魔女想う、剣士の旅々 作:蛇廻
「はぁ・・・・はぁ・・・・」
「も、もう無理・・・・」
昼ごろから始まった魔法学校の生徒との鬼ごっこ、時刻が夕暮れになると流石に皆さん疲れて来たようです。なおも捕まえようとする人はいますが、あまりにも動きがゆっくりすぎて少しつまらないとすら感じます。
とはいえ、流石にこれ以上遅くはなりたくありませんし・・・そろそろおしまいにするとしましょう。
「あなた達がいくら束になっても私を捕まえられないと言うことはこれで分かったでしょう、諦めてください。ではーーーーー」
「皆さん、お疲れ様でした」
さっさとこの場を立ち去ろうとする私の前に、一人の女性が立ち塞がりました。先ほどまで私を追いかけ回していた生徒さん達とは違い、胸には魔女の象徴であるブローチが。まるで星の輝く夜空のような髪を持つ彼女はーーーーーーー
「フラン先生!?」
「お久しぶりですね、イレイナ」
・・・・・・・・・・・・・・・・
「今日の課外授業はここまで!レポートは明日提出するように」
「は〜い・・・」
「ありがとう・・・ございました・・」
先ほどは追い出されてしまった魔法学校へと戻ってきた私たち。今回はフラン先生のおかげで追い出されずに足を踏み入れることができました。生徒の皆さんは随分と疲れた様子で校舎内へと戻っていきます。
「あらあら、あんなにフラフラになって・・・・少し扱きすぎたのでは?」
「私のせいですか!?」
「私のせいでもあります」
あの頃と何も変わっていない、そんなやりとり・・・・・数年ぶりということもあって、随分と懐かしく思います。
「フラン先生がこの学校で教師を?」
「えぇ、国王様に誘われましてね?ま、立ち話もなんですから、中に入りましょう?」
相変わらずのマイペースさ。本当に、懐かしい。
「課外授業の一環として、多少強引に引きずってでも、あなたを私のところに連れてくるようにと指示したのですよ」
「どうして、私がこの国に来ていると?」
「学校に入ろうとしたでしょう?その時の警備員の方の話を聞いて、すぐにあなただと分かりましたよ。それで、いても立ってもいられなくて、生徒達を使ってあなたを探すことにしたんです」
「なるほど・・・」
フラン先生が用意してくれたお茶をカップへと注ぎながら話を聞き、納得します。それだったら、一度ここに立ち寄ったのは正解でしたね。
「たくさん、旅をして来たのですね」
「えぇ・・・・・私が旅をしているって知ってたんですか?」
「もちろん、あなたのお母様から聞いてましたから」
「え、会ったんですか?」
「あなたのことをとても心配していました。故郷の近くに寄ったら、顔を見せてあげてください」
「そのつもりですが・・・それはまだかかりそうです」
「・・・・何かあったんですか?」
・・・・なるべく隠そうと思っていたのですが、さすがは先生。私のちょっとした声を変動で、すぐに見抜いてしまいました。このことは今まで誰にも話したことはありませんが、先生になら・・・・・。
「・・・・実は」
・・・・・・・・・・
「そうですか・・・彼が」
「はい・・・」
私がフラン先生の元で修行をしていた頃、ユウマは度々その場を訪れていました。だからフラン先生も彼のことは知っていますし、彼がソードオブロゴスの炎の剣士になったことも分かっています。
「それで、今は旅をしながら彼を探していると?」
「はい・・・ですがなかなか情報も見つからず・・・・ただ、以前立ち寄った国で、一つだけ有力そうな情報は手に入ったんです」
あれは確か、花の国での話だ。彼のお父さんが変身する闇の剣士・カリバーの目撃情報を手に入れたのは。
「とは言っても、それ以降は音沙汰も無しですけど・・・」
「なるほど、分かりました。それでしたら、私の方でもできる限りのことをしましょう」
「え?」
「こう見えても彼のことはそこそこ気に入ってたんですよ?それに、弟子の大切な人が行方知らずなんて・・・動かないわけにはいかないでしょう」
「い、いえ、ユウマはただの幼馴染で・・・」
「何を言ってるですか、今更」
「先生こそ何言ってるんですか!」
「ふふ・・・」
全く、ただ私の反応を見て楽しんでいるだけじゃありませんか?
「・・・・・」
「どうかしましたか?」
「あぁ、いえ・・・・・ところで、イレイナはこの国にどのくらい滞在する予定なのです?」
「そうですね、久しぶりにゆっくりしようと思っていたところですし・・・・・明後日の朝に出発ですかね」
「あら、以外と早い。では、明日の用事は?」
「特にありませんが」
「それでしたらーーーーーーー」
・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌朝、私は再び魔法学校を訪れていました。というのも、フラン先生からこの時間に来るよう言われたからです。そのフラン先生は私の隣に、そして私達の目の前には、昨日私を追いかけ回した生徒達の姿が。
一晩休んで疲れは十分取れたようで、昨日の帰り際に姿が嘘のように思えてきました。
「皆さ〜ん!今日は特別講師に、”灰の魔女イレイナ”を呼びました!年はあなた達と近いですか、立派な魔女です。なんでも聞くように」
『『は〜い!』』
「あ、あの、フラン先生?私、指導なんてしたことありませんけど・・・」
「あら、そんなの見様見真似でいいんですよ」
「そんないい加減な・・・」
「さぁ、何か質問がある人はいますか?」
「は〜い!」
いやどっちかっていうと私が質問したいんですけど、先生に。
そんな私の心の言葉は全く通じず、私への質問タイムが始まりました。
・彼氏はいるの?
A. 居ません、旅をしている身なので。
「あくまでも魔法に関することを質問しなさい、他には?」
・得意な魔法は?
A. 特に無いです。攻撃魔法も変身魔法も、何もかもそれなりにできるつもりです。
・今まで訪れた国の中で、どの国が一番好き?
A. この国です。
・今のはお世辞ですか?
A. いいえ、事実です。
・出身は?
A. 平和国ロベッタという街です。
・旅人って楽しい?
A. えぇ、とても!
まぁこのような質問がしばらく続いたのでこれ以上は割愛させてもらいます。約1名ほど吹き飛ばされましたけど。
というわけで始まったフラン先生の授業。とりあえず初めはフラン先生が指導しているところを見ることにしました。・・・・・以外と真っ当な先生っぷりですね。
「あ、あの・・・・」
そんなことを考えていると一人の生徒が手を挙げました。フラン先生は他の生徒を相手をしていますし・・・・・試しにフラン先生を真似てやってみますか。
授業の内容自体は、水を特定の形にして維持させるもの。魔女である私からしてはとても簡単なものですが、生徒の中には水を持ち上げるのに苦労している人もいます。ですからまずはそこからーーーーーー
「・・・ふむ」
・・・・・・・・・・・・
それからもフラン先生の授業は続きました。凍結魔法や逆にその氷を溶かす魔法だったり、火炎魔法だったり。火炎魔法とは言っても、ちょっとした花火程度のものでしたけど。
しかし、そんなことをしていたからか時刻はいつの間にか夕暮れ・・・・・今までの旅の中で最も一日を短く感じました。
授業も無事終わったということで、私は今フラン先生に連れられてある場所に訪れていました。そこは、街全体を見渡すことができる場所で、昨日箒に乗って見た上空からの景色とはまた違った、とても素敵な景色でした。
「私のお気に入りの場所なんです」
「フラン先生の?」
「えぇ、あなたが旅に出る前に、この景色を見せておきたかったのですよ。気に入ってくれましたか?」
「はい!」
「なら良かった・・・・・・確か彼も、こんな景色が好きでしたよね」
「・・はい、私よりも」
「彼が見つかったら、またこの国にいらっしゃい。そしてまた、この景色を見るのです」
「そうですね・・・・その時は、3人で」
・・・・・・・・・・・・・・・
そして翌朝、私は一人この国の門の前に来ました。本来であれば、このまま門を潜って旅を再開するところですが、昨日フラン先生が”餞別”を用意すると言っていたのです。しかし、門のところには誰一人いません。まぁ早朝なので当然といえば当然なのですが・・・・・。
ただ、少しホッとしている自分もいます。最後に先生の顔を見れば、名残惜しくなるに決まっていますから。そんな思いをすることなく、また旅にーーーーー。
そんな時、私の目の前に一片の花びらが。いえ、一片ではありません。とてもたくさんの花びらです。それが唐突に、私に降り注ぎ始めました。
「イレイナ!」
その声に振り向くと、空にはフラン先生や生徒の皆さんが全員でバケットに詰めた花びらを撒いていました。
「随分と早いですね、もう少しで間に合わないところでしたよ」
「フラン先生・・・・」
「私たちからの餞別です。喜んでくれましたか?」
「ーーーーはい、とっても!!」
私は旅人、まだ見ぬこの世界の景色と人を見るために、旅を続けます。
そしていつか、あなたとともにーーーーーーー。
・・・・・・・・・・・・
「いっちゃいましたね」
「あ〜あ、ちょっと残念だなぁ〜」
「分かる!イレイナさん可愛いしな〜」
「ほら皆さん、学校に戻りますよ!」
イレイナが去った王立セレステリア。彼女が再び旅に出るのを見届けた生徒達は皆口惜しそうに声を揃える。そんな彼らを諌めるフランだったが、その彼女もまた、イレイナが立ち去って行った門を名残惜しそうに見ていた。
「・・・・・おや?」
果たしてそれは幸か不幸か。フードを目深に被った一人の男が入ってきたのを見つけた。本来であれば気に留めることもないが、今はまだ早朝。国から出ることはともかく中に入るための受付はまだ始まっていない時間帯だ。外から人が入ってくることは、この時間はまだありえない。
「そこのあなた、まだ受付は始まっていませんよ。もう少し時間が経ってから改めて・・・」
高度を下げ、地面へと降りたってその男の目の前に立つ。理由を話して一旦引き取り願おうと思ったところで、フランはその男の顔に気づいた。
「あら?あなた・・・・ユウマじゃないですか!」
「・・・・お久しぶりですね、フラン先生」
イレイナから行方知らずだと聞いたユウマが今目の前にいる。その事実にフランは驚く。
「どうしてここに?イレイナからは行方知らずだって聞きましたけど・・・あぁ、もうちょっと早く来ていればイレイナと会えましたのに」
「えぇ、知ってますよ。だからこのタイミングで来たんです」
「?それって、どういう・・・・」
「フラン先生、その人は?」
なかなか戻ってこないフランと話している人物が気になり、生徒たちも徐々に降下してくる。それも仕方ないことだろう、自分たちとほぼ同年代の人物と講師が仲良さそうに話しているのだ。気にならないわけがない。
「あぁ、皆さんにも紹介しましょう。彼の名前はユウマ。イレイナの幼馴染で、若くしてソードオブロゴスの剣士に選ばれた少年です」
「剣士!?」
「マジかよ、すげぇ!」
世間から見て、剣士に選ばれるのはとても栄誉あること。自分たちとそう遠くない年で既に剣士に選ばれているユウマに、生徒達は驚きの声をあげる。だが、それを聞いたユウマは全く誇らしげにすることはなく、むしろその顔に影がささった。
「組織に選ばれたからって、いいわけじゃない」
「はい?」
「今の組織に正義はない。あるのは世界を意のままに変えようとする欲望・・・・・奴にとって聖剣も本も、剣士や魔女も全てが道具も同然」
「あの・・・一体なんの話を・・?」
「奴の計画は阻止する。そのために俺は全ての聖剣を封印する」
「・・・・あなた、何をするつもりで・・」
「まずは残りの聖剣を所有している剣士を引き摺り出す。そのために、あんたを倒す」
「っ!?」
何が起こったのか、生徒には理解できなかった。突如ユウマとフランの間に突風が巻き起こったかと思うと、次の瞬間には二人はかなりの距離を開け、フランは自身の前に防御障壁を創り出していた。
「あのタイミングの攻撃をしっかりと防御したか・・・・やっぱりあんたは強い。だからこそ、奴らを誘き寄せる餌の役割を担ってもらう」
『ジャアクドラゴン!』
「変身・・」
『Get go under conquer than get keen. ジャアクドラゴン!』
剣を振り、その身を闇の剣士カリバーへと変えるユウマ。その事実にフランは驚愕する。
「闇の剣士・・!?それはあなたのお父上の剣のはず・・・どうしてあなたが!?」
「話す必要はない」
フランが作った距離を一瞬のうちに詰めるカリバーは、一切の躊躇なく剣を振るう。
「ふっ!」
「ちっ・・・やっぱり硬いな」
しかし、その攻撃はフランの防御障壁に阻まれてしまう。
いくら剣士といえど、攻撃が阻まれてしまっては意味がない。魔法を使えば自分の身を守りつつ魔力弾で総叩きなんてことも可能だ。相手がフランであるならば尚更だ。
「・・・・やはり先に、他の奴らか」
『必殺リード!必殺リード!ジャアクイーグル!』
「他の?・・・・まさか!」
空を見上げるフラン。その視線の先には一部始終を見ていた生徒の姿が。
「なんかよく分かんないけど、助太刀しますよ、先生!」
「俺も!」
勇敢か、命知らずか。”フランの手助けをする”というだけの目的での突貫は、全くもって意味を成さない。
「ダメ・・・逃げて!!」
「悪いが・・・部外者にはご退場願おう」
『月闇必殺撃!習得二閃!』
闇黒剣月闇より放たれる漆黒の熱風が、突貫してきた生徒も、周りの生徒も、一人の例外なく襲いかかる。
次々と地面へ落ちていく生徒達。全員が気を失っているらしく、誰一人動くことがない。
「はぁ・・・・はぁ・・・っ!」
「ふん!」
いつの間にかフランの背後に移動していたカリバー。気配を察知して振り返るも、防御が間に合わず蹴り飛ばされる。
「瞬時に生徒全員に障壁を張る。見事な手際ですが、それによってあなた自身の防御が疎かになる」
「まさか、そのために生徒を・・?」
「次はあなたが、彼らのようになる番だ」
「・・・どうしてあなたがこんなことにするのか分かりませんが、そう安易とやられるわけにはいきません!」
『必殺リード!ジャアク西遊ジャー!習得一閃!』
「・・・・・・え?」
フランが行ったのは、複数の魔力弾の生成と発射。場所に規則性は皆無であり、少なくとも生成した魔力弾の内数発は喰らう計算だった。
そう、
まさかその魔力弾が生成と同時に全て撃墜されるなんて思っても見なかった。その攻撃は、まるで魔力弾の生成される位置を把握しているかのように的確にその場所だけを貫いていった。
「これで終わりです。イレイナのために、ここでやられて下さい」
カリバーが闇黒剣月闇を地面に突き立てると、それを中心に一つの魔法陣が広がる。
フランの意識はそこで途絶えた。