Infinit Fall :Re   作:刀の切れ味

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 ○ローニン級
 軽量級のタイタン。その身軽さとブロードソードを組み合わせた近接戦闘を展開する。ヒット&アウェイのスペシャリスト。
 フェーズシフトによる疑似的な瞬間移動と、ソードコアによる高電圧の電撃を交えた剣戟は非常に強力。




Log.11 生活環境への適応率…50% ①

 銃口を目の前に突きつけられる。誰だってそんなことをされるのは嫌だ、いい気分になるはずがない。例えそれが分厚い装甲越しだったとしても、だ。

 そう、今の俺は現在進行形でリーゼの装甲越しに銃口を突きつけられている。何を隠そう、相手はセシリア・オルコット。彼女の専用機たる青いIS『ブルー・ティアーズ』に大きなスナイパーライフルを突きつけられているのだ。

 

「……納得いきませんわ! いくら特殊なISとはいえ、こうも手玉に取られるなんて……もう一度勝負ですわ!」

 

「あ、ああ、分かった。分かったからその物騒なものを下げてくれないか」

 

 何故こうなったのか、まずはそれを説明しなくちゃいけないだろう。俺がここIS学園に転入してから一週間、それはもう怒涛のような一週間だった。

 ルームメイトたる布仏本音や、慌ただしいクラスメイトたち。そして、俺のことは気にかけてくれるも、その度にセシリアと箒の面倒ごとに巻き込んでくる一夏。

 今この状況も、一夏の一言が発端だった。一夏は俺にこう言った、『俺にISの訓練をつけてくれ』と。いわく、俺が一夏の姉である織斑千冬の本気を引き出せるほどの実力がある、と言うのだ。

 買い被りもいいところだが、あまりに熱心に頼み込むので断るにも断れず……しかし、問題はよく一夏と一緒にいる箒とセシリアだ。どうやら彼女らは、新参者の自分が一夏に教えるのが気に入らなかったらしく、セシリアに至っては俺に決闘を申し込んできたのだ。

 なんでも『自分にも勝てないような実力で、一夏に訓練をつけるなどおこがましいにも程がある』とのことだ。そんなこと言われても、頼んできたのは向こうだというのに。

 

(殿方なら申し込まれた決闘から逃げるなんて無様な姿、晒さないで欲しいものですわ! ……とか言われたらなぁ)

 

 散々煽られた末に、結局仕方なしに決闘を受けることになったのだ。だが、問題はその後だ。学園の第二アリーナ、そこで相対した俺とセシリアは、一夏と箒が見守る中、激しい模擬戦を繰り広げた。その結果……俺が模擬戦に勝利した。

 セシリアのISはスナイパーライフルと遠隔操作のビット兵器を組み合わせた遠距離戦主体のISだ。リーゼは高機動での撃ち合いは得意ではないので、遠間からの撃ち合いは望むところだった。

 確かにセシリアの精密な狙撃とビットを組み合わせた連撃は大したものだ、彼女はいいスナイパーになれる。ただ、対応力の塊のようなリーゼとは相性がとことん悪かった。ここで前述のやり取りに至る。

 

「ISにそれほどまで高度なAIを搭載してるなんて……ズルいですわ! それも束博士のお手製なのでしょう⁉︎」

 

「いやぁ……そこも含めて俺のISってことで納得してくれ。ほら、リーゼの機動力はお前のブルー・ティアーズよりも断然劣るし。まったく不公平ってわけじゃないだろ?」

 

「そんなことありませんわ! 私のブルーティアーズの攻撃、全てそのAIで弾道予測していたのではなくて? そうでなければ、初見の攻撃をああまで最小限の動きで躱せるはずもありませんわ」

 

「あー……うん……」

 

 実を言えばその通りである。従来のISなら自機を操りつつもハイパーセンサーに目を光らせるなど、一つのことに集中するのは中々に難しい。だが俺たちの場合は違う。

 俺は攻撃に専念し、リーゼはセシリアの狙撃弾道を予測し、最も効率的な回避を指示する。そうやって分業できるのが、タイタンという兵器の強みでもある。

 あとは口には出さないでおくが、セシリアの狙撃は正確すぎるが故に分かりやすかった。セシリアはややプライドが高いが、きっと根は実直で素直なのだろう。そう思ってしまうぐらい真っ直ぐな狙撃だった。

 

「と、とにかく! この勝負は俺の勝ちだ!」

 

「くっ……代表候補生ともあろう者が、こうも簡単に敗北を喫するなんて……!」

 

 悔しそうに俯きながらISを解除するセシリア、俺もISを解除して落ち込むセシリアに何か声をかけようとするが──そこで一つ、面白いことを思いついた。

 

「……まあ、そう落ち込むな。普段、一夏に訓練をつけてるのはお前なんだろ? 別に俺はその役割を盗るつもりはないよ。一夏にいいところ見せたいんだろ?」

 

「べ、べべ別にそんなことはっ!」

 

「俺はたまに横から口出しする程度にするからさ、お前はそのまま一夏に訓練をつけてやれ。一夏もあんたを頼りにしてると思うぞ」

 

「一夏さんが……私を頼りに……!」

 

 落ち込んでいた表情から一転して、一夏に頼りにされているというワードに目を輝かせるセシリア。表情がコロコロと変わって見ていて面白いな、こいつ。

 

「コホン……分かりましたわ、貴方がそう言うのなら一夏さんにはこれからも私が指導をさせていただきますわ」

 

「おお、そうしてくれ」

 

「そして……この度は強引にこのような勝負事に巻き込んだことをお詫びいたします」

 

「お、おお……」

 

 まさかそんな殊勝な言葉まで出てくるとは、さすがは貴族のお嬢様、礼儀っていうものがキッチリしてる。悪く言えばチョロすぎるぞ、それでいいのか? 

 

「一夏さんは、貴方が一夏さんの姉、かのブリュンヒルデに本気を出させるほどの実力があると仰っていましたが……どうやらそれは本当のようですわ」

 

「俺が? そんな訳あるかよ。確かに織斑千冬の実力の一端は引き出せたかもしれないが、ありゃまだまだ余裕綽々って感じだったぞ」

 

 ピットに戻りながら、セシリアと他愛のない会話を続ける。始めはどこか警戒されているようだったが、少しは対応が柔らかくなってよかった。

 ただ一人、箒だけは……ああ、ちょうどそのピットで一夏と待っているな。あいつだけは未だに俺を毛嫌いしているようでな、話しかけても冷たくあしらわれるだけだなのだ。

 

(俺が一夏に訓練をつけると、セシリアより箒の反応の方が怖いんだよな……なんでも、あの一夏の部屋の扉を壊したのは箒らしいじゃないか、しかも木刀で。そういうところは姉譲りだ)

 

 そんなことを考えながらピットに戻ると、俺とセシリアの模擬戦を観戦していた一夏と箒、そしてサラ……ともう一人、見覚えのない少女がいた。

 一夏の横に立つ小柄なツインテールの少女、快活そうな雰囲気のその少女はなにやら楽しそうに一夏と会話をしていて、それを箒は面白くなさそうに見ていた。

 

(一夏の知り合いか? それにしては随分と親しいようだが)

 

「あ、お疲れ様なのです、兄様」

 

「おお、ありがとう」

 

 俺に駆け寄ってタオルを渡してくれるサラ、汗を拭こうとタオルを額に当てたところで、まだ自分がスーツを着たままだったことに気づく。

 

「おっとスーツを脱がなくちゃな……」

 

「ねえ、あんたが例の二人目の男性適合者? 変な格好ね、それISスーツなの?」

 

「んん?」

 

 スーツを量子化しようとしたところで、一夏と話をしていたツインテールの少女が俺に話しかけてくる。

 

「ああ、そうだ。俺はレイ・オルタネイト、あんたは?」

 

「オルタネイト……ふーん、やっぱりそこの子とは兄妹なんだ。ま、どうでもいいけど……あのさ、あんた一夏にIS訓練をつけてほしいって頼まれたんでしょ?」

 

「そうだが……というか名乗ったんだから、そっちも名乗ったらどうだ」

 

「あたしが代わりに一夏に訓練つけるから、別にいいでしょ?」

 

「ああ、別に構わんが、それはセシリアと話しを……って人の話聞けよ!」

 

「なによ、めんどくさいわね……凰鈴音、ほら名乗ったわよ」

 

「凰鈴音……? ああ、中国語か。漢字は苦手なんだよな……ってもう聞いてないな」

 

 名乗るだけ名乗ったツインテールの少女、凰鈴音は既に一夏のところまで戻ってまたなにやら話していた。なんという自由な奴なんだ。我が道を行っているな。

 

「一夏、もう一人の男はいいって言ってたわよ。明日からあたしがビシビシ訓練つけてあげるわ」

 

「お、おい、ちょっと待てって! 元々俺はレイに色々と教えてもらうつもりだったんだぞ」

 

「いいじゃない、本人がいいって言ってるし」

 

「ちょっとお待ちなさい! 先ほどの勝負の結果、私が引き続き一夏さんに訓練をつけることになっているのですのよ! 勝負には負けましたけど……」

 

「待て! そもそも私が一番最初に一夏にトレーニングを……」

 

 三人の少女に囲まれててんやわんやな一夏、これは予想外だ。セシリアをたきつけて一夏とイチャイチャさせれば、対抗心を燃やした箒が張り合って見事な三角関係になるかと思っていたのだが。これはまさかの四角関係か。

 にしても、この凰鈴音とやらは一体何者だ? 一夏とは前から顔馴染みといった感じだ。

 

「リーゼ、あの凰鈴音とやらは何者だ?」

 

『データベースにアクセス中……凰鈴音、IS学園一年二組に所属する女子生徒であり、中国の国家代表候補生です』

 

「なんと、代表候補生だったのか。それに二組ってことは……サラ、お前はあいつを知ってたのか?」

 

「いえ、彼女は今日この学園に転入してきたのです」

 

 なるほど、今日転入してきたのか。それじゃあ俺も面識がないわけだ。しかし、一夏は面識があって、その幼馴染である箒が面識がないとは、一夏と箒が離れ離れになった後に知り合ったということか。

 束が言っていたな、箒が転校したのは小学校も卒業する前のこと。凰鈴音が一夏と知り合ったのは中学生ぐらいの頃か? ということは、だ──

 

「あの凰鈴音は……一夏のセカンド幼馴染!」

 

「セカンド幼馴染、ですか?」

 

「なるほどな……サラ、あの様をよく見ておけ。古来より、悲劇の恋物語に付き物の三角関係……を超える幻の四角関係! こいつは面白くなってきた……」

 

「兄様、とっても悪い顔をしているのです……」

 

 騒がしく言い争う三人の少女と何故か非難の的にされる一夏。うむ、これはニヤニヤが止まらんな。

 というか、一夏はこんな美少女三人を惚れさせてるのか? とんだ女誑しじゃないか。

 

「サラ、気をつけろよ。油断してるとお前もあいつに惚れちまうかもよ?」

 

「私ですか? 大丈夫なのです、私には兄様がいるのです」

 

「なんじゃそりゃ……」

 

 まるで一夏には興味ないと言わんばかりの物言いに、思わず苦笑してしまう。一夏は好みじゃないのか? 俺から見ても、アイツは中々いい男になると思うぞ。

 

「こ、好みとかそういうのじゃないですよ……ただ、私はただ兄様の……ごにょごにょ」

 

(……後半のごにょごにょの内容は聞き取れたけども、言及しないでおこう)

 

「安心してください、サラ。パイロットは聡明でなければなりません、相手の機微や心理を読み解くのもお手のものなのです。貴女の想いはきちんと伝わっていますよ」

 

「お、おいおいおい? リーゼお前何言ってんの?」

 

「そう言われると、ちょっと……やだ、恥ずかしいですよ兄様……!」

 

「……」

 

 するりと口を滑らしたリーゼの言葉に、恥ずかしさで顔を覆ってしまうサラ。それを聞いた箒、セシリアはジロリと一夏を見て盛大にため息を吐く。

 

「はぁ……一夏、アイツの爪の垢を煎じて飲むんだ。そうすればお前の病気も治るかもしれない」

 

「えっ? いや、別に俺は風邪ひいてねーよ」

 

「一夏さん、ものは試しですわ……さ、レイさんはこちらへ。爪を一枚拝借いたしますわ」

 

「おい一夏、この二人を止めてくれ。じゃないと俺の爪が理不尽な用途のため剥がされちまう……ちょっ、お前ら本気かよ⁉︎一夏の鈍感がそんなので治るわけないだろっ⁉︎」

 

 ジリジリと詰め寄る箒とセシリアの本気具合に、思わず冷や汗が噴き出る。一夏はよく分からないといった風に首を傾げていたが……いや、止めろよ? 

 だから唐変木・オブ・唐変木ズとか言われたりするんだぞ、一夏。そういうとこだぞ! 

 

「お前たちの気持ちはよーく分かる、自分の気持ちが思うように伝わらないってのはもどかしいよな⁉︎だから篠ノ之箒、その日本刀はしまえ! ていうかどっから取り出したソレ⁉︎」

 

 すらりと日本刀を抜く箒に思わず声が上ずる。それ真剣か? 日本では学生の帯刀が許されてるのか? お前は爪を剥ぐんじゃなくて指ごとスッパリやるつもりか⁉︎

 

「頼むサラ、どうにかこいつらを──」

 

「あ、あぅ……」

 

「パイロット、どうやらサラは容量超過してしまっているようです。とても恥ずかしそうです」

 

「見りゃ分かるよチクショウ!」

 

「ははっ、なんか大変だなレイ」

 

「あぁん⁉︎他人事か一夏ぁ!」

 

 矛先が自分から俺へと向けられたことで、すっかり高みの見物の一夏。それに俺が食ってかかると、箒の日本刀が俺の頭にめり込む。よかった、真剣じゃなくて模造刀だった。普通に痛いけどな。

 そんな風にギャイギャイと騒ぐ俺たち。ただ一人鈴だけは、羨ましそうな妬ましそうなと微妙な表情で一夏を見つめているのだった。

 




最近はエイペックスを本気でプレイしてます
目指せダイヤランク!

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