魔女想う、剣士の旅々   作:蛇廻

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第十九話

自由の街クノーツ・・・・ニケの冒険譚の愛読者なら一生に一度は来ておきたい街の一つ。当然ニケに憧れて魔女になったイレイナにとっても、それは変わらない。

 

朝、未だにユーリから聞いた話の整理がついていないイレイナは、少し外の空気を吸おうと考え部屋から出る。そこで、別の部屋で泊まったいたユーリとばったり会う。

 

「どこか行くのか?」

 

「えぇ・・・ちょっと外の空気を吸いに・・」

 

「そうか、それなら魔女の格好はしないほうがいい」

 

「え?どうしてですが?」

 

ユーリが渡してきたのは、どうやって手に入れたのかまだ新しい新聞。見出しにはデカデカと”骨董堂が復活!?”と銘打たれていた。

 

「骨董堂・・・って、まさかニケの冒険譚に出てくるあの?まさか実在していたとは・・・・あれ?ということはこの街って・・・」

 

「ん?あぁ、言ってなかったな。ここは自由の街クノーツと呼ばれている街だ」

 

「クノーツ!?」

 

街の名前に反応するイレイナ。いずれは来ようと思っていた街に、思いもよらず来れたイレイナは、気分転換もかねて観光をしようかと思いを馳せる。

 

自分の格好を確認するイレイナ。魔女のローブや帽子は部屋の中に残していて、ぱっと見ではとても魔女とは思えない。これなら良しと、イレイナは早速外へと出る。

 

昨日は全く気付くことがなかったが、どうやらこの街は四方を海に囲まれているらしい。少し高台に登れば簡単に海を見ることができる。

 

海を見て、再び街中へと戻ってきたイレイナはパンを食べながら歩いていたところに、ある喫茶店を見つける。

 

「ここは・・・もしかしてニケの冒険譚で弟子のフーラが骨董堂のボスと会ったところでは?」

 

少し興奮しながら、喫茶店へと近づくイレイナ。外から中を覗き込み、物語でフーラが座っていたであろう席を探す。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

さて、イレイナが街中を観光しているのと同時刻、イレイナとは少し離れた場所でサヤがクノーツに到着していた。魔女らしくいつもの格好のまま箒に跨り空を飛び、道行く人達の視線が集中する。

 

サヤ自身視線が集まっていることには気づいているが、その理由までは気にしていない様子。そのまま教会支部に向かって飛び続ける。

 

やがて人通りが少なくなってきた時、サヤを呼び止める声が。

 

「あぁちょっとそこのお主・・・・・そこのお主じゃよお主、可愛い魔女のお嬢さん」

 

「えもしかしなくても僕のことですねぇ!」

 

なんとも分かりやすい。最も簡単に釣られたサヤは振り返り、呼び止めた者の近くまで降下する。その人物は魔女のような帽子を目深に被り、口元は布で覆っていて顔ははっきりとは分からない。しかし、そこそこ年を召していることはなんとなく理解できる。

 

「そうじゃよ、そうじゃ!魔女さんよ、この街は近頃物騒でな・・・・・特にそんな格好をしていたら、いつ誰に襲われるかわかったもんじゃない」

 

「襲われる?この街ってそんな危険なんですかぁ?」

 

「そうなんじゃ、危険なんじゃ」

 

さて、サヤは全く気づいていないのだが、2人が会話をしている隙に1人の男が抜き足差し足でサヤの足元まで来ており、必死に頭上に手を伸ばしている。その手の先にはサヤの鞄があり、その中には例の箱が入っている。

 

「へぇ〜、それは大変ですねぇ」

 

「お主は知らんじゃろうが、その昔沢山の魔法使いがここで襲われた。魔法使いは皆震え上がっておったわ!・・・・・・はよせんかい!

 

「え?」

 

「あぁいや、なんでもない!」

 

サヤが足元に視線を移すも、その時には男はサヤの死角に入り込んでいて、サヤは一切気づくことがない。

 

「であるからして、ここで生き残りたくばこの”骨董堂”・・・・・・・いやアンティーク堂で素晴らしい護身用の道具を一式買っておいてはいかがかな?」

 

「はっは〜ん、そんなことだろうと思った!僕押し売りは遠慮していますんで〜!」

 

「あ、ま、待ちな!」

 

なんとかして箱を手に入れようと試行錯誤している男には一切気づくことなく、サヤは急上昇してその場から立ち去っていく。しっかりと箱を持ったまま。

 

なんとか呼び止めようとしてもサヤは止まらない。仕方なしに呼び止めていた者は後ろにあった露店から赤い球に手を伸ばし、それをサヤへと吹きかける。球はサヤの背中に当たった瞬間に飛散、中にあった赤い煙がばら撒かれるが、サヤ自身に目立った変化は見られなかった。

 

「すいやせん、頭・・・・」

 

「ふん、相変わらず鈍臭い奴じゃのぉ・・・・まぁいい、ようはあの箱を開けさえすれば良いのじゃから」

 

そんなことを話すその人物の顔は、まさしくフランとシーラが捕まえたあの骨董堂のリーダーの顔だった。

 

そんな会話が起こっているとは露知らず、サヤは教会本部へと進み続ける。しかし、どうも怪しい空気感が漂い始める。パッと見ただけでも人の姿は全く無く、とても静かな道だ。それでも、そこに漂う異様な空気は、確かにそこにある。

 

その空気を感じ取ったのか、サヤの動きが少し身長になり始める。辺りを見回し、少しゆっくりと飛行する。

 

と、その瞬間の出来事だった。横に伸びる小さな路地裏から突如として現れた手がサヤを捕まえ、そのまま引き摺り込んでしまった。叫び声をあげようにも口を抑えられ、声が出せない。

 

ヤられる!!ーーーーーーそう思ったサヤの耳に聞こえてきた声は、彼女には聴き慣れた、それでいてとても懐かしい声だった。

 

「暴れないで、私よ姉さん」

 

「へ?・・・・ミナ!?」

 

自身を引き摺り込んだ者の顔を確認し、サヤは驚愕する。他でもない、サヤの妹のミナなのだったから。

 

「ど、どうしてここに・・?」

 

「私は教会の仕事で潜入捜査・・・・・よからぬことを企んでいる連中がいるらしくてね、まだ潜入はできてないけど・・・」

 

「よからぬこと?」

 

「・・・姉さんはなぜこの街に?」

 

あまり多くは語ることなく、ミナはサヤへと話をふる。とても久しぶりに再開した姉妹の会話とは思えないほど、ミナは少し呆れているような口調で話す。

 

「僕も仕事だよ、仕事!教会の!」

 

「はぁ・・・・よりによって教会の仕事?」

 

「これを届けにね」

 

サヤが取り出したのはシーラから渡されたあの箱。見た目は至って普通の箱なのであまり疑問に思うことはないが、一体どんな箱なのかとミナは疑問に思う。

 

「それは何?」

 

「知らない」

 

あいにくだがサヤは渡されただけであり、開けてはならないということぐらいしか知らされていない。当然聞かれても答えられるだけの知識も持ち合わせていなかった。そして、ミナもまた不思議に思う。教会からは特にそのような箱が届くなど一言も聞いていなかったのだから。

 

「教会からは何も聞いてないけど・・・・・とりあえず、私が止まっている部屋に行きましょう」

 

おそらく魔女だとバレないためだろう。ミナは持っていた帽子を深く被り、その場から立ち上がる。

 

「あぁ僕これを届けにいかなきゃだから。それに迷惑だろうから宿屋に泊まるし、気にしないで」

 

「・・・・はぁ、そう」

 

「ため息つくと幸せが逃げるよ」

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

ちょうどその頃、喫茶店の中に入らずに例の席を探していたイレイナ。しかし、夢中になりすぎるあまり少し離れた場所にいた2人の存在に全く気づかなかった。

 

「あやつでいいじゃろう」

 

「いいんですか?」

 

「間抜けそうじゃからの」

 

そう、先ほどサヤに謎の球を投げつけたあの2人、骨董堂のリーダーとその部下である。リーダーは先ほどサヤにしたのと同じように青い球をイレイナの方へと向ける。

 

「きっと何も考えずにあの箱を開けてくれるじゃろうよ」

 

放たれる青い球。それは一寸の狂いもなくイレイナの後頭部に直撃し、青い煙がばら撒かれる。

 

「・・ふぇ?」

 

不思議な感覚に陥るイレイナ。一瞬の眠気のようなものに誘われて瞼をほんの数秒だけ閉ざす。しかし、次に瞼を開けた時には、目の前の光景も、声も、体も、何もかもが自分ではなくなっていた。

 

「いい?姉さんは何もしないで」

 

(姉さん・・?・・誰?どこ?喫茶店の前にいたはずですが・・・)

 

辺りを見渡すイレイナ。先ほどまで見ていた光景とは全く違う、少し薄暗い路地裏にいることに戸惑いを覚える。しかし、そんなこちら側の気持ちなど知る由もなく、自分のことを”姉さん”と呼んだ目の前の少女は話を続ける。

 

「その連中は、この街の宝石店から武器屋、雑貨店に至るまで、店と呼べるものを片っ端から襲おうと計画しているらしいの」

 

(夢・・・じゃない?)

 

「聞いてる、姉さん?」

 

「あの、すみません・・・・あなた、どなたですか?私・・・」

 

「っ!・・・・そういう冗談いいから!」

 

「冗談じゃないんですけど・・・・・ていうか、声がなんか・・・・ん?」

 

そこでイレイナは、自分が身に覚えのない箱を持っていたことに気づく。箱は簡単なロックがかけられている程度であり、開けようと思えば最も簡単に開けることが可能だ。とすれば、やることはただ一つ。

 

「・・姉さん、何を?」

 

先ほどからの不可解な行動に目の前の少女が首を傾げる。そんな少女なぞ尻目に、イレイナは一瞬の躊躇もなく箱を開いてしまった。

 

「ちょ!?」

 

「わ!?」

 

その瞬間、爆発的な勢いでピンク色の煙が溢れ出る。その煙は止まることを知らず、箱から裏路地、ついには街全体へと広がってしまった。

 

「っ!・・・・ぷは!はぁ・・・はぁ・・・・・な、なんですか、これは?毒ガスか何か?」

 

徐々に煙が晴れていく。なんとか瞬間的には息を止めることに成功したイレイナはその煙を吸わずに済んだ。とはいえ、なんとか煙を吸わずに済んだのは自分だけ・・・・目の前にいた少女は咳き込みながら屈み込んでしまっている。とんだとばっちりだ。

 

「ごほっ!ごほっ!」

 

「だ、大丈夫ですか・・?」

 

慌てて駆け寄るイレイナ。彼女がこうなってしまったのはおそらく・・・いや、絶対に自分が原因だ。その自覚があるイレイナは少女へと近寄り、そして後悔する。

 

「姉・・・・さん・・・」

 

その顔はどこか高揚としていて、頬もほんのり赤くなっている。やはり先ほどの煙の影響か・・・・そう考えたイレイナは少女の体調を確認しようとしたが、おでこを触ろうとしたところで突き飛ばされてしまう。

 

「触らないで!!」

 

「きゃ!!・・いてて・・・ふぇ!?」

 

突き飛ばされ、背中をぶつけてしまうイレイナ。痛みに背中を摩っていたが、気づくと少女が自分に迫ってきていた。その顔はかなりヤバい方向へと変わっており、今までイレイナが味わってきた恐怖とはまた別ベクトルの恐怖を与えてくる。

 

「姉さん・・・・・・可愛い・・!好き!」

 

「えぇっと・・・・・・」

 

「姉さん、私、ずっと前から姉さんのことは好きだったの!おかしいでしょう?でも、昔から私の頭には姉さんのことしかないの!」

 

「ちょ、ちょっと待ーーーー」

 

「姉なのに子犬みたいに妹の私の後についてきて、私に頼ってばかりで情けなくて頼りない姉さんが、もう可愛くて可愛くて可愛くて・・・!」

 

後ずさってなんとか離れようとするイレイナ。だが、少女もまた同じようににじり寄ってくるため、その間に距離が生まれることはない。やがて、イレイナは壁まで追い詰められてしまう。

 

「可愛くて可愛くて可愛くて可愛くて可愛くて仕方ないの!!あぁもう!!私の人生に姉さん以外はいらない!!・・・・・それなのに、いつも冷たく当たってしまってごめんなさい・・・本当は姉さんのこと大好きなのに、素直になれなくてごめんなさい・・・!」

 

「ヒッ!?」

 

「本当は食べちゃいたいくらい、姉さんが大好きで、大好きで、大好きで、大好きで、大好きで!大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きなの!だからお願い・・・・・・・・・私とーーーーー」

 

「ふん!」

 

「グゥ!?・・・・・きゅう・・」

 

なんとかギリギリのところで、イレイナは迫る少女のガラ空きのお腹にグーパンチを叩き込むことで、少女を沈めさせることに成功する。ほんの先ほどまで目の前にいた彼女は凛とした、とてもクールな少女だったはずなのだが・・・・一体何があったというのか。まぁ原因は十中八九自分にあるのだが・・・・。そんなことを思いながらイレイナは自分に覆い被さるように気絶している少女を壁に寄り掛からせる。

 

「よいしょっと・・・・・ふぅ、全く・・・何がなんやら・・・・ん?」

 

しかし、どうやらこのようなことが起こっているのはここだけではないらしい。少し離れてはいるが、何やら表の方も騒がしくなっている。イレイナは少し迷った後、この場を離れることを決めた。

 

 

 

 

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