魔女想う、剣士の旅々 作:蛇廻
「ふぅ・・・・・・さすがに疲れてきたな」
そろそろ日が落ち始め、暗くなり始める時間帯・・・・・だというのに、俺はいまだに草原を彷徨っていた。周りに国は愚か村も全く見当たらず、宿に泊まることもできない。
「・・・しょうがない、今日はここで野宿だな」
そうと決まればやることはたくさんある。まずは火起こしだ。まぁ火起こしって言っても、ライドブックの力使うからすぐに終わるんだけど。
「え〜と、場所はどこがいいか・・・・」
「あの〜」
「はい?・・・・!」
まさかこんな草原で声をかけられるとは、そう思った俺は、声をかけてきた彼女の顔を酷く驚いた。彼女はあまりにも、イレイナに似ていた。けど分かる。彼女はイレイナとは違う。
「・・・・」
「あの、どうかしましたか?」
「っ!・・いや、失礼。長年会っていない幼馴染に似ていたもので・・・・」
「そ、そうでしたか・・・」
「それで、あなたは?」
「あ、自己紹介がまだでしたね。私はニーナと言います」
「ユウマだ、よろしく。・・・それで、ニーナさんはどうしてこんな所に?」
「・・・国を探しているんです」
「国?」
「はい・・・・私はその国に行って、どんな病気も治る万病薬を手に入れなくちゃいけないんです。早くしないと・・・」
彼女の顔はとても寂しげで、それでいてとても焦ってるのがよく分かる。詳しい事情は分からないが、おそらく時間がないのだろう。・・・・だが、この付近には国なんて全く見当たらないし、そもそもどんな病気も治る万病薬、なんて話も聞いたことがない。そんなのがあるなら、もっと有名でもおかしくない。
「・・・その探している国ってのは、どういう所なんだ?」
「・・・・大きい国、ということ。私の故郷の集落から、北に丸二日歩いた所にある、と」
「・・・・・それだけ?」
「はい・・・・」
聞いておいてなんだが、あまりにも情報が少なすぎる。大きい国なんて世界中に大量にあるし、彼女の集落がどこにあるのか分からないから、国の場所も検討がつかない。
「ちなみに、君がその集落を出てからどの位経ったんだ?」
「だいたい、二週間ほど・・・」
二週間、集落から北に丸二日歩けば着くという国に、二週間かけて歩いても見つからない。だとしたら考えられることとしては・・・・・・彼女が方角を間違えたか、あるいはその国の話が嘘か。
もしその国の話が嘘なのだとしたら、万病薬の話を聞いたことがないことにも納得がいく。おそらく薬の方も嘘なのだろう。
だとしたら俺に出来ることなんて無い。無いんだが・・・・・・・。
「・・・・・」
俺は目を手で覆い隠しながら、わずかな隙間から目の前の彼女の顔を見る。・・・・やっぱ、放って置けないんだよな〜。
とはいえ、存在しない国の場所を教えるなんてことはできないし、万病薬の代わりになるようなものを用意することもできない。今俺の手元にあるのは二本の聖剣と、八冊のライドブック、あとは多少の金ぐらい・・・・・。それらにそんな力を持っているものなんて無い。だとしたら俺の出来ることは・・・・。
「・・その万病薬がある北の国ってのは、誰の聞いたんだ?」
「・・・・・私の、彼氏です」
彼氏・・・・だと?ーーーーーーいかんいかん、いくらイレイナに似ているとはいえ、彼女はニーナさん。イレイナとはただ似ているだけの別人だ。そんな彼女の人間関係なんて俺には関係無いんだ。それに、イレイナに似ているからこそ彼氏の一人や二人、いてもおかしくないさ!・・・いや、二人もいたら駄目か。落ち着け、俺。
「え〜と・・・・・その彼氏さんは、どうして君にその薬のことを?」
「・・・彼なんです、薬が必要なのは・・・」
「・・・・・・」
彼女は次第に泣き崩れるが、それで口を開き続ける。
話を要約するとこうだ。ニーナさんとその恋人、アベルさんは二人とも捨て子だったとのこと。同じ境遇を持つもの同士、惹かれあったのだろう。そのあたりのことは話を聞いただけじゃ詳しいことは分からんが、多分そういうことだ。だが、そんなある日にアベルさんが重い病気にかかってしまったらしい。それは彼女達の村では治すことができない難病らしく、村の薬は全く効果がなかったらしい。次第にアベルさんは歩くことは愚か立つこともできなくなったとのことだ。それでもニーナさんはずっと看病を続けていたらしいが、そんなある日、急にアベルさんが万病薬の話をしだしたのだと言う。そのまま金を持たされ、ニーナさんは村を飛び出した。恋人の病気を治すための、万病薬を見つけるために。
その話を聞いて、確信した。万病薬の話はアベルさんが吐いた嘘だと。暗闇で見えていなかったが、よく見ると彼女は少しやつれている。目の下にも隈が見える。おそらく、ほとんど寝ていないんだろう。多分、村でアベルさんの看病をしている時から。
アベルさんは、自分のためにやつれていくニーナさんを見たくなかったのだろう。だから無茶な嘘を吐いてまで、彼女を村から追い出した。
もちろん、これは俺の憶測だ。真実がどうなのかはアベルさんしか分からない。だが・・・・ほぼ正解のはずだ。だとしたら本当に勝手なことはできない。この物語を紡いだのは、他ならぬ二人なのだから。
「・・・・俺に出来るのは、これくらいか」
「え?」
「ニーナさん、目を瞑ってくれないか?俺が良いと言うまでも、絶対に開けてはならない」
「え?・・・は、はい・・・・」
突然の申し出に、戸惑いながらもニーナさんは目を瞑ってくれる。・・・いや、確かに目を瞑るように言ったけど、そこまでギュ〜ってしなくても良いのに・・・・・、まぁ良いか。
俺は暗黒剣月闇を取り出し、闇の世界への扉を開ける。前にも言ったが、闇の世界を会することで現実世界の長距離も一瞬で移動できる。今回は彼女を連れ、ここから遠く離れたある街へと向かった。
「・・・もう目を開けていいぞ」
「・・・こ、ここは・・?」
目を開けた彼女は驚愕する。それもそうだろう、さっきまで周りには何も無い草原の真ん中にいたはずなのに、ちょっと目を閉じている間に街中のそこそこ大きな噴水の前に移動しているのだから。
「ちょっとした魔法さ・・・・・・ここはこの街では有名な『幸運の噴水』ってやつでね。硬貨を投げれば、願いが叶うだとかなんだとか」
実を言うと、本当に願いが叶うかどうかは分からない。ここが幸運の噴水と呼ばれているのは事実だし、願いが叶った物語も存在している。だけど、それもフィクションらしいってのは、ずいぶん前にここを訪れて際に父さんが教えてくれた。
「俺には万病薬を用意することも、アベルさんの病気を治す力を無い。だからせめて、このぐらいのことはやらせてくれ。ただの神頼みだが、何もしないよりは良いと思う」
神頼み・・・・実際に叶うかどうかは分からないが、これが俺にできる唯一の手助け。噴水に向けて硬貨を投げ入れ、ただ願う。アベルさんの無事を。
それからすぐ、ニーナさんだけを出会った場所に戻した。これからどうするかは、彼女が紡ぐ物語なのだ。
結局、ニーナさんとアベルさんがそのあとどうなったのかは、ただの旅人であり、二人の物語に登場するモブキャラの俺には、知る由もない。
・・・・・・・・・・・
木々が並ぶ原生的な森林、空気が湿気っている気持ちの悪い場所を抜けた、少し悲しそうな顔をしている少女は誰でしょう?
そう、私です。
私は先ほど、この森林の中にある小さな集落である人と出会いました。彼は難病に犯されていて、残された時間も長くないと。私は彼の恋人のフリをして近づくことになりましたが、彼にはすぐに見破られてしまいましたね。
・・・・・彼は、恋人のニーナさんのことを本当に心の底から想っていた。だからこそ、彼女を自分から遠ざけた。ニーナさんは、渡された手紙を読んでどう想ったのでしょう。
「・・・・・・・・」
こんな時、頭に浮かぶのはユウマの顔。もしも彼が、アベルさんのように難病にかかったりしたら、私はどうするのでしょう。幼き頃からの夢であった旅を続けるのか、ニーナさんのように看病をする毎日を選ぶのか・・・・・。
いくら考えても、答えは出ませんでした。