魔女想う、剣士の旅々   作:蛇廻

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第十七話

自由の街・クノーツ。ニケの冒険譚では弟子のシレンとフーラが骨董堂と呼ばれる組織を壊滅させた街。ニケの冒険譚の愛読者ならば一生に一度は必ず行っておきたいと思うその街に、ある人達が向かっていた。

 

その内の一人であるユウマは、この間見た未来を思い返して久方振りの焦りを感じていた。未来を知ることができるようになってからというもの、焦りなど皆無に等しかったユウマは、その焦りを感じるごとに街へと向かう速度を上げる。しかし、クノーツに辿り着くには海を渡る必要性がある、道のりはまだまだ長い。

 

ちょうどその時、ユウマの上空を一体の鳥が通過する。それは鳥と呼ぶにはあまりにも大きく、異質な容姿をしていた。その身はまるで炎に包まれているかの如く、羽ばたくごとに辺りに火花が撒き散らしながらある街へと向かっている。

 

「あれは・・・!」

 

それを視認し、ユウマはクノーツへと向かう速度をさらに速めるのだった。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

ユウマがクノーツへと向かっているのと同時期、二人の魔女が同じように海を渡っていた。イレイナの師匠である星屑の魔女フランと、サヤの師匠である夜闇の魔女シーラの二人である。同じ師を持つ謂わば姉妹弟子の関係にある彼女たちは、フランの頼みである人物を探していた。

 

「それで?あの剣士の目的が分かったのか?」

 

「まだ完全に分かったわけではありません。だから、それを確かめたいんです」

 

彼女達・・・・というよりもフランが探しているのはユウマである。以前彼と相対した時に聞いた話、そして彼女自身がかつて手に入れた情報から一つの可能性を思い浮かべた彼女は、その真偽を確かめるべくシーラの協力の元、ユウマの行方を探していた。

 

それでも一筋縄ではいかなく、情報を集めるだけでなく自分たちも探し回ることにしたのだ。今までのイレイナのように。

 

「にしても、流石に想定外だよ。唯一手に入った情報は私の弟子が依頼の最中に遭遇したって程度だ」

 

「え、あなた弟子がいたんですか?」

 

「そこかよ・・・・言ってなかったか?サヤって名前だ、お前の弟子とも知り合いらしかったぜ?」

 

「サヤ・・・・・魔女見習いになるためにイレイナが協力してあげた子ですね。世間は狭いですねぇ」

 

「全くだ。イレイナにも会ったぜ?サヤに話したら死ぬほど悔しがってた」

 

「あらあら」

 

そんな世間話をしながら、フランはふと思う。”過去の自分たちからしたら、こうして二人で行動しているのが嘘みたいだろう”と。

 

何せ、この二人は出会った当初、すこぶる仲が悪かったのだ。それこそ犬猿の仲と称されるほど。事あるごとに二人は衝突し合い、口喧嘩をし、お互い相手のことを快く思っていなかった。

 

そんな彼女達が今のような関係性になったのは、ある事件が密接に関わっている。そう、それは自由の街クノーツの出来事だった。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

まだフランが魔女見習いとして師匠である灰の魔女”ヴィクトリカ”とその幼馴染のハヤマと共に旅をしている頃。それは突然のことだった。

 

「師匠、今何とおっしゃいました?」

 

「私、弟子が欲しいのよ」

 

「・・・ヴィクトリカ、その言い方は少し誤解を生むぞ」

 

すでに日が落ちているにも関わらず3人で空を飛んでいるところ、フランが耳を疑うことをヴィクトリカが話し始めた。自分はヴィクトリカの弟子だと思っていたフランも思わず聞き返してしまう。

 

「正確にはもう一人、だろ?」

 

「さすがはハヤ、その通りよ♪」

 

「・・・そういうことは、師匠が決めればいいと思います」

 

「でも、私が勝手に決めたら怒らない?」

 

「どうせ、もう決めているんでしょう?」

 

「お、フランも大分ヴィクトリカのことが分かってきたな」

 

「やっぱり・・・」

 

「大丈夫よ、フラン。良い子だから♪」

 

そう語るフランはとても笑顔であった。とにかく、もう決まっている以上弟子であるフランが言えることは何もない。ただ、”良い子だから”とヴィクトリカが話したときに少し後ろを飛んでいたハヤマが苦笑いを浮かべているのが気になるところではあったが。

 

兎にも角にも、フランの了承は出たも同然。3人は早速そのもう一人の弟子の元へと向かい始める。・・・・・・残念ながらそこそこの距離があったため、着いた頃にはもう日が登っていた。

 

辿り着いたのはすでに寂れた教会跡地。その瓦礫の山の上に、その人物は座っていた。

 

「遅かったじゃないか、師匠!」

 

そう、若き日のシーラである。彼女はヴィクトリカ達の姿を見て、瓦礫の上から飛び降りてくる。この時代では煙管ではなくタバコを咥えている。

 

「ごめんなさいね、ちょっと弟子を説得するのに時間がかかっちゃって」

 

「しれっと嘘をつかないでください・・・」

 

「へぇ・・・・こいつが私の姉弟子ねぇ・・・随分と弱そうだけど」

 

「むっ・・」

 

「あぁ?何だよオメェ、見てんじゃねぇやんのかゴラァ!」

 

「師匠、どこが良い子なんですか。出会い頭にガンつけて毒を吐いてくるんですけど」

 

「んだとテメェ」

 

「ほらほら、そんな喧嘩腰になるな」

 

「姉妹弟子なんだから、二人共仲良くするのよ」

 

ハヤマが二人を引き剥がし、ヴィクトリカが笑いながらそう言うと、フランは納得仕切れてはいないがこのままでは話が進まないので大人しくシーラへと手を差し出す。

 

「・・・分かりました・・・・・よろしく、名前は?」

 

「テメェに名乗る名前なんざねぇ!」

 

「「・・・・・・・」」

 

しかし、シーラにはその気は全く無いらしく、差し出された手も振り払ってしまう。普段は温厚な性格のはずのフランも、流石に怒りを抑えようとしなくなってきた。それを見かねたハヤマが二人の名前を教える。

 

「こっちはフランで、こっちはシーラだ。全く・・・これから一緒に旅をすることになるんだから、ずっとその調子じゃ疲れるぞ?」

 

「二人とも、仲良くね?」

 

「はぁあああ」

 

「ごほっごほっ!」

 

シーラがフランの顔面にタバコの煙を吹きかける。フランはタバコはあまり得意ではなく、むしろ苦手な部類に入る。その煙を顔面に受け、フランは咳き込むとヴィクトリカへとはっきりと申しつける。

 

「師匠、無理そうです!」

 

「おぉ珍しい」

 

「ふふふ♪」

 

さて、これがフランとシーラの初対面の瞬間である。今の話で十分分かったと思うが、二人の出会いはまさに最悪だった。二人はとにかく馬が合わず、事あるごとに対立行動を見せた。

 

例えば夕食の時、フランは魚料理を所望したのに対してシーラは肉料理を所望、結局ヴィクトリカが間をとってパンを選んだ。

 

例えば魔法を教わる時、フランは氷魔法を所望したのに対してシーラは炎魔法を所望、結局ヴィクトリカが間をとってお休みにした。

 

例えば魔法使いにとって不可欠な杖を失ってしまった時の対処法を教わる時、フランが弓の使い方を所望したのに対してシーラは体術を所望、結局ヴィクトリカが間をとってナイフの隠し方と抜刀の仕方を教えた。

 

・・・・・まぁ詰まるところ、対立はするが結局師匠のヴィクトリカが全てを決めるので、あまり大きな問題は起こらなかった。陰で苦労している(ハヤマ)はいたが・・・・。

 

そんなこんなで続いた旅の途中、四人は自由の街クノーツへと降り立った。目的はこの街の魔法統括教会支部からの依頼を受けるため。ところが、街に降り立った瞬間から不穏な空気を感じ取る。壁には”魔法使いは悪”と書かれている貼り紙が至るところに貼られていて、街の人々も四人の姿を見ると何やらヒソヒソと話している。

 

「どうやらあまり歓迎はされていないようだな」

 

「あら、そうかしら?こんな物があるとはいえ、この街そのものを拒絶する理由にはならないわ。そんなんじゃ、この貼り紙や看板を出している連中と同じよ。さ、行きましょう」

 

魔法統括教会の支部へと向かう四人。その間にも街中の人からの視線を何度も浴びることになったが、多少気にはなるものの特に何もすることなく支部へと到着する。

 

着くや否や、応接室へと通される四人。ヴィクトリカ、フラン、シーラの3人がソファーへと座り、ハヤマは3人の後ろに立つ。やがて部屋に入ってきたのはこの街の支部長。彼はかなり困っているのか部屋に入った瞬間にお礼を言って頭を下げる。

 

「ようこそ、首を長くしてお待ちしておりました。早速ですが、依頼と言うのはですね・・・・」

 

「報酬はいくら?」

 

会話が始まるや否や、ヴィクトリカが聞くのは依頼内容よりも報酬。彼女にとっては報酬の金の方がよっぽど重要なのだ。

 

「・・あ、あの、内容の方を先に・・・・」

 

「いくら?」

 

物言わさぬ勢いで笑顔で聞き返すヴィクトリカ。いつものことなのか、ハヤマやフラン達が何か言う様子もない。やがて圧に負けたのか、支部長を大人しく報酬の額を口にする。

 

「えぇと・・・金貨十枚でございます」

 

「ほぉ・・・」

 

((あぁ、喜んでる!))

 

「それで、内容は?」

 

どうやら報酬の額には満足しているらしい。受ける価値はあると判断したのだろう、ヴィクトリカは内容を尋ねる。

 

「はい・・・・この街には今、”骨董堂”と名乗る怪しい組織が暗躍しています」

 

「ほうほう、骨董堂」

 

「街で、魔法使いを誹謗中傷するような貼り紙や看板をいくつも見たと思うのですが」

 

「あぁ!」

 

「あれか」

 

「骨董堂は、魔法を使えない連中が集まった強盗団です。魔法を使えない故に、自分たちの邪魔をする魔法使いを心底毛嫌いしていて、あのような嫌がらせや、誹謗中傷を行っています」

 

「なるほど・・・・大体話は読めた。要は俺たちにその骨董堂の連中を捕獲してほしいってところだろう?だが、それならこの街にいる魔法使いや魔女で十分事足りるはずだ。どうしてわざわざ旅人である俺達に依頼をするんだ?」

 

金貨十枚という額も決して安くはない。この街にいる魔法使いに依頼すれば、安くはない額とは言っても金貨十枚も払う必要性はないだろう。それにも関わらず金貨十枚という額を支払ってまで旅人の自分達・・・・正確にはヴィクトリカに依頼しているのだ。そこを疑問に思わないわけがない。

 

「それはごもっともなのですが・・・・・」

 

「何か事情が?」

 

「えぇ・・・・骨董堂の連中は、不思議な道具を持っているのです」

 

「不思議な道具?」

 

「何でも斬ることが出来る剣であったり、何百発でも打つことが出来る銃であったり、幻獣を見せるマッチであったり・・・・・・・魔法を使わなくとも魔法と同等、あるいはそれ以上の特殊な力を引き出すことが出来たり、不思議な物なのです・・・」

 

「なるほど・・・・この街にいる魔法使いや魔女は、粗方その道具によってやられてしまった・・・・・ってことか?」

 

「はい・・・・その道具によって奴らには逃げられっぱなしで・・・・・この街では、魔法使いの信頼は地に落ちてしまっているのです」

 

「それで、大金を払ってでも事態を収束させようと・・・」

 

「左様です・・」

 

ひとまず依頼の内容は分かった。話を聞く限り、連中はその道具に頼っていることが伺えるから、難度もそこまで高くはなさそうだ。報酬も申し分なく、さっさと依頼を完了させて報酬を受け取ろう。そう考えたハヤマはヴィクトリカへと視線を移す。あくまでも依頼されているのは魔女であるヴィクトリカなのだ。ヴィクトリカが依頼を受ければあとは自分が勝手に動いても問題無い。と思っていたハヤマだったが、ヴィクトリカは全く予想外のことを口にした。

 

「分かりました、この件、必ず解決することを約束するわ・・・・・・この子達が!」

 

「「え?」」

 

「は?」

 

ヴィクトリカは両脇に座っているフランとシーラの肩に手を置いている。つまり”この子達”というのは、フランとシーラの二人のことだろう。一体どういうことかと視線を向けるハヤマや支部長を無視して、ヴィクトリカは二人に話し始める。

 

「二人で骨董堂の連中を捕まえなさいな。厄介な道具を持っているとしても、私の弟子の貴方達なら問題無いわよね・・・・・・しくじったら、破門よ♪」

 

とってもいい笑顔で宣告するヴィクトリカ。その言葉を聞いた瞬間、フランとシーラの頭の中には共通の言葉が流れた。

 

 

”自分が骨董堂の連中を捕らえて、こいつ(フラン/シーラ)を破門にしてみせる”

 

 

と。

 

 

 

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