魔女想う、剣士の旅々 作:蛇廻
骨董堂討伐の依頼を引き受けて早数日。進展は良くも悪くも進まなかった。
と言うのも、実際に捜査をしている二人がお互いの足の引っ張り合いをしているからだ。それによって骨董堂の道具こそ入手することは出来たが肝心の人は誰も捕らえられておらず、結局は骨董堂の妨害、という枠に収まっているのが現状なのだ。
「なかなか解決しそうにないわね」
「この事態になることは予想出来てたろ・・・」
「あら?ハヤが持ってるそれって、フランが奪ってきた?」
「あぁ、なんでも斬れる剣だと。一回試してみたが、まぁ確かによく斬れる剣だよ。・・・・・そういう魔法がかけられているがな」
「そうねぇ」
街中の喫茶店でお茶を飲みながら話すハヤマとヴィクトリカ。ハヤマは以前フランが入手した骨董堂の道具の一つを調べていたが、剣にはある魔法がかけられていた。
「恐らく、骨董堂が使う道具は全て魔法がかけられているんだろう。・・・だとしたら、調べなきゃならないことがあるな」
「誰が骨董堂に道具を渡したか・・・ね?」
この剣にかけられている魔法は、魔法使いなら誰でも扱えるような代物じゃない。何処かの誰かがその魔法を創り、道具に込め、そして骨董堂に渡した。
「とりあえず俺はそっちを調べてみるよ。骨董堂の連中の確保はフランとシーラに任せなきゃいけないようだしな」
「ふふ、よろしくね♪」
・・・・・・・・・・・・・・
ハヤマとヴィクトリカのやりとりから再び数日が経過、二人がいたのとはまた別の喫茶店でフランがコーヒーを飲んでいた。手元には今朝購入した新聞紙が置かれており、その一面に目を通す。その内容はつい昨日の出来事、フランからしたらありがたい内容が記されていた。
そんな時、空いていたフランの向かいの席に座る一人の女性が。片手にはコップを持っており、かすかに空いている口からは八重歯が見受けられる。
「お主がフランとやらじゃな?」
「どうして私の名を?」
「細かいことは気にしなさんな。それで、仕事は順調かい?」
「そう見えますか?」
フランはそう答えると、女性に見えるように新聞の一面を広げて見せた。先程までフランが目を通していた一面だ。
「何々?"骨董堂のリーダー、邪魔をする魔女の首を刎ねると宣言"・・・・なんとも物騒じゃな!」
笑いながら、あたかも他人事のように振る舞う女性。しかし、それとは裏腹にフランは涼しげな表情のままだ。
「いいえ、この状況は願ったり叶ったりです」
「何故じゃ?命を狙われとるのじゃぞ?」
「えぇ。要は向こうから来てくれるということでしょう?探す手間が省けてありがたいです」
「ほぉ、対した自信じゃな。しかし、そう上手く行くかな?」
フランの考えに少し物申しながら、机に置かれていたクッキーを食べる女性。そんな女性に向かって、フランは杖を向けながら答える。
「えぇ。だって、こうやって来てくださいましたから。・・・・・貴女が骨董堂のボスですね?」
「・・・・・・」
会話を開始してから、初めて黙る女性・・・否、骨董堂のリーダー。フランの読み通り、彼女は骨董堂のリーダーであり、新聞の内容の宣言を行ったその人である。
杖を向けられても尚、骨董堂のリーダーに変化はない。怯えるわけでも、許しを乞うわけでもない。何も問題無いとでもいっているような表情のまま、コップの縁を鳴らした。その瞬間、喫茶店の中にいた全ての人がフォークやナイフ、ロープを取り出した。そう、この店はすでに骨董堂によって占拠されていたのだ。客だけでなく、先ほどコーヒーやクッキーを運んできた店員までもが骨董堂の一味であり、銃を向けている。
有利だったはずが一転、圧倒的な戦力差が生まれてしまった。それでも、相手のリーダーは自分の目の前にいる。フランは杖を向けたまま魔法を発動しようとしたところ、骨董堂のリーダーに止められてしまう。
「おっと、妙な真似はするんじゃないよ。少しでも動いた瞬間、新聞の見出し通りにあんたの首を刎ねてやるからな」
フランは考える。この状況をどう切り抜けるか、どうやってコイツらを捕らえるか・・・・しかし、見たところこの場にいるのはリーダー含め十数人、全員だとしたらあまりにも少なすぎる。だとしたら取るべき行動はーーーーーー
「連れて行け!こやつを始末するぞ!」
「へい!」
杖を奪い取り、孫の手代わりに背中を掻く骨董堂のリーダー。その姿も、袋をかけられたことで視界を奪われてしまい見えなくなってしまう。
・・・・・・・・・・・・・・・・
それから数分。どこかへと連れてかれたフランは両手を拘束された後にかけられていた袋を外される。日の光の届かない、どこかの建物の中。周囲には骨董堂であろう連中が囲んでおり、自分の後ろには同じように捕まったのかシーラの姿を確認できる。
「んだよ、あっさり捕まってんじゃねぇよ。使えねぇ姉弟子だな」
「あなたも捕まっていたんですか。ほんとにつくづく使えない妹弟子ですね」
まるでいつものように軽い言い合いを行う二人。
「お前達魔法使いはいつもそうじゃ、我ら骨董堂の仕事を悉く邪魔しおる・・・・・おぬしらのせいで、我らの仕事はいつも失敗ばかりじゃった。気に食わん、実に気に食わん!・・・お前達もだ!こんなちんちくりんの魔女見習い二人に、遅れを取るとはのぉ!!折角地に落ちた魔法使いの評判がまた元に戻ってしまうじゃろうが!!今までの苦労を水の泡にするつもりかぁ?」
そんなことを骨董堂のボスが話している間、フランとシーラは拘束された手をこそこそと動かす。その際にフランの手がシーラの足に触れてしまい、思わずシーラは笑い出してしまう。
「それでよく骨董堂を名乗れたもんじゃな!もっと気を引き締めなぁ!!・・・・・ん?」
その笑いに気づき、離していた視線を二人に戻す骨董堂のリーダー。その視線に気づいたシーラもなんとか笑いを抑え込み、骨董堂のリーダーへと微笑みかける。
「師匠がどーだの、話は全部筒抜けだったよ。なんじゃ?お遊びで我らの邪魔をしとったんか?」
「・・・遊びにもなんねーよ。お前らをぶっ倒すことなんて」
悪態をつき、唾を骨董堂のリーダーの顔面に吹きかける。
「ぬぁ!?お、おぬし・・・・!ぐぁ!!」
怒りのままにシーラの胸ぐらを掴みかかったところで、思いっきり顔面に頭突きをかますシーラ。骨董堂のリーダーは派手に倒れる。
「「「頭!!」」」
「っう・・・・こやつらを始末しろ!今すぐに!!」
「「「へい!!」」」
完全に怒りを買ったらしい。指示を出された骨董堂の連中は各々の得物を手に持ち二人へと歩み寄る。今まで散々自分たちの邪魔をしてきたとはいえ、杖はこちらが持っている。拘束もしている以上子供二人を始末するなんて簡単だ。そんな余裕の態度が透けて見える動き方だ。そんな油断しまくりな状態だから、|二人がすでに拘束から逃れていることに気づかない《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》。
「ふぇ?」
間抜けな声を出す骨董堂のリーダー。二人の腕を縛っていたはずの縄は宙を舞い、その手には杖に変わる得物が握られている。以前師であるヴィクトリカから教わったナイフだ。しっかりと隠し持っていたそれらは骨董堂に奪われることもなく、シーラが骨董堂の注目を集めている間にフランが取り出し、縄を切った。
「は・・・は・・・は・・?」
「はぁ!!」
手始めに骨董堂のリーダーへとナイフを投げるシーラ。ナイフはギリギリのところで避けられる。・・・・多少服は傷ついたかもしれないが。
それに続くようにフランもナイフを投げ、ひとまず近くにいた骨董堂が持っていたナイフを弾き飛ばす。それと同時にシーラは駆け出し、骨董堂のリーダーの腹部を蹴りつける。その際にこぼれ落ちた杖を回収、フランへと投げ渡す。
「そらよ!」
優々とそれをキャッチし、即座に魔法を発動。骨董堂の連中を次々に薙ぎ倒していく。
「な、何をしておる!そやつらさっさと仕留めんか!」
起き上がりながら部下へと指示を出す骨董堂のリーダー。だがその間にもフランの手によってどんどん再起不能になっていく。その間に地面に落ちていたタバコの箱を発見したシーラはそれを拾い、一本咥えて火をつける。そんなシーラを二丁の銃を構えた男が狙っていた。
「へっへっへ!」
次々と放たれる銃弾。話に聞く何発でも打てる銃なのだろう、弾切れを気にする様子もなく、何十発と打ち続ける。さて、そんな打たれ続けているシーラはというと、手元に自身の杖を引き寄せ魔法を発動。銃弾は一つ残らずシーラの手前で動きを止める。
それでもめげずに撃ち続ける男だったが、流石に負荷が掛かりすぎたのだろう、シーラに一発も入れることなく銃は爆発してしまう。
その間も一人で骨董堂を薙ぎ倒し続けていたフランの背後に忍び寄る男が一人。が、合流したシーラの魔法によって難なく撃退される。
「もしかして、あなたも
「はっ、潜入して一網打尽にしてやろうと思ってなぁ」
「無茶ですよ」
「お前もだろ!」
決してその手を休ませることなく魔法を行使しながら会話する二人。やがて起き上がってくる骨董堂もいなくなり、最後の一人が倒れ伏す。その際に何やら
「はぁ・・はぁ・・・」
「はっ・・・はっ・・・・」
流石に魔法を酷使し続けた際か息が上がっている二人。そんな二人の元に先ほどまでの強気な態度が嘘のように謙った態度で近寄ってくる骨董堂のリーダーの姿が。
「さ、流石は魔法使い様・・・・まだまだ我々では歯が立たぬのぉおおおおおお!!」
言い切るのを待たずに容赦なく放たれる魔法に逆らえずに吹っ飛ばされる骨董堂のリーダー、これで完全に骨董堂は潰すことができたはずだ。フランとシーラはその場に座り込んでしまう。
「少し休んでから教会に連絡しましょう」
「賛成だ」
「・・・・あなたは、どうして師匠に魔法を学ぼうと思ったのですか?」
唐突な質問。しかし、今この場を逃せばもう二度と聞くことはない気がする。そう思ったフランは兼ねてより疑問に思っていたことを口にする。
「・・・別に、大した理由じゃねぇよ・・・・・・私は独学で魔法を覚えてな、それを使って生活してたんだが、ある日財布を盗もうとした相手が師匠でな、あっさり捕まえられちまった。そん時に初めて知ったんだ、魔女って存在を」
「それまで知らなかったんですか?」
「誰も教えてくれなかったからなぁ。だけど師匠が教えてくれた、魔女がどれほど強くて、人々に尊敬されているかを。・・・魔女になれば、こんな野良猫みたいな生活をしなくて済むって思った・・・・だから弟子にしてくれって頼んだ。な?大した理由じゃないだろ?・・・・・・で、あんたは?」
どうやらヴィクトリカの弟子になった理由を聞きたかったのはフランだけではないらしい。粗方自分の経緯を話し終えたシーラは逆に聞き返す。
「私の方がよっぽど大した理由じゃありませんよ・・・・私の故郷には魔女がいないんです。だから魔女になれば、それは国でただ一人であるということ・・・・・そしたら一生食いっぱぐれることがないじゃないですか。だからです」
「・・・打算的に魔女になろうと思ったってわけか」
「まぁ、要約すれば」
「んだよ、私と同じじゃねぇか」
「ですね」
思わぬ共通点、たった一つの小さな共通点ではあるが、それは二人にとっては大きな共通点。性格も、味の好みも、何もかもが違うと思っていたければ、結局は自分と同じなのだと。
お互いの答えに満足したのだろう。それぞれが優しい笑みを浮かびている。
「さて・・・・そろそろ教会へと連絡しましょうか」
「だな・・・結局、破門の話はパァになっちまったな」
「ですね・・・・けど、もう必要ないかもしれませんね」
「・・・かもな」
慌てる必要はないだろうが、また魔法を酷使するのは流石に面倒すぎる。さっさと教会へと連絡をしようと立ちあがろうとした時だった。
「やれやれ・・・・・骨董堂もこの程度でしたか」
「「!?」」
急いで飛び退くフランとシーラ。いったいどこに隠れていたのか、いつの間にか姿を表した男が一人立っていた。先程の惨劇を見ていたであろうに、その顔に恐怖という感情は一切無い。むしろ余裕すら感じさせる。
「なんですか、あなたは?」
只者ではない雰囲気に、二人は警戒を解くことなく杖を構える。何があっても、いつでも魔法を行使出来るように。
「そうですねぇ・・・・彼らの支援者、とでも言っておきましょう。最も、もはや意味のない肩書きですが」
「支援者だと?」
「それにしても・・・・あまりにも美しくない」
「は?」
「これが終わりだなんて・・・・美しくないにも程がある。だからせめて・・・・・・私が弔ってあげましょう」
男の背中から出現した怪しく光り輝く触手が、倒れ伏している骨董堂の連中諸共二人を襲う。
「んな!?」
「きゃ!!」
瞬間的な判断で防御魔法を展開する二人。だが、それはいとも容易く打ち砕かれる。触手はその勢いを殺さずに二人へと迫りーーーーーーーーーーーーーーー
「ふん!!」
何も無い空間に突如発生した黒い穴から、闇黒剣を携えたハヤマが乱入してその触手を斬り倒した。
「二人とも、大丈夫か?」
「は、ハヤマさん!?」
「え、今どっこから出てきた?」
「それは後で教えてやる」
ひとまず二人の無事を確認したハヤマは、闇黒剣を目の前の男へと向ける。
「合点がいったよ・・・・お前が骨董堂にあの道具を渡したんだな?ーーーーーストリウス!」
「これはこれは・・・今代の闇の剣士ですか。こんな所までご苦労ですねぇ」
「目的はなんだ?」
「ふっ、そんなの・・・・ただの暇つぶしですよ。むしろそれ以上に何があると?」
「・・・・そうか、なら・・・遠慮はいらないな!」
闇黒剣を振りかぶってストリウスへと向かっていくハヤマ。しかし、その剣が到達する前にストリウスは姿を消してしまった。
「なっ・・・くそ、どこ行った!!」
叫ぶハヤマ。しかし、その返事は一向に返ってこない。どうやらもうこの場から去ってしまったらしい。
「ちっ、逃したか・・・・・しょうがない、ヴィクトリカに連絡して、こいつらを捕縛するか」
「あ、あの、ハヤマさん・・」
「お、二人とも、お疲れ様。よく骨董堂の連中を壊滅させたな」
「けどよぉ、さっきのやつはなんだったんだ?あんたは知ってるみたいだったけど」
「・・・あいつはストリウス、はるか昔から存在するメギドと呼ばれる怪物の一体だ」
まぁ、表向きにはあまり伝えられていないけどな。と付け加え、ハヤマはヴィクトリカへ通して教会へと連絡する。程なくして教会の魔法使いが駆けつけ、無事に骨董堂は牢屋へと入れられることとなった。結局骨董堂に道具を渡したストリウスは行方が分からずじまいとなり、分からなかったとして教会へは報告が行われた。
これが自由の街クノーツでの一連の出来事。二人の魔女見習いの活躍で街を騒がせた骨董堂は壊滅し、四人はこの街を去った。それからも旅は続き、紆余曲折を経てヴィクトリカとハヤマの故郷・・・・平和国ロベッタにて、フランとシーラは魔女へと昇格を果たした。それと同時にフランには”星屑の魔女”を、シーラには”夜闇の魔女”の魔女名を与えられた。
夜闇と星屑は常に共にあるものーーーーーーーーーーそういう願いを込めて、ヴィクトリカが与えた名だ。・・・・・最も、その由来は二人の髪の色からではあるが。曰く、”かっこいいから”らしい。こうしてヴィクトリカの旅は・・・・・・・ニケの冒険譚は終わりを迎えた。
・・・・・・・・・・・・・
さて、そんな思い出話も終わり、フランとシーラは懐かしさに思いを馳せる。と、そこでシーラはあることを思い出した。自由の街クノーツ、今現在弟子であるサヤにあるものを託して向かわせた地であり、そして持たせた箱は、
「ああぁあああああぁぁあぁあああ!!!」
「ちょっ・・・急にどうしたんですか?」
「行き先変更だ!!」
「えぇ!?」
「良いから黙ってついてこい!!」
「全く・・・・・ちょっと待ってください!」
突如急旋回をしたシーラに文句を言いながらもそれを追いかけるフラン。二人が向かう地はかつて骨董堂と対決したあの場所・・・・・自由の街クノーツだ。