Infinit Fall :Re   作:刀の切れ味

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前アカウントが使えなくなってしまったので、再投稿&加筆修正です。
相変わらずマイナーなネタなので、まったり読んでいただければ幸いです

感想、ご指摘は大歓迎です!


Log.1 試行#空間転移

 絶え間なく響き渡る地鳴りと爆音、衝撃によって故障してしまったのかヘルメットの画面にはザラザラと砂嵐が走っている。コクピット内の機器も、どれも機能が停止しかけていた。

 意識も朦朧としていて、鎮痛剤も殆ど効いていないようだ。それも当然か、何故ならへしゃげたコクピットに体が半分ほど潰されてしまっているのだから。

 しかし、この相棒がいなければ俺はとっくにこの世からおさらばしていた。まだ生きていられるのもこいつのおかげだ。

 

「……パイロット、大丈夫ですか?」

 

 ノイズ混じりの、そして無機質な女性の声が、壊れかけのヘルメットの無線から聞こえてくる。ああ、俺の相棒の声だ、またこいつの声が聞けてよかった。

 

「大丈夫だよ、俺はまだ生きてっ……ゲホッ……!」

 

 口から吐き出された血がヘルメット内の画面を汚す。しかし、俺は声を振り絞ってまだ生きてることを俺の大切な相棒へ、バンガード級タイタン『SDー6853』へ伝える。

 辺境宙域である『フロンティア』を征服せんとする巨大な軍産複合体IMC、それに反抗するために結成されたレジスタンスのミリシア。俺はミリシア専属の兵士として長らくIMCと戦ってきた。

 IMCとミリシアの戦いは俺がガキのころから続いているほど長期化していたが、圧倒的物量を誇るIMCに対して俺たちミリシアは善戦してはいたほうだった。しかし、ついに業を煮やしたIMCは、フォールド・ウェポンと呼ばれる巨大兵器を用いてミリシアの本拠地である惑星ハーモニーの破壊を目論んだ。俺たちはそれを阻止するために、IMCの軍事基地がある惑星タイフォンへと攻撃を仕掛けていた。

 俺はミリシア特殊偵察中隊SRS、『特攻兵団』のパイロットとして、この作戦に参加していたが……結果はこのザマだ。

 SRS含むミリシア第9艦隊がタイフォンへ向かう途中でIMCに奇襲されたが、なんとか相棒と生き延びた。散り散りになった他の仲間たちと合流するために奮闘したときも。フォールド・ウェポンの動力源である『アーク』搬送を防ぐためにIMCの航空基地を攻めた時も。俺と相棒はなんとか死地を切り抜けた。

 だが、ついに悪運も尽きたようだ。アークが装填されたフォールド・ウェポンを文字通りの"特攻"で破壊しようとしたが、その前に俺と相棒の限界が訪れた。

 アークを警護していたIMCの雇った傭兵部隊『エイペックス・プレデターズ』、奴らは強かった。俺も相棒も結局は及ばず、こうして死にかけの蟻のように地べたに這いつくばっているのだ。

 

「機体損傷90%、基幹システムに深刻な障害を検知。慣性制御を再設定……エラー……視覚情報に多量のノイズを検出、各情報伝達に異常あり……申し訳ありません、私はもう任務を遂行することができません」

 

「いや、大丈夫さ……何より、俺がもう限界さ……」

 

 機体を大きく軋ませながら動こうとする相棒、しかし、もう立ち上がることすらできない。まあ、あれだけ徹底的にやられれば仕方ない。

 

『こちら6-4! フォールド・ウェポンが発射態勢に入っている! だめだ……止められない……!』

 

『ありったけの火力を集中させて! なんとして阻止しなければ……! クーパー! BT! 応答してちょうだい!』

 

 ヘルメットの無線から聞こえる友軍の悲痛な通信、そこで名を呼ばれていたクーパーというのは……ラスティモーサ大尉からバンガード級タイタンの『BT-7274』を受け継いだ期待の新人のことか。

 一度は『エイペックス・プレデターズ』の連中に捕まったと聞いたが、そう簡単にくたばるタマではなかったらしい。もしかしたら、あいつらならこの絶望的な状況を変えてくれるかもしれない。

 だが、俺はそんなルーキーの活躍をもう見ることもできそうにない。悪いが、一足先にあの世で待ってるとしよう。ルーキーの活躍はしっかり大尉に報告しとかなきゃな。

 

(あの大尉があれだけ入れ込むんだから、それはもう才能の塊みたいな奴だったんだろう。アンダーソン少佐だって一目置いていたもんなぁ……)

 

 汎用人型兵器である『タイタン』とその『パイロット』。パイロットになるには、操縦技術はもちろん、専用装備であるジャンプキットとパルクール能力を駆使した三次元戦闘、あらゆる装備への精通、そして強靭な意志が求められる。

 俺は凡庸なパイロットだったが、ラスティモーサ大尉は超一流のパイロットだった。その大尉が見込んだルーキーだ、きっとなんとかしてくれる。

 

「パイロット、心拍数が著しく低下しています。鎮痛剤の服用、および傷口の止血を提唱します。生存率が0.0001%ほど上昇するでしょう」

 

「ははっ……ゲホッ、ゲホッ……殆ど0だな?」

 

「それでも少し望みがあります」

 

 頑なに俺を生かそうと、ひしゃげたコクピットを開き傷口を治療させようとする相棒。思えば、随分と長くこいつと一緒に戦場を駆けまわったものだ。

 だからこそ、死ぬときがこいつと一緒でよかった。何度も死線をくぐり抜けた大切な相棒、どちらかだけが生き残ってしまうなんてあんまりだ。生きるも死ぬも一緒、ってな? 

 

「……SD-6853……俺がここまで来られたのは、お前のおかげだ……礼を言うよ、相棒……」

 

「……私は貴方のタイタンです。私は貴方を──マ、守……任務を遂行することがぎぎ義務……す──私は──プロト、コル3を……」

 

 機能が停止しかけているのか、途切れ途切れに言葉を紡ぐ俺の相棒。俺と同じで、話すのもやっとみたいだ。

 バンガード級タイタンに搭載されたAIに課せられた三つのプロトコル。その三つ目はパイロットの保護、相棒はそれを十二分に実行してくれた。

 

「強力な──波を検知……ークの……暴──と推測。3、3、30秒後に……発を引き……」

 

 相棒の装甲越しに伝わる大きな振動、どうやらフォールド・ウェポンのアークに何か起きているようだ。それは発射の予兆なのか、それとも……? 

 願わくは、それがIMCのクソ共に吠え面をかかせてくれるような、故郷のフロンティアを守るような、そんな都合のいい方へと転んでくれればいいんだがな。

 

「アークが……爆──した場合……半径──㎞が……壊します……」

 

(そうかい……この上なく派手にあの世へ行けそうだな……)

 

「──テム……再起動……全動力をフェ──フェーズダッシュに動員……」

 

「おい、相棒……?」

 

「これは……貴方を──……を、も、最も高く引き……ために、私が導き出した最適解です。まもなく、暴走したアークが爆発し、惑星タイフォンの5分の1が分子レベルで崩壊します。貴方を助けるには、この方法しかないでしょう」

 

 相棒がミシミシと歪んだ体に鞭を奮って動かす。コクピットに押しつぶされていた部分が嫌な音を立ててねじ込まれていき、喉の奥からまたもや血が逆流してきた。

 

「あ、相棒……お前……⁉︎」

 

「少しの辛抱です……成功率は同じく0.0001%、ですが、どうか私を……」

 

 もはや限界を超えて立ち上がる相棒。背部のスラスターに、再び火が灯り、相棒は最後の力を振り絞って前に大きく踏み出した。

 

「信じて!」

 

 相棒の言葉と同時に、凄まじい衝撃が走り、コクピット越しに見えるほどの閃光が迸る。途切れかけだった俺の視界は光の中に飲み込まれていき、それとは裏腹に意識は痛みも苦しみも感じることのない暗闇へと落ちていった。

 確かな死の実感、恐怖はない。それはきっと、最後まで俺と共にいてくれた相棒のおかげだ。しかし不思議なことに、それでも相棒は走り続けていた。

 そのボロボロの体のどこから力が湧いてくるのか、だが確かに、相棒は光の中を走り続けていたのだ。

 

 

 ──

 

 

「……どうなってんだ、こりゃ……」

 

 気が付けば、頭上に広がるのは真っ白な天井。しかも、この上なく心地よいベッドの上に寝かせられている。これは夢か? 夢なのか? それともあの世か? 

 体を起こしてみれば、所々に包帯が巻かれていて治療された跡がある。あれだけぐちゃぐちゃに潰されていたのに、俺は助かったのだろうか。

 

(ああ……だめだ、訳がわからん。目が覚めたら謎の部屋で寝かされていて、死にかけるほどだった傷は殆ど塞がってる。一体何が起きた? あのアークの爆発の中で……俺の相棒は何をした?)

 

 ぼんやりとだが覚えている。アークが爆発し眩い閃光に辺りが包まれた時、相棒は俺にこう言った。『信じて』と。

 兎にも角にも俺は生きているようだ。ほおを抓れば確かな痛みがある。これは夢なんかじゃない、現実なのだ。

 俺はベッドから起き上がりこの部屋唯一の扉に近づくと、鍵も何もかかってなかったのか扉は勝手に開いた。素足のまま部屋を出れば、外は仄暗い陰鬱な廊下が広がっていた。

 あちこちに機械やら何やらが散乱していて、危うく散らばった部品を踏んづけてしまいそうだ。俺は大きく深呼吸すると静かに意識を研ぎ澄ませる。自分でも驚くほど頭はすっきりとしているが、まったく油断はできない。

 

(なんだここは……この散らばっている機械類は……?)

 

 転がっている一つを拾い上げてみると、それは小型のドローンのようなものだった。IMCが使用していた無人偵察機にも似ている気がする。

 ドローンを地面に放り投げて廊下の前後を見渡せば、後ろはまるで何かに潰されてしまったかのように崩れて通れなくなっていた。となれば、反対側に進むしかないか。

 

(あのドローン、型番も何も書いてなかったな。ハンドメイドか? となれば、ソレを作った奴がいるはずだが)

 

 少なくともIMCやミリシアが使用するドローンとは、まるっきり構造が違う。また異なる技術が用いられているのだろう。

 そんなことを考えながら歩みを進めていると、すぐに廊下は終わりを告げた。代わりに、何やらウサギのマークが綴られた扉があった。

 

「何じゃこりゃ……」

 

 あまりにも場違いなデザインに思わず肩透かしを食らうが、何やら扉の向こうから気配を感じる。もしかすれば誰かいるのかもしれない。

 どちらにせよ、ぼんやりとしていても仕方がない。俺は意を決してそのウサギの扉を押し開けた。

 

「……うわぁ……」

 

 中は……それはまた凄惨は光景だった。スクラップや作りかけの機械が山のように積み上げられ、大量のディスプレイに映し出された大量の情報の洪水、見てるだけで頭がどうにかなりそうだ。

 そんな異常ともいえる部屋の中で、ディスプレイに向かってコンソールに打ち込み続ける後ろ姿が一つ。体格からして女性のようだが、頭になぜかウサギのような耳が……

 

「んん? あ、ようやく目が覚めたのかな?」

 

 こちらに気付いたのか、女性はぐるりとこちらに振り向く。俺は目に飛び込んできたその女性の容姿に、思わず体を強張らせてしまった。

 恐ろしいくらいに整った素顔に、艶やかな長い髪。そして、見る男全てを魅了するような見事なプロポーション。服装こそ奇抜ではあるが、まさに絶世の美女ともいうべきその容姿を前に俺はなんとも間抜けな面を晒してしまった。

 

「なにジロジロ見てるんだい。あ、もしかして束さんのナイスバディに見惚れちゃったのかなぁ?」

 

「……あ、いや……すまん……俺を治療してくれたのは貴女か?」

 

「私が作ったロボットが治療したから……まあ、私が治療したことになるのかな」

 

「かたじけない、恩に着る」

 

「……あ、お礼とかどうでもいいから。さっそくだけど、聞きたいことがあるのさ」

 

 うさ耳の女性が手元のコンソールを操作すると、部屋の壁が大きな音を立てて動き始める。まるで秘密基地のような大掛かりな仕掛けだ。

 しかし、大きく開いた壁の向こうにあったものを見て、俺はまたもや間抜けな面を晒してしまう。なぜなら、壁の向こうは格納庫のようになっていて、そこには……

 

「相棒っ……⁉︎」

 

 ボロボロになった俺の相棒、バンガード級タイタン『SDー6853』がハンガーに吊るされていたのだから。

 

「この子と共に世界の壁を超えて来た君は……一体何者かな?」

 

 新しいおもちゃを見つけた子供のように、目を輝かせるうさ耳の女性。だが、俺は相棒の方が気がかりで仕方なかった。

 俺はスクラップの山を乗り越え、相棒へと近づく。相棒の脚部は完全に破損し、辛うじて残った右腕は僅かばかりのコードで繋がっている状態だ。そして何より、タイタンの心臓ともいえるカメラアイ、つまりシアキットが取り付けられていなかった。

 

「相棒……相棒! くそっ……おい、こいつにはシアキットが……カメラアイが取り付けられていたはずだ! それをどこにやった⁉︎」

 

「あーもう、うるさいなぁ……なに、シアキットっていうの? それならそこにあるじゃん」

 

 うさ耳の女性が指をさした方を見れば、いくつものコードに繋がれたシアキットが台座の上に鎮座していた。しかし、いつもなら明るい緑光を放つシアキットはその輝きを失っていた。

 

「中身のデータは諸々見させてもらったよ、殆ど破損してたけど。いやぁ、まさか時空を超えてこんなものがやってくるなんて、流石の束さんも思いもしなかったなー」

 

 時空を超えて? いや、そうか。少しずつ話が飲み込めてきた。アークが爆発したあの時、相棒が最後の力を振り絞って発動した『フェーズダッシュ』、それが全ての原因に違いない。

 タイタンの特殊な装備である『フェーズダッシュ』は、一時的に亜空間転移することができる。そして、アークの凄まじいエネルギーは時空を歪め、時の流れにすら干渉するという。

 そんな中で無理矢理に亜空間に転移した結果、俺たちがいたはずの惑星タイフォンからはるか離れた、いや別次元の宇宙にまで飛ばされてしまったのか。

 

(生存率0.0001%か……どうやらまだ悪運尽きてなかったみたいだ。でも……お前は……)

 

 あの様子じゃ、シアキットも殆ど破損して、データは失われてしまっているようだ。そうなれば、相棒はもう帰ってこないかもしれない。

 

「ねえ、落ち込む前にさ、私の質問に答えてよ。まずは君から話が聞きたいんだって。内容次第では……それの破損したデータを復元してあげるよ」

 

「な、何⁉︎ 本当か⁉︎ そんなことができるのか!」

 

「ふふん、私を誰だと思ってるのさ。世界最高の頭脳を持つ天災……もとい天才の篠ノ之 束さんだよ? それくらい余裕だよ」

 

 篠ノ之 束と名乗ったうさ耳の女性は、その豊かな胸を張ってドヤ顔を見せつけてくる。願ってもいない申し出だ、身の上話なら幾らでもしてやるさ。

 俺は急かす気持ちを抑えながら、束(の作ったであろうロボット)が用意した椅子に座った。

 

「まだ名乗ってなかったな。俺は……レイ。ミリシア特殊偵察中隊SRS『特攻兵団』所属のパイロットで、階級は少尉だ。君の名前は束、だったか?」

 

「そんな名前とか肩書きはどーでもいいから。はやく束さんを満足させられるような面白い話をしてよ」

 

「お、おう……」

 

 俺は未知なる世界に目を輝かせる束に、自身がミリシアの兵士になり、相棒とともに戦場を駆け抜けた日々を話してやった。

 束はどちらかというと俺が戦っていた話より、ミリシアやIMCが使う戦艦やワープ技術といった知識に対して興味を持っているようだった。だが、子供みたいに楽しげに話を聞いてくれるのは悪い気はしなかった。

 

 

 ──

 

 

 どれくらい時間がかかったかは分からないが、俺は束にできる限りの話をしてやった。俺が話し終わった後、束は少し満足そうな表情を浮かべて、すごい勢いでコンソールを操作し始めていた。

 いわく、インスピレーションを刺激してくれたお礼にシアキットのデータは復元してあげる、とのことだ。もちろん、データ全て束に洗いざらい漁られてからだろうが。

 データが復元すれば、相棒にまた会えるかもしれない。他人からしたら相棒はただの機械、ただのAIでしかないのかもしれないが、俺にとってなによりも大切な仲間だ。直してくれるというのならそれに望みをかけたい。

 

(相棒は本当に直るのだろうか。それに、俺が紛れ込んでしまったこの世界は……)

 

 束が作業している間、束は少しずつこの世界のことを話してくれた。束の偏見がだいぶ混じっていた気がするが、ここがどういう世界か、束が世界にとってどういう存在かはよく分かった。

 ここはなんと、俺がいたフロンティア星系から遠くかけ離れた地球なのだという。ワープ技術も巨大な宇宙戦艦もないので、俺が知っている地球よりは根本的に異なるようだ。いや、この宇宙そのものが俺のいた宇宙とはまた別物なのだろう。

 ただこの世界は、少し異常だった。篠ノ之 束という、俺のいた世界でも類い稀に見ない天才である彼女一人のせいで、世界は大分在り方を変えられてしまったようだ。

 彼女が作り出した最強の兵器、『インフィニット・ストラトス』。既存の兵器を大きく上回るそれは、世界の戦場をあっさりと変えてしまったのだ。そのスペックは束に見せてもらったが、バンガード級タイタンでも歯が立たないであろう圧倒的な強さだった。兵器として一つの完成形と言っても過言じゃない。

 ただ一つ、欠点があるとすれば、ISを扱えるのは女性だけということだ。なぜそんな機能を付けたのか束に聞いたが、束は答えてくれなかった。

 とにかく、女性にしか扱えないISの存在のせいで、世界は極端な女尊男卑な社会になっているそうだ。男は肩身の狭い世の中ということだ。

 

「IS、ね……まあ、タイタンのパイロットよりかは適合者の選出に困らなそうだな」

 

「君の言うパイロットの方もかなりおかしいと思うんだけどね。一人前になる前に、殆どが死んじゃうってさ」

 

「しょうがないだろ、パイロットは兵士なんだ。タイタン抜きでも一個中隊ぐらいは手玉に取れるくらいの強さがなきゃ生き残れん。俺だって10年以上のトレーニングを積んだんだぜ?」

 

「10年? ふーん、10年ねぇ」

 

「なんだよ……そんな歳に見えないってか?」

 

 束は手元の機器をいじる手は止めずに、俺に手鏡を放り投げてくる。それを受け取り鏡に自分を映してみると……そこには随分と若い、いや成人もしていないような幼い自分の顔が映っていた。

 

「はぁ……⁉︎俺……若返ってる……⁉︎」

 

「年齢的には15~17歳くらいかな、よかったね」

 

 改めて頰を抓ってみるが、やはり鋭い痛みが走る。やっぱり夢じゃないみたいだ……若返るなんて夢みたいだが。

 

「……ま、特に問題はないか……で、君は一体何が目的なんだ? シアキットのデータが欲しいなら、わざわざ復元しなくとも好きなように抜き取ってしまえばいいじゃないか」

 

「勿論、ただで直してあげるわけないじゃん。このタイタンはね、束さんが腕によりをかけて最っ高のISにしてあげる。そして、君を傭兵として雇ってあげるよ」

 

「傭兵? ……っていうかISに作り変えるだと?」

 

「ふっふっふっ……ちょうど人手が欲しいかも、って思ってたのさ。どうせ行くあてもないんでしょ? だったら、せっかくのその手腕を束さんのために発揮して欲しいなー。君の相棒くんと一緒にね」

 

 一瞬どうすべきか迷うが、答えは明白だった。俺はそもそもここにいるべき人間ではない。元の世界に帰れるかもわからない以上、彼女の申し出は非常にありがたい。

 それにこれを断れば、シアキットを返してもらえないどころか俺はこのまま見知らぬ世界に放り出されてしまうかも。まあ、束が怪我を治療してくれなかったら結局は死んでいたのだ。ここは恩を返すことも含めて、YESと返答するしかない。

 

「うんうん、君ならそう言ってくれると思ってたよ。じゃあ、しばらく君は自由にしてていいよ。データの復元、タイタンの改修が終わったら呼ぶから」

 

 そう言って作業に打ち込む束の周りに、どこから取り出したのか巨大なスパナやらドリルやらが現れる。ボロボロの相棒に鞭打つようなことはやめてくれ、と言いかけたが、ああ見えてちゃんと丁寧に扱っているんだろう。

 それにしてもISに改修するだって? さっき、ISは女性にしか扱えないって言ってたじゃないか。それとも、あくまでISに近づけるってだけで、元はタイタンと同じなのだろうか。

 

(タイタンにもシールド防御はあるが、ISのシールドバリアには遠く及ばない。機動力もISの方がずっと優れている。いい勝負なのは火力ぐらい……一体、どうするつもりなのだろうか)

 

 束に聞いてみたいことは色々あるが、あまり作業の邪魔をしても怒られそうだ。とりあえず、今は怪我を完治させることに集中するとしよう。

 黙々と作業を続ける束を尻目に部屋を後にし、俺は自分が寝かされていた部屋に戻ってベッドに腰をかける。しかしやはり、自分があの状況から生き残り別次元の世界に来てしまったことに対して、未だ現実味が持てない。

 あの後、ミリシアとIMCの戦いはどうなったのだろうか? アークが暴走したということは、IMCのフォールド・ウェポンによる攻撃は失敗したということだろうか。

 どちらにせよ、故郷の惑星ハーモニーが無事ならそれでいい。故郷といっても、俺は親の名前も顔も知らんがな。それでも、愛着ぐらいは湧いていた。

 

(やっぱり、パイロットとして戦う以外に、俺の生き方はないのかもしれないな)

 

 フロンティアからは遠く離れたこの異世界の地球。IMCのような存在がなくとも、やはり争いは絶えないようだ。きっと俺はまた戦場に身を投じることになるのだろう。

 束はあんなのでも命の恩人だ、相棒まで直してくれると言っている。あいつが、俺にパイロットとして力を振るえというのなら、俺はそれに従おう。

 俺はそう心に決めると、ベッドの上に横になり目を閉じる。慣れない長話をしたせいか、俺の意識はすぐに微睡みの中へと滑り込んでいった。




ストックはいっぱいあるので、ドンドン投稿していきます

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