Infinit Fall :Re   作:刀の切れ味

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 ○タイ・ラスティモーサ
 SRSのパイロット、階級は大尉。バンガード級タイタンのプロトタイプ試験にも携わった熟練パイロット。惑星タイフォンにて戦死し、ライフルマンのジャック・クーパーに自身のタイタンを託すことになる。


Log.28 データ更新:ラウラ・ボーデヴィッヒ②

「ふー……やってくれたな、ラウラ・ボーデヴィッヒ」

 

「大丈夫ですか、パイロット?」

 

 キャンディを口に咥えながら自室に戻る最中だった俺は、先ほどのアリーナでのやり取りについて頭を悩ませていた。

 まったく、ラウラの奴め。なんとも嫌なタイミングで暴露してくれたものだよな。

 

「皆の反応を見る限り、俺のしたことには肯定的じゃないものな」

 

「この世界の一般的な倫理観で言えば、当然の反応でしょう。人を殺してもいいという教育を受ける人間は、常識的ではありません」

 

「まあ……何とかなるだろ」

 

 自室のドアを開けて、荷物を自分のベッドの上に放り投げよう──としたところで、自分のベッドの布団が大きく盛り上がっていることに気づく。

 本音のベッドの方を見れば、乱れた布団とシーツがあるだけで、本音はいない。つまりはそういうことである、

 

「またかこいつは……いい加減自分のベッドがどっちか区別つけろよ……」

 

 本音はまだ風邪が治りきっていない故、昨日に引き続き寝込んでいたのだ。本音のベッドには着替えでもした後なのか、脱いだ服やら下着やらが……

 

「あら、女の子の下着をそんなに見つめちゃって。そういう趣味があったのね」

 

「うおっ⁉︎……楯無、お前いつのまに……」

 

 いきなり後ろから声をかけられて振り向けば、俺の椅子に座る楯無がいた。何なんだお前ら、何でそうも勝手に人の私物を使うんだ。

 

「私は本音ちゃんの見舞いに来ただけ……っていうのは建前、貴方に用事があって来たのよ」

 

「俺に?」

 

 何の話かはともかく、立ちっぱなしっていうのも疲れる。本音が寝ているベッドの隅に腰掛けると、楯無の方へと向き直る。

 

「で、用ってのはなんだ?」

 

「こないだの件についてよ。貴方の……()()のことよ」

 

「……こんなところで話してもいいのか?」

 

「大丈夫よ、本音ちゃんはさっき寝始めたばかりだし。なにより、元々監視役として貴方のルームメイトにしたのだから、貴方の動向を知る権利もあるわ」

 

「そうかい……なら話を続けてくれ」

 

 チラリと布団に包まる本音に視線を向けると、ほんねは涎を垂らして実に気持ち良さそうな寝顔を晒していた。

 人のベッドで涎垂らして寝ぼけてんじゃねえ、と心の中でツッコミを入れてから、ずれた布団を肩までかけなおしておく。

 

「じゃあ早速なんだけど……実は先週、学園の生徒の誘拐未遂という事件があったのよ」

 

「ほう、そりゃまた物騒な話だな」

 

「勿論、私たちが未然に防いだけど。問題は懲りない連中がまた同じようなことを計画してる、ってことと、その背後に面倒な組織があるってこと。これを見てちょうだい」

 

 そう言って楯無が取り出したのは、とある男の写真だ。いかにもその筋の人間、といった容貌である。

 

「彼は某指定暴力団の構成員よ。学園の生徒を誘拐を請け負うことで、依頼主から資金の提供や銃器の密輸を受けてるわ」

 

「ふうん、その依頼主というのは何者だ」

 

「とある国の諜報機関、ということにしておきましょうか。詳しくは知らない方がいいわ」

 

「なるほど。で、コイツをどうしろと?」

 

「始末してほしいのよ。警告は既にした、それでもこの学園に手を出すのなら、それ相応の対処をするまでよ」

 

 蠱惑的な笑み浮かべながら、いつもの扇子を取り出す楯無。始末してくれとは、中々ストレートに来たな。

 しかし、仕事内容も気になるが、その報酬がどれほどのものかも気になるところだ。

 

「うふふ、焦らないの。ちゃんと報酬は用意してるわ。そうね、費用込み込みでざっと3000万、といったところかしら?」

 

「さんぜ……おいおいおい、いいのかよ? その額はいくらなんでも……」

 

 驚いて思わず口に咥えていたキャンディを噛み砕いてしまう。ミリシアにいた頃だって、そんなに貰えてなかったぞ。

 

「そんなに貰えるっていうなら、俺も張り切っちゃうぜ。やろうじゃないか」

 

「貴方一人で十数人の荒くれ者を、可能な限り素早くかつ隠密に制圧してもらうつもりなんだけど。割と手間取ると思うわよ?」

 

「はっ、正式な訓練を受けた兵士ならともかく、ヤクザ相手なら大した問題じゃないね」

 

「それは頼もしいわね……あ、一応教えとくけど、ISの維持費ってこんなにお金がかかるのよ」

 

 楯無がなにやら明細書のようなものを取り出して俺に見せる。そこに書いてある金額を見て、今度はキャンディの棒を噛み砕いてしまう。

 

「こっ……こんなに? 桁間違えてない?」

 

「そうよ、知らなかったの?」

 

「あー……なあ、やっぱりもうちょっと報酬増やしてくれよ」

 

「ふふ、男に二言はないって言うでしょ?」

 

「……ちぃ、もっとせがんでおけばよかったか」

 

 まあ、口ではそう言ってみるも報酬としては破格の値段だ。文句は言えまい。維持費の桁には驚いたが、こういう仕事をいくつもこなせば……なんとかなるのか? 

 

「任務の詳細や決行日は、もう少し煮詰めてから教えるわ。それと、貴方の言っていた例の計画の方も、まだ調整が必要よね」

 

「ああ、そっちは俺も色々と考えてるところさ」

 

「そう、分かったわ……それにしても、貴方も現金よね。さっきは転入生に痛いところ突かれて、どんよりした雰囲気だったじゃない」

 

「……この地獄耳め。なんでもう、そのことを知ってるんだよ」

 

 先のアリーナで、ラウラにドイツで大暴れした時のことを言及された一連の流れのことだ。楯無は何処かで見ていたのだろうか。

 

「別にどうもこうもないよ。いつかはバレる事だったし……これでアイツらに嫌われたところで、俺のやることに変わりはない。そうだろ?」

 

「冷めてるわね、そんなことだと……サラちゃんにも愛想尽かれるわよ」

 

「それでも、だ。寧ろ俺のことは気にせず、もっと自由に学園生活を楽しんでほしいんだがなぁ……」

 

「……それでいいわけないじゃない」

 

 先ほどまでの()()()()()が、楯無の表情から消える。そのどこか憂いを含んだ表情は、いつもの雰囲気とは大きく異なる。

 

「……いい? ……あの娘のことを蔑ろにしてはダメよ。家族というものは、一度バラバラになると二度と元には戻らないかもしれないんだから」

 

「……肝に銘じておく」

 

「約束よ? ……今日はもう行くわ。本音ちゃんのことよろしくね」

 

 楯無はぎこちなく再び笑みを見せると、そのまま部屋から出て行った。何故楯無があのようなことを言ったかは分からないが、アイツはアイツで色々あるってことだろう。

 一応、楯無のことを調べた時に知ったことがある、アイツには、更識簪という妹がいるのだ。それを鑑みると、楯無も妹との関係がうまくいっていないのだろう。

 

「人間関係っていうのは小難しいもんだぜ。そう思わないか、リーゼ」

 

「人の繋がりというのは、ネットワーク間の繋がりを遥かに超える複雑さ、かつ不安定なものです」

 

「さっぱりと割り切って、というわけにもいかないから厄介なんだ……はあ。頭が痛くなってくるな──って、おい?」

 

 俺がぶつくさと文句を言っていると、布団に包まっていた本音が寝返りを打ち、寝ぼけているのか俺の腕にしがみついてきたのだ。

 

「うーん……お姉ちゃん〜……」

 

「なにしてんだこいつ……」

 

 無理やり解いたら起こしてしまうだろうか。というか、俺は今日、どこで寝たらいいだろうか。また机で寝るのか? 

 いや、飯時になったら一度本音を起こそう。そして、ベッドから退いてもらおう。

 

(いや、その前にこいつ全然手を離す気配がないぞ。どんだけ寝ぼけてんだよ……)

 

「えへへ〜、レイレイ〜……」

 

「……」

 

 より一層しがみついてくる本音。試しに頬をつついてみる……が反応はない。どうやらマジに寝ぼけているらしい。

 どうやらしばらく、本音はその手を離してくれそうにはない。そんな本音の惚けた寝顔の本音に、俺はつい苦笑してしまった。しかし──

 

「……パイロット、暗号化された秘匿メッセージを受信しました。束博士からでしょう」

 

「束から? ……おいおい、まさかまたこの前みたいな……」

 

 束からのメッセージ、それを聞くと先日のクラス対抗戦の時のことを思い出す。また無人機でも送り込んでくるのか? 

 

「メッセージを再生します……『やっほー、元気に青春してるかい? 束さんが恋しくなったりしてないかなぁ?』」

 

「イラっ……」

 

 相変わらず腹立つ出だしに、青筋を立てて舌打ちしてしまう。いや、落ち着くんだ俺。束はいつもこうだ、いちいち苛立ってる場合じゃない。

 

(ええい、要件はなんなんだ。早く本題に入ってくれ……)

 

「『えっとぉ、今回も君に頼みたいことがあるんだけどー……ちょっとドイツまで行って基地一つ潰してきてくれない?』」

 

「なんだ、そんなことか……いやいや、ちょっと待てよ? またドイツかよ? よりによってドイツかよ⁉︎」

 

 ついさっき、そのせいでラウラに目をつけられてしまったというのに、またドイツに行かなきゃならんのか? 

 冗談じゃない。今度ドイツでやらかしたら、ラウラに何をされるか分かったもんじゃない。

 

「『あとさぁ、君の周りに一人鬱陶しいドイツの小娘がいるでしょ? ちーちゃんやいっくんにちょっかい出してるみたいじゃん?』」

 

(ドイツの小娘って……ラウラのこと、だよな?)

 

「『ついでにソイツも始末しといてよ、頼んだよ〜。細かいことはまた連絡するから〜』……メッセージは以上です」

 

「あぁ、ラウラをっ──はぁっ⁉︎」

 

 思わず大きな声が口から飛び出る。その声で本音を起こしてしまうが、俺はそれを気にする余裕がなかった。束は俺に──ラウラを始末しろと言ったのだ。




束からのメッセージは、全部相棒が淡々と読み上げてくれています
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