魔女想う、剣士の旅々 作:蛇廻
ある街へとつながる道。そこに、人間大サイズの穴が空いた。その中から出てきたのは二人、片方は手に闇黒剣を携えた青年で、もう片方は灰色の髪を靡かせた一人の少女。無論、ユウマとイレイナの二人である。
「ふぅ・・・・」
「着きましたね」
彼らは今回、ある目的のためにここへとやって来た。この道を進んだ先にある街、それが今回の目的地である。
「ここに来たのは久しぶりですが、あまり変わったはいないようです」
「そうだな」
「・・・あぁ、そういえばユウマも、一度行ったことがあるんでしたね」
「だから、ここに来たんだ」
二人の先にあるのは、外と街とを隔てる巨大な壁。この道を真っ直ぐ行けば、あの街に入るための門がある。
「・・・・・・」
「心配ですか?」
「・・・あぁ」
「きっと大丈夫ですよ、フラン先生も、私もいます。いざとなったら、一緒に謝ってあげますよ」
「・・・・・そうならないことを祈るよ」
そして、二人は歩き出す。そのすぐ脇に置いてある看板には、この先にある街名が書かれていた。
”王立セレステリア”。かつてイレイナが恩師と再会し、そしてユウマが襲った街だ。
・・・・・・・・・・・・・・
「待ちくたびれましたよ、二人とも」
「フラン先生!」
何も問題が起こることなく無事にセレステリアへと入国を果たした二人を、この街の魔法学校で教師をしているフランが出迎える。今日訪ねること自体は事前にフランに伝えてはいたが、まさか出迎えるとは思っていなかった二人は驚く。
「どうして?」
「せっかく二人が来るんです。出迎えるべきでしょう」
「いや、そうはならないんじゃ・・・・」
「それに、魔法学校に入るのにも、私と一緒の方が色々と都合がいいでしょうし」
「あぁ・・・」
その言葉に、イレイナは前にここを訪れた時のことを思い返す。最初は無断で学校の敷地内に入ろうとしていたが、残念ながら門番に停められた記憶がある。それを考えられば、確かに、教師をしているフランと一緒に行動した方が色々と早そうだ。
「では、早速行きましょう」
「ほら、行きますよユウマ」
「分かってるから・・・・だから引っ張らないでくれ」
イレイナによって無理矢理にでも連れていかれる・・・・いや、この場合は連行と言った方が正しいかもしれない。ユウマは重く感じるその足をなんとか動かすのだった。
・・・・・・・・・・・・・
周知の事実だろうが、ユウマはそう遠くない過去に一度この街を・・・・・より正確に言うならば、フランと彼女の教え子を襲っている。あの時は事情が事情だったとはいえ、その行いはそう簡単に許されるものではないだろう。それを頭ではちゃんと理解しているユウマは、こうして再びこの街に訪れることにしたのだ。
とはいえ、どうなるのかは分からない。イレイナは生徒たちに好まれているとは聞いてはいるが、自分は決してそうではないだろう。確かに許されることではないし、決して許されなくてもいい。しかし、それによって自分に対する思いがイレイナにまで及んでしまったら・・・・と考えると、ユウマはどうしてもその足を重くしてしまう。
「すでに生徒たちにも、今日お二人が来ることは伝えてあります」
フランが一緒に居てくれたおかげで簡単に敷地内に入ることが出来た。そのまま生徒たちが集まっているという教室に向かう最中、フランがそんなことを言い出した。
「あの時の生徒は、全員・・?」
「えぇ、今では全員普通の生活に戻っていますよ。あくまでも一時的なものでしたので」
「そうですか・・・」
あの時魔力を奪った結果、交戦していた相手全員が一時的な意識障害に陥った。もちろん命に関わるようなものではないし、魔力が回復すれば今まで通りの生活に戻れる。とはいえ、やはりそれをやった張本人として思うところがあるわけで。
「あぁ・・・・やばい、どんどん行きたくなくなる・・・・」
「往生際が悪いですよ、いい加減諦めてください」
「ふふふ、心配しなくても、貴方が想像しているようなことにはならないと思いますよ」
「え?」
「さぁ、着きました」
そんなことを話している間にどうやら着いたらしい。フランは目の前の扉を開けようと手をかけている。というかもうちょっとだけ開いてる。
「あぁちょっとまだ心が・・・」
「皆さん、静かにしてください。待ち人を連れて来ましたよ」
「動きが速い・・!!」
止める間も無く開かれる扉。フランは中に入り、中に居るであろう生徒達に声をかける。
「ほらユウマ、さっさと入ってください」
「・・・はぁぁ」
ここまで来たら、もう覚悟を決めるしかないだろう。ユウマを意を決して室内へと足を踏み入れる。
それと同時に感じる視線。部屋中の視線が自分に集中しているのが、見渡さなくても分かる。後からイレイナもついて来てる筈だが、自分を見ているであろう視線の数は減る様子がない。
教室中を見渡す。あの時の生徒全員を覚えているわけではないが、所々見覚えのある人物がいる。人数的にも、あの時あの場にいた生徒全員がいるのは確かなことだろう。
「事前に話しはしましたが、改めて紹介しましょう。私の弟子である灰の魔女・イレイナと、その幼馴染である炎の剣士ことユウマです」
「皆さん、お久しぶりです」
フランの紹介の後、イレイナは一礼するが、その後肘でユウマを突く。
「ほら、ユウマ!」
「分かってる・・・・あ〜、今フランさんから紹介された通り、今代の炎の剣士のユウマだ。皆と会うのはこれで二度目なんだが・・・・・最初に言わなければならないことがある。ーーーーーーーあの時、君達を襲ったこと、本当にすまなかった。許してほしいわけではない。ただ、どうしても謝りたかった」
ユウマのその言葉と共に、頭を深く下げる。罵声がいつ飛んできても、何もおかしくない。それも甘んじて受けるつもりだ。しかし、そんなユウマの考えとは裏腹に、罵声は一向に飛んでこない。かけられた声は、むしろその逆であった。
「顔を上げてください、ユウマさん。事情はもうフラン先生から聞きましたから」
「別に俺たちは、ユウマさんのことを責めるつもりなんて一切無いですよ。というか、むしろカッケェと思いました!!」
「・・・え?」
思わず下げていた顔を上げてしまう。それほどまでに、かけられた言葉はユウマの思っていた内容とはかけ離れていたのだ。
「だって大切な人を守るためにたった一人で戦ってたんでしょう?それを知ったら、もうスゲェとしか思えないっすよ!!」
「こいつ、フラン先生の話を聞いてからもうそればっか言ってるんですよ?」
「うるせぇ、お前もだろ!」
「あっ馬鹿それは言うな!」
教室中から込み上げてくる笑い声。それは決してその場凌ぎの笑いではなく、心の底から込み上げてきたような笑いだった。
「だから言ったでしょう?心配ないって」
「良かったですね、ユウマ」
「ーーーーーあぁ」
こうして、ユウマは無事に生徒達との和解を果たしたのだった。
「さて、折角ですしユウマには剣士のことを色々と教えてもらいましょうか!何か質問がある人はいますか?」
「え?」
「ちょっ、フランさん?そんな話は全く聞いてないのですが・・・・」
「あら?まさか断るなんてこと、ないですよね?」
「・・・・・はい」
フランさんが一番許してくれてない。心の中で密かにそう思うユウマであった。