東方想転叶   作:楽園の主

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第7話 ─3人目─

「今帰った。」

「遅いが?」

「?……そうか?」

 

ある日。太陽が登り始め、煌々と地を照らし始める。洗濯日和と言えるだろう、晴天の朝だ。

どこかから帰ってきた梓に結衣は苦言を呈した。

 

「少しって言ったくない?」

 

別段、怒っている訳では無いが話と違うことに指摘をした。

 

「ああ。」

「半年たったけど?」

 

そう。半年前、梓は少し行きたい場所がある、と言って遠くに行ってしまっていたのだ。

結衣は詳しく場所と内容を聞いていなかったが海を越える、と言う話を聞いて着いていかなかったのだ。

別に梓の用にただついて行くならばいいが、少しだけのために海を越えるのはさすがに面倒だと感じたのだろう。

 

「?だから少しだっただろう。」

 

梓としての少し、だったのだ。梓は長く、とても長く生きている。

対して奏はまだ合計しても20数年しか経っていない。時間の概念が彼女らでは違ったわけだ。

 

「……こうも違うものかな?まぁいいけど。」

「何か困ったことでもあったのか?」

「困ったという程じゃないけどね。」

 

少し、と言われて姿を消して半年。梓が死んだりはしていないだろうというのはわかっていた。

しかし、そこまで間が空くとは思っていなかった。

暇を潰すことは出来る。散歩に行ったり、釣りをしたり。だがそれらにも限度がある。

問題はそれ以外にもあった。

 

「1人じゃ限界があったよ。」

 

梓から教えてもらった、魔力操作や魔術(?)の話だ。

あれからしばらく、それらの話を聞き、特訓をした。

その結果、家の魔力で動かすようなものの類はある程度、魔力操作のみで操作できるようにもなり、魔力の感覚も掴めて来ていた。

そして梓が行ってからだ。

梓に聞かずとも、十分不便ないほど魔力を扱えるようになったし、魔力操作は十分できるようになった。

しかし、魔法や魔術というと話は別。

魔力そのものの放出ができてもそれを利用して何かをすることまでは知れていなかった。

もちろん、梓のような属性変換も出来ない。

である以上、できることは少ない。

そうか、と返事してスタスタとリビングへと向かう梓。

冷蔵庫を空け、"向こう"から持ち帰ってきたものだろう、それらを入れていく。

瓶があったりするあたり酒かなにかなのだろう。

 

「……次は着いてっていい?」

「好きにしろ。」

 

カチャン、と瓶同士がぶつかる音と共に冷蔵庫を閉じて外へと向かう梓。

またどこかへ行くつもりかと結衣は着いていく。

玄関を出て、湖のほとりで一息ついて、梓はじ、と結衣の方を見た。

 

「では、放って見せろ。」

 

そういってそのまま湖へと歩き始め、水面を歩いていく。

 

「え、いきなり?」

 

結衣が聞くも歩みを停めず、少し遠くまで歩いていく。

そこで彼女の方へ振り向き、下から上へと上がるような手の仕草をすると、空中に無数の紅い光の球が浮かび上がる。

 

「出来る限りでいい。放って破壊してみるといい。方法は問わん。」

 

流れ弾に関しては全く気にする事はない、と言って梓は佇む。

 

「……しゃー、やるか。」

 

提案に是を返し、結衣は全身に力を込める。

少し距離のある場所に無数の的。

距離のある小さな的に対して当てられる精密操作性、その数を落とす技量。

そして方法は問わないということはむしろ、様々な手法を使う応用性も見ようということだろう。

初めて何かを狙って当てるということをする。それにすこしワクワクとしていた。

 

「そーれっ。」

 

まずは、と片手に"それ"を溜め、サイドスローで投げる。

すると投げた瞬間、炸裂して多数の弾になって的を破壊していく。

散弾のように放たれたそれのいくつかは的に当たらなかったが、ほとんどが的を破壊した。

次は逆の手の指先に力を溜め、爪で切り裂くように前で振るう。

それは飛ぶ斬撃になり、多数の的を破壊しながら向こうへと突き抜けていく。

次に両手に溜め、放つとそこから多数のレーザーが発生。的を穿つ。

 

「なるほど、だいたい分かった。」

 

ほとんどが破壊されていたが、残った少しの的は消え、梓は結衣の元へと戻った。

ふと、結衣は本当に遠慮せずに撃ったが木々に影響は無いのか、と奥を見るとそこには変わらぬ姿が。

恐らく梓が防壁でも発生させていたのだろう。

 

「放出と操作は十分だな。」

 

見たのはたった3手だが、彼女はそれでも力量を理解したのか、そう告げる。

 

「まじ?いえーい。」

 

素直に喜ぶ結衣。ぴーすぴーす、と追加でジェスチャーしてみたりもした。

さて、結衣には聞きたいことがある。

 

「それで。ほかのことはどうしたら出来るの?」

 

現在、結衣が出来ることは先程のように魔力そのものを放ったり、その他であれば肉体強化に使ったりすること。

単純なことは大体こなせるが、先程も伝えたが、彼女のように属性変換したり、武器や資材などを銀の波紋とともに取り出したりなどは出来ない。

それでも十分と言えば十分だが、やれることが多いにこしたことはない。

とはいっても方法が全く分からないから、糸口だけでも掴もうと聞いたわけだ。

 

「イメージだ。」

 

さらりと即答。手に魔力らしいそれを発生させた。

 

「理論などはさておき、私が言えるのはそれだけでな。」

 

それを握りつぶすと、梓の拳は雷を帯びる。

しばらくバリバリと音を立てたあと、静まっていった。

さて、結果として"氷を発生させる"としよう。

水のある場所では、ただそれ自体の温度を下げればいいだけの話。水分子の運動エネルギーを下げればいいだけの話。

水がないなら周囲から水素と酸素を結合させて水を作り出すだけの話。

それのエネルギーとして魔力を使うってだけの話。

"炎を発生させる"のも同じ話。

空気や物質を燃焼すれば火や炎は発生する。

もう少し詳しく言えば、物質がそこにあるなら十分な空気と着火エネルギーさえあれば燃える。

物質と空気があるなら着火エネルギーを魔力で代用するだけの話。

物質がないなら?魔力を魔力で着火すればいいわけだ。無理矢理な話だが。

"魔力をなんらかの方法で体外に放出して、なんらかの方法で操作し、なんらかの方法で現象を起こす"。それをイメージで、なんとなくで使いこなしている。

梓はそんな曖昧な感じで、魔力を変換してるし、技も使っているのだ。

 

「詳しくは考えてないってこと?」

「私はな。」

 

梓とて、窮地の状況でたまたま使うことが出来て、それをきっかけに存在を知り、感覚で技へと派生させて行った。

そして出来なければ死ぬという状況だっただけなのだ。

教えることが出来るといえば、きっかけのことだけ。

そこから先は自身の感覚次第。

理論がどうだと考えていない彼女の限界だ。

 

「うーん、わからん。」

「貴女のことだ、試しているうちになにか掴むだろう。」

 

そう言って彼女は家へと戻って行った。

その後、結衣はしばらく試すも掴めそうで掴めず、そのまま1度休憩にと家へ戻った。

 

「んー……。」

 

リビングで机に肘をつき、トン、トン、と指で硬い表面にリズムを刻む。

掴むだろうと言われても何を掴むというのか。

所謂、職人の"見て覚えろ"よりも難しいことを簡単に言うわけだ。

考えるな、感じろ、と言ったところか。

しかしながら聞くより前に、結衣も薄々分かっていたのだ。

自分の魔力を使う時の感覚は人によるものだろうと。

もしかしたら何かあるかもしれない、と梓に聞いた迄のこと。

気長に少しずつ進めるしかないか、と。

1つ溜息をつきながら伸びをした。

すると。

 

「……ん?」

 

視界の端、窓の外。何かが映った気がした。

そちらの方へと視線を向けると、自然の中に1つの人影が湖の傍に立っているのが見えた。

ぐっ、と目を凝らしてみれば男性であることがわかる。

そして、服装が軽装で荷物も少ないこと、何よりも現代の身なりをしていることが確認できた。

 

(初めてじゃない?ここに人が来るの。それに加えて同じ境遇の人か。)

 

迷いなくここへ向かっている、とは言わないがそのままの順路で進めばここへと至るし、もし現代からこちらへと来た人間と仮定すればこのレベルの家屋を見ればここへ来ることは火を見るより明らかだ。

人間以外、というと妖怪の類が現れたことはあるが、それもはぐれ妖怪がちらほら見られるくらいで、襲う目的で来た妖怪などはいなかった。

……結衣はまだここへ来て浅く、妖怪からすれば襲う対象かもしれないが、それは梓と共に居たからか。

梓がどこかへ行ってからは、不明だが。

 

(……あ、一応梓に伝えとこ。)

 

そう思って、席を立つ。見渡すがリビングにはもちろんいない。

 

「梓ー。……あれ、どこ行った。」

 

家の中を探すも見つからず、返事は無い。

地下室へいるのだろうか、と降りようとした時。

コンコン、と扉を叩く音が聞こえた。

 

「はいはーい、今出まーす。」

 

見つかる前だがアクションをかけられてしまった。

仕方が無いので結衣は先に出ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(歩けども歩けども森だ……。)

 

サク、と草木を踏む音を立てながらある男は周囲を見渡す。

 

「ここどこだ?」

 

そう呟く声が木々のざわめく音と共に、空間に消えていく。

自室でゲームをしており、それを小腹がすいたため中断。

さて少し出かけようかと思い、荷物を持って自宅の扉を開いた瞬間、目の前には森が拡がっていたのだ。

どうなっているのか、と思い振り返ればそこに家はなく、森の真っ只中。

狐につままれたような気分だった。

 

(確かに夜だった……気づいてない間に寝落ちして、それでこれは夢……明晰夢とかか?)

 

場所がいきなり変わるなんてことはこと現代社会において有り得るわけはないし、第1、先程は夜であったのにも関わらず森へと来てからは、光源から察するに朝に近い太陽の高さだ。

はてなマークが頭の中に飛び交う。答えらしい答えすら生み出すことが出来ない。

とりあえず川を下ればきっとどこかの街には着くだろうと考え、水のせせらぎが聞こえる方へと向かっていた。

 

(わからん。まぁでも空気はとても美味しいな。余程田舎なのか。)

 

目の前の問題はあるが事実は事実。

都会や自身のいた街中では味わえない空気を堪能していた。

幼い頃はここまでではなかったが、都会では無い場所に過ごしていたな、と過去を振り返る。

そしてしばらく川沿いに歩いていると。

 

「……おお……。」

 

木々を抜け、開けた場所に出たと思えばそこには湖があった。

サイズとしては小さいが、風景は圧巻の一言だ。

木々から光が差し、反射してキラキラと輝く湖。ザワザワと風で声を上げる自然。

耳をすませばチチチ、と鳥の鳴き声も響いている。

自身を撫でる風は水辺で冷たく、心地よい。

幻想的、と言って差支えはないだろう。その場に立っている彼は、1つ息を大きく吸い込み、満足そうにそれを吐く。

じーん、と心にくる風景に、感動を覚えた。

しかし今はそれどころでは無い。はっ、と考えを再開する。

さてどこまで田舎か山奥か、人工物が全くないな、と思いながら周りを見渡したその時だった。

 

「あ、あった。」

 

視界の端に一軒家が見えた。大きさ的に二階建てで、湖と川の境界付近に建っている。

湖の大きさや目視できる距離であることから歩いて行ける距離にあると判断し、そこへ向かうことにした。

見た目は最近建てられたような、古くは無いように見えた。

なので家の中には住人がいるだろうし、その人にここはどこで、比較的広い町はあるか、最寄りの駅はどこかなど、様々なことを聞こうと思ったのだ。

 

(風景には見合わんなぁ。あと少しだけ古め……というか新しくはない、って感じか。綺麗だから新築っぽいけどなぁ。)

 

家がよく見える距離まで来た時、そんな感想を彼は持った。

現代的な目を持てば、そうなるのも無理はない。

家の周囲が塀に囲まれているが故に正面へと向かう為にそって歩く。

さてインターホンはどこかと探したが見つからず。

扉をノックするしかないと彼は2回ほど、木製の扉を叩いた。

 

「はいはーい、今出まーす。」

 

そんな声が中から響く。留守でないことに少し安堵しつつ、その存在を待った。

ガチャ、と扉を開く音と主に、Tシャツにハーフパンツとラフな格好の女性が出てきた。

彼が見た限りで推測する情報。それは自分よりは年下だろうということ。

あとはこんな所に住んでるし変わった人だろうとか、そんなこと。

しかし、彼は疑問に思った。

 

(……すごい髪色だな……。)

 

ラベンダーアッシュというのだろうか、それにインナーカラーで明るい青を入れているような髪色だ。

もちろん地毛ではないだろうが、随分とまぁ景色に合わない都会に居そうな髪色だ、と感想を得た。

疑問に思うほどでもないかと考え、それを一旦後にすることにした。

 

「すみません、神成(かみなり) 聖士(せいじ)という者です。散歩していたら迷い込んでしまいまして。ここがどこかということと、どこか交通機関がある場所を教えて頂きたいのですが……。」

 

怪しくないように名乗り、それらしい理由を並べてとりあえず家へ帰るために教えて欲しいことを伝える。

 

「あー……。」

 

目の前の女性はそう言ってどこを見ているかわからないが何かを考えていそうな雰囲気だ。

 

「……。」

「…………。」

 

謎の沈黙。からの。

 

「……あ、入って入って。」

 

上手く伝える方法が思いつかなかったのか、彼の身を案じてかそう言いながら家の中へと消えていく女性を追って彼は家に入った。

お構いなく、といいたかったが返事をする前に入られてはどうしようも無い。

ついて行くままにリビングに到着、目の前の女性は椅子を引き、どうぞと言った。

家に入れてもらった身でありながら何から何までと申し訳ない気持ちが少し彼に溢れた。

 

「何から何まですみません。改めて、私は神成(かみなり) 聖士(せいじ)っていいます。」

「えーっと、私は結衣です。」

 

キッチンで何かを用意しながら彼女は名で返答した。

それを聴きながら、彼は部屋を見渡す。見たところ、電気は通っているようで冷蔵庫などがある。

この分だとガスもあるのだろう、ないとしてもプロパンガスなど方法はいくらでもある。

しかし、テレビがない。ありえないことは無いが、この大きさの家ということは数人で暮らしているだろうし、ないと言うのは珍しく感じた。

それ以外にも、得も言えぬ違和感を感じる。

 

「どうぞ、簡単なものだけど。」

 

彼女は陶器で出来た湯呑みを彼の前に出した。

その行為により、考えは中断される。

 

「ありがとうございます。」

 

少し黄色っぽい透明な水だった。触れればそれはかなり冷えていることがわかる。

湯呑みを傾け、それを口に通せばレモンの爽やかな酸味とはちみつだろうか、少しの甘味が口に広がる。

森の中を歩いてじわり、と少し汗をかくくらいに体が温まっていた彼にとってそれは非常にいいものであった。

 

「とても美味しいです。ありがとうございます。」

「いいよ。」

 

礼に対して言葉を返しつつ、彼女は聖士の対面に座った。

 

「えーと、本日はここまでどうやってお越しになられましたか。」

(面接?)

 

聖士は何となく面接らしいいい振る舞いだな、と感じた。

この部屋を眺めた違和感などさておき。

とりあえず帰らなくてはならないのだ。どうせ夢だけど、と彼は考えているが。

質問に答えつつ、聞きたいことを聞くことにした。

 

「えー、はい。えーと、とは言っても宛もなくこの辺りを歩いていただけなんですが……。」

「え、そんな軽装で。危なくない?」

「そうではありますが、何分気がつけば森の奥に居たもので。はは、私は何を言っておりますやら。」

 

冗談らしく笑っていうものの聖士としてはそれが真であるのだが。

真に受けられることもなかろう、と冗談っぽくそう言ってみたのだ。

 

「……家で眠っていたのに突然、森の中で目覚めた、とか。普通にしてたのに、突然ここにいた、とか。」

 

彼の予想に反し、理解したかしていないのか、自分の状況に近しいことを狙って言い当てた。

笑っていたその表情はす、と真剣なそれへと変化させる。

 

「少し違いますが似たようなものですね。何か知ってるんですか?」

 

現代からこちらへ至ったことは奏にとっては既知の事実。それを知れば少々白々しく見えるものだ。

だが知らない聖士にとっては重要な情報。なにか知ることはないか、さらに集中して聞く姿勢に入った。

結衣が何かを話そうとしたその時。

 

─ガチャッ─

 

梓がリビングに入ってきたのである。

 

「私はこれから少し出かける。ではな。」

 

そう言って梓は何事も無かったかのようにリビングを出ていこうとする。

未だ2人はぽかん、と呆気に取られたままだ。

結衣にとってはえ、どこにいたの?地下室?何してたの?と言った感じだ。

聖士としてはああ、一緒に住んでる人か、と言った程度。

 

「ああ、伝えておくが──」

 

梓はドアに掛けた手を離しながら振り返る。

 

「男を連れ込もうが気にはしないが、ここや他共用スペースを汚したなら掃除は自分でしろ。いいな。」

 

特に何も思っていないのだろう、本当にふとしたような、そんな表情だった。

 

「──え。」

 

ぴく、と。ようやく結衣が反応するように動いた。

ガタッ!と、立ち上がりながらその脚で弾かれて大きく椅子を後ろへ。

それを放置して結衣は急いで梓の元へと走っていく。

扉を開こうとドアノブに手をかけたその手を結衣は手で抑えた。

 

「違う、待って。」

 

なお、聖士からすれば全く何事か分かっていない。

 

「違う。その、えと、初対面だよ。彼と。」

「ああ、元の身を考えればこそ恥ずかしいのだろう。まだその身になって元の身より時は経っていないからな。だが気にする事はあるまい、色恋は自由だ。」

「やば、全然聞かないじゃん話。聞いて?」

 

あたふたと弁明するように話す結衣に、冷静に理解を示そうとする梓。

この状況、アニメならコミカルなBGMでも流されているんだろうなぁと漠然と思い、さて面白い夢になってきたと少し笑ってしまった聖士だった。

さて話をしようと結衣が何かを話そうとした。

 

「ふふ、わかっている。現代からの人間だということは服装を見ればな。で、それを見た結衣はどう説明したものかと家に招いたんだろう?」

「え、分かってるなら最初から言って欲しかったな。」

 

結衣は表情に大きく変化は無いものの不服そうにそう呟いた。

その様子を見ている聖士はというと、自分が話すターンが回ってきたら自己紹介するか、と考えながら黙って見ていた。

すると。

 

「……ん?」

「あ、はい。」

 

聖士の顔を見た梓は考えるような表情で彼へと近づいていく。

なにか自分に用か、と返事をする聖士。

ずい、とよく顔を見たあと、全身を軽く見回す。

 

「……"総督"、か?」

 

怪訝そうな顔をしながら彼女はそう聞いた。

 

「え?あぁ、大学じゃそのあだ名で呼ばれてますけど。何故それを?」

 

もう夢ならどうにでもなるだろうと少し思っている彼はそう聞き返す。

総督、と友人の中で呼ばれる彼。もちろん、本当に総司令官として軍を統べる者だった訳では無い。

まぁ、見方で言えばそうともいえるが、実際はそうではないのだ。

 

「ああ、そうか……久しぶりだ。私だよ。大学の、友人の。いつも共に行動していただろう。」

「……え???」

 

総督、と呼ばれた彼、聖士は疑問符をたくさん頭の上に浮べる。

大学で共に行動していたのは男性ばかりだ。そもそも同じ授業を取っている人間に目の前の女性なんぞ見たことがない。

そう思っていると、いくつか大学でのエピソードを話す。

すると、聞けば聞くほど確信できるほどに、その話は自分が行動を共にする友人グループの一人の、"彼"であったのだ。

 

「え、知り合い?」

「いえ、私の友人、そちらの言う彼は男性ですし……。」

「ああ、そうだな。詳しく説明する。」

 

梓は元々の時代から性別が変わってここへ来た事を説明した。また、時代が大きく遡っていることや、妖怪など、現代であるならば迷信とされる存在がいること、特殊な力が普通に存在し自分も使えること。

それらも含めてざっと説明する。

 

「そんなことが……。」

 

現実に起こりうることなのか、と深く考えるような、それでいながら彼女が本当に"彼"なのか、と信じられないような表情をしていた。

 

「なんだ、信じきれないようだな。総督が大学のテストで1番勉強していた教科の点数がs───」

「OKわかった信じるからその口を閉じてくれ。」

 

早口でそう言って梓の発言を途中で中断させた。

 

「信じるんだ、今ので。」

 

どうやら友達の間でしか言ってないような情報だったらしい。

さて、とんでもない夢になってきたな、と感じていると。

 

「加えて夢でもない。ほら。」

─ムギュゥ─

「いはい(痛たい)。」

 

梓は聖士の両頬を抓ると、彼は間抜けにそう呟いた。

 

「なるほどなぁ、世の中では未来がどうなるかわからないとは言うけど本当にわからんものだな。」

「ああ、そんな気持ちだったよ私も。」

 

もう長くいるからな、ここには。

梓がそう呟くと聖士は、ん?と気づいたように彼女の方を向き、問う。

 

「最後に連絡したのは昨日じゃなかった?」

 

聖士として確かに連絡を取り合っていた。他愛もない話をしたと、記憶している。

そんな彼に梓は既に1000年以上はこちらで生きていることを聖士に伝えた。

加えて結衣は1年ほどとこちらに来たばかりでここで過ごした年数が違い、しかしながら向こうからこちらへ来たタイミングは同じであったことも伝える。

 

「……で、こっちも向こうから飛んだタイミングが同じ、と。」

 

聖士はそれを聞き、転移前は同じだが転移後の時代が大きく左右されるのだな、と理解した。

1000年以上と、1年と、今。これだけではおおよそ法則があるようには思えない。

しかしここまで出会っただけで3人。複数の転移は偶然とは思えない。ならば他にも転移してきた人間はいるのでは?と聖士は聞いた。

その話自体は否定できないものであり、むしろ頷ける。

しかしながら現状、梓と結衣には魔力などによる探知は可能だが、元々こちらにいる人間と転移後の人間を探知上で見極めることは出来ない。

転移後の時代だけでなく、場所も大きく違うとあれば、探知をすることすら困難だ。

 

「それに知り合いでもなければ会う必要も感じない。特に気にしていないな。」

「最初こそ転移のことが気になったけど、最近はもう、別になんでもいいかって。」

 

笑い話として彼女らはそう会話した。

そして聖士はふと、遅れて重要なことに気がついた。

 

「1000年以上……?」

「?ああ。そうだ。」

 

見た目が若いままで変わっていない、とか、性格があまり変わっていない、とか。

そのような時を過ごしている割には変化が無さすぎる。

性別、見た目は置いておいたとしても、老化が来ていない。それは、見た目においても、性格においても。

まるで数ヶ月ぶりにあった、とかその程度の差しか感じないのだ。

 

「何かは不明だが人外だろう、不老でなくとも長い命であっても不思議ではあるまい。」

 

さらりとそういう梓に、驚きというか、呆れというか、困惑というか。そんな感情を隠せない聖士。

 

(簡単に言うことでもないのではなかろうか……?)

 

聖士は眉間を抑えながらそんなことを考えた。

 

「改めて紹介しよう。以前より友人だった、結衣だ。」

「アッハイ。さっきも聞いたけどな。あ、そっちの名前は?」

「今は梓と名乗っている。以前の名前はもう忘れてしまったし、女になった身だ。ちょうどいいだろう。」

 

忘れてしまったにせよ、苗字も名乗らず名前だけ、しかも女性らしい名前で元の名前の欠けらも無い。

要は、元の名前は捨てた、ということだ。

少しだけ思うところがあるものの。

 

(まぁ、女性が思いっきり男性の名前してたら変だしな。)

 

そんな考えが浮かび、深くは聞かないことにした。

時代を越えてしまうだの転移してしまうだの名前を変えるだの姿が変わるだの様々なことが起きているなら困惑とかするだろうし。

大体、元の世界に帰ろうとしているようには見えないし。

ああそういえば2人はもう長くここで生きていたのだったか。

などと考えていたものの。

 

(……もうわかんねぇなこれ。)

 

ふぅ、と微笑みながら虚空を見上げる。

聖士は、今は一旦、考えることをやめた。

 

「ちなみにだが──」

 

話しかけられたことにより、虚無から帰還する聖士。

 

「結衣も私も同じ境遇だ。」

「あそっちも?」

「そうだよ。いえーい。」

 

適当にピースをしながらニッコリと微笑む奏。

 

「こっちに来てからの年数が全然違うだけでな。」

「あーもう本当に訳分からんな。どうなってんだこれ。」

 

本当によく分からなくなり、これから先が不安になる聖士であった。

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