チョコボinオラトリア   作:葉隠 紅葉

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第13話

 それはオラリオの地下に設けられた地下水道であった。石材で構築された直径6M程の管状の空間。中央には生活用水として使用された排水が流れており、その両端には人がようやく通れる程度の道が広がっていた。彼女はフードをすっぽりとかぶったまま地下水道を歩んでいた。

 

 地下を歩む、時に狭く、時に広く変化していく薄暗い地下空間。まるで迷路のように入りくねった空間は決して普段から近寄ろうともしない地上の人間達では正確に把握する事もできないだろう。彼女自身の足音が周囲へとこだまし、薄暗い地下空間へと響いた。

 

 20分程歩き続ける。反響音に耳を澄ませながら周囲を伺う彼女。大丈夫だ、尾行はないはず。やがて彼女はこの地下迷宮の目的地、とある地下扉の前へと移動した。

 

 それは重厚な造りをした鉄扉であった。重く、堅く、門戸には大きな旧式の鍵穴が二つもついていた。一見すると旧時代に使用されていた巨大な物置のような場所であり、いまだに使用されているとは思えないような古びた造りであった。そうして彼女はその扉の前へと移動しそっと扉をノックした。

 

コンコンコンコンコン

 

 繰り返す度5回のノック。そうして扉の向こう側からくぐもった男性の声がした。その奥から周囲を伺うように小さな声がする。

 

『我らが神の牙は』

 

「モーダカによって夜月の元に有り」

 

『…よし、入って良いぞ』

 

 暗号を互いに伝え合う。その結果に満足した男性はそっと扉を開けて彼女を受け入れた。こんもりとした独特の獣臭が彼女の鼻腔を刺激する。その強いチョコボ臭に思わず彼女は眉をひそめてしまう。ダメだ、集中しろ。彼女は2,3度頭を振ると自身の敬愛すべき主神の姿を探した。

 

 それは奇妙な空間であった。どうやらかつては何事かの施設の一部として使用されていたらしい。小さな家屋が数件入る程度の大きさをしたその場所にはいくつかの本棚、小さな食料保管庫が並んでいる。壁にはコルク式の壁掛けが掛けられており、そこにはびっしりとした書類が幾つも並んでいた。そんな中、一人の神が椅子にこしかけたまま机に向かって作業を行っていた。

 

 彼女は椅子に座ったまま手紙を作成している主神の元へと歩んだ。ガネーシャは椅子に行儀よく腰かけたまま何事かと羽ペンを忙しそうに動かしていた。どうやら知り合いの神へと手紙を書いているらしい。

 

 ふと羽ペンを止める彼、どうやら女の存在に気が付いたのだろう。彼はおぉと声をあげると筆を置き、愛すべき自身の眷属へと声をかけた。

 

「ガネーシャ様」

 

「ん…おぉっ!エイミー!よく来たな」

 

 ガハハと高らかに声をあげ自身の眷属の帰還を喜んでくれるガネーシャ。だが、衣服はよれていたし、声にもこれまで通りの溌剌とした元気さがなかった。精神的に疲労しているのだろう様子がありありと見て取れた。

 

 無理もない、と思うエイミー。このチョコボ騒動が起きてから主神がどれだけ苦労とご負担を背負ってこられたか、エイミーは眷属として胸中大変に複雑な心境を抱いていた。

 

 彼女は腰元に身に着けたバックパックから一枚の書類を取りだした。封もあけられていないその書類をそっと自身の主神に手渡しながら声をかけた。

 

「神ウラノスからの手紙です」

 

 書類を手に取ったガネーシャはエイミーに対して頷く。そうして彼はペーパーナイフを用いて器用にその手紙を開封していく、そうして中身を眺めた彼は息を吐いた。

 

 どうやらガネーシャが立てた計画について神ウラノスの許可が出たらしい。手紙の文面をじっくりと眺める。神ガネーシャは満足気に頷きながらエイミーの肩を叩いた。

 

「…うむっ!これなら大丈夫だろう!」

 

「…ではいよいよですね」

 

「あぁ、それまで苦労をかけるな」

 

「く、苦労などそんな…っ!」

 

「あぁそうだ、せっかく来たのだから彼女達の様子でも見てくるか」

 

「……」

 

「最近は随分と馴染んでくれてな…やはりメスは他人に対して慣れにくい傾向があるらしいが、いやしかし…」

 

 楽しそうに最近のチョコボの様子について語り始める神ガネーシャ。主神の身振り手振りを交えた説明は実に分かりやすかった。ガネーシャ自身もこの奇妙な新種モンスターに並々ならぬ興味と関心を抱いているらしい。

 

 なにせ敵意を持たないモンスターである。神ガネーシャとしてもこのチョコボという生物はその児童のような純粋さ、善性から大いに注目しているらしい。

 

 なにせ神自ら実地調査をしているのだから。事が事だけにこの秘密に関しては互いの幹部級冒険者にしか詳細を明かせておらず、その人手不足からガネーシャ自身もこのように調査を行っているのである。こうしている今もなお、両ファミリアの幹部級は休みなく働いているのだ。

 

 これはギルドと両ファミリアが結んだ協定でもある。レベルが低い一般冒険者では怪しい動きをして襲撃や拷問でもされてしまってはその秘密を守ることができないという判断。

 

 なによりも神々の魅了に最低限の耐性を持つ者でなければこの秘密を守り切ることはできないだろう。残念な事に子供達に対して魅了をかけて無理にでも秘密を聞き出そうとする神に心当たりがあるのもまた事実であった。

 

 そのような事からとある一定のレベルを持つ冒険者にのみこの特殊なチョコボの秘密を明かして作業していたのである。とは言え人手が圧倒的に不足していたのもまた事実であるが。

 

 そんな彼の様子に対して密かに思慕の念すら抱いている彼女としては複雑な思いを抱いてしまう。チョコボは部屋の隅の空間でそっと眠っている。またもう一体に関してはもそもそと起きて部屋の片隅に設置された水桶に頭を突っ込んで水を飲んでいた。

 

 思えばこのチョコボ達が来てからが全てがおかしくなったのだ。ガネーシャファミリアもロキファミリアも終わりなき労働に随分と振り回されてきた。彼女としては思わず握りこぶしをつくってつい熱く憤りをぶつけてしまった。

 

「今でも信じられません…まさかチョコボが()()()()()を使えるだなんて…っ!」

 

「だが事実だ」

 

「…地上では黄色チョコボが例の能力を使用できる気配はまだありません」

 

「うむ以前会議した通り、やはり例の特徴はこの体毛色限定の可能性があるな」

 

 ふと彼女は件の話題の対象であるチョコボ達へと視線を向ける。そこには()()()()()()()()()()()()()()()が部屋の隅で座り込んでいた。憎々し気にそのチョコボをにらみつける女性冒険者。敬愛すべきガネーシャ様がご苦労なさっているのはお前たちのせいなんだぞと、まるで視線でにらみつけるように。

 

 エイミーはガネーシャに対して向き合った。ガネーシャの視線に対して真正面から向き合う彼女。そうして彼女は息を吸い込み、力強く報告をした。

 

「他ファミリアからダンジョン内で奇妙な鳥型モンスターを見た…との報告がちらほらと上がりだしております」

 

「…っ!そうか…いつかは来ると予想していたが…」

 

「隠し通せるかはもはや時間の問題です」

 

「金と伝手は幾ら使っても良い、噂をもみ消してなんとかしてあと三週間は持たせてくれ」

 

「……」

 

「俺の貯蓄を使って良い…なんなら俺の名を使って金を借りても構わない。どうにか引き延ばしてくれ」

 

「金などギルドに支払わせるべきです!どうしてガネーシャ様がッ!」

 

「ギルドの役員達に任せては意思決定に時間がかかりすぎる…まずは誰かが身銭を切って苦労を背負わねばならないのだ」

 

「……」

 

「ここからが正念場だ。もしも何も対処しないままこのチョコボ達の存在が公になれば地上は大混乱になるだろう。だが…」

 

「この計画が上手くいけば…」

 

「そうだ、この計画が成功すれば…混乱はある程度は抑える事ができるだろう。それまでの辛抱だ」

 

 腕を組みながら力強く主張するガネーシャ。彼の中ではどうやら意思が固まっているらしい。力強く主張を重ねる主神に対してエイミーは力なく同意してしまう。

 

 こういう御方なのだ、きっとこの方は地上でどれだけ陰口をたたかれようが構わないのだろう。自身の愛すべき眷属、そして地上の子供達の健康を芯から願える御方だからこそ、こうして団員達がみな文句も言わずに従っているのだから。

 

 こうなってしまった主神の意志の硬さはよく知っていた。同じく話を聞いていた男性冒険者もまたエイミーの肩に手を置き、彼女に対して頷いた。

 

 天井に備え付けられた魔石灯が地下室内を照らし出す。薄暗く、異臭が漂うこの空間に漂う一つの光源。それはまるでこれからのオラリオを暗示しているかのようであった。

 

 男性冒険者は貯蔵保管箱から炭酸水を取りだすと二つのコップへと注ぎだす。主神とエイミーは彼から飲料を受け取るとそっと喉を潤した。ガネーシャはコップを握りしめながら重く、深くうなずいた。

 

「計画を始動する…なんとかそれまでに噂をもみ消さねばならん」

 

「……」

 

「一人でも多くの子供達の為に」

 

 神ガネーシャの視線の先、そこには黄色とは異なる色をした2()()()()()()()が鎮座していた。有色種チョコボ、色の異なるチョコボがここオラリオに現れたのは25日ばかり前の事である。

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