チョコボinオラトリア   作:葉隠 紅葉

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第1,5章
第8話


 時刻は正午、太陽が頂点に達しようかという時間である。ギルド職員が普段から利用しているその待機所に設置された窓枠からはサンサンと日光が照らし出されていた。木製の簡易的な机と椅子がおかれた空間にその二人の女性はいる。桃色の頭髪をした可愛らしい女性はエイナに対してふと問いかけてみた。

 

「ねぇねぇあの噂聞いた?」

 

「あの噂?」

 

「ロキファミリアの奇行についてだよ!」

 

 昼食を食べる手を止めるエイナ。彼女は自身に語り掛けてきた友人でもある女性職員を思わず見返してしまう。貴重なお昼休みを噂話でつぶしたくない、そう思うもののつい耳を傾けてしまうのはやはり女の性というものなのかもしれない。

 

 そんなエイナの様子に気を良くしたのかその女性職員、ミイシャ・フロットは話を続けた。ギルド職員用の待機所に設置された椅子をひきながら彼女の隣へと腰かける。そうして彼女は熱くエイナに対して語り掛けた。

 

「もう最近じゃギルド中の噂になってるよ!」

 

「確かにここ最近のロキファミリアは様子がおかしいよね」

 

「そうでしょう!あれは絶対良からぬ事を企んでるね!」

 

「ちょ、ちょっと声が大きいってば!」

 

 ニヒヒと笑みを浮かべながら語るミイシャに対してエイナは手でそっと彼女を制する。大派閥でもあるロキファミリアの悪評など誰かに聞かれたら面倒なことになってしまうだろう。

 

 自身が食べているサンドイッチをテーブルへと置きながらエイナはそっと席をたった。今日の話は長くなりそうだ、壁に作られた魔石給湯器からお湯をだしながら彼女のためにお茶を用意してあげるエイナ。つい口が軽くなってしまうのは間違いなくミイシャの悪性と言えるだろう。

 

 とはいえミイシャの言う事も尤もである。特に最近のロキファミリアの行動に関して他冒険者たちは非常に訝しんでいる。否、悪感情すら抱いているだろう。それはまぎれもなく奇怪な行動であり、皆が理解できないでいたのだから。

 

逆行

 

 ロキファミリアの奇抜な行動を一言で言い表すならばそれに尽きるだろう。12階層に連日でかけたり、突如40階層へ出かけたりする。かと思えば1~10階層の間で野営を行ったりと彼らの行動に規則性が見いだせなかったのだ。

 

 特にここ数日では、彼らは上層から再びダンジョンアタックを敢行しているようであった。それも食糧庫や隅の小部屋、ゴブリンの巣窟など普段冒険者達が調べないようなダンジョンの端まで。文字通り隅から隅まですべてを隈なく捜索しているようであるらしい。

 

 これは常軌を逸した行動であると言えた。上層など多少の弱小モンスターがいる程度である、彼らが積極的に狙うような旨味のある資源やドロップアイテムなど存在しない筈である。しかもそれをファミリア等級Sランクのロキファミリアが貴重な時間や物資を浪費してまで行っているのだから。下層帯まで到達した熟練の冒険者達が今更上層を攻略するメリットなど皆無に等しい。

 

 冒険者達の間では団長フィン・ディムナが狂ってしまったのだと笑い飛ばすものまでいる。実際、ロキファミリアに所属しているほぼ全ての団員が連日ダンジョンへと押しかけているのだから十分狂気的な行動であると言えた。エイナはコップに入れた紅茶を口に含みながらミイシャの言葉に同意した。

 

「みんな噂してるよね」

 

「うん、上層と中層でロキファミリアを見かける事が異常に増えたって」

 

「色んな冒険者達から評判になっているものね…悪い意味でだけど」

 

 各ファミリアの冒険者はギルドに対してダンジョン攻略に関する報告をする義務はない。とは言えドロップアイテムの売却や特定モンスターの魔石の売買を売却所で行っていれば嫌でも店舗上の記録には残ってしまうものだ。各階層からの目撃証言もあれば自ずと彼らの奇行も目立ってしまうというものである。

 

 ましてやあんなものを持ち込んでいるのだから、エイナはサンドイッチをもぐもぐと咀嚼しながらミイシャと談笑する。

 

ロキファミリアの第二の奇行

それは巨大な荷車の持ち込みである

 

 少しばかり前からロキファミリアは迷宮内に巨大なカーゴを持ち込むようになったのだ。それも高さ3mにも匹敵し、鉄格子がはめられたカーゴである。それは巨大な豆腐のような形をした檻そのものであった。冒険者が数人がかりで押さなければ動かないような大きくて重厚な造りの荷車。

 

 しかもその荷車にはすっぽりと分厚い遮光カーテンが2重にかけられており中身が絶対に見えない仕様になっているのである。ここ最近、彼らはダンジョン攻略の際に必ずその巨大なカーゴを持ち込むようになったのである。

 

 ガラガラと巨大な荷車を運ぶ彼らの姿は嫌でも人目に付く。ましてや、時折()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、ガサゴソと物音がするというのだから。

 

 迷宮内とは奪い合いである。モンスターを倒した際の経験値・魔石・ドロップアイテム。それらが冒険者たちの糧となる以上それらを巡っての騒動が勃発するのは冒険者達の常であると言えた。

 

 そんな中ロキファミリアのような強豪が上層にいるのである。ただそれだけで自身たちの取り分が減ってしまうとあっては他ファミリアが不満を持つのは当然であるとも言えた。それにしてもあの荷車の中身は何なのだろうか。いやそれ以上に…

 

「でも気になるなぁ」

 

「中身気になるよね」

 

「それもそうだけど、そんな物をどうごまかしてるのかの方が気になるよ」

 

 ミイシャに問いかけに答えるエイナ。エイナは口元に手を当てながら小首をかしげる。いつのまにか、先ほど淹れていた紅茶はすっかりと冷め切ってしまっていた。

 

 ロキファミリアは何かを荷運びしている、それは確かだろう。だがその中身については誰も知らない、知る事が出来ないでいたのである。ダンジョン内で彼らの運ぶ荷物の中身を見たものが誰もいないのだから彼らの秘密主義は相当な物だろう。

 

 あれだけ巨大な物なのだから何かを入れたり出したり、ましてや売買したりすれば絶対に痕跡が残る筈である。だというのに、このオラリオでは未だ誰もがあの荷車の中身を知る事が出来ないでいた。噂では中身は全てロキファミリアが購入したオラリオ城壁外の土地へと運ばれているらしい。一体外の土地で何をしているのだろうか。

 

 一度ギルドの受付所で誰かがその中身を覗こうと試みた。Lv2という能力を生かして無理やり中身をこじ開けようとした冒険者は…その場で護衛にあたっていたロキファミリアのLv4に返り討ちにあっていた。歯を砕かれ、腕があらぬ方向へと折れ曲がってしまったその冒険者に対してかの団員はこう答えたのだ。

 

『この中身はロキファミリアの所有財産である。中身を覗こうとする行為は我がファミリアへの敵対行動とみなす』と

 

 その一件以来だれもが手を出す事が出来ないでいた。エイナ自身も一度、遠回しに中身について尋ねてみた事があるのだが「中身については既にギルド職員には通達済みである」として一向に話も聞いて貰えなかったのである。

 

「とんでもないお宝だよ!きっと外で換金してるんだ」

 

「あそこまでして隠す必要あるのかなぁ」

 

「じゃあ特殊な武器とか麻薬とか?ほら、ウラの世界に売りさばいているんだよ」

 

「1~10階層でそんな物あるはずないでしょ」

 

「じゃあ大穴狙いでモンスター!…ってそりゃないか」

 

 ミイシャ自身もその可能性はないものであると感じたらしい。彼女はタハハと笑みを浮かべながら楽しそうに弁当箱の中身のソーセージにかぶりつく。

 

 調教スキルを所持していないであろうロキファミリアがモンスターを捕まえる事ができる筈もない。ましてや上層帯である。ここ最近は新しいドロップアイテムや()()()()()()()()()()()()()()()調()()()()()()()()()()()()のだからそんなものがあるとは到底思えなかった。

 

「うー気になるなぁ」

 

「まぁ気持ちは分かるけど」

 

「だってさ絶対おかしいよ!エイナだってそう思うでしょ」

 

「うーん…」

 

「急にガネーシャファミリアも同じことをしだすだなんてさ!」

 

 頭髪をガシガシとかいてうめき声をあげるミイシャに対して思わず力強く同意してしまうエイナ。彼女の言うとおりだ、ここ数日は何故かガネーシャファミリアまでこの奇行とも言える行為をし始めたのである。つまり、彼らも同様に巨大な檻付きカーゴもって頻繁にダンジョンに出入りし始めたのだ。

 

オラリオ最大派閥のロキファミリア

治安維持を司るガネーシャファミリア

 

 ファミリア等級Sランクの二大ファミリアの奇行について、現在では様々な派閥が疑問に思っているらしい。彼らは一体何をしているのかと、闇界隈や情報屋まで動き出しているという噂まである。それだけ彼らの行動がオラリオに住まう人間達にとっては奇妙で異様な行動に思えたのである。

 

 それにしても何故だろう、エイナは自身の隣でうんうんと唸りながら思考にふける友人を見つめながら疑問に思う。ここまで噂になり、人々に風聞されているのだ。なのにどうして…

 

「どうして情報が一切出てこないのかしら」

 

「その話ならアタシも聞いた事があるぜ」

 

 突如扉の奥から声がする。びくりと驚いて飛び上がり、反射的に振り返ってしまうエイナ。するとそこにはギルド受付嬢であるロゼがいた。狼人でもある彼女はどうやら扉の向こうから話が聞こえてしまったらしい。

 

 鋭い目つき、燃え上がるような紅い髪と比例してまるで小動物のように可愛らしい耳をひくひくと動かしながら彼女はエイナ達に対して言葉を続ける。

 

「例の噂についてならその日当番の奴に直接聞いたぜ」

 

「その日の当番って…奇妙な行動をするようになった日の事ですか?」

 

「あぁ、正確には9日前の事らしいが。アタシも気になって聞いてみたんだ」

 

 エイナの返答に対して苦い顔をするロゼ。彼女はエイナから貰った特選紅茶をがぶがぶと飲み干しながらそう言った。一方のミイシャは余程話の続きが気になったのだろう。ロゼに対して強い口調で続きを促した。

 

「それでそれで!どうだったの!」

 

「当番だった奴らに何か知ってるんだろって詰め寄ったんだ。そうしたらさ」

 

「そしたら…?」

 

「何も聞かないでくれ、ギルド長から最上級命令されているってさ」

 

「…嘘でしょ?」

 

 ロゼの言葉に思わずエイナも息を呑んでしまう。ギルド長による最上級命令、それはこのギルドにおいては最優先されなければならない重大事項でもある。もしもこの命令に違反したら強制退職はおろか親族まで処罰の対象となる事もある。それ位ギルド職員にとっては非常に重い指示命令であると言えた。

 

 つまりはロキファミリアとガネーシャファミリアの奇妙な行動。それについてギルド長、ひいては神ウラノスが認知し支援しているという事ではなかろうか。ロゼの想定外の答えにエイナは額に汗を浮かべてしまう。

 

 どうやら一介の個人が軽々しく首を突っ込んではいけない領域の話であるらしい。まさか興味本位での噂がここまでとんでもない代物だったとは、ミイシャもまた顔を青くしながら言葉を紡いだ。

 

「もしかして私達ものすごくまずい話をしてる?」

 

「あぁ消されたくなかったらその噂にはもう関わらない方がいいぜ」

 

「……」

 

「なんてな、冗談さ冗談」

 

 笑顔で肩を叩いてくる狼人の言葉にミイシャは固まったように乾いた笑みを浮かべるしかなかった。

 

 

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