東方想転叶   作:楽園の主

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色んなものを参考にした結果長くなりました。場面転換が多いのはご愛嬌。
そして制作の幅を広げたいと感じる今日この頃。


第13話 ─輝夜姫─

時は経ち、可愛い娘のお披露目だ、と。私財を持って町の皆に食事を振舞った。

人々はもちろんタダで酒が飲める、タダで飯が食えると食欲を持ってそれ目当てに集まってきていた。

しかし、場に来てみればそこには輝くような美しさの娘がいた。

皆は飲み食いしながらもその姿を目に焼き付けていく。

食事が振る舞われたあと、皆が皆自身の家に行く頃には話題は輝夜のことで持ち切りだ。

皆が皆口々にそれを噂する。

それはもちろん道行く旅人の耳に入り、光の如く広まっていく。

 

かの町に光り輝く美しさを持つ娘あり。

 

その噂は権力を持つ者たちの耳にも入る。さすれば是非とも嫁に、という者が増えていった。

そうして人が訪れ、宿と食事処は賑わう。そして金を持つものは別荘をその町に建て始めた。

そして道は踏み固められ、広がり、町は発展していった。

老若貧富を問わず一様に輝夜を1目見ようと連日、立ち並ぶ。

 

「今日も凄いな……。」

 

それを尻目に、どこかからの帰りだろう2人が感嘆の言葉を漏らす。聖士と龍輝である。

 

「人の噂ってのは早いもんだな。」

「ほんまにあっという間にデカなったもんな、この町も。」

 

すい、と周りを見渡す。この屋敷の脇から向かい、斜め向かいにかけても全てが茶屋や立ち食い蕎麦屋などで埋め尽くされている。

輝夜目当てに来るものたちから金を落とさせるためだと、簡単にわかる。

そしてその1つから、喧騒が聞こえた。2人は屋敷へと向けていたその足を止め、そちらへと向いて足を早める。

そこには丁寧に仕立てられた服を着た少女と、粗野な出で立ちの男2人。

町が発展したが故の騒動。金持ちによるそれが後を絶たない。

輝夜という強い光の陰。避けようも無ければ逃れようもない、事実。

キリが無いことを承知で彼らは見つけ次第、首を突っ込む。

目の前のそれを許せないから。たった少しでも、その陰を払えるならと。

粗野な男の肩をぽん、と軽く叩く。

 

「ああ?なんだてめェは。」

 

強い語気で、少しの訛りを感じるイントネーションで話しながら振り返る。

周囲の、怯えていた人たちは聖士と龍輝の姿を見て安心したように自身の生活へと戻っていく。

遠巻きに眺めていた者たちも、興味を失ったように立ち去って行った。

皆は、彼らがどうなるか、結末を理解したのだ。

梓たち4人はここへ来て長らく輝夜たちとその屋敷の護衛と、町の治安維持などをずっと行っていた。

既にその姿や実績などは町民に知れ渡っている。

問題があった場所にその4人の誰かがいれば、さて安心だと思えるほどには。

 

「その手を離そうか。」

 

所謂、めでたしめでたし。

強硬手段に出ようとした男らを、彼らは一撃ずつで気絶させた。

青黒い痣1つで地に横たわり、意識を手放すそれを放置して、少女を保護した。

緊張の糸が切れたのか、泣きじゃくる少女の頭を、聖士は撫でた。

しばらくして、落ち着いたのか彼らから1歩離れて、口を開いた。

 

「えっと、ありがとうございます。」

「いやー全然ええよ。怪我なくてよかったわ。」

 

長い、長い列の中から、1人の男性がこちらへと走り寄ってくる。

 

「お父様!」

 

その男を見ると少女も彼の元へと走る。

男は少女を抱き抱え、目線を合わせて持ち上げる。

どうやら父親らしい。

輝夜を目当てに並んでいたところ、という訳だ。

子持ちの親が輝夜という年端も行かない少女に会うための列に並んでいたことに2人はため息をついた。

しかして、己が情欲よりも自分の娘を選んだところは好感が少しもてた。

 

「娘を助けてくださったようですな。あなた方が居なければ今頃娘はどうなっていたやら……。」

 

礼を言いつつ、もしものことを想像して青ざめる。

思い立ったようにそうだ、と言葉を放つ。

 

「良ければ私の屋敷に来ませんかな。ただ言葉だけでの礼など藤原の名が泣くと言うもの。」

 

さて彼は輝夜と会うための列に並んでいたはずだ。それはもう良いのか、と聞くと。

今日はもういいのだ、と答えた。

それはまぁ噂の輝くように美しい彼女に会いたくはあるが、列が長いことを見るに会えるかどうかすら分からない。

会えるかどうかも分からない娘のことよりは。

 

「今いる自分の娘を先に選ぶのが親というものですからな。」

「そういって、明日も並ぶ癖に。」

 

照れ隠しだろうか、とす、と父親の背に拳を当てながら、柔らかい笑みを浮かべた。

ばつが悪そうではあるが、父親の笑顔も慈愛に満ちたものだった。

とても、暖かいものだ。家族、というものは。

 

「梓に連絡、入れておくよ。」

「あ、そうやな。頼むわ。」

 

聖士は梓と老夫婦に帰りが遅くなることを伝え、また戻ってきた。

その後、家に招待され、食事と酒を豪勢に振る舞われた。

聖士はすっと酒を飲んでいたが、龍輝は酒に弱いタイプな為、ほとんど口にしていない。

だが、2人にはその食事よりも強く意識を向けられたのは藤原氏だ。

こちらの返答は相槌くらいしかないにもかかわらず矢継ぎ早に繰り出される娘自慢。

己が話を酒の肴にどんどんと酒を煽っていき、ついには酔いつぶれてしまった。

聖士が言うにはそこまで強い酒でもない、との事なのにも関わらずまだ太陽も落ちきっていない。

酒癖が悪い、とはこのことだろうか。

話にげんなりと疲労を感じつつも、思い返せばそこまで愛せる人がいる、ということに眩しさを感じた。

さて彼が眠ったのならと軽く布を掛けて帰ろうか、というその時、3人がいる部屋を覗く少女と目が合った。

 

「この屋敷、大きいでしょう?父も言ってましたが、父は藤原の者なんです。」

 

藤原。現在、天皇家に並ぶとも噂されるほどの力を持つ者たちだ。

たとえ情報がなくとも、ここに屋敷を立てられる資金力や行動力を考えれば、相当大きなところだろうと予測は立てられるが。

声色的に家を自慢したいようには聞こえない。

聖士はそのまま何も言わず、話を聞く姿勢だ。

 

「……私は、望まれた子ではないんです。それでも、父だけは偽りのない愛を注いでくださいました。私はそれを、誇りに思います。」

 

時代が時代だ。家系だの血だのというのに厳しい世界なのだろう。

まだあって一日だ。そこまで関係が深くないため、詳しく理由を聞くことは控えた。

 

「父が、誰を愛そうと構わないんです。父には幸せになってもらいたいですから。でも……でも、もし父が誰かを愛して、私を愛さなくなったら──」

 

言葉が続く。

 

「私は何を支えに生きていけばいいのでしょうか。ただ唯一世界を彩っていたその色が無くなれば、私には何が残りましょうか。地に生える草木ですら色を持つというのに、色のない生などに、なんの意味が……。」

 

もはや考えて言葉を紡いでいる訳では無い。感情のままに、心の闇を吐き出しているだけ。

その先を案じるように、暗くなっていく空を見ながら。

龍輝には、なんと答えたものか、と考えさせられた。

意味がなくなどない、といいたいが、それだけでは空虚でしかない。

自分の語彙で、なんとか励ましてあげなくては。

そう思った時、聖士は立ち上がる。

 

「その答えは、彼と話し合うといいでしょう。我らは、これにて。」

 

そういって、聖士は龍輝に目線を送る。それを合図に彼も立ち上がり、聖士に着いていく。

少女と眠っているその親をその場に残して、立ち去ろうとした。

 

「でも──」

「いいから行くぞ。」

「おわっ!」

 

励ますのをやめ、言葉が見つからないから逃げるのか、と聖士に対し思ったが、その彼は龍輝の服の襟を掴んで引きずるように連れていく。

 

「待て待て!待ってや!」

 

その時、聖士は少女の父親の方に目線を向けていた。

それを見て龍輝もその目線を追い、意味を理解した。

少女の父親は、起きていたのだ。

初めは本当に眠っていたが、少女が話し始めるくらいに起きて、狸寝入りを決め込んでいたことを聖士は見抜いていた。

龍輝はそれを察することが出来なかったが、聖士の目線で、それを理解できた。

 

「ちょちょちょちょ引きずらんとってや!あぁぁぁああ───」

 

かと言って急に理解すると違和感があるか、とそのまま引きずられて部屋の外へ。ぴしゃりと襖を閉めたところで、聖士にハンドサインで理解したことを示し、立ち上がる。

 

「俺達が何を言っても、空虚にしかならないと思ったからさ。」

 

ああいったことは、自分の中で納得出来るのを見つけるか、それこそ親と話し合った方がいいだろう。

彼はそう言った。そのまま2人は屋敷を出た。

既に太陽はほぼ落ち切り、外は暗闇に包まれている。

 

「……家族ってええもんやな。」

 

ふと、龍輝は自身の家族のことを思い出していた。

彼は"ここ"へ来て、数年間自身の家族と会っていない。

確かに、友達─姿どころか性別すらも変えてはいるが。─はここに1人居たが、それでも寂しさを強く覚える。

涙が浮かびそうになったのを、体を揺らしたり、目線を上げたりして堪え、誤魔化した。

 

「……別に、泣いても今誰も見てないぞ。俺も今なら何も見てないし聞いてないかもしれないな。」

「うるさいうるさい、ちょっと黙れ。」

 

2人は、帰路へと着く。

 

(家族か……。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ほぼ同時刻、翁の家では。

 

「本当、面白いわね。」

 

輝夜の部屋にて。顔全体を隠す仮面をした梓と結を見て、彼女は笑う。

 

「笑い事ではない。全く……。」

「ふふ、人気者。いえーい。」

 

緊張感なくピースサインをする結。

 

「いいじゃない、仮面外しなさいよ。そっちの方が面白いわ。」

 

輝くような美しさを持つ輝夜も麗しいが、護衛に着く女性2人も麗しいでは無いか、と最初の方に言われていたという。

輝夜との話が今できないなら、と梓と結にターゲットが向いた時もあり、面倒に思った梓はせめて仮面をつけて顔を隠すことにし、結はじゃあ私も、と2人は仮面をすることに。

声をかけられることは減ったが、未だなお、目線を感じる場面は多く、威圧感とその見た目の妖しさで何とか避けているといったところだ。

 

「断る。面倒だ。」

 

きっぱりと、そう答えた。結衣も注目されること自体はいいが、言い寄られるというのは拒否したいところらしく、仮面をつけることを続行。

輝夜はとても残念そうだった。

その後、梓はさらに装備を増やして威圧感が増したらしい。

輝夜は色恋に興味が無いのか、と聞いたがはぐらかされて終わった。

そも、他者として面白みのない存在には興味無い、と答えられた。

 

(そもそも他人への興味が薄いタイプか……。)

 

恋バナも出来そうにないな、と思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は過ぎ。

輝夜に会うこと叶わず、1人、また1人と列から姿を消していき、段々と平穏が戻ってきた翁の家の周囲。

もはやこの町は輝夜を差し引いても賑わっている。

最初こそ、輝夜に会わせることもあったが数が増えすぎてしまったため、彼女の疲労、体調も鑑みて断ることにしたからだ。

最終的には会うのはほぼ老夫婦と梓たちのみになるほどだ。

それでもなお、5人の男は懸想していた。

石作皇子、車持皇子、右大臣阿部御主人、中納言石上麻呂、大納言大伴御行。

そして車持皇子とはあの藤原の少女の父親である。

今だに懸想する彼らを見て老夫婦は輝夜の元へと訪れていた。

会話の内容的に、梓ら4人は関与するところではなく、周辺警護でもしておこうか、と手分けしようとした所、輝夜、老夫婦共々それを引き止めた。

ここまで一緒にいてくれたから家族のようなものだ、であるなら大事な話に是非立ち会って欲しい、と。

断るほどのことでもないためか彼女らはそれに従った。

 

「であるから、輝夜よ。我らも老いている身、いつこの身が死するとも限らぬ。早々に世帯を持ってくれると安心できるのだ。」

 

しかし、輝夜はこれに険しい顔で応じる。

 

「爺さま、婆さま。男の心など麗しい者がいれば揺れ動くもの。そのような心を持つものをどうして愛せましょうか。」

 

無論、そのような男など言語両断だと翁はキッパリと言う。

故に輝夜に、夫婦になりたいと言った5人に試練を課すのだと言った。

輝夜はそれに、微笑みながら返す。

 

「それでは、かの者たちが私の示したものを持って来たならば夫婦の契りを交わしましょう。」

 

石作皇子には、仏の御石の鉢を。

車持皇子には、蓬莱の玉の枝を。

右大臣阿部御主人には、火鼠の皮衣を。

中納言石上麻呂には、燕の子安貝を。

大納言大伴御行には、龍の首の玉を。

それを持ってきたものと結婚すると、彼女は言った。

うん、うんと彼女の言葉に頷きつつ、これに了承した老夫婦はさっそくと、今日も今日とて外にいる彼らに伝えに行った。

その後、聖士と龍輝に町の警邏を、結にこの屋敷内の巡回を指示し、梓は輝夜の護衛に入った。

彼らもこの部屋から出ていき、2人がここに残される。

 

「愉悦の笑みが湛えている。隠しきれていないな、輝夜。」

「ふふ、そう、そうね。」

 

そう言いながら、彼女はどこからか5つの品を取り出した。

眩しく光る石の鉢、宝石のように輝く枝、火を纏っているのに燃え尽きる様子のない衣、普通よりも妙に小さい子安貝、不思議に輝く珠。

いずれも、5人に指定していたものだ。

 

「既にここにあるものを、どうして持ってこれるというのかしらね?」

 

嘲笑を浮かべる輝夜。笑顔は、とても冷たい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからまた時が経ち。ある夜に、街を歩いていた聖士と龍輝。

前から光を反射し、綺麗に見える枝を持った男が歩いてくるのに気がついた。車持皇子、藤原の父である。

 

「お主らか。どうだ、ひとつ酒でも?」

 

月光だけが大地を照らし、その光を反射するそれに照らされた彼の顔は、どこか晴れ晴れとした顔だった。

そこで2人は察した。ああ、恋敗れたあとなのだな、と。

彼の娘を助けた経緯からか、ここの関係は続いていた。

会えば飯や酒を共にしたり、世間話もしたもの。

失恋話を肴の酒くらいは付き合うか、と言うくらいには好感を持っていた。

彼らは何も言わず、それについて行った。

彼の屋敷に既に明かりは無く、3人は家の者を起こすことなく、静かに酒宴を開く。

とは言っても、それに肴はなく、龍輝に至っては酒ですらないが。

彼だけではなく、他の人も例外なく散々な結果になったこと、そして、彼の失恋話。

それをぽつぽつと話している。その傍らには、贋作の蓬莱の玉の枝が。

 

「……我が身は1人のものでなく。故に贋作を仕立てた。かの輝夜姫が惑わされればよし、こうして今、民の笑いものになるもよし、と。そうおもったのだ。」

 

目を細め、呟く。

 

「しかし、な。今思えばこれで良かったのだろう。己が懸想した女が、贋作に惑わされるなど……。」

 

彼はここまでで、言葉を詰まらせ、酒を口へと運んだ。

聖士はそれによって空になった杯に、酒を注ぐ。

 

「……私は、恋に敗れた。もはやこの恋は、終わったのだ。」

 

だと言うのに、彼の頬に冷たい雫が伝う。

もはや語る言葉はない。静かに、酒を飲む音が暗闇に響いた。

"車持皇子"にいたっては、飲み込み難い事実を、無理矢理酒で流しこんでいるような。

そのような空気感があった。

 

「……大丈夫ですて。めっちゃいい人ですし、これが最後なわけじゃないっすから。またいい人、見つかりますよ。」

 

龍輝は彼を、素晴らしく出来た人だと、好感が持てた。

空気を読まない発言かもしれないが、それでも、悲しみにくれる彼をみて、そう言わずには居られなかった。

 

「……礼を言うよ。」

 

短く、彼はそう返答した。静かに、時はすぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから数年。輝夜が天皇と文通し始めて、時が経つにつれ彼女の顔には陰鬱な表情が浮かぶようになった。

その旨を、老夫婦に相談された梓と結。年頃の女性同士、なにか通じ合うところがあるかもしれないと、そう感じて。

理由を、2人は察している。しかし、それを告げることはしない。

ひとつ、本人に聞いてみてはどうだ、と言ったくらいだ。

老夫婦はそれにうん、うんと頷き、決心したように彼女に問う。

その理由を聞けるならば、2人も同席して欲しいと言われ、4人は輝夜の部屋を訪れた。

外へと続く襖は開かれ、月が顔を覗かせている。

それに照らされる表情は、なにか悩ましげだ。

理由を問うと、輝夜は少しの沈黙の後、告げた。

 

「私はあの月からここへ来たのです。罪を犯した咎人として、償いのために。次の十六夜の月に、償いを終えて月へと帰ることになっているのです。」

 

老夫婦は、一気に老け込んだようにみえるほどに、その顔に絶望が浮かんでいた。

 

「こんなにも永く共に過ごして……こんなにも綺麗に育って……。」

「老い先短い私たちは、姫が幸せにしているのを見ながら死ねると……。」

「……何故……。」

 

老夫婦の声は段々と小さく萎れていく。

ふら、と立ち上がり、幽鬼のような足取りで、2人は部屋を出ていった。

何かあっては困るか、と梓は2人の行先が気になっている結について行くように指示。

いつぞやのように、ここにはふたりが残された。

 

「……驚かないのね。まるで知っていたみたい。」

「そうだな。」

 

あっさりと、梓はそう答えた。

 

「私は永く世界を渡り歩く者でな。"とある男ら"に出会った時、そういう"眼"を理解した。それだけだ。」

 

それ故に、"この物語の流れを知っている"という要因を除いても、こうなることがわかっていたらしい。

 

「不思議な存在ね。最初に見た時から思ってたけど、穢れがないのよ。」

「そう見えるか。」

 

穢れとは、生きることと、死ぬことそのものだと思って構わない。そういう概念だ。

特に、生きるために死を作り出さなければならない状態のことを穢れている状態とする。

つまり、この地球は、生きる為に弱肉強食が起き、進化をし続けているここは、まさに穢れている世界だ、と言える。

輝夜が言う月の民は、それを嫌悪して月に移住した。

それがない存在。明らかに特異的だった。

 

「梓。貴女には、何が"見えている"のかしら。」

「さて、な。どうあれ、私は私の思うように動く。」

 

ふっ、と笑って梓はそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

そんなことがあろうと、月日というのは残酷にも過ぎていく。

輝夜が月に帰ると、そう言った話は天皇にも伝わっていた。

文通しているのだ、そこでそういった話題が出たのだろう。

それからというもの、天皇の動き、そして翁の決断も早い。

双方、輝夜を帰らせてなるものか、と動いたのだ。

翁は兵を雇い、その上で使用人も動員。

天皇は軍を動かし、数千もの兵が訪れている。

 

(すごい人の数だ……。)

 

外に出ていた聖士は、人の流れを見てそう思った。

最近街がザワついている、ということは認識していた。

だが、ここまでのことだとは思っていなかったのだ。

十分配置が済んだのか、翁の家の入口自体は通行できる。

帰ることも出来るが、さてどうしたものか、と思っていたその時、目の前から車持皇子がやってきた。

どうやら翁の家に向かうところらしい。

 

「月に帰ると聞いてな。見送りくらいせねばと思ったわけだ。……帰る姿を見れば、思いも断ち切れるというものだ。」

 

贋の蓬莱の枝を持ちながら、そう言った。聖士はそれに同行し、翁の家へと戻る。

別れの宴だ、と車持皇子は付き人に豪勢な料理を作り、兵を含めた皆に振舞った。

最も、別れの宴としていたのはごく1部。

翁やその使用人、兵たちは月の迎えを追い返すための景気付けとしていたようだ。

その、端で。

 

「結さんと神成さんも手伝ってくれんか、俺一人じゃどうにも出来んかもしれん。」

 

聖士に、龍輝はそう持ちかけた。

曰く、このまま穏便に終わるとは思えない、ということだ。

彼はこの物語の細部が、自身が知るものとズレていると感じていた。

特に、車持皇子が、だ。こんなにいい人ではなかったはずなのだ。

職人たちに報酬を与えなかったり、失敗した後には彼らを逆恨みしたなどとそう言った場面があったと。

結と聖士は確かにそうだったかもしれない、と感じた。

そうしたズレがある以上、結末にも影響があるのではと考えたのだ。

 

「梓はなんて言ってた?」

 

そういった事は1番長く生きている梓に聞くのが1番早い話。

そこは龍輝も理解しているらしく、既に聞いていたらしい。

その時、梓が言ったのは"結末が変わったこともあったが、世界の流れが変わるほどの変化はなかった"と答えた。

不安は増大した、と語る。

このままでは、車持皇子が死んでしまうような気がしてならないと、彼は感じていた。

その準備が杞憂なら笑い話になるから、と言う。

 

「んー、まあ、梓次第かな。」

 

結はそう答えた。梓がどう動くかで行動方針を決めるらしい。

結自身が見てきた彼女を思えば、きっとそっちの方が面白くなりそうだから、との事。

 

「まぁ、了解。何かありそうなら守ればいいってことだろ。」

「頼むわ。」

 

そもそも、目の前で危険に陥った知り合いが入れば守りに入るということは元よりするタイプではあるが、それを了承した。

ちら、と梓の方を見る。彼女は酒も飲まず、輝夜の隣にいる。

仮面と装備を着用していることを見るに、仕事中、ということだろう。今はなにか相談できそうにない。

仕方ないか、と食事を楽しむことにした。

 

そして、夜も更け、十六夜。

 

日が落ちそうな頃から、皆は配置についていた。

追い返す、討ち取る、なんだっていい。輝夜をこの地に引き止めるために、人々の意思は同じくとして立つ。

今か今かと待ち、誰が呟いたか、今日は月が明るいな、とそう呟いた時。

月に、ある船が浮かんでいた。否、空を飛んでいたのだ。

月からこっちへと向かってくる。時代か、"船"だと認識できたのはそれを知る輝夜と、現代を知る4人だけだった。

それ故に兵たちは恐れる。しかし、恐れようとも彼らは兵。

1人の大きな声とともに、弓による射撃を開始した。

龍輝の、待て、という声は届かなかった。

 

(なんで話し合いから始めようと思わんねやこいつら!!)

 

とはいえ、もう既に数千もの兵は臨戦態勢だ。

 

「仕方ないだろ。手の届く範囲だけでも御の字としよう。」

「……わかってる。」

 

幸いにも、まだ月の船からの反撃はない。安心は出来ないが、ひとまずは良しか。

その船から、人が現れる。恰幅のいい服装の男だった。傍らには、銃を持った月の兵が十数名。

船から地へと舞い降り、語る。輝夜を迎えにきた月の者だ、と。

 

「穢れた地上の民の身でありながら無事に輝夜を育てたこと、大儀である。」

 

その次を告げようとした時、その額へと石が投げつけられた。

なにかの力に阻まれ、当たることは無かったが、恰幅のいい服装の男は、投げたものは誰かと目線をそちらへ。

居たのは、翁だった。懐から、片手で持てる銃を取り出し、それは翁に向けられ、軽い破裂音を立てた。

それと共に、転がる身が3つ、そして甲高い金属音。

運が悪かった、としか言いようがない。翁と、その妻。そして、車持皇子。その3人がたまたま直線上に居り、その頭を貫いた。

さらにその先には、車持皇子の娘がいた。幸いにもこちらには聖士が間に合っており、その弾を盾で防ぐことが出来ていた。

それを始点として、月の民と、地上の兵たちは戦争を始めた。

その様を見た、龍輝は。

言葉を発することもせず、手にした刀を抜いて走り出していた。

あの、弾を放った男を討たんとして。

結は。呆然と3つの死体を見ていた。行動を、取れてはいない。

恐れているという訳では無い。ただ、それを見ていた。

 

「聖士。」

 

梓のそんな声が届いたかと思えば、飛び上がり、結の近くの地面に何かを叩きつける。

それは盾のようななにかであり、ズガン、と叩きつけた時に大きな音を立てたかと思えば展開し、小さな城壁のように結の1面を守護した。

 

「頼んだ。」

 

そう言って、梓は再び飛び上がり、戦闘へと参加。

聖士は藤原の娘の手を取って結がいる、梓が立てた城壁の裏へ。

呆然とする2人を、守り通すとした。

 

「さて──余興だ、1時戯れてやる。足掻いて見せろ。」

 

そう言いながら、強烈な威圧感とともに抑えていた力を解放した梓。

親玉の元へと激昂しながら一直線に向かう彼を援護しながら兵を蹴散らすために、それを放つ。

瞳の前に光の渦のようなものが発生し、それが収縮したかと思えば、夥しい数の光の帯が発生、急角度で曲がり、龍輝を止めようとする兵たちへと襲いかかった。

その様はまるで雨。抵抗する、避けるといった次元ではなく、いとも簡単に兵たちは蹴散らされていく。

龍輝はそれが見えていないほど感情が昂っているのか、それとも何となく梓の援護だとわかっているのか、足を止めない。

 

「結!ッ!なぁ結!!しっかりしてくれ!!」

 

聖士は流れ弾を防ぎながら、複数名の兵の攻撃を捌きながら結へと語りかける。

ここはもう既に戦場だ。呆然としている場合では無い。

2人を守りながらでは捌くのが精一杯で、それも少し綻びが出来れば危険なことは明らか。

結だけでも動いてくれ、自分より強いんだから、と。

その意志を込めて名前を呼ぶ。

 

「あー……。」

 

すっ、と結は動いた。そこは弾の射線上だ。今いる位置は、藤原の娘の近く。聖士は、2択を迫られる。

藤原の娘か、結か。一瞬判断が遅れた。

その瞬間に、結に向かって弾を撃ち込まれた。

まずい、と思ったが、着弾の直前、光の帯がそれを叩き落とし、結へのダメージを防いだ。

さらに多くの光の帯は近くの月の兵を蹴散らし、安全になった。

 

(梓か!ごめん助かった!)

 

内心で謝罪と礼を短くした。一瞬の安心、そして警戒。

結は、倒れている翁へと目線を向けていた。

 

「死ぬんだね。人って、こんなに、簡単に。」

 

そう、呟いた。聖士も、それを少し思った。

今まではどこか、現実離れしていたからか、実感していなかった。

人の死、というものを。

友人という存在からか、そう思えてはいなかったが、今までは梓の庇護下にいたのだ。

それにより、こういった場面には1度も遭遇しなかった。

頭では理解していても、凄惨な人の死、というのを目の当たりにしたのは初めてだ。

 

「立てて、あげないと。お墓。」

「……そうだな。ここ、乗り越えたらな。」

 

光の帯の雨が降る中、2人はそう一言だけ言い合い、梓の立てた小さな城壁へと3つの死体を運び、それらと、藤原の娘の守護に回った。

場面を変え、龍輝と梓。

龍輝は駆け、月の民の男の元へと近づいていた。

鬱陶しそうな顔をしたあと、顎をくい、と龍輝の方へと向ける。

龍輝はその隙に肉薄、抜いた刀を、首へと目掛けて振り抜こうとした。

その時、真っ青な顔色の、抱き抱えるように長い銃を持った女性が、目の前に立ちはだかった。

月の民の少女の兵だ。恰幅のいい彼の近衛兵か。戦争は初めてか、何かは不明だ。

それでも、彼を守ろうとして立つ。しかしそこから何をしたらいいかは分かっていない。怯えて、震えている。

龍輝は、一瞬考えた。

戦意のない少女を巻き込む訳にはいかない。しかしこのままでは振り抜けない。と。

男は、また銃を構える。今度は、龍輝に。バリアを張りながら。

しかし、突如影が前を通る。

 

「君はこっちだ、少女よ。」

 

梓だ。高速で前を横切りながら男の周囲に展開するバリアを砕き割り、手にした銃を奪い取った上で少女をその前から退かせたのだ。

その瞬間、目線が龍輝の方へ向き、一言だけ伝えられた。

 

「貸しだ。あとは好きにしろ。」

 

そのまま少女を連れ去ってどこかへ行った。

一連の流れに一瞬正気に戻ったが、それでも車持皇子を殺したという事実に激昂していることには変わらない。

驚き、戸惑う男に、そのまま首へと向けて刀を振り抜く。

切れ味が余程いいのか、それとも彼が剛力なのか。

否、そのどちらもだ。それが理由だろう、ほぼ手に感触すらないほど簡単に刃は通り、首を撥ねた。

首が宙を舞い、ゴト、と地に落ちる。2つの斬られた首の断面からはとめどなく血が噴出していた。辺りを血で汚す。

 

「どっちが穢れてんねん……。」

 

物言わぬそれに、そう言った。その間も、争いは続いていた。

ついには、梓ら4人と、藤原の少女だけしか、動くものはいなかった。

月の民の装備が強いことも去ることながら、その未知の力というのも相まって終始劣勢。人間側は簡単にほぼ全滅してしまったのだ。

そして梓の光の帯の雨は残った月の民の全てを蹴散らした。

 

「して、貴様はどうする。」

 

梓が言葉をなげかけた方向には、1人の女性が、蓬莱の玉の枝を持ってそこに立っていた。その傍らには、輝夜もいた。

 

「……私たちは、月から逃げて地上で暮らすつもりよ。」

 

警戒した目で梓を見ながら、その女性は言った。名を、永琳というらしい。

彼女らの近くには、数名の月の民の死体が転がっている。

月の船に乗ってやってきて、監視だか輝夜の迎え役だかを殺してここに降りたのだろう。

 

「ではここで貴様を殺すと言ったら?」

「無理ね。」

「貴様の不老不死の定義は"知っている"。その上で殺すと言ってるんだがな。」

「なにを……。」

「永琳、本当よ。恐らくだけど。」

 

ビリビリと肌で感じるほどの警戒心と、梓の重圧。

 

「……ふっ、冗談だ。気分じゃあない。」

 

笑いながら、その重圧を解いた。

 

「本当に、貴女は何者なのかしらね。」

「私は私だ。」

「……そう。」

 

輝夜はその後、永琳から蓬莱の玉の枝を受け取り、3つに折ると、3つの死体の胸へと、置いた。

そうして、2人は月の船に乗り込んだ。

恐らくだが、翁がこうした行動を取らなかったとしても、月の船を奪ってどこかへ去るという計画はしていたんだろう。

もしかしたら、月の民と人間との戦争すらも、読んでいたのかもしれない。

 

「困ったら私を探せ。もしくは八雲 紫という者を。」

 

月の船が去っていく直前、梓は2人へそう、言葉をなげかけた。

2人はそれを聞いたあと、船を動かし、どこかへと消えていった。

 

「……。」

 

結は、血だらけになってしまった庭に、魔力を使って穴を掘り始めた。

言葉なく、迷いなく龍輝はそれを手伝う。3人を、弔うために。

聖士は、藤原の少女手を握って、彼女と共に居た。

そこからは何をしたらいいか分からないのか、それだけだ。

少女は、薄暗い目で、それらの様子を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれからしばらく。4人は藤原の少女。妹紅を放っておく訳にも行かず、世話をしてその屋敷にとどまっていた。

父が死んだのがよっぽどこたえているようで、油断すれば食事すら妹紅はとろうとしない時がある。

何とか出来ないか、と、龍輝と聖士は思った。

だが、彼らにどうにかしようとした所で思い当たる手段がない。

2人は梓に相談してみようと、彼女を探す。梓は妹紅の元にいた。

 

「手を出せ、妹紅。」

 

暗い表情のまま、疑問そうな顔で両手を梓に差し出す。

それを優しく握る梓。

 

「覚えろ。」

 

そのまま、魔力だろうか、その力の出し方などを直接魔力の流れで感じさせているのだろう。

妹紅は、不思議そうな顔で、それを感じ取っていた。

 

「……あとは妹紅次第だ。好きに使え。」

 

妹紅は、分け与えられた感覚を、手を握ったり離したりして、確かめるように眺めていた。

そのあとに梓に相談してみたが、こういうことは己で乗り越えるしかない。

強いてできることがあるとすれば、暖かみを与えてやれ、と言った。

それがわからないから困っているんだが、と聖士と龍輝は顔を見合せた。

その時、戸を叩く音がした。玄関からだ。

戸を開くと、身なりのいい男性がそこにいた。

 

「輝夜の護衛についていた、あの女性はどこか。」

 

梓か結のことか、と2人は彼女らを呼んだ。仮面をつけた状態で、2人は現れる。

 

「貴女に、これを。」

 

1つの手紙と、1つの箱を梓に渡した。その後は直ぐに、特に何を言うでもなく去っていった。

梓は、手紙を読み進めると、ふむ、と呟いて出かける準備を始めた。

 

「準備しろ、戻るぞ。」

「え、急に?」

 

手紙の内容をまとめると。

・輝夜姫から不老不死の薬が届いた。

・でも輝夜姫が居ないなら不老不死になるつもりは無い。

・輝夜の隣にいて、違った光を放っていた梓に、とある場所で処分を頼みたい。

ということらしい。その場所とは富士の山。富士山だ。

で、あるならそこからしばらく向こうで元の拠点に戻ることが出来る。

ならばちょうどいい節目だし、もう帰ろう、ということだ。

 

「妹紅はどうするんだ。」

 

梓は連れていく、や置いていく、ではなく。好きにさせるといい、と答えた。

父親が死んでしまい、彼女は1人で生きていく道も選ぶことができるし、望まれていなかったとはいえ、元の藤原の家系に世話になることも出来る。

今ここで1人である以上、この先も選択の時が来るわけだし、彼女に選ばさせろ、ということらしい。

 

「……。」

 

言葉を答えるでは無いが、立ち上がった。恐らく着いていく、という意思だろう。

聖士達は、その意思を尊重し、連れていくことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長い道のりを歩いた。富士山の麓で梓は3人と別れ、その山を登っていた。妹紅と、共に。

梓はその不老不死の薬の処理に向かうが、3人は人里に戻っておけ、と帰した。

用は薬の処理だけだし、着いてくることもない、という感じだ。

あとは、早めに帰って、元々いた場所がどうなっているかの確認も聖士に頼んでいた。

妹紅も当然、3人について行くのか、と思いきや、梓の後ろを着いていく意志を見せた。

危険だ、と諭したが意思は固いのか、梓の後ろを離れない。

梓は何かを察したのか、着いてくることを許可した。

そうして今に至る、というわけだ。

梓の後ろを着いていく妹紅は確かめるように、魔力を掌に、握ったり、話したりを繰り返している。

崖が近い、その場所に差し掛かった。

 

「……雨か。」

 

雲は少なく、日は差しているのにも関わらず雨が降り始めた。

狐の嫁入りか、とあまり強い雨では無いが、さっさと終わらせるか、と思ったその時。

妹紅が、急に動いた。

 

「相手を考えて行動しろ、妹紅。」

 

背中に体当たりするつもりだったのだろう、後ろから勢いよく梓に向かっていったが、それを避けられ、首根っこを掴まれて持ち上げられた。

じたばたと暴れながらも、1つを狙って手を伸ばす。

 

「狙いはこれだろう、最初から。」

 

不老不死の薬が入ったであろう箱を目の前にチラつかせる。

ギクリ、と動きを止めて妹紅は項垂れた。

 

「言えばよかっただろう、私に。」

 

地上に妹紅を下ろすが、彼女は俯いたままだ。

 

「……覚悟ができてるなら好きにしろ、私はこれに関して強い思いは無い。」

 

そう言って、目の前に箱を置く。少し戸惑って、箱と梓を交互に見る妹紅。

梓は、特に何も答えない。

何を思ってかは分からない。しかし、妹紅は、その手を不老不死の薬に伸ばし、それを飲んだ。

魔力だろうか、それが妹紅の体から出始めた。

それは次第に赤く、そして揺らめく。手から魔力を発すると、それは炎となった。

感情の籠らない、暗い目で、その炎を見つめる。

つぅ、と涙が、頬を伝った。父親を亡くして、初めての涙だった。

涙は頬から落ちると、魔力によって蒸発し、一筋の煙を出した。細い、とても細いものだ。

 

「……!!」

 

言葉はなく、梓は妹紅を抱き寄せた。

 

「うゔ……ぅうゔゔ……!!」

 

それを皮切りに、止めどなく、涙が溢れる。雨は激しさを増し、2人へと降り注ぐ。

しかし、妹紅の魔力により、どれだけ注いでも2人が濡れることはなく、その分だけ煙を空へと登らせた。

 

「……妹紅。この後、貴女は1人で生きるつもりなのでしょう。それを私は止めはしない。でも、この先。どうしても困ったことがあれば。どうしようも無いことが、あなたの心を侵すなら。私を探すといい。」

 

そう言って、背を撫でる。妹紅は、声を上げて、泣いていた。

その涙も、降り注ぐ雨も、全て魔力に消えて煙を上げる。富士の山から登るその煙は太くなり、麓からも、遠くからも見えるほどになった。

それを見た、天皇は、不老不死の薬が、燃えている煙だ、と呟いたと言う。

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