前の話にも記しましたが、一応もう一度。
あと、これからはサブタイトルに話数以外も記すようにします。わかりやすいように。
そんな深いタイトルは思いつかないので適当です。
初の邂逅が終えた後のある日。
「花を、見に行く?」
「ああ。」
家では無いどこかで、梓と紫は話す。目的の地への道中だ。
もちろん、ただ見に行く、という訳では無いことを紫も理解している。
「元より気にはしていた。どうあれ、渡すつもりだ。」
そこにいる"誰か"のことを話しているようだ。紫はそれを誰か、というのは知らない。
「一人で行くのかしら。」
「ああ。それなりに危険な相手だ、直感だがな。」
危険度が高いが故に、2人は連れて行けない、という意思だ。
「彼女らから離れていいのかしら?」
紫と初の顔合わせの時、1人で出てきていた。
それは暗に、2人の戦闘能力や危機管理能力、所謂生存能力はさほどでは無いと考えているからだろうと紫は思った。
だからこそ、離れてしまって大丈夫なのか、と聞いたのだ。
深読みすれば、彼女らから離れて、紫自身に害される可能性は考えていないのか、という意味も少しある。
「ふむ、紫にはそう見たか。じゃあ、気にかけてくれればいい。」
む、と紫は顔を顰める。もちろん梓は言葉通りに捉えた訳では無く、言葉の裏の意味は理解した上でそう答えた。
その上で、紫は2人をどうにかするわけではなく、危機においては守護してくれるのだろう、ということを考えていた。
そもそも、2人をどうこうするつもりあるのか、というとそうでは無い。
もし、梓が本気で報復に来られたら、正直紫は無事でいられる自信はなかった。
能力を考えればこそ、何とかなりそうなものだが、それだけでは言いきれない。
彼女にはそういった、絶対的な上位者としての何かを感じていたからだ。
「そうね。そうしてあげることにするわ。」
「ふふ、頼むとしよう。結衣は分かりにくいところがあるだろうが、基本的には良い奴だ。もちろん、総督も。」
ただ、敵対しなければ多少の軽口も笑って対応するような友好的な人ではある。
「おそらく退屈だ、などと言うだろう。近くの人里にでも案内しておけば満足するさ。」
「助言、受け取っておくわ。」
それを聞いた紫は空間を裂き、その中へと入って、この場には彼女はいなくなった。
梓は目的地へ向けて歩いていく。
急ぐことはない、時間はたくさん、あるから。
とはいえ目的地は既にそこまで遠くない。
数日かかることなく到着、眼前に映るは広大な花畑。
季節の花が咲く、と言っても何者かの手が入ってなければ、花畑スポットのように眼前に広がることはないと言えるだろう。
雑草が生えるだろうし、木々も生える。ましてや土の道などできるはずも無い。
だがここには絶景とも言える花畑がある。現代でこの場があるなら観光地になるであろう、と予測が容易にできるほどだ。
この時代に、そこまでの技術はおそらく無い。
であれば。
「……。」
人外が手を加えた、という予測が立つ。その者と、顔を合わせる梓。
とはいえ距離はある。迷いなく梓はその者の元へと歩みを進める。
キッ、と鋭い目付きになっており、眉間に力も入っている。
誰が見ても警戒しており、ひりついている、ということは明らかだ。
「……私に何か用かしら。」
癖毛の緑髪に、深紅の瞳。白のカッターシャツにチェック柄の袴(形状的には"もんぺ"が近いか。)を着た少女だった。
「渡すものがあってな。」
封筒に入ったそれをひら、と見せびらかせるように取り出し渡すために歩みをさらに進める。
相手は、じり、と片足を後ずさりさせる。
「ある妖怪からだ。」
書類を指で挟み、相手へと渡そうと差し出す。
だが、手紙をじ、と見て警戒した様子で見たまま受け取らない。
目線を梓へと戻す。
梓としては渡すために来たが、本人にとっては中身を見る必要も、受け取る必要も、ないと言えばない。
その上その手紙は目の前の梓からでは無いと来た。
見たこともない、どんな存在かも分からない者からの手紙だ。
彼女にとって、梓自身には正直興味は持てた。だが、その手にしたものには興味が無い。
手紙を攻撃して破壊し、梓が反応すればよし、そうでないなら帰ってもらおう。
そう、彼女は思った。
「──血気盛んだな。」
「ッ!!」
妖力によって弾を発射しようと、手を出そうとしたその時だった。
瞬時に、いつの間にか、梓は隣に立っており、彼女は手を添えて攻撃を制止していた。
上げようとした手を優しく抑えるだけの、制止だ。
パンチやキックにおいてもそうだと言えるが、動きというのは初動を抑えてしまえば、相殺にあたるエネルギーというのは小さく済む。
出来るかどうか、というのはさておき。
反射的に彼女は逆の拳を振るう。
その拳を軽く払って軌道を変えさせて回避、体勢が崩れたところに、梓の膝蹴りが脇腹へと打ち込まれる。
体が横にくの字に曲がり、宙へ舞う。
着地後、梓へに向き直りつつステップを踏んで距離を取った。
梓は紫との話し合いの時にわかる通り、既に彼女を観測していた。
花畑にいる、力の強い人外がいる、と。
同じように、彼女も梓を認識はしていた。強い何者かがいる、と。
別に梓自身、交戦を好む戦闘狂なわけでも、強力な存在を消して回るような殺戮者でもない。
「敵視し、攻撃してくるのであれば戦わざるを得ないな。私は話し合いを勧めるが?」
特に戦闘の必要性を感じていない。話し合いでもいいだろう、とそう思った。
だが、この発言が彼女の怒りに火をつけた。
勧める、という言葉から。
"お前は私より弱いのだから、ただではすまない。戦うのは辞めておけ"と。煽られている、と感じた。
もちろん、梓にそんな意図は全くないのだが。
「……ッ!上等よ!!」
言葉と共に妖力により弾を生成し、梓に向かっていきつつ複数放つ。
弾は一つ一つが強力では無いものの、大きな弾となり、ある程度拡散して梓へと向かっていく。
弾が当たればダメージになるし、たとえ弾かれたり、ダメージにならずとも自分の姿を隠すことが出来る。
自身の攻撃をブラインドとすれば次の行動は視認されなくなり、奇襲性が上がる。
彼女は向かっていくと見せかけてすっと進路を横へと変えた。
─ズァアッ─
梓は片手をニュートラルの状態から斜め上へと振るうと、風のような障壁が前方に発生。弾を弾き返した。
(ここッ!)
その隙に梓の真横から飛びかかるように奇襲。その関係上音はほぼ発生していない。
妖力を手に込めながら、脇腹を切り裂くつもりだ。目の前の攻撃の対処に目線は前。視界に自分は映っていないはず。
しかし。
─パシッ─
体を少し動かして直線上から避けつつ、攻撃する手を取られた。
自身の行動は、視界に入っていなかったはずなのにも関わらず、既に梓の視点はこちらへと向いていた。
手首を握られたまま引っ張られたため、彼女の体勢は崩れる。
そこに──
─ゴッ─
「ぐぁッ!」
力を込めて顔面へと拳を振り抜いた。相手は地に伏せるも腕力と妖力で推進力に加速、その場から低空で飛行しつつ脱出した。
進む方向はそのままに振り返り、手を梓へと向ける。
すると巨大な植物が地面から発生、それと同時に妖力の込められた植物の棘が彼女へと無数に発射される。
疎らに発射されたそれを、梓は最小限の動きで回避した。
「そら、返そうか。」
そして、回避しながらいくつかの棘を掴んでおり、それを投げ返した。
直撃を避けるも頬に掠り、出血により顔を汚す。
追い打ちとして何かを撃つつもりか、指先が光る梓。彼女はその直線上から先んじて移動し、回避を試みる。
放つは一筋のレーザー、しかしそのレーザーは直後に拡散した。拡散は非常に広く、このままであれば殆どはあらぬ方向へと飛ぶだろう。
直後、全てが角度をつけて曲がり、彼女へと追尾する。
「くっ!」
彼女は多少被弾しつつも、ある程度は回避した。
幸いなのは一つ一つがそこまで威力がなかったことか。
梓の方を向けば地には居らず、空中へと飛び上がって足を振り上げていた。
虚空を蹴ると同時に足からレーザーが発射され、彼女へと一直線に放たれる。
その速度は先程の比ではなく、いつの間にか彼女の脇腹を裂いていた。
体の位置がもう少しズレていたら、彼女の体には風穴が空いていただろう。
そのまま後方の地面へレーザーは突き刺さり、爆発を起こした。
吹き飛ばされ、地に転がる。
(このッ……!!)
力を込め、立ち上がる。ちら、と爆発を起こした方を見る。そこには地面が焼けた様な跡を残していた。
彼女は花を操る者だ。故に、植物を大切に想う気持ちがある。
そこにはちょうど草花が少なく、砂地の場所だったようだ。
一瞬の安心、だが、その一瞬とはいえ相手から目を離してしまった。
ハッ、と振り返ればそこには自分を見下ろす梓の姿が。
梓の背後には戦輪のような形のものが4つ、浮いていた。
─ズガァン!─
1発、斜め下へと放たれる。彼女は飛び上がって回避、それは地面へ直撃した。
彼女を追い、2発の戦輪が右上と左下、斜めに挟み込むように迫る。
彼女は勢いを真逆に、飛び上がった体を急降下することでそれを避けた。体に強い重力がかかる。
上ではなく下に避けたのは、空にいては狙い撃ちになるだけか、と考えて地に足を付けるためでもあった。
着地、の瞬間。目の前に最後の1つが迫っていた。
瞬時に体勢を下げ、戦輪の下ギリギリをくぐって避けつつ、そのままの低い姿勢で梓から距離を取った。
梓は手を軽く開き、地につける。
その瞬間、彼女の足元の地面が大きく隆起し、上空へと吹き飛ばされる。
「そこだ。」
両手をグッ、と構えると背後に多数の弾が出現した。その数左右に8ずつ、合計16発。
それらを放つとその弾はレーザーとなり、空を飛ばされた彼女へと真っ直ぐに向かっていく。
速度は高速、そのままだと彼女の体を貫くだろうか。
体勢が崩れた今、十全に回避はできない。
「くうッ!!」
彼女は自身の体のすぐ前で妖力の爆破を起こした。その勢いで彼女は軽く吹き飛ばされた。
自傷ダメージを許容してでも、無理矢理に射線上から逃れたのだ。
追尾性能はないらしく、側腹部に掠り、彼女は致命的なダメージには至らなかった。
「はぁッ!はぁッ!」
体勢を空中で戻し、息を切らせながら隆起した大地の向こう側に着地、大地の壁に背をつけた。
危なかった。もし今、先程の判断が出来なければ、かの攻撃で貫かれ、地に転がっていただろう。
確かにそれで死ぬことは無いかもしれないが、それ以上応戦することは出来なくなる。
抵抗出来なくなった敵の末路は、というのは察するものがある。
服の至る所には血が滲んでおり、到底、無事とはいえない。
対して梓は無傷。そもそも攻勢にすらほとんど出れていない。
最初の攻撃も、防がれており当たってすらいない。
どうすれば当たるのか。そもそも当てられたところでダメージになるのか。
(とんでもないのに手を出してしまったわね。)
ドロ、と血が顔を伝う。目に入りそうになったそれを腕で拭った。
彼女は強い者や、特別な力を持つものに興味を持つ質だ。
それだけに自身から戦いを進んで仕掛けることもあった。
ここに来て、想像よりも遥かに強い存在を引き当ててしまったものだ、と感じた。
「休めたか?」
隆起した大地、その上に膝を曲げて腰を落としてしゃがみ、さらに下にいる自身を見下ろしていた。
特に表情に変化はない。笑ってもいない。ただ普通に、話しかけてきた。それだけのように。
「そうね、すこしは休めたわねッ!」
直後に、彼女は隆起した大地に手をつけ、能力を発動する。
急速に成長した植物が梓を拘束しようと大地から飛び出す。
梓はこれを、触れる直前で跳び上がって回避した。
拘束から作戦を変更、植物の先は梓の方を向き、それらから妖力の弾が発射された。
その弾を、梓は複数のレーザーで叩き落として相殺。
すかさず複数の植物の先から妖力が集まり、ひとつの大きな弾を発生、梓に向けて発射した。
梓は右手を左へ、そこから右へと腕を振るい、手の甲で弾を弾いてダメージを避ける。
あらぬ方向へ弾は弾かれ、空へと消えた。
今度は植物ではなく、彼女から妖力によるレーザーでの攻撃が放たれた。
梓はそれを体を翻して回避しつつ、彼女の真上へ移動、そのまま急速で落下しつつかかと落としをする。
彼女はそれをギリギリで回避して後退、かかと落としは地面に当たって大きく大地に亀裂を走らせた。
(なんて威力よ、ほんとに!)
当たり所によっては致命傷になりかねない攻撃を簡単に出してくることに心の中で悪態をついた。
悪態をつきながらも行動は続ける。
体勢が低い梓に向かって植物による拘束を試みる。そしてレーザーを構えた。
(この拘束を避けるなら、飛び上がるしかないはず!)
地面からの拘束を試みるということは、上方向へはその手が薄い。
それをわざと行い、飛び上がったところをレーザーで射撃、というつもりだ。
瞬間。
─ボッ!─
「あぇ!?」
飛び上がるかと思えば、正面突破して目の前へと迫っていた。
それに驚くも行動を停めれば強力な攻撃を叩き込まれる。
咄嗟に構えたレーザーを目の前に放った。
そのレーザーに対し、梓は手で受ける。レーザーはその手で遮られ、複数方向に弾けて霧散した。
梓の勢いは変わらず、そのまま腕を彼女の首へと引っ掛けた。
「ゔッ!」
ラリアットだ。その衝撃に吹き飛ばされ、地面を転がる。
地に手をつけ、もう片方の手で首を抑える。
「げほっ!げほっ!」
喉にダメージを受け、咳が出る。くら、と目眩がした。
しかし、それにかまけている場合ではない。気配を近くに感じた。
確認することなく、大きく飛んでその場を離れる。
そのまま空中で滞空し、すぅ、と少しづつ目眩から回復しつつ周囲を警戒した。
先程自分がいた場所、つまり下だけでは無い。周りも、上もだ。
相手がどこにいてもおかしくない、それほどの相手だと認識しているが故だ。
すると、真下から数本のレーザーが発生し、彼女を撃ち落とさんと迫る。
それを回避しつつ、反撃にこちらも複数の妖力の弾を放った。地面に着弾し、破裂する音が響く。
直後、後ろに気配。
─ドゴッ!─
「くぅッ!」
振り返り、妖力を込めて腕を交差し、防御。その行動は正しく、梓は蹴りを放っていた。
それが妖力と腕に当たって彼女は強く、地へと向かって吹き飛ばされた。
防御の甲斐あってダメージは最小限、それでも重い一撃に呻いた。
空中で回転、地に足をつけて着地。梓はそれを追って飛び蹴りを放ってきた。
彼女に梓の行動は見えてはいなかったが、追撃の可能性があると考え、既に大きく飛び退いていた。
その判断は正しく、攻撃を回避することが出来ていた。
(このままじゃあ──)
なんともならない。彼女は体に力を込め、梓へと接近する。
受けの姿勢では畳み掛けるような攻撃の嵐に回避に専念せざるを得なくなる。
それにこの中距離での攻撃は当たるようには思えない。
(当たりさえすれば──)
そう思って、接近戦を挑んだのだ。物理攻撃が強力なことは初撃でわかっている。
近距離でありつつ、その拳が届かないその距離。
梓は迎え撃つように、彼女の進行方向真下から真上へとレーザーを射出した。
それを最低限の回避のみに留める。
体を回転させ、レーザーは腕に掠めるに留まった。
そして接近、全力で妖力を放った。
彼女の前に大きな音とともに爆煙が広がる。
油断はしない、追撃をしなければ、とさらに妖力を溜め、後退しつつ攻撃をしようとした。
が、梓はその煙に乗じ、後退を許さず胸倉を掴んだ。
「あ、ちょッ!!」
ダメージすらなかった。実際はと言うと梓は攻撃に対して防壁を張っており、ダメージを避けたのだ。
攻撃を避け無かったのは爆煙にて自身の姿を一瞬だけでも視認の外へとさせるため。
そして、反撃だ。彼女を振り回して上へと投げ飛ばした。
その後、空間を殴るように拳を、宙に舞う彼女へと振る。
すると、ガラスにヒビが入ったかのように、空間に亀裂が入り、そして一瞬遅れて砕けた。大きさとしては拳ひとつ程度で大きくは無い。
バリン、という音と同時に、強烈な衝撃が彼女を襲った。
「ご、ふっ……。」
口から血を吐き、呻く。それでもなお、体勢を直して梓へと向き直そうとした。が、体の一部分が動かない。
「えっ──」
衝撃波を発生させた後、飛び上がり、宙に浮かんだ彼女の足を、梓は掴んでいた。
そして梓は急降下。着地と同時に地面へ彼女自身を叩きつける。
いくら荒れた地ではなく、草花が生い茂ると言ってもそれのクッション性にも限度はある。
「ぐ、うッ……!」
怯んで動けない彼女をまた持ち上げ、反対方向へと叩きつける。そしてまた同じように持ち上げ、と、繰り返される。
そして数回繰り返されたあと、最後に前方へと強く叩きつけた。
梓は掴んでいた手を離し、逆の手の拳を強く握って振りかぶり、力を込める。
赤黒い力が集約し、いかにも最後の、トドメの1発、と言わんばかりだ。
彼女は飛びかけていた意識でなんとか能力を発動し、梓の腕や肘に植物の蔓を巻き付けて制止しようとした。
しかし、その抵抗も虚しく、一瞬にしてブチブチと引きちぎられ、拳は振り下ろされる。
狙いは顔。いくら人では無いと言えど、頭を吹き飛ばされればもちろん死ぬ。
迫る拳。そして───
「はぁっ……くっ、うぅ……はぁっ……。」
顔の前で寸止めされた。行き場を失った勢いが風となって草花を揺らす。
拳から力を霧散させて構えを解き、そして口を開く。
「死に急ぐことはない。受け取っておくといい。」
仰向けに倒れた彼女へと、手紙を落とす。
ひら、と重力にしたがってそれは落ち、顔の横あたりへと草花のクッションでふわ、と優しく着地した。
「……信用、出来るわけ、ないわよ。」
「気持ちはわかる。が、安心しろ。私と対等だ。」
詳しい内容が何かまでは知らないがな、と付け加えて、ざっと彼女の隣へと座る。
片膝を立て、ふぅ、と一息ついた。
「……名前は?」
「手紙の主か?私か?」
「どちらもよ。」
「手紙の主は八雲 紫という妖怪だ。私は梓だ。して、貴女は?」
「……風見 幽香よ。」
「なるほど、覚えておこう。」
仰向けの体勢のまま、ふるふると震える手で、近くに落ちた手紙をなんとか手に取る。
「あなたに興味が出た。だから……受け取ることにするわ。」
風見 幽香は梓を強者と認めた上で、興味を持った。
今回の強さも一端でしかないのだろう、持てる能力も特別なものがある、と確信もしていた。
では手紙の主、八雲 紫に対してはと言うとそこまで興味は持っていないし、危険とも感じていなかった。
梓と対等、という言葉だけを捉えれば梓と同等の強さだ、と思える。
だが、だとするならば八雲 紫本人が来ても問題は全く無いはずだ。
根拠らしい根拠では無いが、梓に頼んでいる以上、例え消されても問題は無いとして使っているか、危険な場所に強者を向かわせているのだと読める。
恐らく、梓が勝手に対等と思っているだけで力関係は明らかに彼女が上。
幽香は、そう考えた。
「そうか、ならばこれからもよろしく、幽香。花の妖精、いや、妖怪か。」
幽香に対し、柔らかく笑いながらそう言葉をかけた。
「……殺されかけたのだけれどね、私は。」
「今死んでいないだろう?ならばよかろう。」
「その言葉は貴女が言うべき言葉ではないと思うわ、梓。」
はぁ、と溜息をつきながら幽香は脱力した。
「……攻撃。もっと、当てられたわよね。」
戦闘の間、あとから考えれば何となく気づけたこと。
幽香は梓が意図的に急所を外している気がしたのだ。
急所でなくとも、自分が避けれないタイミングなどいくらでもあった。
打ち砕こうと思えば、貫こうと思えば、きっと彼女はそう出来たはず。
なのにも関わらず、攻撃を受けても傷を負うだけで致命傷には至らない。
それに、手加減を感じた。
「私は、少なくとも殺す気だったわ。でも、貴女は……。何故かしら。」
空を見上げながら、脱力しながら梓に問うた。
「殺しに来た訳では無いからな。」
至極普通に、そう言った。その言葉を逆に捉えれば、殺すなら殺すですぐに殺せた、とも捉えられる。
梓は幽香の近くをまだ立ち去らない。最低限回復するまでここにいるつもりらしい。
その意図も汲み取った上で、幽香は、あぁ、叶わないな、と思った。
*
「あ〜……。」
結衣は暇を持て余していた。先日のことがあり、手紙を各所の妖怪に渡す、という小さな目的が出来た。
さてみんなで色々な場所を回るのかと思えば梓は1人、どこかへ行ってしまった。
今から行きたい場所に2人を連れて行けない、と思ったのだろう。いつの間にか彼女の姿はなかった。
今はその場所へ直接向かってるのだろう。
(わかったんだろうな、多分。)
直感だろうか、それとも知っている存在だったのか。
危険だということを理解して、自分たち2人は連れていかず、一人で行ったのだろうと結衣はなんとなく理解した。
「まぁ梓もこっちの安全とかを考えてくれたんだろ。」
机に向かって何らかの図面を書きながら、聖士。
顔をそちらへ向けないながらも、言葉を結衣に投げかける。
「……わかってるけど。」
むぅ、と不服そうな顔。仰向けで寝転んだ状態でパタパタと足を動かす。
理解はできるし、納得もする。けど不満がないかと言われればそうでは無い。
そんな2人の様子を見にきたのは八雲 紫。
気にかけてやれ、という言葉もあるがこれから協力関係になるだろう相手。
そういう意味では性格など知っておけば有利に働くこともあるだろう。
そう思っての行動だ。
「退屈そうね。」
空間を裂き、その中から上半身だけを出して2人に話しかけた。
事前に退屈してるであろうという情報を梓から得たから開口一番、その内容の言葉だ。
「!あぁ、八雲さんですか。」
空間に突然現れたことに驚きながらも聖士は応えた。
結衣は顔を紫の方へ向け、あーどうも、といって手をヒラヒラと振った。
「実際、運動自体は出来ますが娯楽の類がないですから。」
はは、と笑う。もちろん現代では無いため、機械類なぞ存在しない。
それだけでも娯楽には乏しいものだが、ここには本もない。
現代の感覚を持つならもはや拷問にも近いとも言えるかもしれない。
道具が制作できる聖士がいるから釣りなどなら出来るが。
「本とかの類があるといいんですけどね。」
聖士が笑いつつ、そう答える。電源を用いない、この時代でもある娯楽。
サッと思いつくなら読み物の類だろう。
現代の感覚からすればその辺にある読み物の類ですら歴史的なものであり、興味がある人からば喉から手が出るほどのものだ。
たとえ興味がなくとも、それほどのものであれば暇つぶしには十分だ。
「私が知っている人里ならそう遠くない場所にあるわ。案内しましょうか?」
「え、ほんと?」
結衣はごろん、と起き上がりながら紫に聞き返した。
持て余した時間、暇な時間をようやく解消できる、と思ったからだ。
「ね、行こ。そーとく。」
「あー、いいんですか?良ければお願いしたいんですが。」
人里ともなれば読み物だけに留まらず、色んな種類の店もあるかもしれない。
そうでなくとも、他人との交流となれば情報交換出来るし、時代に応じた話もできる。
出来ることは多数増えるだろう。
服飾の類もいずれは調達するつもりだったし、渡りに船、というわけだ。
「ふふ、いいわよ。梓からもそう言われてるし。」
軽く笑いながら紫は答える。
「じゃ、行こ。今。」
すっ、と立ち上がって結衣は2人に言う。
聖士はそれに了承、紫も元々そのつもりだったので準備は出来ている。
紫は空間を移動し、外で地に足をつけ、2人を待つ。
結衣と聖士は玄関で靴を履いて外へ出た。
「じゃ、しゅっぱーつ。」
「道知らないのに前を歩いてどうするんだよ。」
「あ、ごめんごめん。」
そんな話をしながら、歩いて向かう。
特に急ぐことは無いし、紫もわざわざ自分の能力を使おうと思っていないから。
それは彼女らを知るため、話をしながら歩くためだ。
「ところで……梓と2人はどんな関係なのかしら?」
まずは梓と関連あることから話を聞き出すことにした。
「友達だよ。」
「私もそうですね。」
そこそこ仲がいいんですよ、と付け加えて聖士は答えた。
「実はここは友人ではなくって、初対面だったんですけどね。」
「共通の友人、ってことだったのね。」
笑いながら会話を続ける。
梓を頂点とした、配下ではないらしいことを紫は理解した。
とはいえ、実力的に頂点が梓だ、というのはわかっている。
実質的に彼女が頂点なだけか、と考えた。
「そういえば、家には家具があったけれど、あれはどこから?」
時代背景を考えれば紫には見たことがないものも複数あった。
あれはどこから、というと梓がどうこうしただろうことは予想できるが、裏付けのために聞いてみる。
「あー、自分と梓が作りました。」
「あら、そうなの?いいわね、今度私もお願いしようかしら。」
「とんでもないものは出来ませんが、ある程度ならもちろん構いませんよ。」
雑談しながらも、彼の情報を集める。
話を聞いている限り、結衣よりも聖士と会話している方が情報としては理解しやすく、集めやすい。
結衣はというと、感情の起伏が分り辛く口調・表情・文章全てにおいて感情表現が拙いため、何を考えているのか分かり難い事が多い。
もちろん、考えれば紫も理解することは出来るが、それならば表現がわかりやすい聖士から、というわけだ。
その後も会話を続ける。もちろん、両方と。
なんとなく2人の人となりを理解し、それと、梓と同じように邪気らしいものはあまり感じられない、ということが分かった。
そうして、しばらく。
「ここよ。」
人里へと、到着した。規模として、1つの国のようにかなり大きい訳では無い。
それでも、店があり、そこそこ栄えている、と言っても過言では無い。
「おー。いいじゃん。グーです。」
親指を立て、紫にサムズアップを示す。
紫はそのサインを全く知らないが、なんとなく、いい印象があるのだ、ということは理解した。
「あ、紫さんはこれからどうします?」
このまま同行するのか、ということを聖士は聞いた。
気まずい、とかそう言った意味ではなく、一緒に行くのかどうかを純粋に聞いただけだ。
「いえ、私はやることがあるのでここで失礼しますわ。帰り道は大丈夫かしら?もし覚えていなくとも、宿泊する施設はここにはあるけれど。」
「あーじゃあ大丈夫です。もし帰れなさそうなら泊まることにします。」
聖士が帰り道を何となく覚えているし、宿泊施設があるなら大丈夫か、と聖士はそう返す。
「じゃあ、また。」
「ええ、また会いましょうね。」
紫は結衣の言葉にそう返し、能力を使って裂いた空間の中へと消えていった。
「さて、と。まぁとりあえず本屋とか、あと服とか……飲食とかも探すか。」
「おー。」
なんとなくの方針を決め、2人は人里の中へと歩みを進めた。