南西のメインストリート、アモールの広場、そこから10分程歩いた場所にその店はあった。
店につるされた魔石灯の元、その店の中には実に多くの客たちが食事を堪能していた。互いに麦酒を飲み合うヒューマンのカップル、飲み比べを行う髭面のドワーフ達。実に楽し気な店内の様子である。
そんな中二人の美女、否二柱の美女がその店の中にいた。オレンジ色の髪をしたその神ロキは顔を赤くして酒杯を勢いよく傾けている。
「うぅ…ひっく」
「ちょっと飲みすぎよ」
「こんくらい平気や平気…うぅ飲まなきゃやってられへん!」
酒杯を片手にテーブルにつっぷしてしまう神ロキ。彼女の周囲には空になった樽製の酒杯が幾つも転がっている。そんな彼女に対してテーブルの向かい側にて同じく席を共にしていた神ヘファイストスが声をかけた。
「もう貴方の愚痴は聞き飽きたんだけど…」
「何おぅまだまだ言い足りひんわ!あんな…リヴェリアは本当に可愛くってなぁ」
「その話は五回目よ」
「だっていうのに…それをあの毛むくじゃらに取られて…っ!」
「あぁもう涙を拭きなさいな」
ポケットからハンカチを取り出し神友へとあてがうヘファイストス。どうやら随分とフラストレーションが溜まっているらしい。酒瓶をグイグイとあおり飲み続けるロキに対して彼女は訝し気な表情を向ける。
通りがかる店員に声をかけ、水を追加で注文するヘファイストス。どうやら今回の愚痴は相当長くなりそうだ。彼女ははぁとため息をつくとそっとロキに続きを促した。
長い付き合いだ、好きなだけ不満を吐出させた方が後々彼女の機嫌が良くなることをヘファイストスはよく知っていた。
「なんもかんもアイツが悪いんやぁ…」
「捕獲した新種だったかしら」
「リヴェリアはガネーシャんとこに入浸るし…フィンは手紙を受け取ってから様子がおかしいし、アイズたんは胸を触らせてくれへんし…っ!」
「最後のはいつも通りでしょ」
やけ酒を煽るロキに対して詳細を尋ねてみる。聞く所によるとどうにも団員である九魔姫と喧嘩別れのような形になってしまったらしい。モンスターを置くのは嫌だと主張するロキとの間で口論になりファミリアを飛び出したとの事だ。
随分と珍しい事である。あの淑女を絵にかいたようなハイエルフが怒るなどそうある事でもないだろうに。旬の野菜がたっぷりと詰まったサラダをフォークで突き刺しながらヘファイストスはロキに対して相槌をうった。
まぁ数日に一度はホームに帰っているようだし、さほど心配する必要もないだろう。日々団員に対してセクハラじみた行為をするロキに対しては良いお灸となる筈である。ちなみにリヴェリアが家出を決意した一番の理由はロキが発した『そんな奴今すぐ捨てて焼き鳥にして来い』である事を彼女たちは知らない。
ふと興味が沸くヘファイストス。あの九魔姫がそこまで惚れ込むモンスターとは一体どういう生物なのだろうかと。顔を赤くしたまま牛肉のステーキをほおばるロキに対してヘファイストスは件のモンスターに対して尋ねてみた。
「それでそのモンスターってどんな生物なの?」
「えーと
「何それ怖い…」
「あと人間殺れそうな位デカい爪を持ってたなぁ」
「う、うーん…それはロキが正しいわね」
「せやろ!あんなモンスター気色悪いったらないわ」
賛同者が得られたのがうれしいのだろう、ロキはケラケラと笑みを浮かべると店員に対して追加で麦酒を頼み始めた。これで何杯目であろうか、彼女の酒勢は留まることを知らなかった。彼女は追加で来たジョッキを勢いよく飲み干して…
「うぷ…うぅ…」
今度は一転して顔を青くして嗚咽をしてしまっている神ロキ。無茶な飲み方をするからこうなるのだ。この店の外で護衛をしているであろうロキファミリアの団員に対して同情心を抱くヘファイストス。
どうやら顔では笑っているものの此度の騒動に随分とショックを受けているようだ。団長であるフィンはどこかへと外出することが増え、リヴェリアやティオナといったお気に入りの子供達がガネーシャファミリアに頻繁に出入りするようになったのだ。その理由が新種のモンスターだというのだからロキにとってはかなり複雑な心境なのであろう。
上半身を裸にしたまま腕相撲をし始めるドワーフとヒューマン達を尻目にヘファイストスは思考にふける。
「モンスターね」
ぽつりとつぶやくヘファイストス。彼女の心境としては神ロキの味方であった。むしろそんなモンスターを本拠地において飼育したいと言い出す方が悪いと彼女は思っていた。
このあたりは神と人間の価値観の違いとも言えるだろう。神々とは天上に住まうものであり生命を超越した存在であった、幾ら利便性があろうともモンスターという存在を無条件で受け入れられる筈もないのは当然であった。
あるいは神々だけが持つ独自の感性がそう判断したと言えるのかもしれない。チョコボがこの世界原産のモンスターではないという事実を。
チョコボは魔石を持たないモンスターである。それはこの世界の理から外れた存在であるとの証明でもあった。神々はこの世界の存在ではないチョコボを異物であるとみなし、魔石を持つモンスターからは敵であるとして攻撃を受けてしまう。現状のチョコボとはそんな非常にセンシティブな立場の上に成り立つ繊細な存在なのである。
居酒屋の夜は更けていく。二柱の神々はこのオラリオの話題を酒の肴にし酒杯を傾けていく。それはもうすぐ崩れてしまうであろうごく平穏な日常であった。空になった器だけが神々の心情とこの街の行く末を吐露しているかのようであった。