Infinit Fall :Re   作:刀の切れ味

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 ○トーン級
 中量級のタイタン。トラッカーキャノンと追尾ロケットで敵を制圧する。防御、索敵も可能であり、安定した性能を持つ。特に遮蔽物を利用しての射撃戦では無類の強さ。
 敵パイロットをコクピットから引き摺り出してからのクレー射撃が得意。




Log.12 生活環境への適応率…50% ②

「はぁ〜〜……〜〜っぁ……」

 

 便座に座って用を足していた俺は、途轍もなく長いため息を吐く。その原因の一つが、自由にトイレにも行けないことだ。ここIS学園は当然女子しかいないのだから女子トイレしかなかったのだが、ここだけは俺と一夏が使える唯一の男子トイレになった。

 それ以外にも、俺にフラストレーションを溜め込ませるものが沢山ある。例えば、先ほどのセシリアとの模擬戦だ。そのな、リーゼのカメラアイから見えてしまうのさ。それが途轍もなく気が散る。

 なにが見えるかって、あのISスーツを着たセシリアだよ。あいつもかなりのナイスバディだからな、そりゃもう揺れる揺れる……以前は無骨なタイタンばかり相手してたものだから、精神衛生上大変よろしくない。

 

(そういうのを紛らわすためにも、タバコが吸いたいなぁ……酒も飲みないなぁ……)

 

 洗面台で手を洗いながら、またもやため息が出てしまう。この特異な環境はただでさえストレスが溜まるのだ。やはり学校というのは精神年齢30代には厳しい。

 

「悪い、待たせた」

 

「いえ、問題ないのです」

 

 トイレの外で待っていたサラに一言声をかけてから、一緒に俺の寮の部屋へ足を向ける。なんでも、サラは俺の部屋に遊びに行きたいらしい。

 

「本音に会いに行くのか?」

 

「それもありますが……たまには兄様とお話がしたいのです」

 

「俺と?」

 

「はい! このIS学園に来てから、サラは初めての体験がいっぱいなのです。だから、兄様にお話ししたいことも沢山あるのです」

 

「ああ、楽しんでるようで何よりだ。少し羨ましいよ」

 

「兄様は……楽しくはないのですか?」

 

「いや、そういうわけじゃないんだが……」

 

 楽しくないかと言われれば、今までの兵士としての生活よりも遥かに『楽しく』はある。戦闘による命の危険もないし、三食も美味い飯は食えるし、安全にぐっすり眠ることもできる。戦場に比べたら天国だ。

 しかし、今までが過酷だったが故に、やはりこういう安寧の日々というのには慣れない。戦場で人殺しをしている方が落ち着くというのは、自分の感覚が狂ってる何よりの証拠だな。

 

(いや、戦争が好きなわけじゃないんだぜ? ただ、それ以外の生き方も知らなかったもんでなー)

 

 そんな物騒なことを考えていると、寮の俺の部屋までやって来た。この時間帯なら、本音はベッドの上で菓子でもつまんでるころだ。

 まだ寮での生活は一週間ほどだが、本音の生活リズムはいろんな意味で特徴的だった。その生活の殆どは惰眠とお菓子で構成されてる気がする。横で俺が作業していると、よく俺にも駄菓子の類を分けてくれるのだ。

 

「なあ、サラ。お前は本音と仲がいいよな」

 

「はい、サラの初めてのお友達が布仏さんなのです」

 

「じゃあお前から、寝る前の間食は太ると言ってやってくれ」

 

「ふふっ……分かりました、サラから言っておくのです」

 

 他人の食生活までに口を挟むのはやや失礼な気もするが、ああも菓子ばかり食べてるてるのもよろしくないと思うのだ。そういうことは俺から言うより、女同士のサラから言う方がいいだろう。

 

「今扉を開ける。ちょっと待っ──」

 

 扉のドアノブに手をかけたところで、待機状態であるリーゼの緑光を放つデバイスが赤色へと切り替わる。これは、リーゼから俺への警告だ。

 

「兄様? どうしましたか?」

 

「……リーゼ」

 

「はい、分かっています。システムを戦闘モードに移行します」

 

「えっ……兄様……⁉︎」

 

 突如、リーゼを戦闘モードに移行させた俺にサラが驚きの声をあげる。そんなサラには何も言わずに、大口径のリボルバー『B3ウィングマン』を呼び出し、部屋の扉を勢いよく開く。

 

「──っ!」

 

 リボルバーを構えながら部屋に飛び込む。しかし、構えた銃口の先には……

 

「お帰りなさいませ、ご主人様♡」

 

「お帰りなさいませ、ご主人様……」

 

「お帰りなさいませ〜ご主人様〜」

 

「……」

 

 なんと、俺を出迎えたのはメイド服に身を包んだ三人の少女。思わず引き金を引きかけたが、とりあえず無言でリボルバーの撃鉄を戻す。

 

「リーゼが警告を発するから何かと思えば……これはなんの真似だ、更識楯無」

 

「うふふっ、さっきは模擬戦ご苦労様。このあとは私にします? 私にします? それとも……わ・た・し?」

 

「撃つぞ」

 

「あん、相変わらず冗談が通じないわね」

 

 楽しそうに笑うメイド服の更識楯無は、どこからともなく扇子を取り出し、それを開いて優雅に口元を隠す。なお、その扇子には"メイ道"と書かれていた。しかも達筆で。

 そのサイドに控える本音はやはり袖が余り気味のメイド服。そしてもう一人、三つ編みメガネの彼女は本音の姉である布仏虚だ。二人とも生徒会に所属してるが、会長たる更識楯無に付き合ってわざわざそんな格好をしたのか。

 

「……俺が部屋に入るまで、わざと敵性信号を発していたな。あんたの専用機でもお披露目してくれるのか?」

 

「ご主人様のご命令でもそれには従えないわね。どうしてもって言うのなら、あとでじっくりと手取り足取り……あ、冗談よ冗談。だからその物騒なものを下ろしてもらえるかしら?」

 

「……ちっ」

 

 リボルバーを量子化しながら、思わず舌打ちをしてしまう。更識楯無はわざわざ胸元やら足を露出させたメイド服を着ているが、コイツは全部男を惑わせる武器になることを分かってやってるに違いない。

 

(まったく……コイツは何をしてくるか分からん奴だ。一体どういう意図が隠されているのやら)

 

 こんな学園の長を任せられている更識楯無。一体何者なのかと徹底的に調べてみたところ、楯無の血筋である『更識家』は日本にて暗躍する暗部組織であることが分かった。

 日本の国益を守るためにあの手この手と謀略を張り巡らせる組織であり、楯無はその更識家の当主なのだという。

 こいつ自身、自由国籍を使ってロシア国籍を所持していたり、その繋がりかロシア製の最新型のISを所持しているだとか、とにかく謎が多い。故に楯無と接するときは油断ができない。

 

「サラ、悪いが客人がいる。今日のところは……あれ?」

 

「わぁ……布仏さん、とっても似合ってるのです」

 

「えへへ〜サーたんも着てみる?」

 

「……」

 

 サラに自室へ戻るよう言おうとすれば、サラはメイド姿の本音と楽しそうにお喋りをしていた。いや、別に構わないんだが、いきなりメイド三人に出迎えられたことに対するツッコミとかないのか? 

 

「あらあら、随分と仲が良さそうね。丁度いいわ、虚、二人を連れてお茶でもしてきなさいな。少し、彼と二人で話をさせて欲しいの」

 

「分かりました、会長。では行きましょう」

 

「え、あの、お邪魔だったのなら私は……」

 

「気にするな、行ってこい」

 

 サラは少し躊躇していたが、更識楯無が俺に何か用があることを理解したのか、サラは本音らと共に部屋を後にしていった。三人が出て行ったのを確認すると部屋の扉に鍵をかけて椅子に腰掛ける。

 

「さて、これでお望み通り二人きりだが、一体用件はなんだ?」

 

「そんなに警戒しなくても大丈夫よ? 今日はただおしゃべりに来ただけだもの。貴方のISで私をスキャンしてごらんなさい、凶器の類は一切持ち合わせてないわ。貴方にも貴方の妹ちゃんにも、私は危害を加えるつもりなんてないの」

 

「……もとよりアンタにそんなものは必要ないだろ。ISという、最強の凶器があるじゃないか」

 

「あら、そうだったわね」

 

 楯無もまた、俺を信頼しているわけではない。それは俺も同じ、わざとらしくおどけてみせる楯無を信頼しているわけではない。

 

「それで……俺とお喋りしてどうするつもりだ」

 

「端的に言えば、貴方のことをよく知りたい、が目的ね。ここ一週間、本音ちゃんからの報告なんかを聞けば聞くほど、貴方に興味が湧いてきたのよ」

 

「身の上話でもして欲しいのか?」

 

「してくれるのかしら? 貴方って、どこの国の戸籍にも載ってないみたいだし、過去の素性を調べようにも手がかりの一つも出てこないんだもの。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、ね……」

 

 俺の心理を探るように、楯無の鮮やかな赤い瞳が光る。見つめていると吸い込まれていきそうな感覚に陥る楯無の瞳は、それだけで人を惑わす力があるのではないかと錯覚してしまいそうになる。

 

「貴方の立場上、話しにくいこともたくさんあるでしょうね。私もただでそれを聞こうとは言わないわ……貴方の悩みをひとつ解決してあげる、それで交換というのはどうかしら?」

 

 そう言って楯無が取り出したものそれは、なんとタバコのパックだったのだ! マル◯ロと書かれたそれは見間違うことないタバコ、なんてこった。

 

「あの子から報告があったわ。なんでも貴方、酒とタバコをご所望のようね」

 

「な、何故それを……!」

 

「このあいだ、寝言で呟いてたそうよ」

 

「寝言かよ!」

 

 恥ずかしいことに、寝ている間に垂れ流しになる程に俺の喫煙欲求と飲酒欲求は高まっていたようだ。

 しかし、俺の悩みを解決してくれるとは、まさかそのタバコを吸わせてくれるというのか? いや、そんなことを生徒会長たる彼女が許してくれるはずがない。

 

「一本いかが?」

 

「……へ?」

 

 楯無はパックの口を破ってタバコを一本取り出すと、それを俺の前に差し出す。俺は一瞬間の抜けた声を出してしまうが、もはや条件反射ともいえる動作でタバコを受け取るとそれを口に咥えた。

 

(ああ……いつぶりのタバコだ…………んん? なんだこれ、甘いし固いぞ、ほんとにタバコかこれ?)

 

 口に咥えたタバコはやけに甘く、そして葉巻とは思えないくらいに硬質だった。歯に力を込めればコリッといい音を立てて折れて、口の中にハッカのいい香りを漂わせるのだった……ってこれタバコじゃねえ! 

 

「おい! そのパックを貸せ!」

 

 楯無からタバコのパックを奪い取り、パックのパッケージを破る。するとマル◯ロの表紙の裏側にはタバコに似ているもののまた別物であることがすぐに分かった。

 

「ココ◯シガレット……これ駄菓子じゃん!」

 

「本音ちゃんが貴方のために買ってきてくれたのよ。あと三箱あるわ」

 

「ダメだダメだこんな紛い物じゃあよぉ! タバコの形してるだけでタバコじゃねえし! 俺は本物のタバコが吸いてぇんだよぉ……!」

 

「安心なさい、ちゃんとその悩みは解決してあげる。代わりに貴方のことをもっと沢山、私に教えてくれないかしら?」

 

「むむっ……! その言葉、偽りはないだろうな?」

 

 タバコ、もとい駄菓子の箱をチラつかせながら微笑む楯無は、何も言わずに微笑むだけだ。これはYES、と捉えていいのだろうか? 

 

「……よし、いいだろう。なら望み通りに身の上話をしてやる。その前にその駄菓子……もうちょっとくれ」

 

「気に入ったの?」

 

「タバコの形をしているのは気に入らん、だが味は意外と好みだ」

 

 渋い顔をしながらも駄菓子を美味いと言う俺が可笑しかったのか、楯無は少し顔を綻ばせながら俺に駄菓子を投げてよこすのだった。

 タバコを吸うように駄菓子を口に咥えて、俺は自分の過去を語り始める。当然、ミリシアやIMCのような、この地球には存在しないことはすべてぼかして話す。あくまで俺がどういう環境で育ったか、話すことはそれだけだ。

 しかしまあ、話の内容は殆ど同じようなことの繰り返しばかりだ、あまり聞いてて面白いものではないと思うのだ。

 硝煙漂う戦場で命のやり取りをするか、仲間と酒を飲んで騒ぐか、あとはひたすらにトレーニングを積んだ。やってきた事いえば、それくらいしかないのだから。

 

 

 ──

 

 

「バイバイ〜サーたん〜」

 

「さようなら、のほ……本音さん、虚さん」

 

 メイド服の袖を振りながら生徒会室に戻る本音と虚、それをサラは小さく手を振りながら見送る。

 楽しい時間はすぐに過ぎ去ってしまうというもの。それでも、サラはレイとははあまりできないような『女の子同士』のお喋りができて満足そうにしていた。

 

(それにしても……今日は少し疲れました。新しくクラスに転入してきた凰鈴音さんや、兄様の部屋での出来事、色んなことがあったのです)

 

 1-2に転入して凰鈴音はサラが初めて接するタイプ、快活でとても勝気な性格をしていた。初対面のサラにも中々あたりが強く、少し苦手意識を感じていたりもした。

 しかし、織斑一夏を一途に想う可愛らしい一面もあることを知り、サラはなんとなく鈴とは仲良くなれそうだと思っていた。

 

(兄様は生徒会長さんとのお話は終わったのでしょうか? お話が終わってたら、本音さんから貰ったこのお菓子を一緒に食べたいな……)

 

 サラはいつも思う、レイという人物はとても不思議だと。年相応の屈託のない笑顔を見せることもあれば、戦闘になれば冷徹な兵士のそれへと変貌する。見た目と中身が釣り合っていない、そういう風に感じさせるのだ。

 それにあまり女性とは、特に年頃の女子と接するのは慣れていないと言っていたものの、本音いわく中々に女性の扱いが手慣れてるのだとか。

 

(まずはこの本音さんからいただいたお菓子……本音さんによれば駅前のお菓子屋さんのシュークリームは絶品とのこと。兄様も気に入ってくれるでしょうか)

 

 寮のレイの部屋、その扉をノックして名を呼ぶと、どうにも不機嫌そうな声が返ってくる。

 サラが恐る恐る扉を開けて部屋に入れば、そこには机の上に足を乗せて棒付きのキャンディを舐めるレイがいた。なお、その表情はなんとも渋いものだった。

 

「……あの、兄様? 何かあったのですか?」

 

「ああ……あの猫娘に騙くらかされた。俺の悩みを解決するとか言っておいて、それがこれかよ……」

 

 レイの机の上には、沢山の棒付きキャンディが入った袋が置いてあった。サラが見てみれば、『禁煙、禁酒を志す方へおススメ! クラ◯エの特製ハッカ味キャンディ!』と書いてあった。

 

「これはあの生徒会長さんから? ……それより、兄様はタバコを吸ってたのですか?」

 

「ま、まだ吸ってねーよ? しかしこのキャンディ、意外とイケるなぁ……それが逆に腹立つ」

 

 そう言いつつキャンディを口の中で転がすレイは、いつもの頼もしい雰囲気が微塵も感じられない。そんなレイを元気付けようと、サラはシュークリームの入った箱をレイに見せる。

 

「あ、兄様。先程、本音さんからシュークリームをいただいたのです。兄様もよかったら……」

 

「ほう、シュークリームとな? ……待ってろ、このキャンディを消費したら食べよう」

 

「え、今食べるのですか?」

 

 レイが予想以上の食いつきを見せるたことに驚きつつも、やはり甘いものに目がないのだと納得するサラ。しかし、そこへリーゼが余計な一言を挟む。

 

「パイロット、間食の取りすぎは太りますよ?」

 

「大丈夫だ、ちゃんと晩飯も食べる」

 

「さらに太るでしょう」

 

 つい先程レイはサラに、本音へ間食の取りすぎはよくないと伝えるよう言っていたのに、逆にレイがリーゼに指摘されてしまっている。それが可笑しく買ったのか、サラは小さく笑う。

 

「ふふっ……でも兄様、タバコやお酒はよろしくないと思いますが、やはり何かストレスが溜まっているのでしょうか? 何かサラにできることはありますか?」

 

「安心してください、サラ。パイロットの抱えている悩みは、先程のタバコや酒などの嗜好品や、この学園の女性への煩悩などで、軒並み大したことではありません」

 

「おまっ……そういうこと言うんじゃないよ!」

 

 レイは言われたくなかったことをリーゼに言われてしまったのか、慌てて待機状態のリーゼを覆い隠す。女性への煩悩、その意味を遅れて理解したサラは、少し顔を赤くする。

 

「だ、大丈夫ですよ……兄様ならきっとモテるのです!」

 

「お、おう……ありがとう?」

 

 事実、レイは織斑一夏とはまた違ったタイプのイケメン、と女子たちの間で話題にされていた。それを聞くと少し複雑な気持ちになってしまうサラだったが。

 

「ゴホン……まあ、とにかく俺は大丈夫だ。俺の悩みは至極下らんことだからさ。俺のことは心配せず、サラはたっぷりと学園生活を楽しめよ」

 

「……分かりました。でも兄様、もし何かあった時は、サラも力になります」

 

「ああ、気持ちだけ受け取っておくよ……さて、話はこれくらいにして、そのシュークリームとやらをいただこうじゃないか」

 

 キャンディの棒を加えたまま嬉しそうに食器やフォークを取りに行くレイは、本当に年相応の少年のようだ。サラはレイがそういう子供らしいところを垣間見せるのが好きだった。

 サラの命を救ったのは、リーゼに搭乗し冷酷な機械のような表情を見せるレイだ。しかしサラの心を救ったのは、こうやって一緒に笑っている時のレイの方だったのだから。




たまにタイタンフォールをプレイすると、エイペックスとは武器の使い勝手が違って少し戸惑う。
エイペックスのLスターとかは目に見えて弱体化してますが、パイロットが使ってたやつの方はきっとスゴいカスタマイズが施されていたのでしょう。
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