もうあのフォルムがカワイイし、機能性もバツグン。実在の名銃であるステアーAUGがそれを証明してくれているっ!
(さて、ここまで来たはいいが……束が用意した足ってのはアレのことか?)
夜の闇に包まれた暗いグラウンド、クロークを起動させたまま俺はグラウンドを見回すが何も怪しいものはない。
しかし、ヘルメットに備え付けられたサーマルセンサーは、ごく僅かな熱源反応を感じ取っていた。グラウンドの中央に何かある。
「相棒、グラウンドに身を隠してるアレをスキャンしてみてくれ」
「了解、対象をスキャンします」
相棒にスキャンするように指示を出す……と同時に、グラウンド中央に潜んでいたそれが姿を現す。高度な光学迷彩によって暗闇に紛れていたそれは、俺にはよく見覚えのあるものだった。
「アレは……ドロップ・シップか?」
グラウンドの中央にあったのは、ミリシアにいた頃は降下作戦の際によく利用した、あのドロップ・シップによく似た降下艇だった。恐らく、束が再現したレプリカだ。
ドロップ・シップの後部ハッチが開くと、中からこれまた見覚えのあるロボットが出てくる。胸の部分に取り付けられたディスプレイに顔文字を表示するそれは、俺のいたフロンティアでマーヴィンと呼ばれた作業用人型ロボットだった。
「──! (どうぞ、お入りください!)」
「お、おう……」
手招きするマーヴィンに誘われるがままに、ドロップ・シップの中に足を踏み入れる。内装まで完全に再現しているのか、少し懐かしさすら感じる。
「────! (システム起動! これより本機は、目的地に向けて出発いたします!)」
ドロップ・シップの制御はこのマーヴィンが行なっているのか、胸元のディスプレイの無数の文字列が浮かび上がり、点滅を繰り返しながら情報処理を進めていく。
後部ハッチが閉じ内燃機関を唸らせるドロップ・シップは、一瞬眩い光に包まれる。そして、その光が晴れた時には、内窓から覗く外の景色はIS学園のグラウンドから、星が瞬く宇宙へと変わっていた。
「これは……ワープ航法か⁉︎アイツ、こんな技術まで再現したのか……しかも、本家より性能上がってるような……」
窓の外を見れば、眼下には青い地球が見える。IS学園から一気にこんなところにまでジャンプしたらしい。
いきなり宇宙まで飛んだことに驚きを隠せないが、やはり束ならそれくらいやってもおかしくない。そう考えると驚くのもバカらしい。
「──! ──……? (マスターから添付されてきた、今回の目標地点の情報です。お受け取りくださっ……あれ?)」
調子が悪いのか砂嵐状態の胸元のディスプレイを叩くマーヴィン。接続が安定しないことに、マーヴィンは焦ったように慌てふためく。こっちも本家よりも更にコミカルになっている気がする。
しかし、ようやく接続が安定したのか、胸元のディスプレイに兎のマークが現れると、目標であるとある基地の概観が映し出される。
「データの読み込み開始、目標地点の詳細情報をマッピングします」
「ふむ……この建物の配置、やはり予想通りか」
提示されたデータを読み取り、目標地点の情報を目に通す。どうやら、これから向かう場所はドイツのフォーゲルスベルク山地と呼ばれる地域にある基地らしい。
今回のラウラが引き起こしたVTシステムの暴走事件だが、アレを起動させたのはラウラでも、恐らくシステムそのものを組み込んだのはドイツ軍だ。
ラウラのシュバルツェア・レーゲンはドイツ軍が開発する軍用機だ。コアに直接アクセスできるのは軍の開発部ぐらいだろう。つまり、束が潰せというこの基地は、ドイツ軍の保有する基地ということだ。
「パイロット、作戦を確認しましょう。基地に近すぎる位置では、レーダーに感知される可能性があります。降下ポイントは、目標地点であるドイツ軍のフォーゲスベルク基地の上空10キロ。そこから自由落下で侵入します」
「……着地をミスれば潰れたトマトじゃ済まないか」
「基地のレーダー網を突破するためにステルス状態を維持しつつ、高速落下で感知される前に降下します。着地後は迅速に地下研究所を目指し、該当の施設を破壊してください。そして──」
「ドイツ軍の兵士は殺すな、だろう?」
「はい、その通りです。我々の目的はVTシステムの開発施設を破壊することです。ドイツ軍もVTシステムの開発が明るみとなることは避けたいと思われます。隠密に進めれば、ドイツ軍も表立って行動できないでしょう」
リーゼの言う通りだ。ドイツ軍を刺激したってこっちに良いことはない、こいつはスニーキングミッションだ。大胆にかつ慎重に、手早く目的だけ達成しよう。
(コンディションは……あまり良いとは言えないな。しょうがない、あまりこういうのは使いたくないんだが)
俺はサブマシンガンのCARを取り出し、サプレッサーやレッドサイトなどを取り付け、今回の任務に合うようにカスタマイズする。その他軍需品等の装備のチェックも抜かりなく行う。
そして、俺は疲労した体を奮い立たせるために、バックパックから取り出した特殊な形状をした注射器を取り出す。それを首筋に押し当てると、中の液体を自身に打ち込む。
中の液体の成分は中枢神経系を活性化させる興奮剤だ。これを使えば暫くは疲れも忘れて動ける、もちろん後から手痛い反動がやってくるが。
「──? (準備はよろしいですか?)」
「ふぅ……ああ、問題ない。降下ポイントまで向かってくれ」
「──! (了解しました、少々揺れますのでご注意を!)」
マーヴィンの警告と同時に再び周囲が光に包まれると、ドロップ・シップがジャンプし、窓の外の景色もガラリと変わる。
高度は地表から10キロほど、対流圏の上層に位置する高さだ。遥か下には風に吹かれて広がる雲の海が見える。
「準備はいいですか、パイロット?」
「おう、いつでも行けるぜ」
ドロップ・シップのハッチが開き、凍てつくような突風が入り込んでくる。俺は眼下の荒れ狂う雲海を見下ろしながら、大きく息をつきながら覚悟を決める。
「全システム、オールグリーン。電子戦装備をセットアップ……レーダージャミングを実行。パイロット、ドロップ・シップの迎えが来るのは30分後です、迅速に行動しましょう」
「オーケー、まずはこのスカイダイビングを楽しむか!」
俺はハッチから勢いよく飛び出して、そのまま落下の加速に身を任せる。その勢いに意識が持っていかれないよう歯を食いしばりながら、俺たちは雲の中へと落ちていく。
『乱気流に突入します。備えてください、パイロット』
『ハードカバー、起動!』
俺の前方に展開された青白いシールドが乱気流の突風を凌ぐ。後は、ジャンプキットのブースターで、降下地点から外れないように調整するだけだ。
『4000……3800……3700……』
乱気流の中は激しい雨風で視界が全くといっていいほど効かないが、リーゼが目標地点の方向を示してくれる。雷に打たれる危険性もあるが……パイロットスーツなら大丈夫だ、多分な。
『地表まで3000m。まもなく乱気流を抜けます』
『ハードカバーを解除……リーゼ、システムを戦闘モードに移行しろ』
雲を突き抜けると、眼下に基地の小さな明かりが見えた。しかし、雲の下も激しい嵐で視界が悪い。今日のドイツの天気は雨らしい。
地表までは残りわずか、俺はクロークを起動して着地に備える。パイロットスーツのジャンプキットは非常に優れた装備ではあるが、タイミングを誤って着地に失敗すれば、俺は真っ赤な血のシミと化すだろう。
『地表の生体反応をスキャン……敵に捕捉されないポイントをマーク。パイロット、降下準備を』
『腕の見せ所だな、畜生……!』
強く吹き荒れる雨風でルートを外れないように、かつブースターの噴射炎を見られないよう細心の注意を払う。かなり繊細な作業だが……問題ない、俺ならできる!
(まだだ……まだ……)
ギリギリまでブースターを使わず、自由落下を続ける。そして、地表まで残り1000mを切ったタイミングで、大きな雷が鳴り響く。
周囲が雷光に包まれたその瞬間を見逃さず、俺はジャンプキットのブースターを噴射して姿勢を整えると、落下の勢いを殺す。
「ぐっ……!」
瞬間的に強く吹かしたブースターによる凄まじい反動を、歯を食いしばって耐える。そして、素早く降下地点である建物の屋上の周囲に敵がいないことを確認すると、転がるようにして着地するのだった。
「──っ……はぁっ……! 降下完了……!」
サブマシンガンのCARを構えつつ、周囲を警戒する。前方、後方、左右……敵影は無し、どうやら無事に侵入できたようだ。
あんな高さから自由落下で隠密侵入なんて馬鹿げた作戦は初めてだったが、なんとか上手くいった。二度目は勘弁願いたいところだが。
「リーゼ、周辺をスキャンしつつ、地下へと向かうエレベーターをマークしてくれ」
「了解です、パイロット」
リーゼの周辺を警戒させつつ、俺はクロークを維持しつつ慎重に行動を開始する。俺が着地したこの建物は基地にいくつかある倉庫の一つで、目指す場所は南東にある第三管理棟だ。
(うぅむ……改めて見るとこんな辺境にある基地にしては随分と大規模だな)
屋上から周囲を見渡せば、敷地内には沢山の建物やら倉庫が乱立している。各所には監視カメラが設置され、セキュリティもかなり厳しいだろう。
そしてあの倉庫の中には、未だに通常兵器としては主力級である戦車やらヘリコプターやらが眠っている。それらを起こすような大事は避けたいものだ。
しかし、なんというか……どこか妙だ。嵐のせいじゃない、基地の雰囲気がピリピリしているのだ。
(……急いだ方がよさそうだな)
俺は建物から飛び降りると、物陰を移動しながら第三管理棟を目指す。途中、武装したドイツ軍の何人かの兵士とすれ違ったが、クロークを維持しつつ何とかやり過ごす。何やら慌てふためいている様子だったが、いちいち確認している暇はない。
『パイロット、この周辺は巡回の兵士が多いです。注意してください』
『了解だ』
そして管理棟付近にまで辿り着くと、俺は建物の裏手にある大きなダクトへと向かう。VTシステムの開発が行われているであろう地下施設は専用のエレベーターでしか行けないが、流石にそれを使うわけにはいかない。
(あのダクトはエレベーターのシャフトに繋がっている。あそこからなら、ワイヤー越しに地下まで降りられるな)
管理棟裏にある地面から伸びる大きな排気口、音を立てて汚れた空気を吐き出しているそれの格子フタを静かに取り外すと、ダクトの中へと身を滑り込ませる。
「うっ……ヘルメット越しでも堪えるな、この悪臭は……」
ネズミのように身を捩って迷路のようなダクトを進むと、空気が流れ込んでくる出口が見えてくる。
格子の蓋をこじ開ければ、そこは地下へと続くエレベーターのシャフトに繋がっていた。俺はエレベーター内に伸びるワイヤーにしがみ付くと、そのまま下へ滑り降りていく。
かなり深いところに施設があるのか、ようやくシャフトの底が見えてきた。俺はシャフトの壁面に備え付けられていたコンソールにデータナイフを突き刺すと、リーゼにシステムをハッキングさせる。
「リーゼ、エレベーターのドアロックの解除と、周辺のセキュリティを一時的にカットしてくれ」
「了解です……」
「どうした? 何か気になることでもあったか?」
「いえ、先ほどから微弱な電磁気を検知しているのですが……システムに障害が発生するほどではありません。念のため、対電子対策レベルを引き上げておきましょう」
「電磁気、ね。この地下にある設備の影響か何かか?」
「発生源は特定できません、しかしこれは……」
腑に落ちない様子のリーゼだったが、手際良くセキュリティをカットしてエレベーターの扉を開けてくれる。
とにかく、この先は何が起こるか分からない。迅速に行動して、さっさと引き上げるとしよう──そう考えて、扉の先の施設へと足を踏み入れた時だった。
「……おいおい。どういうことだ、こりゃ……?」
エレベーターの扉の先、そこには真白い廊下が延々と続いていた。そして、俺のすぐ目の前には、真白い壁に映える鮮血を撒き散らして倒れた兵士がいた。
装備からしてドイツ軍の兵士だ。恐らくはエレベーター前にいた歩哨だろう。しかしこれは何だ、何故血塗れの死体になっている?
「……リーゼ、周辺をスキャンしろ。怪しい反応があればすぐに知らせろ」
「了解です」
サブマシンガンを構えながら、俺は油断なく兵士の死体を観察する。死因は喉元の裂傷、それによる失血か。後ろからあっという間に切り裂かれたのだろう。
……これが示す事実は一つ、この施設には俺以外の侵入者がいる、俺と全く同じタイミングでここに侵入した先客がいるのだ。しかも、エレベーターを使って正面から侵入したらしい。
その先客の存在を示すのが、廊下の先へと続く血の付いた足跡なのだが、この足跡は妙だ。まずそもそも人のものじゃない。四角く細いそれは人の足跡の形ではないし、間隔も規則的だ。まるでロボットが残した痕跡みたいだ。
「くそっ……ディスプレイの画面が乱れるな。電磁気の影響とやらか?」
「先ほどから電磁気の影響が非常に強くなって来ています。センサ類のパフォーマンスが大きく低下し、索敵行動が十分ではありません」
「……だからといって、引き返すわけにもいかんだろう。俺たちは、俺たちの任務を果たさなきゃならん」
「パイロット、警戒を厳にして進んでください」
「ああ、分かってるさ」
基地が妙な雰囲気だったのは、先に侵入していた先客のせいだったわけだ。そしてこの侵入者は、きっと俺と同じ目的だ。この地下で行われていたVTシステムの開発、それが絡んでいるに違いない。
ここで何が起きているのかは分からないが、俺は俺の任務を果たすために、真白い廊下の奥へと向かうのだった。
──
時を同じくして、地下施設の何処かにある薄暗い部屋。無数のコンソールの光に照らされたそこでは、不気味な容貌をした何かがいた。
簡易的で細い手足とのっぺりとした白い仮面のような顔、コードやシリンダーが剥き出しの細い体つき……フォルムは女性に近いが、とても人とは呼べない無機質な雰囲気をまとっている。
「おや……予想より早い到着ですね、ふふっ」
その謎の人物は無数にあるコンソールを眺めながら、女性の声色ではあるが機械的な音声で笑う。
「……スローン、聞こえますか? 彼がやって来ました、丁重にもてなしてあげてください」
『分かった……追加報酬はいらない、タダで請け負ってやる』
「おや、珍しいことを言いますね?」
『あの男には個人的に興味もある。だがそれはお前もだろう、アッシュ』
「ええ……それはその通りですが、私が興味あるのは彼のISですよ」
アッシュと呼ばれた謎の人物は、指でナイフを弄びながら通信相手に相槌を打つ。そのナイフには、どろりとした血が粘ついていた。
『……予定通り、第三試験場で奴を迎え撃つ。しっかりとモニタリングしておけ』
「もちろんです。では、健闘をお祈りしましょう」
通信が途絶えると、アッシュはナイフを手にしたまま足元に転がる……白衣を着た研究員の死体をじっと見つめる。
ピクリとも動かない機械の表情だが、そのレンズの瞳の奥では確かに感情の炎が揺らめいているようだった。
アッシュさんはアレですから、永遠の17歳ですから