チョコボinオラトリア   作:葉隠 紅葉

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 デメテルファミリアの農業従事者として働くその農夫は、真夜中の物音で目覚めた。

 ゴソゴソ、モグモグとどこかから異様な音と気配がするのだ。彼は寝泊まりしていた小屋から飛び起きると、大きな鍬を持って見回りに出るのであった。

 深夜の農園は静寂に包まれていた。農夫はそっと生唾を呑む。間違いない、最近頻発している野菜泥棒だろう。

 デメテルファミリアが持つこの農場では、最近野菜泥棒に悩まされていた。いくつもの土壌が荒らされ、大量の野菜が姿を消していたのだ。この農夫が小屋に寝泊まりしていたのも、そうした野菜泥棒を怪しんでの事であった。

 彼が件の場所へと近づくと、ガサゴソという音がする。それも一つではなく複数からであった。近づくほどにする異臭…これは獣臭であろうか。

 彼はこのファミリアには珍しいLv.2であった。このデメテルファミリアでは非戦闘員の団員が多い…というよりも過半数を占める。このオラリオの農業を支える彼らは、その大半が農家出身者であった。中には彼のような一線級から退いた、ロートルの冒険者もいるが。

 農夫はランタンを掲げながら音のする方へ歩みを進めていく。そっとランタンの灯りを翳すと、そこには……泥まみれになった茶色いモンスターがいた。

 それは鳥型のモンスターであった。全身に生えている羽毛、大きな嘴、きらきらと輝く蹄を有している。

 それは煤けた茶色をしていた。日に焼けた、ブラウンカラーをしたその体色が夜闇に紛れて非常に恐ろしい。

 それは複数いた。目算にして…5匹はいるだろう。小柄な体で、頭を泥に突っ込んだまま、彼らは野菜を口いっぱいに頬張っているのであった。

「っ!!」

 見たこともない獣、いやモンスターが畑にいるという光景に動揺してしまった農夫。彼が後ずさって踏みしめた小枝が割れる音がする。

 反射的に、モンスターは驚いて顔を上げた。つぶらな瞳と泥だらけの姿が、どこか滑稽で愛嬌すら感じさせる。背丈は1Mほど、羽毛は茶色く、頭が小さく手羽は大きい。その見た目は、まるでぬいぐるみが動いているかのようだった。

『クエー!!』

『クエッ!?クエッ!!』

 悲鳴は伝染する。どうやら野菜泥棒をしていた割に、彼らは随分と臆病な性格らしい。そのうちの1匹が泥の中で転げ回り、他の2匹は羽をバタつかせて泥を跳ね上げながら四方へと逃げ去っていくのであった。

 農夫は急いで大声をあげ、近くで見回りをしていた仲間たちを呼び寄せる。やがて泥に足を取られたチョコボ達は、次々と網にかけられてしまうのであった。これが一週間ほど前の出来事である。


第17話

 女神デメテルはご機嫌であった。それはもう、眷属たちも中々見たこともない程に彼女は満面の笑みを浮かべていた。鼻歌交じりにクローゼットへと手をかける彼女。

 

 そこはデメテルファミリアが所有する館であった。美しく手入れされた庭園が周囲を囲む、荘厳な建物。庭には噴水があり、その水音が穏やかに響く中、季節の花々が咲き乱れていた。

 

 シャンデリアが天井から吊り下がり、壁には精緻な彫刻が施されている。所々に飾られた絵画からは彼女の美的センスが伺える。女神たる彼女にふさわしい、荘厳な内装であった。デメテルは、目の前に連れてこられた茶色いチョコボたちを見下ろして、顔を輝かせた。

 

「次はこの白いスカーフを巻かせて…」

 

「……」

 

「まぁ、なんて可愛らしいの!」

 

「クエェ…」

 

 彼女の手によって首に純白のスカーフがまかれる。ぐったりとした様子のチョコボをよそに、彼女は優しい微笑みを浮かべてチョコボを抱きしめた。チョコボの頭部が、彼女の豊満な胸元へとうずめられる。まるでぬいぐるみを抱きしめる少女のような、無垢な光景がそこにはあった。

 

 どうやら彼女はチョコボを気に入ったらしい。それはもう、ひとめぼれというやつなのだろう。

 

愛らしい瞳

小さな顔

もふもふの体毛

 

 まるで生きたぬいぐるみのようなものだ。彼女の女神としての琴線に触れるデザインをしていたのだろう。彼女は地上に降りて久しく感じていなかった高揚感を胸に、この新しく手に入れた愛玩生物を思う存分に愛でていた。

 

 

モンスターだから危ない

そもそも野菜泥棒ですよそいつら

 

 そんな眷属たちの声をよそに、彼女はこの5匹のモンスターをペットにする気満々なのであった。ちなみに4匹は首輪を繋がれて檻の中でお昼寝中である。

 

 唯一人間たちに捕まった恐怖から、緊張して眠れずにいた、このとびきり臆病な性格の哀れな個体。首輪を柱に繋がれた彼は逃げることも出来ずに、ただ女神の愛玩を受けるだけであった。

 

「さーて、次はこの麦わら帽子ね♪」

 

 デメテルは嬉しそうに棚を漁り、麦わら帽子を取り出し、チョコボの頭にそっと被せる。茶チョコボは「クエェ…」と困惑した声を上げるが、彼女にされるがままであった。

 

「ほらぁ、私のマネをして…こうやって首をかしげてごらんなさい」

 

「キュピィ~?」

 

「きゃぁぁ~!!」

 

 彼女の真似をして愛らしく首をかしげるチョコボ。そんな姿に、デメテルは大喜びだ。あぁもうなんて可愛いらしいのだろう。ここまで無垢で愛らしい魂をした生物はそうは居まい。彼女は頬に手をあてて、その愛らしさに存分に癒されていた。

 

 撫でて、抱きしめて、また撫でる。そのまま数時間程着せ替えごっこを楽しんでいた彼女。ふと時計を見あげると、随分な時間が経過している事が分かった。

 

「あらもうこんな時間…」

 

「キュルゥ…」

 

「うふふ、食事の前に湯あみをしましょうか。私の眷属(子供)達に体を洗わせてあげるわね」

 

「ク…クエ…」

 

「お風呂に入るんだから荷物はここに置いていきなさい。ほら、ばんざいして、ばんざ~い♪」

 

「クエ~……」

 

 ジト目を向けながらも、茶チョコボは両手羽を上げて「ばんざい」のポーズを取る。その仕草に、デメテルは笑いをこらえきれない様子であった。そんな彼女は茶チョコボが身に着けていた布袋の存在に気が付いた。

 

「あら?」

 

 手に持った布袋からはずっしりとした重みを感じる。はて、これは一体なんなのだろうか。彼女がそっと袋を開けると…中からはとある植物の種と木の実が出てくるのであった。

 

 クルミのような色と形をしたそれは、しかし豊穣を司る女神ですら見たこともない未知の物であった。デメテルはその実を手に取り、首をかしげる。

 

「植物の実と…何かの種かしら?」

 

「…?」

 

「あぁごめんなさい、一緒に行きましょうか」

 

 彼女は布袋と一緒に、棚の上にその[()()()]と[火の種]を置くと、意気揚々と彼らの湯あみの準備をするのであった。

 




[茶チョコボ]
はたらくチョコボ初出。
「チョコボと不思議なダンジョン」
「チョコボレーシング」に出てくるようなデフォルメチョコボを茶色に染めたような姿
背丈は90cm前後とチョコボにしては小柄な体躯

[ノーマルチョコボ]
FF13やFFⅦリバースに出てくるような黄色チョコボ
背丈は平均2m前後
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