フロンティア星系にある未開拓の惑星『タイフォン』。以前からIMCの残留艦隊が拠点を築いていた惑星であり、我々はこの惑星にIMCが重用する何かがあると判断。詳細を調査すべく、特殊作戦217を発動。エリ・アンダーソン少佐を指揮官とした部隊にタイフォンの偵察を任せた。
その結果、IMCは『フォールド・ウェポン』と呼ばれる超常の兵器を開発しているとのこと。我々、特殊偵察中隊SRSはミリシア第9艦隊を動員し、特殊作戦217の支援を行うべくタイフォンへ降下する『ブロードソード作戦』を開始した。
授業も終わりようやくの昼休み。今日の昼食はいつもの食堂ではなく、なんと屋上で優雅にランチだ。
今日は珍しいことに、一夏らと一緒である。いつもだと周りの三人娘に追い出されてしまって、一夏と飯を食うことはあまりなかったのだ。
だが、今日はその三人娘が俺の同席を許可したのだ。どうやって一夏と二人きりになれるか狙ってるあいつらが、同席を許してくれるなんて珍しいにも程がある。
まあ、箒はなんだか悔しそうな表情をしてたし、俺以外にもサラやデュノアも加わっているけれども。
「ほら、一夏。これあんたの分よ」
「おお! サンキュー、鈴!」
「ゴホン! 実は一夏さん、わたくしも今日はサンドイッチを作ってきたのですが……」
「お、おう……」
「一夏! 私の弁当の方が先だろう!」
……とまあ、こんな感じにだな。一夏はわざわざ昼飯を作ってきてくれた三人娘に囲まれて、色々と忙しそうにしていた。可愛い子に弁当を作ってきてもらえるとは羨ましい奴め。
目の前で見せつけるんじゃない、自分で自分に弁当を作ってる俺が悲しくなってくるだろ。俺の分だけじゃなくてサラの分もあるけど。
「わあ、私の分まであるんですか? ありがとうございます、兄様!」
「是非味の感想を聞かせてくれ」
俺が今日作った弁当は、味噌野菜炒め弁当だ。日本には色んな調味料があるが、中でも味噌はかなり気に入ってる。
醤油や出汁もいい味してるが、やはりあの味噌の風味がたまらん。なんでも、日本特有の日本酒とやらとよく合うそうだが、是非とも試してみたいもんだ。
「……はいっ! とっても美味しいのです! 味噌の風味は初めての体験ですが、すごく癖になる味なのです」
「うーむ……まだ改善の余地ありだが、及第点、ってところかな」
ミリシアにいた頃は、不味いレーションや缶詰をなんとか美味く食えないもんかと、色々と工夫していたもんだ。
そこからちゃんとした料理ってものにも興味が出て、色んな料理を作るようになったのだ。
(原生生物をとっ捕まえては、試しに焼いて食ったりしてたっけ……懐かしいな)
フロンティアでよく見る爬虫類のような原生生物、名前はブラウラーだったかな。アレはなんだか残念な鶏肉みたいな味がした。つまり、不味くて食えたもんじゃない。
「君は料理が上手なんだね」
「デュノアは料理しないのか?」
「僕も料理は結構好きだよ。でも、僕は小食だから……あんまり沢山は作らないかな」
俺はデュノアと何気ない歓談をしながら、その様子を観察する。男とも女とも取れる中性的な顔立ち、そして紳士的振る舞いから、事前に男子と聞かされているものは疑いもしないだろう。しかし……
「ふぅん、小食ね……見た目と相まって女子みたいだね、お前」
「……!」
一瞬、肩をビクつかせるデュノア。すぐに笑顔を浮かべて取り繕うが、誤魔化しきれていない。やはり間違いないようだ、デュノアは男子ではなく女子だ。
「ん? シャルルはダイエットしてるのか? 別に太ってないだろ」
「はぁ……これだから男は……なんでダイエット=太ってる、になるのよ」
「そうは言ってもな……」
「……おい、一夏! 何をジロジロ見ている! 不埒だぞ!」
「女性の体を凝視するなんて、デリカシーがありませんわ!」
隣で騒がしく、しかし楽しげに昼食を進める一夏たち。サラも俺の弁当を美味しそうに頬張っていたが、俺とデュノアの間だけ冷たい空気が漂っていた。
「さて、俺は少し席を外させてもらうよ」
「……兄様?」
「ちょっとお手洗いに、な」
呆然とした表情のデュノアはそのままに、俺は席を立つと屋上の階段を降りる。そしてコアネットワークの思考通信である人物をコールする。
『……貴方から連絡してくれるなんて珍しいわね。明日は雨かしら?』
『急を要する報告があるものでね。冗談はそれくらいにしておいてくれ、楯無』
俺が思考通信で呼び出したのは、生徒会長の楯無。もちろん、その要件はデュノアが、実は女性であるということである。
『例の転入生、シャルル・デュノアのことなんだが……』
『ああ、彼が……じゃなくて実は彼女だってことかしら?』
『……! 知ってたのか?』
『ええ、知ってるわよ。貴方や織斑くんのようなイレギュラーがそう何人もいるわけないでしょ?』
『知ってて情報を伏せてたのか……俺がどう動くか試したな』
『いやん、そう怒らないでちょうだい。貴方たちならきちんと見抜いてくれるって信じてたわよ』
相変わらず食えないやつだ。まあそれはともかく、デュノアが何のために性別を偽っているのか、その目的はハッキリさせとかなきゃならん。
なにより、身分を偽ってこの学園に入学するというのは立派な犯罪だ。例え国の干渉を受けないこの学園であったとしても、罪を犯せば裁かれる。
もしデュノアが悪意を持ってこの学園に来たのなら、一夏や箒に害なす存在なら、早急に排除しなくてはならない。
『で? デュノアは今すぐにでも捕らえるか?』
『いえ、しばらくは様子見よ』
『様子見? それでいいのか』
『そうしてもいい理由があるの。後で貴方にこちらが調べた資料を送るけど……それを見れば分かるわ』
『そうか……お前がそういうならそれに従う。だが、もしもの事態になれば、それ相応の対応を取る。それでいいな?』
『構わないわ。それじゃ、すぐに資料を送ってあげるから、貴方は暫く監視を続けてちょうだい』
『了解した』
楯無との通信が途切れると、すぐに例の資料がリーゼの元へ送られてくる。そこには、俺個人では知り得なかった転入生二人の情報が載っていた。
(ラウラ・ボーデヴィッヒ……ドイツ軍のIS配備特殊部隊『シュバルツェ・ハーゼ』の隊長。階級は少佐……俺よりもずっと上の階級じゃないか。そして……こいつは……!)
ラウラについて明記されている情報、それは俺が思っても見ない事実だった。まさか、あいつにそんな過去が隠されていたとは……
だが、これで織斑千冬を敬愛する理由も分かった。一夏に対してあんな態度を取る理由も、な。
(シャルル・デュノアの方は……あぁ、なるほど。こいつはこいつで……)
デュノアがなぜ男装してまでこの学園に来たのか、その理由もなんとなく察しがついた。それくらいに、デュノアの過去もまた暗いものだった。
(うーむ……これは確かに、一筋縄じゃいかなそうだ。どう収拾をつけたらいいものか)
強引な手立てに出れば、変に国同士の諍いが起きる。楯無はそう言って荒事を起こすことを余り許容してくれない。
もちろん不要にお国の恨みを買うのはこっちも望むところじゃないが、泥沼の政治的駆け引きにまで首を突っ込むのは俺としてはゴメン被りたい。
(念のために取っておいた
そうやって俺が眉間に皺を寄せながら思案していると、リーゼが思考通信で俺に話しかけてくる。
『パイロット、一つよろしいでしょうか』
「んあ? どうした?」
『私のシャーシの整備、及び弾薬補給についてです』
「……補給について?」
『度重なる模擬戦で、束博士から支給されていた一部の弾薬の残数が半分以下となっています。このペースでは弾薬不足は必至です、早急に補給手段を確立する必要があるでしょう』
「マジか……あんだけたんまりあった弾薬が底を尽きそう、だと?」
俺がこの学園に転入した際に、匿名でいくつものコンテナが俺に送られてきた。そのコンテナの中身は、リーザの修理用の予備パーツや弾薬などの消耗品だった。うさぎのマークが付いてたし、アレは束が気をきかしてくれたのだろう。
しかし、それが今底を尽きようとしている。束は二度も面倒を見てくれないだろう。どこからか自分で調達しなきゃならんかもしれん。
(どうしよう……弾薬が尽きたらブロードソード一本で戦うはめになっちまうぞ)
ここで以前の無人機との戦闘や先日のセシリア、鈴との模擬戦で消費した弾薬を簡単に計算してみる。
(えーと、トーンの40mmトラッカーキャノンが3マガジンと、イオンのスプリッターライフルが……4回くらいリロードしたっけか。あとサルヴォコアで多量のロケット消費して、電気スモーク、焼夷トラップ、ワイヤートラップも使ったな……うっわ、使いすぎじゃね?)
自分が殆ど補給が得られない状況だと今更ながらに気づき、思わず頭を抱えてしまう。
しかし節約なんてできるほど、ISの相手をするというのは容易なことじゃない。一応は束に頼ってみるが、ダメだったら自分で補給路を確保せにゃならん。
「……楯無に相談してみるか」
余りアイツに弱みを見せるのは本意ではないが、この先ブロードソード一本で専用機持ちたちとやり合うなんて、俺には無理だ。それこそ織斑千冬ぐらい、化け物じみた実力がなければやってられない。
今の俺に必要なものは、金とコネだ。そして、そのどちらも持っていて俺の問題を解決してくれそうなのは楯無しかいない。
しかし、アイツに借りを作るというのは、後々ロクなことにならない。絶対に良いことにはならない、断言してやる。
(背に腹はかえられないもんなぁ……)
戦争するには金がいる、昔からそれは変わらない。例え国同士の戦争でも個人の戦争でもだ。俺は渋々とまた楯無にコールし、補給について相談を持ちかけるのだった。
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