チョコボinオラトリア   作:葉隠 紅葉

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第18話

 

 チョコボ牧場の朝は早い。まだ朝露が草を覆う中、ラウル・ノールドは眠い目をこすりながら牧場内を歩いていた。冷えた空気が心地よく間を通り抜けていく、心地良い静寂感であった。

 

「ふぅ…」

 

 ため息混じりの声を漏らしながら、彼は足を進める。チョコボ舎の扉を開けると、牧場特有の木と藁の香りが漂ってきた。そしてそれ以上に特徴的なのはそのチョコボ臭であろう。

 

 内部には藁が敷き詰められ、小さく仕切られた空間が幾つも並んでいる。それぞれの区画にはトレーニング済みのチョコボたちが休んでいた。ある者は寝そべり、ある者は昨夜の餌の残りを啄み、またある者はお互いの羽毛をついばんでいた。

 

 ラウルが舎内を歩き始めると、黄色いチョコボたちはそそくさと彼のそばに寄ってきた。もうご飯の時間かと、そのつぶらな瞳で催促をし始める彼らを、ラウルは苦笑しながら手で押しかえす。

 

 そんな姿を見かけていた赤帽子の小怪物(レッドキャップ・ゴブリン)が彼に声をかけた。

 

「おはようございます、ミスター」

 

「あっ…どうもっす」

 

 途中で牧場の作業員であるレッドキャップに声をかけられ、軽く会釈を返す。場内で見かけるモンスターの姿というものに、未だにラウルは慣れないでいた。

 

 そのレッドキャップは椅子に座って器用にサンドウィッチをつまみながら、ラウルに対して笑顔で談笑をし始める。楽しそうに昨夜の飲み会の話を語り始める彼に対して、ラウルは彼の話を遮るように、問いかけた。

 

「あの…歌鳥人(セイレーン)の…」

 

「レイですか?レイならあちらに居ます」

 

 そういってレッドキャップは牧場の反対方向を指さした。彼が指さした方角を見ると、草むらの上に優雅に佇むとある存在が見えた。

 

 瞳を閉じて、両腕を広げている彼女の姿。ラウルはレッドキャップに礼を言うと、牧場の敷居をまたいで彼女の方へと向かうのであった。

 

 徐々に近づいていく度に、彼女の姿がはっきりしていく。それはなんとも美しい歌鳥人(セイレーン)であった。毛先が青みがかったくすんだ金髪と青い瞳、何よりもその美声で冒険者達を惑わせる、魔性の怪物がそこには居た。

 

 彼女は、ラウルの存在に気が付いたのだろうか。ふと目を開くと、ラウルに対して挨拶を交わした。

 

「おはようございまス」

 

「ど、どうも…おはようっす」

 

 異端児と呼ばれる存在の一人、レイ。彼女はセイレーンに似た姿を持つ歌人鳥であり、同時に知性を持つモンスター『異端児(ゼノス)』でもあった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 ロキファミリアがダンジョン深層でチョコボの調査を行っていた際、彼らは異端児(ゼノス)達と遭遇した。それはあまりに突然の邂逅であった。道を曲がった瞬間に、出会い頭にチョコボに騎乗したモンスターに出会うなどと誰が想像出来るだろうか。

 

『はぁ?ニンゲン!?』

 

 出会い頭にそう叫んだモンスターに対して、息を呑んで驚愕したのは誰であっただろうか。チョコボと共々、あっと言う間に捕縛されたその喋るモンスターはカーゴの中で深くため息をついていた。

 

『はぁ…オレっち達どうなるんだろうな…』

 

『クゥーエっ!クェっ』

 

『えっ、ご飯をくれたしきっといい奴らだって?単純すぎねーかなぁ』

 

 カーゴの中で、自身が乗っていたチョコボと会話をする蜥蜴人(リザードマン)の存在に驚愕する。ロキファミリアは混乱しつつも、急いで地上へ戻り、主神たるロキと蜥蜴人(リザードマン)への尋問を行った結果、ウラノスとの関係が発覚。激怒したロキはウラノスへと詰め寄るのであった。

 

 異端児(ゼノス)なる存在を知ったのはその時である。ロキファミリアは知性を持ち喋るモンスターというド級の爆弾を隠していたウラノス達を問い詰める。

 

 額に筋を浮かべて怒鳴り散らすロキ、一方のウラノスもまた驚愕していた。チョコボという想像以上の知性と、穏やかな心を持ち合わせた存在に。彼らは腹を割って話し合い、これが災厄であると同時に好機でもあると悟ったのだ。そう、人間と怪物たちが共存できる未来への好機であると。

 

『知ってしまったからには共犯者だな!共に頑張ろう!』

 

 ガネーシャは満面の笑みでロキの肩を叩き、ロキはそんな彼の顔面に拳を叩き込んだとかなんとか――いずれにせよ、異端児たちはこうして地上へと連れてこられたのであった。

 

ガネーシャファミリアはチョコボの研究と飼育を

ロキファミリアはチョコボの捕獲と異端児達の地上への運搬を担ったという訳である。

 

 

 これまでの激動の日々を振り返るレイ。もともと便利な騎乗モンスター程度にしか思っていなかったチョコボ達であったが。そのチョコボ達のおかげでこうして宿願であった地上へと降りることが出来たのだから。

 

 感謝の念を抱きつつ、ゆっくりと愛おしそうにチョコボを撫でるレイ。そんな彼女に対してラウルは問いかけた。

 

「あの…何してるっすか?」

 

「日光浴デす」

 

「に、日光浴?」

 

「はい。地上ノ太陽…どこまでも暖かく尊い物でス」

 

 レイは瞳を閉じ、太陽の光を全身で享受する。あぁ地下深いダンジョンの中では決して味わえぬものがそこにはあった。

 

 照り付ける太陽も、ぽかぽかと吹き抜ける陽気な風も、全てが美しく愛おしい。異端児たちが望む世界がそこにはあった。そんな太陽の恵みを当たり前のように享受できるこの日々に、唯々深く感謝の念をささげる彼女。そんなレイに対して、一匹のチョコボが喉を鳴らしながらすりよった。

 

「クエっクエ―!」

 

「ラウルさん、この子…鞍が身体に合ってイなくて辛いと言っていまス」

 

「あっハイ。鍛冶師に伝えておくっす」

 

「あと普段の装備はもっと重くしても大丈夫だそうでス」

 

 レイはチョコボからの訴えの言葉を翻訳する。そう、異端児達はチョコボと会話をする能力があったのだ。本人達曰く完全な意思疎通が出来る訳ではないそうだが…。それでも想像もしていなかったチョコボ達と片言程度でも会話が出来るというのは、非常に稀有な能力であった。

 

 異端児という存在をロキファミリアが受け入れているのも、こうした実利的な面があったからである。異端児の存在により、チョコボとの融和は加速度的に増していく。訓練の精度も格段に上昇し幹部たちは喜んでいるらしい。

 

「クエ―♪クエ―♪」

 

「ふふっ。わかりましタ。ではリクエストにお応えして」

 

 どうやら別のチョコボが彼女に歌をねだったらしい。そんなリクエストの声に笑顔で応じる彼女。彼女が紡ぎだすその歌声は、極上の奏であった。

 

 美歌に呼応して、自身もまた歌い始めるチョコボ。そんな一匹に呼応して、また一匹と徐々に声を重ねていくチョコボ達。いつしかチョコボ牧場が合唱に包まれていく。

 

 朝日に照らされ穏やかな笑みを浮かべながら歌を奏でる彼女の姿は、神秘的ですらあった。

 

 その光景に無言で見入ってしまうラウル。怪物趣味など欠片もないが…ほんのちょっぴりとだけ見とれてしまったのは彼の心中だけの秘密である。

 

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