響け、イエローハート 作:ぴいのぷりん
その日、響はピーシェを連れてクリスとネプテューヌの二人組と待ち合わせをしていた。
遊びの約束ではなくS.O.N.Gのお仕事。エルフナインが主導で行っていた身体検査の結果が一段落し、本人たちを交えて報告したいという要望から、保護者扱いとなっている二人が連れて行くことになったのだった。
保護者と一括りにされた際にクリスが微妙な顔をしたのは言うまでもないが、本人も自覚はあるようで、約束の時間に間に合うようにちゃんと寝ろと言い聞かせ、結局起きなかったネプテューヌを叩き起こして引っ張ってきた。
対する響はと言えば、未来が気をつけていたということもあり、朝一番に元気良く目覚めたピーシェと共にランニングをする余裕まであった。身体を動かすことが好きらしく、そういったところまでも似ているようだ。
各々にこういった経緯があったものの、時間は問題なし。
無事に全員が集合して、エルフナインと顔を合わせることとなった。
「みなさん……おはようございます」
しかし、当のエルフナインが眠そうに挨拶をする。
見れば髪がところどころハネている。今も持っていた紙を何枚か落としてしまい、そそくさと拾い上げるほど。明らかに寝不足であった。
「ちゃんと寝てる? 無理してない?」
「大丈夫です。身体は丈夫ですから」
響への返答としてそう言うと、可愛らしい笑顔をする。右目の下の泣きぼくろがよく見えた。
「それに、興味深いことがわかったのでむしろ調子が良いんです。不思議です。研究者の性というものでしょうか」
「これも いきもののサガ か……」
「ねぷてぬまたなんかいってる」
「さっさと始めたほうがいいぞ。こいつにペース持ってかれるといつ帰ってくるかわかんねぇ」
ネプテューヌがいかに会話を引っ掻き回すかは先日の話し合いの録音が示している。加えて、ピーシェも見た目と精神年齢が子供そのもので長時間の対面に向いていない。いつ集中力が切れるかわからないだろう。
そんなものだから『なんで揃って連れてくる必要があったんだよ』がクリスの心中であった。
されど、理由は呼んだエルフナインがよく知っている。
「ではさっそく身体検査の結果を。結論から言って、ピーシェさんもネプテューヌさんも普通の人間ではありません。詳しくはこの資料を」
途端に部屋内が薄暗くなり、設けられたスクリーンに画像が投影される。内容は件の女神二人の顔写真と身長体重エトセトラ。計測から推測される身体年齢と共に健康状態が明記されていた。中には響たちにはさっぱりな単語も混じっている。
またもやネプテューヌが女神のプライバシーがどうのこうの言い出そうとするが、咄嗟にクリスが口を抑えた。
「で、普通じゃないってのは『女神』ってヤツのことか?」
「そうだとは確定できませんが、確かにきっかけになったのはネプテューヌさんのその発言です」
「ほらー!」
「いいから黙っとけ」
「つ、続けますね」
こほん、とわざとらしい咳払いで真面目な顔つきに戻る。
スクリーンに映る画像が神々しい女神像に変わると、再び口を開いた。
「古今東西、女神とは特別な存在です。例えば戦女神ザババ。彼女がノイズに触れたらあっさりと炭素に転換されるでしょうか。ボクにはとてもそうは思えませんでした。そこで再度、血液検査等を
「わた、わたしッ!? どこ!?」
次に映ったのはレントゲン図。心臓部分より伸びる影が身体中に浸食している特異なものだ。
これに響は納得がいった顔をして、クリスは苦々しい表情。
「資料で確認した融合症例――ガングニールの破片が心臓に食い込んだまま固着した状態です。これにより、爆発的なエネルギー出力や特異な回復力等が得られていたと聞きました。常人を大きく逸脱したパワー……これは、彼女たちの特異性と同じではないでしょうか」
「……まさか、ネプテューヌちゃんとピーシェちゃんも融合症例なの?」
「聖遺物らしきものはありませんし、まだ似ているだけとしか。少なくとも彼女たちに眠るなにかが炭素転換を阻害し、聖遺物と同等のエネルギーを与えていると見ています」
仮定の話だとしても、響にはそれが真実に思えた。
自身にガングニールの欠片が宿っていた時、確かに人の身でノイズに触れた。されど炭素転換は起きずに吹き飛ばした。
回復力だってそうだ。今ある左腕は一度失っている。ネプテューヌが高所から落下しても傷一つないことや、ピーシェが異様に傷の治りが早いのも似た現象ではないか。
考えている間に、パッとスクリーンが次の画像に移り変わる。
それは二度あったネプテューヌの戦闘中のもので、刀を振り回してノイズを斬りつける姿だ。監視カメラに映っていたらしい。
「もう一つのデータなのですが……ネプテューヌさん、刀を出してもらえますか」
「いいよー、ほい!」
画像と同じく掲げた手に急に刀が出現する。見たことがあるクリスでも理屈がわからない摩訶不思議。
物理法則を半ば無視しているという点ではシンフォギアも似たようなものだが、そちらは解読できるかはともかく理論がある。対しての不明だ。
「ピーシェちゃんはできるのかな?」
「ぴいはぶきなんてひつようないよ。ぴいのてがぶきだもん」
「そっか!」
「なら結局、アームドギアみたいなもんか?」
シンフォギアに付髄するもので形態を変えるという差異はあるにしても、意志の体現たるアームドギアも同様に出現する武器である。
エルフナインに言われる前にもう少し特徴を見極めてみようとネプテューヌに何度か出し入れを要求すると、部屋が暗いこともあって、クリスはすぐにそれに気づいた。
「……待て、これ、よく見たら……!」
「ええ、実は、UM――『Undefined Monster』の出現時に似た反応があるんです。出現するときのキューブ状の粒子もそう。同じなんです」
暗闇に光る幻想的な青い粒子。ほんの一瞬しか見えないそれ。
まさしく、ノイズに混じるUMの兆候だった。
「ゆーえむってアレだよね? ひよこ虫に似てる怖いやつ」
「ネプテューヌさん風に言うならそうですね。他にもタイプがあって、これが今までに出現したものの写真です。見覚えは――」
「あー! これスライヌ!? こっちは馬鳥だし、シャンプルまでいるよー。なんか全部怖いし変だけど」
「これ、くじら!」
「なんだっけそれ、ホエール?」
「……あるみたいですね」
犬と水滴が組み合わさったようなもの。馬に鳥の羽根が生えたもの。ウサギじみた小動物。空飛ぶクジラ。そのどれもが普通の生き物ではなく、ノイズのような特徴もない。文字通りのモンスターだ。
その全部を知っているという二人には、複数の可能性があるだろう。
またネプテューヌが適当を言っているとも考えられるし、既にどこかで見ていたからということもある。
しかし、UMとの類似性を指摘した現状、そのどこかとは敵地。出元と考えるのが自然だ。
それにはネプテューヌ自身も気づいて、オーバーなリアクションを返した。
「これ、またわたしが敵だと疑われない!? 図られたー!」
だが、そのような心配事は今さらな話である。
「……あれ? その割にはみんな目が優しくない?」
「いや、なんつーか……つまんねぇウソは言わないと思うんだよな」
「わたしにもなんとなくわかる。UMとピーシェちゃんたちは無関係じゃないけど、敵でもないって」
それぞれ思うところがあり、嘘でも敵でもないと判断した。
ならば、気になるのは『どうして知っているのか』だ。
ピーシェを除く三人の視線が一点に向けられ、察したネプテューヌは胸を張って言った。
「まあアレ、モンスターだしね。ここじゃいないみたいだけど、外歩いたら普通にいるしピー子がよく吹っ飛ばしてるよ」
「ずばばーん! ぴいのかち!」
「って感じ。それにわたしたち別の次元から来たし。あ、別の世界って言ったほうがわかりやすいかな?」
「は?」
「え?」
人間は、いきなり予想外のことが来ると反応できないらしい。
戦闘ではなく会話の死角を突いた発言にそんな声しか出なかった。
遅れて最初に反応したのは、少しは耐性ができたクリスだ。
「はあぁぁぁっ!? おっ、お前、いきなり何言いだしてんだ!?」
「えー? わたし前に言ったよね?」
「言ってねぇ!」
「いえ……言っていました」
落ち着いていたエルフナインがスクリーンに投影している機材を操作すると、録音されていた音声が流れだす。
『……え、あのー……もしかして、
「言ってるッ!?」
「ほらね!」
あの時は話の流れもあって誰もが『女神』に引っ張られていた。いざ落ち着いて聞いてみると、そもそもの前提がおかしい。自分たちが女神だと謳うのに、存在しないのかと聞くのはどうにも引っかかる物言いではないか。
だが、彼女の言う通り、この世界ではないところから来ているのなら。話がかみ合う。
今日の目的の一部であったと言うエルフナインの勧めもあり、ひとまずは話を聞くことにしたのだが――
「ク、クリスちゃん……」
「なにも言うな……」
「ボクも自信がなくなってきました……」
彼女たちの言う『世界』は、あまりにも現実とかけ離れていた。
曰く、そこはゲイムギョウ界。冗談みたいな名称である。
地球や月という居住する星の単位ではなく、文字通りの世界という単位であり、その名で呼ばれているらしい。錬金術ではない魔法があるし、モンスターもいる。まるでファンタジーそのものであるのに、どこもかしこもゲームが主産業。国を挙げてゲームハードを開発するという。
この時点でクリスは呆れた。
主な国は四つ。尖った先進技術を持つプラネテューヌ、経済活動が盛んに行われているラステイション、長い歴史を持つ雪国ルウィー。海を隔てた大陸に存在するリーンボックス。
それぞれの国家を象徴する存在が守護女神であり、内政も行う国のトップ。民衆を導く立場である。
この辺りで響は思った。「ネプテューヌちゃんとピーシェちゃんってとっても偉いんじゃ……」と。
トドメを刺したのは、これらの話は前提に過ぎなかったことだ。
ネプテューヌが普段いる世界は『超次元』のゲイムギョウ界。ピーシェが普段いるのは『神次元』のゲイムギョウ界。二つの似て非なるゲイムギョウ界は紆余曲折を経て行き来できるようになったそうで、それで次元の違いを認識できているようだ。
それだけでも理解に時間がかかるというのに、ネプテューヌが思い出すように『零次元』や『心次元』、『VR次元』などの謎の次元を言い出した辺りでエルフナインが慌てて止めたのだった。
「……その、結局、あなたがたの世界に元々いたから知っている……で、いいのでしょうか」
「そうそう。あ、メタ的に言うと解説は今回あんまり関係ないから気にしなくていいよ」
「じゃあさっきのトンチキ聞く必要ねぇじゃねぇか!」
「いたーい! もう、口調といいこういうところブランに似てるんだから」
腕を振り上げて怒り心頭のクリスは向こう側に馴染み始めているようだ。なにがメタなのか、クリスがそれを理解しているのかはこの際いい。
そんな風にまた言い合いを始めた二人を響はあたたかい目で見ていることにした。
それよりも、記憶喪失とされるピーシェが今の話を覚えているかのほうが今は重要だ。
「ピーシェちゃん、さっきの話は知ってるかな? ゲイムギョウ界とか、えーと……プラネテューヌとか」
「ぷらね、ぷら、ねぷてぬ……しらないけど……エディンはしってる」
「エディン?」
その名前は先ほどはなかったと、響は認識している。
かと言って、それほど大きな問題でもないと考えた。おそらくは別の国名だろうが、国が四つだけしかないというよりも他にも小国があるほうが自然だ。別の次元まであるというのならそういう差異もあるだろう。
詳しいことはネプテューヌに聞いてみるしかない。そういった意味で改めて顔を向けると、話は先に進んでいた。
「で、本当だとしてどうやって来たんだよ」
「さあ?」
「はぁッ!?」
「ほらわたしって主人公だし。ピー子を捜しまわってる間にコロコロ転がって気づいたら空から落ちてたんだよ」
当人を除く全員が思い出したのは青空から落ちるネプテューヌ。
空から人が降ってきて地面に突き刺さり、そのうえ無事だったなど滅多にないのだから忘れたくても忘れられない。
「そうだ、ネプテューヌちゃんはピーシェちゃんを捜しに来たんだよね。だからそのゲイムギョウ界に帰っちゃうんでしょ?」
「ただ先ほどの言い方だとその方法は……」
「うん。わかんない」
あっけらかんとそう言う。
来た方法がわからなければ帰る歩行がわからないのも当然だが、まったく心配していなさそうなネプテューヌは、今も響の手を握るピーシェをちらりと見ると、ドンと己の胸を胸を握り拳で叩いた。
「大丈夫! ピー子ももう少しいたいみたいだし、ちょうど良いよ。それにわたし、もう何回も別次元に行ってるし、歳取らないし、一行で10年経過させたこともあるから。シェアエネルギーはちょっと心配だけど……そのうち大人のわたしが迎えに来てくれると思う」
今の発言にすらいくつかの疑問点は湧いて出ているが、全てを聞いていたらキリがない。
ただ一点、帰還方法はあるという点にのみ焦点を絞る。
「その迎えに来てくれるという話を詳しくお願いできますか?」
「うーん……ごめんね、正直言ってわたしもよくわからないんだよ。次元を越えるゲートとか通信できるのとはまた違う気もするし。スネちゃうこともあるから」
そのまま続けた話からして、どうにもそれは平行世界の自分を認識しているらしい。
ネプテューヌの言う『うちにいるいーすん』と、大人のわたしと共にいる『クロワール』とやらはまた別種に思えるらしいが、同様に次元を越える力を有していてそれで迎えに来てくれるそうだ。
そこで、エルフナインは考えた。
ゲイムギョウ界は間違いなく次元干渉の技術を有している。話にあった次元観測の手段、平行世界の認識をしている点からも明らかだ。
この世界にも異なる次元を認識する手段はある。ノイズの位相差障壁などそのものだろう。異なる世界に己をまたがらせることでダメージを無効化しているのだから、平行世界の存在を証明している。
だが、自由自在に移動できるとなれば話は別だ。移動できる聖遺物がないわけではないのだが、いかに人類の科学技術や錬金術が成長を遂げてもまだその領域には達していない。ワープ、異空間への収納はこの世界の範疇であり、飛び出してはいない。
ゆえに――まったくの別世界からの侵略。その可能性を考えなかったわけではない。
「でもでも、帰るときはピー子と一緒にちゃんと挨拶するからね」
「ぴいかえるの? どこに?」
「それはね~……プリンがいっぱいあるとこかな?」
「プリン!」
だが、それはないだろうとも考えた。
信頼する響とクリスが二人を見守る姿と、調と切歌のお節介が信じるに値する。それに、あの様子ではプラネテューヌにもさぞプリンがあるのだろう。
いつの間にかエルフナインの隣に立っていた響とクリスが、静かに声をかける。
「まだおっさんには言ってねぇんだろ?」
「はい、今回の内容を加えて報告書を出せば今後のプランが正式に決まると思います」
「じゃあそれを待つわけだね。……よしッ!」
今度はこちらが己の胸を叩き、主張した。
「わたしたちもピーシェちゃんの記憶を戻す手伝いをしようッ!」
◆
『ショックを与えたら戻るのかもしれません。ショック療法です』
エルフナインが別れ際に放ったその一言は、響のお人好し精神を爆発させた。
「というわけで、今日はよろしくねー! 響ちゃん、未来ちゃん!」
二人の部屋にピーシェが増えて、今日はさらにネプテューヌが増えていた。
こうなった経緯は単純で、うまいもんマップの一件である。一度あったら二度もあるはずだという憶測により、さらなる記憶を取り戻すため、ネプテューヌを家に招き、食べ物を用いての策に出たのだった。
もちろん事前に食事の許可は取ってある。
と言うより、重要人物扱いであるネプテューヌとピーシェの二人には、付いている装者に行動の報告義務が課せられていた。
そんなことは露知らず、食卓に並べられた料理を前にしてピーシェは目を輝かせ、ネプテューヌはじりじり距離を取る。
原因は、ネプテューヌが進言した麻婆茄子である。
「ピーシェちゃんが好きだから、ってこれにしたけど……本当みたいだね」
「まさかのチョイスッ! わたしたちじゃ選ばなかったかも!」
「わたしも絶対自分じゃ選ばないからね! だから、うわうわわ、ピー子! ナスを近づけないでー!」
「ねぷてぬへんなのー!」
夕飯は麻婆茄子にすると決めた時、伝えたネプテューヌはそれはもう恐ろしく疲労していた。
ピーシェは茄子を気に入っているのだが当の本人は大嫌い。同じ紫色をしているのに、なにがあろうと食べるつもりがない嫌いっぷりである。
ゆえに自分の分だけは麻婆豆腐にしておいたのだが、ピーシェが茄子を食べさせようとしてくるのは予想外だった。今もフォークに刺さったナスを頬に近づけられて涙目になっている。
しかし、それでも我慢した。
ピーシェのためという明確な理由ともう一つ。食後のデザート――プリンのためである。
落下してきた日に買い置きしてあったプリンは一人増えたところでなくなるものではない。予定通りに並ぶプリンを食べる前に、未来からペンを借りるとネプテューヌは蓋になにか書き始める。
それは丸っこい字で書かれた『ねぷの』。自身のものであると主張するための表示であった。
単なる所有権の明示は、どういうわけかピーシェに笑顔をもたらした。
「ねぷのプリンだー!!」
書かれた文字といえば、響が書いていたものがある。
「そっか、『ねぷてぬ』じゃ物足りなさそうにしてたのはそういうことだったんだ――って、ダメだってピーシェちゃん! ネプテューヌちゃんのプリンだよそれ!」
「これがいい!」
「ピー子はもう持ってるでしょー!? 待って、待てー!」
逃げるピーシェと追いかけるネプテューヌ。駆け回りだした二人。
この状況は非常にマズい。夜中に大きな声で騒ぎ続けてはご近所迷惑が目に見えるというもの。
どうにか止められないかと、響が間に割って入る。正面から来るピーシェを受け止めるため体勢を整えて待ち構えて――あろうことか、ピーシェはあえて後ろに跳んだ。
「ぐえっ! わたしを踏み台にした!?」
ネプテューヌの肩から跳ねた勢いで響をも突破。比類なき近接戦闘のセンスを見せつけて、そのまま椅子に着席したのだった。
と、なると残った二人だが、こちらはこちらで勢いのまま正面衝突。倒れ込んで二人が密着する様だった。二人とも異様に頑丈なためにケガ一つないのが幸いだろう
ただ、ネプテューヌが疑問符を浮かべた。
「おー、なんかビリビリするっていうか、なんだろこれ。電気マッサージかな」
「響……変なことしてない?」
「しッ、してないしてない!」
腕をぶんぶんと振る様子からして違和感があったらしい。されど誘惑には勝てずに、先ほどの争いはどこへやら、ピーシェと並んでプリンをおいしそうに食べ始めた。
こうなっては響も未来の隣でプリンを食べるしかない。あの二人を好きにさせては自分の分もなくなってしまうだろう。
――だが、そこに一報。
響の持つ携帯端末から着信を知らせる音が流れた。装者の顔つきとなり、流れる動きで急いで応答する。
「ノイズが!? はいッ!」
「えー、また!? ぜんぜん空気読んでくれないよ!」
兵器である彼らが空気を読むとは思えないが、その担い手の錬金術師の散発的な襲撃に疑問があるのも事実だ。
さりとてここで考えこむわけにもいかない。響が未来のほうへ顔を動かすと、待っていたかのように口を開いた。
「ピーシェちゃんは私が一緒にいる。響は現場に急行するんでしょ?」
「それが、迎えが来るからネプテューヌちゃんも含めて一緒に集まってくれって師匠が」
話によれば、調と切歌が既に向かっているとのこと。狙いである女神を保護することを優先したのだろう。
迅速な対応がすぐに車を用意させ、四人が外に出た時には既に発車準備が整っていた。乗り込んで道交法もなんのそのと飛ばすとすぐに到着。転がり込むように指令室へと駆けこんだ。
前面の大型モニターには現場の様子が映し出されており、その前には既に弦十郎とクリスが待機していた。
「状況は!?」
「今あいつらが着いたとこだ。普通のノイズらしい」
「手が足りないならわたしも行くよ!」
「ネプテューヌくんたちは待機だ。ありがたい申し出だが、君たちに戦わせる気はない。ここは俺たち本職に任せてくれないか」
「お前とピーシェを狙って来てるんだから座ってろ」
ぐうの音も出ない言葉に、ネプテューヌはピーシェを連れて引き下がる。
だが、今のはネプテューヌたちにのみかかる言葉だ。響はそれを理解していたから一歩前に出た。
「ということは師匠、わたしならいいってことですよねッ!」
「うむ。現場には響くんが別動隊として急行する。クリスくんは待機だ」
なにやら策があるのは間違いない。アイコンタクトで確認を取った響はすぐさま駆け出して行った。
別モニターで現在位置が表示されると途中まではゆっくりだった移動が、一瞬止まったあとに猛烈なスピードで動き出したことが確認できる。シンフォギアを纏ったのだろう。そのまま移動し続ける点はさほど時間をかけずに調と切歌と元に辿り着き、メインモニターに響が現れた。
「移動経路に周囲に反応ありません。引き続き探知します」
「こちらは囮のはずだが……ッ、藤尭!」
「近距離にアルカ・ノイズの反応あり! こちらに向かって来ます!」
「やはり来たか! クリスくん、迎撃を!」
「任せとけ!」
阿吽の呼吸で動く様は、対ノイズの経験がさせている。もとより二段構えの策だ。
本部は潜水艦であるため潜水して退避するという手段もあるが、ノイズを放置してはおけない。なにより水中では歌えない。水中戦に特化したノイズやUMがいた場合を考慮すると、装者へのバックアップもできるここで迎え撃つのが順当だろう。
慌ただしく動き始めた指令室内で、ネプテューヌは邪魔にならないようにピーシェの手を引いて隅っこに寄っていた。目立ちたがりに思える彼女にしては珍しい行動であった。
「なんか大忙しになってきたね。クリスちゃんも行っちゃった」
「ひびきもいっちゃった」
「お仕事だから仕方ないよ。人の命を守るためのシリアスな状況だもん。空気の読めるわたしはちゃんと自重するし」
モニターに映る光景では、ネプテューヌとピーシェが見たような戦闘が繰り広げられている。ノイズは数こそ多いが強化型シンフォギアの相手になるものではなく、早々に片付けられそうだ。
しかし、そうは上手くいかない。どこかに潜む錬金術師も無策というわけではないのだ。
各々の前方に集まるノイズの中心に青いキューブ状の粒子。UMの出現兆候。
現れたのは――巨大なドラゴンと、四脚の機械。今までとはサイズも力も違う、難敵だった。