東方想転叶   作:楽園の主

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短めです。


第3話 ─大戦、愚かな参戦─

 

「お出かけになられるのですか?」

「うん。」

 

梓が諏訪子と共に暮らすようになってからしばらく。

あまり用があって出かけると言ったことがない諏訪子はそう言った。

それもいつ帰るかわからないという。

なんの用かは梓に伝わることは無かった。

 

「私はいつも通りでよろしいのですか?」

「うん、それでいいよ。自由にしてて。」

 

そう言いながら立ち上がり、彼女は外へと向かう。

 

「じゃ、いってくるね。」

「……ええ、いってらっしゃいませ。」

 

いつもの笑顔のようで、少し張りつけたようなそれは、察するに十分だった。

梓はそれを笑顔で返し、彼女を見送った。

 

(……今日か、諏訪大戦は。)

 

戦力として民や、梓自身を呼ばないあたり、一騎打ちということなんだろう、と彼女は悟った。

大戦と言う割には一騎打ちなんだな、とも少し思った。

 

(……私に何も言わず出た。なら私は私の生活をするとしよう。)

 

彼女の配慮を無下にすることもないし、一騎打ちに水を差すのも良くないかもしれないと思い、通常通りの行動をすることに。

どこからか取りだした武器を手に立ち上がり、体を動かすために出かけることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……来たね。」

「ああ、待ったか?」

 

先に来たのは諏訪子、後に来たのは相手だ。

 

「答えを変えるつもりは無いと?」

「当たり前だよ。私の国を渡すわけが無い。」

 

2つの国の覇権を賭けた戦い。それが今始まるのだ。

 

「改めて。大和が神の一柱、神奈子だ。」

 

八坂 神奈子。日本の神道の神の一柱にして風雨の神である。

純粋に信仰のみによって存在する諏訪子とは違い、元は人間の霊だったという。

紫がかった深い青髪をしており、長さは肩より少し上。

瞳は茶色に近い赤眼で、頭に着けた冠のような注連縄の右側には赤い楓と銀杏の装飾がついていた。

服装は全体的に赤いシルエットで、上着は赤色の半袖。袖口は金属の留め具で留めている。

上着の下には、白色のゆったりした長袖の服を着用。

スカートは、臙脂色のロングスカート。裾は赤色に分かれており、梅の花のような模様が描かれていた。

 

「……悪趣味な装飾だね。当て付けか?」

「おや、そう取ったのなら申し訳ない。縁起を担いだだけで、他意はないのだが。」

 

腕を組んでにや、と笑いながら神奈子は返した。

諏訪子が悪趣味な装飾と言ったのは注連縄のことだ。

神奈子の頭の装飾はもちろん、その他にも小さな注連縄が首元、白い長袖上着の袖、腰回り、足首、とあちこちに巻かれていた。

さらに大きな円状のそれが背に装備されている。

注連縄は蛇が絡まっている姿を表現していて、脱皮を繰り返す蛇の姿から「再生、永遠」を示している。

それを諏訪子はミシャグジ様の恐怖へ対抗するように見え、さらに蛇は蛙を食らうということから嫌味に見えたようだ。

 

「……ま、こちらこそ改めて。洩矢 諏訪子だよ。」

 

仕方なく、と言ったように諏訪子も同じく名前を返した。

 

「能書きはもういいか。」

「……ああ、そうだな。」

 

お互いに殺意が発せられる。

もし生き物がその間にいたのなら、ひとたまりもないほどに。

 

「いざ!」

 

土着神話VS中央神話。諏訪大戦の開幕。

自国を守らんとする諏訪子と、全国を統一せんとする神奈子が衝突する───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時を同じくして。

 

「始まったか。」

 

諏訪大社の中で休む彼女はそう呟く。

諏訪の国からはるか遠くだが、強烈な力のぶつかり合いをかすかに梓は感じた。

それに対し、彼女は諏訪子の身を案じていた。

 

(諏訪子様も神だ。強烈な力を持ってることに疑いの余地はない。しかし相手も神だ。どうなるかはわからない。)

 

相手が中央神話なのは彼女にも知識として備わっているため、そこはわかっていた。

しかし、その相手がどんな神なのかとか、どんな能力を使うのかとか。

そういった類は全くわからない。

しかしなんとなく、直感的に。諏訪子が、危ないのでは、と感じていたのだ。

 

(……生きるためなら、わざわざ神同士の力のぶつかり合いに飛び込むなんてしない方がいいのはわかっている。)

 

自由に生きるためという自身の思いに法るならば、そのような命を脅かす危険な場へと突撃する意味なんてない。

その行為が非合理極まりないことはわかっていた。

しかし、彼女としては諏訪子の身が心配なのだ。

相手の要求は全国の統一のためと考えるなら、力を誇示するためにもおそらく諏訪子は生かされるだろう。

しかしそれも予測でしかない。

諏訪子の命をとり、国だけを取っていくかもしれない。

諏訪子の命が取られなかったとしても、彼女は無事ではいないだろう。

"諏訪大戦の行く末をわかっているからこそ"彼女が心配なのだ。

 

(……しかし……。)

 

お互いが無事で、それでいて双方が納得いくような、そんな結果があるはずなのだ。

少し考えれば、思いつくような、そんな案が。

 

「……!」

 

その時、相手の気が大きくなり、諏訪子の気が少し揺らいだのを感じた。

 

「……〜!私は本当に馬鹿だな!」

 

そんなことを考えながら、彼女は武器を手に取り、走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(まさかここまでとは……。)

 

つぅ、と冷や汗をかく諏訪子。防戦一方だからである。

力の差がそこそこ大きく、さらに、方向性的に苦手な相手なのだ。

そもそも諏訪子は祟り神の類で、神奈子は戦っている限りわかるのが物理的に力が強い神だ。

素で力負けしているのだ。

それに加え、鉄製の輪など、この時代では最先端の武器も使っているのだが、神奈子が細い植物の蔓をかざすとそれは錆びて朽ちてしまう。

 

(……そもそも鉄の性能自体あっちの方が上だったか。)

 

それに加え、相手が武器を使い、こちらの武器とぶつかるとこちらが砕けてしまうのだ。

諏訪子は自然発生する湖沼鉄を低温の炉で溶解して作る古い製鉄技術を使っているのに対して、神奈子は野たたらと砂鉄を使った高温炉による新しい製鉄技術を使っていた。

なお、野たたら方式の方が純度の高い鉄が精製できる。

 

(総力戦だったら絶対すぐ負けてたな……。)

 

そんなことをふと思い、民をぶつけ合うことなく、無事でいることを少し安堵した。

 

「おらッ!!」

「ゔッ!!」

 

神奈子の重い一撃が諏訪子の鳩尾にまともに当たり、吹き飛ばされて地面を跳ねた。

空中で何とか体勢を戻し、地に足をつけてすぐさま鉄の輪で反撃、すぐさま2体のミシャグジ様左右に出した。

神奈子はまた細い植物の蔓をかざし、飛んできた鉄の輪を朽ちさせた。

 

「諦めが悪いな!」

「祟り神だからね!!」

 

そう言いながら手を前に勢いよく出すとミシャグジ様が神奈子へと向かう。

神奈子は両手に神力で輪っかを作り、それを投げた。

投げた瞬間、手のひらサイズだったそれは巨大化してミシャグジ様へと飛来する。

片方は簡単に避けたもののもう片方のミシャグジ様は掠めるように避け、勢いそのまま神奈子へ向かう。

神奈子は右から来たそれを回避、左から来たそれを右手で殴りあげて軌道を変えた。

 

「はっ!!」

 

その後、左手を振るうと下からいくつもの光線が空へと登る。

それがミシャグジ様を攻撃した。

さらにその瞬間に神奈子は諏訪子との距離を詰めようと迫る。

諏訪子は右手をミシャグジ様にこちらへ帰ってくるよう指示を出すように振るいつつ、左手を勢いよくあげる。

すると、地面が局所的にいきなり隆起。

いくつもおきるそれによって神奈子を攻撃しようとした。

 

「甘いッ!」

 

途中で神奈子は止まり、足を強く地面にぶつけ、踏みつける。

すると強烈な音と共に地面を砕き、宙へと飛んだ。

 

(うまいな……!)

 

足を地面にぶつけつつ、神力によって諏訪子の攻撃を防ぎ、遅らせ、さらに空に出ることによって回避したのだ。

諏訪子は宙へと飛んだ神奈子を、ミシャグジ様で狙い打つ。

しかし、神奈子は空中で急加速。諏訪子との距離を詰めた。

そして、即座に諏訪子の左頬を横に殴打し、怯ませ、右手で顎を殴りあげる。

それによって少しだけ浮いた諏訪子を左手で追撃し、さらに神力による光線。

それらを、諏訪子は全て受けて吹き飛ばされる。

地を跳ね、接地後は滑るように。

止まった後、諏訪子は立ち上がろうとした。

傷が多く、震える腕で必死に力を込めて。

ぽたぽたと流れ落ちる血が、地を濡らす。

 

「くっ……!」

 

途中、目線をあげるとそこには神奈子がいた。

自分はまだ立ち上がってる途中。相手は見下ろしていて、もう既に構えており、神力による弾も用意されていた。

 

(……ああ、負けたな……。)

 

神力の消費も多く、ミシャグジ様は既に顕現させることができず、消えてしまっていた。

ここまで構えられると防御も割られてしまう。

負けを感じ、次に来る衝撃に目線を下へと落とした。

 

「!!」

 

その瞬間、雷が走るような音と共に何かが飛来し、神奈子の弾にぶつかって相殺された。

 

「なにっ!?」

 

飛来してきた方向、神奈子の斜め上前方を見上げる。

その瞬間、何かが神奈子へと一直線に迫っていた。

それは槍のような、雷だった。

後ろへ飛び、神奈子はそれを避けると、神奈子が先程居た場所の地面へとそれは突き刺さり、弾けた。

そして、諏訪子の元へ、歩いてその者は現れた。

 

「……何者だ。」

 

神奈子が顔に怪訝の相を浮かべながら警戒する。

帯電していた腕を払うように振り、雷を消しながら答えた。

 

「……諏訪子様の同居人、です。」

 

その正体は、梓だ。

 

「梓、なんで……。」

「あの笑顔を見た時、今日がその日なのだな、と思いまして。それに、神と神の力のぶつかり合い。離れていても分かりますよ。」

 

諏訪子の方を向いて少しだけ笑みを浮かべながら、そう答える。

諏訪子に寄り、立ち上がらせようとした。

 

「……そっか、ありがと。でも、これは私の戦いだから……!」

 

梓から差し伸べられた手を払い無理矢理立ち上がる。

ふら、とふらつく体は誰が見ても立っているのが精一杯だとわかる。

 

「大丈夫だから……梓は、下がってて……。」

 

額から流れる血に目を細めつつも、梓を押しのけて前に立ち、神奈子を見据える。

 

「話にならないな。これ以上続けても私の勝ちは揺るがないぞ。」

「さぁどうだろうね。祟り神ってのは嫉妬深く執念深いんだ。それに"手負い"ってのが1番怖い、というのはよく知られているだろうに。」

 

梓の前だからか、見え透いた虚勢を張る。

負けるのは諏訪子にも分かっていた。だがそれでも、戦わなければならないのだ。と、そう思っていた。

 

「大和の神よ、提案があります。」

「なんだ。」

 

視線を神奈子へと移し、そう言い放つ。

 

「諏訪子様の代わりに、私と戦ってはくれませんか。」

「ちょ、何言ってんの梓!?」

 

てっきり諏訪子は自分を回収し、連れ帰るために梓は来たのだと思っていた。

蓋を開けてみれば戦いに来たわけだ。それは驚いて当たり前である。

 

「理由を聞こうか。」

「私が今戦いを辞める提案をしても、諏訪の国にいる凡百の存在である者の意見になど耳を貸さないだろう。」

「ああ、そうだな。」

「であるならば、凡百の存在ではないと、話を聞くに足る力を持つものだと証明する。どうです?」

 

ふむ、と言いながら腕を組み、神奈子は少し考える。

たしかに諏訪子との戦いで消耗はしているが傷はほとんど受けてはいない。

残る力は矮小な存在を潰すには有り余るほどだ。

そして目の前の女は仮にも真剣勝負に水を差した。

まぁ、神奈子にそこまでの意識はないが、理由を並べるに十分だ。

まぁ、戯れ程度にはなるか、と考え。

 

「いいだろう、受けよう。」

「感謝致します。」

 

礼儀正しく、神奈子に一礼で返した。

 

「駄目だよ梓、私でも勝てなかったのに……。」

「ご安心下さい諏訪子様。」

 

言葉を続けながら諏訪子へと向き直る。

 

「なにも大和の神を討ち取ろうとする訳では無いのです。力を示す、それだけです。」

「でも……って、何を言っても止まらなさそうだね。」

「はい。失礼ながら、諏訪子様が心配ですから。」

「……はぁ、わかったよ。……頑張れ。」

 

諏訪子はそう言いながらぽふ、と梓のに触れたあと、力を抜いて地へと座った。

 

「はい。」

 

梓は諏訪子を残して歩き、神奈子の前に立つ。

 

「終わったか?」

「はい。すみません、お待たせ致しました。」

「いや、構わない。それと1つ。わかっているとは思うが───」

 

神奈子は組んでいた腕を戻し、神力を大きく上げた。

 

「私は君を殺すが、それでいいな?」

 

強烈な威圧感とともに、神奈子はそう言った。

君を殺すつもりで行く。力が足りねば死ぬぞ、と言ったのだ。

それに対して表情ひとつ変えず、梓は独特な構えをとった。

 

「もちろんです。そうでなければ意味が無い。」

 

その言葉に、神奈子はふっ、と笑った。

 

「名乗っていなかったな。大和の神が一柱、神奈子だ。」

「会話の中でお聞きしたと思いますが改めて。梓と申します。」

「梓か、覚えておこう。」

 

梓としては2回目の神との対峙。それも、今度は相手が最初から本気で殺すつもりで来ているのだ。

威圧感の訳が違うな、と思いつつも冷静に相手を見据える。

 

「参ります!」

「ああ、かかってこい。」

 

本来の歴史にはない、諏訪大戦の2回戦が今ここに始まった。

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