Infinit Fall :Re   作:刀の切れ味

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今年のお天道様は機嫌が悪いのかい?



Log.43 オペレーション・ネゴシエイト ⑤

 ドイツ最精鋭の特殊IS配備部隊『シュバルツェ・ハーゼ』。その副隊長であるクラリッサ・ハルフォーフ大尉は、夜の嵐の中を全速力で駆けていた。

 よほどの緊急事態でなければ、ISが駆り出されるなんてことはない。ましてや最新の軍用機の出撃が要請されるなど、前代未聞だった。

 しかし、クラリッサは知っていた。以前にもそれに近い出来事があったことを。ドイツ領内に所属不明のISが現れ、民間基地一つを壊滅させるという事件があったのだ。

 そして今度は、ドイツ軍所有の山間基地から緊急要請があった。通信は途切れ途切れであったが、明確に助けを求めていた。

 

(正体不明の侵入者と、複数のコア反応を検知。至急、対IS戦想定の増援を求む……か)

 

 ラウラの駆るシュバルツェア・レーゲンの姉妹機でもあるクラリッサのIS『シュバルツェア・ツヴァイク』。レーゲンとは違い細身で軽量なその機体は、まさに(ツヴァイク)の名の通りだ。

 レーゲンと同じく試験段階の機体なのだが、軍の上層部がこれを駆り出すほどに事態を重く見てることに、クラリッサは若干の違和感を感じていた。

 

(出動命令を与えられたのは、結局私とロミルダだけ……何故、戦力をこれだけに絞った? まだISで出撃できる部下はいたというのに……)

 

 クラリッサのISは、まだ一応の完成にも至っていない。未調整の機体だった。だが、部下だけを送り出すわけにもいかず、こうして嵐の中を飛んでいるのだ。

 

『副隊長、良かったのですか? まだその機体は実戦運用を想定したテストを終えてないんですよね』

 

『構わんさ。ISを実際の戦闘に用いるのは禁じられているが、上は緊急事態だったと言えばいくらでも言い訳できる。それに乗じて、戦闘データでも取れれば一石二鳥と考えているのだろう』

 

 後ろをついて飛翔する黒に塗装されたIS。ドイツ軍独自のカスタマイズが施されたラファール・リヴァイヴを駆るシュバルツェ・ハーゼの隊員、ロミルダと無線を交わしながら、クラリッサはハイパーセンサーで油断なく索敵を続ける。

 

『以前、ドイツ領内に謎のISが現れた時は、その民間基地で違法なISの実験が行われてた、っていう噂でしたね。まさか今回も……?』

 

『根も葉もない噂話だ。我が軍がそんなことを……』

 

 するはずがない、そう言いかけるも、クラリッサは口をつぐんでしまう。このシュバルツェ・ハーゼの隊長である、ラウラのことが思い浮かんだのだ。

 ラウラの出自のことを思えば、表に出ていない部分で何が行われていたか、分かったものではない。

 

『とにかく、我々はフォーゲルスベルクへ向かう。そこで事態を明らかにし、適切に対処する。私情を挟むな』

 

『や、Jawohl(ヤヴォール)!』

 

『まもなく基地が目視できる距離だ。有視界戦闘に備えろ』

 

『FCS、セーフティ解除。武装を──展……』

 

『……? おい、どうした?』

 

 ザラザラと砂嵐のようなノイズに遮られ、クラリッサには思考通信の音声が全く聞こえなくなっていく。気づけば、ハイパーセンサーもほとんど機能していない。

 唐突に通信が遮断された事でロミルダも困惑した表情を浮かべていた。クラリッサはすぐにハンドサインで指示を出すと、スラスターの出力を上げ、最高速度で飛翔する。

 

(ISは普通の機械とはわけが違う、そう簡単にジャミングなどできるはずがない……一体何が起こっている⁉︎)

 

 最高速度で駆ける二機はあっという間に基地へと辿り着くが──基地には何もなかった。ただ不自然なのは、建物や外灯の類から全て灯りが消えていたということだ。

 パトロールの兵士すらも見当たらない。基地全体が眠りについたかのような、不気味な静寂だけが広がっていた。

 

「……ロミルダは周辺の警戒を、私は中央のセキュリティルームへ向かう!」

 

「了解!」

 

 部下に指示を出して、中央の管制棟へと向かうクラリッサ。しかし、それを遮るように、管制棟の麓が大きく爆ぜた。

 クラリッサとロミルダは即座に上昇して視界を確保すると、アサルトライフルをコールして構える……が、その視線の先に見えたものに、クラリッサはぞくりと背筋に悪寒が走る。

 

「あれは……⁉︎」

 

 煙の中から姿を現したのは一機のISだった。全身を覆う無骨な灰と青の装甲、背部に携えたリング状の非固定ユニット、頭部のバイザーの煌々と輝く紅いカメラアイ。クラリッサはそれを一眼見て、それが基地を襲った襲撃者であると悟った。

 

「そこの所属不明機に告ぐ! こちらはドイツ軍特殊IS配備部隊『シュバルツェ・ハーゼ』、副隊長のクラリッサ・ハルフォーフ大尉だ! 即刻武装を解除し、こちらに投降せよ!」

 

 クラリッサの呼びかけに対して、ゆっくりとカメラアイを向けるIS『アーク』。そして、おもむろに背中のリング状の非固定ユニットを全面に展開すると、凄まじいまでのエネルギーをチャージし始める。

 

「……っ! 警告が聞こえなかったのか⁉︎武装を解除しなければ、攻撃の意思ありと判断し、こちらも相応の対処を取るぞ!」

 

『……』

 

 クラリッサの呼びかけには応じず、展開したリングに充填したエネルギーを解放するアーク。極限までに圧縮されたエネルギーは一瞬に閃くと、雨雲すら吹き飛ばす熱線となって放たれた。

 クラリッサとロミルダはそれをギリギリで回避するが、ほんの僅かに掠っただけでシールドバリアーが大きく削られたことに戦慄する。しかし、クラリッサは怯む事なく、アサルトライフルのトリガーに指をかけ狙いを定める。

 

「警告はした……其方は我がドイツ軍の敵であると、認識したっ!」

 

 ゆっくりと展開していたリングを格納するアークに向けて、数度トリガーを引くクラリッサ。放たれた弾丸はもろに命中するが、アークの規格外の出力のシールドバリアーに阻まれてダメージにならない。

 そしてアークは、クラリッサたちの攻撃を意に介さず大型のレーザーライフルをコールすると、エネルギーを充填して構える。

 

「くっ……ロミルダ、左から回りこめ!」

 

「了解!」

 

 次々と拡散するように放たれるエネルギー弾を回避しながら、アークの死角へと回り込むクラリッサ。そのまま手に持っていたアサルトライフルを格納すると、両腕を交差させるように前へ突き出した。

 すると、アークは後に絡めとられたかのように、ピタリと動きが止まる。ツヴァイクに搭載された第三世代兵器、不可視の網で敵を封じる停止結界(AIC)だ。

 

(バカな……! AICで捕らえたというのに止まらないっ⁉︎)

 

 AICによって拘束されているにも関わらず、アークはゆっくりだが再び動き出す。ただ圧倒的なパワーで、強引にAICの拘束を抜けようとしているのだ。

 それを見たロミルダは、アークが完全に拘束を抜け出す前に攻撃を仕掛けるべく、大口径のスナイパーライフルをコールする。そして、アークのカメラアイに狙いを定めるが──

 

『噂の黒ウサギ部隊ですか。流石に動きが早いですね』

 

「……っ⁉︎」

 

 ロミルダの真横でグニャリと空間が歪む。すると夜闇の中から、長大な刀身が姿を現し、ロミルダのスナイパーライフルを切断する。

 息を呑むロミルダは咄嗟に左腕の物理シールドを掲げると、そこへ分厚いブレードが叩きつけられた。

 

「貴方たちに用はありません……が、そのISコアを手土産にでもしましょうか?」

 

 両肩に沿う大きな物理シールドと、その手に握られる無骨な片刃のブレード。アークと同じように、表情を覆い隠す紅いカメラアイのバイザー。どこからともなく現れたそのISの姿は、日本の倉持技研が開発した第二世代機『打鉄』に酷似していた。

 それはアークと同様に亡国機業に奪取されたISであり、試験段階で与えられていた呼称は『黒鉄』。亡国機業のエージェント、アッシュの専用機として運用されていた。

 

(やはり、もう一機いたか……! それにあれは確か、日本の倉持技研が開発していた……まさかコイツらは⁉︎)

 

 アッシュの猛攻に、防戦一方となるロミルダ。しかし、クラリッサもアークを抑えるのが手一杯で、ロミルダを援護することはできない。

 それが分かっているのか、アークはAICに拘束されながらもレーザーライフルをロミルダへ向け、トリガーに指をかけた。

 

「ロミルダ、狙われてっ──ちいっ、させるものか!」

 

 クラリッサはAICを一点に集中させて放ち、アークの右腕を完全に停止させようとする。だが、未完成の機体では出力不足なのか、やはり完全に拘束できていない。アークはなおもその指先はゆっくりと引き金に力を込めていく。

 逃げろ、そうクラリッサが叫ぶ……より前に、崩れた管制棟が再び爆ぜた。そして、瓦礫の山から大きな鋼の塊が姿を現した。

 

『フライトコア、オンライン』

 

 空中へと飛び上がりながら、アークへ向けて背部のアコライトポッドから大量のロケットを撃ち出すのは、単一仕様を発動したリーゼ・シエラだった。

 煌々と輝く翡翠のカメラアイを尾引かせながら飛翔するリーゼ・シエラは、ブロードソードをコールしながら黒鉄へと斬りかかる。

 

(三機目⁉︎しかもあの機体は、例のイレギュラーの……!)

 

 背後から奇襲してきたリーゼ・シエラの斬撃を容易く受け止めるアッシュ。ゆらりと掴みどころのない水のような動きでいなすと、アッシュは一度リーゼ・シエラから距離を取る。

 

「ふぅ、もう動けるようになったのですか? なかなか頑丈ですね」

 

『やかましい、あの電磁波はさすがに堪えたぞ……!』

 

 パイロットであるレイの怒りを体現するかのように、ノズルから排気を吐き出し唸り声のように内燃機関が猛るリーゼ。空いた片手に水平三連ショットガン『レッドウォール』をコールすると、ブロードソードの切先を黒鉄へ突きつける。

 

「あ、貴方は一体……⁉︎私を助けたの⁉︎」

 

『アンタは黙って下がってろ! 後でいくらでも事情は説明してやるよ!』

 

 困惑するロミルダをよそに、レイはアッシュへと突進する。しかし、それを遮るように、眩い光が辺りを包み込む。

 リーゼがカメラアイを地上へと向ければ、そこには吹き散った爆煙の向こうでリングを展開し、エネルギーを充填させるアークがいた。

 

『またアレか……!』

 

「申し訳ないですが、今日はもう時間切れです……安心してださい、そう遠くないうちに再会することになるでしょう」

 

「ロミルダと……そこのお前! すぐに退避しろ! 私のAICでは奴を止められない!」

 

 クラリッサが警告を飛ばすが、それも虚しくアークは強烈な閃光と共にエネルギーを解き放つ。

 ロミルダとリーゼを呑み込み焼き尽くすには十分すぎるほどの熱線の奔流。回避が間に合わないと判断したレイは、ロミルダを庇うように前に出ると、ドームシールドを展開した。

 

『ぐ、おおぉっ……!』

 

 ドームシールドと熱線が一瞬激しくせめぎ合うと、圧縮された熱量が炸裂し、凄まじい爆発を引き起こした。

 並のISなら絶対防御を誘発するどころか、そのまま粉砕されていてもおかしくない威力。それを、リーゼは全エネルギーを集中させたドームシールドで耐え切った。

 しかし、そのひび割れて砕ける寸前のドームシールドに、黒鉄のブレードが突き立てられた。

 

「……本当にしぶといですね、貴方は」

 

 ガラスのように砕け散るドームシールドを振り払い、アッシュは大上段にブレードを構える。そして、カメラアイを点滅させて動かないリーゼへと振り下ろした、が──

 

「さ、させないっ!」

 

 先とは逆にリーゼを庇うように前に出てきたのは、物理シールドを構えるロミルダだった。だが、アッシュの強烈な斬撃には耐えきれず、リーゼと共に弾き飛ばされる。

 

「ロミルダっ⁉︎くっ……!」

 

 真っ逆さまに落ちていくロミルダとリーゼに焦るクラリッサだったが、目の前でリングを格納するアークが紅いカメラアイをこちらに向けたのを見て動きを止める。

 しかし、アークはクラリッサには興味がないと言わんばかりに背を向けて飛び立つ。クラリッサはそれを追撃すべきか一瞬迷ったが、未完成の機体ではアークに太刀打ちできないのは既に明確だった。結局クラリッサはロミルダたちを助けることが先決だと判断した。

 

「次に……次に会った時は必ず捕える。貴様らの所業は決して忘れないぞ……亡国機業!」

 

「ふふっ、楽しみにしていますよ」

 

 そう憎々しげに吐き捨てながら、落下するロミルダとリーゼを救助しに行くクラリッサ。それを尻目にアッシュは含み笑いを零しながら、アークと共に悠々と飛び去っていくのだった。




クラリッサのシュバルツェア・ツヴァイクには、これまた珍妙な武装があるのですが、独特すぎて上手く描写できず。
結局まだ未完成ということにしてしまった、許してください大尉
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