東方想転叶   作:楽園の主

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おひさ。

書きたいこと書いた。



第11話 ─襲撃の終幕に疑念が晴れ─

 

「ばーん。」

 

軽いその声とともに、拳銃のように指を折った手の指先から一筋の弾が発射される。

それは里の人間の間をすり抜け、妖怪の群れの中ほどまで直進、その後拡散して貫通。

妖怪の群れの広い範囲にダメージを与えた。

聖士は剣を深くかまえ、横薙ぎに振るうと剣閃が発生、真っ直ぐと妖怪へと飛来して切り裂いた。

一方、里の人間はというと、やはり人故の限界か、相対するというには劣勢。

抵抗している、ということまでしか表すことが出来ない。

実質的に攻めの手は聖士と結衣が握っている、というのが現状になるだろう。

 

「知り合いか!?」

「顔見知りっす!」

 

里の人間の声に短く反応して返す。現状では安心して背を任せられる、とは言うことは出来ない。

 

「おらァ!!」

─ゴン!─

 

斜め下から木刀を全力で振り上げる。その衝撃に妖怪は後ろへと下がった。

ダメージにはなっているものの、倒せるほどでは無い。

拘束されたり、怯ませられたりするのは危険か、と考えながらもちら、と視線を移動する。

結衣の方だ。

 

「それー。」

 

結衣はさらに攻撃を続け、魔力の弾のようなものを乱射したり、光線を薙ぎ払ったりと広域攻撃を繰り返す。

それでいながら里の人間に被害がない、というのは腕の高さ故か。

いとも簡単に妖怪を吹き飛ばしつつ、相手の前線ラインを上げさせずに打倒していく。

 

(なんや、全然大丈夫やんか。)

 

結衣が怪しい存在とはいえ女性体であることは確か。

己の信念的にも気にする部分はあった。

だが、どうやらその辺の妖怪ならば意に介さない程度ではあるらしい。

自分や里の人間よりも余程強いわけだ。

もし敵だったら、ということはさておいたとすれば心強いし、気にかける必要も無い。

さらにちら、と視線を聖士の方へと動かす。

聖士はというと前線ラインで戦いつつ、抵抗する里の人間の救援を続けていた。

なんとも心強いが、複雑な思いだ。

視線を元に戻し、自分の目の前へと集中する。

 

「一人で戦うな!!複数名で固まれ!!」

 

里の防衛隊長らしき人が指示を皆に出す。

周囲にいた里の人間と3人で集まり、戦うことに。

しかし、妖怪が一体ならばまだしも相手は群れ。

妖怪と人間のパワーバランス的にも覆すことは難しい。

防衛隊長の意図としては、数人で集まって死なないように抵抗し、攻め手の2人である結衣と聖士を主軸に里を守る、という判断だ。

 

(歯痒いけどそれ以上に解決策がない!)

 

自分にもっと力があれば、と思うが今はさておいた。

まずは目の前に集中しなければ、と。木刀を構え直した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「目当ての人は居たかしら?」

「ふむ、そうだな。十中八九そうだろう者がそこにいる。」

 

里の上空で、2人は会話する。梓と紫である。

紫は自身の作ったスキマから身を乗り出して、梓は見えない何かに座っている様子で里の様子を見ている。

 

「もう行った方がいいんじゃないかしら。人間側、劣勢ではあるわよ?」

「いや、もう少し見ていることにするよ。あいつは面白いやつだからな。」

「ふふ、悪い人ね。」

「いい人だった覚えも無いがな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く戦闘。何とか数匹の妖怪を戦闘不能にしたが未だその数は多く、捌ききれてはいない。

3人で動いていた龍輝だったが、それも今、2人が倒れた。

獣人のなぎ払われた腕に1人が吹き飛ばされ、その先にいたもう1人も巻き込んで壁に叩きつけられて地に伏す。

この対面が、1人と1匹になった。何とか反撃するも、その一撃で木刀は折れ、大したダメージにもなっていない。

その時に気がついたが、里のみなはもう倒れており、最後に立っているのは自分だけ。

 

「やッッッばい!!」

 

その自分に大きな牙が迫る。明らかに自分の頭を狙っており、抵抗は間に合わない。

相対するこの妖怪の強大さ的に考えれば木刀程度では、防御にすらならない。

そもそも、先程の一撃で折れてしまっている。

 

(あかん、死───)

 

死を、覚悟した。その瞬間。

 

「まだ終われないだろう。」

 

そんな声が、響いた。途端、周囲の時が止まる。いな、限界まで遅くなっているのか。判断はつかない。

振り向く余裕もない、返答もできない、だが声は続く。

 

「1度だけ力を貸そう。」

 

金属的な音が足元から聞こえた。

地面の上に銀色の波紋が輝いており、その中央からは一振の刀。

柄は上に、自身に向けて差し出したように見える。

 

(これで戦えってことやな。)

 

怪しむ心はもちろんあった。だが、どうせ死ぬと考えれば少しでも戦う道を選ぶ。

この後死ぬことになったとしても、今死ぬよりは戦って死ぬことが出来る。

それならばと、考える間もほとんどなく刀を手に取って引き抜く。

美しく輝く刀が、その身を世界に晒す。

しかし、ただの刀では、斬ることは出来るかもしれないが、それで打倒できるという単純な話では無い。

 

「構えろ。」

 

その言葉に従い、グッと深く構える。

 

「力を込めろ、ここだ。」

 

じわり、と胸の底が熱くなる。目を閉じ、そこへと集中する。

 

「それをここに流せ。」

 

何者かの手は刀に添えられる。

それに従い、流れるようなイメージを深く集中した。

 

「己の信念の元に、強い意志で振るえ。それだけだ。足りない部分は後押ししてやる──」

 

声はそこまでだった。

後ろの人たちを守るために。全力を込めて、刀を振るう。

 

「くたばれェェェ!!!」

 

刀を強く握り、振るう。何者かの力が後押しとなったのは龍輝も感じた。

それは大きな剣閃となり、目の前の妖怪どころか、その奥の妖怪も切り裂き、後ろに控えるリーダー的な妖怪に手傷すら与えた。

その後、龍輝は体に力が入らなくなり、地に膝をつく。

 

「ふふ、君らしい言葉だ。あとは任せるといい。」

 

そう言って何者かは前に出た。そこで初めて姿を目にする。

白銀の毛を揺らした女性だ、ということは分かった。梓である。もちろん、龍輝は名前どころか存在すらも知らない者だが。

女性に戦わせ、自分が戦えないというのはなんとも認めがたいが、体が動かない。

使ったことも無い魔力を急に使ったからだ。それは仕方のないこと。

 

「あ、来たんだ。」

「もう少し早く来て欲しかったよ、梓。」

「悪いな。さて結衣、総督。〆だ。」

「はーい。」

「わかった。」

 

龍輝は意識を失ってはいないものの、そこからは戦況を眺めることしか出来なかった。

里側の劣勢だった戦況は、彼女の参加という点を皮切りに一瞬で覆った。

聖士、結衣は里の被害を拡大させないための防衛。

リーダーを討つのは先程龍輝を助力した何者かだ。

彼女は地を蹴り、1跳びでリーダーまで肉薄した。

 

「さて、久しいか。」

「てッ!てめェは!」

 

なにやら会話していたが、その内容は聞けず、龍輝は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はっ!!!」

 

意識を取り戻すと、そこは救護室だった。龍輝以外にも多数の人間が周囲にいる。

戦いの行く末はどうなったのか、里の被害はどの程度なのか。

気になることは無数にある。

だが、治療などで忙しなく動くみなを見ていると、話しかけるのも申し訳なくなり、どうしたものかと辺りを見渡す。

ふと、自分が何かを握っていることに気がつき、それを持ち上げると先程使った一振であることがわかった。

これを返さなくてはならないが、そもそもあれは誰だったのだろうか?

と考え込む。そういえば、結と総督が関係ありげに話していたことを思い出した。

彼らに聞いてみなくては、と次の行動を決めて立ち上がる。

体をしばらく動かしていなかったからか少しふらつくが、その程度で問題はない。

救護室にいる人の心配の声に、大丈夫だと返答して外へ出た。

日の下へと出て周りを見ると、破壊された家屋の修繕にみなが勤しんでいた。

周囲の人に聞けば修繕は開始したところらしく、龍輝は2日ほど眠っていたことを知った。

そして、驚くことに死者は出ていない、ということも。

現場の被害や、凄惨な惨状とは裏腹に精々が重傷程度で、死者は全くなかったらしい。

不思議なこともあるものだ、と。

"神様がついていたのかもな"、と皆が口にした。

その時、龍輝は1人の女性が。あの時の銀髪の女性が脳裏を過ぎった。

あの時に現れたあの人は、そういう事だったのかもしれない。

手にした刀を見つめながら、手がかりが現状それと、あの2人しかないことを理解する。

とにかく、礼を言わなければ。あの女性を探すために、まずはどうするか、と思考し始めた。

結と総督に聞くのが1番だが、正直なところ襲撃のタイミングと、あの何かありげな雰囲気からして白黒付け難いのが難点だ。

襲撃に対して援護はしてくれたものの、彼女らが主犯でないと確定することも出来ない。

しかし、窮地を救ったあの女性と仲がいいということは、本当にたまたまだったのか?などと考えが巡る。

だが、結と総督も援護して里の被害を抑えてくれたのは事実。

何とか3人を探すことにして、一旦真実は置いておくことにした。

 

(あの女性はこの里で見た事ないし、あんだけ強かったら噂にもなるはず。)

 

であるならばこの里のものでなく、噂にすらならないならやはり人の目を避けて暮らしているのでは、と予想を立てる。

ちょうど良く、近くには妖怪がいるかもしれないから近づくのは避けた方がいい、とされる森が近くにある。

手がかりがない以上、まずはそこを探してみることにした。

もし妖怪が出たら、と考えたが、この刀で牽制しながら逃げるしかない、やばそうになったらすぐ引き返そう、と考え、里の門へと歩いていく。

 

「あ、大社。お体はもう大丈夫なのか?」

「ああ大丈夫です、全然動けるんで!」

「はは!そうか。どこに行くか知らねぇが気をつけてな!」

 

門のそばに居る門番と少しの会話を挟んで外へ。程なくして森の近くへ来た。

森に入るのは初のことで、景観が綺麗なものの妖怪が出るかも、と言われれば不気味にも見え、緊張が走る。

 

(大丈夫、まずはちょっとだけや。ちょっとずつ探したらいいしな。)

 

そう自分に言い聞かせ、森へと1歩踏み入る。

その時。

 

「なにか捜し物かしら?」

「うおッ!?」

 

斜め後ろから声。バッ、と振り返るとそこには金髪で、紫色が基調のワンピースを着た女性。

八雲 紫がそこにいた。もちろん、龍輝は彼女を知らず、初対面だ。

驚いて体を跳ねさせ、目線を外さないながらも自然に体は会釈をした。

 

「……ええ、まぁ、すこし。」

「そう。なら気をつけた方がいいわよ、人ならざる者には。特に、ね。」

 

クスッ、と笑って彼女は去っていった。

 

「……。」

 

ギギ、と首を捻る龍輝。頭に?マークを沢山浮かべながら疑心暗鬼になる。

襲撃時の結たちといい、先程の女性といい、どうもここ最近は怪しい場面というか、恐ろしい場面に遭遇する。

すい、と彼は振り返る。

 

(戻るか……?)

 

もしかしたら、あの女性、梓のことは踏み込まない方がいい様な存在なのかもしれない。

そう思えば、手にする刀だって、もしかしたら妖刀の類なのでは、と不安に駆られる。

しかし、窮地を救ってもらって礼のひとつもないと言うのも、気が引ける。

数歩進み、また振り返り悩む。それを数回繰り返すが。

 

(いや、行こう。もうどないでもなるわ。恩には礼をや。)

 

半ば諦観したようにそう決意して、森へと踏み込んだ。

木漏れ日が草木を照らし、なんとも神秘的な光景が広がる。

同時に、独特の空気感が、彼を襲う。ざわざわと揺れる木々。

いつもならばその光景や雰囲気に感動するところだが、空気感と今の状況では妖しい、恐ろしいと感じてしまう。

森を宛てもなく歩くしかなく、何者かがいる、と確信できるような痕跡も見ることは出来なかった。

日もだんだん落ちてきており、今日はもう帰ろうか、と思ったその時。

 

─スパァン!─

 

何かを叩く音が聞こえた。同時に、聞き取れないが何かを話すような声も聞こえる。

恐ろしいと感じつつも、手がかりになるかもしれないと言う思いと葛藤。

その末に、少し見るだけだ、と刀に手をかけて、音を出来るだけ立てずに近づいていく。

そして、木に体を隠し、視線だけでそこを見ると。

 

「だがよォ!!元はと言えばテメェが!!!」

─スパァンッ!─

「ん?」

「い……いてぇ……へ、へへ。ちょっと強くなって気が大きくなっちまっただけでよ……許してくだせぇ姉御。」

─スパァンッ!!─

「ぐえっ!!」

「誰が姉御だ。」

 

狼の獣人だろう妖怪を、女性がはたいている場面だった。

 

「……????????」

 

その狼の獣人は、件の里襲撃の主犯であろう妖怪だった。座った状態で腕を後ろにしてほぼ無抵抗だ。

というより周囲からいくつもの鎖が妖怪を拘束しているため、抵抗ができないという方が正しい。

 

「懲りないやつだな。あの時はどうでもよかったから捨て置いたが……やはり存在ごと消滅させた方がいいか?」

「ちょ!やめてくだせえ!!俺もうあんなことしねぇよ!!その……人間を襲わないとはいえねぇけど……。」

「……そこは理解している。妖怪という成り立ち故に人に畏れを抱かれんと存在できんことはな。」

「じゃ、じゃあ──」

「だがそれとこれとは話が別だ。」

─スパァンッ!─

「ぐえぇっ!ちょっ、洒落になんねぇ威力っすからほんとにやめて……。」

 

緊張感のない空気感に呆気に取られてしまう龍輝。

よくみれば、攻撃しているというか叱っているというか。

立場の強い女性は、確かにあの時に助けてくれた女性その人だった。

話しかけようかと思ったが、取り込み中か、と少し待つことにした。

 

「……ふむ、なにか手を考えなくてはならないな。では少しそこで待っていろ。」

「いや待っているも何も動けねぇよ……。」

「何か言ったか?」

「いえ!なんでもありません!いつまでもお待ち致します!!!待たせてください!!」

 

げんなりとした様子からシャッキリと無理やり背筋を伸ばして妖怪はそう答えた。

怖ぇ、怖ぇよ、と呟きながらブルブルと震える置物とかしたそれを見て、龍輝は触れないことを決意した。

 

「さて。用がありそうだな。」

「!あ、はい。」

 

突然話しかけられたことに驚きつつも返事をする龍輝。

彼女の近くに寄り、改めてその姿を目にする。

綺麗な銀色の髪に、鈍い金色の瞳。美しくも可愛らしい見た目にその雰囲気からして人ではない、と直感させるに十分なオーラがあった。

 

「この前のことでお礼を言いたくて。ほんまに、ありがとうございます!!」

 

とにかく彼は自分の第1目標をクリアした。深く頭を下げて、彼女に礼を口にする。

 

「なんだ、そんなことのためにここまで来たのか。」

 

呆れたような、意外そうな表情をする彼女。

 

「気まぐれに友を助けただけに過ぎない。気にする事はない。」

 

あの場に友達がいたのか、それとも人間を友とする友好的な人外なのか、というのはわからないが、ともかく対価を大きく要求されることは無いようだ。と、龍輝は思った。

 

「それでもみんなを救ったのは事実です。死者もでてません。ありがとうございます。」

 

頭を深く下げたままそう言う龍輝。

 

「礼を受け取った上で構わんと言っている。なにも礼を拒否した訳では無い。その頭を上げよ。」

 

言葉に従い、頭を上げ、目を合わせた。

 

「名は梓だ。」

「梓さんっすか。自分は──」

「龍輝だろう。知っているよ。」

 

結と聖士の2人に話でも聞いていたのだろうか、なら話が早いか、と彼は自己紹介を中断した。

 

「まぁ、そうだな。強いて言うなら……結と総督……いや、聖士か。2人とはまた仲良くしてあげてくれ。」

「あー……もちろんっす。」

 

正直なところ、未だに疑念は少し晴れていなかった2人だけに言葉が少し淀んだ龍輝。

しかし今考えれば、2人が仲良さげに話してたこの女性が、主犯であろう妖怪をこうも詰めていると考えれば、2人はたまたま怪しい場面にいただけで関係がなかったのかもしれない、考えついた。

 

「……なるほど、そういうことか。ならば安心しろ、里の襲撃については奴の独断だ。」

 

くい、と顎で妖怪のことを指しつつ、龍輝の考えを読んだかのようにそう言った。

この狼の妖怪はこの女性に1度、完膚なきまでの敗北を喫していた。結のことを襲っていた、あの妖怪だ。

それというのは龍輝が初めて耳にした話。

里を襲った理由としては、更なる畏れを集め、強くなり、その女性を殺すためだったとか。

復讐目的だったが、もうその気持ちが起きないほどに仕置をされたらしい。

先程の光景よりも前に何が起きたのだろうか、と少しだけ思う龍輝であった。

 

「しかしまぁ、随分と他人行儀じゃないか、龍輝。」

「……ん?いや、そらまぁ……。」

「悲しいな、あれだけ交友したと言うのに、私が分からないか。」

 

わざとらしく肩を竦めて彼女は続けた。

 

「だがそれを許すとも。"だって私は優しいからな。"」

「……。」

 

その雰囲気に、彼は覚えがあった。元の世界においての古い友人。

それの雰囲気と、物言いがあまりに酷似していたから。

一瞬喜びそうになったが、やはり疑念が過ぎる。

心を読む妖怪だっている。騙そうとしているのでは、と。

しかし目の前の女性は、まぎれもなく龍輝だけでなく里を救った存在だ。

普段は気まぐれだが、ここぞと言う時には助けるところあたりも、あの友人らしいとも感じられる。

信じていいのではという気持ちと、疑う気持ちがせめぎ合う。

 

「……しかし同時に、君ならば怪しむということも理解している。2人しか知りえないことを言おうとも、思い出を語ろうとも。」

「……それは──」

 

その先の言葉は出なかった。困ったように眉を下げて笑う彼女に、申し訳がなくて。

 

「礼は受けた。もう里に戻るがいい、夜は危険だ。」

 

この世界へ来て、しばらくたった。元の世界へ戻る手だては未だに欠片ほども見つからない。

そんな中で、元の世界から来たであろう2人に出会い、今度は古い友人にも出会えた。

もしそれが嘘だとしても、もういいか、と。

 

「いや、信じるよ。」

 

彼は、信じてみることにした。

 

「あまりにも似てるし。姿以外。」

「ふ、諦観か。らしいと言えばそうだな。それでも今はそれを喜ぶとしよう。」

 

少し目を細めて笑う彼女は大層美しいな、と龍輝は思った。

 

「……スゥー……はぁぁぁぁあああ……。」

「どうした、すごいため息じゃあないか。」

 

そりゃあため息もつきたくなる、とボヤく龍輝。

ここまでずっと張りつめて居たが、ここに来て旧友に出会えて、安心したと言ったところか。

 

「でもほんまに、ほんっまに良かったわ……誰かおって。」

「帰るのを諦められる、か?」

「まぁそれも1つあるけどさ。」

 

元の世界に残してきたものがあまりに多く、心配していたが、友人がここにいるなら最悪諦めてもいいか、と思えるということではあるが。

そして、ふと思い出して彼女の方へと詰め寄る。

恐る恐るでありながら、決意をしたように口を開いた。

 

「なぁ、この森に入る時に女の人に出会ったんやけど。その……金髪で、紫っぽい、時代にあってない感じの服きてる人に。」

 

人外には気をつけろ、と忠告してきた見知らぬ彼女のことだ。

妖しい雰囲気に恐怖を感じたあの女性。八雲紫その人であるが、龍輝にそれは知りえない。

もし梓の知り合いであるなら、大丈夫だろうが、彼女も知らぬ存在なら梓も危険では、と聞くことにしたのだ。

 

「あれ、この森の門番的な人なんか?お前の知り合──」

 

はっ、と気づく。梓の背後に、それが立っていることに。

 

「おるおるおるおるおる!後ろ後ろ!!」

 

刀を引き抜き、警戒態勢を取りながら梓に後ろを向くように警告した。

 

「後ろか?」

 

梓が振り返るその瞬間、空間を引き裂いて彼女は姿を消す。

 

「……何もいないが。」

 

疑問そうな顔をしながら龍輝に向き直る梓。

再び紫は姿を現し、梓の背後へと歩み寄る。

 

「おるって!!ほんまに!!こっち来てるって!!」

 

梓は紫を知っているため、龍輝の様子と共に茶番を察して紫に乗ることにした。

ため息をついて再び振り返る梓、しかしタイミングよく紫は姿をスキマの中へと隠す。

 

「全く……貴様には何が見えている?」

 

再び龍輝の方を向くと紫は姿を現して妖しく笑いつつ、歩み寄る。

 

「出たり隠れたりしてんねんて!!後ろ向いたままでおったらわかるって!!」

「はぁ……わかったわかった。全く、ユーモアの忘れない貴様らしいな。」

「俺がお前にこんな必死に嘘ついたことあるか?嘘つかんことはお前がよくわかってるやろ?」

 

梓にさらに詰め寄って早口で捲したてる。

龍輝というのは嘘をつけないタイプであり、嘘をつかない人だ。

そもそも、梓の直感力の前では嘘どころか言葉の裏まで透かされることを理解しているし、嘘をついては悪い業を背負ってしまうという思いから、わかりきった冗談位は言う、という程度しか言わない。

 

「私が、何かぁ?」

「うおぉぉぉおおおお!!!!」

 

そんな彼の真後ろに現れ、耳元でそう囁かれた。

大きく体を跳ねさせ、飛び上がって振り返りながら後ろへと大きく下がる。

そのままだと梓にぶつかるが龍輝にそんなことを気にしている余裕は無い。

梓がすっ、と避けた。龍輝は刀を強く握り、構え直す。

 

「ふふ、人が悪いな、紫。」

「なによぉ、梓も乗り気だったじゃない。それに貴女が面白い人って言うから、揶揄ってみたくなったのよ。」

 

ここでようやく、2人が知り合い同士、というよりそれよりも仲がいい関係だと理解した。

 

「……ふぅ……。」

 

溜息をつきつつ、空をひとつ仰いだ後。

 

「はよ言え!!!ビビらすな!!!!」

 

大きくふたりに叫んだ。

 

「な?面白いだろう?」

「ええ、言う通りね。」

 

2人はクスクスと笑うだけで聞いている様子がない。

元の世界では生意気な少女、所謂メスガキを分からせるといった趣向の作品が存在したが、その主人公はこんな気持ちだったのかもしれない。

龍輝は、2人をいつか分からせてやる、と強く思った。

まぁ相手は普通に龍輝より遥かに年上なのだが。

 

「紹介しよう、八雲紫だ。」

「妖怪で〜す。」

「やろうな。」

 

ひらひらと手を振りながら笑顔でそう言う紫。龍輝は即座にツッコミを入れた。

 

「詳しいことはまたにしよう、もう日が落ちる。」

 

夜はやはり妖怪の動きが活発になる傾向がある。もちろん、その妖怪の成り立ちや種別によるが。

そも、妖怪が居なくとも里の外は月明かりしか光源がなく、それだけでも危険だ。

確かに、と理解し、1度龍輝は帰ることにした。

しかし、"また"というのはいつなのだろう、とは思ったが、紫をよく知らない龍輝。

確かに梓の知り合いだ、ということはわかったが、その得体の知れなさにこの場を後にしたくなり、またの機会がいつかということを聞かずに彼は立ち去ることにした。

ふと足を止め、振り返って梓に話しかける。

 

「ああそうや、刀──」

 

返さなくては、と考えて話しかけたものの、即答で返さなくていい旨の返事が帰ってきた。

 

「一振くらいくれてやる。気にせずとも無数にある。」

「んお、そうか。ありがとう。」

 

友人である彼、否、梓が言うならそうなのだろう、と貰っておくことにした龍輝。

実際、ここで返したら武器がなくなってしまうので有難いことではある。

再び、振り返り立ち去ろうとする。後ろから声が聞こえた。

 

「またな。」

 

その言葉に、歩みを止めはしなかったが、振り返りながら手を振っておう、と龍輝は短く返した。

 

「で、彼とはどんな関係?」

「久しく会っていなかった友、だな。」

「……そう。」

 

紫はなんとなく、深く聞かないことにした。そこへ踏み込むには、足りないものが少しあったから。

 

「例の件はどうなったかしら?」

「書状は渡した。少し暴れたから叩き潰したが。」

(無事なのかしら……。)

 

1度敵対してしまえば容赦はしないだろうと思われる者から叩き潰した、という言葉が出ては相手の身の方を心配してしまう。

書状は渡した、というのが死体や肉片の近くに置いただけ、では無いことを紫は心の中で祈った。

 

「しばらくすれば会うこともあるだろう、少々癖はあるが暴れるようなことはしない。」

「あら、本当かしら?」

「暴れるようならまた叩き潰せばいい。何度でも。」

(暴君ね……。)

 

さらりとそういう梓に、彼女は恐ろしさを感じた。

話し合いながら2人は拘束された妖怪の元へ。

 

「して、紫。この妖怪のことだが。」

「大体は聞いていたわ。」

 

妖怪は畏れが無くては存在を維持できず、かと言って全ての妖怪が自分勝手に襲えばその周辺から人が居なくなる可能性がある。

共生するにあたっては大きな問題だ。ここをどうにかしなければならない。

 

「いくつかは考えていたけれど、あなたの意見も聞きたいわね。時間は?」

「構わない。」

 

そう言って2人は歩き出す。その背後から声をかける存在が。

 

「ちょっとー!!あのー!!俺どうしたらいいんスかね!?!?せめて外して行って貰えねっスか!?」

 

鎖で拘束されていた狼の妖怪が大きな声で叫んだ。

未だ拘束された状態で放置されており、脱出も出来ず、そのまま帰られてしまってはいつこの場から出て行けるか、と焦って声をかけたのだ。

 

「あら、まだいたのね。」

「まだいたのって動けねぇんだよ!!」

 

にっこりと笑いながら冗談を言う紫に食いかかるようにツッコミを入れる。

が、梓に"ん?"という声を出され、一瞬で縮こまってしまった。

 

「……ふむ、そうだな。試したいこともある、連れていこう。」

「あら、何を試すのかしら。」

「それはだな──」

 

こそこそと紫に耳打ちする梓。

 

「なるほど……それは……。」

「物は試しだ。」

「ちょ、なんすか……?怖いんすけど……。」

 

目の前でコソコソと話をされては自身の身が危ないのではと戦々恐々とする妖怪。

 

「話し合いの時は地下室で監禁しておく。」

「そうね。結果は聞いても?」

「もちろん、伝えるとも。」

「え、待って待ってほんとに怖いんですけどあのその。」

 

焦る妖怪、だが逃げることは出来ない。

鎖で拘束された足だけは解放され、鎖を握られ梓に連れられていく。

抵抗しなければ内容不明の実験動物、抵抗すれば強大な力に叩き潰される。

つまり詰みである。

狼の妖怪は終わった、と絶望した表情で梓に、引きずられるようについていった。

というか連れていかれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

──

 

 

 

 

 

 

 

(しっかしなぁ……。)

 

里に戻るまでの間、考え事に耽ける彼。

 

(デカかったな……。)

 

見てしまうのは男の性か。何がとは明言しないが、そう、龍輝は思った。

 

 

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