Infinit Fall :Re   作:刀の切れ味

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 ⚪︎IMCとミリシアの戦い ②
 フロンティアと地球などのコア星系を繋ぐ重要な基地である『デメテル』。ミリシアの精鋭部隊であるマローダー隊の活躍によってデメテルは陥落し、IMCはコア星系からの補給路を断たれた。
 それ以降、フロンティアにて孤立無援となったIMCの残留艦隊は、勢いを増すミリシアに対して劣勢となっていく。


Log.18 仮想敵機『無人型IS ゴーレムⅠ』 ②

(やはり……束の予想通り、か)

 

 アリーナに降り立った二機目の無人型IS『ゴーレムⅠ』、その不意打ちを一夏はもろに食らってしまった。絶対防御があるから命に別状はないだろうが、吹き飛ばされた一夏はそのまま動くことはなかった。

 

「一夏……⁉︎」

 

 中継室で驚愕の声をあげる箒。一夏は大丈夫だって言っても聞かないだろうが、とりあえずは大人しくしていてもらおう。

 

「サラ、箒を連れて後ろに下がれ! 俺は……後始末をしてくる」

 

「分かりました……兄様も気をつけてください」

 

 俺の後ろで待機していたサラに指示を出し、俺はドームシールドを解除してロードアウト『イオン』を展開する。

 さて、ここからは俺の仕事だ。一夏はゴーレムⅠを一機撃破した、それでノルマは達成された。悪いがもう一機の方は、このマッチポンプに付き合ってもらうとしよう。

 

『お待ちください! 私も……私も戦いますわ!』

 

「……! セシリア?」

 

 オープンチャンネルの思考通信、後ろを振り向けばブルー・ティアーズを展開したセシリアがいた。

 どうするか、俺一人で撃破する方がいいのだが、一夏を守りたいというセシリアの心意気を無下にするのも──いや、やっぱりダメだ。

 

「これ以上、一夏さんが傷つくのは見ていられませんわ。あのISは私とブルー・ティアーズで……!」

 

「いや、ダメだ。お前はここで待機していてくれ、アレは俺がやらなくちゃならない」

 

「しかし、貴方一人では……」

 

「一夏も凰鈴音も俺が何とかしてくる、お前はここで箒とサラを見ていてくれ。お前の気持ちは分かるが、学生を荒事に巻き込むわけにはいかないんでね……リーゼ! レーザーコア、オンライン!」

 

 リーゼのシアキット周辺に、過剰ともいえるエネルギーが集中する。そして、そこから放たれる高出力の熱線。

 ゴーレムⅠのレーザーキャノンすらしのぐ威力を秘めるレーザーコアは、レベルを引き上げられた遮断シールドを容易く貫くと、そのまま縦に引き裂いていった。

 

「なっ……お待ちなさい! 貴方だって学園の生徒でしょう、無茶をしてるのは貴方も同じですわ!」

 

「いや、今ばかりはな。俺は学生じゃない、ただのパイロットだ」

 

 セシリアの静止を無視して、遮断シールドの裂け目を飛び越えてアリーナ内に侵入する。遮断シールドはすぐに修復されてしまい、残されたセシリアは複雑そうな表情で唇を噛み締めていた。

 

「一夏……一夏ぁっ!」

 

 アリーナに降り立てば、そこには気を失った一夏を抱き抱える鈴。リーゼでスキャンしても一夏に大きな負傷は見られない、無茶な機動とダメージの積み重なりで限界を迎えただけだろう。

 

「凰鈴音! お前は一夏を連れて後ろに下がってろ!」

 

「あんた……そのISは……! 何しにきたのよ!」

 

 鈴が俺に文句を言おうとするが、それを遮るようにゴーレムⅠが両手を上げてレーザーキャノンを構える。

 そして放たれる熱線、だが、凰鈴音はそれを一夏を抱えながらギリギリで回避する。すぐ目の前を通り過ぎた熱線に、鈴は顔を青ざめさせていた。

 

「お前のISだってもう限界だろう。まだ動けるのなら、一夏を守ることに注力してくれ、いいな?」

 

「くっ……!」

 

 一夏を抱えて後ろに下がる凰鈴音。間違っても俺が誤射なんてしてしまったら目も当てられないからな、本当にヤバくなったら後方から支援してもらうさ。

 

「リーゼ、俺たちの役目を果たすぞ……!」

 

「プロトコル2、私たちの任務は織斑一夏、篠ノ之箒の護衛。および本学園を含む全護衛対象の保護……任務執行態勢!」

 

 まずは小手調べ、俺はリーゼのロードアウトを『プルート』へと変更する。

 軽量級のスナイパーであるノーススターと同じく機動戦を得意とするが、こちらは砲戦特化のロードアウトだ。高火力の多連装ロケットランチャーやミサイルを主兵装としている。

 

(束のことだ、この二機目のゴーレムⅠは俺と戦うことを想定しているだろう。ならば……)

 

 手に持つ多連装ロケットランチャーのトリガーを引くと、一度に複数の弾頭が射出され無人機へ目掛けて飛来する。

 先ほどの戦闘を見るに、この程度の攻撃なら難なく回避してしまうだろうが、それでも構わない。

 

「こちらの武装でどの程度のダメージを与えられるか……む?」

 

 迫り来るロケットに対してゴーレムⅠは、何もしないでただ立っているだけだった。そしてそのまま、ロケットが命中し爆炎を吹き上げる。

 しかし、その爆炎からゴーレムⅠが勢いよく飛び出し、両手のレーザーキャノンをこちらに向ける。

 

「うおっ……まるで堪えてないな!」

 

 VTOLホバーで飛び上がり、放たれたレーザーを回避しながらリーゼにゴーレムⅠをスキャンさせる。

 その間にも背部ユニットのマルチターゲットミサイルと多連装ロケットランチャーを浴びせてやるが、やはりダメージは見られない。

 

「パイロット、敵ISにエネルギーが集中する箇所を複数確認。推測、シールドバリアーの増幅器だと思われます。敵ISのシールド構造を分析中……」

 

「増幅器? ああ、なるほどな……」

 

 やはり予想通り、二機目のゴーレムⅠには一機目とは異なる装備が施されているようだ。この異常なまでのシールド出力、引き剥がすには手間がかかるな。

 

「分析の結果、敵ISは通常のシールドバリアーの上に、増幅器による二層目のシールドを展開しています。二層目のシールドを減衰させ増幅器を破壊しない限り、本体にダメージを与えることは難しいでしょう」

 

 シールドの上にシールド、か。こりゃ厄介だな。ごり押しでも何とかなるかもしれないが、ここは一つ試してみたかったことをやってみるか。

 

「リーゼ、丁度いい機会だ。ここは別れて戦おう、リーゼはそのまま砲撃支援でシールドを削れ。俺はアイツを掻き乱してやる」

 

 タイタンとパイロット、二手に分かれて戦うことは大して珍しくはない。対IS戦でも有効かどうか、ここで確かめさせてもらおう。

 

「了解。ですがパイロット……十分に気をつけてください」

 

「分かってるよ、お前は俺を巻き込まないように頼むぞ? それじゃ……行くぞ!」

 

「操縦権を移行、オートモードを起動します」

 

 リーゼのハッチを開き、外に飛び出しながら無人機にスモークグレネードを投げつける。

 グレネードから噴き出す煙が無人機を覆い尽くすが、無人機はすぐにその大きな腕を振り回して煙を散らしていく。

 

「対象をロック、攻撃開始」

 

 VTOLホバーで飛び上がりながら無人機を爆撃するリーゼ。俺はスモークグレネードの煙に紛れてクロークで身を隠しながら、一度距離を取る。

 

(リーゼが攻撃に集中できるよう、注意をこっちに引かせる。そして、二層目のシールドバリアーが剥がれた時を狙う……!)

 

 俺は専用の拡張領域に量子化されていた、大型のセントリーガンをコールする。元は対タイタン用のセントリーガンだが、束によって対IS用に調整されている。

 命中精度はまちまちだが、威力は十分。あとはアイツがこっちの攻撃に気づかないように目を潰す。

 

「リーゼ、レーダージャマーを起動する。電子防護レベルを引き上げろ」

 

『了解、ECMカウンターを起動します』

 

 リーゼに対電子妨害を施させた上で、手首のデバイスを操作しレーダージャマーを起動。周辺に電波障害を引き起こす特殊なフィールドを展開する。

 無線機やレーダーはもちろん、ISのハイパーセンサーも阻害できる束特製のジャミングデバイスだ。もちろん、対策済みの俺とリーゼには無害だが、ゴーレムⅠには影響大だ。

 

(次はカメラアイだ……!)

 

 クロークは起動させたまま、セントリーガンを起動させてゴーレムⅠへの攻撃を開始する。

 レーダージャマーによる阻害と、あらぬ方向からの攻撃。だがさすがはAIによる自動操作といったところか、その高出力のスラスターを駆使して被弾を最小限に抑えている。

 そして、ハイパーセンサーが妨害されていてもセントリーガンには気付いたのか、両手のレーザーキャノンをそちらへと向ける。

 

「隙ありだ」

 

 テルミットが仕込まれた手裏剣『ファイアースター』を取り出し、それを無人機の顔面へと投げつける。

 炸裂したテルミットがゴーレムⅠのカメラアイに降りかかり、その視界を奪う。これでしばらく何も見えまい。

 

「リーゼ!」

 

『ロードアウトを変更、専用シャーシを展開』

 

 俺の合図にリーゼのロードアウトが変更されて、丸みを帯びた重装甲のシャーシへと切り替わる。

 大型のテルミットランチャーを主兵装とする重量級タイタン、ロードアウト『スコーチ』だ。

 

『焼夷トラップを射出。パイロット、距離を取って下さい』

 

 センサーと視界を奪われたゴーレムⅠへ、リーゼが多量のテルミットガスを散布する焼夷トラップを射出する。

 足元へ着弾したそれは、周囲に可燃性ガスをばら撒き始めると──俺が投げつけたファイアースターのテルミットに引火し、爆発を引き起こした。

 高熱のテルミットの炎に巻かれるゴーレムⅠは、熱さなんて感じてないだろう。しかし、シールドバリアーは瞬く間に減衰していき、遂に二層目のシールドバリアーを完全に引き剥がした。

 

『パイロット、敵ISの増幅器への攻撃が可能です。シールドのリチャージが開始する前に破壊して下さい』

 

「分かってる!」

 

 焔の海の中で、両腕を振り回して暴れるゴーレムⅠ。増幅器は両肩に一つずつ、背部に一つ、計三つだ。

 俺は増幅壁を展開しながらセミオートのスナイパーライフル『ロングボウ』を呼び出し、まずは右肩の増幅器へと狙いを定める。

 

(当たれっ……!)

 

 増幅器に照準を合わせて数度トリガーを引く。放たれた強化された弾丸は増幅器を撃ち抜き、確かに破壊した。

 

「……!」

 

 全身のスラスターを噴射して、機体に付着したテルミットを吹き払うゴーレムⅠは、狙撃してきた俺にレーザーキャノンの銃口を向ける。しかし、いつまでもぼんやりしているほど俺もノロくはない。

 

「おっと、そっちは偽物だぞ?」

 

 ゴーレムⅠが放ったレーザーは、俺がホロパイロットで作り出したダミーを貫く。それが偽物だったとゴーレムⅠが気づいた時には、俺は既にグラップリングフックで背後へと取り付いていた。

 ゴーレムⅠは全身のスラスターを使って駒のように回転し、俺を振り下ろそうとする。だが、そう簡単に逃がしてたまるか。

 

「観念しやがれ!」

 

 拡張領域から武装をコール、呼び出したのはフルオートショットガン『EVA-8』。それを左肩の増幅器に押し当てて、弾倉が空になるまで撃ちまくる。

 外部取り付けのアタッチメントとはいえISの防御力だ。ショットガンが弾切れになっても、増幅器は中々破壊できない。

 

「ぬぐっ……けっこう硬いなぁ!」

 

 さらに大口径リボルバーの『B3ウィングマン』を取り出し、増幅器を撃ち抜く。そこでようやく増幅器は煙を吹き上げ、爆散した。

 

「……‼︎」

 

「うおおっ……⁉︎」

 

 両肩の増幅器を破壊されたことで焦りでも感じたのか、ゴーレムⅠは背中に俺を乗せたまま空中に飛び上がる。

 無茶苦茶な機動で飛び回るゴーレムⅠ、俺は引き剥がされないようにしがみつくのが精一杯だ。このままでは再びシールドをリチャージされてしまう。

 

『パイロット!』

 

 空中を飛び回る無人機に命中する青い閃光、そしてゴーレムⅠの動きが急激に鈍くなる。

 地上からゴーレムⅠを狙うリーゼの方を見れば、リーゼはロードアウトを『エクスペティション』へと換装し、背部のアコライトポッドを構えていた。

 

(今のはエネルギーサイフォンか! ナイスだぜ、相棒っ!)

 

 俺は拡張領域からサッチェル爆薬を取り出し、それを増幅器に複数貼り付ける。そして更に『MGLマグランチャー』を呼び出し、飛び降り際に磁気グレネードを射出する。

 

「これで三つ目、だ!」

 

 磁気グレネードがゴーレムⅠの装甲に張り付き、次々と炸裂していく。そしてそれはサッチェル爆薬にも誘爆し、大きな爆発音を立てて三つ目の増幅器を破壊した。

 

「お見事です、パイロット。素晴らしい動きでした」

 

「お前もナイスフォローだった、相棒」

 

 飛び降りた俺をキャッチしながら、サムズアップを見せるリーゼ。俺もそれにサムズアップで返してから、ハッチを開いてリーゼに乗り込むのだった。

 

「操縦権を移行……おかえりなさい、パイロット」

 

「ああ、ただいま、リーゼ」

 

 さて、そろそろレーダージャマーの効果も切れる。だが、まだ無人機の二層目のシールドを無効化しただけ。これから本体を潰さなきゃならんわけだが……

 

(ふむ、そろそろ先生方もゲートロックの解除が完了する頃か。そうすれば職員の制圧部隊がアリーナに雪崩こんで来るが……その前にこいつを仕留めなきゃ意味がない。ここは一気に勝負を決めるとしよう)

 

 残された時間はせいぜい二、三分といったところだろうか。何も問題はない、俺たちが本気を出せば十分すぎる時間だ。

 

「リーゼ、タイタンコアとISコアをリンク。第1アップグレードから第3アップグレードをアンロック、単一仕様(ワンオフアビリティ)を起動しろ」

 

 アリーナの地面に手をつき、ドームシールドを周囲に形成させる。そして、リーゼのシアキットが一層強い翡翠の光を放ち、各所の装甲が変形し始める。

 

単一仕様(ワンオフアビリティ)発動の要請確認。各コア間のリンクを確立。単一仕様(ワンオフアビリティ)……『イージスアップグレード』、起動シークエンスに移行します」

 

 

 ──

 

 

(あきれた……なんて無茶苦茶な……)

 

 無人機を相手に大立ち回りを披露したレイ・オルタネイトに、更識楯無は思わずため息が出てしまう。

 レイの実力に関しては、織斑先生との模擬戦で国家代表クラス、いやそれ以上のものであると楯無も認識していた。

 しかし、生身でISを相手に戦うなど常識外にもほどがあるというもの。さしもの楯無も驚きを隠せなかった。

 

(高精度のAIを搭載した彼のIS。その用途の一つがこれ、というわけね……なるほど、確かに彼は使()()()

 

 軍の諜報機関、スパイ、非合法組織……この学園の周囲では、常にISを利用して軍事的覇権を握ろうとする者たちの欲望で渦巻いている。それらからこの学園を守るために『更識』があり、楯無は生徒会長として裏で動いてきた。

 しかしやはり、圧倒的に駒が足りない。楯無一人だけでは対処するにも手が回らないこともある。そんな時は理事長や織斑先生の手を借りることもあったのだが──今は新たな駒が手元にある。

 束博士の助けがあったとはいえ、軍事基地一つを迅速に殲滅してみせる手腕と、何百人もの敵を殺すことも厭わない強靭な意志。レイが優秀な兵士であることは明白だ。

 

(本音ちゃんには監視を続行してもらうとして、これからは積極的に学園のために働いてもらおうかしら? もちろん、それ相応の報酬を用意して、ね)

 

 生徒の殆どが避難してしまった観客席で、楯無は一人観戦を続ける。手元にはお気に入りの扇子、今回は『期待』の二文字が書いてあった。それはもちろん、彼への期待を込めて……

 

(さて……職員の制圧部隊が突入するまであと2分ほど。それまでにケリがつくかしら?)

 

 

 ──

 

 

「第1アップグレード、上級シャーシへの換装。第2アップグレード、リアクター出力の上昇。第3アップグレード、ロードアウトによる武装制限の解除……指定アップグレードの搭載を完了。全システム、オールグリーン。イージスタイタン、オンライン!」

 

 リーゼの機体が専用の上級シャーシへと切り替わり、出力強化されたリアクターが唸りを上げる。

 そして、俺の脳とリンクしているタイタンコア、それに加えてISコアとのニューラルリンクが確立し、より俺とリーゼの繋がりが強くなっていく。

 

「パイロット、最大駆動時間は2分です。効率的な戦闘を心がけてください」

 

「分かってる、それよりもずっと早く終わらせるさ……!」

 

 単一仕様(ワンオフアビリティ)『イージスアップグレード』の起動が完了すると共にドームシールドが解除され、それを待っていたかのようにゴーレムⅠが空中から強襲してくる。

 連続して放たれるレーザーを出力の強化されたスラスターをもって回避しながら、俺は拡張領域から武装を呼び出す。

 

「拡張領域より武装をコール」

 

 いつものように、ロードアウトによってシャーシまで切り替えるのではなく、従来のISと同じように量子化による武装の呼び出し。

 俺の右手には先ほどまであったXO-16の代わりに、40mmトラッカーキャノンが握られていた。

 

「一気に行くぞっ!」

 

 VTOLホバーで空中に飛び上がりながら40mmトラッカーキャノンのバースト射撃を浴びせ、背部ユニットのアコライトポッドから無数のサルヴォロケットを射出していく。本来なら、このような装備の組み合わせのロードアウトは存在しない。

ISの装備は拡張領域に格納されるが、その容量には限界がある。リーゼはその限られた領域に、多量の武装やコア機能をロードアウトという括りで圧縮、格納していた。

故に武装の切り替えはロードアウト単位で行う必要があり、リーゼにはそういう機能の制限(リミッター)がいくつかある。リソースを節約するというのもあるが、多くはリーゼとパイロットである俺への負担軽減のためだ。

単一仕様(ワンオフアビリティ)『イージスアップグレード』はそういう制限を解除して、一時的に限界以上の性能を引き出すことができる。

 搭載するアップグレードのレベルと数によって負担は増減するが、この『武装制限解除』はかなりの高負荷だ。戦闘が長引けば、俺の脳が焼き切れる。しかしーー

 

「タイタン八機分の武装と戦術が詰まってんだ、無人機ごときに捌き切れるかよ!」

 

「サルヴォコア、オンライン」

 

 背部ユニットのアコライトポッドから多量の視認誘導性のロケットが放たれる。当然、ゴーレムⅠはそれを回避しようとするが、すかさずブロードソードへ武装を切り替え、アーク放電の斬撃『アークウェーブ』を至近距離で放つ。

 

「……⁉︎」

 

 アーク放電に自由を奪われたゴーレムⅠにいくつものロケットが命中し、その爆発の衝撃で地面に叩き落される。稼働時間は残り1分30秒、このまま仕留める! 

 

「拡張領域より武装をコール、プレデターキャノンを換装」

 

 40mmトラッカーキャノンから大型ガトリングガンのプレデターキャノンへと装備を切り替え、地面に墜落したゴーレムⅠへと突進する。

 即座に反撃の意思を見せるゴーレムⅠ。しかし、両手のレーザーキャノンが構えられると同時に、リーゼのフェーズダッシュが起動した。

 瞬時に亜空間へとテレポートするリーゼのシャーシ、ゴーレムⅠのレーザーが空を切り、再び俺とリーゼが姿を現した時には既に懐へと入り込んでいた。

 

「おおおっ!」

 

 プレデターキャノンの銃身をゴーレムⅠに押し当て、そのまま頭上に担ぎ上げる。そして、押し当てた銃口をそのままトリガーを引く。

 凄まじい連射音と共に無数の薬莢が吐き出され、ゼロ距離で叩き込まれる弾丸が激しく火花をあげてシールドを削り取っていく。

 そして弾丸が尽きると同時にプレデターキャノンごとゴーレムⅠを地面に叩きつけると、両腕の装甲を展開して膨大な熱量を発する。

 

「フレイムコア……起動!」

 

 地面に突きつけられるリーゼの両腕から放たれるテルミットの熱波。アリーナの地面をも黒く焼き尽くしながら、テルミットの熱波はゴーレムⅠをアリーナの壁まで吹き飛ばした。

 

「敵ISのシールドバリアーの減衰を確認」

 

「よし、じゃあ後は……」

 

 吹き上げられた煙を突っ切って、リーゼに殴りかかるゴーレムⅠ。だが、それはあっさりとリーゼに片手で受け止められる。

 

「コアを潰して終いにしようっ……!」

 

 背部ユニットのアコライトポッドから放たれるレーザーショット、もはやゴーレムⅠにはそれを耐えるだけのエネルギーも残ってなかったのか、レーザーはあっさりと右腕を撃ち抜き切断した。

 そして切断した腕を鈍器代わりに殴りつけ、プラズマレールガンをコール。ふらつくゴーレムⅠへ素早く足払いを繰り出し地面に転ばせると、上から飛びかかるようにプラズマレールガンの銃口を突きつける。

 

「……チェックメイトだ」

 

 最大までチャージされたプラズマレールガン、シールドバリアーも失いフレイムコアに灼かれたゴーレムⅠにそれが耐えられるはずもなく、放たれた弾丸は完全に装甲を撃ち貫いた。

 暫くは僅かにカメラアイを動かしていたゴーレムⅠも、遂にはピクリとも動かなくなる。完全に機能が停止したのだろう。

 

「対象の沈黙を確認。コアの摘出に移行します」

 

 リーゼが無人機の装甲を引き剥がし、剥き出しになった擬似パイロットにマニピュレータをかざす。そして、束特製のハッキングシステムで、ISコアの摘出を開始する。

 ヘルメットの内側に、無数の数字の羅列が右往左往する。リーゼが凄まじい速度で演算をしている証拠だ──が、それもすぐに終わる。

 

「……全システムを掌握、コア摘出を完了しました。どうしますか、パイロット?」

 

「……潰せ」

 

 リーゼが無人機にかざしていたマニピュレータを高く掲げる。その手には、僅かに光を放つISコアがあった。

 世界中の国々が喉から手が出るほど欲しがるISコア、僅か467個しかないはずのそれを──俺はこれ見よがしに掲げたまま握りつぶした。

 きっと見る人が見れば、激怒するどころか怒りで俺に銃を向けてもおかしくないぐらいに、勿体ないことかもしれない。だが、俺の知ったことではない。

 俺の仕事はこの学園を守ることで、こいつはそれを脅かす存在だった。敵はなんであろうと、確実に潰す。……まあ、こいつは束が送り込んだきたんだけど……

 

「任務完了だ。単一仕様(ワンオフアビリティ)を解除してくれ」

 

「了解、お疲れ様でした、パイロット。我々の戦闘効率評価は、また大きく向上しました。いい傾向です」

 

「そうかい、そりゃよかっ──痛っ……⁉︎」

 

 ニューラルリンクが解除されると同時に、身体中の筋肉が悲鳴をあげ、頭に鋭い痛みが走る。少し、単一仕様(ワンオフアビリティ)を長く使いすぎたようだ。

 

(こりゃ三日くらいは筋肉痛だな……)

 

 リーゼのコクピット内で小さくため息を吐く。そして、この後に控えているだろう後片付けに、今度は別の意味で頭を痛めるのだった。

  

 




タイタンの処刑モーションは容赦ないのが多いので、描写的にIS相手にはやりにくいです。
だってタイタンが可愛い女の子をISから無理やり引き剥がして握りつぶしたりするんですよ?絵面的にヤバい

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