Infinit Fall :Re   作:刀の切れ味

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 ○リージョン級
 重量級のタイタン。その強固な装甲を盾にガトンリングガンによる弾幕を張る。スマートコアによる自動照準を用いた射撃は、ライフルマンやパイロットを一瞬でミンチにする。
 


Log.13 生活環境への適応率…50% ③

 太陽が昇ってまだ間もないころ、少し肌寒くもある早朝。俺はIS学園の部室棟、そこにある武道館という日本独特の格闘術を学ぶための場所にいた。

 今日はいつもの制服ではなく、日本独特の道着という衣装を身に纏っていた。見た目に反して中々に動きやすいものだ。

 

「うーむ……この正座というのは慣れないな。足が痺れる……」

 

「……別にそこまで俺に合わせてくれなくてもいいんだぜ?」

 

「まあ、せっかくの機会だ。日本の文化というものを学ばせてもらおうじゃないか」

 

 足の痺れを我慢して正座をする俺の横には、同じく道着を着て正座をする一夏。剣道とやらをやっていたからか、さすがに正座には慣れているようだった。

 

「さて、じゃあ時間もあまりないことだし、早速始めようぜ」

 

「ああ、それなんだが……俺はお前に何を教えればいいんだ?」

 

 まだ多くの人は眠りについているような朝早くに、一夏と道場で道着を着て何をするのかといえば……一夏から俺に訓練をつけてくれと、またも懇願されたからだ。

 それならばISの訓練をすれば、と思うのだが、それをすると一夏の周りの少女たちが喧しい。それにこんな早朝ではアリーナも貸してもらえない。なのでとりあえずここに来たのだ。

 

「何でもいい、レイが戦う時に気を付けていることとか、普段の心構えとか……とにかく何でもいい!」

 

「それはまた漠然としてるな……だったら別に俺じゃなくてもいいじゃないか。それこそセシリアとか、凰鈴音とか……」

 

「俺は……お前に教えてもらいたいんだよ。何たって千冬姉がレイのことを褒めてたんだから」

 

「俺を?」

 

「ああ、千冬姉は滅多に人を褒めたりしないんだぜ? そんな千冬姉がさ、レイのことを『あれだけの気迫をぶつけられたのは久しぶりだ。あれは相当の訓練と死地をくぐり抜けた者でなければ出せない』って言ってたんだよ」

 

 おお、あのブリュンヒルデがそんな風に言ってくれたのか。面と向かってじゃ絶対に言ってくれないよな、少しこそばゆいくらいだ。

 

「レイも知っての通り、千冬姉はめちゃくちゃ強かっただろ? 俺も……そんな千冬姉の弟として恥じないよう、強くなりたいんだよ!」

 

「……なるほどね。ま、確かにあんな凄い人が姉だと、それだけでプレッシャーもかかるものな」

 

「それじゃあ……訓練を付けてくれるのか?」

 

「そもそもやる気なかったら、お前の誘いに乗ってここまで来ないよ」

 

「よっし! じゃあよろしく頼むぜ、先生!」

 

「せ、先生……?」

 

 訓練をつけてもらえることが嬉しかったのか、よく分からないテンションになる一夏。とはいえ、訓練といっても俺は人に教えられるほどのものは修めちゃいない。

 あくまで、戦闘における心構えなんかを、俺が教えられたことをそっくりそのまま話してやるぐらいだ。

 

「訓練、っていっても、教えてやれることはそんなにないからな」

 

「そんなことないだろ。レイが相当の訓練を積んでるっていうのは事実なんだろ? セシリアにだって模擬戦で勝ってたし。俺はつい最近まではISなんてまるっきりの素人だったんだ、どんなことでも参考になる」

 

「ふむ、そういうもんか……じゃあ手始めに手合わせでもしてみるか」

 

 とりあえず一夏に、道場のへりに立てかけてあった木刀を一本を持ってくるよう言う。

 

「ルールは単純、どちらかが参ったというまでな」

 

「これ木刀だけどいいのか? それにレイは木刀使わないのか?」

 

「……あったほうがいいか?」

 

 一夏に言われて俺も木刀を手に持つ。木刀、日本に古来から伝わるカタナという剣を象ったものらしい。扱いとしては軍用マチェットみたいなものかな。

 

「よし、始めるとするか。どっからでもかかってこい」

 

 俺の合図に一夏は木刀を構えると、打って変わって真剣な表情へと変わる。一夏は剣道とやらを学んでいたそうだが、今も箒に稽古をつけてもらっているらしい。

 対して俺は刀の使い方なんてよく分からんが、まあ特に問題はない。これで打ち合うつもりなんてないからな。

 

「俺が怪我するかもとか、そんなことは考えるなよ。遠慮するな」

 

「……分かった」

 

 俺の一言に一夏はその気になったのか、木刀を握る手に力がこもる。俺と一夏の間合いは三畳分、木刀で打ち込むにはある程度間合いを詰めなくちゃいけない。さて、一夏はどう来るか。

 

「……はあっ!」

 

 一夏の取った手は大きく踏み込みながらの上段。なんとも潔い、真っ正面から突っ込んで来るとはな。中々思い切りがいいじゃないか。

 しかし、俺は一夏の踏み込みに対してと大きく距離を取るように後ろに飛び退くと……量子化していた拳銃の"ハモンドP2016"をコールし、その銃口を一夏へと向ける。

いきなり銃口を突きつけられた一夏は、訳がわからないといった表情で、木刀を振り上げたまま硬直してしまった。

 

「お前が降参してくれなきゃ、引き金を引かなくちゃいけないんだが……どうする?」

 

「……ま、参った……ってそれは汚ねーだろ!」

 

 やはり一夏は木刀での打ち合いを想定していたのか、いきなり銃を持ち出した俺に憤慨していた。少々意地悪ではあるが、俺は木刀しか使わないとは言ってないので悪しからず。

 まあ、これがまず俺が一夏に言っておきたいことなので、意地悪なことをしたのは許してくれ。

 

「そう怒るな。お前の気持ちは分かるが、ISで戦う上でその考えは通用しない。俺は何も、木刀だけしか使わないなんて言ってないからな」

 

「や、でも何か卑怯じゃねーのか?」

 

「戦いに卑怯もクソもない、あるのはいかに効率よく相手を打ちのめすか、それだけだ。相手が予想外の行動をしてきても、それに気づかなかった奴が悪い」

 

「そういう……ものなのか……?」

 

「ISでの戦闘も同じだ、量子化という便利な機能がそれを助長してる。スナイパーライフルを持ってるが、近接装備も使えるかもしれない。近接装備しかなさそうだが、ミサイルも撃てるかもしれない……何があるかなんて分からん」

 

「じゃあ、どうしたらいいんだ。相手の行動が分からないままだったら、ずっと後手だ」

 

「そんなことないさ……大事なのは観察することだ。間合いの取り方、機動の癖、武器の扱い方、全てが重要な判断材料になる」

 

 観察するっていうのは、見るじゃあなくて観る、聞くんじゃあなく聴く、ってことだ。タイタン同士の戦いでも、相手の一挙一作が次の行動を予測する判断材料になる。

 ISにはハイパーセンサーとか便利なものがある、一夏にだってできないことじゃない。

 

「もちろん、一朝一夕でできるようなもんじゃないが、意識するかしないかは大違い。特に一夏のISはピーキーだ、相手の動きを読んで自分のペースに持ってかなきゃしんどいだろうよ」

 

「確かに、セシリアと模擬戦すると大体向こうの得意な狙撃戦に持ってかれてるもんな。俺はいつも接近しようとして失敗してるから……焦って距離を詰めようとする動きが、読まれやすかったのか?」

 

「そうだな。焦りは攻め手を単調にする、だから動きを予測される。けど、一夏のISにはプレッシャーの塊のようなアレがあるだろ?」

 

「……零落白夜、俺のISの単一仕様か!」

 

「そう、お前の単一仕様はお前が思っている以上にとんでもない代物だ。『当たれば一撃』という反則極まりない性能、俺だってアレは警戒を厳にするさ」

 

「そっか。知られている、ってことがアドバンテージになる事もあるのか。じゃああれをチラつかせるだけでも、相手を大きく揺さぶれるかも?いや、それでも……」

 

顎に手をやって熟考する一夏の表情は真剣そのもの。普段はやれ鈍感だとか唐変木とか言われてるが、こういうところの頭の柔らかさや集中力は十二分に優れている。

その察しの良さを普段の箒やセシリアとの会話でも発揮してやれよ、とつい突っ込みたくなる。

 

「せっかく道場に来たんだ。喋るばかりじゃなく、実際に体も動かそうじゃないか」

 

「おう、よろしく頼むぜ!」

 

 ……といった感じに、俺と一夏の秘密の特訓は、その後も一時間ほど続いた。

 俺が教えたことは全て、ミリシアで俺に指示してくれた先達のパイロットたちからの受け売りだ。それは彼らが戦場の命のやり取りの中で学んだこと。いつかはそういう場面に直面するであろう一夏には、きっと役に立つと思うのだ。

 

 

 ──

 

 

 一夏との訓練を終えたその日の授業には、ISの実施訓練があった。専用機持ちでない一般の学生には、学園が保有する第二世代機が割り当てられ、それを用いて授業を行うのだそうだ。

 ちなみにこの授業はISスーツで授業を受けなければならない。忘れたものは学園指定の水着で授業を受けるのだそうだ……機会があれば一度見てみたいものだ。

 そこで問題になるのが俺と一夏の男性組だ。俺たちの使用が許されている更衣室はアリーナ付近の一箇所のみ。だから、全力でダッシュして着替えに行かなくちゃならないそうだ。

 一夏はいつもそれで苦労してるそうだが、俺は量子化されたスーツを呼び出すだけでいいので特に問題はない。一夏は俺への恨み言を叫びながら更衣室へとダッシュしていた。

 だがこの授業、俺にも色々と問題がある。俺はパイロットの特殊なスーツを着ている、それがとてつもなく目立つのだ。現に今、俺はクラスの女子たちとアリーナの真ん中に整列させられているのだがーー

 

(……見られてるなぁ、めちゃくちゃ視線を感じるぞ)

 

 俺は一夏と共に最前列に並ばさせられているが、後ろから沢山の視線が突き刺さるのが分かる。というかスーツの機能で背後もモニタリングできるので、まじまじと見つめるクラスメイトたちが見える。

 

「レイのそのスーツ、何度見ても特徴的だよな。というか、カッコいいよな」

 

「カッコいいのか?まあ、色んな機能が詰まってるんだよ」

 

「その腰のブースターみたいなの……空飛べるのか?」

 

「少しはな。飛ぶいうよりは勢いよくジャンプしてるだけだが」

 

「すげえ……! 俺も使ってみたっ……ぐはぁっ⁉︎」

 

「げっ、ヤバーーごぼっ⁉︎」

 

 先生の話もそっちのけで雑談をしていた一夏の脳天にはゲンコツ、スーツを着込んだ俺には容赦ないボディブローが炸裂した。誰のかって? 勿論、鬼教師の織斑千冬だ。

 

「話を聞いているのか?」

 

「ごめん、千冬姉。ちゃんと聞いっ……うわ、すみません織斑先生!」

 

 うっかり姉付けで呼びそうになる一夏は、またしてもゲンコツを食らっていた。そして、織斑千冬はボディブローに呻く俺の方へ向くと……

 

「丁度いい、お前にはIS展開の手本を見せてもらおう……皆、よく見ておけ。オルタネイトが教科書よりも参考になる手本を見せてくれる」

 

「ゲホッ……えっ、IS展開の?」

 

 一夏と雑談をしていた罰か、何やら俺に白羽の矢がたったようだ。IS展開だって?リーゼのシャーシを展開すればいいのかな。

 

「リーゼ、システムを……」

 

 そこまで言いかけて、ふと周りを見渡せば、またもや俺に突き刺さる注目の視線。なんとやり辛いことか……! 

 

「パイロット?」

 

「あ、ああ……システムを戦闘モードに移行だ。シャーシを展開してくれ」

 

「了解、機体を展開します」

 

 何もない空間に光が集まり、それが大きな鉄の巨人へと変わる。標準ロードアウトである『エクスペティション』を換装したリーゼが、地響きを立てながらアリーナに降り立つ。

 

「おおー、すごい! フルスキンのIS……って言っていいのかな、あれ」

 

「もはやロボットだよね……」

 

 ……等々、色んな感想が周りから飛び交う。なんとでも言え、リーゼはそもそもISと呼んでいいのか微妙なところもあるからな。

 

「遅い、それにお前自身がISに搭乗していない。もう一度やり直せ」

 

 しかし、織斑千冬は今の展開の仕方では納得してくれなかったようだ。パイロットとタイタンが別々に行動することも鑑みて、ああいう風に展開するのが俺の中では主流になっていたのだが、普通のISは身に纏うように展開するのだったか。

 

「しかし、マスター織斑。私とパイロットにとってはこれが最も効率的な展開方法です」

 

「なんだマスター織斑って……なにはともあれ、やり直せって言ってるんだから、やり直すぞ。でも次はだな、こんな風に……ゴニョゴニョ……」

 

「……分かりました、ではそのように」

 

 俺は周りに聞こえないようにリーゼに作戦を話すと、俺はリーゼを収納してストレッチを始める。

 

「……お、おいおい。何しようとしてんだ、レイ?」

 

「一夏、このスーツが空を飛べるかって聞いたな。今からそれを見せてやろうかと思って」

 

 一夏が当然の疑問を口にする。まあ、機体の展開の手本を見せろって言ったのに、足の筋を伸ばしてストレッチしてたらそう思われるよな。

 

「さて、よーい……どん!」

 

 俺はおもむろに全速力で走り出すと、アリーナの壁をウォールランで駆け抜けていく。そして、天井の照明にグラップリング・フックを引っ掛けると、勢いを利用して空高く飛び上がる。

 

「「「え、えぇ⁉︎」」」

 

 下の方からクラスメイトたちが驚きの声を上げるのが聞こえる。だがそれもよそに、そのまま空中でリーゼのシャーシを展開して身に纏う。

 

「ドームシールドを展開。タイタンフォール、スタンバイ」

 

 重力に従って落下していくドームシールドを展開したリーゼ。アリーナがそれなりに縦の奥行きがあるとはいえ、すぐにドームシールドはすぐにアリーナの地面に達した。

 そして落下の衝撃にアリーナの地面はドームシールドの形に軽くへこみ、地面を大きく揺るがして土煙を巻き上げるのだった。

 

「システム、戦闘モードを起動……いかがですか、マスター織斑」

 

翡翠のカメラアイを瞬きさせながら、土煙にむせる織斑千冬の方を見るリーゼ。しかし、カメラ越しに見えるその表情はーーまさに修羅。どうやらこの展開方法はお気に召さなかったようだ。

 

「……オルタネイト、今のは何だ?」

 

「高高度からの降下突撃を兼ねたISの展開……です」

 

「ほう、なかなか豪快じゃないか。では、その抉れた地面は誰が修復するのか、答えてみろ」

 

「えー……俺?」

 

 ……このあと俺は、やはり織斑千冬からこっ酷く折檻を受けることになる。しかも、俺の後に飛行訓練の手本として自身のISを纏って飛び上がった一夏もまた、上空から地面に凄まじい勢いで墜落してアリーナの地面を抉っていた。

 俺と一夏は二人してアリーナの後片付けを命じられてしまい、その授業の後にはせっせと土を運んでは穴を埋め立てるタイタンとISの姿があったそうな。

 




タイタンフォールやエイペックスに足りないもの、それはポンプアクションのショットガンだ!
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