響け、イエローハート 作:ぴいのぷりん
クリスの戦場であるコンテナヤードに出現したのは、四脚の機械であった。
大きな脚はクモかカニのように広がっており、両腕の代わりに突き出した棒の先端は避雷針のごとく尖って時折バチバチと電気が走っている。到底生き物とは呼べぬ存在であるが、出現方法からして常識の範疇ならず。顔らしき赤ランプが発光し、次第に照準を合わせてきていることからして、敵には違いない。
「なんにせよぶっ放すだけだッ!」
照準を合わせ返し、選んだ初手は【BILLION MAIDEN】。二丁のガトリング砲から銃弾を雨あられと撃つ。
牽制と殲滅に適したこの技は普通のノイズ程度であれば蜂の巣となる。様子見に適してはいるが――その鋼の身体は全てを弾いた。硬度は想定以上。UMの類はどれもこれも大型ノイズ以上の耐久力があるが、今回は見た目からして最大級の防御力を持っていると考えていいだろう。
ならば、より大火力をぶつけるのみ。
ガトリングを収納し、脚部アーマーから固定アームを展開。物理法則を無視して生成されていくのは二発のミサイル。【MEGA DETH FUGA】……ではない。さらに増えていくミサイルの数はその上位版、大型ミサイル十二発と小型ミサイルの同時殲滅攻撃、【MEGA DETH INFINITY】。情けも容赦もない。鈍い動きをして手の内を隠している間に仕留める腹積もりだ。
準備に数秒もかからず発射。小型のものから着弾。夜闇にいくつもの爆炎が広がる。そして大型が一発、二発ととどまることなく命中し続けて、一瞬の閃光。周囲のコンテナを巻き込む大爆発を起こした。地面は抉れ、黒煙が空に浮かぶ。
大型ノイズを小型諸共撃破しても有り余る攻撃。やり過ぎと言っても過言ではない。
「……おいおい、手加減したつもりねぇんだぞ」
だが、燃える炎からゆっくりと鉄の脚が現れる。
ヒリヒリとした感覚がクリスを襲う。直感に従って横に逃げると、突き出した棒が煌き、反撃の光。クリスの背後でなにかが弾け、コンテナごと地面が吹き飛んだ。
「電気、いやレールガンッ!?」
目で捉えられなかった。外れたのは偶然。次はない。
瞬時にその場を飛び退き、コンテナの陰に滑り込む。音で察知される可能性を考え歌唱を一時中断。身を隠した。
(見てからじゃ避けられねぇし、まともに受けたらマズい。かと言って速攻かけようにもあれだけの火力を撃ち込んで無傷ときた。おっさんなら倒せそうだがまだノイズがいる。どうする、あたし……!)
脳内の思案とパチパチと燃え盛る火の中に、重量感のある音が振動と共に混じる。時折聞こえる機械音は上体を旋回させて探しているのだろう。時間もあまり残されていない。
(察知される前に反撃する! さらに特大の全力をお見舞いしてやらぁ!)
クリスは首元のコンバーターを掴み、押し込もうとした。
「くらえー! 32式エクスブレイド!」
しかし、あのすっとんきょうな甲高い声が聞こえては止まるしかなかったのだった。
思わず顔を覗かせると、積まれたコンテナの上で指差しポーズを決めたネプテューヌの姿が見える。
どこかから出てきた剣が一直線にUMへと飛来し直撃するも、やはりダメージはないらしい。跳ね返され、キューブ状の粒子となって消えた。
「あれー、効いてない?」
「おいトンチンカン! こっち来い!」
コンテナを駆け上がり、首根っこを掴んで引きずり下ろす。
その最中、機械にどの程度効くかはわからないが目くらましのミサイルで追撃を封じる。それから、クリスはネプテューヌのどこかとぼけた顔を見た。
「お前、狙われてんだから大人しく待ってろって言ったろ!?」
「だって知識があるパーティメンバーがいたほうがいいでしょ? 実際、アレは結構強いみたいだし」
む、と反射的に言い返しそうになった口を閉じる。
そう言われると、一理あるだろう。クリスはしばし考えた。
取れる対抗手段はさらなる火力をぶつけることか、誘導して海に落とすぐらいだ。ノイズを殲滅してから弦十郎に来てもらうという手も先ほど考えたが、不明な能力と増援を考慮すれば司令塔が前線に出るのはありえない。ならば、ここでネプテューヌの知識に頼ることが勝利への近道ではないだろうか。
しかし勝利へのルート計算を進めると、どうしてもある一点が気になる。
「……ピーシェはどうした。まさかあっちに行ったんじゃねぇだろ」
「さすがにひとりじゃ行かせられないし、待っててもらってるよ。クリスちゃんのほうが手薄だったから味方増援でわたしが来た。SRPGで言うところのお助けユニットだね!」
「あーはいはい。で、あの機械、知ってんのか?」
「見たことあるような、ないような……でも、あれはたぶん物理防御力が高いんだよ。耐性か無効か、反射と吸収じゃない分マシだと思うけど」
「真面目にやれ」
「えー!? さすがにこういうときのネプテューヌさんは真面目だよ? ネタ挟まないと死んじゃう病だから言ったりするけど、真剣にやるときはやる良い女神なんだよ!」
ネプテューヌはどうにも本気らしく、主張を曲げない。キリリと上がった眉毛からして事実を言っているつもりらしい。
短い付き合いながらも信頼できる部分はある。クリスはハンドガンを構えて警戒しつつ、顎で話の続きを促した。
「必要なのは、ザ・属性攻撃! やっぱりマジカルな魔法だよ! レベルを上げて物理で殴れば倒せるかもしれないけど、今戦闘中だし」
「はぁ!? んな、ゲームじゃねえんだぞ!」
言った直後、ある言葉がクリスの頭に浮かんだ。
ゲームといえば、ゲイムギョウ界。本当に説明された通りのよくわからない世界で、あの機械もその一部なら、ありえる。
「……前言撤回だ。詳しく手短に説明頼む」
「色々とあるけど、うちのはぶいあいてぃーが物理的な防御力で、えむいーえぬが魔法的な防御力だよ。あと属性耐性とかあるけど、ああいうのは全部効くのがお約束だよね」
「待て待て待て! その辺はいい、結局お前はその魔法は使えんのか?」
「任せて、主人公だからね! 火も氷も風も雷も光も斬撃に出来ちゃうよ! どや!」
自信満々に胸を張るネプテューヌに、「斬撃なら物理なんじゃねぇのか」とはあえて言わなかった。クリスは自分の常識内で考えることを一旦止めたのだ。今言っていたことといい、キリがない。
こうして会話している間にも振動が近づいてきている。上空を裂いていった光線に二人は顔を見合わせて、それぞれの得物を構えた。
「あーだーこーだ言っても進まねえ、あたしが援護する。お前は突っ込めッ!」
「ここらで女神らしいところ見せないとね! いざー!」
想像よりも速く駆け出していくネプテューヌの背を見つめて、己の仕事を果たそうとクリスは気合を入れたのだった。
◆
響が駆けつけた戦場では、巨大なドラゴンが暴れていた。
太い両足で二足歩行するそれは、鋭いかぎ爪の付いた腕を振り回してビルを破壊する。背中に生えた大きな翼は飾りなどではないらしく、羽ばたいて空を浮かんで移動し、着地すればコンクリートの地面が粉々に砕けて砂塵が舞い上がる始末。災害と呼ぶに相応しい強敵である。
されどいかに強大であろうと、見て見ぬふりする三人ではない。
低めのビルの屋上に陣取っていたが、手初めに調が【α式・百輪廻】で丸鋸を、切歌が【切・呪りeッTぉ】で鎌の刃をそれぞれ飛ばして遠距離攻撃を仕掛けた。高速で迫るこれらをドラゴンは一切意に介さず――頑丈な鱗が弾いて無傷。手ごたえがない。
これには隙を突いて一撃を当てようとしていた響も立ち止まった。
単純に、強い。その直感だ。
「ど、どうするデスかッ!?」
「生半な攻撃は効かない……! ……でも、イグナイトなら……!」
「待って調ちゃんッ! 通信!」
シンフォギア・システムに備えられている通信機能が、各々のギアのヘッドホンに音声を伝える。その冷静な声は本部で指揮を取る弦十郎のものだった。
『攻撃が通じないのはこちらも確認した。ついてはネプテューヌくんからの情報だ。クリスくんの側に出たUMは物理攻撃への耐性がある。もしや、そちらの個体にも同様の特徴があるやもしれん!』
「だったら、魂を刈り取ればいいだけデスッ!」
切歌はそう言うと、手に持つ緑色の鎌をしたアームドギアをドラゴンへと向けた。
確かに、イガリマには物質的な防御を無視して魂を両断する特性がある。最大最強の攻撃手段たる絶唱にて特性を発動、首尾良く命中させればあらゆる生命は問答無用でその一生を終えることになるだろう。
だがそれは、魂あるものが相手の場合である。
察した弦十郎が告げる前に、『ダメですッ!』とエルフナインが割り込んできた。
『あれは殺戮兵器の一種! 無意味にノイズに撃つようなものですッ! バックファイアも許容できませんッ!』
「切る対象がなければ意味ないってことデスか!?」
続けて、適合係数を上げて反動を防ぐLiNKERの在庫に余裕がないことも告げられた。
絶唱は正しい状態で正しい使用方法で用いなければ身体への負荷は想像を絶する。効くかどうか不明の相手に切歌一人で決死の一手を撃たせるよりも、まだ足搔く余地がある。
それが、調が言いかけた『イグナイトモジュール』である。
時間制限と強制解除のリスクはあれど、決戦ブースターたる魔剣の力を用いることで物理防御を上回る火力を引き出すことができるばかりか、絶唱の負荷軽減まで可能。さらには正規適合者の響が手を繋ぎ、負荷を引き受けること前述の策を試すにも安全性が増す。まさしく勝負をかけるに相応しい一手だ。
されど、エルフナインがかけたのは待ったの一言。
『イグナイトモジュールの使用は少し待ってください。特性の確認が済んでませんし、アルカ・ノイズが残っている限り、倒してもまた出現するおそれがあります。それを見越しているのならここで切り札を使うのは罠です。ボクたちが解析を続ける間に周辺の掃討を!』
「じゃあわたしがUMの注意を引いてデータを取る! 調ちゃんと切歌ちゃんはその間にッ!」
「あっ、響さん!」
「アタシらも続くデスッ!」
響は地面を蹴って前方に跳ぶと、後続の二人がノイズへ攻撃を始めたことを確認してからバーニアを吹かした。
なにも考えなしにこの役を選んだわけではない。範囲殲滅はシュルシャガナとイガリマのほうが有利であるし、ガングニールの爆発力であればUMに攻撃が通る可能性がある。何物をも貫き通す無双の一振りにて、その思いつきをやってみる価値があると判断したのだ。
ならば取る手段もシンプルに慣れたものがいい。
飛び上がった空中。狙いを鱗のない腹部と定めて、右の腕部ハンマーを展開。それ以外に小細工なしの真っ向勝負の突撃を仕掛ける。
「おぉぉぉぉッ!!」
勢いは凄まじく、闇雲に暴れるばかりであったドラゴンが遂に響の方向へ振り向いた。
その瞬間、顔に感じる熱。夏の暑さよりも強い、炎の熱だ。それが大きく開いた口から今にも発せられようとしているではないか。
シンフォギアのバリアコーティングは優秀だ。大気圏突入による断熱圧すら防ぎきる性能がある。
されど、生命維持に必要な酸素を根こそぎ燃やし尽くされてはどうしようもない。海中と同じく、歌えなければその性能は落ちる一方だ。
それでもなお、響が選択したのは突撃だ。
余剰エネルギーをマフラーに回して前方を覆うように回転して動かす。それが発せられた熱線を裂いていく。マフラーもまたシンフォギアの一部。それが炎から身を守り、散らす盾にならぬはずがない。
ついには熱線の軌道を突っ切り、無防備な腹部に黄色の一撃が叩き込まれた。硬い皮膚を突き破って貫く感触。血の代わりに青いキューブ状の粒子が流れ出る様は、効いている。
「グオ、オオオ……!」
「――ッ!」
敵意。咄嗟に右腕を引き抜き、蹴って離脱。次の瞬間には爪が振り下ろされていた。余波でコンクリートの地面が抉れ、巻き起こされた強風で吹き飛ばされる。空中で体勢を整えてもう一度と顔を向けると、響は目を見開いた。
「再生してる!?」
拳で開けた穴が、既に埋まり始めているではないか。
あれではまるで無限の再生能力を持つ完全聖遺物『ネフシュタンの鎧』。程度の差はあれ、奇しくも黙示録の赤き竜と同質の力。
「師匠ッ!」
『こちらでも確認したッ! 攻撃が効いていないわけではない! 単純にヤツの回復力が埒外の領域にある!』
続けてオペレーターの二人からも。
『再生を阻害するには一撃で構成する粒子全てを吹き飛ばす必要があります!』
『計算出ました! 単純火力で押し切るには――半径12キロを丸ごと爆破する威力が必要!』
「じゅっ、12キロ!?」
それは、都心を巻き込んだ大爆発が今一度必要だということ。かつてキャロルが用いた碧の獅子機、その行き場を失ったエネルギーがもたらした被害と同等の威力だ。
『クリスさんがイグナイトに絶唱を重ねて使用すればまだ可能性はありますが……依然こちらも戦闘中ですッ!』
「エルフナインちゃんッ、詳しく! わたしたちの誰かと交代は!?」
『ネプテューヌさんが炎や氷の斬撃でダメージを与えてはいるのですが、耐久力が高く時間がかかります! リフレクターを持ち、遠距離から援護できるクリスさんをこの場から離すわけにも……!』
クリスは動かせないが、火力で倒しきるにはクリスが必要。
シンフォギアにはまだイグナイトを超える決戦機能が存在するが――奇跡を戦術に組み込むには、手段が足りない。
ネプテューヌとクリスがUMを倒して、援護に駆けつけるのを待つしかない。
だが、このまま黙って被害が広がるのを見ていていいのか。いや、この周辺の都市を丸ごと消し飛ばしていいのか。
「……あっ」
響はふと、気がついた。
ここはピーシェと遠出をしに来たことがある。戦場となっていて景観が崩れていたが、よく見れば見覚えのある看板や店構えがあるではないか。
例えば、あの個人経営の店舗は限定商品のプリンを売っていた。向こうのゲームセンターは近場にはない筐体が置かれていた。
言葉にしてみればなんてことのない小さな出来事だ。他にも街はある。
だが、未来とピーシェと共に歩いた思い出はここにある。『ぴい、またきたい!』と言う言葉に約束だってした。
個人の感情と多くの命。守るべきはどちらかは被害と数の上では明確だ。
だとしても。他に手はないか。それを諦める立花響ではない――
――ならば、応える剣はある。
その上空。戦場を飛ぶ小型飛行機より、二つの影が飛び降りた。
紡がれる音節。光纏いて。
「あゝ……風に鳴るは哀し剣ノ唄」
夜闇を照らす青い輝き。
人の丈を超える刃が振られ、雲耀がごとく雲を切り裂き一直線に降下する。
「虎も恐るる如き、唸る『青ノ一閃』ッ!」
降り注ぐエネルギー状の斬撃。その攻撃は威力・射程・速度・消費に優れた【青ノ一閃】。響にとって見覚えも頼りもある技がドラゴンの鱗を砕く。
つまりは。
「翼さんッ!」
形式番号『SG-r01 Amenohabakiri』を纏う人類守護の防人。風鳴翼の登壇である。
先ほどのダメージの再生が既に始まっている。そこに続けて放たれるは複数の白銀の刃、【INFINITE†CRIME】。それぞれが頭部や腕部にダメージを与えてはいるが、その再生速度からして効き目が薄いと見るやいなや、蛇腹剣による連続斬撃【EMPRESS†REBELLION】が追撃を加えた。
様々な形態に自在に変貌するテクニカルな縦横無尽の刃は、一つしかない。
「マリア……!」
「デースッ!」
形式番号『SG-x00 Airget-lamh』。
操るのは並び立つもう一人の歌姫、マリア・カデンツァヴナ・イヴ。
降下した二人はそれぞれビルの屋上に着地し、剣を向けた。
「わたしたちがいない間に随分と好き勝手やってくれたみたいね」
「だが、ここまでだ。欧州からの悪意、ここにて断つッ!」
装者の中でも屈指の力量を持つ二人。その戦闘力は脅威の一言。
それは間違いないが、今必要なのは広範囲を殲滅する火力だ。得意な分野が違う。そう思っていた響は、上を見上げて声をかけた。
「翼さんッ! あの再生力は――!」
「案ずるな立花。如何に再生しようとも、心の臓を断てば良しッ! マリア、続けッ!」
「ええ!」
「えぇー!?」
驚いた声をあげても、迷わず選んだ翼の判断だ。なにか考えがあるはずだと気持ちを切り替え、道中飛び掛かる飛行ノイズを叩き落してサポートに回る。
すると、すぐに通信が飛んできた。
『翼の言う通りだ! 緒川から届いたデータによれば、あのUMにはコアがある!』
「なら、それを壊せば!」
「そうだッ!」
心強い返事が勝算の証拠。止まることなくただ一点を目指し、突っ込んでいく。
さしものドラゴンも鬼気迫る勢いに迎撃せざるを得ない。火炎ではない熱線を一直線に吐くが――ただ、剣の一振りで霧散した。
響のマフラーでは散らすことで防いだものを、簡単に退けた理由は明らかだ。
そも、このシンフォギアに用いられている聖遺物は
この剣が。その概念の積重が! 現世のドラゴンに効かぬ道理があろうものかッ!
「龍の怒涛の如き、落つる『天ノ逆鱗』ッ!」
その名の如く舞い上がり、巨大な剣を生成。脚部のブースターを最大出力で展開して蹴り込んだ。この強烈な加速と質量にて翼部と脚部を貫き串刺しとする。この物理的な影縫いにより、完全に地面に繋ぎ止めた。
さらにマリアの蛇腹剣が両腕を拘束。熱線は効かず、飛び上がれず、爪も振るえぬ。逃げ場なし。
「舞ひて羽根刃……死に逝け――」
しからば、残るは介錯のみか。いいや、暴虐の化身には介錯すら甚だしい。
刀を構え直し、余波で燃える炎が煌く。
「その喉笛ッ! かっさばかさせてもらうッ!」
疾風のごとく横薙ぎに浴びせる太刀。太い首も、鋼の鱗だろうと、関係ない。紙のごとく切り裂く。止まることなき一閃が、まさしく鎧袖一触にて首を断った。
ずしんと、首級が落下する。
それでも暴れて動くドラゴンは脅威の生命力かはたまた非生物ゆえの動作かは知らぬが、不気味なものだ。
だが眉一つ変えぬ翼は落ち着き払って胸部に突きを繰り出す。容易に突き刺さったアメノハバキリの刃の先、そこに、殻に覆われた球体がある。貫き取り出したそれがコアらしく、ドラゴンは急に大人しくなり、すぐにキューブ状の粒子となり消えていったのだった。
「翼、それが?」
「ああ、この外殻を割れば良いらしい。内部にあるらしい異物は回収して解析してもらおう」
確認のために刃を振るうと、中から出てきたのは言葉通りの菱形の結晶であった。毒々しい紫色をしており、表面にはかすれた白色でなんらかのマークが刻まれている。されど、化け物から出てきたにしては妙な神々しさまである不思議な物体だ。
これにて一件落着といけばいいが、まだ戦闘は続いている。
「翼さん、マリアさん! まだクリスちゃんのほうが!」
「そうデスよマリア! あっちがヤバいデス!」
二人のもとに駆け付けた響と切歌が現状を伝え、調はギアを高速移動モードに切り替えていつでも出発できるように待機していた。こちら側に装者五人という現状は明らかに多い。解決した今、すぐに向かうべきだとそれぞれの目が訴えかけている。
だが、マリアは自信満々の表情で言葉を返したのだった。
「それなら――」
◆
四つ足の機械との戦闘は、困難を極めていた。
ネプテューヌの言っていたことは正しかった。大型ミサイルですら無傷としていたUMも、刀が纏った氷や雷の攻撃はなぜか通る。炎には耐性があるようだが、他の属性とやらでその表面を砕き、キューブ状の粒子を流すダメージを与えることができていた。
一つ誤算があったのは、こちらにも再生能力があったこと。機械の自然回復など馬鹿げているが、自己修復機能の一種なのだろう。
ドラゴンほどではないものの、苦労してダメージを与えても元に戻るというのは身体的にも精神的にも疲労する。最初は意気揚々と刀を振り回していたネプテューヌも次第に疲れを見せ始め、時折避けきれない攻撃をクリスに抱えられて退避する様であった。
「な、なにあれー! 物理耐性に自然回復なんてチートだよチート!」
「口閉じてろ! 舌噛むぞ!」
抱えつつ、ハンドガンで鉛玉を周囲のノイズに撃ちこむ。これもまた苦戦の原因の一つだ。迂闊にも周囲のノイズから攻撃を受けて刀を炭素転換されては攻めようにも攻められない。
そして、UMの腕部から放たれるレールガン。あれも当たれば重症は免れない。シンフォギアなら軽減できるが、一応は生身のネプテューヌに当てさせるわけにはいかず、そこにもクリスの集中力が割かれていた。
一進一退の状況。このままでは被害が増すばかり。
周囲にあったコンテナの数も少なくなってきていて、遮蔽物にも限りがある以上はこちらが不利になるだけだ。
二人ともそれをわからぬ者ではない。この状態がどれだけ危険かはわかっている。
だからこそ、降ろされたネプテューヌは腕をぐるぐる回してやる気を見せた。
「ええーい、こうなったら攻撃して攻撃しまくるよ! 攻撃は最大の防御!」
下がってからの突撃は何度も繰り返したことだが、ここぞとばかりに全力で向かう。
それを後方から援護するのも同じだが――
「バカ、一旦下がれ!」
「ねぷっ!?」
タイミング悪く、刀を振う隙にオレンジ色のアルカ・ノイズが突撃を仕掛けていた。
一対複数の勝負の場合、死角からの奇襲が一番効く。クリスが捌ききれない波状攻撃により行われたそれは、的確にネプテューヌを狙っていた。
「こなくそッ!」
やらせるわけにいくものか。狙いを定めて、指をかけたトリガーを引き、一撃で仕留めなければならない。
その思考よりも指は早く、ほぼ反射的に弾丸は放たれた。
「あっぶなー!?」
ノイズはネプテューヌに辿り着く前に消滅。無事に一時の危機は去った。
だが、射手のクリスにはわかる。今のは、
(……どういうことだ)
弾丸は確かに直撃コースだった。撃つ前は。
直前にネプテューヌが予想外に刀を振り回したことでノイズの位置が変わり、あのままではすり抜けていったはずだ。
本当に未然に防いだのは――彼方より飛び込んできた、白雪の弾丸。
見る者が見れば、こう答えただろう。『ゲフェーアリヒシュテルン』と。
続けて、UMに空中から襲い掛かるのは七色の刃。
近くにいたネプテューヌには、それが『トルネードソード』だと認識できた。
となれば当然、背後より緑色の風の槍が追撃を放つ。小型のものがいくつか脚に突き刺さり、いっそう大きな槍が身体を貫いて弾き飛ばした。
物理的な攻撃より効いているこれは、『インビトウィーンスピア』。
それらを、その攻撃を、もっとも知っているのはネプテューヌ。
ぱっと笑顔になって、目の前に降りて来た黒髪のツインテールを確認すると、横を見る。そちらにはショートボブの茶髪。背後を振り返れば金髪のロングヘア。
「まさか、まさかの……ゆゆうじょうパパワー! おお、心の友よー!」
「はあ……ネプテューヌ、開口一番がそれ?」
「まあまあ、ノワールは喜んでいるようですし」
「なっ、なによ!? ブランもベールもその目! べっ、別に心の友とか言われたことが嬉しかったとかギリギリ間に合って良かったとか、よ、喜んでなんかないんだからね!?」
「おおぅ、典型的ツンデレ……」
戦場が集まった四人を中心に途端に騒がしくなる。いまだに敵は周囲にいるというのに、妙な空間ができていた。有り体に言えば、世界観が違う。
それに、クリスは呟いた。
「また変なのが増えやがった……」