Infinit Fall :Re   作:刀の切れ味

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リア友が日間ランキングに載ってたことを教えてくれました。ヤッター!
長ったらしくて中々話が進まない本作ですが、読んでくださった皆さんに感謝!



Log.19 要観察:パイロットの変化

 椅子に座る、人間生きてるなら日に何度かはそういう動作をする。普通の人ならばなんて事のない動作、しかし、今の俺にはそれがなんとも辛い動作だった。

 

「いっ……〜〜……っ!」

 

 太ももの裏側や背筋に走る痛み。関節という関節が悲鳴をあげて、俺の脳に動かないでくれと訴えてくる。

 目尻に涙が浮かびそうになるのを堪えて、なんとか椅子に座る。この歳になって……いや、今は十代の子供の体だけども。いい歳した大人が涙するのはあまりにみっともない。

 

「……随分と辛そうじゃないか」

 

「先生に使用した時よりも無茶しちゃったんですよ……うっ……!」

 

 学園内の保健室、そこのベッドで未だに眠ったままの一夏。俺は織斑千冬に説教されるついでに見舞いに来ていたのだ。

 しかし、これじゃあ俺の方が入院したい気分だ。単一仕様(ワンオフアビリティ)を使用するとかなりの反動があるのは分かっていたが、今回は少し無茶しすぎた。

 

「一夏の怪我は大したことないそうで」

 

「ああ、全身に軽い打撲を負った程度だ。数日は地獄だろうが」

 

 腕組みをしながら一夏を見る織斑千冬は、少しだけ柔らかな表情をしていた。やはり、なんだかんだ言って弟が大事なんだな。

 

「……今回のことで、俺に色々と聞いたりしないんですか?」

 

「おおよそは……検討がついている。お前も命令に従っただけだろう」

 

「察しがいいですね」

 

「お前のISといい、先ほどの襲撃者といい、あいつはいとも簡単にオーバーテクノロジーを創り出す……今回の件は不問にしておくが、あまり勝手な行動は取るな。いいな?」

 

「それは約束できなっ……ああ、はい、約束します。勝手なことしません、だからその拳を下ろしてくれませんか……⁉︎今殴られたらシャレにならない」

 

「ふん……」

 

 アリーナを襲撃した二機の無人機、俺がその二機目を撃破したその直後に職員の制圧部隊がアリーナに突入し、早急な事後処理が行われた。

 負傷した一夏は搬送され、破壊された無人機は鑑識に、そして俺は織斑千冬含む教師陣に説教された。

 凰鈴音や箒だって随分と無茶をしたというのに、俺だけ格別に説教された。分かってたとはいえ納得いかん。

 

「お前のは度がすぎると言っているのだ。あの程度の相手、単一仕様(ワンオフアビリティ)を使わずとも撃破できただろう。私との手合わせはまぐれだったのか?」

 

「買いかぶりですよ。貴女の時とは状況もまるで違うじゃないか」

 

「それでも、だ。私をあれほど滾らせたんだ、できんとは言わせん」

 

 どこか好戦的な笑みを見せながらそう言う織斑千冬に、少し背筋に悪寒が走る。

 腕を買ってもらうのは嬉しいことではあるが、また俺と模擬戦でもしろとか言い出しそうで怖い。こんな化け物と戦うのは一回で十分だっての。

 

単一仕様(ワンオフアビリティ)の実戦データが欲しかったとか、俺自身の手であいつを仕留めたかったとか、理由はいろいろありますけどね。出し惜しみしても仕方ないじゃないですか」

 

「馬鹿者、だからといってそう簡単に切り札を見せるな」

 

「まさか、リーゼにはまだまだ先があります……本当に奥の手ですが」

 

「ほお……」

 

 またもや織斑千冬が興味深いと言わんばかりに眉をひそめる。これ以上はやめておこう。それこそ簡単に切り札を見せるな、だ。

 

「──っ……」

 

「おっ、ようやくお目覚めか」

 

 ベッドの上で呻き声を漏らす一夏。ここからは姉弟二人の時間だ、俺はお暇させてもらうとしよう。

 

「織斑先生、せっかくですから一夏の奴を褒めてやったらどうですか?あの無人機は、ISに触ったばかりのルーキーがどうこうできる相手じゃない。凰鈴音の助けがあったとはいえ、一夏はパイロットの素質十分でしょう」

 

「当然だ、こいつは私の弟なのだからな」

 

 ……なんて説得力なんだ。だけど、確かにそうだな。あの世界最強の弟で、強くなることに関しては誰よりも実直で真摯な男だものな。

 

「じゃあ、俺は失礼させていたっ──うっ……!」

 

 椅子から立ち上がる際に、腰に走る激痛に息を詰まらせる。そして俺は、痛む腰を庇うようにヒョコヒョコと歩きながら保健室を後にするのだった。実に情けない。

 

「うぐっ……しんど……!」

 

 壁に手をつきながら、寮の自室を目指す。早いところベッドの上で横になりたい。椅子に座るのも立ってるのも勘弁だ。

 しかし、保健室を出てすぐの曲がり角で、俺はある人物とばったり出くわしてしまう。長めのポニーテールと、どこか束に似た顔つき。それは篠ノ之箒だった。

 

「お前は……」

 

「……」

 

 基本的に俺への当たりが強い箒、しかし、今はどこか落ち込んだような雰囲気だ。いつもの刺々しい感じがあまりしない。

 

「一夏はそろそろ目覚めるぞ。お前も顔を見せてやるといい」

 

「ほ、本当か……? よかった……」

 

 一夏の無事を聞いて安堵の表情を見せる箒。笑みばかり浮かべてる束と違って怒の表情ばかりな箒だったが、今だけは柔らかな表情をしていた。

 先ほどの織斑千冬と同じだ。どうにも、一夏は周りからよく愛されてるみたいだ。

 

「その、お前には……言っておかなくてはならないことがある」

 

「……なんだ?」

 

 箒は少し言いづらそうにしていたが──なんと俺に軽くを頭を下げたのだ。俺も思わず驚きが顔に出てしまう。

 

「私はお前に礼を言わねばならない。お前がいなかったら、私は……」

 

「あー……うん……」

 

 一応、俺が無人機から助けたことに関して礼を言っているのだろう。意外にも素直なところもあるじゃないか。

 しかし、実はあの無人機は束が開発したもので、一夏と戦わせるために送り込んだのだ、と言ったら箒はやっぱり怒るだろうか。絶対怒るだろうな、言わないけど。

 

「か、か勘違いするなよっ! 決してお前を信用したわけじゃないからな!」

 

「わ、分かってるって……ほら、早く一夏のところに行ってやれって……」

 

「言われるまでもないっ!」

 

 俺に礼を言ったのが気に食わなかったのか気恥ずかしかったのか、箒はさっさと保健室の方へと足を向ける。

 その背中を見送りながら、俺は体の痛みと……頭の奥に疼くような頭痛に苛まれながら自室を目指すのだった。

 

 

 ──

 

 

「ふぁ──あっ⁉︎」

 

 欠伸をしながら背筋を伸ばすと同時に、背中がピキリと嫌な感触を覚える。そして走る激痛。年老いたジジイっていうのはこういう感じなのかな。

 

「大丈夫ですか、兄様?」

 

「あ、ああ……大丈夫……じゃないな、あまり」

 

 椅子にゆっくりともたれかかりながら、またため息が出てしまう。サラと本音が心配そうに声をかけてくれるが、正直この筋肉痛は地獄だ。

 

(確かに、従来のタイタンにはできないことを、ISコアの力で無理やりできるようにするんだから、そりゃ負荷もかかるだろうけどさ……)

 

 本当は自分のベッドでゆっくり休もうと思って寮の部屋に戻ってきたのだが、何故か俺のベッドには、本音がぐっすりと熟睡していたのだ。

 まあ、ベッドを間違えただけなんだろうが、俺が本音のベッドを使うわけにもいかないので、無理して椅子に座ってるわけだ。

 最初はサラが本音を起こそうとしていたが、それをやめておいた。本音は無理やり起こされるのを何より嫌うのだ。

 

「兄様、お茶を持ってきたのですが……」

 

「ああ、ありがとう。いただくよ」

 

 サラがわざわざ自販機で買ってきてくれたペットボトルのお茶を受け取って、キャップを開け……ようとするのだが、どうにも指に力が入らない。

 指先に力が入らないのはただの筋肉痛のせいじゃない。単一仕様の反動で、脳や神経に負担をかけすぎたせいだ。

 タイタンもISも、その操作方法が人の脳と神経を通した感覚操作ゆえに、こういうダメージのフィードバックは避けて通れない。

 

(こりゃ多用すればすぐに体がぶっ壊れるな。束のやつめ、もっと優しい仕様にしてくれりゃよかったのに)

 

 震える指で蓋を開けて、零さないようにしっかりと両手でボトルを支えて少しお茶を口に含む。冷たいお茶の清涼感のおかげで、幾分体の痛みも和らぐ。

 

「その……兄様、本当に大丈夫なのですか? サラには兄様がただ疲れているようには見えないのです」

 

「疲れてるのは本当だ。ま、確かに俺も想像以上の反動を食らってるけどな」

 

「そうなのですか……でしたら、何か必要なことがあればサラに言ってください。先程は私は何もできなかったので、せめて今くらいは……」

 

「いや、大丈夫だ。心配は無用だよ、だからサラも自分の部屋にも……」

 

「いえ、ダメです。兄様が落ち着くまで、サラが一緒にいます」

 

「おい、俺に選択権はないのか」

 

 頑なに部屋に残ろうとするサラ。ああ、これは何を言ってもダメなやつだな。

 

「……分かった分かった。じゃあそうだな、しばらく俺の話し相手にでもなってくれ」

 

「はい!」

 

 嬉しそうに頷くサラに、ついこちらも頰が緩んでしまう。リーゼは今、戦闘ログのデータフィードバックのためにスリープ状態にあるからな、せめてそれが終わるまでの話し相手になってもらおう。

 

「サラはこの学園に来て、今のところで一番楽しかったことはなんだ?」

 

「一番楽しかったことですか? えと、そうですね……一番は……」

 

 俺の問いに対して、眉間に皺を寄せて考え込むサラ。しかし、どれだけ考えても答えは出てこない。

 

「初めて女の子の友達ができたこと? いや、つい夜更かししてお喋りしてしまったことでしょうか……ううん、それでもない……」

 

「随分と悩んでるな」

 

「あ、あぅ……すみません兄様、私には『一番』が多すぎて決められないのです」

 

「ははっ、そうかい。それだけ楽しことばかりってわけだ。羨ましい限りだよ」

 

「兄様はやっぱり……大変なことばかりなのですか? ここでの生活は、楽しくないのですか?」

 

「いや、前にも言ったが楽しくないわけじゃないんだぜ。そりゃ楽しいに決まってる。ただ……」

 

 俺はやはり場違いな気がしてならない。ここにいる皆は、俺の目にはとても純粋で眩しく映るのだ。ときおり、一緒に横で笑うのがおこがましく感じてしまうほどだ。

 そんな皆にもし、俺が沢山の人を殺めてきたと知られたらどう反応するだろうか? 楯無はああ言っていたが、快く思う人なんていないだろう。

 

(今日戦った無人機、仮にアレが無人じゃなくて有人だったとしても、俺は同じように戦った。そして、皆の前で容赦なくパイロットも殺した……かもしれない)

 

 まあ結局のところ嫌われようが何しようが、殺すときは殺すだろう。むしろ、そういう事を気にするようになった俺が変わったというべきか。

 

(そりゃあなぁ……あんな真っ直ぐな目をした奴らの前じゃあな、つい引き金引くのも迷ってしまうじゃないか。俺だって嫌われるのはゴメンだぜ、特に可愛い娘にはな)

 

 俺のベッドで熟睡してる本音を一瞥しながら、俺は椅子に深く背を預けながら息をつく。

 我ながら女々しいことを言ってるのは分かっている。だが、一度期待してしまったのだから仕方ないじゃないか。

 俺が戦場で費やし捨ててしまった青春。それをこの世界に来た今なら、この学園の来た今なら取り戻せるのではないか、と。そんなことを思ってしまったのだから。

 

「私は昔の兄様のことを知っているわけではありませんが……貴方はきっと変わりました」

 

「……どうしてそう思う?」

 

「だって私たちが初めて出会ったあの時──貴方は私を殺さなかったじゃないですか」

 

 そう言ってはにかむサラ。思わず俺はきょとんとしてしまうが、少し吹き出して苦笑してしまう

 互いに敵として出会って、今はこんなことで笑い合える仲にある。そう思うと俺とサラは随分と奇妙な関係だ。しかしサラの言う通り、アレは俺の分岐点だったのかもな。

 

「表情とセリフがいまいち噛み合ってないな、おい」

 

「そ、そんなことないですよ……ともかく! 兄様は変わりましたし、これからも変わります! サラが保証するのです!」

 

「んん、そうだな。いつか皆が俺の魅力にときめいてくれるよう、イメチェンしないとな」

 

「え、いや……イ、イメチェンしなくても十分ですよぅ……」

 

「何? 今でも十分だって? 褒めんなよ、照れる」

 

 サラとくだらない会話で笑いながら、俺はポケットからハッカキャンディを取り出して口に咥える。しかし、このキャンディは禁煙のためと言っていたが、やっぱりまだタバコ吸いたいぜ。

 

『パイロット、学園内での喫煙、飲酒は禁じられています』

 

「んっ……ああ、ようやくお目覚めかい?」

 

「システム、再起動……通常モードに移行。おはようございます、パイロット」

 

「時間的には『こんばんわ』だな、リーゼ」

 

 デバイスの緑光を点滅させながら、ずれた挨拶をするリーゼ。どうやら学習は無事に済んだようだ。

 

「パイロットから身体的負荷を多数検知、今日は早めの就寝を推奨します。疲労を回復させましょう」

 

「いや、そうしたいのは山々なんだが……」

 

「兄様、やっぱり本音さんを一度起こしましょう。私たちが横で話をしていても一向に目を覚まさないのですから、朝までこのままな気がするのです」

 

「んー……そうだな、そろそろ退いてもらうか。俺も座ってるのが辛くなってきた」

 

 重い腰を上げて本音を起こそうとする……が、サラに座っているように窘められてしまう。

 確かに今の俺じゃ本音を抱えることすらできやしないが、サラにそこまで手間をかけてしまうのも申し訳ないもんだ。

 

「ほら、本音さん。そこは兄様のベッドなんですから、そろそろ起きるのです……そもそも、なぜ兄様のベッドで寝てるのですか」

 

「うーん……むにゃむにゃ……」

 

 サラが本音を起こそうとしているが、やはり手こずっているようだ。本音の寝癖は色々とひどいからな。

 

『パイロット……少しよろしいでしょうか』

 

『ん? どうした、リーゼ』

 

 あえて思考通信で話しかけてくるリーゼに、俺も口に出さないように返答する。何やら周りには聞かれたくない話のようだ。

 

単一仕様(ワンオフアビリティ)についてです。今回の戦闘では、パイロットは単一仕様(ワンオフアビリティ)のアップグレードを3種搭載し1分16秒稼働させました』

 

『……それで?』

 

『短時間の発動でもパイロットに大きな負担がかかりました。その結果、パイロットの脳神経には多大な負荷がかかり、現在のような身体障害が発症しています』

 

『ふむ、やはりそうか。だがそれはイージスアップグレードそのものの負荷というよりは……ISコアに接続することによる負荷だろう?』

 

『その通りです。本来なら女性にしか扱えないISコアに男性である貴方が強制リンクするのです。恐らく多用すればパイロットの人格、記憶、感情など、多くに影響を及ぼすでしょう』

 

『そりゃゾッとしない話だな。そのうち頭の中が女性になっちまったりするのか?』

 

『有り得ない話ではありません』

 

「……えっ、マジで?」

 

 思わず言葉が口から出てしまう。おいおいおい、それは勘弁してくれよ。この作品はTSものじゃねぇんだぞ。

 いや、どちらかというと体は男で頭の中が女だからオカマか? どっちにしろイヤだよ。俺にそういう趣味はないんだ。

 

「本音さん、いい加減に……きゃっ! ちょっ……どこ触ってるんですか⁉︎」

 

「おお〜……ちっちゃいけど柔らかマシュマロだぁ〜」

 

「やめてください! 服がはだけちゃっ……あぁ!」

 

「……?」

 

 ……何やら後ろが喧しいな。一体何が起きてるんだ、本音を起こすだけなのに、何故そんな色っぽい悲鳴が聞こえる? 

 

「おい、大丈夫か?」

 

「だ、大丈夫です! 大丈夫ですから、兄様は絶対に振り向いちゃダメなのですっ!」

 

「お、おお……」

 

「ホントに大丈夫ですからっ……わあっ! 本音さんまでそんな格好で……! ちゃんと服を着てください、兄様がいるんですよ⁉︎」

 

 うーん、気になる。どうなってるのか凄い気になる。俺の後ろのベッドで何が繰り広げられてるんだ。

 振り向きたいけど、それをすると流石にサラも怒るに違いない。なのでここは振り向かずに後ろを観察させてもらうとしよう。

 

『リーゼ、周囲をスキャンして、俺と視覚共有してくれ』

 

『了解、周囲のスキャンを開始……』

 

 後ろで騒いでるサラには聞こえないように、思考通信でリーゼに指示を出す。これなら後ろを振り向かなくても、どうなってるかじっくり観察できるじゃないか。

 

『周囲のスキャン完了、パイロットとの視覚きょ…………』

 

『……ん? どうした?』

 

『プロトコル3、パイロットの保護』

 

『は?』

 

『この情報はパイロットに悪影響を与える可能性があるため、視覚共有は推奨できません』

 

『はぁ?』

 

 俺との視覚共有を拒否するリーゼ。悪影響を及ぼす情報って……一体何が起きてるんだよホントに! 

 既に後ろから聞こえてくる色っぽい声だけで悪影響でてるけどな? 俺に影響ありまくりだからな。

 

『……このままではR-18タグを付けざるを得ないでしょう。それとも、パイロットは百合好きなのですか?』

 

『そんなに? 尚更気になるんだけどっ……いや違うよ? 俺はそういう趣味ないから。普通にノーマルだから。ただちょっと覗いてみたいだけだからな?』

 

『では、妹萌ですか? それはそれで──』

 

『それも違ぇよ! いつになくオカシイなお前! さっきまで何の学習してたんだよ⁉︎ 単一仕様使ったせいなのか⁉︎ お前にも悪影響出まくりじゃねぇのか⁉︎』

 

 それからどれだけ頼んでも、リーゼは視覚共有を許可してくれなかった。バンガード級タイタンのAIに課せられたプロトコルが、こんなところで弊害になるとは思わなかった。

 しかし、そうやって俺がリーゼをなんとか説得しようと躍起になっていた時だった。

 

「おいレイ! 大変だっ!」

 

「一夏……⁉︎ お前もう起きても大丈夫っ──いや待て! 馬鹿っ、入ってくんな!」

 

 勢いよく扉を開けて入ってきたのは……俺はそちらの方を振り向けないが、恐らく声からして一夏だ。さっきまで保健室で寝てたのに、随分と元気そうだ。

 しかし、俺が発した警告も虚しく、部屋に入ってきてしまった一夏は、きっと見てしまったに違いない。

 何を見たかって? そりゃきっとあられもない格好をしたサラと本音を、だ。

 

「さっき山田先生に会ったんだけど、今度また二人も転入生が来るらしいぞ! しかもそのうちの一人は……ん?」

 

「い……っ⁉︎」

 

 一瞬の沈黙。そしてすぐその後に……

 

「いやあぁぁっ⁉︎」

 

「──っ⁉︎」

 

 部屋に響くサラの悲鳴、それに続いて聞こえる鈍い打撃音。それに混じって、一夏の悲鳴も聞こえてくる。

 

「パイロット、貴方の教科書が飛び道具として投げ飛ばされています」

 

「ソイツハタイヘンダー……ちょっと振り向いて様子を見てみよう」

 

「兄様は振り向かないでくださいーっ⁉︎」

 

「あっ、はい……」

 

 どうやらサラはベッドの横に置いてあった俺の教科書を、一夏に向けて投げまくってるようだ。あの辞書みたいに分厚い教科書だ、当たれば相当痛いだろうな。

 まったく、どうしてこうなった。この事態をどう収拾つけたらいいだろうか。俺は後ろでけたたましく騒ぎ立てるサラたちに盛大にため息を吐きながら、先ほどの一夏の言葉を思い出す。

 

(転校生が二人……このクラスにか? あー……また何か波乱が起こる予感しかしないな)

 

「こっちを見ないでください織斑一夏っ‼︎」

 

「分かっ……分かってるって! だから、その教科書投げるのは──ぐはっ⁉︎ 俺怪我人なんだけど⁉︎」

 

「だったら! さっさと! 出てってくださいよっ⁉︎」

 

 もはやベッドで横になることを諦め、俺は机に突っ伏す。しかし、一夏はラッキーだな。今度サラと本音がどんな格好してたか聞いてみよう。

 それから俺はすぐに眠りにつく──ことはなく、しばらく喧騒の中で一人悶々としているのだった。

 




サラ「変わればいいじゃないですか、今日から」

レイ「か……変われるかなぁ⁉︎オレ変われるかなぁ‼︎⁉︎」

≡≧['°ω°']≦≡ ム リ 

ボーボボは絶版だァ……

それはさておき、ここまでで大体原作一巻分です。まだまだ続きますのでどうぞお付き合いを〜

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