Infinit Fall :Re   作:刀の切れ味

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エイペックスのアリーナでアッシュさんの妙に艶のあるボイスが聴けるぞ!ヤッター!


Log.35 ルーチン変更:対集団戦闘 ②

 今日は沢山の観客に賑わう第二アリーナ。その熱気は凄まじく、大会一回戦目だというのに、まるで決勝戦かと思うほどの盛り上がりようだ。

 まあ、それはしょうがないことかもしれない。なぜなら、一回戦目は全員が専用機持ち、そしてその内三人が世界で数少ない男性パイロットだ。一人は性別偽ってるけど。

 試合開始を今か今かと待ちわびる観客たちの視線を感じながら、俺はロードアウト『エクスペティション』の相棒の搭乗して、アリーナの中央でラウラと並び、一夏たちの入場を待っていた。

 しかし、実際俺の胸中は穏やかじゃない。ラウラと一夏、この二人が相対して何も起こらないはずがない。試合を通り越して命のやり取りにまで発展するんじゃあないかと、気が気でないのだ。

 そしてラウラは強い、これは間違いない。まだISに触れて間もない一夏だが、あいつはあいつで十分な才能の持ち主だ。それでも経験の差、というのは中々覆るものじゃない。

 

「はぁ……なあ、ラウラ。一夏の相手をするのは任せるけどさ、あまりやり過ぎるなよ?」

 

「……」

 

「……聞いてないなこりゃ」

 

 俺の言葉に聞く耳を持たないラウラに、俺は溜息を一つ。こうなったら仕方ない、やっぱりここは俺がいい感じにストッパーになるしかないようだ。

 

「お、来たか……」

 

 向かいのゲートが開き、そこからアリーナの中央へと歩み寄る二機のIS。一夏とシャルルだ。二人ともその表情に迷いはない、どうやら向こうもやる気満々のようだ。

 

「……ふん、一回戦目で当たるとはな。待つ手間が省けたというものだ」

 

「そりゃあ何よりだ」

 

 珍しく好戦的な一夏に対して、暗い闘志を燃やすラウラ。この二人の間だけ温度が周りより数度ほど高くなっている気がする。

 そうやって二人が挑発的なやり取りをしている間にも、試合開始のカウントダウンが進んでいく。もう数秒もしない内に、ここは修羅場と化すだろう。

 

(相手は一夏とシャルル……なんだかんだいって、手を抜けるような相手でもないな。その上、ラウラの方にも目を向けとかなくちゃいけないときた……こいつは骨が折れそうだ、畜生)

 

 秒刻みのカウントダウン、それがゼロになった瞬間にアリーナに試合開始のブザーの音が鳴り響く。そして、ほぼ同時に一夏とラウラが動き出す。

 

「「叩きのめす!」」

 

 試合開始と同時に瞬間加速(イグニッション・ブースト)でラウラに詰め寄る一夏。それに対してAICを起動しようとするラウラ。それを止めに入るシャルル……を止めに入る俺。

 一夏の奇襲をラウラは読んでいたのか、難なくAICで一夏の動きを封じる。そんなラウラへとシャルルが、二丁のアサルトライフルを構えるが、俺はその間に割って入るとヴォーテックスシールドを起動する。

 

「レイ……! 悪いけど僕だって、君のことは十分に研究させてもらったよ」

 

「む……」

 

 ヴォーテックスシールドで次々と撃ち放たれる弾丸を受け止めるが、シャルルはそれも御構い無しに射撃を重ね、俺へと距離を詰めてくる。

 当然、ヴォーテックスシールドにも持続限界がある。俺はヴォーテックスシールドを解除し、絡め取った弾丸をシャルルへと撃ち返すと同時に、XO-16の銃口を向ける。

 しかし、俺の目の前には両手に物理シールドを構えるシャルル。先ほどまで両手にアサルトライフルを構えていたというのに、瞬時に武装を切り替えたというのだろうか。

 

「行くよっ!」

 

 ヴォーテックスシールドで撃ち返した弾丸を物理シールドで弾きながら突進してくるシャルルに、背部のアコライトポッドを起動させ、エネルギーサイフォンを撃ち込む。

 アコライトポッドから放たれる青白い閃光、それはシャルルの物理シールドに命中し、シャルルの動きを縛りつける……はずだったが、エネルギーサイフォンが命中したのはシールドのみ。その裏側のシャルルは既に次の行動に出ていた。

 

「──っ!」

 

 反射的にスラスターを全開に、前方にダッシュする。すると、先ほどまで俺がいた場所に無数の弾丸が炸裂する。頭上を見上げれば、そこには両手にアサルトライフルを構えるシャルル。

 しかし、片方の銃口を俺とは別の方向を向いている。その先に視線を向ければ、AICで一夏を拘束しレールカノンを構えるラウラがいた。

 

『ラウラ、狙われているぞ!』

 

「……っ!」

 

 プライベート・チャンネルでラウラに警告を飛ばすが、それよりも先にシャルルのアサルトライフルが火を噴く。咄嗟に回避行動に出たラウラはシャルルの射撃を回避するが、AICの拘束は解除され一夏が再び動き出す。

 

(……器用なもんだな。高速で武装を呼び出し(コール)してから照準までの動きに無駄がない。それでいて一夏の方を気にかける余裕もあるときた!)

 

 俺はロードアウトを『ローニン』へと切り替えると、更なる射撃を加えようとするシャルルへアークウェーブを放つ。

 しかし、何かを察したように大きく距離を離して回避するシャルル。疑問に感じた時にはすでに遅く、リーゼのシャーシは見えない網にかけられたように停止してしまう。

 

「……っ! おい、ラウラ⁉︎」

 

「ふん、私の射程内にいた貴様が悪い」

 

 見れば、ラウラは俺と一夏を纏めてAICで拘束していた。一夏も必死にもがいていたが、ラウラはこれ見よがしにレールカノンに砲弾を装填する。

 どうやら俺と一夏を同時に吹き飛ばすつもりのようだ。シャルルがそれを止めに入るが間に合わない。

 

「味方の誤射にやられるのは勘弁願いたいね!」

 

 俺はその場でフェーズダッシュを起動してAICの拘束を抜け出す。すると、放たれた砲弾はもろに一夏に命中する──が、一夏もタダではやられない。僅かに動く右手の『雪片弐型』で砲弾を弾いて、ダメージを最小限に抑えたようだ。

 

「一夏、大丈夫──わっ⁉︎」

 

「もう邪魔はさせるかっ!」

 

 フェーズダッシュから実体化すると同時に、シャルルに強烈なタックルを食らわせる。そしてロードアウトを『プルート』へと切り替え、シャルルへと爆撃を加えていく。

 その横では、プラズマ手刀を起動させたラウラが一夏を追撃し、激しく斬り合う。

 

「もう、なんだかんだ言って息ぴったりじゃないか」

 

「そっちこそ、いいコンビネーションだぜ」

 

 アサルトライフルを地面に投げ捨て、今度は両手にショットガンを呼び出したシャルルは、ラファール・リヴァイヴの機動力を生かした高速戦を仕掛けてくる。

 俺もVTOLホバーを起動し、クアドラブルロケットとマルチターゲットミサイルを連射しながら応戦する。

 

『ねぇレイ、少しいいかな?』

 

 シャルルとの激しい高速戦の中で、不意にプライベート・チャンネルで語りかけてくるシャルル。俺はシャルルの撃ち放つ散弾の雨を掻い潜りながらも返答する。

 

『なんだ、戦闘中に敵とお喋りか』

 

『あははっ、手厳しいね。でも……大事な話なんだ。この間の、君の提案のことだよ』

 

『あぁ、あのことか。今このタイミングで言うことかそれは?』

 

『まあ、そう言われればそうなんだけど。僕なりに考えた上での答えだったから、レイに聞いて欲しかったんだ』

 

 会話は穏やかでも、戦闘は全く穏やかではない。シャルルは執拗にリーゼの死角となる角度へと回り込み、ヴォーテックスシールドでは防ぎにくいような攻撃を仕掛けてくる。

 正直やり辛いことこの上ないのだ。だから会話している余裕もあまりないのだが……折角なのだ、無下にするのもあんまりというものだ。

 

『……レイには申し訳ないけど、僕は君の計画に賛同できない。レイの言う通り、虎穴に入らずんば虎子を得ず、リスクを負わなきゃリターンは得られない。その通りだよ……でもだからって、レイまで巻き込むわけにはいかない。これは僕の問題なんだもの』

 

『だが、今のお前一人でどうにかなるものでもないだろ』

 

『うん、今はね……だからこの三年間という猶予で、僕はきっと何か解説策を見つけ出すよ。もう流されるままなのは終わりにするんだ、僕自身の手でなんとかしてみせる』

 

 シャルルの声からは迷いは感じられない。攻撃も迷いがなさすぎて少しずつ俺のシールドが削られているのだが、それだけシャルルの意思は強いということだろう。

 

『そうか……お前がそう決めたのなら、俺は特に言うこともないさ』

 

『うん。だからレイは、危ないことしなくていいんだよ? 一夏たちも、その……レイのこと心配してたから』

 

『そりゃどうも……さて、話が終わったところで、一夏と切り替え(スイッチ)するなら今の内だぞ。一夏の奴、かなり苦戦しているみたいだからな。後ろからキツイのをお見舞いしてやれ』

 

『えっ……レイ、僕たちの作戦を分かっていたの?』

 

 一見すると一対一の戦闘のように見えるが、シャルルは巧みに射線を俺とラウラに重ねようとしているのを感じていた。恐らく、隙を見てラウラを背後から奇襲、そして一夏が俺へと仕掛けてくる、という手筈だったんじゃなかろうか。

 まあ、敵を射線上に重なるのは俺もよくやる常套手段だし、何よりこの間の模擬戦で、俺とサラが同じような戦法を見せたからな。似たような戦い方をしてくれば気づくというものだ。

 

『でもいいの? 普通は気付いたなら、それを防ごうとすると思うんだけど』

 

『いいんだ、今回ばかりは勝つことが目的じゃないからな。だが油断するなよ、ラウラは強い。特に対一の状況なら無敵に近いレベルでな』

 

『……じゃあお言葉に甘えて!』

 

 ショットガンから大型のマシンガンに装備を切り替えるシャルル。そしてそれが合図だったのか、一夏もまた動きを見せる。

 

「一夏!」

 

「──っ! おう!」

 

 俺を飛び越えてラウラの背後にマシンガンの弾幕を叩きつけるシャルルと、瞬間加速(イグニッション・ブースト)で俺の背後から雪片弐型を構えて突進してくる一夏。

 俺はロードアウトをローニンに戻し、振り向きざまにブロードソードで一夏の鋭い一撃を受け止める。しかし、()()A()I()C()()()()()()()()()()()()()ラウラはさすがに対応しきれなかったのか、マシンガンによる手痛いダメージを受けていた。

 

「……っ……貴様……!」

 

「相手が一夏じゃなくてゴメンね」

 

「ちっ、目障りだ!」

 

 今度はラウラと激しい銃撃戦を繰り広げるシャルル。それに対して、こちらは互いが手に持つ剣をぶつけ合ったまま、静かな鍔迫り合いを続けていた。

 あれ以来、一夏とはまともに会話すらしていなかったが、どうやら一夏は何か覚悟を決めたようだ。顔つきが以前とは少し違う気がする。

 

「よう、何だかんだ言ってお前とISで一騎討ちっていうは初めてだな」

 

「……そうだな。でも正直言って俺はずっとお前と戦いたかってみたかったんだ」

 

「へぇ……珍しいじゃないか。お前がそんなことを言うなんて、さ!」

 

 俺のブロードソードと一夏の雪片弐型がぶつかり合い、激しく火花を散らす。どうやらこの試合、一筋縄にはいかないようだ。




PVやOPあくまでプロモーションであって、実機でそれ通りの動きができるわけではない。世にこれを『フロムマジック』と呼ぶ。

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