魔女想う、剣士の旅々   作:蛇廻

13 / 36
※今回はかなり残酷な描写がありますので、苦手な方は注意してください。


第十二話

「・・・・ここは?」

 

目を開けるイレイナ。先ほどまで室内にいたはずなのに、いつの間にか外に出ている。隣にはエステルの姿が。そんな時に足に何かが当たる。見ると、新聞紙が風で飛ばされてきていた。それに記された日付は、確かに10年前のものだ。

 

「どうやら成功したみたいだね」

 

エステル曰く、確かにここは10年前の時計郷ロストルフらしい。まぁ、飛ばされてきた新聞紙を見てもそれは確実だろう。10年前・・・・・・自分が魔女見習いですらない時代、まだ平和国ロベッタでユウマと楽しく遊んだり本を読んだりしていた時代だ。

 

その頃のことを思い出して懐かしんでいると、エステルが話しかけてくる。

 

「急ごう。タイムリミットは一時間、午後6時を知らせる鐘がなった時、私たちは元の時間へと戻される」

 

「・・・一時間!?」

 

「私の魔力だとそれが精一杯なの。だけど十分!一時間あれば、この先の10年くらい簡単になかったことにできる!」

 

一時間となるとあまりのんびりしている暇はない。二人は箒へと飛び乗ると、始まりの事件が起こった2丁目の家、セレナの家へと向かう。

 

「どういう作戦なんです?」

 

「約20分後、セレナの家に黒いフードを被った強盗が押し入り両親を滅多刺しにするから、その前にセレナの両親を家から出し、強盗を待ち伏せて撃退する!簡単でしょ?」

 

「上手くいくといいですけど・・・」

 

「上手くいかせるの!両親が生きていれば、きっとセレナの人生が狂うこともなかったはずだから」

 

「だとすると、私たちが戻る10年後のロストルフは随分と違ったものになってそうですね。・・・・・まぁ、未来が変わっていたらいいとは思いますが・・・」

 

「そうはならないよ」

 

「え?」

 

「過去に干渉したところで、私がセレナを殺した未来は変わらないんだ。つまり、私たちが戻るのは元々いた世界だけど、殺人鬼が生まれなかったこの世界は全く違う時間軸となって存在することになるの」

 

「・・・大変失礼ですけど、それって意味があるんですか?」

 

「本当に失礼だなぁ・・・・・・意味ならあるよ!こうすることで私の気が晴れるもの!」

 

「そう、ですか・・・・過去に干渉しても未来が変わらないのなら、ユウマがしていることは・・・・」

 

「何か言った?」

 

「あ、いえ・・・・・って、エステルさん!?」

 

前を飛行していたエステルが急に高度を下げ、後ろへと向かい始める。その向かう先にいたのは、買い物かごを持った一人の少女だった。

 

「セレナ!!」

 

「ふぇ!?」

 

セレナ、そう呼ばれた可愛らしい少女は、突如見知らぬ人間に抱きつかれたことに驚き足を止める。何が起こっているのか分かっていない様子だが、抱きついているエステルはそれに気づかずに涙を流す。

 

「え?え?お、お姉さん、誰ですか!?」

 

「ごめんね!ずっと助けられなくて・・・本当に、本当にごめん!!」

 

側から見れば・・・・・いや、側から見なくても十分不審者な行動を取っているエステル。当の本人は気にしていないようだが、抱きつかれているセレナはとても迷惑そうだ。

 

「きっと、あなたを救ってみせるから・・・!」

 

「・・・・新手の宗教の勧誘ですか?」

 

その反応は正しいだろう。この時代のセレナは未来を知らないのだから、いきなり”救う”などと言われたら宗教の勧誘とも思ってしまっても仕方ない。

 

「あっ・・・・怪しかったよね、ごめん・・・」

 

「現在進行形で怪しいです・・!」

 

「ははっ・・・本当にごめんね。ただ抱きしめたかっただけだから」

 

「新手の変質者か何かですか!?」

 

「お姉さんは未来から来たんだよ」

 

「へ、へぇ・・・・私、買い物に行く途中なんで、ごめんなさい、失礼します!」

 

そう言ってさっさと走っていくセレナ。ただ変質者(エステル)から逃げるためだけでなく、どこか急いでいるように見えるが、エステルはそれに気づくことなくセレナの後ろ姿を見つめる。そこに、上空で様子を見ていたイレイナが降下してくる。

 

「随分と冷たく当たられていたみたいですけど・・・」

 

むしろ見知らぬ人物に突然抱きつかれたりして、冷たく当たらないわけがないだろう。だが、残念ながらここにはそのようなツッコミをしてくれるような人はいない。

 

「あの子は昔からあんな感じだったよ」

 

少し先で振り返るセレナ。エステル(とついでにイレイナ)がまだ自分を見ていると分かり、走り去ってしまう。

 

「でもね、口先では冷たいくせに、中身はとっても優しい子なの!」

 

まだ生きている、殺人鬼になる前にセレナに会えた。それにより、彼女を救うという思いはより一層強くなる。

 

「それじゃあ行こっか。ーーーーーー作戦開始よ」

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

作戦はそこまで難しいものではない。エステルがセレナの家を訪問し、家に滞在しているであろうセレナの両親を外へ連れ出す。その後エステルはセレナの家に戻ってきて強盗を待ち伏せ、離れている間はイレイナが監視をしておく。

 

とてもシンプルで、1番の難所はセレナの両親を外へ連れ出すことなのだが、それは先ほどエステルが無事に成功させている。今現在イレイナは家を視界に収められる路地裏にて、エステルが戻ってくるのを待っている最中である。

 

 

「まさかここまで順調に行くとは・・・・ちょっと怖いぐらいですね」

 

とはいえ、自分たちは未来を知っている上で作戦を立てている。何かの間違いが生じたりしていなければ、作戦は無事に成功するはず。

 

「・・・・・未来、か・・」

 

このままだと世界は滅ぶ。ユウマが言った言葉だ。

 

今自分たちがいるのは10年前で、未来から遡ったからこそこの後の事件を知ることができている。だけど、ユウマは未来から来ているわけではない。魔女でもないユウマがどうやって未来を見ることが出来たのか。

 

「・・・って、これじゃあまるでユウマを疑っているみたいですね・・・」

 

別にイレイナは悩みを解消したわけではない。ただ幼馴染を救おうと奮闘しているエステルをどこか自分と重ね合わせて、手助けをしようとしているだけだ。勿論、本人は無自覚だが。

 

「・・・・そういえば、随分前にもこんな風に悩んでた時があったっけ・・・・あの時はどうしたんだっけかな・・?」

 

どうしてか、次々とユウマとの思い出が出てくる。彼はどんな時でも側にいてくれた。魔女になるための特訓にも付き合ってくれて、よく一緒に本を読んで、遊んで・・・・・・自分が泣いてしまった時は、隣で涙を拭いたりして慰めてくれた。もっとも、本当にまだ小さかった頃の話だが。

 

そんなことを考えていると、嵌めていた指輪から赤い線が伸びる。これはエステルが今現在魔力を行使している証拠、恐らく誰かと戦っていると推測できる。この線が向かう先に行けば、エステルと合流することができる。エステルがわざわざ戦っているということは相手は例の強盗である可能性が限りなく高い。

 

だとすれば、もうここで家を監視する必要もない。イレイナはエステルと合流するべく歩き出す。とはいえ、エステルだって魔女だ。例え相手が刃物を持っている相手だとしても簡単に鎮圧できる。とその時、指輪から伸びていた赤い線が消失する。

 

「終わったのでしょうか・・?」

 

線が消える直前、それは次の曲がり角で曲がっていた。イレイナは迷うことなくそこを曲がり、そして気づいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エステルも、自分も、思い描いていた前提も、何もかもが間違っていたことに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地面にはエステルとセレナの両親が血を流して倒れている。そんななか、刃物を持って立っていたのは、エステルが救おうとしていた、セレナ(・・・)だった・・・・・。

 

持っているナイフからは血が滴り落ち、先ほど見た可愛らしい顔は血で赤く染まっている。思わずイレイナが後退りしてしまうのも仕方ないと思うほど、その現場は狂気に満ちていた。

 

「お姉さん、この女と一緒にいた人ですよね?」

 

全く悪びれる様子もなく、足元で倒れているエステルを一度踏みつけた後、蹴り飛ばす。その口調は先ほど聞いた口調と大差なく、人を刺したことに対して何も思っていないことが伺える。

 

「あぁ、困ったなぁ、どうしよっかなぁ?お姉さんも殺しておこっかな?」

 

「どうして・・・・こんな・・・・」

 

「私、両親から虐待を受けていたんです。父にはいやらしいことをされ、嫉妬した母には打たれ、それなのに家の外では仲のいい家族を演じるという、壊れた家でした。だから殺しちゃいました。これって許されますか?」

 

淡々と語られる、知らなかった真実。それが本人の口から語られる。

 

「ゆ、許されるわけ・・・・」

 

「びっくりしちゃうよね〜!お姉さん達が私の計画を邪魔しに来たタイミングに!本当に未来から来たんですかぁ?」

 

「私達は・・・」

 

「ねぇ!本当に未来から来たというのなら、教えてくれませんか?未来の私って何をしてます?」

 

「・・・・親友に、殺されます」

 

「親友?」

 

その言葉に首を傾げるセレナ。記憶を探っているのか、目線を上を向いている。

 

「私に親友なんていませんが?ん〜?・・・・・・・・あ!なるほどなるほど!私分かっちゃいました!これが未来のエステルですね!!」

 

先ほど蹴り飛ばしたエステルへと歩みより、一切の躊躇もなく踏みつける。

 

「あっ!・・・・くっ」

 

「やっぱり!でも、どうしてエステルに殺されるんですかぁ?」

 

「あなたが・・・・殺人鬼になったから・・・!」

 

「・・・なるほど、殺人鬼に・・・・なるほど、納得です!」

 

「納得・・?」

 

「だって、人を殺すのって・・・・・・こんなに・・・・・・・

 

 

 

 

楽しいだもん!!

 

 

ナイフを片手に血塗れの顔で笑いながら駆け出すセレナに、イレイナは杖を前に構える。けど、あまりの狂気さに身が竦んでしまう。

 

そうしているうちにセレナがイレイナの元に到着し・・・・・・横からの攻撃によって壁へと叩きつけられた。

 

「へ?」

 

イレイナは何もしていない。他にこんな芸当ができる人物なんて、この場には一人しかいない。

 

いつの間にか立ち上がっていたエステルが、自身の周りに次々と光弾を作り出している。指輪からは再び赤い線が伸び、エステルがつけていた指輪と繋がっていた。

 

「許さない・・・・・」

 

「あっはっは、まだ生きてたんだ!もっと刺しておけばよかーーーーーーー」

 

その瞬間、セレナの顔面に光弾がぶつかり、血が吹き出す。セレナの背後にあった壁は一面赤く染まった。

 

「はっは・・・・・あっはっは・・!」

 

「セレナーーーーーーーーーーーー!!」

 

次々と照射され、作られていく光弾。それらはセレナへと当たるが、彼女は笑い続けている。

 

「あっはっは!痛い、痛いよ!はははは!!」

 

「私をずっと騙してたの!?友達だと思っていたのに!!」

 

「えへへ、エステルが私を殺そうとしてる!あっはっは!!殺人鬼になる私を、エステルが!!はっはは!」

 

「友達だと思っていたのに!あなたがきっといい子に戻れると信じてたのに!!ずっとずっとずっと・・・私を騙してたの!?ねぇ!?」

 

「あは、痛い痛い、痛い痛い痛い!ははははは!!」

 

「この・・・・悪魔!」

 

光弾が消え、かなりにセレナの首には魔力による首輪が嵌められる。そのままエステルの意のもと、セレナは空中へと浮かされる。その首輪は、徐々にセレナの首を閉めていっている。

 

「この・・・・人殺し・・・!」

 

元の世界では、エステルがセレナを処刑している。首を刎ねたと、彼女自身が語った。そして、今またーーーーーーーー

 

 

「え、エステルさん・・・待って・・!これは・・・・これは・・・・こんなことは・・・」

 

このままではエステルは再び、幼馴染をその手で殺すことになってしまう。それは、それだけは阻止しなければいけない。

 

そこでイレイナは気付く。今エステルが魔法を行使出来ているのは自分と魔力を共有しているからだと。魔力を共有出来るようにしているこの指輪を外せば、エステルは魔力を失って魔法を使えなくなる。彼女がセレナを殺すのを阻止できる。

 

「うっ・・・・くっ・・・はず・・れて・・!!」

 

なんとか指輪を外すことに成功したイレイナ。体から吸い上げられ続けていた魔力の流れが止まったのを感じる。けど、意味がなかった。

 

イレイナの前では、魔力を失ったはずのエステルが未だにセレナを吊り上げている。その体は緑色の魔力に包まれていた。

 

「あなたとの思い出なんて要らない・・・・・全部要らない・・・・・あなたごと全部、なくなってしまえばいい・・・!」

 

自らの何かを代償に、魔力を生成する。魔法使いなら誰でもできる行動。エステルが代償にしたのは・・・・セレナとの思い出だった。

 

「あなたなんて助けなければよかった・・・・あなたのことなんて振り返らなければよかった・・・あなたの死なんて憐れなければよかった・・・・あなたなんて死んでしまえばいいのよ!あなたなんて・・・・・あなたなんて・・・・あなたなんて・・・・・!」

 

エステルの瞳から、血の涙が流れる。

 

「さよなら、セレナ・・・・」

 

 

 

 

 

丁度、時計塔の鐘が鳴った。一時間のタイムリミットを迎えたエステルとイレイナは元の時間へと強制的に帰らされ、事件の場にはすでに息絶えたセレナの両親、そして体と首が別れたセレナの遺体が転がっていた。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

無事、とは言い難い状態で元の時間へと戻ってきたイレイナ達。今にも倒れてしまいそうなエステルを椅子へと座らせるが、彼女がセレナのことを何も覚えていないことを知る。

 

イレイナはその部屋から走り去っていく。部屋の中央に置かれていた金貨の入った袋には一切目もくれずに、部屋から飛び出していった。

 

 

 

『イレイナ、お前は近いうちに自らの無力さに絶望する』

 

 

「止められなかった・・・・彼女を、二度も・・・・その手で親友を・・・・」

 

風が吹き、帽子が飛ばされる。けど、それを追いかけるような気力など、イレイナにはなかった。

 

「私はただの旅人・・・・ただの魔女・・・・・」

 

イレイナの瞳から涙が流れる。

 

「未熟で・・・・何も、出来ないで・・・!うぅ・・・うっ・・・うぅうう・・・・・うわぁああああああ!!」

 

結界が崩壊したように、止まることなく溢れ出していく涙。

 

 

 

その涙を拭ってくれる(ユウマ)は、いなかった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。