チョコボinオラトリア   作:葉隠 紅葉

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第7話

 戦場を静寂が包み込む。久方ぶりに感じる高揚感に瞳を閉じて酔いしれるリヴェリア。これほどまでに感情が高ぶったのは何時以来だろうか。彼女はチョコボを手で撫でつけながらそっと胸をなでおろした。

 

 チョコボにまたがったまま12階層の戦場を見回すリヴェリア。そんな彼女の元へアマゾネスの少女、ティオナが走り寄ってきた。どうやら彼女も一部始終を崖の上から観察してらしい。

 

 地面を駆けチョコボへと勢いよく抱き付くティオナ。彼女はもふもふの首筋に顔をうずめながらチョコボとリヴェリアを労った。むぎゅーと自身の頬と胸元をチョコボへと押し付けながら満面の笑みを浮かべる彼女。

 

「さっきの凄かったね!?リヴェリアもチョコボも格好良かったよ!」

 

「恰好良かったか、そうかそうか」

 

「チョコボってこんなに強かったんだね!私知らなかったよ」

 

「ふふっ…もっと褒めても良いんだぞ」

 

 腕を組みながらしたり顔でうなずくリヴェリア。クールビューティな外見を崩さないようにしているが内心ではドヤ顔を連発中である。そんな彼女の様子に気が付かない様子のティオナ。彼女は両手でわしゃわしゃとチョコボの顔を撫でまわしながらリヴェリアに対して詰め寄った。

 

「ね!次は私!私が乗りたい!」

 

「まぁ待て、チョコ坊が疲れているだろう」

 

「クエーッ!クエッ!」

 

「ほら、『僕は大丈夫、ティオナちゃんを乗せてあげたいな』って言ってるよ」

 

「勝手に意訳するな…あぁもうまったく」

 

 彼女はひょいと身軽に身体を宙へとしならせるとチョコボへと飛び乗った。リヴェリアとチョコボの首の間にすっぽりと収まる彼女。どうやら先ほどの戦いを見て興奮してしまったようだ。見たこともない戦い方をする強くて愛らしい生物という事が、アマゾネスである彼女の中の琴線に触れたのだろう。

 

 チョコボの背にまたがったティオナ。彼女は両足をチョコボの胴体へと器用に押し当てながら自身の上半身をチョコボの首元へとうずめる。体中に広がる独特の羽毛の感触にくすぐったそうにくすくすと笑い声をあげた。

 

「えへへ…乗り心地も最高だなぁ」

 

「あぁ鞍や手綱がなくても上々の乗り心地だな」

 

「気持ち良いねー…ん?」

 

 ふと言葉を止めるティオナ。彼女は顔をあげるとキョロキョロと周囲を見回した。彼女の行動に対してリヴェリアは疑問符を浮かべてしまう。ティオナはうーんとうなると背後にいるリヴェリアに対して問いかけた。

 

「ねぇリヴェリア、なんか変な匂いしない?」

 

「匂い?この子の事じゃなくてか」

 

「いやそうじゃなくて…なんか変な気配もするというか…」

 

「私は感じないが…」

 

「そっかー、なら調べてみようか…フィンーー!ちょっと散歩に行ってくるねー!」

 

 チョコボにまたがったまま大声を出すティオナ。崖の上にいる仲間、団長フィンに対して告げた言葉であるようだ。突如鳴り響いたティオナの言葉に対して手を振り上げて答えるフィン。どうやら許可は貰えたようだ。

 

 チョコボに命じてその匂いの元へと向かおうとするティオナ。一方、彼女と同じようにチョコボにまたがったままのリヴェリアはティオナに対してつい咎めるように口を出してしまう。タッタッタと勢いよく駆け出すチョコボの背に揺られながら彼女はティオナに対して問いかけた。

 

「それでティオナ、どうしてこんな事をしたんだ」

 

「ん…あっちの方から変な気配がするから」

 

「おいおい私達二人だけで行くのか」

 

「たぶん大丈夫、嫌な感じはしなかったから。むしろこの感じは…」

 

 そう言って押し黙ってしまうティオナ。どうやら違和感の正体を暴く事に対して集中し始めたらしい。五感を研ぎ澄ませて周囲を散策するティオナに対して思わずリヴェリアは溜息をつく。

 

 夢中になったティオナは止められない。アマゾネスらしく、その本性は意外と無鉄砲で猪突猛進なところがある、それがまた彼女自身の長所でもあるのだが。

 

 まぁいくら戦ったばかりとはいえこの中層帯で第一線級の冒険者である自身とティオナがいれば苦戦する事はないだろう。リヴェリアはティオナの肩に手を置きながら口頭でチョコボへと指示をくだした。

 

「チョコ坊もっと早くても良いぞ」

 

「…キュル?」

 

「安心しろ私達は一流の冒険者だ。どんな速度でも乗りこなして見せるさ」

 

「…クエーッ!!」

 

 むずむずとしている様子のチョコボの異変に気付いたリヴェリアは彼に対して優し気に言葉をかけた。どうやら図星であったらしい。チョコボは嬉し気に返事をすると徐々にその速度を上げていった。

 

 どうやら彼は全速力で走りたがっているようだ。ここ一ヶ月程ガネーシャファミリアの庭園の中や狭い調教施設の中で暮らしていた彼はストレスがたまっていたのだろう。翼を押し広げてリヴェリアの言葉にうなずくチョコボ。まるで子供のようだな、そう思いほほえまし気に笑みを浮かべるリヴェリア。そんな彼女の笑みは十秒後には消し飛んでしまっていた。

 

 

速い

あまりにも疾風(はや)くないか

 

 え、と動揺するリヴェリア。そんな彼女の困惑をよそにドンドンとスピードのギアを押し上げていくチョコボ。1速、2速、3速。あっという間に高速道路を疾走する自動車並の速度にまで加速してしまう。だが、まだまだ止まらない。

 

 毎秒ごとに更新されていく最高速度に対して内心で驚愕するリヴェリア。押し寄せる風圧に吹き飛ばされてしまいそうだ。そうしてチョコボはあっという間にトップギアへと到達する。

 

 その最高速度なんと時速105km.。この世界においては神々ですら到達したことのない、前人未踏の領域である。考えてみて欲しい。あのダンジョンの起伏にとんだ地形を、シートベルトも無しに走破するという恐怖を。たった一匹の獣の背に己の命を預ける恐ろしさを。

 

 端的に言えば震えるほど怖かった。リヴェリアはその恐怖故に思わずティオナの腰に全力でしがみついてしまう。

 

 一方のティオナ。彼女はこの恐怖の一匹デッドレースを楽しんでいるようだ。両手を挙げて足を宙へと突き出してヒャッホーと高らかに声をあげた。その様は遊園地にてジェットコースターを堪能している女子高生のようであり、実に微笑ましい光景であった。

 

 実際はそのジェットコースターにはシートベルトだなんて高尚なものはなく落馬すれば一般人なら死んでしまうような速度なのだが。

 

 第一線級の冒険者やチーターはそれ以上の速さで活動する事ができる。とはいえ勿論そのトップスピードを維持できる時間は数秒から数分程度であり、最高速度を維持し続ける事ができるチョコボとは比較にもならない。自分で動くのと、同じ速度の乗り物に騎乗するのはまた訳が違うだろう。

 

 乗り物と言えば馬車(時速10㎞~30km程度)をイメージするこの世界の住人にとっては正しく別次元の速さであった。このチョコボはまだまだ成長期である、彼の速度は今後更に増していく事だろう。

 

 

 ちなみにFF3では嘘か誠か、海面で最高時速120ノット(時速約220㎞)叩き出したチョコボもいるようだ。またFF7においてはチョコボ種の中でも最高希少価値(トップレア)を誇る海チョコボというチョコボ種がおり、彼らの最高時速は170kmを記録する。

 

 余談ではあるが『チョコボレーシング』においてチョコボは最強の魔獣であるバハムートを始めとした数々の猛者達と速度を競い合っていた。入りくねった鉱山やマグマ犇めく火山、天上に聳える空中庭園。果ては幻界といった柵が一切ない鬼畜染みたレースコースの中で速さの頂点を競い合っていたのである。

 

 トップレーサーも真っ青な程の見事なコーナリング性能を発揮するほどチョコボ(種)はそれだけ運転技術に優れていると言えるだろう。

 

 また『チョコボスタリオン』では数多のチョコボ達がレース会場にてその速さを競い合っていた。血統による配合、血のにじむような鍛錬の果てに恐ろしい程の逸材を次々に生み出した魔境とも言える世界線も存在する。

 

メテオブライアン

キスオブファイア

ポイゾナキャップ

スリプルボーイ

 

 いずれも化け物染みた速度と才能を持つ怪鳥達である。閑話休題、ともあれ何が言いたいとか言えばチョコボという種族がそれほど速さとセンスに長けたモンスターであるという事だ。

 

 血筋と環境が整えば、彼らは思うがままに能力を発揮させる。鍛えれば鍛えるほどその実力を増していくのがチョコボなのである。

 

 3分ばかりの走行の後、彼女達は目的地へとたどり着いた。キキーッと土煙をおこしながら急ブレーキをかけるチョコボ。そこは木々がまばらに生えた場所、枯れ果てた小さな森林地帯であった。

 

「大丈夫、リヴェリア?」

 

「だい…じょ…先へ…行ってろ…」

 

「う、うーん…何かあったら呼んでね」

 

 息も絶え絶えといった様子のリヴェリアに対して声をかけるティオナ。地面に倒れこむようにして呼吸を整えるリヴェリアとそんな彼女を気遣ってチョコボは地面へと腰を下ろし背もたれとなってあげていた。

 

 ティオナはひょいっとチョコボから飛び降りると目前の草むらを捜索し始めた。転々と生い茂る草むら、自身の腰元まで伸びた植物を払いのけながらティオナはその植物地帯の中を進んでいった。

 

 冒険者としての己の勘が告げる、違和感の正体はここにあると。近づくにつれて段々と濃くなっていく独特の匂いに対して反応しながらティオナは歩み続けた。そうして少しばかり歩いた先にそこはあった。

 

「んー…うん?」

 

 周囲を生い茂った草に囲まれたその空間。少しばかり開けた場所へと出た彼女はそっと辺りを確認する。地肌となる地面がむき出しになった数Mばかりの円(サークル)状の空間。その中央になにやらもぞもぞとうごめくものがいた。

 

「あれ何だろう」

 

 目を凝らしてそっとその空間の中央を見つめてみる。瞳を狭めて見つめる事数秒、その正体にはっきりと気が付いたティオナは目を見開いて驚愕した。確かに特徴的な匂いはしていたがまさか…そんな。彼女はその場にしゃがみ込んでその小さく愛らしい生物に思わず見入ってしまう。

 

間違いない

この独特の匂いは絶対に…

 

 彼女はそっと両手でその生物を掬いとる。体長わずか7cmにも満たないその雛達はピヨピヨと可愛らしく鳴きながら彼女の手に自身の体をこすりつけた。

 

それは雛チョコボ

卵から孵ったばかりの雛チョコボ達であった。

 

 4体の雛チョコボ達はピーピーと鳴きながらまるで餌をねだるようにティオナを見上げているのであった。

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