軽量級のタイタン。クアドラプルロケットやマルチターゲットミサイルなどを主兵装とした砲戦特化の機体。
タイタンフォール2ではストーリーモードでのみ登場。オンラインマルチでも使わせてください、お願いします。
「これならどうですの!」
「うおおっ……なんて無茶苦茶な……!」
四方八方から飛び交うビット、そこから放たれるレーザー。時たまレーザーに入り混じってミサイルも飛んでくるし、セシリア自身もスナイパーライフルで狙撃を繰り出してくる。
セシリアも多量のビットも一度に複数機操ってるからか、一つ一つの射撃精度は極めて低い。とはいえ、ロードアウト『トーン』のパーティクルウォールではさすがに防ぎきれない。
(精度を下げてでも手数を増やしたのか……これは厄介!)
ダッシュでかわすも何発かが機体に命中し、レーザーの熱量にシールドが減衰していく。その怯んだ隙を待っていたと言わんばかりに、セシリアのスナイパーライフルの狙いが定められる。
「貰いましたわ!」
「……っ! ロードアウトを『イオン』に換装しろ!」
「了解、専用シャーシを展開します」
リーゼがトーンと同じく中量級タイタンであるイオンのシャーシへと高速で切り替わり、スナイパーライフルを構えるセシリアへと左手をかざし、ヴォーテックスシールドを展開する。
セシリアのスナイパーライフルから一射目は肩部に被弾、ニ射目はなんとかヴァーテックスシールドで防げた。しかし、背後に回り込んでいたビットから放たれたミサイルがリーゼの背部に命中し爆ぜる。
「ちいっ……! リーゼ、ビットの軌道を予測、レーザーショットの照準補正を頼む」
「目標確認。レーザーショット、チャージ開始」
ロードアウト「イオン』の背部ユニット、レーザーショットが展開し、エネルギーチャージが始まる。その間、俺は手に持つ『スプリッターライフル』でエネルギー弾の弾幕を張る。
今までのセシリアはビットを細かく操るときは、どうしても集中が必要なのか動きを止める必要があった。しかし、今回のセシリアは俺の予測を超えてきた。
「この前と同じとは思わないでください……!」
高機動でスプリッターライフルの弾丸をかわすセシリア、その間も展開したビットはなお複雑な動きを続けていた。放たれるレーザーは命中精度もへったくれもなかったが、それでも俺の動きを抑制するには十分だった。
「対象をロック……照射」
リーゼのチャージショットでビットを一つ、二つと撃ち抜き破壊していく。しかし、セシリアはすぐにビットをチャージショットでは狙いにくい死角へと配置していく。
「やるじゃないか……! 十全とは言えないが、ビットと機体制御を同時にこなせるようになってるとは!」
「私は国家代表候補生ですのよ、侮らないでほしいですわ!」
「なるほど、その肩書きは伊達じゃないというわけだ……作戦変更だ、リーゼ! ロードアウトを『リージョン』に変更しろ!」
「了解、指定ロードアウトを展開します」
ビットから放たれるレーザーが、リーゼの装甲の上に更に展開した追加装甲に弾かれる。中量級タイタンのシャーシから重量級のそれへと切り替わったリーゼの手には、巨大なガトリングガン『プレデターキャノン』が展開する。
「くっ……いくら弾幕を張っても当たりませんわ!」
プレデターキャノンの弾幕を全速力で回避していくセシリア、俺はビットの攻撃を躱すこともせずに、ひたすらに弾幕を張り続ける。
「シールド減衰率60%、ダメージが拡大しています」
「分かってる……今からあいつを地面に叩き落としてやる、そしたら一気に畳み掛けるぞ」
「了解しました」
プレデターキャノンは高火力、そして多量の装弾数を持つガトリングガンだが、他にもある特徴があった。それはパワーショットと呼ばれる特殊な射撃モードだ。僅かなチャージの後に放たれる強力な射撃は、遠距離の相手ですら容易く撃ち抜く。
「落っこちろ……!」
チャージが始まり銃身が赤く赤熱するプレデターキャノン。そこから放たれた一撃は、空中を飛び回っていたセシリアの背部、飛行ユニットの片翼に命中した。
「きゃあっ⁉︎」
「リーゼ、ロードアウトを『ノーススター』に切り替えろ!」
「了解、専用シャーシを展開!」
パワーショットを被弾し空中で大きくバランスを崩したセシリアは、何とか体制を立て直そうともがく。その間ビットは完全に動きを止めていた。
俺はリーゼを軽量級タイタンのロードアウト『ノーススター』へと換装し、背部の『VTOLホバー』を起動させ空中に飛び上がる。
さっきとは打って変わって、今度は俺が上でセシリアが下。俺は上空からクラスターミサイルを撃ち込み、セシリアを追い立てていく。
「……っ⁉︎何ですの、これは⁉︎」
子弾をばら撒いて爆発するクラスターミサイルを飛び退いてかわすセシリア。しかしその先には、俺がクラスターミサイルに紛れて投擲したテザートラップが置いてあったのだ。
トラップから射出した吸着板とワイヤーで動きを阻害されるセシリア、すぐさま近接戦闘用のブレードを呼び出して切断しようとするが──
「フライトコア、オンライン!」
セシリアが脱する前にVTOLホバーで空中に浮かび上がったまま、背部の二つのミサイルラック。起動。そこから大量のロケット弾を吐き出していく。
テザートラップで動きを拘束されているセシリアにそれがかわせるはずもなく、セシリアはクラスターミサイルの爆発に飲み込まれる──はずだったのだが、セシリアは咄嗟に手に持つスナイパーライフルの銃口をこちらに向ける。
「……っ!」
空中で無防備なままのリーゼ。俺はセシリアの最後の狙撃を回避できず、放たれた一筋の閃光がリーゼの胴体を穿いた。
「シールド減衰率90%……稼働限界まで残り僅かです」
しかし、その一撃でもリーゼのシールドはまだ持ちこたえた。それがセシリアの最後のあがきだったらしく、セシリアは悔しそうな表情のまま爆撃に飲み込まれていった。
──
模擬戦を終えた後、俺はピットの更衣室で楯無から貰ったハッカキャンディを舐めながら、椅子に座って一息ついていた。セシリアはシャワーを浴びに行ったまま、まだ戻ってきていない。
今回の模擬戦、やはりセシリアから対戦を申し込まれたのだが、実はこれで4回目だ。どうやら俺に負けたのが相当悔しかったらしく、最初に負けた日から俺を打倒するために猛特訓してるのだとか。
「目標にされるのは悪い気しないんだが……ぼんやりしてるとすぐに追いつかれそうだぜ」
「しかし、対IS戦のデータを収集できるため、この模擬戦は非常に有意義です。パイロット、貴方も対IS戦の戦闘効率評価が著しく上昇しています。これはいい傾向です」
若者の体力にはついていけないぜ、なんて言ってみるが、セシリアは順調に俺の対策を積んできている。そろそろこちらも全てのロードアウトを見せてしまうことになる。
「リーゼ、後でブルー・ティアーズ対策のオペレーションでも組むか」
「了解、これまでの戦闘記録をアーカイブに保存します」
さて、どうしようか。セシリアには先に帰っても構わないと言われたのだが……ま、お言葉に甘えさせてもらおうか。
(この時間なら……部屋に本音は生徒会室にいるはず。今のうちにサラから貰ったシュークリームを食べよう……じゅる)
「パイロット、次のおやつはそのキャンディを食べてからです」
「お母さんかお前はっ!」
リーゼにツッコミを入れつつ、ピットの更衣室を後にする。するとアリーナの外に、ある見知った少女がこれまた沈んだ表情で歩いていた。
「あいつは……凰鈴音、だったか? 随分と暗い顔してるな」
ゾンビのようにフラフラと体を揺らしていた凰鈴音は、近くの休憩室の椅子に座り込むと、盛大にため息をついていた。
何があったのかは知らないが、中々に深刻な落ち込み具合だな。見ててこっちが心配になってくる。
「なあ……大丈夫か?」
俯いていた凰鈴音は少しだけ顔を上げてこちらを見ると、一言こう言い放った。
「誰よ、あんた」
「おいコラ……一応はお互い名乗ったろうが」
たしかに前はスーツのヘルメットを被ったままだったけど、それでも声とかで分かるだろ。というか、この学園には男は二人しかいないんだからさ。
「お前と同じクラスのサラ・オルタネイトの兄の……レイ・オルタネイトだよ」
「ああ……あのよく分かんない格好してた奴ね」
くっ、いちいち歯に衣着せない奴だな。取り繕わないという意味ではいいのかもしれないが、あまり思ったことをずけずけと言ってると、面倒な揉め事を起こすぞ。
「何の用? 今は放っておいて欲しいんだけど……」
「周りにキノコが生えそうなくらいに陰湿な雰囲気だったものだから……何があった? いや、待てよ。何があったか俺が当ててやろう」
華の十代乙女なお前らがそこまで一憂するくらいなんだ、きっとその原因は……恋! つまり一夏絡みだな。凰鈴音は一夏の幼地味、きっと昔の出来事で揉めたに違いない。
『大きくなったらまた会おう!』とかそんな感じの約束をしていたに違いない。羨ましい奴め!
「そうだな……恐らく、昔に一夏と約束したことを、一夏がすっかり忘れてしまっていた。或いは歪曲して覚えていて、それについてお前は一夏と喧嘩をしてしまった、といったところか……どうだ?」
「……」
「えっ……まさか正解とか言わないよな」
黙ったまま否定も肯定もしない凰鈴音、だか少しバツが悪そうな顔をしていた。マジかお前ら、本当にラブコメみたいなことしてるな。
「喧嘩はしてないわ……あたしが一方的に怒鳴り散らしただけよ。でもあいつが悪いのよ! 私の告白を……そのまんま文字通りに覚えるなんて……」
「……そういう恋愛関係で変にひねった表現したら、一夏には絶対伝わんないんじゃないか?」
「あんたに一夏の何が分かるっていうのよ」
「ストレートに『好きです、付き合ってください』って言えばいいんじゃないの?」
「す、好きって……⁉︎なな何言ってんのよっ⁉︎」
「じゃあ嫌いなのか?」
「…………好き……」
顔を真っ赤にして俯く凰鈴音。だったらその気持ちを素直に伝えてやればいいのに、と思うのだが、そう簡単にいかないのが思春期というものなんだろう。
しかも、こいつは勝気な性格が邪魔をしてまったく素直になれないときた。難儀なものだな。
「ホントお前らはなー、こっちが甘酸っぱくなるようなラブストーリーを見せつけてくれるよなー」
「ラブストーリーとか馬鹿じゃないの⁉︎馬鹿じゃないの⁉︎」
「俺を罵倒して誤魔化そうとするのは、余計に恥ずかしくなるだけだぞー」
「騒がしいと思えば……何をしてるのですか?」
俺と凰鈴音の馬鹿騒ぎを聞きつけてやって来たのは、シャワーから帰ってきたセシリアだった。
どうやら凰鈴音にはいい印象を抱いていないようで、俺が凰鈴音と話しているのを見て少し嫌そうな顔をしていた。
「おお、お疲れさん。今回はかなり危なかった、次あたりは負かされるかもな」
「嘘仰らないで、まだ見せてない手の内があるでしょう?」
「まあな。だが、それも残すところ僅かだ」
初戦はトーンだけだったが、二戦目はノーススターも使った。三戦目はリージョンを、そして今回はイオンを使った。既に四つのロードアウトを見せたわけだ。
エクスペティションは標準装備だから外すとしても、残りはローニン、スコーチ、ブルートの三つだ。
「なに、あんたこいつに負けたの?」
「な、何か文句でもありますの?」
「代表候補生を名乗るくせに、最近転入してきたばかりの男に負けたんだ」
「か、彼の実力を舐めてはいけませんわ! あの織斑先生が一目置くほどですのよ!」
「そりゃどうも」
「こいつが? ふーん……そんな風には見えないけど」
「だったら貴女も戦ってみるといいですわ、決して嘘は言ってないことが分かりますわよ」
「いや、俺はもう部屋に帰りたいんだけど……」
セシリアと凰鈴音は相性でも悪いのか、ああだこうだと言い合いを始めてしまった。俺はもう蚊帳の外だ。
しかし、途中から論点は一夏へと移っていた。やれ幼地味だとか一目惚れだとか、あいつがいかにモテるかよく分かるぜ、ホント。
「幼馴染なんて関係ありませんわ! 私にとっても一夏さんは……その……」
「そんなのあたしには関係ないっての! ……なによ、無駄にでかいだけのくせに……」
「……何か言いましたか?」
「なんでもないわよっ!」
「……もうお前らだけで勝手にやってくれ……」
俺は食べ終わったキャンディの棒を指で弾いてゴミ箱に投げ捨てると、新しいキャンディを取り出し、それを口に咥えながら自室へと足を向ける。
俺はこれからシュークリームをゆっくりと味わわなくちゃいけないんだよ。その後でゆっくり対策オペレーションでも練るとしよう。
中々話が進まないですが、気長に楽しんでいただけたら幸いでございます。