チョコボinオラトリア   作:葉隠 紅葉

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第15話

 歓楽街の支配者とは誰かと言われたら多くのものが女神イシュタルであると断言するだろう。それほど彼女の力はここでは非常に強く、また彼女が統括するイシュタルファミリアもまた同様に支配力を持つのも又道理であった。今もなお視線の端で忙しそうに荷物として運搬され倉庫の片隅へと運ばれていくのは娼館で提供される予定の食料や酒といった嗜好品であった。

 

 チラチラと視界の片隅で揺れる魔石灯にぼんやりと思いをはせる。どうやらそろそろ替え時らしい。今もなお資料を夢中で読みふけるアイシャ・ベルカの顔を暗く照らす魔石灯の残部に想いを馳せるテテスは彼女に対して声をかけた。

 

「こんなもんですけど姉さん、どうでしょうか」

 

「……」

 

 そっと彼女、イシュタルファミリア団員であるテテスは自身の上司である彼女に向かって上目づかいで調子を伺う。満足して貰えただろうか、そもそもこの情報を持って来いと言ってきたのはなぜなのだろうか。アマゾネスらしく露出が多い衣装を身に着けた彼女はそわそわと自身の胸元に手を当てながら椅子の上で身じろぎをする。痛いほどの沈黙、やがてアイシャは重苦しく口を開いた。

 

「ダンジョン攻略に行くよ」

 

「え?中層ですか上層ですか?」

 

「30階層さ」

 

「30!?冗談でしょう」

 

「冗談なもんか…あぁ、今から備品倉庫の目録持ってきてくれないかい?あと手が空いてる団員にも声かけを」

 

 倉庫内を通る女性団員に対して指示を行う。書類を片手に椅子から立ち上がるアイシャ・ベルカ。そんな彼女に対して部下でもあるテテスは慌てたように声をかける。彼女自身も立派なアマゾネスである。

 

 同郷の先達でもあるアイシャの事をなによりも尊敬していたがさすがにこの判断には戸惑わずには居られない。テテスはその同世代よりもずっと小さな身長を精一杯に背伸びさせながら彼女に向かって問い詰めた。

 

「春姫がいる、団長もいる。全力であたれば勝算は高い筈だよ」

 

「意味わかんないですってば!なんで急に攻略なんて…!」

 

「…ここ最近の騒動見てて気が付かなかったのかい?この資料とかかなり分かりやすかっただろうに」

 

 そういってアイシャは自身が抱えた資料の中、そこに記載されたとある一人の男性を指さす。どうやらロキファミリアの男性冒険者らしい。そこには彼がとある卸店で23層特有のモンスター素材の販売記録が載っていた。ロキファミリア、何かと最近巷を賑わせている彼らである。情報屋からわざわざ購入してきたロキファミリアとガネーシャファミリアの団員たちの行動と売買記録を眺めながらテテスは小首を傾げた。

 

 売買記録、貴重なモンスターの素材やドロップアイテムに関しては冒険者達は特定の卸店やギルドにてこの素材を売るのが彼らの日常である。通常は各ファミリアと提携している卸店やギルドにて売買をするためこれらの情報は露わになる訳ではない。が、しかし第二次流通やその後の素材加工等細かな素材の流通先について調査を行えばこれらのルートを完全に隠しきる事は不可能であると言っても良い。

 

「Lv.3…別にこのレベルでこの階層は普通ですよね?」

 

「馬鹿、いくら平気だからって週に三回も同じ階層に潜るやつがいるかい」

 

「え?あっほんとだ。……いやいや、これは三回に分けて売ったってだけなんじゃないですかね」

 

「する必要がない、それに小分けにしてるにしては多すぎる量だろう」

 

「いやでも…どう考えても往復の移動時間だけで数日はかからないっすかこれ」

 

「だからおかしいのさ、他の奴らも似たり寄ったりだよ。あの二つのファミリアだけ攻略速度が異常だ」

 

 アイシャからの指摘を踏まえてテテスは改めて資料を眺めてみる。なるほど、確かにこれはおかしい。よくよく観察してみれば同じアイテムを何度も売却していたり、複数の卸店で同じ素材を売却していたりとどうにも違和感を覚えてしまうような売却方法を取っている。

 

 これはロキファミリアの落ち度であった。モンスターの素材と売却とはそのダンジョン攻略の情報を包括してしまう。注意深いものが観察すればその攻略内容やパーティの強さなども検討できてしまう、まさに生きた情報とも言えるのだ。惜しむべきはそんな売却内容の隠ぺいにまで手が回せるほど経済的・人的余裕が無かったこと。そのことを情報系ファミリアに掴まれてしまった事であろう。

 

 

「あたしの予想はこうだ、アイツ等はめちゃくちゃ速く移動できるアシを手に入れた。それは今回の騒動で手に入れたもんだ。そうじゃなきゃ物理的にこの速度はありえない、だからこれは前提条件で良い筈さ」

 

「でもそんなものどこから」

 

「さぁどっかから大枚はたいて買ったんだろうし…そこは問題じゃない。問題はそんな物を手に入れられるほどのお宝を現在もダンジョンで見つけてるってことさ」

 

「まぁ…明らかにあいつ等だけおかしいですもんね」

 

「そうだろ、あの二つだけ協力してるのは間違いない。おいしい獲物を自分たちで独占してるのさ」

 

 なるほどそう考えてみれば確かにそうだ。特に万能の二つ名を持つ冒険者や神々やそれに近しい存在が持つ道具ならばそういったことも可能なのかもしれない。アイシャの放つ言葉に思わず同意してしまうテテス。

 

 埃にまみれた倉庫の中。彼女は倉庫内で転がっている空の酒樽の表面をそっと撫でながらいぶかし気にうなずいた。だが、待ってほしい何かおかしくはなかろうか。彼女は首を傾げるとアイシャに向かって疑問を問いかけた。

 

 

「でもおかしいですよ、それならなんで別行動を?そもそもなんであんな変なダンジョン攻略してるんですかね」

 

「そのお宝がどこにあるか分からないからだろう。売買してる品物を視れば今アイツらは上層と中層をしらみつぶしに探すので夢中になっている事は分かる。だからあたしらが狙うなら下層…30階層なのさ」

 

「それって上層と中層以外にはお宝が存在しないって事では…そもそもドロップ品って特定の場所にしか出現しないんじゃ…」

 

「それにしちゃこの捜索範囲のでかさは異常だ。いいかいテテス、常識に囚われたら本質を見失っちまうよ。事がダンジョンなら猶更さ」

 

「う、うーん…そういう物っすかね」

 

「どこにあるか分からないならまずは上層と中層をしらみつぶしに捜索する、そうして他のファミリアがそのお宝を入手する可能性をつぶす。少なくともあたしがあいつ等なら絶対にそうする」

 

「なるほど、ロキとガネーシャファミリアだけがお宝の存在に気が付いたから…それを独占しようとして…」

 

「奪われる可能性さえつぶしてしまえばあとはゆっくり下層を探せば良い。だからこそ、今なら25階層以降から36階層を隅から隅まで調べるだけの余裕があいつらにはないはず」

 

「つ、つまり…」

 

「今ならチャンスがある。あたしらがそのお宝を掴むチャンスが」

 

「す、凄い!ウチ等大金持ちっすね!」

 

「あんた…本当に馬鹿なんだねぇ」

 

「え?」

 

「こんなもん他の奴らも気が付いてるよ」

 

「…マジですか?」

 

「神だの英雄だの化け物みたいな奴らがここにはうじゃうじゃ居るんだよ。きっとこうしている今も強豪ファミリアがこの事実に気が付いて捜索しようと…いやもうしてる可能性の方が高い」

 

「ど、どうするんすか!やべーじゃないですか!」

 

「まぁ落ち着きな。あたしに考えがあるよ」

 

 そういって彼女、アイシャはそっとテーブルの上におかれたお茶を呑む。ごくごくと喉を鳴らしながら東方の茶を呑む彼女。そんなアイシャの様子にじれったいとばかりに反応するテテス。身じろぎをする事十数秒。そっと息をはいたアイシャはにやりと微笑んでテテスに向かって指示を下した。

 

「アンタ今から男に抱かれて来な」

 

「え?…そ、そんなこんな真昼間から…」

 

「クネクネするんじゃないよ気持ち悪い…娼館の誘いをかけて来いって意味だよ」

 

「ハニートラップっすね!自分それなら自信あります!」

 

「だれもアンタの貧相な胸と身体に期待してないって。何も本当に抱かれる必要はないよ…匂いだ」

 

「に、匂い…?」

 

「あんた嗅覚に対するスキルを持ってたよね。嗅覚だけなら獣人以上に効いた筈」

 

「まぁ…特徴的な匂いなら()()()()()()()()()()()覚えられますけど」

 

「ダンジョン帰りにあいつらは異様な匂いがするって評判だしね。もしもお宝のそのものの匂いなら最高だし…宝の周囲にまったくモンスターがいないとも思えない。ならその匂いの情報である程度の種族や傾向が分かるはず。そこから階層と生息域も割り出せるかも」

 

「……」

 

「そっと近寄ってダンジョン帰りの、ロキファミリアの男の胸元にでも飛び込んでやりな」

 

「いや無理っすよ!今あいつらピリピリしてるし…近づくだけで攻撃されかねないっすよ!」

 

「強く押しすぎないで良いのさ。ただのお誘いなら向こうも敵対行動は取れない筈…そっと男の腕を胸元に抱きかかえて情熱的に誘って…そうして思い切り匂いを覚えてやるのさ」

 

「は、はぁ…そんなうまく行くんですかね」

 

 自信満々でうなずくアイシャ。一方のテテスは不安げな表情である。匂いといってもダンジョン内には常に多種多様な匂いが漂っている。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()強力なヒントになりえるとは思えなかったのだ。嗅覚には自信があるものの、こんな作戦でうまく行くのだろうか。テテスはそっと肩を落とした。

 

 一方のアイシャ、彼女はにやりと微笑むとそっとテテスの肩を叩く。笑みを深めながら彼女はテテスに向かって自信満々に断言をした。

 

「なぁに心配するな。あたし等の勘とあんたの鼻があればいけるよ」

 

「大丈夫かなぁ」

 

「アマゾネスとしての直感が囁いてるのさ、ここが勝負所だってね」

 

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