると白銀のロングヘアーをしていて凄く可愛い女の子だ。
そして、両目に縦に続く一本の傷と左目が深紅に煌めく不気味な義眼らしきものをしていた。
「私はないよ」
「ならよかった」
よほど、私の容姿が珍しいのだろう。
女の子は興味津々に私を見つめていた。
「不思議な人だね」
「そう見えますか?」
「うん。みんなと違う」
「そうですか」
「なんて名前?」
「えーと、私は朱雀龍輝です。えーと……」
「私は、フル・SNJ・ZT9よ」
「え?」
「なに?」
私の驚きと唖然とする言葉に、フルはキョトンと首を傾げた。
私はもう一度名前を聞き返すも、返ってくる言葉は先と同じであった。
その歪な名前に私は眉を潜める。
「フルっていうのか、よろしく」
しかし、私はそれ以上の事は追及せずに、とりあえず挨拶をすることにした。
余計な詮索をして相手の機嫌を損ねては、後々面倒だと脳裏を過ったのだ。
すると、フルもよろしくと頭を下げた。
頭を下げた時にサラサラとした灰銀の髪が目に入る。
「タツキだっけ? どこから来たの?」
「えーと、まぁちょっとね……」
別の次元から来たなんて言っても、信じてもらえそうになかったから、私は適当にはぐらかした。
フルはフーンとジトーっとした目で私を凝視していた。
灰色と深藍色のツートンカラーのセーラー服らしき衣装を着ているフルを見て、私は某機動戦士に登場するとあるMSを連想した。
「そうなんだ」
フルはポツリとそう呟いた。
半信半疑……なのだろうか……。
これ以上、黙っていては色々と危ういと感じた私は直ぐ様、ここから立ち去ろうとした。
しかし、そう上手くはいかなかった。
「フルどうしたの?」
「もうすぐしたら演習の時間だぜー?」
「早く帰ろー?」
「……」
4人の女の子が近づいてくる。
フルは女の子たちの方を見て手を振った。
その4人の女の子も私の服装を見て不思議そうに凝視する。
蛇に睨まれた蛙のように硬直する私。
「お前変わった服着てるなー」
「そ、そうですかね?」
「うん、とっても不思議な格好」
「ふむ……魅力的だね」
「面白い格好ねー」
女の子は口々にそう言った。
「スザク・タツキさんって言うらしいよ」
フルがそう言うと、4人の女の子たちは、これまた珍しい名前なのか関心そうにこちらを見つめる。
「スザク・タツキ? 変わった名前だな!」
「この国ではあまり聞かない名前ね」
「不思議な人だね」
「どこから来たの?」
黄色いセーラー服のような衣装に身をつつむ女の子に訊かれて、私は焦る。
「……まぁ、めっちゃ遠いところから」
私は苦し紛れにはぐらかす。
やばい、こういう時、どうやって対処すりゃあええかわからん。
「おい、もうすぐしたら演習が始まる!! 戻ろうぜ!!」
「あ、本当だ!」
「また怒られるね」
「じゃあ、タツキさんまたね!」
4人の女の子は慌ただしく走り出した。
まぁ、何事もなくてよかった。
「ねー」
「はい?」
しかし、フルは走り出す4人を無視しては私に話しかけてきた。
「また、遠いところから来たって話教えてよ」
「ん? あ、あぁ」
「明日もここにくる?」
「わ、わからん」
「もし、ここに来れたら、お話しよ?」
「わ、わかった……」
「じゃーね!」
フルはそう言うと、純粋な笑みを浮かべて4人の女の子たちの元へと走っていった。
『おい、龍輝はん?』
「はぁい?」
ジトーとした声で輪廻の邪悪は言う。
私は力が抜けた喋り方で輪廻の邪悪の方を向く。
『どーすんねん……。そんな約束してよかったんか?』
「……やっちまったな……」
私はまた肩をガックリと落とした。
なんて、こった……。その場凌ぎとはいえ、ある意味とんでもない約束をしてしまった。
「なー、ここってかなり科学すすんでそうやん?」
『ああ、それがどうしたん?』
「ワンチャン、別の次元から来たって言っても信じてくれそうじゃない?」
『希望的観測?』
「うるせーわ」
『取り敢えず、どうするよ?』
「帰る」
『明日のことは?』
「……行くしかないやろ……」
『ほう』
「いやだって約束したし、破ったらバチ当たりそうやし……」
『律儀やなぁ。まぁ気持ちはわかる。悪いことはできんよな』
「それより、帰るにはどうしたらええの?」
『ああ、念じればええねん』
「念じる?」
『帰るって念じれば扉が出現するから』
「あー、わかった」
私は人のいない路地裏のような場所に向かい、帰りたいと念じた。
すると、何もない場所から扉が現れた。
私はその扉のノブを回して扉をあけ、自分の家へと戻った。
家に戻ると、フィーナさんが昼食を用意してるところだ。
「お手伝いしましょうか?」
私はフィーナさんに少しだけ近づいて、そう訊ねた。
「ありがとう! じゃあ、キッチンに置いてある昼食を持ってきてー!」
「りょーかいです」
私はフィーナさんに言われた通り、キッチンにある、大量の食器が置かれていた大きなお盆を持って、大広間へゆっくりと向かった。
闇英雄全員が集まって食事を始める。
私は明日のことを考えながら食べていた。
「龍輝さん。何か考え事ですか?」
「え? あぁ、はい。まぁ」
「能力のこと? あまり気にしないほうがいいわよ。アタシだって能力を開花させるの苦労したものぉー」
コイール姉さんが私に気を使って慰めているが別にそのことじゃあないんだ。
「ファンギルは意外と早く体得できたよね」
「んー? そうだな。そういうフィーナも早く得られたじゃねーか」
「ファンギル君はシンプルな精神構造だから早く体得できたっしょ?」
「んだとソナッチてめえ今俺をバカにしただろ!!?」
テーブルに足を乗せて、ソナッチの方にフォークを向けながらファンギルはキレた。
「お黙りファンギル!! 行儀が悪い!!!」
「うっ……」
コイールの剣幕に圧倒されて水をやり過ぎた花のように萎れた。
ソナッチは、してやったりの表情をしているが、フィーナのゴミを見るような視線に気付き、ファンギル共々意気消沈する。
「あの、別に能力のことじゃなくてですね、ちょっとしたことですので」
「何か困った事があったら言ってね? お姉さんが教えてあげるから」
「あ、はい。ありがとうございます」
「悩みとか一人で解決しちゃダメよ? アタシたちに相談しなさいね?」
「はい。別にそういったことではないので、大丈夫です」
「そう? ならよかったわ。困った事があったら一人で抱え込まず、相談しなさい?」
「はい」
オカマ口調で話すコイール姉さんだが、めっちゃ頼りになる発言に私は感動して涙が溢れそうになる。
私は目を瞑りながら、昼食をムシャムシャとガッツいた。
正直、どんな飯だったかなんて全く覚えていない。
味よりも感動のほうが勝っていた。
「ごちそうさまでした」
私はそう言って、自室に戻ろう考えたが、適当にこの世界を見て回ろうと考えた。
昨日はタイミングの悪いところで風呂が沸いたから、見て回ることができなかった。
今日こそ、この世界を見て回るとしよう!!
私は意気揚々と外へと飛び出した。
飛び出した直後、
私の目の前で二人の男が戦いをおっ始めていた。
「クソナッチてめえさっきはよくもやってくれたなああああああ!!!」
「僕は本当のこといっただけっしょー!」
炎の拳やリズミカルに弾む音符のようなエネルギー弾が飛び交う最中、私はそっと扉を閉めた。
今日はやめておこう。
うん。
あの空間にいるのは危ない。
そう感じた私は回れ右をして自室へと戻った。
「もー、なんつータイミングの悪さ……」
自室で大の字になって寝っ転がる。
この殺風景の部屋をどうにかしたいが、正直もう行く気力が起きなかった。
「どうしたもんかねー」
私はスマートフォンを取り出してとあるゲームをやろうとしたが、電波が通ってなくて断念。
「よく考えてみれば、色々な世界に行けるってことは、この世界にも行くことが可能な訳か……」
そう言って、私はとあるくノ一のアプリアイコンを見ながら呟く。
「今度行ってみようか……。是が非でも……」
仮に行けたとしても、今行ったところで自分はお荷物的存在にしかならないと感じた私は、力をつけていつか必ず行くことを心に決めて、スマートフォンをリュックサックの中に入れた。
いつか……行きたいな……。
絶対に……。
「……」
目を閉じて心の中で決意をしていると、いつの間にか眠りについた。
「ん? ここは?」
目を覚ますと、私は自室にいることなく、不思議な空間にいた。
辺りを見渡すけど、そこには何もない。
雨が振り注ぎ、雷が絶え間なく落ちている。
『……タツ……キ……』
そう声が聞こえ、声のした方を振り返る。
するとそこには輪廻の邪悪や他の邪悪たちがいた。
ヤバい、輪廻の邪悪と純潔の邪悪以外の名前忘れちまった。
もし、これが仮に夢だとして、目を覚ましたら、もっかい各々の邪悪の名前聞こう。
『タツキ……』
「輪廻の邪悪どうした?」
私は輪廻の邪悪の方に近づいた。
すると突然、輪廻の邪悪が苦しみもがきだした。
それに呼応するかのように、他の邪悪たちも発狂に近い悲鳴を上げた。
「え? ちょっとどうした!?」
私は若干パニックになりながも、邪悪たちに近寄る。
すると、突然邪悪たちが2つに分裂を始めた。
それはあまりにもおぞましい光景だった。
肉を裂くような音に、ドス黒い体液のような液体を撒き散らしながら、分裂していったのだ。
私は呆気にとられて、一歩うしろに下がってしまう。
そうして、2つに分裂をした邪悪たち。
片方は普通の黒い邪悪たちだ。
片方は、黒いという次元を超えた、言うならベンタブラックに近い、光すらも吸収する本物の闇のような邪悪たちだ。
「なに……これ?」
私は恐怖で全身が震えるなか、普通の黒い邪悪たちが私に向かって叫ぶ。
『龍輝にげろおおおおおおおお!!!!!』
「え!?」
『早く遠くに!!!!!』
そう叫んだ邪悪たちは、もう片方の不気味に笑う邪悪によって引き裂かれた。
「お、おい……!!!」
そして、邪悪を裂き殺した、邪悪たちは私の方を一斉に見つめる。
私は脳よりも身体のほうが先に反応し、全力で逃げた。
あの邪悪たちはヤバい。
私たちを支配した邪悪たちとは違う。
うまく言い表せないが、本当にヤバい。
私は恐怖で半泣きになりながら、全力で走る。
「(これは夢だ。これは夢だこれは夢だ。これは夢、これは夢、これは夢これは夢!!!!!)」
心の中で、そう自分に言い聞かせながら、ガムシャラに走る。
後ろから、グチョグチョと気持ちの悪い音や、不気味な笑い声を発てながら追いかけてきている。
「あっ!!?」
自分の限界を超える走りをしたせいで、身体が追い付かなくなり、足が縺れて盛大に転倒した。
「ぐぅ……!!!!!」
私は地面に倒れ伏した。
足に痛みが走る。
邪悪たちはさらにスピードを上げて私に襲いかかってきた。
「死ぬ……!!」
夢だとしても直感的に感じた感情。
私は涙を流しながら目を瞑り、腕で顔を隠した。
『ギヤアアアアアア!!!』
しかし、聴こえてきたのは邪悪の悲鳴。
私は恐る恐る目を覚ますと、そこにいたのは……。
「龍輝夜ご飯!!!」
「え?」
フィーナに叩き起こされた私は飛び起きる。
私は辺りを見回す。
そこは殺風景な自室にエプロン姿のフィーナがいた。
「大丈夫? なんかすごい魘されてたよ?」
「……夢やったんか……よかった……」
全身は汗まみれで服が湿っていた。
2019年の8月上旬、スパルタ教師に怒られながら無理矢理校庭10周走った学生みたいに汗が溢れていた。
「なんか嫌な夢でもみたの?」
「あ、あぁ、すごい怖い夢やったわ……」
「そう、夜ご飯できてるけど、どうする?」
「もちろん食べるよ」
私は立ち上がってフィーナと共に部屋を出た。
大広間に入った私に他の闇英雄たちは唖然とする。
「おい龍輝、その汗の量はなんだよ」
何故か爆笑するファンギル。
ソナッチは「池にでも落ちた?」と真顔で訊いてくる。
「いや、なんかすごい怖い夢を見てな」
私はさっき見た怖い夢を皆に喋った。
邪悪の分裂。
分裂した邪悪がもう1つの邪悪を裂き殺したこと。
それらが追いかけてきたこと。
そして、最後の邪悪から私を守った存在。
「きっと、極度の緊張なのよ。闇英雄になったことで、環境が劇的に変わって、自分でも知らないところでストレスを抱え込んで、そんな夢を見たんじゃないかしら?」
コイールは真剣な表情で分析する。
「可愛そうに、今日はお姉さんと寝る?」
「あ、それは結構です」
「あら、残念。でも、本当に怖くなったらいつでも言ってね? お姉さんが助けてあげるから」
「そ、それはどうも」
「まぁ、その話は後でにして、早く夕食食べよう!」
フィーナの言葉に全員が同意をして、夕食を食べ始めた。
因みに献立の方は、マグロやサーモンのお刺身に味噌汁、佃煮、ご飯、なんか見たことない青いフルーツ。
それら5点だ。
皆美味しい美味しいと笑顔で口に頬張る。
私はフィーナが作ってくれた夕食を食べながら夢で見た最後の光景を思い出した。
私を守ってくれた存在。
それらは、私がよく知っていたとある狩りゲーに登場する古龍種と呼ばれる分類に属するモンスターだった。
それらの13体の古龍種たち。
炎王龍、溟龍、雷極龍、風翔龍、冰龍、霞龍、天彗龍、冥晶龍、天廻龍他数名。
それらが迫る邪悪を押し退けて、私を守ってくれた。
しかし、何で守ってくれた存在があの13体なんだろうか。
確かにアイツら結構好きだけどさ。
それが疑問でしかなかった。
コイールの言う通り、劇的な環境の変化によるストレスで、こんなインフルエンザにかかったときにみるカオスな夢を見たのだろうと。
まぁ、そう言うことにしておこうと、私は自分自身に言い聞かせ、ご飯を食べた。
レインス・ヘイムスから遥か遠く離れた国、その国にある格納庫の高架通路では、白衣を着てタブレット端末を手に持つ科学者の風貌をしている男と、強面の大柄の男がいた。
「調整が終わったようだな」
「ええ、この機械人形に搭載されてあるサイコミュシステム001の調整は完了しました」
「ふむ」
「あとは、実戦での稼働のみとなっています」
「本当に大丈夫なんだろうな?」
「ええ、このサイコミュというシステムは……」
科学者は、この機械人形に搭載されてあるシステムについて説明をする。
その説明に男はコクリコクリと頷く。
「ふむ。なるほどな……」
「それに、非常事態用の自爆システムを備えておりますので、いざとなれば……」
「そうか」
科学者の言葉に、男は目の前にある巨大な何かを見つめ、不気味な笑みを浮かべる。
男と科学者の目の前に置かれたモノ、それは巨神兵のような1つの機械人形だった。
長い手足や大きくくびれた腰部、背部に備えられた巨大な翼などから構成される独特なフォルムを持っており、異形かつ見るものを圧倒する威圧感を放っている。
この機械人形は数年前に突如、空から異次元の扉が開かれて、現れた存在。
その国の研究者や技術者たちは、それを回収し、機体名をタイタンと名付けて研究をしていた。
「よし、ならば実戦テストを行うとしよう。用意はできているな?」
「ええ。相手となる無人兵器の配備も万全です」
「このテストが良好なら、直ぐにでも近隣諸国を占領することができそうだ」
科学者はタブレット端末から起動コードを入力する。
すると、ブゥオン!!と タイタンと名付けられた機械人形の不気味な目が血のような赤い光を発して起動する。
その姿をみた男は不敵な笑みを浮かべる。
だが、彼らは知らなかった。
この機械人形の本当の恐ろしさを……。
これから起こる災厄を……。
続く
おい、ちょっと待て、なんでコイツがここにおるの?