魔女想う、剣士の旅々 作:蛇廻
「っ!!」
「ユウマ、起きましたか?」
「フラン、先生・・・・ここは?」
目を開けて飛び込んできたのは見覚えのない天井、すぐ近くに人の気配を感じ、見るとフラン先生とサヤの二人がいた。気絶する前に見た人数よりも少ない。
「自由の街クノーツ。その中にあるイレイナが借りていた宿の部屋ですよ」
「イレ・・・イナ・・・っく・・」
「あまり無理はしないでください。その体についた傷は光の聖剣が治療しましたが、蓄積された疲れまでは取れていません。今はしっかりと休むべきです」
「いや・・・・そんな暇はありません・・!フラン先生・・あいつは、イレイナは・・・」
「イレイナさんでしたら、今は外にいるはずですよ。一人で痛いとか何とか・・・・・あれ?ユウマさん何持ってるんですか?」
俺の手の中に握られていたのは父さんから渡されたあのブックだ。それに気づいたサヤは不思議そうに見てくる。
「さっきまではなかったのに・・・」
「これは・・・父さんからの贈り物だ」
「お父さん・・・・ハヤマさんからの?・・・・ちょっとユウマ、どこへ!?」
重い体を無理やりにでも立たせて部屋から出て行こうとする俺に、フラン先生が呼び止める。
「決まっています、イレイナのところです。頼みたいことが・・・・・話さなきゃいけないことが、たくさんあるんです」
「それは・・今でなくてはいけないのですか?」
「はい」
「いやいやいや、無茶ですよ!傷は治ってるとはいえ、結構な重体だったんですよ!下手に動かずに休んでおいた方が・・・・」
「止めても無駄そうですね・・・・・分かりました、行きなさい」
「え、いいんですか!?」
「フラン先生・・・「ただし!」!」
「これは約束してください・・・・・イレイナを悲しませないこと、そして・・・・二人で帰ってくること。いいですね?」
「・・・はい」
俺は壁に立てかけられていた闇黒剣と雷鳴剣を見やり、
「いや、ユウマさん闇黒剣置いてっちゃいましたけど・・!」
「大丈夫ですよ、きっと・・・・・・・・ユウマ、イレイナのこと、頼みます・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・
昨日のあの騒ぎが嘘のように、街中はとても静かです。そんな街の様子を高台からぼんやりと眺めている私は、先ほどの事を思い返していました。聖剣が・・・・雷鳴剣が、私を選んだ・・・・・・どうして、私なのでしょう・・・私が二つの世界を繋ぐ存在だから?正直色々ありすぎて、頭の理解も追い付いていません・・・。
先ほどやって来たシーラさんが言ってましたが、まだユウマは目覚めていないようです。体の怪我はユーリさんが治しましたが、シーラさん曰く精神の問題なのだろうと。しかし、無の剣士はあくまでも一時的に撤退しただけ・・・・あの人はまたやって来る。聞いた話だとユーリさんは何とか自分でも光と闇の聖剣両方を扱えるようにしてくると言ってどこかに行ったそうです。どこに行ったのかは分かりませんが、いつ帰って来るかは分からないとのこと。最悪、間に合わない可能性も・・・・・・。そうなってくると、唯一戦えるのが私だけになってしまう。私一人で、あの剣士に対抗出来るのでしょうか・・いや、そもそも聖剣をちゃんと使えるのでしょうか・・・?
「分からない・・・・・分かりませんよ、ユウマ・・・・・」
さっきはユウマを助けなきゃいけないと思ってたから体を動かすことができた。けど、冷静になった今になって体が震え始める。この感覚・・・私は前にも味わったことがある。そう、あれはまだ魔女見習いだった頃・・・・・・初めてフラン先生と戦った時の感覚です。自分一人では到底敵うはずがないほどの強大な敵が相手、しかも前とは違い、相手は確実に私を殺そうとするはず・・・・。
かつてない明確な殺意を前に、体の震えは止まるどころかより一層増すばかり。死への恐怖なのでしょう、目からは涙が流れ始める。一体どうすれば・・・・・・
「ここにいたのか、イレイナ」
こんな時に私のところに来るのは・・・・・やっぱり、一人だけだった。
「ユウマ・・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・
思い立ってすぐに飛び出したはいいものの、俺はイレイナがどこにいるのかさっぱり知らなかった。サヤは外としか言ってなかったし、未来を見る闇黒剣は部屋に置いてきちまったからな。まぁ、幸いにも探している最中にシーラさんと遭遇、イレイナの場所を教えてくれた。おかげで俺は、こうしてイレイナの元へと辿り着くことができた。
「ここにいたのか、イレイナ」
「ユウマ・・・・・」
「・・・また、泣いてるのか・・・・・いや、俺のせいかな・・」
「い、いえ・・そういうわけじゃ・・・」
そうは言うが、絶対に原因には俺が含まれている。だが、それから目を背けるつもりはない。俺はハンカチを取り出すと、それをイレイナの顔に充てがう。
「分かっているさ。俺がやってきたこと・・・・・それに後悔するつもりはないけど、それがどれだけ、イレイナを悲しませたのか・・・・ごめん」
「・・・・どうして、言ってくれなかったんですか?」
「え?」
「私は、ユーリさんから聞いて初めて知りました・・・・私がどういう存在なのか、ユウマが頑なに聖剣を封印しようとしていたのか・・・・全て、私の為なんでしょう?」
「・・・・流石に、バレるよな」
「情報があれば、自ずと答えは導けます。私を誰だと思っているのですか?」
「灰の魔女イレイナだ」
「ふふ、そうですね」
「・・・・俺さ、大事なことを忘れてたんだ。俺にとって、俺の物語の原点・・・・一番忘れちゃいけないことの筈だったのに・・・」
「ユウマの物語の原点・・・・・ですか。それは、約束のこと・・・ですか?」
「っ!・・・・イレイナは、覚えてたんだな・・・・」
「忘れるわけがありません。だって、まだ何一つ果たせていないのですから・・・ユウマと一緒に旅をするのだって、ユウマが最高の剣士になるのだって、まだ・・・・何一つ・・・・」
「・・・本当に、イレイナは凄いよ・・・・いつだって、前を見て突き進んでいる。どんなことがあろうとも、ただ自分の求める未来に向かって・・・・」
「それはユウマも同じですよ」
「俺?」
「ユウマだって、自分の望む未来に向かっていたではないですか。剣士になると誓ったのだってそう、未来を変えようとしたのだってそう・・・・・・私達は似たもの同士なんですよ、きっと」
「・・・似たもの同士・・・・か」
「いやですか?」
「・・・・そんなわけ、あるか・・・・まだ、間に合うかな?約束・・・・」
「期限なんてありませんよ、私は・・・・待っていますから」
その一言は、どれだけありがたかったか。とにかく、俺のこれからの未来は決まった。
「・・・ありがとう、イレイナ。ーーーーだけど、その前にやらなくちゃいけないことがある」
「ファルシオン、ですね?」
「あぁ、これから約束を果たすにせよ、まずはあいつを退ける必要がある。だが、俺一人じゃ無理だった・・・・だから」
部屋から持ってきた雷鳴剣をイレイナの目前に突き出す。これだけでも、その意味を理解するはずだ。
「こんなこと言える立場じゃないかもしれないけど・・・・俺に力を貸して欲しい。魔女として、剣士として」
「・・・・・」
すぐには受け取らないイレイナ。それもそうだ・・・まだイレイナは覚悟が決まってないだろうから。
「・・私に、その役目は果たせるでしょうか?」
「・・それは俺にも分からない。けどさ、俺は思うんだ。二人一緒なら、どんな未来が来ても大丈夫だって。俺たちが笑顔でいられる未来を、創造出来るって」
「・・・・一体どこから湧いてくるんですか、その自信は・・・・二人一緒なら、どんな未来が来ても大丈夫・・・・・か」
呟くとイレイナは顔をあげ、その手を伸ばした。しっかりと、雷鳴剣を掴んだ。
「イレイナ・・・・」
「ですが!ーーー約束して下さい。もう、勝手にいなくならないで」
「ーーーーーーあぁ、約束するよ」
もう絶対に、忘れない。この約束を・・・イレイナの笑顔を守る為にーーー!
「・・・あぁ、それと・・・・忘れる前に
「これ?・・・きゃ!ーーーーーって、これ、私の帽子・・?」
俺がイレイナに被せたのは彼女の帽子。前に時計郷で彼女が無くしてしまったそれだ。
「どうしてユウマがこれを・・?」
「どうしてだろうな?お前がその帽子をなくすって知った時、どうしてかそれを回収しとかなきゃって、思ってな」
「そうですか・・・・ふふ、ユウマ!」
「ん?」
「ありがとうございます!!」
イレイナはとても綺麗な笑顔で、俺に言ってきた。あぁ・・・・やっぱり、守らなきゃな。彼女のこのーーーーー笑顔を。