東方想転叶   作:楽園の主

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第5話 ─想いと未来─

「閃光の一撃よッ!!!」

 

刀が神奈子の目前に迫る。

避けるか防ぐか、とか。そんな思考をさせないほどの速さと気迫だった。

神奈子は反射で行動せざるを得なかった。

並大抵の者なら行動すらできないだろうが、そこはさすがと言ったところか、神奈子は瞬時に動く。

振り返りながら横薙ぎに拳を振るった。

 

「……やるじゃあないか。」

 

梓の放ったそれは神奈子の障壁を貫き、大きく軽減されたものの腹部を斬り裂いた。

斬り裂かれた傷を抑えながら笑い、梓を賞賛する神奈子。

 

「くっ──」

「梓!!!」

 

対して梓は神奈子の反撃があたり、神力による余波を全身に受けた。

幸いにも直撃はしなかったが、それでも膝をつくに値する程の威力。

神奈子の拳は横薙ぎに振るわれ、そのままなら梓は打ち抜かれて死んでいた。

横に振るわれ、一閃された刀は神奈子の拳に掠って弾き、軌道を変えることが出来ていたから直撃を避けられたのだ。

地に滴り、溜まっていく血が大打撃であることを物語る。

折れた刀は手放さないものの、膝と手を着き、少し押せば身も地に落ちそうなものだった。

諏訪子の心配する声が響く。先程の戦いで受けた傷は最低限治ったのだろう、梓の元へと走りよっていっていた。

 

「まさかここまで大きく傷を受けるとは思っていなかったよ。もう少し私の身がズレていたら、刀が折れていなかったら。正直に言おう、危険だった。」

 

ふぅ、と1つ息をつきつつ、梓から目線を外し、大きく横へ。

そこには折れた刀の刀身が刺さっていた。

 

「だが、私の反撃は当たらずとも掠ったようだな。反射で動いたから確実性はなかったが……結果は良しか。」

 

梓に近寄り、諏訪子は優しく触れる。

 

「なんであんな無謀なことをしたの?あいつに攻撃は当たっても反撃受けたら意味無いでしょ?」

 

心配はしているものの、それまでの戦い方を見るに梓らしくないといえばらしくない選択を選び、反撃を受けた彼女に叱責が先に口から出た。

諏訪子の言葉を投げかけられながらも梓は刀に光を集め、折れた刀身を擬似的に再現し、それを地面に突き立て、全身に力を込める。

 

「まだ、立てるッ……!」

 

梓は立ち上がった。

最後の一撃の後、尽きたと思われた光を放ちながら立ち上がる彼女に、神奈子は少し驚愕した。

力や光は確かにか細いものだったが、背中が語る闘志は未だ強かった。

血塗れになりながらも立ち上がって振り返り、強い眼差しで神奈子を見据える梓。

 

「梓、もういい、もういいから。元より私が負けてたんだ。もう、戦わなくていい。」

 

諏訪子は手が梓の血で汚れることも構わず、すっと梓の胸に手を当て、止めるために言葉をかける。

その様は、梓をなだめているようにも、呆れているようにも見えた。

諏訪子に視線を少しだけ向け、梓は言う。

 

「大丈夫です諏訪子様。まだ、手を全て失った訳ではありません。」

「……何をもって大丈夫って言ってんの?先は火を見るより明らかだよ。」

 

梓に対し、少しだけ怒りを感じた。

諏訪子の制止の言葉に耳を貸さず、力の多くを使い果たし、命を削り死に直面しているともいえる。

その状態で大丈夫だと言うのだから嘘も甚だしいと怒りを感じたのだ。

 

(血はかなり失ってる、力もあまり残ってない。択はほぼない、でも全く無いわけじゃない。私はまだ立っている。戦える。)

 

ふらつく足、霞む視界。しかしまだ彼女は戦うつもりだった。

痛みは最早麻痺しており、現在は感じていない。

だからこそ、まだ立ちあがろうとすることが出来たのだ。

しかし、あまりの傷に本来なら立てないほどだ。

結果として、ほとんど気力のみで彼女は立っていた。

 

「凱歌にはまだ早い、大和の神よ。」

 

その姿に、神奈子は。

 

「……何が君を駆り立てる。」

 

神奈子の何者だ、という問いに梓は同居人だと答えたのだ。

神に遣えるものでもなく、巫女でもなく、信仰者でもなく。同居人、と答えた。

であるならば、何故ここまでするのか、神奈子には分からなかったのだ。

 

「命を賭けるに値することであり、やらねばならぬ時が今だと言うだけです。」

 

梓は口角を上げながら、強い意志でそう答えた。

そして次の一手に思考をめぐらせていた、その時。

 

「───負けたよ、私の負けだ。」

 

フッ、と笑いながら神奈子は2人にそう言った。

 

「神とそうでない者との戦いだ。私が圧倒しなければならないはず。それをここまで耐え、反撃してみせた。……お前の力量を認めぬ訳にはいくまい。」

 

腕を組んで目を細め、少し微笑みながら彼女はそう言った。

それを聞いた瞬間、安心からか刀の光は霧散し、梓の全身から力が抜ける。

諏訪子はそれを支えた。辛うじて片足くらいは少しだけ力が入っているものの、それ以外はほぼ全てを諏訪子に委ねていた。

 

「ありがとうございます。では、早速話を──」

「後日で構わないかな?神奈子。」

 

梓の言葉を遮り、諏訪子は言った。

 

「諏訪子様、しかし……。」

「梓は黙ってて!!」

「……はい、申し訳ありません。」

 

諏訪子の尋常ではない雰囲気と、大きな声。

それを見て梓はようやく引き下がった。

 

「もちろん、構わないとも。さすがにその傷を前に話し合いはできない。傷が癒える頃にまた来る。梓よ、その傷はいつ治せる。」

 

その言葉を聞き、自分の治癒力を考えて最低限の傷を治すことを想定し、答えを出す。

 

「1日…いえ、半日あれば治してみせます。」

「梓?」

 

無理をした答えを出した途端、体を支えてくれている諏訪子が怒気の籠った声をあげた。

それにビクリと体を跳ねらせて驚き、視線を諏訪子へ向ける。

 

「……私からも聞くよ。"完全に"傷を治すならどのくらいかかる?」

「……2日程、頂ければ可能で──」

「神奈子、3日くれるかな。この娘の回復を充分に行いたい。」

 

梓の言葉を遮り、神奈子にそう問う諏訪子。

彼女が尚のこと無理をした数字を出すことはわかっていたが故の日数提示である。

 

「諏訪子様、さすがにそこまでは……。」

「いや、構わないよ。ここまでやった者への敬意だ。そうだな、5日待とうか。傷は癒えても力は短期では治るまい。最低限回復するまで待つとも。」

「敬意だなんて私には勿体ない……それに5日も待たせるわけには。」

 

自分のために待たせるなんてとんでもないと考えてるのか、頑なに答えを急ごうとする彼女に対し、ふむ、と神奈子は1つ手を思いついた。

 

「そうだなぁ……他ならぬ神からのお言葉だぞ?それを聞かない、と?さすがにそれは、なぁ?」

「……ああそれもそうだね。ね、梓。頭が高くない?」

 

2人の鋭い目が梓を貫く。神奈子は口はニヤニヤと笑っている上に、雰囲気は柔らかい辺り、梓で遊んでいるようにも見えた。

諏訪子は少し本気のようだったが。

 

「くっ……わ、わかりました……では十全に回復致します。しばらく、お待ち願います。」

「それでいい。誠意はわかるがあまり好意を跳ね除けるものでもないぞ。」

 

渋々と言った形に近かった答えを出した梓に対して神奈子はケラケラと笑いながらそう告げた。

 

「……さて、と。では、5日後にまた来る。直接そちらに行くからその時は神社で待っていればいい。それではな。」

 

概要を伝えるだけ伝え、神奈子は去っていった。

2柱と1人の攻撃により荒れ果て、バキバキになった風景に、2人が取り残される。

 

「帰るよ、梓。」

「はい。……情けない話ですが、このままお願いします。動けそうにありません。」

「見たらわかる。」

 

少し怒ったような、呆れたような。そんな声で一言、返す諏訪子。

 

「……帰ったら説教だからね。」

 

言いたいことは山ほどある。

彼女が生きていたことに安心しつつも、そう言った。

 

「ふふ……はい、そうですね。」

 

声の節から優しさが滲み出ていることから彼女が安心していることが梓にはわかった。

それ故か、申し訳なさそうな顔をして少しだけ笑う。

 

「何笑ってんの。」

「いえ、身に余る光栄だと……そう思いまして。」

 

彼女らは帰っていく。諏訪の国へと。

無事とは言えないが、五体満足で生還できただけでも運が良かったと言うべきだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから少し経った頃。

 

「そこんとこわかってる!?だいたい───」

 

あの後結局神社に着いた途端、梓は糸が切れたかのように意識を落とし丸2日は眠っていた。

その間に傷自体は大方完治と言っても差支えはないほどに回復。

あとは梓の力の回復を待つのみとなった。

まさか本当に2日で治ると思っていなかった諏訪子だったが、それならば遠慮なくと説教を始めた。

言葉を受け続け、しばらくした頃。

 

「最後に、なんだけど。聞きたいことがあんの。」

「なんでしょうか?」

「なんで私の為にそこまでしたの?」

 

諏訪子としては疑問だった。

梓はここの国の者でも無ければ信仰者という訳でもない。

しばらく前に同居を始めただけなのだ。

本来なら命を張ってまで戦う程の関係性でもないはずなのだ。

 

「……国と国が潰し合うだけしか出来ない、というのが悲しかったのです。お互いがお互いの手を取り合って欲しかった。それだけです。」

 

嘘は言っていない。

さすがに未来を知ってるだとか、そんなことは言えない。

"未来を知る"とか、"未来予知"の類の能力を持っている訳ではなく、ただ結末の一部を知識として持っていただけだからでもある。

そして、その結末は可能性でしかない。

未来がどうなるかは分からない以上、知っている結末や史実通りにことが進むと断言はできない。

故の行動であった。

まぁ、彼女がただいてもたってもいられなかったというのも事実だが。

 

「……そっか。ありがとね。」

「では逆に、諏訪子様は何故私にそこまで?」

「なんとなくだよ、なんとなく。」

 

こちらも本心だ。諏訪子はなんとなく、そして直感的に梓を信じていい存在だと理解したし、助けるに値するだけの存在だと認めたから。

 

「それに、私の為に命かけてくれてたんだからさ。ここまでするよ、そりゃね。」

 

恐らく詳しく紐解けば他にも色々な理由があるのだろうが、それは本人にしか分からない。

 

「……さて、私はそろそろ戻るけど梓はまだ休んでおきなよ。」

 

またね、と言葉を残して彼女は部屋を出た。

部屋には1人、梓だけが残される。

外から聞こえる環境音以外には音もほぼなく、静かな空間だ。

 

(……さて、と。)

 

す、と彼女は立ち上がり、1つ伸びをした。

身体は真に治ったか、身体を動かして確認する。

飛んだり跳ねたり、武闘のような動きをしたり。

十分に動けたことを確認し、今度は"力"の確認に入った。

衝撃の出ない光のようなものを出してみたり、それを球状にして周囲に回してみたり。

 

(……体感的に回復の程は1~2割ってところか。)

 

神奈子との戦いで消費した力は大きく、回復も長くかかりそうだった。

何故割合がわかるのか、と言うともうそれは直感や感覚によるものらしい。

 

(……"力"って呼称してるけど、分類でいえばどれにあたるのだろうか?)

 

神力はまず無いと考え、他を考える。

まずあそこまで神に肉薄できた地点で彼女が自身を人間でないことは自覚していた。

故に魔力や妖力、あとは気だとかと考えていた。

 

(考えても分かるわけもないか……。)

 

わかる人に聞くのが速い。諏訪子はそういったことには詳しくはないと言っていた。

彼女は次会った時に神奈子にでも聞いてみることにした。

力の回復はどうすればいいかなどはわからず、使わなければ自動で回復していくことがこの数日でわかったので、そのまま日常を過ごすことにした。

その旨を諏訪子に話したところ、少し心配はしていたようだが了承はしてくれたようだ。

ちなみに梓が諏訪子の傷を案じて本人に聞いたところ。

 

「ああもう大丈夫、梓よりは全然マシだったし、信仰さえ途絶えなければ私は死なないと思うよ。」

 

とのこと。やはり神とは規格外だな、と再認識した梓だった。

ふと、神奈子への提案のことを頭を過ぎる。

あれから丸2日眠っていたからあとは2日としばらくでその時は来る。

(何をしたところで変わらないか。いつも通り過ごそう。)

 

特に変わったことはせず、神奈子への案を練りながら日常を過ごすことにした。

その間は特に何も起きることは無く、緩やかに過ぎていった。

 

そして、約束の日。

 

「傷は完治したようだな。」

「はい、お陰様で。長らくお待たせして申し訳ありません。」

 

神奈子に向け、頭を軽く下げる梓。

 

「いや、構わないとも。洩矢の。そちらは?」

「梓よりは軽かったから治ったさ。」

「そうか。では早速本題に入ろうか。」

 

そう言って神奈子は腕を組み、梓の方へ向き直った。

 

「話とは国譲りを諦めることか?ならば許容し難いが。」

「いえ、少し違います。形を変えませんか、という話です。」

「……詳しく聞こうか。」

 

そこからは諏訪子も内容を聞いておらず、2人は黙して耳を傾ける。

 

「まず、ミジャグジ様、というのは少しでも蔑ろにすれば神罰が下る祟り神です。」

 

司るは生誕、農作、軍事と様々なことまで至る。

そしてそれを扱えるのは諏訪子のみ。その為、諏訪子への信仰は圧倒的である。

とは言っても日本の神はだいたい祟るのだが、そこは呪いや災厄の度合いや強さで変わるのだろうか。

 

「主に祟りによる恐怖で諏訪子様はここを治めています。ここからは神奈子様が、国譲りが成ったということを仮定して話を進めます。」

 

諏訪子を超える力を持って神奈子は彼女を打ち破り、ここの頂点に立ったとする。

つまり、今まで信仰していた諏訪子、及びミジャグジ様と変わり、天津神の尖兵である神奈子が統治をしようとしたとする。

 

「ミジャグジ様を圧倒的に超える力。しかし、新たに現れた神である神奈子様を信仰することは無いと断言します。」

「……何故だ。」

 

ピク、と片眉を反応させた神奈子。

少し不機嫌そうに、張り詰めた空気感でそういった。

 

「端的に言えばミジャグジ様が祟り神だからです。」

 

祟り神は荒御霊であり、畏怖される存在だが手厚く祀ることで強力な守護神となる。

執念深く、嫉妬深いミジャグジ様を力でねじ伏せたからといって現れた新しい神へと簡単に乗り換えることなど出来はしない。

たとえ無理矢理従わせたとしてもミジャグジ様の影響力を超えることは出来ず、ろくな信仰は得られない。

梓はそう考えた。

 

「力を越えるは更なる力や叡智、しかし祟りを越えるは祓いです。……もっとも、ミジャグジ様を祓うことが出来る力が存在するか、と言えばそうとは頷けませんが。」

 

そう言うと諏訪子はすこし嬉しそうな顔でうんうんと頷いていた。

対照的に、俯きながら深く考える神奈子。

 

「……話はわかった。しかし、こちらとて国譲りを諦めるつもりは無い。」

「もちろん、理解しているつもりです。そこで、1つ案があります。」

 

民の信仰の形的には諏訪子がいなければならない。

しかし国譲りを諦めるつもりは無い。

ふたつの意見を統合して、梓は提案をする。

 

「二巨頭体制にしてはどうでしょう。」

 

諏訪の国の表向きの実務、為政は神奈子が行い、実際は諏訪子がミジャグジ様の恐怖を持って国を治め、執り仕切る。

それならば両方の意見を入れることが出来るのではと梓は考えたのだ。

 

「これならば国譲りは成り、大和の神々の勢力に加わりつつ、民からの信仰を受けることが出来るのではないでしょうか。」

 

その言葉に、2人はなるほど、と頷いた。

 

「なるほど……考えたね、梓。……私はそれで構わないよ。元より負けた身だし、最終判断は任せるよ。」

「と言うことですが、神奈子様。どうでしょう?」

 

腕を組んだまま目を閉じ、んん、と唸りながら上を向く。

深く考えているようだ。

 

「……確かに、考えればそれが良さそうだ。私とて力で無理矢理、というのは本意ではない。意見を呑むとしよう。」

「決まり、ですね。」

 

胸を撫で下ろす気持ちの梓が、そう呟く。

 

「まぁ言っちゃえば私は隠居に近いわけだけど……これからよろしく、神奈子。」

「そうだな。私の力だけでは何ともならんのは悔しいが本当のようだし、頼りにしているよ、諏訪子。」

 

そう言いながら2人は握手をした。

梓の考えは通り、概ね彼女の知る結末へと到達したようだ。

何とかなってよかった、と安堵のため息をつく彼女に2人は話しかけた。

 

「……でも、梓はそんなによくわかったね。ここに来てからそんなに経ってないよ?」

「ん?そうなのか?同居していたし、かなり踏み込んだ意見をしていたから長くここに生きていたのだと思っていたがそうではないのか?」

 

事実、彼女がここへ来てから1ヶ月と経っていない。せいぜい2週間前後だ。

未来がわかるなんてことを言うつもりはない梓。

それに、結末を知ってるだけで全てを知る訳では無いのだ。

つまりは、すべて予測によるもの。

1度、彼女及びミジャグジ様と対峙した上に諏訪子のことを、共に過ごすうちに少しは聞けた。

過ごすうちに民の様子を少しは見れた。

そこから全て組み上げた虚塔に過ぎなかった。

しかしそれで事実を突き詰めることが出来、結末は良好だったのだが。

 

「ですので、御二方が納得していただけるかはほぼ賭けでした。」

「随分と頭が回るな、知将やら参謀あたりが似合う。」

「話し方とかそうっぽいよね。一緒にいたけど思ったよりかなり頭回るタイプだったなー。」

 

何となく、のんびりとした雰囲気が辺りを覆う。

5日前に殺し合いをしていたとは風には見えない。

 

「……梓さ。戦ってた時もそんなに考え込んでたの?」

「はい。まだ直感や反射で動けるほどの域に達していませんから。」

「とんでもないな……あの死線を前にして思考を巡らせる余裕があるとは。」

「余裕なんてあるはずがございませんよ。」

 

首を振り、そう答える。

ただ、常に最善の手を打たなければ死んでいた、と言うだけだったのだ。

こちらにとって相手の攻撃は常に必殺。

防ぐなり、回避なりを選択せねば負け、と言うよりは死だ。

とにかく予測を立て、相手がどう手を打つかを考えるしか無かった。

というわけだ。

 

「……ところでなんだけど、あの技とかってのはどこで?」

 

雷、炎、氷、光と様々な力を使う上、光線や球、はては罠まで扱う多芸さ。

魔術かなにかが盛んだったり、そういった類を研究していた場所から来たのか、と諏訪子と神奈子は考えていた。

 

「私が使っていた技はある者達が使う技を模倣したに過ぎません。なので、ほぼ独学です。」

 

とある連合国の騎士団長であり後に連王となる者、光の騎士、とある帝国の皇帝、ある国の近衛騎士団長等。

彼らの技を、記憶から引っ張り出して再現しただけ。

教わったわけでも、直接その目で見た訳でもない。

なので同じ技、と言うよりはそれらを参考に近しい技を独学で出した、という認識だった。

 

「なるほどな……では梓はどこからここへ来たんだ?」

「旅をしてここへ。決まった拠点はありませんでした。」

「流れ者か。」

 

そんな会話の後、神奈子に向かって梓は口を開いた。

 

「神奈子様。少しお聞きしたいことが。」

「なんだ?」

 

梓の使う力の話だ。自身ではよく分からない、一体どのような力なのかと、戦った神奈子ならば分かることはあるのではないかと聞いた。

 

「……ふむ、そうだな……私も解析に優れる訳では無いから感覚になるが、魔力が近いと思う。ただ、そうとも言いきれないというか……何かが混ざっているというか。そんな感じだな。間違っている可能性もあるが……。」

「魔力かー……人間でいえばめずらしいね、梓。」

 

聞けば人間は霊力を扱うことが多いという。

魔力を使える人間はいるのはいるがかなり少数派らしい。

 

「なるほど……ありがとうございます。」

 

暫定的にだが感覚的に使っていたそれは魔力、ということになる。

 

「さて、これから2人で国を治めるにあたってお互いのことを知り、親睦を深めることも大切でしょう。少し話し込んでみては?」

「梓は?」

「私は統治には関わりませんし、内情を聞くのもどうかと思いまして。それと、数日体を安静にしていたので少し体を動かそうかと。」

 

それでは、と言って梓はそのまま立ち去った。

 

(不思議な娘だなぁ……底が知れないね。本当に。)

 

漠然とふと思い、その後神奈子とのこれからの話を始めた。

 

それからしばらくは何も無い日常が続く。

 

ある日は。

 

「梓。前に思ったがその刀はただの鉄ではないな。それは一体なんだ?」

「材質ですか。私も専門的なことは分からないのですが……金属と私の力、魔力ですか。それを混合させて作ったものです。素材でいえば魔鉱、あるいは魔鉄と言えるかも知れませんね。」

「妙に単一の力ではなく様々な力と親和性があると思ったらそりゃ本人の魔力と混ぜてで作ったから当然か……。私じゃ作れないし、そんなこと思いつきもしなかったな。」

 

腕を組み、唸りながら諏訪子はそう言った。

 

「ですが金属ですし、ある程度雷ならば通しますよ?それこそ諏訪子様の鉄でも神奈子様の鉄でも。」

「ほんと?私の鉄の輪渡すからやってみてやってみて!」

「わかりました。と言っても雷が触れるだけでいいので……ほら、この通り。」

 

梓が鉄の輪を手に持ち、すこし雷を手に込めると鉄の輪は強く帯電した。

 

「ほんとだ。あんだけの威力あるんだし本気で鉄の輪に雷込めてもらえば勝ててたんじゃない!?」

「いや諏訪子、触れない方がいいんじゃないか?」

「そうですね帯電してるだけなので触れるt」

「見て神奈子ほら強そあばばばばばばば!」

 

梓が言い終わる前に彼女が持つ鉄の輪をぱっと受け取ろうとした諏訪子。

握った瞬間に全身に雷が走る。

 

「ほら見た事か。」

「……触れると触れた人に雷は移ります。」

「やはり雷を操る力がないとまともには使えんか。」

「直接触れなければいいので常に浮かせておいたりすれば使用は可能ですが……そこまでして利があるかといえば定かではありませんね。」

「んん……考える余地は多々あるが、やはり雷を扱う者にこそ相応しい、ってことで良さそうだな。」

「あ、あ、あの……は、早く、言って……貰えると……。」

「言う前に触っただろうに。……他は……性質からすると少し難しいか。」

「そう、ですね。その力を扱えなければ難しいですね。」

 

そんな話になったり。

またある日は。

 

「梓?」

「お呼びですか?」

「2巨頭体制についてだけどね、何とか方針は決まったよ。」

「こちらから新たな神として"建御名方命"をここにと外へは言う。まぁ我らが大和神話の名目を保たせるため、名前だけだ。」

「本当の祭神は"ミジャグジ"のまま、と言った感じかな。まぁ特に言う必要もないって梓は言うかもだけど、発案者だし一応言っとこうと思って。」

「わざわざありがとうございます。恙無く終えたようでなによりです。……そういえばお聞きする機会がなかったのですが、神奈子様は何を司る方なのでしょうか。」

「なんだ知らなかったのか?まぁいいが。風雨の神だよ。」

「なるほど……空や天と言ったところですか。諏訪子様は坤ですから、対となりますね。」

 

坤、というのは八卦でいう地に当たる。

正に神奈子と諏訪子は対となる存在と言える。

 

「だねー。ところで梓はなんの神様?」

「諏訪子様、戯れがすぎますよ。私はそんな高尚な者ではありません。」

 

困ったように笑いつつ、梓はそう言った。

 

「でも実際、梓って何者?もちろん人間じゃないのは分かってるけど、妖怪とはまた違う気がするんだよね。」

「人外、ということしかまだわからんということか。にしては妙に人間らしい考えをするものだがな。梓、どうなんだ?」

「ふふ、人間らしい考えを持った人外と言ったところでしょうか。」

 

梓は自分をなんと形容したらいいか分からないため、明るく、冗談っぽくそう言った。

 

「あはは、そんままじゃん。というか梓も自分自身をあんまりわかってない感じかー。」

「神、人間、妖怪、霊。分類するにはまだ区分が足りないのかもしれないな。」

「そこまで深く考えることでもないと思うのですが……。」

「や、大切な話だと思うよ。神なら信仰、妖怪なら畏れ。それがあってこそ存在でき、強くなる。いずれも"何者であるか"という認識をされることが重要だと思うし。」

「ま、私たちの知るものでは無いと考えるならこれから長く生きるだろうし、おいおい考えて行けばいいだろう。その力量ならそうそう死ぬこともあるまい。」

 

そんな話があったり。

そのまたある日は。

 

「神奈子胸おっきいね。邪魔じゃないの?」

「肉体の1部だからな、邪魔だとは思わんが肩がこるのは事実だな。」

「梓も意外と大きいんだよね。神奈子にはそりゃ及ばないけどさー。」

「そうなのか?そのようには見えないが……。」

「見てみる?ねー!!梓ー!!」

「はい、お呼びですか?」

「ちょっとこっち来て。」

「?はい。」

「神奈子見ててね。」

「ああ。」

─ヒュパッ─

「……ほらね?」

「おお、確かにな。サラシで潰していたか。」

「突然サラシを切るのはやめていただけませんか。」

 

笑みを絶やすことなく、眉を困ったように潜めながらそう言った。

 

「ごめんごめん。はい、新しいの。」

「資源が勿体無いですよ、諏訪子様。」

 

くる、と背を向けて服を脱ぎ、サラシをつけ直していく。

 

「……見て、神奈子。」

「……ああ、そうだな。」

「?どうかされましたか?」

「いや、美しいな、と思ってな。女の目から見てもな。」

「胸単体で見てもただ大きいと言うより形とかが良くて綺麗だしね。全身もすらっとしてるし……なんか、遠くから来た美人って感じ。」

「ああそうだな。あまりこの辺りでは見ない体型だ。」

「お褒めの言葉ありがとうございます。」

 

そんな話があったり。

特に喧嘩もなく、お互いがお互いを知ろうとし、会話を進める。

その中に梓を含めた雑談のようなものがある。

時には民の様子を見に行ったりしていた。

 

そんなある日。

 

日が登りきる前、まだ少し気温が低い時間帯。

祭壇のある部屋で3人は話していた。

 

「だからね、梓。祭壇にこれを置いてもらいたいんだ。」

「いえ、しかし……。」

「私からも頼む。」

 

祭壇に置いてもらいたいというのは、とある物のこと。

梓の使っていた刀、を模して作った、基本材質は石である刀。

刀身の中央には細く一直線に透明な水晶、鍔には球形の水晶がいくつかはめ込まれていた。

それを梓と表す物とし、神社の祭壇に配置するという。

梓自身はこの国の統治に関わるわけでもなく、神でもない。大それたことだと思っていた。

 

「私たちが今こうしていられるのは梓がいたからなんだから。」

「本来なら伝承にも名を出したいところなのだが……。」

 

梓は此度の諏訪大戦において、名前を出したり存在を大きく出すことを拒否していた。

彼女にとって諏訪大戦に伝承おいて"梓"という存在は居るべきではないのだ、と考えていたからだ。

本来の歴史ならばこの諏訪大戦の後は、神奈子が統治するも信仰が集まらず、断念して2人で話し合った結果、今と同じ流れになるはずなのだ。

梓は関わったが、今は概ね最終の流れは同じ。

しかしそこに"梓"というただの流れ者が伝承に出てくるのは果たしてどうなのだ、と感じたのだ。

統治に関わる訳では無いしただ助言をしただけ。

信仰しているわけでも巫女でもこの国の者でもない。

そのようなものが名を出すのも変ではないか、と彼女は思ったのだ。

当然、祭壇に自身を示す者を配置するのも、という考え。

 

「たとえ語り継がれなくても、根底に関わったのは事実。」

「誰にも知られないけど、私たちは知ってるし忘れやしないよ。」

 

名は不明なれど、どのような存在か不明なれど。

新たな門出の方針を示した存在が、根底に関わった存在が。

2人にとって大切な存在が確かにそこにいたのだと。そう示したい。と、2人は言ったのだ。

そこまで言われては、彼女は断れなかった。

 

「……わかりました。引き受けます。」

「よかった。では。」

「はい。」

 

石材と水晶で作られた刀は梓の手に渡され、彼女はそれを両手で受け取った。

置くだけならば諏訪子か神奈子でいいのでは?と言われればそうかもしれないが、この場においては違う。

透明な水晶は何らかの力を込めると色が染まる性質を持っていた。

最後に梓に魔力を込めさせ、それを梓の手で置くことで祭壇が完成すると2人は言った。

言ってしまえば一種の儀式である。

 

「……。」

 

祭壇へ向かい、目を閉じて、魔力と言われたそれを解放していく。梓は仄かな光を纏った。

そして、石の剣に様々な属性の力が発生した。

 

「……綺麗だな。」

「……うん、そうだね。」

 

2人はそうつぶやく。

刀の鍔にある水晶はじわじわと染まっていっていた。様々な属性を表した色に。

それらが染まり切ると、彼女は刀を構え、力を込めて天へと掲げた。

すると刀身は光を纏い、闇を引き裂くように強く輝く。

その後、ゆっくりと下ろしていくと光は落ち着いていき、水晶が聖なる色に染っていた。

梓はそれを持って終わりとし、魔力を込めた石の剣をそっと置き、数歩下がって全体を眺めた。

 

「……では、私は行きます。」

「そうか……もう行くんだな。」

「はい。短い間でしたがお世話になりました。」

「えーずっと居てくれていいのにー。」

 

事前に伝えてはいたが、梓はこの国を出ていくことにしていたのだ。

 

「あっじゃあその服持ってったらダメだからここに居ろっていうのは……。」

「この間、自分でもう梓のものでいい、あげるよって言っていただろう、諏訪子。」

 

往生際が悪いぞ、と少し笑いながら神奈子はそう言った。

 

「でも、どうして急に?」

「私はまだまだ未熟。旅を通して鍛錬を続けたいのです。それに私自身のことも、力のことも。知りたいことは沢山あります。」

 

元々流れ者の身であるし、このまま世話になるだけというのも申し訳ないというのもあるが、本来の理由はそうではない。

自分の力はまだまだできることがある。様々なことを試し、高めていきたいと思ったのだ。

そして、その力の根源のことも、まだ全く分かっていない。

それを知ることでまたできることも増える。

故にこそ、様々な場所を旅をして、知を、技を、力を。

それらを求め、高めるのだ。

 

「そっかー。それなら仕方ないね。」

「まぁ二度と会えないわけじゃないからな。近くを通ったらまた顔出すといい。」

「そうそう。ここで疲れを癒しながら、ゆっくりすればいいから。」

 

話しながら、神社を出て、鳥居までたどり着いた。

立ち去る前に、梓は振り返る。

 

「御二方には数え切れぬ感謝がございます。重ね重ねお礼申し上げます。ありがとうございました。」

 

深く、梓は頭を下げた。

 

「こちらこそだよ、梓。旅を応援してる。」

「私もだ。君の旅路が良きものになることを願っているよ。」

 

2人は微笑みながらそう言った。

 

「最後に、梓。これ持ってって。」

 

そういって諏訪子が手渡したのは手首にはめられる程度の大きさの鉄の輪だった。水晶で線が入ってるだけの、単純なものだ。

 

「特別な何かがあるわけじゃないけどさ。……こう、なんて言うのかな。貰ってばかりだったから、渡したくなった。」

「私と諏訪子で作ったんだ。この国がこの体制になって、我々が初めて作ったものだ。ぜひ受け取って欲しい。」

「もちろんです。お受け致します。」

 

右手首に鉄の輪を通し、それをみつめて、嬉しそうに微笑んだ。

他ならぬ神が、自身にここまで肩入れしてくれていたこともそうだが、形として思い出が残るのはやはり嬉しいものだったようだ。

 

「……ありがとうございます。それでは、いつかまたお会いしましょう!」

 

そういって梓は鉄の輪をはめた方の手で敬礼した。

この時代にはまだそんな文化はない。しかし、頭を下げて終わるのも今生の別れのようで、彼女自身がなんとなく嫌だった。

その上で敬意を払えるのがこれだったようだ。

振り返り、鳥居をくぐって階段を降り、人々の間を通って国を離れていく。

 

「ふふ、最後のあれはなんなのだろうな。」

「あはは、さぁね。だけどまぁ、梓のことだし、敬意でも表したんじゃない?」

「違いないな。」

 

2人で暫く梓の後ろ姿を見ながら少し寂しさを感じながらも、微笑みながら見ていた。

 

(さて、知りたいことは山ほどあるし、試したいことも沢山ある。)

 

足取り軽く、村を抜けていく。

チャリ、と金属音を立てたその腕からは、小さな蒼い光が反射していた。

 

(次はどこへ行くかな。)

 

再び、彼女の旅は始まった。

 

 

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