東方想転叶   作:楽園の主

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第1話 ─変動、邂逅─

願いが叶うとしたら何を願うか。

そんな話は人の道を歩くなら誰でもする。

人それぞれの、様々な願いがあるだろう。

なぜ願うか。簡単には叶わないか、そもそも叶うはずがないからである。

でも、その願いが突然叶うとしたら?

これは、そんな物語。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(今日も疲れたな。)

 

夜の帳が落ちた頃、自室のベッドに手足を投げ出して天井をぼーっと見つめる男が1人、ここにいた。

特に皆に自慢できる訳でもない大学に通い、実家に住みながら普通の大学人生を送り、普通に年齢を重ねていく。

そんな生活をしていた。

今日も今日とて、いつも通りの"普通"が過ぎようとしていた。

そばにあるスマートフォンで大学の人や友人に返事を送り、さて今から寝るまで何をしようか、といったところだ。

時計の針は11を指していたので、寝てしまうのもありだな、と思いつつぐっ、と体を伸ばしたあと、ふと窓の外を見上げる。

 

(今日の月はなにか妙だ。)

 

いつも見なれたそれよりも金のような色をした月がやけに強い光を放ちながらそこにあったのだ。

星やら衛星やらに詳しくはないが、素人目にふと見ただけで分かるあたり、かなり眩しく見えているのだろうか。

それを直接見て、不快そうに顔を顰める。

 

(……まぁ、かと言って何が起きるでもないだろうけどさ。)

 

興味を失ったようにふい、と目線を外し、ベッドに手足を投げ出して寝転んだ。

疲れたし、と。今日は眠ることにしたようだった。

 

(なにか、劇的なことでも起きないかな……。)

 

最後にふとそんなことを考え、目を閉じ、ゆっくりと呼吸していると意識はだんだんと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……んん。」

 

顔に何がちらちらと当たり、目を覚ました。風がそよそよと髪を撫でる。

先程を自身を起こしたのは自分の髪が顔に当たっていたからか、と納得した後、何かに寄りかかって眠っていた体を起こした。

体に受ける違和感は寝ぼけているからだろうか、はたまた座って寝ていたからだろうか。

ぐっ、と延びをしたあと周囲を見渡すと、慣れ親しんだ部屋ではないことがわかった。

 

(あれ……。)

 

一瞬自身の視覚を疑う光景。ここは部屋ですらなかった。外だった。

自身はそこで、1人眠っていたと言うことがわかった。

地の隆起によってそこそこ高い段差ができており、そこを寄りかかるか、背にして眠っていたようだ。

それはおかしい、と思って立ち上がったその時。

かかるはずがない場所に重力を感じた。

 

「……は?」

 

胸部である。そこには膨らんだ胸があった。

さておかしい。眉間を抑えながらそれに触れ、幻覚でないことが分かる。

また、股間にも手を持っていくが、そこに自身が生涯を共にするはずの相棒すらもいなかった。

 

「う、嘘だろう?……えぇ……?」

 

その後、体の各所を触れて確認する。

骨格ももちろん女性になっていたし、髪も男性らしい短髪から一転、肩ほどまでと長くなっていた。

肌も元よりきめ細かく、すべすべになっていたし、体も柔らかくなっていた。

服装はといえば袖が手を隠すほど長いパーカーに、中はVネックのTシャツ。

カーゴパンツにニーハイソックス、靴はスニーカーと言った具合だ。

上下共に白や黒のみで統一されている。

自身に本来ならあるはずのない膨らんだ胸は、サラシに包まれていた。

 

「……意味がわからない。」

 

何故こんな体なのか、ということもさることながらここにいる訳もわからない。

とりあえず、とまずは外の様子を伺うことにした。

見渡す限りの草花と木々、踏みならされたような道。

少なくとも街中でないことは確かで、田舎中の田舎のどこかの道らしき場所に見えた。

その光景にまともな言葉が出ない彼女。

踏みならされたような道があるとは言うもののその先に村や街らしきものは見えない。

つまりは遠いと予測でき、歩いていくのは骨が折れそうだ、と思える。

さて、自分は何故ここにいるのか、と考えようとしたその時だった。

 

─ガサッ……─

「!!」

 

草むらからそんな音がした。目を向けてみればそこには巨大なネズミのような生き物がいた。

大きさにして全長1mはあるだろうかというサイズ。

小型の犬よりも大きなそれはまるでこちらが小さくなってしまったのかと勘違いしそうになるほどだ。

草の影から怪しく光る目は、こちらを向いており、その目線はまさに獲物を見る目だった。

 

(待て待て現実的にないでしょそのサイズ!)

 

そんなことを考えているうちに、ネズミのようなそれは飛びかかってくる。

振り上げられた手には長さにして30cm以上はあろうかという大きな爪。まともに引き裂かれては終わりだ。

とにかく避けなければ。そう思い、彼女はバックステップで避けようと体を動かす。

 

(あっ、ぶない!!)

 

それが功を奏したかギリギリ回避はできた。

しかし、ネズミのようなそれは着地後、直ぐに飛び上がりながら爪で引き裂かんと再び彼女へ攻撃を続けた。

初撃は回避出来たものの体勢も崩れている上に至近距離。そもそも回避すら出来そうになかった。

出来たことは体を守るように腕を動かし、目をぎゅっと閉じながら顔を背けることだけだった。

終わった。そう思ったその時だった。

 

─ガキィン!!─

「えっ?」

 

迫り来る爪。それと自身の体の間には青白く、五角形の障壁のようなものがあった。

バチバチという音を立てながら爪を受け止めており、次の瞬間にはそれを弾いてネズミのようなそれの体勢を崩させた。

 

(よくわからないけどチャンス!)

 

そう思い、振り返って走り出そうとした。

しかしネズミのようなそれの体は身軽で、崩された体を即座に立て直し、爪による素早い一撃で彼女の片足を引き裂いた。

 

「うぐっ……ああ゙……!」

 

様々な非現実がありすぎて夢ではないかと少し疑っていたが、切り裂かれた足の感覚は現実だと強く告げていた。

痛みは度がすぎれば熱くと感じるとは本当のことなのか、なんてことを考えながら焦って体を起こし、ネズミのようなそれの方を向く。

 

「キィキチキチキキィ…」

「くっ……!!」

 

それは目の前に、いた。

終わりだ、と言わんばかりに大きく口を開き、飛びかかってくる。

逃げようにも、片足は切り裂かれて使い物にならない。

立ち上がれそうにもない以上逃げることは出来ない。

防御もどう出したかも不明な上に原理も不明、頼りには出来ない。

ならば、と彼女はダメージを受けていない足で相手を迎撃するか、たたき落とすか。

どうにかしようと必死で体を動かす。

相手を迎撃するのは生身では得策ではない。ならば相手の体を攻撃して怯ませるしかない。

それにあたって力がいる、ならば足を使う。

足を使って攻撃するには。蹴りあげるなら、たたき落とすなら。

総合して、どう動くか。

 

「ッ!!」

 

体をぐっと丸めて袖に包まれた掌を地につけ、足を天に向ける。

動いた瞬間、足に激痛が走る。しかし、関係はなかった。

とにかく体を、一瞬だけでも動かさなければ。

突然体を丸くさせた結果か、彼女は飛びかかってくるネズミのようなそれの下に潜り込むことになった。

その瞬間、彼女はぐっと体を延ばす。

 

─ゴキッ─

「ギィイ!?」

 

彼女の体勢は逆立ち。勢いよく伸ばされた足での蹴り上げだった。

勢いが良すぎて少し手が地から離れ、一瞬体が浮いた程だ。

宙に浮いたネズミのようなそれでは回避することは出来ず、まともに顎に当たった。

そのままダメージのない足を地につけ、上体を起こす。

片足は使い物にならないものの立つだけなら片足でもできる。

ダメージの受けていない足を地につけ、立ってネズミのようなそれの方を向く。

すると。

 

「キィ」「キキキ」「キィ」「キィィ」

─ザザザザザザ─

 

大きかったネズミのようなそれの体。

それがバラバラに崩れていったかと思えばその一つ一つがネズミだった。

どうやら群体のそれが組み合わさって1匹の大きなネズミのようになっていた、という訳だ。

何にせよ、倒すことはできずとも驚かせて引かせることは出来たようである。

 

(体が小さいことをそのような手段でカバーするとは……。)

 

ネズミでこれというのは今まで見たことも無い生態だ。

先程出せた障壁、謎のネズミ、見知らぬ場所。

異様なこと続きで疲れてしまいそうだった。

しかし、今の彼女にそれを考えている暇はない。

 

(血、止めないと……。)

 

もう既にかなりの血を失い、頭が少しクラクラしていた。

何とかして傷を塞いで血を止めなければならない。

しかしぱっくりと開いたその傷を塞ぐための糸と針もなければ止血剤もない。

どうしたらいいのか。とりあえずどの程度の傷か見るために傷口を目を向ける。

すると、驚愕の光景がそこにあった。

 

(塞がっている……?)

 

傷が跡形もなく消えていたのだ。まるで初めからそこになかったかのように。

本当に怪我をしたのか?と疑いたくなるほどだ。

しかし、ふら、とふらつくことから血は失っていることがわかるため、やはり傷は負ったのだろう。

しかしながらその傷は完全に回復しており、失血による死亡はもうないと考えられる。

 

(……よくわかんないけど、助かった。)

 

疑問に思う節は山ほどあるが、とにかく助かったのならそれはそれでよし。

袖に着いた土を払いながら、ふぅ、と。安堵の溜息を吐いた。

 

(さっきの障壁……一体あの力はなんだ?)

 

そんなことを考えながら手を虚空に向けてみる。

出るはずもない、なんて考えながらだ。

その考えは正しいようで、目の前の様子はしん、と静寂に覆われていた。

 

(こんな感じの……。)

 

ただ向けるだけではダメなのか、と考えて何となくイメージをしながら適当に力を込めてみる。

今までただの人間として生きてきた以上、魔力や気などの概念など感じたことはない。

なので期待もせず、適当に力を込めてみただけ。

しかし、突然それは起きた。

 

─バシュッ─

「ぅわっ!?」

 

障壁と言えるものではなかったが青白い波導のようなものが小さく広がった。

出るはずもないと考えていたせいか酷く驚いた彼女。

どうやら未知の力が目覚めたようである。

驚きつつも、出ることがわかったのなら、と今度はイメージを強く思い浮かべる。

 

(光の弾、みたいな感じの……。)

 

イメージしてから、一瞬強く力を込める。

すると、そのイメージの通りに白色の弾が真っ直ぐ飛んで行き、直線上にあった小さな岩を砕いた。

 

「……ははは……。」

 

驚いたせいか乾いた笑いが口から漏れてでた。

そんなまさか、と思いながら色々なことを試してみる。

先程のように障壁を出してみたり、気弾を出してみたり、未知の力を固めて武器や盾を作ってみたり。様々なことを試した。

それら全てが出来た。

 

「……嘘じゃ、ないみたいだな。」

 

自分の手を見つめつつ、そう呟いた。見ているそれは、見慣れた手ではなかったが。

いろいろ考えを巡らせていたその時、後ろからグルル、と犬の唸り声のようなものが聞こえた。

そこにいたのは声の通り、犬のような生き物だ。

口を開き、二股に分かれた舌を出しながら息を荒らげている。

その口からは涎がダラダラと出ていることを見るに、空腹なのだろう。

そのままこちらへ、にじり寄ってくる。

 

(……いい機会だ、試してみよう。)

 

少々恐怖を感じているものの、未知の力を試してみることにした。

まずは牽制を、と。彼女の手から白い光が赤い光を纏い、高速で放たれる。要はレーザーだ。

犬のような生き物は回避し損ね、体の側面を沿うようにレーザーに焼かれる。

しかし、焼かれつつも彼女へと飛びかかった。

首を一撃で仕留めるつもりだろう、大きな口を開き、牙を向いて彼女の首へ一直線に向かっていく。

 

(怖い───けど!)

 

ぱっと右腕を横に振るうと、彼女の周囲に円柱状で、黄色に淡く光る障壁を発生させる。

犬のような生き物はそれに阻まれ、ゴン、という音を立てて障壁にぶつかり、空中で一瞬静止する。

その瞬間に左手を開き、前に突き出す。

すると、そこには爆発が起きた。

炎を上げるわけではなく、未知の力が爆発を起こしたのだ。

それはまるで、魔法のようだった。

 

「ギャウン!」

 

声を上げながら宙を舞う犬のような生き物。

彼女はすかさず、追い打ちをかける。

宙を舞うそれに向けて、右手を開いて向け、左手はその手を掴んで補助をする。

そして。

 

「撃ち抜くッ!」

 

先ほどよりも大きめのレーザーは正確に対象を貫いた。

レーザーが先程よりも大きいからか、それとも相手の体が小さいからか、貫いてはいたがまるで身を抉られているかのようになっていた。

そのまま落下し、地に落ちるかと思いきや空中で灰のように粒子状になり、風に乗って跡形もなく消えた。

妙な力を使えてる以上驚きも少なかったが、普通の生き物ではなく超常的な何かだったのだろう。

まぁそのような力を使うことが出来ているのだ、ありえない話では無いと感じた。

 

「……ふぅ。」

 

息をつきながら緊張した体の力を少し抜く。

即興だったが未知の力は十分に使えた。攻撃も、防御も。

 

(これなら死なないことは出来るかもしれない。)

 

彼女は慢心するつもりはもちろんなかった。

しかしこの未知の力が多方面に利用できることを考えると、外的要因から致命的なダメージをうけることを回避出来る可能性がある。

鍛錬次第かもしれないが、移動系の技も使えるようになれば圧倒的な力を持つ強敵から逃げることもできるようになるかもしれない。

 

(まずは、この力を使いこなすこと。そこも大切だけどまずは食料と水の確保、加えて人里を見つけること。そこからか。)

 

強力な未知の力を使えると分かったからだろうか、先ほどよりも冷静にものを考えることが出来ていた。

踏みならされた道を歩きながら、未知の力で思いついたことを試行する。

長い道のりも、未知の力を鍛錬できると思えば苦にならない。

歩く。歩く。歩く。天高く登っていた日が傾き、沈む。

 

「……そう簡単にはいかないか。」

 

立ち止まり、ふぅとため息を吐き、そう呟く。

人がいそうなところが全く見当たらなかったのだ。

それどころかすれ違いすらしない。

 

(仕方ない、野宿だ。)

 

暗くなり始めた空を見上げながらそう考える。

せめて火でも焚こうと周囲の木の枝を集め始め、地において組む。

ついでに落ちた葉なども加え、燃えやすいように。

もちろん、辺りに燃え広がらないように草木が少ない場所を選んでいた。

 

(……できるかな。)

 

立ち上がり、すっ、と掌を軽くそれへと向ける。

しん、と静寂が辺りを包んだかと思えばボッ、と突然それに火がついた。

篝火である。

 

「よし、出来た。」

 

彼女自身も詳しく仕組みを分かってはいないが、イメージ通りに火はついたようだった。

近くに座り、ふぅ、とため息を吐いた。

そんな時、ふと。感じたことがあった。

 

(空腹や喉の乾きは感じるものの、体の調子に変化がない。それに、疲れに至ってはほとんど感じない。)

 

普通、飢餓状態や水分を欠いた状態だと、それに応じた症状が出るのだが彼女の身には全く起きていなかった。

空腹、喉の乾きは感じるとは考えたものの、それも欲しているだけで、食べなければならないといった程ではなかった。

例えるなら小腹がすいてなにか口にしたいな、と軽く思う程度のものだった。

それに加え、体感で半日ほど歩いた気がするが、全く疲れていない。

休憩を挟んだということも無く、常人、そして以前の自分ならありえない事だ。

 

(それはまぁ未知の力がどうこうの話なんだろうな。)

 

あんな力を使えた手前、変な事で考え込んでも答えは見えないのは分かっていた。

なので彼女は深く考えることをやめた。

 

(しかし……なぁ。)

 

歩いている時に際立つのが体の違和感だ。

股間にあるはずのそれが突然なくなり、胸が大きくなったのだ。

股間のそれに関しては違和感を感じるものの邪魔なものがなくていいか、と楽観視できていた。

が、胸に関してはいつもより重心が違う分様々な動作で違和感を感じるのだ。

 

(まぁ、そろそろ慣れてきたがな。)

 

慣れとは恐ろしいもので、だんだんと違和感がなくなり、生来の体のようになりつつあった。

まるで、以前の自分を失い、今の体になる。

自分が自分でなくなるような。そんな感覚だった。

 

(……失って悔いるような自分なんていなかったけどね。)

 

自嘲気味に、少し笑った。

その後、ふと、思いついた。

彼女が着用している左足のニーハイソックス、及びカーゴパンツの左下側は先程の攻防で切り裂かれ、それに伴いそれらや靴は血で汚れていた。

 

(もしかしたら血に反応する生物もいるかもしれない。血の匂いで何かが来ても困る)

 

どうにか洗い流せないだろうか。そんなことを考えた。

幸い近くに川があったためそれで洗い流すことにした。

 

(ボロボロだけど、裸足で歩きたくはないし…)

 

替えのズボンや靴などがあるなら今すぐ捨てて新しいものを着用するのだが、換えはない。

仕方なく川に足をつけ、血を洗い流したあと着用したまま過ごすことにした。

 

(ニーハイなんて特に1度脱ぐと履けそうにないな。)

 

濡れた衣服を篝火の炎と未知の力による熱で乾かしていく。

 

(眠くないな……。)

 

乾かす作業を続けながらそんなことを考える。

夜になったのならば休む、寝る。

そんな生活が体に染み付いていた過去は夜になれば相応に疲れていたし眠くもなった。

だが今は何故か眠くもなければ疲れてもいない。

寝付けそうにもないし、ならば、と。

衣服が乾いた頃に、また未知の力を試す時間が続く。

その間に数回ほど先程のような異形に襲われることもあったが、未知の力で撃退。

なんとも便利な力だ、と思いながら彼女は再び続けた。

しばらく続けた後、眠くはないが生活習慣が乱れることをよしとしなかったのか、とりあえず彼女は眠ることにした。

 

(えっと……。)

─キンッ─

 

未知の力で自分の周囲に薄いエリアを作った。

大きさとしては半径10メートル程。物理的な防御膜のようだ。

地に寝転ぶと服が汚れるからだろうか、彼女は座ったまま、休み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……結局眠れなかったな。)

 

太陽が登り始めた頃、彼女はそんなことを考えながらぐっと伸びをしながら立ち上がった。

彼女が作ったエリアに入ってくるものは居なかったし、睡眠の邪魔をするような要素もほとんどなかった。

しかし、座っている上に眠くない、といったところで彼女は眠りにつけなかったわけだ。

つまり、目を閉じて考え事をしていただけ。

 

(別に体は疲れてないからいいが。)

 

そんなことを考えながら篝火に目を向ける。

火種を足していなかったからか、もう燻っているだけで消えかけていた。

それに手を向け、未知の力で完全に消火した後、再び彼女は歩を進める。

歩きながらでも可能な範囲でそれの鍛錬を続ける。

 

(魔法的なものか?)

 

魔法以外にも魔術や呪術、信仰心による奇跡、気、妖術など、特異的な力はいくらでもある。

自分の力が一体どれなのか、検討もつかない。

 

(詳しい人がどこかにいればいいんだが。)

 

考え事や力を試しながら歩き続ける。

日が高く昇った頃に、彼女の視線に映るものがあった。

 

「……やっと見つけた。あれは……村?か。」

 

そこには比較的規模は大きく見える村があった。

和風と言うよりはそれを超えたような、歴史の教科書に載っているような家が見える。

くっと目を凝らせばその周りには着物などを着た人の姿が見えた。

見るに文明レベルが高いとは言えないが、それでも人が生活していたというのは大きい。

 

(人か。言葉が通じるといいが……。)

 

未知の力によるものかは不明だが、異常なまでに高い視力にかなり驚きつつ、そんなことを考えた。

ここはどこなのか、とか、他にも色々聞くことがある。

理解が出来なくとも情報を持つだけで大きく違うのは言わずもがな。

さて、排他的な村でないか、言葉が通じるか。

彼女は村へと歩いていく。手には何も持たない、身一つで。

もうすぐ村へ入れる、と言ったところで男性がこちらへ話しかけてきた。

 

「ん?この村に何用か?」

 

門番らしき男性が槍を手にして立っており、彼女にそう問う。

言葉がわかったということに安堵しながら彼女は返答した。

 

「旅の者だ。」

 

表情や目線から強い敵視をされているわけでもなく、立ち寄った人に世間話をする程度の話なのだろうと彼女は理解した。

端的に答えながら聞かれることを予測して答えを準備し始める。

 

「そうかそうか。……おや、何も持たずにか?」

 

ふと気付き、警戒の目線を向ける。

 

「先程、少し襲われてしまってな。荷物を犠牲に逃げてきたところだ。」

「それは大変だったな。……衣服に傷はあるが、傷は?」

「少し、手持ちがあってな。傷を治すもので、それで何とか傷だけは治して逃げた訳だよ」

 

全くの嘘をついてはバレた時に面倒だ。

彼女は"嘘ではない"ことを言ってこの場を切り抜けようとしていた。

 

「なるほど、そういう事か。すまない、少し疑ってしまった。その奇妙な服装もあってな。」

「いや、構わない。同じ立場なら同じく警戒した。」

 

頭を下げる男性にそう告げた。

 

「通るといい、多少なりとも身の安全は保証できる。」

 

道をあけてそういう男性。

 

「礼を言う。」

 

そう返して村に入りながら彼女は思考をする。

 

(大きな傷を一瞬で治したことを言ったが動揺は無かった。つまりそういった技術はこの世界では普通、もしくは普通とは言わないものの使える人はいると言った感じか。)

 

嘘をつかないついでに不思議な力に対しての時代背景を知るつもりで言ったが、どうやら使えるからと言って何かあるわけでも無いし、バレたらまずいことでもなさそうだった。

ぱっと村を見る限り店、というか商売の概念はあるのだろうか、ものを店頭に並べている風景がちらほら見られた。

それを通り過ぎながら様子を伺う。

貨幣の概念はあるのか、皆がものを交換する際に出すものは一定だ。

それは米や塩、布と言ったようなもの。

物品貨幣というものだ。

 

(さて、何も持ってない。どうしたものか。)

 

ふと、前を向くと大きな建物が見えた。

この村が信仰している何かがあるのだろう、神社のようなものに見える。

道のりはそこそこあった。

 

(……この距離を見るにここはかなり広い村だ。いや、いわゆる国か。)

 

そんなことを考えながら、どうせなら、とそこへと顔を出してみることにした。

ここを統治してるだろう神が祀られている場所だ。挨拶くらいはした方がいいだろうと考えてのことでもある。

歩く道すがら、服装や足についた血に注目を浴びる。

多少の居心地の悪さを感じ、少し早めの歩きでそこへと向かう。

 

(ん……?)

 

到着し、参拝でもしようかと思ったその時。土地の入口に1人立っている影があった。

青紫と白を基調とした壺装束と呼ばれる服を着ており、2つの目玉が着いた市女笠を被っている金髪の少女。

金髪であることや服装、威圧感。どれをとっても周囲のもの達とは大きく違う。

先程、魔物のようなものに襲われたことからとある考えが出る。

彼女の直感だが、目の前の者は人間ではないと感じていた。

そして先程襲われた2体とも大きくかけ離れた"何か"がある、と。

 

(ここは神を祀る場所。まさか───)

 

表情を崩さないながらも、思考を巡らせる。

 

「君、何者?」

(神の類か……!?)

 

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