魔女想う、剣士の旅々 作:蛇廻
「ユウマ、ユウマ!!」
「落ち着いてください、イレイナ!!」
「回復魔法だ!サヤ、ミナ、手伝え!!」
「は、はい!!」
倒れ伏すユウマに、取り乱すイレイナ、そんなイレイナを落ち着かせようとするフランと、すぐさま回復魔法を使ってユウマの傷を治そうとするシーラ、サヤ、ミナの3人。しかし、無銘剣によって作られた傷だからか治りの進行度が遅い。
「う・・・・ぁあ・・・」
「傷の治りは遅いが・・・・治せないわけじゃなさそうだ」
「ですけど、このペースじゃかなりの時間が・・・・」
「あまり時間もかけてられませんよ」
ちらりと、横を見るサヤ。彼女たちのすぐ近くでは、ファルシオンを止めている最光シャドーの姿が。
「全く持って計算外だ・・・・まさかユウマの方が倒れることになるとは・・・」
「俺にとっては嬉しい誤算だ、剣士を1人排除できただけでなく、それが闇の剣士だったんだからな」
「何?」
「ユーリ、人の身を捨て聖剣と一体化した今のお前では、闇の聖剣の力を十全に扱うことは不可能だ。これで、500年前と同じようにはいかない!」
「くっ・・!」
500年前と同じようにファルシオン・・・バハトを封印しようとした場合、光と闇の聖剣、そしてそれを十全に扱える剣士が必要だった。500年前はその役割をユーリが担っていたが、聖剣となってしまった今の状態では同じようにはいかない。だからこそ、闇の聖剣を扱えてかつ光の聖剣の力を引き出せるであろうユウマが必要だったのだ。しかし、先の一撃でユウマは倒れ、今この場に他の剣士はいない。要はバハトを封印するためことが不可能になったのだ。
否、一つだけ方法はある。再びユウマを戦える状態にすることだ。今の状況では不可能でも、傷を完璧に治し、彼自身に戦う意思があれば可能だ。そして光の聖剣なら、それを可能とすることが出来る。しかし、そのためには治癒するためだけの時間を稼ぐ必要がある。その時間だけでもバハトをユーリ以外の誰かが相手する必要があるのだ。
(最光シャドーでは時間稼ぎもできない・・・・だが、ここでユウマを失うわけにはいかない・・・・どうするべきか・・)
そんな折に、ユーリの背後からある人物が飛び出し、ファルシオンに一撃を加えた。先ほどまで叫び、取り乱していたイレイナである。その手には闇黒剣月闇が握られており、先ほどの一撃も闇黒剣を用いての攻撃だった。目元は少し赤く腫れているようで、まだ涙が乾き切っていない状態だが、それでもイレイナは立ち上がった。
「ユーリさん・・・お願いです、私が時間を稼ぎますから、ユウマを・・・」
「待て、いくらお前でもバハトを止めるのは無茶が・・・」
「それでも!・・・ユウマを今すぐ助けるには、光の聖剣である貴方に頼るしかないんです!」
イレイナはそう言いながら、闇黒剣の力を引き出し始める。空間を切断し、闇の世界を介することでファルシオンの背後を取る。攻撃すれば同じ方法ですぐ離脱。攻撃そのものに聖剣の能力は使わないため、無銘剣の力で無効果されることもない。しかし、それもいつまで持つか。
「・・・1分・・・・いや、30秒でいい。それだけでも持ち堪えてくれ!」
ひとまず、バハトのことをイレイナに任せ、ユウマの治癒へと向かう最光。危険ではあるが、ここでユウマを失うわけにもいかない。光の聖剣の力により、ユウマの体から傷跡が消える。
「おいマジかよ・・・」
「あれほどの傷を一瞬で・・!?」
「ユウマが気づいたら伝えろ、あいつを・・・・バハトを封印出来るのはお前だけだと」
それだけ言い残し、最光はすぐさまイレイナのもとへと駆けつける。優勢とはやはり行かないが、幸いにもイレイナには怪我はないようだ。月闇で空間を切り裂き、攻撃したらすぐに離れることでファルシオンが簡単に手出しできないようにしている。
「上手い具合に戦えてはいるが・・・・・いくらイレイナでも聖剣の力を完璧には引き出せていないようだ・・・ふっ!」
ユウマと同様、イレイナもまた失ってはいけない存在。すぐさま自らも戦いへと再び赴く最光は、ファルシオンの周りを旋回しながら数度剣戟を加え、イレイナのもとへ飛翔する。
「ユーリさん、ユウマは!」
「ひとまず治療は完了した。目覚めるまでは放置するしかないが・・・・少なくとも命に別状は無い」
「そ、そうですか・・・・・良かった・・・・・」
ホッと一息吐くイレイナ。しかし、今この場それは大きな隙でしかない。
『永遠の不死鳥!無限一突!』
ここぞとばかりに放たれる巨大な斬撃。広範囲に渡るその斬撃を回避することは難しく、イレイナは咄嗟に月闇で空間を引き裂いた。それと同時に闇の世界より落ちてきた一本の剣が、その斬撃を阻む。
「・・え?」
「何?」
「・・まさか・・」
落ちてきたのは雷鳴剣黄雷。以前ユウマによって封印された際に失われたエンブレムは再びその輝きを取り戻し、まるでイレイナを守るかのように雷撃の壁を作り出していた。
「馬鹿な・・・そんなことがありうるのか・・・?いや、しかし・・・・・」
「まさか魔女が・・・・・聖剣に選ばれるとはなぁ」
「私が・・・・聖剣に・・・?」
過去の時代、女性が聖剣に選ばれること自体は不思議ではないが、魔女が聖剣に選ばれたことはなかった。まるで前代未聞の出来事を前にフランはシーラはもちろん、ユーリやバハトでさえ驚愕し、困惑する。
「う・・・く・・・・・イレ・・イナ・・・・・」
困惑するのはまた、本人であるイレイナ自身も変わらない。突然聖剣に選ばれたと言われても、その実感も湧かず、ただただ目の前にある雷鳴剣黄雷を見るのみである。
「・・・イレイナ、雷鳴剣を掴め!!」
「ユーリさん・・・」
「理由は分からないが、雷鳴剣は確かにお前を選んだ!剣士になるんだ、イレイナ!!」
「け、剣士になれって・・・そんなこと、突然言われても・・・」
「・・くっくっく・・・・・あっはっはっはっは!!」
突然高笑いを上げるファルシオン。変身を解除し、バハトの不敵な笑みが見える。
「聖剣が魔女を選ぶとは・・・・いいだろう、1日だけ待ってやる。その時は、お前もその剣ごと、無に帰す。・・はっはっは!」
燃えるように姿を消したバハト。先ほどまでとは打って変わっての静けさが、ひとまずの脅威が去ったことを証明していた。