Infinit Fall :Re   作:刀の切れ味

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エイペックス・レジェンズの新PV、TF2をプレイした人ならニヤリとしたんじゃないでしょうか。




Log.30 データ更新:ラウラ・ボーデヴィッヒ④

 IS学園第2アリーナ、いつも多くの生徒が訓練に励むこの場所も、今日だけは様子が違う。もちろん、他にも生徒はいたが、みんな俺とラウラを見て何処かに行ってしまったのだ。

 有無を言わせず俺について来るよう言ったラウラは、ここ第2アリーナに俺を連れて来ると、いきなりISを展開してきたのだ。

 ただならぬ気配を纏うラウラと、その漆黒のIS『シュバルツェア・レーゲン』は、見るものを畏怖させるには十分だった。

 

「わざわざ俺を呼び出してまで戦いたかったのよ?」

 

「……単刀直入に言う、次のクラス別トーナメントでは私の指示に従ってもらう」

 

「断る、何故そんなことをしなけりゃならんのだ」

 

 重たい金属音を響かせて、レールガンに砲弾を装填するラウラ。従わないなら力づくで、か。分かりやすいね。

 

「俺は元々、兵士だったんだが……階級は少尉でね。少佐であるお前には従うのが筋かもしれん。でもここは軍隊じゃない、俺もお前も立場上は、この学園の一生徒でしかないんだぜ」

 

「なら……無理やりにでも従ってもらおうか!」

 

 俺にレールガンの照準を合わせるラウラ。俺は瞬時にリーゼのシャーシを呼び出し、それを身に纏う。

 火を噴くレールガンに対して、俺はリーゼの右手のマニピュレータをかざし、そこから青白いシールドを発生させる。

 撃ち出されたレールガンの徹甲弾は、その青白いシールドに絡め取られ、砲弾の運動エネルギーが完全に失われる。

 

「上等だ、この野郎。だったら白黒つけようじゃないか。俺に勝てばお前が上、俺が勝ったら俺が上だっ!」

 

 ロードアウト『イオン』に換装したリーゼのヴォーテックスシールドで、シュヴァルツェア・レーゲンのレールガンの砲弾を弾き返す。

 するりとそれを回避したラウラは、アリーナを高速で飛び回りながら無数のワイヤーブレードを射出してくる。

 俺は細かくスラスターを吹かして、ブレードをかわしながらスプリッターライフルを分散させながら連射する。

 

「目障りだ……!」

 

 俺がワイヤーブレードを躱したところで、ラウラが両手をクロスさせるようにかざす。その瞬間、相棒から警告音が発せられた。

 しかし、俺が行動に移る前に、全身が金縛りにあったように硬直する。見えない何かに縛り付けられているかのように、だ。

 

(……っ! これがシュヴァルツェア・レーゲンの第三世代兵装か!)

 

 シュヴァルツェア・レーゲンの特殊兵装、その名は『アクティブ・イナーシャル・キャンセラー』。通称AIC、停止結界とも呼ばれる兵器だった。

 先日のアリーナで一夏の撃った弾丸を空中で静止させていたように、物体の慣性を停止させる網のようなものを投げかけるのだという。その気になれば、相手の機体そのものを停止させてしまうこともできるようだ。

 動けない俺に対して、レールガンの照準を合わせるラウラ。当然、ヴォーテックスシールドでカバーできない角度からだ。このままもろに食らうのはまずい。

 

「リーゼ、ロードアウトを変更だ!」

 

「了解、専用シャーシを展開」

 

 リーゼの装甲が排除されて中量級から軽量級へ。ロードアウト『ローニン』に換装したリーゼは、すかさずフェーズダッシュを起動させる。

 空間に作用するAICも流石に亜空間には及ばないらしく、フェーズダッシュの僅かな効果時間を利用してラウラへと一気に肉薄する。

 そして、実体化すると同時にブロードソードを引き抜き、ラウラへと振るう。プラズマ手刀でそれをいなすラウラは、リーゼのフェーズダッシュに驚くこともなく冷静だ。

 

「さすがはエリート部隊の隊長、ってか?」

 

「あらゆる状況を想定する。至極当然の思考だ」

 

 六基のワイヤーブレードを加えた熾烈なラウラの攻めは、鈴には申し訳ないがその密度、圧力、どれを取っても段違いだ。

 

「警告、敵特殊兵装の起動を検知!」

 

「……っ!」

 

 リーゼの警告が発せられた時にはすでに遅く、ブロードソードを握る右手のマニピュレータは、AICの見えない網に捕らえられていた。

 すかさず三連水平ショットガン『レッドウォール』を構えて連射するが、その弾丸は全てラウラの眼前で静止してしまう。

 

「マジか……!」

 

「落ちろっ!」

 

 レールガンが火を吹き、着弾の衝撃で重たいリーゼのシャーシが吹き飛ばされる。今のでシールドがかなり持っていかれた、あのレールガンは見た目通りに凄まじい火力だ。

 

「AIC……思った以上に厄介だな……」

 

 ブロードソードでワイヤーブレードを弾きながら、なんとか体勢を立て直す。もう一度AICに捕らえられたら、それこそ勝負アリだ。なんとか対策を取らねば。

 

(あの拘束力は一対一だと無類の強さだな……だが、何にも弱点がないってわけじゃないだろう)

 

 ワイヤーブレードをかわしながら、俺は必死に思考を巡らせる。AICの弱点を見出せないと、この戦況をひっくり返すのは難しい。

 最初はフェーズダッシュを使ったから、なんとか回避できた……そういえば、スプリッターライフルのエネルギー弾はAICで防ぐこともなかった。

 もしかしたら、AICは非実体に効果が薄いのかもしれない。そうだとすれば、まだやりようはある。

 

『パイロット、推測ではありますが一つ考えられることがあります』

 

『何か分かったのか?』

 

『あの兵装は、搭乗者にかなりの集中力を要求すると考えられます。それこそ、他の兵装が使えなくなるほどに。AICを起動する瞬間は、逆に大きな隙であると言えるでしょう』

 

『なるほど、やはりそういうデメリットもあるのか……』

 

 頭の中で、俺の持つ手札が組み合わさり、ラウラに対抗する戦法がいくつか浮かび上がる。これなら行けるかもしれない。

 

『よし、いいかリーゼ。俺が合図したらロードアウトをスコーチに変更しろ。いいな?』

 

『了解です』

 

 俺はレールガンによる砲撃を回避しながら、片手でレッドウォールを、もう片手にブロードソードを持ってラウラに突進する。

 ワイヤーブレードに捕まらないようにジグザグに走り抜けながら、レッドウォールを構えて、ラウラへと連射する。

 

「無駄だっ!」

 

 当然、放たれた散弾はAICに防がれる。だがそんなことは百も承知、俺はブロードソードに電撃を纏わせると、ラウラへとアークウェーブを放つ。

 俺とリーゼの予想通り、アークウェーブはAICの不可視の網を突き抜け、意識を集中していたラウラはその回避が遅れてしまう。

 

「む……!」

 

 アークウェーブはラウラに掠っただけだったが、それでも非実体兵器は防げないことが分かった。俺は更なる追撃を加えるべく、ラウラへと迫る。

 

「警告、敵特殊兵装の起動を検知!」

 

 再びAICで俺を拘束すべく、不可視の網を投げかけるラウラ。だが、同じ手は二度もくうものか。

 俺はフェーズダッシュを起動させると、亜空間の中を一気に走り抜け、ラウラの背後で実体化する。

 

「リーゼッ!」

 

「ロードアウトを変更、専用シャーシを展開」

 

 重量級シャーシのスコーチへと換装した俺は、すかさず背部ラックから焼夷トラップを射出。ガスタンクが弧を描いてラウラへと迫る。

 背後からの投擲物に、ラウラは恐らく反射的にAICを起動させたのだろう。迫るガスタンクは、ラウラの目の前で静止した。

 

「……っ! これは……!」

 

 目の前でガスを散布し続けるタンクを見て、それが何か察したラウラはすぐさまAICを解除して距離を取ろうとする。しかしそれよりも、俺とリーゼの行動の方が早かった。

 

「フレイムコア、オンライン!」

 

 両腕に凄まじいまでの熱量が宿り、それが地面に叩きつけられる。そして、放たれた強烈な熱波はラウラを飲み込みガスに引火すると、凄まじい爆発を起こした。

 

(……だが、これでくたばるなんてこともないだろ。なあ、ラウラ・ボーデヴィッヒ?)

 

 爆炎の中を突っ切って飛来する徹甲弾。ヒートシールドで瞬時に溶解されてドロドロに赤熱した鉄が飛び散る。

 そして、炎の中から再び漆黒のISが姿を表す。シールドバリアーは半分以上失っていたが、まだまだ健在のようだ。

 

「貴様……!」

 

「熱かったか? 日本の夏は蒸し暑いらしいから、今のうちに慣れておくのが吉だぜ」

 

「……っ!」

 

 澄ました表情から怒りを露わにしたラウラは、プラズマ手刀を展開して突進してくる。俺は再びロードアウトをローニンに戻すと、ブロードソードを構える。

 肉厚の刃とプラズマ手刀がぶつかり合い、火花を散らす。その中で、俺は楯無に貰ったラウラの情報について思い出していた。

 ラウラの抱える闇、それはずっと重たく、そして深いものだった。こいつに敗北は許されない。勝利、その二文字がラウラの存在意義だったのだ。

 

 

 ──

 

 

 ラウラとの模擬戦は、伸びに伸びていた。互いに手札を明かした今、致命打に繋がる攻撃も入らず、一進一退の攻防が続いていた。

 ラウラのAICに捕まっては俺が強引に抜け出し、俺が攻撃を仕掛けてはAICに止められる。ひたすらにその繰り返しだった。

 しかし、遂に決着をつけることはできず、アリーナの使用時間の終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。

 

「……ふー、どうやら今日はここまでのようだな」

 

「ちっ……」

 

 口惜しそうに歯軋りするラウラだったが、意外にも素直にその手を止める。いや、きっと分かっているのだ、このまま続けても勝負はつかないと。

 ISを解除したラウラは画面に降り立つと、やはり憎々しげに俺を睨んで一言吐き捨てるのだった。

 

「私は奴を、織斑一夏を必ず叩きのめす。私の邪魔はするな……いいな」

 

 そう言ってラウラは俺に背を向けると、ピットへと歩き去って行った。俺もリーゼのシャーシを格納して待機モードに移行させるが、俺はつい地面に座り込んでしまった。

 ラウラは強い、例えそれが()()()()()だとしても、あいつの強さは本物だ。AICの突破口を見いだせていなかったら、早々にケリがついていた。

 

(……もし、俺が束の命令通りにラウラを始末しようとしても、仕留めきれなかったかもな)

 

 やはりISを運用する軍人として鍛えられただけはある。あのISも本来は軍用機だ、今は競技用にリミッターがかけてあるのだろう。まだポテンシャルを秘めているわけだ。

 

(学年別トーナメント、か……もし一夏と当たったら、エラい目に合うだろうな……一夏が)

 

 疲れた体を持ち上げて、俺もピットに向けて歩き出す。トーナメントの当日が今から不安で仕方がない。

 そんな事を考えながらピットに入り、ヘルメットを取って一息つくと……ある人物がピットで俺を待っていた。

 

「疲れたか? ラウラは強かっただろう」

 

 そこで待っていたのは、織斑千冬だった。なんと珍しく、俺にわざわざスポーツドリンクの差し入れまでくれたのだ。明日は雪でも降るのか? 

 

「織斑先生……どうもありがとうございます。ラウラの様子が気になって来たんですか?」

 

「まあ……そんなところだ」

 

 むすっとした顔でそう答える織斑千冬だったが、それは照れ隠しの一つらしい。ソースは一夏だ。

 

「奴は私が鍛えたのだからな、あれくらいはできてもらわねば困る」

 

「自分の弟にとって脅威になってますけれど」

 

「丁度いいさ、一夏にはいい経験になる。お前にも、な」

 

「俺にも、ですか?」

 

 意外な言葉に少し驚く。ラウラと戦うことが、ラウラとタッグを組むのが俺のいい経験になるだって? 

 

「……あの束のことだ、恐らくラウラのことでお前に何かしら命令を出しているだろう?」

 

「……! どうしてそう思う?」

 

「アイツは私や一夏、自分の妹にちょっかいを出すやつに容赦ない。ラウラの態度を見たら、何をしでかすか分からんぐらいにな」

 

「ははっ……さすが、よく分かってますね……織斑先生の言う通り、俺はラウラを始末するように言われています」

 

 束の考えることなどすっかりお見通しのようだ。俺は観念して正直に話す。この人の前で嘘はつけないようだ。

 

「ほう……まさか私の前で生徒に銃を突きつけたりしないだろうな?」

 

「し、してませんよ、ええ……してません、よ」

 

「……」

 

 織斑千冬にジロリと睨まれて思わず萎縮してしまう、言ったそばから嘘を言ってしまった。この前シャルルに銃を突きつけました、はい。

 

「まあいい。当然だが、ラウラを始末するなどという命令に従うのは、私が許さん。あれでも私の教え子だ、やるなら私を倒してからにしてもらおうか」

 

「む、無理ですよ、そんなの」

 

「ならば、違う形で命令を達成するんだな。束が気に入らないのというのなら、その原因を取り除くだけでいい」

 

「ラウラの性格を矯正しろとでも?」

 

「ふっ、できるのならな……だが、お前も人のことは言えないぞ」

 

 そう言って少し笑う織斑千冬だったが、目は笑っていない。俺の反応を試すように、鋭い視線が突き刺さってくる。

 

「ラウラは……『力』に固執している。圧倒的な力が、それが全てだと信じている。誰かがその鼻っ柱を叩き折ってやらねば、それが間違いだと、自分がちっぽけな小娘でしかないことには気づかんだろう」

 

「……俺も同様だと、そう言いたいのですか」

 

「全く同じとは言わんが、お前とラウラはよく似ている。ISというものの捉え方や合理的な戦い方、まるで軍隊の『兵士』のだ」

 

 兵士という言葉に、俺は思わず反応してしまう。それに、俺とラウラが似ているというのは心当たりがないわけではない。

 ラウラはここの学園の大半の生徒とは違う。IS云々以前に、ラウラは初めから戦うための兵士として育て上げられた。根本から大きく異なるのだ。そこは確かに、俺と似通っているかもしれん。

 

「私は正直、お前のことをよく知らん。束と会う前に何をしていたかも知らん。だが、普通の生活を送っていたわけではないのだろう……かなり過酷なトレーニングを積んでいたな。人を撃ったこともあるのだろう?」

 

「……」

 

「そのことでお前を弾糾などしない。ただ、私が言いたいのは……お前もラウラも人を殺せるだけの力がある、その扱い方を誤るな、ということだ」

 

「……では、貴女はその正しい力の使い方を心得てるのでしょうか?」

 

「当然だ、馬鹿者。そんなことも心得ていないものが、世界の頂点を獲れるはずがないだろう?」

 

 堂々とそう言い切ってみせる織斑千冬の言葉はずしりと重く、そして説得力にあふれていた。

 その通りなのだろう。織斑千冬は何のために戦うのか、何のために力を使うのかを、その意味を誰よりもよく知っているのだろう。だから、強い。

 

「幸いにも、ここは学び舎だ。己を見つめ直し、よく考えてみるといい。お前たちはまだまだ未熟だ……私からすればな」

 

「比較対象が貴女じゃあ、仕方ないでしょう?」

 

「甘えるな。お前はそもそも、束にISのイロハを習った上に特製の専用機まで貰っているんだ。他と同じ扱いをするわけないだろう」

 

「ぐぬぬ……やっぱり手厳しいな」

 

「ふっ……これでも期待しているのだぞ、一夏に追い抜かれぬよう励めよ」

 

 そう言って織斑千冬は俺を置いてピットを後にする。俺は一人、スポーツドリンクを片手に、突っ立っているだけだった。

 

「一夏に追い抜かれぬようにとは……やっぱり弟大好きなんだな」

 

「しかし、マスター織斑の言うことは正しいです。我々の戦闘効率評価は、まだ向上の余地があります」

 

「いや、そういうことだけじゃないさ……世界最強から直々の教えだ、こいつは全力で取り組まないとな」

 

 俺は求められているのだ。ただの兵士としてではなく、一人の人間としての成長を求められている。戦場で歳を食ってきた俺が取りこぼしてきたものだ。

 今ばかりは、身体が若返ったことに感謝しよう。大人でも成長する奴は成長する。だがやはり、こういうのは若者の特権なのだ。




タイタンフォールかなぁ?いや、違う。違うな。タイタンはもっとこう…バァーッて動くもんな!


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