Infinit Fall :Re   作:刀の切れ味

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少し間が空いてしまいました……決してゲームばっかりやってたわけじゃないんです


Log.25 データ更新:シャルル・デュノア

 IS学園の寮の自室。先ほどまで椅子に座って居眠りしていた俺は、口の端から垂れかけていた涎を拭って、大きく背伸びをしていた。

 最近はよく昔の……ミリシアのパイロットだったころの夢を見る。今頃になって走馬灯でも見ているのだろうか? 

 

「くしゅん! ……うーん……」

 

 横から聞こえてくる可愛らしいくしゃみ。ベッドに視線を向ければ、そこには着ぐるみパジャマに身を包んだ本音が、布団にくるまって寝ていた。

 ただ、いつもののほほんとした雰囲気はない。赤く染まった頰と額に貼った熱冷まシートが、彼女が風邪を引いていることを物語っていた。

 

「大丈夫か?」

 

「大丈夫だよぉ〜……うー……」

 

「全然大丈夫に見えないな……林檎でも食うか?」

 

「んん……」

 

 今のは食べたいっていう返事か、それともいらないのか。まあどっちでもいいか、とりあえず一つ剥いてしまえ。いらないなら俺が食う。

 俺は先ほど本音の様子を見に来た楯無が置いていった果物籠から、林檎を一つ取り出す。ちなみに他にもキウイやびわがあった。太っ腹な差し入れである。

 ナイフで手際よく皮を剥きながら、リーゼに本音をスキャンさせる。体温は38度ほど、まだ熱は下がってないようだ。

 

「ほら、剥けたぞ」

 

「おぉー……ありがとレイレイ〜……あーん」

 

「……」

 

 上半身だけ起こした本音は、親鳥にご飯をねだるヒナよろしく、口を開けて待機していた。

 前にもこんなやり取りをしたが、前回は気恥ずかしくて突っぱねてしまった。だが、流石に今回は自分で食えと言うのは酷だろう。

 これは病人を看護してるだけで、決してやましいことは何もない、何もないのだ。俺は自分にそう言い聞かせる。

 

「しょ、しょうがないな……ほら」

 

 一切れフォークで突き刺し、本音の口まで運ぶ。本音はゆっくりと林檎を齧ると、なんだか嬉しそうに頬張るのだった。

 

「……えへへー」

 

「なーに笑ってんだよ」

 

「だって風邪ひいて誰かに看病してもらうなんて……お姉ちゃん以外初めてなんだよー」

 

「そうかい、そりゃよかったな」

 

 もう一切れフォークに突き刺して本音に食べさせるが、俺はつい仏頂面になってしまう。こんな時にあの人なら、俺の育ての親であるエドなら甘いセリフの一つや二つ出てくるのだろう。

 

「まだ食べるのかっ──おお?」

 

 もう一切れいるか聞こうとしたその時……となりの一夏の部屋から、なにやらドタバタと騒ぐ音が聞こえてきた。

 実は、現在一夏はデュノアと同じ部屋にさせられている。もちろん、あの二人を一緒にするのは危険だとは思ったが、男性同士の部屋にするのが一番自然だ。

 楯無からはしばらく様子見しろと言われていたから特に干渉もしていなかったが、何かあったのだろうか? 

 

「……すまんが、残りの林檎は自分で食ってくれ。俺はちょっと行ってくる」

 

「えっ……うんー……」

 

 少し寂しげな本音に残った林檎の皿を渡すと、自室を出て一夏の部屋の前に立つ。そして、手に拳銃の『P2016』を構えて扉を数回ノックする。

 

「おい、一夏。隣まで騒いでるのが聞こえてきたぞ、何してんだ」

 

「えっ⁉︎あ、ああ、悪いな! ちょっとお茶をこぼしちゃってな⁉︎ は、ははっ……」

 

 扉越しに聞こえるどこか焦っているかのような上ずった一夏の声。何を漁ってるんだか、そういうのは何か隠しているやつの典型的な特徴だ。

 

「……おい、デュノアはいるか?」

 

「ぼ、僕? ……い、いるけど……」

 

 同じように少し動揺を含んだ声色のデュノア。これはもしや、そう思った俺は一夏に一つかまかけてみる。

 

「一夏、同じ部屋ならデュノアが着替えるところくらい見たろ? デュノアのバストサイズはどれくらいだった?」

 

「え、えぇ⁉︎な、なな何言ってんだよレイ⁉︎俺は別にシャルルの裸なんて見てねぇからな⁉︎」

 

「……つまり見たんだな。このラッキースケベめ」

 

 俺は焦った一夏の声を聞くや否や、一夏の了承も得ずに部屋の扉を蹴破る。すると、部屋には一夏とデュノアが二人揃って間の抜けた顔をしていたのだが、デュノアはいつもと様相が違った。

 服装はよくあるスポーツジャージなのだが、その体型が違う。有り体に言えば……女性たる証拠、胸があった。今まではコルセット云々で誤魔化していたのだろう。

 

「なんだ、やっぱりバレちまってるじゃないか。それで騒いでいたのか」

 

 俺は銃口をシャルルへと向けながら扉を閉めて鍵をかける。そこでようやく、一夏は声を荒げながらシャルルを庇うように前へ出る、

 

「ま、待てよレイ! そんな銃なんて構えて……というか気づいてたのか、シャルルが女だって!」

 

「彼は……ずっと前から僕が女性だってことに気づいていたみたいだよ」

 

「……!」

 

「まあ、一応デュノアが転入してきた日に気づいたかな。他にも、お前が父親の愛人の娘であること、父親の命令で男装していた、ってことも知ってる」

 

 愛人の娘、その言葉に一瞬、デュノアは肩を震わせる。やはり、そこはあまり人に触れられたくないところなのだろう。

 

「なんでレイは……そんなことまで知ってるんだ?」

 

「……すまんがそれは言えない。だが、一応は疑ってみるさ……デュノア、お前は大方、俺たち男性適合者に接触してデータを手に入れるのが目的だったんだろう」

 

「……参ったね、全部見通しだったんだ」

 

「まあな」

 

 ドヤ顔でそう言ってやるが、実際には全部リーゼや楯無のおかげで知り得た情報だ。それを言うと格好がつかないので黙っておこう。

 

「……シャルルの親父さんは、なんでそんなことをシャルルにやらせるんだよ」

 

「第三世代機開発に取り残されたデュノア社を立て直すための広告塔、そしてあわよくば貴重な男性適合者である君たちのデータも得られれば一石二鳥、その程度にしか思われてないんじゃないかなぁ……」

 

 確かに、デュノア社はIS開発の遅れから政府からの支援を断ち切られるという危機にあった。

 それを挽回するための策が、デュノアを男装させての偽装だったのだろう。

 

「その程度って……シャルルはそれでいいのか」

 

「まあ、レイに最初からバレてた時点で計画は破綻してるからね。元々かなり無茶な計画だったし。僕は本国に呼び戻されて、デュノア社は潰れるか他の企業の傘下に入るか……僕にはもうどうでもいいことかな」

 

「本当にいいのか……それで……!」

 

「……い、一夏?」

 

 珍しく語気を荒げる一夏。親にいいように扱われることがそんなに気に入らなかったのか──ああ、そうか。そういえば、お前もそうだったな。

 

「親がいなけりゃ子供は生まれない、そりゃそうだろうよ。でも、だからって親が子供に何をしてもいいなんて、そんな馬鹿なことがあるか!」

 

「落ち着けって、一夏。デュノアが怯えてるぞ」

 

「あ……ああ、悪い。つい熱くなってしまって」

 

「ど、どうしたの? 一夏、変だよ?」

 

「俺は……俺と千冬姉は両親に捨てられたから」

 

「あ……」

 

 一応、見聞きぐらいはしていたのだろう。一夏の両親は『不在』ということになっている。つまりは、そういうことだ。

 それがいつの時期の事なのかは知らないが、一夏もその事で随分と苦労したのだろう。

 

「その……ごめん」

 

「気にしなくていい……それより、シャルルはどうするんだよ?」

 

「どうするもなにも……時間の問題だね。フランス政府が事の真相を知ったら、黙っていないだろうしね」

 

 そう言って諦観を含んだ痛々しい笑みを浮かべるシャルルは、もはや抗おうという気すらないのだろう。成るように成るだけ、確かに個人の力では国家や大企業をどうこうできるわけない。

 だが何もできない、なんてことはない。一夏や俺は、その存在だけでも少なからず世界に影響を与えられる。だから──

 

(……いや、まてまて。今俺はデュノアを助けようと思ったのか? こいつは一夏や俺のデータ目当てで送り込まれた、いわばスパイだぞ。助ける意味はあるのか?)

 

 気づけば、俺はデュノアに向けていた銃口を下ろしていた。一体何をしているんだ俺は、こいつは一夏に危害を加えるかもしれなかったんだぞ。

 なのに何故、俺はこうもモヤモヤしたものを抱えているのか。これはあの時に似ている、サラを殺さなかった時と同じ感じだ。

 

「僕はよくて牢屋行きとかかな。泥棒猫の娘には牢屋が丁度いい、なんて本妻の人にも言われちゃったし」

 

「だったら……ここにいろ」

 

「え?」

 

「特記事項二十一、本学園における生徒はその在学中においてあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。本人の意思がない場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする……つまり、この学園にいる三年間は大丈夫だろ? それだけ時間があれば、なんとか方法だって見つけられる」

 

「……特記事項って五十五個もあるのに、よく覚えられたね」

 

「勤勉なんだよ。まあ、決めるのはシャルルなんだから、考えてみてくれ」

 

「ありがとう、一夏。少し元気が出たよ」

 

「俺もシャルルと同じような境遇だったからな、いくらでも力になるぜ」

 

「……まて、その前にだ。デュノア、一つだけ俺の問いに答えてくれ」

 

 俺はデュノアの前に立ち、真っ直ぐにその目を見る。デュノアは何を言われるのか少し怯えた感じだったが、それでも俺から視線は外さなかった。

 

「俺は……お前をすぐに排除するか捕らえるべきだと考えていた。何故なら俺が学園に来たのは、束に一夏と箒を守るように命令されたからだ」

 

「……!」

 

「俺を……? なんであの人がそんな事を?」

 

「理由は知らん。まあ、さっきお前に銃を突きつけたのもそういうわけさ。しかし、今はこの学園そのものを守るのが仕事になっていてな。俺は一夏と箒だけでなく、この学園の生徒全員を守る義務がある」

 

 そう言って俺は拳銃を指で弄ぶ。そして、シャルルにある問いを投げかけた。

 

「お前……普通の女の子としてこの学園に通いたいか?」

 

「えっ……?」

 

「だから、そんな男装なんかしないで、普通にだよ。世界中の子供がそうしてるように、制服を着て机に座って……ごく当たり前の学生生活を送るって事だ」

 

 そう、俺みたいに学校にすら通わないで子供時代を無為にするなんて、絶対にいいはずがない。ましてやそれが親やまわりの大人のせいでっていうのなら尚更だ。

 どうやら俺は……子供をいいように利用するクソッタレな大人ってやつが嫌いらしい。そして、サラやデュノアのような境遇を見ると、どうにも見過ごせないみたいだ。

 我ながら随分と甘い考えだということも自覚している。しかし、できることなら力になりたい、そう思ってしまうのだ。

 

「一夏はああ言ってるが、俺はまだお前を信用したわけじゃない。むしろ、今すぐ引っ捕らえるべきだと思う。だが、お前はこの学園の生徒でもあるわけで……俺にとってデュノアは排除すべき敵であり、守るべき対象でもあるわけだ」

 

「で、でも……僕は一夏や君に嘘をついて騙したんだよ……そんな事、望んでいいはずないよ……」

 

「だから今、ここではっきりしたい。お前が普通の生徒としてこの学園に在籍するのなら、俺もお前に力を貸す。性別を偽って父親の言いなりのままだって言うのなら……それでも構わないよ、手間が省ける」

 

 一瞬、デュノアの視線が俺が手に持つ拳銃の方へ向く。一夏もそれを察して止めようとするが、俺はそれを視線で制する。

 

「さあ、どうなんだ。シャルル・デュノア……!」

 

 静かに拳銃のトリガーに指をかけながら、俺はデュノアに真意を問う。デュノアただ静かに俺を見つめ返していたが、その頬にはぽろりと一筋の涙が零れていた。

 

「……!」

 

「私、は……」

 

 デュノアは言葉が出てこないようだったが、やはりその涙は俺がサラを殺そうとしたあの時と重なって見えた。例え言葉がなくとも、返答として十分すぎたのだ。

 

「……そうか、分かった。()()()そうなんだな……悪かったよ、脅すようなことして。とりあえず俺はお前を信用する、もう銃を向けるなんて事はしないよ」

 

「ううん……僕の方こそごめんね。僕にはこんな我儘言う資格なんてないのに……」

 

「いいや、そんな事ないさ。我儘は子供の特権だろ、なあ一夏」

 

「お、おう……」

 

 俺がデュノアをどうこうする気がないと分かって、ほっとした様子の一夏。しかしすぐに気を取り直すと、俺にこれからどうするのかを問う。

 

「……レイには何か考えがあるのか? 俺は、まあ……偉そうなこと言っておいて特に案があるわけじゃないんだけどさ」

 

「……僕が言うのもおこがましいけれど、デュノア社もフランス政府もかなり焦ってる。下手に手を出すと何をするか分からないよ」

 

「俺だって別に具体的な計画があるわけじゃないよ。だがこの三年間で何とかしようとか、そんな甘いことも考えちゃいないがね」

 

「……ってことはやっぱり何か秘策があるんじゃないか」

 

「どうだかな」

 

 拳銃をしまって代わりに取り出したハッカキャンディを口に咥えながら、俺は内心どうしたものかと悩んでいた。安請け合いしすぎただろうか。

 いいや、これはある意味チャンスだ。今でこそデュノア社は斜陽だが、トップシェアの企業であることに変わりはない──付け入る価値はある。

 

(俺だけじゃ計画は練れない……癪だが、楯無にも頼むしかないか)

 

 とりあえず、いまデュノアの正体が学園に広まるのはマズイ。もう暫くは男子として過ごしてもらわなきゃならん。

 

「必ずなんとかする、悪いがまだ少しの間はその格好で我慢してくれ」

 

「う、うん」

 

「一夏、間違ってもシャルルに手を出すなよ。話が余計に拗れちまう」

 

「な、何もしねぇよ……」

 

「さっき裸を見たとかなんとか言ってたろ?」

 

「裸は見てねぇって! ギリギリでタオル巻いてたって!」

 

「〜〜!」

 

「……ギリギリアウトかな」

 

 やはりハプニングはあったようで、デュノアは顔を真っ赤にして俯いていた。

 何があったかの詳細は聞かないが──まあ、あれだ。タオル巻いてたとか言ってたし、デュノアがシャワールームから出てくるところに一夏が居合わせちまったのだろう。

 

「ともかく、デュノアも一夏もあまり目立つことするなよ。いいな?」

 

 そう釘をさしてから、俺は一夏たちの部屋を後にする。やれやれ、最悪の事態は想定していたが、そうならなくてよかった。

 もし本当にデュノアが一夏に対して何かしようとしてたのなら……俺はあのまま引き金を引いていたかもしれん。

 

(そうやってなんでもコレで解決しようとするのは、俺の悪い癖だな……エドのようにはいかないもんだ)

 

 手に持っていた拳銃を一瞥してから量子化して格納すると、俺は小さくため息をつく。

 俺がサラやデュノアに敵意を向けつつも結局は肩入れしてしまったのは、きっと育ての親であるエドの影響が大きい。

 俺はガキの頃に捨てられて、犬のように這いずり回って生きていたところをエドに拾われた。それからエドに銃の撃ち方を教わり、生きるための術を叩き込まれた。

 エドは熟練のパイロットで、俺はその背中を見て育った。いつかあんな風に戦場を駆け抜けるパイロットになりたくて、必死にトレーニングしたんだ。

 しかし、俺はエドのようにパイロットにはなれたが、エドのような『男』にはなれない。結局のところ俺がやってることは、エドの真似事なのだろうか。

 

(ああくそっ……こういうことで頭を悩ませるのはらしくない)

 

 部屋の扉を開けながら咥えていたキャンディを噛み砕き、少し苛立たしげに棒をゴミ箱に投げ捨てる。

ベッドの方を一瞥してみれば、俺たちが話し込んでいる間に寝てしまったのか、本音が静かに寝息を立てていた。

 

「……なあ、リーゼ。エドならどうしたと思う? やっぱり女好きだし、二言もなくデュノアを信用してたかな」

 

「分かりません。エドはあのような性格ではありましたが、冷徹な兵士であることにも変わりません。必要とあれば、女性に対しても容赦しないでしょう。しかし、貴方は──」

 

「……相棒?」

 

「──失礼しました。私はパイロットの意思を尊重します、それだけです」

 

「あぁ……そうかい」

 

 俺は本音に布団をかけなおしてから椅子に座ると、ぼんやりと自分の手に視線を落とす。

 先のデュノアに銃を向けた時の感覚が、まだ指先に残っている気がする。いつも銃を握る時とは違う妙に嫌な感覚に、俺は顔を顰めるのだった。




エイペックスの次シーズンは何かしらのタイタンフォール要素が追加されるという噂。
まさかタイタンが出てくるとかないですよネ、HAHAHA!
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