Infinit Fall :Re   作:刀の切れ味

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シリアスな展開を書いていると、前書き後書きでふざけたくなる病気である


Log.37 ルーチン変更:最大出力戦闘

「な、なんだよ、あれは……」

 

 先ほどまで、俺たちと激戦を繰り広げていたラウラ。そのIS、シュヴァルツェア・レーゲンだったものは、今や全く別物というべき姿に変貌していた。

 ボディラインはラウラのそれをそのまま表面化した少女のそれだが、全身を装甲で身を包んでいる。そして頭部のフルフェイスのアーマーの目の箇所には、ラインアイ・センサーが赤い光を漏らしていた。

 しかし、問題はその手にある武器である。見間違う訳がない、あれは──

 

「『雪片』……!」

 

 千冬姉がかつて振るった刀、それに酷似していた。似ているというレベルではない、まるで複写(トレース)だ。

 

「はっ……⁉︎」

 

 俺は無意識のうちに雪片弐型を握りしめて、中段に構えていた。刹那、変異したラウラが俺の懐に飛び込んでくる。居合に見立てた刀を中腰に引いて構え、必中の間合いから放たれる一閃。それは紛れもなく千冬姉の太刀筋だった。

 

「ぐうっ⁉︎」

 

 構えた雪片弐型が弾かれる。そしてラウラはそのまま上段の構えに移る。初太刀で弾いて二之太刀で仕留める、これもよく知っている動きだ。

 弾かれた体勢からでは、受けきることはできない。俺は必死に後方へ退避しようとする──が、その直前に変異したラウラの横から飛来した青白い閃光が、ラウラの動きを封じた。

 そして、それに続くように横から現れた鋼の塊が、ラウラに体当たりしてアリーナの壁までラ吹き飛ばした。

 

「下がれ、一夏! こいつは危険だ!」

 

 俺とラウラの間に割って入ってきたのは、レイとリーゼ・シエラだった。

 レイは俺に下がるように指示してくる。確かに今のラウラは明らかに異常をきたしている、けれど、今の俺にはどうでもいい。

 

「…………がどうした……」

 

「あぁ?」

 

「それがどうしたああっ!」

 

 激しい怒りに突き動かされて、俺は零落白夜を起動させると黒いISへ目掛けて駆けて行く。

 

「うおおおっ!」

 

「馬鹿野郎、無闇に突っ込むな!」

 

 レイの制止も振り切って、俺はめり込んだ壁の中で更に変形していく黒いISへと突進する。黒いISは、突っ込んでくる俺を認識したのか、手に持つ雪片()()()を構える。

 俺は黒いISへ目掛けて零落白夜を纏った袈裟斬りを放った。当たれば、一撃で戦闘不能にも追い込む文字通り必殺の刃。しかし、それが黒いISに当たることはなかった。

 全力の袈裟斬りは、その黒いISに完全に見切られていた。ほんの僅かに手に持つ刀を動かしただけで、俺の袈裟斬りの勢いは受け流され、虚しく切っ先がアリーナの地面に突き刺さった。

 

「……っ!」

 

 先と同じように再び上段に構える黒いIS。無理やりに零落白夜を起動させたこともあって白式も遂に限界がきたのか、思うように体を動かすこともできない。

 

「一夏っ!」

 

 しかし、黒いISが上段に構えたその刀を振り下ろす前に、シャルルがアサルトライフルを数発黒いISへと撃ち込む。その攻撃を鬱陶しく思ったのか、黒いISは俺からシャルルへと標的を切り換える。

 俺の懐に飛び込んできたように凄まじい瞬発力でシャルルへと駆ける黒いIS。再び刀を居合に見立て中腰に引いて構えるが、その一撃は虚空から現れたリーゼ・シエラの半ばから折れたブロードソードで受け止められる。

 

「シャルル、一夏を連れて行け!」

 

「うん、分かった! あとレイ、これを使って!」

 

 シャルルが離れ際に、物理ブレード『ブラッド・スライサー』をコールすると、それをレイに投げ渡す。受け取ったレイは、折れたブロードソードの代わりに大型のショットガンをコールして黒いISと対峙する。

 

「くそっ……!」

 

 最後の力を使い果たした白式が、光と共に消える。けれど、俺はあいつが許せなかった。俺は拳を武器に、再び黒いISへと突進しようとするが、その前にシャルルが俺を黒いISから引き離す。

 

「何やってるの、一夏! 死ぬ気なの⁉︎」

 

「離せ! あいつ、ふざけやがって! ぶっ飛ばしてやる!」

 

 あの剣技は、俺が千冬姉から最初に習った技だ。あの技を習ったあの日から、俺の生き方が定まったと言ってもいい。それをこいつは……! 

 

「あれは……千冬姉の技だ。千冬姉だけのものなんだよ。なのに……くそっ!」

 

「……なんとなく理由は分かるけど、ISのエネルギーも切れた状態で、しかもレイがあそこまで苦戦する相手にどう戦うのさ?」

 

 見れば、ショットガンとシャルルから受け取った物理ブレードを駆使して黒いISと戦うレイは、明らかに劣勢だった。黒いISが刀を振るうたびに、その装甲に傷が増えていく。

 思えば、レイは俺の零落白夜を食らっている。つまり、シールドバリアーを全て失った状態ということ。そんな状態でまともにあんな一撃をもらったら、間違いなく致命傷になる。

 

『非常事態発令! トーナメントの全試合は中止! 状況をレベルDと判定、鎮圧のため教師部隊を送り込む! 来賓、生徒はすぐに避難すること! 繰り返す!』

 

「……一夏がやらなくても、教師部隊の人たちが、事態を収拾してくれと思う。だから……」

 

「無理に危険に飛び込む必要はない、か?」

 

「そう、だね……」

 

 非常事態を告げるアナウンスがアリーナにけたたましく響く中、シャルルが静かに俺を諭してくる。確かにシャルルの言うことは正しい、理路整然としている。だが、俺はそれを拒否しなきゃならない。

 

「違うぜ、シャルル。俺が()()()()()()()()()()んじゃないんだよ。俺が()()()()()()()()()()()()()。他の誰がどうだとか知るか、ここで引いちまったらそれはもう俺じゃねえよ。織斑一夏じゃない」

 

「……っ! ……そう言うと思ってたさ!」

 

 苦しげな声を上げながらも、黒いISの斬撃をいなすレイ。そうだ、あいつが一人戦ってるっていうのに、俺はここで見ているだけなんて冗談じゃない。

 先月のクラス対抗戦の時も、結局はあいつに守られてしまった。あいつを超えると啖呵を切ったんだ、今度こそあいつの横に並んで立たなくちゃ意味がないんだ。

 

「俺はお前を戦わせるのは断固反対と言いたいが……そんな余裕もないのが現状だ! ……二分だ、それだけ時間を稼ぐ。その間に何かしらの対策を立てろ!」

 

「悪いな、レイ……頼む! …………とは言ったものの、ISのエネルギーが切れたこの状況をどうするか……」

 

「無いなら他から持ってくればいい。でしょ? 僕のリヴァイヴならコア・バイパスでエネルギーを移せると思うよ」

 

「本当か⁉︎だったら頼む! 早速やってくれ!」

 

「けど!」

 

 シャルルがリヴァイヴから伸ばしたケーブルを待機状態の白式に接続しながら、俺にびしっと指を指して言う。シャルルにしては珍しく、その語気は強い。

 

「本当にあの黒いISに勝てるの? 聞けば、先月の事件の時もだいぶ無茶をしたんだよね。勝算は……」

 

「勝つさ。ここまで言って負けたら男じゃねえよ」

 

「……レイと同じようなこと言うなぁ……分かったよ、リヴァイヴの残ったエネルギーを一夏のあげる。だから──」

 

「すまん! やっぱり一分が限界だ……こいつ、メチャクチャしやがる!」

 

 ショットガンを両断されたレイが焦りを含んだ声を上げる。マズイ、こんな話をしている場合じゃなさそうだ。

 

「……話は後だね。リヴァイヴのコア・バイパスを解放、エネルギー流出を許可……」

 

 繋がれたケーブルから流れ込んでくるエネルギーを感じながら、俺は焦る気持ちを必死に押さえつけていた。黒いISの猛攻を全力で耐え凌ぐレイとリーゼが少しずつ傷ついていくが、今の俺には何もできない。そう、今は……! 

 

(頼む、なんとか……なんとか持ちこたえてくれ!)

 

 

 ──

 

 

 くそったれ、そう口にして叫びたい気分だった。俺は両断されたショットガン『レッドウォール』を投げ捨てながら、一度距離を取り新たな武装をコールしようとする。

 しかし、そんな暇は与えないと言わんばかりに、変異したラウラのシュヴァルェア・レーゲン、黒いISが再度懐に飛び込んでくる。

 

「ちぃっ!」

 

 シャルルから受け取った物理ブレード『ブラッド・スライサー』で何とか斬撃を受け止めるも、その重たい一撃はコクピットにいる俺の芯にまで響いてくる。

 

「げほっ、げほっ……! やってくれるな、畜生!」

 

 イージスアップグレードによる脳神経への過負荷と、シールドを再展開できていない故の装甲へ直のダメージ。リーゼとの繋がりが強くなっているからか、装甲が傷つくたびに胃が裏返るような違和感と、頭が割れそうになるほどの頭痛が走る。

 

「警告、稼働限界まであと一分です」

 

「くっ……リーゼ! 第4アップグレードを搭載しろっ!」

 

「……了解。第4アップグレード、コア機能の強化、重複使用。『オーバーコア』を搭載します」

 

 更なるアップグレードを搭載したことにより、内部の機関が唸り声を上げていく。こいつの相手をするのなら、これくらいはやらなければダメみたいだ。

 

(うぐ、うぅ……! やは、り……4種搭載はキツイな……!)

 

 リーゼの単一仕様である『イージス・アップグレード』は、その搭載数によって負担も増減する。4種類ものアップグレードを同時搭載するのは初めてのことだ、そしてやはり、脳みそへの負荷はとてつもない。

 俺は頭が割れそうなほどの激痛に歯を食いしばりながら、オートライフルの『XO-16』をコールし、『バーストコア』を起動する。

 

「……!」

 

 アーク放電を纏った凄まじい銃弾の嵐の中でも、黒いISはコンピュータのように必要最小限の動きで回避していく。自動で回避するシステムでも搭載しているのだろうか? ならばこれはどうだ。

 

「『スマートコア』、オンライン」

 

 ロードアウト『リージョン』のコア機能であるスマートコアは、視界内の敵を自動で補足し、高速で照準補正を行う。いくら相手が俊敏に動こうと、正確に相手をロックオンできる。

 それをバーストコアにより強化されたXO-16と合わせて、正確な自動照準で黒いISを追い立てていく。その隙にマルチターゲットミサイルを連射し、更なる追撃を加えていく。

 

(コイツ……当たっても大したダメージにならねぇ……!)

 

 しかし、いくらシールドバリアーを突破するほどのダメージを与えても、あの黒いISの装甲は何度も再生してしまうのだ。

 どういう理屈なのかは知らないが、アレを止めるには一撃で戦闘不能に追い込むような──それこそ一夏の零落白夜のような必殺の一撃が必要のようだ。

 

(こいつを戦闘不能にするには、それ相応の攻撃を加えなくちゃいけない……それこそ、ラウラを殺す気で行かなければ……!)

 

 スマートコアの機能が停止しクールタイムに入ると同時に、俺は焼夷ガストラップとトリップワイヤーを前方に展開し、XO-16からプラズマレールガンに切り替える。

 弾幕が止むや否や、こちらに突進してくる黒いIS。レールガンを一発撃ってガストラップに引火させると、俺は敵の機動を予測しながらプラズマレールガンにエネルギーを充填させる。

 しかし、俺の予測はあっさり外れる。黒いISは燃え盛るガストラップを意に介することもなく突進してくると、トリップワイヤーが起爆する前にブレードで切断し、咄嗟に放ったプラズマレールガンの弾丸すらもあっさりと両断する。

 

「嘘だろ、おい……⁉︎本当に織斑千冬みたいな動きをしやがって──」

 

 接近戦の間合いに入った黒いISは、再び刀を構えて俺へと迫る。しかし、その動きは見覚えのある動きだった。以前、織斑千冬と模擬戦を行った際に見せた動きだ。

 大きく上段に構えた状態から放たれる、一見緩やかに見える研ぎ澄まされた一閃。アレを食らったら、文字通り俺とリーゼは真っ二つにされちまう。

 だが、ステップ程度ではかわせない。奴の瞬発力なら余裕で追いついてくる。だから。受け止めるしかない! 

 

「ええい、ままよっ‼︎」

 

 プラズマレールガンを投げ捨ててブラッド・スライサーを構えると、背部スラスターの出力を全開にする。そして、振り下ろされた黒いISの一閃を、俺は正面から受け止めに行く。

 しかし、ブレードがぶつかり合う直前でアコライトポッドを展開すると、エネルギーサイフォンを放つ。

 

「……!」

 

 目の前で放たれた青白い閃光を、目の前で回避する黒いIS。だがそのおかげで剣筋がブレて、繰り出された斬撃はブラッド・スライサーの半ばまで食い込んだところで止まった。

 大振りの一撃を受け止められてできた明確な隙、絶好のチャンスだ。俺はリーゼのマニピュレータで黒いISに掴みかかって捕らえると、コクピットを開いて外へ飛び出す。

 これはかなり無茶苦茶な作戦ではあるが、成功すれば……ラウラの暴走を止めることができるかもしれない。

 

「うぐぅ……⁉︎」

 

 黒いISは抱きつくように取り付いた俺の左腕に掴みかかって、引き剥がそうとする。その硬い装甲に覆われた手で掴まれたせいで、ミシリと嫌な音が鳴った。

 骨にヒビが入ったか、しかしそんな負傷は気にしてられない。俺はデータナイフを取り出すと、装甲に覆われたラウラの胸に突き立てた。

 

「リーゼ、システムハックを実行しろ!」

 

「対象へシステムハックを実行。ISコアへのアクセスを開始します」

 

 データナイフを通じて、システムへの侵入を試みるリーゼ。ISコアの管理権限を使って全システムを強制的に終了させれば、ラウラの暴走を止められるはず。

 止められなかったら……いよいよ一夏に頼らざるを得ない。護衛対象であるあいつに危険な真似をさせるのは、本来なら避けるべきだが──

 

(……っ⁉︎な、何だコレは……⁉︎)

 

 システムハックを開始すると同時に、突如頭の中に流れ込んでくる情報の洪水。周りの時の流れがゆっくりになったように、全ての動きがスローモーションになる。

 一体何が起きているのか把握できないまま、俺の意識が遠のいていく。まるでこの黒いISに意識が飲み込まれていくかのように、俺の目の前は真っ暗になった。




織斑千冬のような化け物の動きを再現したら、パイロットが捩じ切れて死にそうだけど大丈夫かい?
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