フロンティアにてIMCに対抗するレジスタンス組織。元々は弱小組織に過ぎなかったが、『デメテルの戦い』以降はその勢力を拡大し、IMCに占領された惑星を少しずつ取り戻している。
運用するタイタンの多くは鹵獲機だが、影でミリシアを支援する企業もいるとかいないとか……
絶え間なく銃声と爆発音響き渡る夜空の下、銃弾とミサイルの嵐に蹂躙された基地はすでに半分以上が瓦礫の山と化していた。
まだ抵抗している兵士がいるようでリーゼはそれを徹底的に叩いているが、俺はというと掃討はリーゼに任せてISコアの探索に移っていた。束が基地の各システムにハックを仕掛けた時点で場所が判明するかと思っていたが、思いのほか厳重に隠されていたようだ。
(俺たちが基地に急襲してからまだ五分も経っていない。ISコアを持ち出して逃げた、なんてことはないだろう。まだこの基地のどこかに……)
基地の格納庫を当たってみたが、中は装甲車などの車両ばかりでISコアに繋がるものは見つからなかった。
格納庫で仕留めた兵士の死体を探ってみても、標準的な装備ばかりで特に気になるものもない。だが、何となく俺はこの基地がどこかきな臭く感じていた。
こんな辺鄙なところにこれだけの戦力を置くだけの何かがある。そして、それは恐らく束のいうISコアなんだろう。
『やーやー、中々に順調みたいだね』
「ああ、束か。こっちはもう基地をあらかた潰したぞ。とりあえず残りの雑魚の相手はリーゼに任せてるが、肝心のISコアが見つからん」
『大丈夫、こっちで場所は特定したよ。監視カメラの記録から割り出したんだ。そのPMC基地、表面の基地は見せかけで、地下に大きな研究施設がある。ちょうど君たちが落っこちた場所らへんがそうだよ、そこから進入できないかな』
「なるほど、地下施設があったのか。分かった、そこを当たってみる」
俺は格納庫を後にし、俺たちが落下してきた降下地点に戻る。そこはまさに隕石のクレーターのように地面がえぐれていた。だが、クレーターの底にそれらしきものは見えない。
試しにパルスブレードを投げつけて、ソナー探知してみるーーと、ソナーは地下に複数の反応を探知した。このクレーターをもう少しえぐってやれば、地下に通じるかもしれない。
(爆薬を持ってきておいてよかった……)
俺は手首に装着したデバイスを操作すると、量子化していたパッケージの装備を呼び出す。これは本来、ISが装備の換装などに使用される技術なのだが、束が特別にパイロットのスーツにも付けてくれたのだ。
パッケージから呼び出したのは大量のサッチェル爆薬、俺はそれを片っ端からクレーターの底に放り投げてそのまま起爆スイッチを起動させた。
一瞬、地鳴りがするほどの衝撃。ヘルメット越しにもはっきりと聞こえるその爆音が、爆発の凄まじさを物語っていた。そしてヘルメットの光学センサで煙の向こうを見てみれば、その向こうには人口の壁が見える。どうやらビンゴのようだ。
「リーゼ、ISコアが隠されているであろう地下施設を発見した。先に突入するから、お前も入ってこれるなら後で来てくれ」
『了解です。こちらはあと少しで制圧が完了します、ご武運を』
俺は煙を掻き分けながらクレーターの中心へと滑り込み、爆薬で開けた穴へと飛び込んだ。穴はしっかり研究施設内に通じていたようで、俺は何やらドーム状の広い部屋へと入り込んだ。
ジャンプキットで着地の衝撃を吸収し、即座に周囲の状況を確認する。あちこちにガラス張りの壁が見え、まるで動物園の檻にでも入れられた気分だ。
『ようこそ、無謀な侵入者よ。外で暴れている謎の兵器にも驚かされたが、まさか単身でここに乗り込んでくるとはな……』
「ん?」
どこかのスピーカーから流れてくる男の声。ここの科学者か? わざわざ存在を知らせてくれるとは、随分と酔狂な男だな。
『ここで行われていることは、万に一つも流出してはいけないのでね。君にはここで死んでもらおう』
男の言葉を合図に、ドームの一部のシャッターが開き、そこから幾人もの兵士が現れる。だが、どうやら生身の人間ではないらしい。僅かに生体反応は感じるがその体の殆どは機械だ。
「機械化歩兵、ね……ふん、デクを何体揃えようとな!」
俺は腰に差していた拳銃とデータナイフを取り出すと、足並みを揃えてこちらに向かってくる機械化歩兵達に突進していった。そして、機械化歩兵達が手に持つアサルトライフルと俺の拳銃が火を吹き、ドームの中は銃声と硝煙で満ちていった。
──
「ああ、まったく……なんなんだここは」
ブツブツと文句を零しながらも、通路を駆け抜ける足は止めない。先ほどの機械化歩兵達はもちろん、一体残らず叩き潰した。
ただあいつら、痛覚なんて感じないのか鉛玉を何発撃ち込んでもまるで倒れやしなかった。だから、一体一体丁寧に首の骨をへし折って、脊椎にナイフを突き立てておいた。
今は束が示してくれた施設の地図と、ISコアの居場所をマーキングしたポイントに向けて、次々と襲ってくる機械化歩兵を薙ぎ倒しながら進んでいた。途中からめんどくさくなってクロークやホログラムで騙し騙しに進んでいたが。
「……っと、この部屋を通ればもうすぐか……!」
目の前の扉を強引に蹴破り、周囲を警戒しながら部屋の中に転がり込む。しかし、その部屋の中の光景に、思わず俺は体を強張らせてしまった。
その部屋にあったのは、大量の容器に納められた脳髄。なんの実験に使っているのかは知らないが、ようやくここの連中が非人道的な実験を行ってきた連中だということを思い知らされた。
体の奥底からふつふつと沸き起こる怒り……どうやら、ここの連中は一人残さずぶっ潰す必要がありそうだ。俺はただのパイロットだ、命令に従って敵を殺すだけだ。でも、人間が超えてはいけない一線というのは俺にも分かる。
「束、容器に格納された大量の脳髄を見つけた……」
『ああ、それね。ここの連中、人体実験どころか、脳髄を埋め込んだアンドロイドを作って、意のままに動く機械化歩兵団を組織してたみたいだね。ゲスな脳みそしかない凡夫どもが思いつきそうなことだよ。こいつらは、私のISにも同じような実験をしようとしてたんだよ。私のISをそんなふうに穢すなんて、絶対に許せない……!』
「……安心しろ、ISコアは必ず回収する」
以前、俺は束の馴染みである女性が駆る"暮桜"というISの戦闘記録を見せてもらったことがあった。モンド・グロッソという、競技用のISを用いた世界大会。それの頂点に君臨した暮桜の戦い振りは一重に美しかった。たった一本の刀剣のみで対戦相手を斬り伏せていく様は、ただただ華麗だった。
泥臭い戦場を駆け回るタイタンとは違う。女性が駆る故の美しさなのか、ISというものの華やかな象徴性を垣間見たのだ。そんなISを、ただの兵器とみなされ薄汚い実験の道具にされるのが、束は我慢ならなかったのだろう。
俺は改めて気を引き締めると、格納庫を走り抜け施設の奥へと進んだ。胸糞悪くなるような格納庫を超えると、そこにはまたしてもドーム状の広い部屋があった。いや、それはちょうどモンド・グロッソなどでも使われていたようなアリーナに似ている。
「ここは……むっ……!」
俺が通ってきたアリーナの入り口のゲートが音を立てて閉じていき、アリーナの地面のあちこちが複雑に動き出したのだ。
『試験プログラム、シナリオ29A1をダウンロード。エリアの組み替え、環境ソートの施行』
アリーナに響き渡るアナウンスに連動して、アリーナの様相が変わっていく。最初は何もなかった地面から、いくつもの遮蔽物となる壁が隆起し、どこか市街地戦を思わせる景色となった。
『被験体B1、投下。シナリオ29A1、開始』
アリーナの天井、その一部が開く。そして、そこから緑色の装甲を纏い、非固定武装を翼のように展開した──ISが現れた。
(あれが……IS……!)
当然、コアがそのまま転がっているとは思ってなかった。稼働状態のISがいることも想定してはいたが、案の定といったころか。
(装甲の形状パターンから……あれはデュノア社の第二世代機、"ラファール・リヴァイヴ。搭乗者は全身をフルスキンで覆っていて、状態の識別は不可……)
そのIS、ラファール・リヴァイヴは俺に対して明確な敵意を抱いていたようで、俺の姿をハイパーセンサーで認識するや否や戦闘態勢に入る。そして、大型のアサルトライフルを呼び出し、こちらに銃口を突きつけてきた。
対して俺もすぐさま近くの遮蔽物にグラップリングフックを打ち込み、ジャンプキットを利用して勢いよく飛び上がっていた。
「……っ!」
重力をまるっきり無視したデタラメな機動力で肉迫してくるラファール・リヴァイヴ。グラップリングフックとジャンプキットを駆使して何とか射線を切るが、彼女の大型アサルトライフルは遮蔽物を易々と貫いた。
(落ち着け……これはタイタンと戦う時と同じだ。向こうの攻撃は全て致命傷になる、狙いが定まらぬよう常に動き続けろ)
しかし、何もしなければいつかは壁ごと撃ち抜かれるだろう。といっても、今の俺が扱える武器ではISに満足なダメージは与えられない。ならばやるべきことは一つ、撹乱に徹するのだ。
「リーゼ、敵のISと遭遇した。お前の力が必要だ」
『了解、パイロットの座標を確認。最短距離で援護に向かいます』
リーゼが到着するまで時間を稼ぐ。本来なら単身でISに挑むなど無謀にもほどがあるが、時間稼ぎだけならば打つ手はある。ISとて完璧な兵器ではない、つけいる隙はある。
その一つは、ISの空間認識はその多くをハイパーセンサーに頼っていること。それを一時的にも阻害されれば、少なからず動きは止まる。
「まずは小手調べに……」
パッケージからグレネードを一つ取り出し、ラファール・リヴァイヴの眼前に投げつけてやる。ただのグレネードなら、ISのシールドバリアーを削ることなんてできない。だからそのISパイロットはグレネードを躱そうともしなかった。
しかし、俺が投げつけたグレネードはISパイロットの眼前で炸裂すると、多量のスモークを吐き出した。ただの煙じゃない、強力な電磁気を帯びた特別製である。
「……っ⁉︎」
電磁気の影響で一時的にハイパーセンサーを阻害されてISパイロットは困惑した様子だったが、すぐに煙の中を突っ切ってくる。ECM対策はある程度施してあるのか、ハイパーセンサーはすぐに復帰したようだった。
しかし、彼女はスモークを抜けた先で再び困惑することになる。なぜなら、ウォールランで逃走を図る俺が二人もいたからだ。当然、どれかは俺が作り出したダミーだ。
それでも彼女は中々に聡明だったようで、悩んだのはほんの一瞬。すぐさまアサルトライフルを構えて、瞬時にどちらも撃ち抜いた。どちらかが本物であれば、そこで勝負はついていただろう。
「残念だが、正解はこっちだ!」
彼女の背後から伸びてきたグラップリングフックが背部ユニットに絡みつき、クロークによって姿を消していた俺はワイヤーを巻き取りながらISの背部に取り付く。
すかさず、ナイフを取り出して後ろから首筋にその切っ先を突き立てるが、やはりシールドバリアーに阻まれてダメージを与えることはできなかった。
「……離れてっ……!」
「むっ……?」
フルフェイスの装甲越しに響くISパイロットの声、それは随分と幼い少女の声だった。思わずその声に眉をひそめるが、その隙に少女は背後に取り付いた俺を振り落とそうと暴れ始めた。
乗り手が少女といえど、ISのパワーアシストが乗った拳を喰らえば人体など容易く砕け散る。そうなる前に自分から飛び降り、うまく姿勢を立て直して地面に着地する。
しかし、顔を上げれば、頭上では新たにミサイルランチャーを呼び出したラファール・リヴァイヴが、こちらに狙いを定めていた。
(さすがは第二世代において最大の拡張性を誇るIS。武装の展開も速いな。まあ、それはこちらも……)
俺がグラップリングフックを射出する前に、ランチャーからミサイルが放たれる。いくらなんでも、あんなミサイルをもろに喰らえば粉微塵に吹き飛ぶ。だが俺は、何もせずにミサイルが飛来するのを見ていた。
『──プロトコル3、パイロットの保護』
アリーナの天井が爆発音とともに吹き飛び、瓦礫とともに落下してくる巨大な鉄の塊。それはちょうど俺の目の前に着地し、ラファール・リヴァイヴのミサイルから俺を守った。
「ナイスタイミングだぜ、リーゼ」
「私に搭乗してください、パイロット。プロトコル2、任務の遂行。我々の任務は当基地の敵勢力の殲滅とISコアの回収。任務の達成のために、敵ISを無力化しなければなりません」
「分かってるよ。初の対IS戦だ、サポートは任せた!」
土煙の中から伸びてきた大きなマニピュレータが俺を掴み、アリーナの天井から乱入してきたリーゼが俺を胸部コクピットに押し込んだ。
リーゼのシャーシが俺の体に合わせてフィット、ニューラルリンクの接続が始まり、俺とリーゼの感覚、思考が繋がり一つになっていく。
「パイロットモード、起動。おかえりなさい、パイロット」
「ああ、ただいま、リーゼ」
リーゼとリンクが完了し、俺の手足はリーゼの手足に、俺の視界はリーゼの視界と重なり合う。やはり、以前のタイタンとは様相が変わっても根本は変わっていない──が、相手は以前のタイタンとはワケが違う。
(機動力は向こうが上。それにラファール・リヴァイヴは拡張性が売りだ、引き出しもさぞかし多いのだろう……相手としては申し分ない)
拡張性、汎用性、応用性、そういった能力ならリーゼも負けちゃいない。リーゼはバンガード級タイタン、人と同じように成長するタイタンなんだ。
この世界に来て、相棒は文字通り生まれ変わったという表現が当てはまるほどの進化を遂げた。その力、存分に試させてもらうとしよう。
20mmオートライフル、口径で表すと八十口径とかぐらいですかね。
ラファール・リヴァイヴの使うアサルトライフルが五五口径とか六十口径ってことを考えると、火力だけならタイタンの方が上かも⁉︎
……ISとタイタンのサイズ差を考えたらどっこいどっこいかも。
いや、しかし!タイタンにはニュークリアイジェクトという最強の自爆技があるゾ!