ガバリと布団を押しのけて、俺は目を覚ます。体を起こした際に駆け巡る嫌な痛みに顔をしかめるながら、俺は自分の周りを見回す。
白いカーテンに仕切られたベッドの上で寝かされていたようだが、恐らくここはIS学園の保健室。俺は手首に待機状態のリーゼが装着されていることを確認する。
「こんばんは、パイロット。貴方が無事に目覚めて何よりです」
「ああ、お前も特に問題はなさそうだな……あれからどれくらい時間が経った? ラウラは無事か?」
「……アリーナでの騒動から既に十三時間ほど経ちました。タッグトーナメントの試合は全て中止となり、気を失っていたパイロットとラウラ・ボーデヴィッヒはここ保健室に運び込まれました」
「そうか……」
俺はベッドから降りると、隣のベッドのカーテンを開く。そこには体の各所に包帯を巻かれたラウラが、ベッドの上で寝かされていた。やはりVTシステムの酷使は、搭乗者にも大きな負担がかかっていたらしい。
「ラウラのシュバルツェア・レーゲンはVTシステムで変異した上に、一夏に真っ二つにされていたな。コアは無事なのか?」
「スキャンしてみましょう。パイロット、待機状態のシュバルツェア・レーゲンに触れてください」
俺はラウラの側に寄って、シュヴァルツェア・レーゲンの待機状態であるレッグバンドに、同じく待機状態のリーゼを装着した左手でそっと触れる。
「コア・ネットワークにアクセス。システム診断を開始……機体は破損していますが、コアは健在です。現在は自己修復にリソースが割かれていますが」
「ふむ、つまり今はコアを保護するセキュリティもまともに動いていないわけだ……言いたいことは分かるな?」
「はい。シュバルツェア・レーゲンに組み込まれているVTシステムをアンインストールします」
「ついでだ。VTシステム起動時のシステムログ、データのバックアップも含めて、証拠全てを削除しろ」
待機状態のリーゼが翡翠の光を幾度か点滅させながら、シュバルツェア・レーゲンのコアにアクセスしてVTシステムを消去していく。
ISコアそのものにVTシステムが組み込まれていた証拠がなければ、ラウラが糾弾されることもないだろう。これでラウラの立場も保証されるはずだ。
そして何より、束の怒りに触れた原因も取り除けた。これでもう、ラウラを始末しろなんて命令を聞かなくてもいいはずだ。
(しかし、わざわざこんなものをISに組み込んだ意図はなんだ?シュバルツェア・レーゲンはドイツ軍が運用する軍用機、つまり……)
「──VTシステム、及びそれに関する全てのデータを消去しました。データベースの整合性を取るために、一部は書き換えを行いまし、た、が……」
「……ん?」
「さ、さい──最高レベルのアクセス権限によるシステム管制譲渡の要請を確認。一時的に権限を移行……やっほー、元気にしてるかな?」
「おい、リーゼ……っ⁉︎」
待機状態のリーゼのデバイスから放たれる緑光が、淡いピンク色の光へと変わる。すると、リーゼの口調がガラリと変わる。
「その口調……束か?」
「やあやあ、相変わらずオーバーリアクションだねぇ。あ、そんな顔しなくても、今は一時的にリーゼちゃんを通じて話しかけてるだけだからさ。すぐに元に戻してあげるよ」
声はいつものリーゼと変わらない、しかし、口調や雰囲気は束のそれだ。束はその気になれば、いつでもどこでもISコアにアクセスできるようだ。
しかし、噂をすればなんとやら、か。俺にわざわざこうやってコンタクトしてきたということに、もはや嫌な予感しかしない。
「さてと、君も私に何を言われるか分かってるよねー……私はさ、あのドイツの小娘を消せって命令したはずだよね? でも、君はわざわざ面倒な方法を取ってでも、あいつを助けようとした。殺す気でやれば、すぐにでも始末できただろうに……その理由は?」
確かな怒気を含んだ束の声に、背筋に悪寒が走る。今までにもこいつだけは怒らせちゃいけない、って奴に会ったことはある。束はその中でも、トップクラスに怒らせちゃいけない奴だ。
「私と君の契約をもう一度思い出して欲しいな。私は君のタイタンをISとして改修し、君に与えた。君はそれを用いて、傭兵として私の為に働く。君は自分の相棒を蘇らせる代わりに私の駒になった、そうだよね」
「……そうだ」
「じゃあ、言うことを聞いてくれない駒をどうするかの想像もできるんじゃない? 束さんは別に、気の合うお友達が欲しい訳じゃあないんだよ」
「……ああ、分かっている」
「じゃあもう一度聞くよ? ……どうしてあの小娘を始末しなかったのかな」
「それは……織斑千冬に止められたからだよ」
まずは嘘偽りなく話す。俺の意思はともかく、織斑千冬に止められたというのは本当の話だ。
「へえ、ちーちゃんがねぇ」
「それに、お前が気に入らなかったのはアイツのISに搭載されていたVTシステムだろう? それはもう消去した」
「ふーん……で?」
だからどうした、と言わんばかりに一蹴する束。俺はこれ以上怒らせまいと慎重に言葉を選ぼうとするが、束はもう俺の言い訳には興味がないのか、俺が口を開く前に言葉を遮る。
「もういいよ。私は別に君の言い訳が聞きたいわけじゃないんだよ……君はまだ私にとって利用価値のある駒なんでしょ? なら、それもう一度証明してもらうよ」
「……俺にどうしろと?」
「前に言ったよね、ドイツにある基地を一つ潰して欲しいって。そこではさぁ、例のVTシステムの開発が行われてたんだよね。だから、その施設を根っこから潰してきてよ」
「それは、その……今からか?」
「うん、そうだよ?」
ドイツの基地を潰せ、というのは前にも聞いていたことだ。しかし、今からドイツまで行けというのか?
それにドイツの基地というが……ドイツ軍の最新鋭機であるシュバルツェア・レーゲンに細工できるのは、同じくドイツ軍ぐらいだ。恐らく、VTシステムの開発とやらにも関わっているのだろう。
つまり、束が潰せというのはドイツ軍の基地に他ならない。今までの相手とはわけが違う、そう簡単に手を出していい相手じゃないのだ。
「ああ、今回は君にやり方を任せてあげる。どんなやり方でもいいから、目的を達成してくれればいいよ」
「……」
「敵を殺すも殺さないも、君の自由だよ。束さんが満足する結果になれば、ね」
「……了解した」
「足だけは用意してあげる。今すぐに学園の第三グラウンドに来てね、それじゃあねー……権限譲渡を解除。全システムを通常モードに移行」
ピンクの光から翡翠の光に戻る待機状態の相棒、束からの通信が途切れたのだろう。
「プロトコル2、任務内容を更新。我々は今すぐに出発し、作戦行動に移らなければなりません……パイロット?」
「あぁ……分かってるよ」
束は怒っている、というよりは俺に失望したといった感じだ。やはり、俺のやり方が気に入らなかったらしい。
束に与えられたこの任務の結果によっては、また束の機嫌を損ねてしまうかもしれない。なにせ今回の相手はドイツ軍、手強いというよりは俺に対する制限がキツい。
(ドイツ軍の兵士、つまりはラウラの部下や同僚になるわけだからな……)
IMCと戦っていた時や、この間の楯無との仕事の時のように、容赦なく引き金を引ける相手じゃないのだ。束は気にいらないものは全部吹き飛ばしてしまえばいいと思っているだろうが。
「文句を言っても仕方ない、か……やれやれ、休めるのはもう一働きしてからだな」
俺はパイロットスーツを呼び出して身にまとい、クロークを起動して背景に溶け込む。そして、ベッドで未だに目を覚さないラウラに布団をかけ直すと、俺は保健室の窓から暗くなった外へと飛び出した。
久しぶりにバトルフィールドVでヒャッハーしてます。
クリーク!クリーク!クリーク!