Infinit Fall :Re   作:刀の切れ味

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コロナに大雨で大変なことになってます。それに加えて家の鍵を無くし、今朝は靴底に穴まで空きました……

そんな中でも、私は元気です


Log.45 オペレーション・ネゴシエイト ⑥

(さて、この状況……どうしたものか)

 

 黒々と立ち上る煙と、瓦礫の山と化した建物の数々。基地の惨状を前に、クラリッサは深いため息を吐く。

 基地を襲撃した主犯である亡国機業のエージェントはすでに逃走してしまった。それだけでも既に大失態だが、クラリッサにはまだやるべきことがある。

 

「ロミルダ、無事か?」

 

「は、はい……なんとか生きてます!」

 

 瓦礫の山から顔を出すのは、クラリッサの部下であるロミルダだ。身にまとうラファール・リヴァイヴは傷だらけだったが、特に負傷もしていないようだった。

 

「……()もそこにいるのだろう?」

 

「えっと、微動だにしませんけど……ここにいます」

 

 ロミルダが瓦礫を退かすと、その下で鎮座していたリーゼ・シエラの姿が露わになる。あの『アーク』の砲撃を受け止めたせいか、装甲の表面が黒く焼け焦げている。

 クラリッサにとってリーゼ・シエラは初めて見るISではない。面識があるわけではないが、搭乗しているパイロットのことも知っていた。

 

「……私の声が聞こえるか。第二のイレギュラー、レイ・オルタネイト」

 

「……」

 

「そちらが抵抗しなければ、身の安全は保証する。だが、我々に同行し、すべての事情を説明してもらおうか」

 

 クラリッサの問いかけに対して、リーゼ・シエラから応答はない。しかし、僅かに点滅するカメラアイを動かすと、ジッとロミルダの方を見るのだった。

 

「ふむ……ロミルダ、動けるようなら兵を集めて負傷者の救護を開始しろ」

 

「え、でも……」

 

「でも、じゃない。コイツは私に任せればいい、分かったな?」

 

「や、Jawohl(ヤヴォール)!」

 

 敬礼をしてから飛び立つロミルダを尻目に、クラリッサは再びリーゼ・シエラに向き直る。すると、今度はリーゼも翡翠に輝くカメラアイでクラリッサに向けていた。

 

「……露払いはした、これでいいか?」

 

『──すまないな、手間をかける』

 

 周りには聞こえないように、コア・ネットワークの思考通信で話しかけてくるリーゼ、そのパイロットであるレイ。クラリッサは自分が思っている以上に年若い少年の声に、少しだけ驚いたように片眉をあげる。

 

「世界で二人目の男性適合者、レイ・オルタネイトだな? 事実かどうかは知らないが、あの篠ノ之束博士とも繋がりがあると聞くが……今回の件は、その束博士の指示によるものか?」

 

『ああ、そうだ。前回と同じだよ、束の気に入らないものがあったのさ。ここドイツにはな』

 

(やはり……! やはり、そうなのか……!)

 

 束の指示である、それを聞いたクラリッサは緊張で肩を震わせた。この基地でVTシステムの開発が行われていたことなどクラリッサの知る余地もないが、なんとなく察しはつくというもの。

 クラリッサは必死に思考を巡らせる。どのようにこの事態を収束させれば、ドイツの国益を損なわずに済むのか。同様にレイも同じことを考えていたのだが、先に切り出したのはレイの方だった。

 

『ふー……あまりこういう脅迫じみたやり方は好きじゃないが、この際は仕方ない。クラリッサ・ハルフォーフ大尉、ここは少し取引しようじゃないか』

 

「なに?」

 

『単刀直入に言おう──俺を見逃してくれ』

 

「……それは何かの冗談か?」

 

『事情は説明する、時間がないから簡潔にな』

 

 あっけらかんと見逃せなどとのたまうレイに、クラリッサは少し怒気を含ませて声を荒げる。しかし、レイの話を聞いてその考えはすぐに変わる。

 

「VTシステムの開発、だと……⁉︎そんなものが本当に……それにラウラ隊長がVTシステムを起動させたなど、そんな事が……!」

 

『やはり知らされていないか……まあ、この基地で何が行われていたかは、地下施設を調べれば大体理解できるだろう。監視カメラの映像が残っていたのなら、俺がここの兵士に手を出していないのも分かるはずさ……兵士を皆殺しにしたのはあの亡国機業とかいう連中だ』

 

「……っ!」

 

『ちなみに、亡国機業という名に聞き覚えは?』

 

「……トップシークレットだ、私の口からは何も言えん」

 

『オーケー、心当たりはあるんだな……』

 

 詳細はともかく亡国機業という言葉自体は知っている、クラリッサの態度からそれを悟ったレイだったが、同時に簡単に触れて良い案件ではないことも察していた。

 

『奴らのことはともかく……お互い複雑な事情がある。だから、ここは目をつぶってなかったことにしようじゃないか。アンタらは俺を見逃す、俺はここで見たこと一切他言しない。これでどうだ?』

 

「信用できるものか、そんなこと……!」

 

 しかし、クラリッサは口でそう言うものの、レイを見逃すことが正しい選択だと理解していた。

 レイは世界で三人しかいない男性適合者(一人は男装してるだけだが)、捕縛などすれば否が応でも世界中から注目される。そうすれば、VTシステムを開発していた事実も公になるのは避けられない。そうなれば、ドイツの国益を損なうだけでなく、隊長であるラウラを危うい立場にしてしまうのだ。

 ただクラリッサも頭では理解できていても、軍人としてのプライドがある。亡国機業に続いてレイまでも見逃さなければならないというのは、屈辱でしかなかった。

 

『……俺には学園を守るという任務がある。ラウラが学園の生徒である以上、アイツが何をしようと守らなきゃならん。だから、ラウラが不利益を被るようなことはしないし、情報を漏らすようなことしない。それは約束する』

 

「くそっ……貴様のような得体の知れない奴に、隊長の安否を任せろというのか……!」

 

『隊長であるラウラを慕ってるんだな……少し意外だ』

 

「当たり前だろう、我々の隊長は彼女一人だけだ。そして……隊長を支えるのは副隊長の役目だ……」

 

 ドイツの国益、ラウラの安全、それらを自分のプライドと天秤にかけた時、どちらに傾くかなど結果は明白だった。己の無力さに煮えたぎるような悔しさを感じながら、クラリッサはレイに背を向ける。

 

「じきに後続の部隊が到着する……それまでにここを離れろ」

 

『……本当にいいのか?』

 

「では、我々に同行してくれるのか? 言っておくが、私は貴様を信用したわけじゃない。大体、貴様が我が軍の兵に手を出していないという話も、にわかには信じがたいのだ」

 

『あ、ああ……』

 

「ロミルダを庇ってくれたことには感謝している。だが、ここまでの会話に少しでも虚偽があったのなら、私は決して貴様を許さん。部隊総出で日本までひっ捕らえに行くからな、覚悟しておけ」

 

 背中越しにも伝わるクラリッサの気迫に、コクピットの中で冷や汗をかくレイ。そして、クラリッサがそれだけラウラを慕っていることに驚いてもいた。

 

『……クラリッサ・ハルフォーフ大尉、貴女には迷惑をかける。詫びにもならんかもしれんが、約束は必ず守る。ラウラのことは任せてくれ』

 

「で、できれば……隊長からたまには連絡して欲しいと伝えてくれないか?」

 

『ふっ……お安い御用だ、なんとか説得してみるよ』

 

 レイは瓦礫をどかしながらリーゼを立ち上がらせると、この場から離れるためにフェーズダッシュの起動準備に入る。

 しかし言い忘れたことがあったのか、カメラアイだけをクラリッサの背に向けて声をかける。

 

『一つ言い忘れていた。ここの地下を調べるのなら……ラウラと同じような銀髪の少女の遺体がある。名前も何もない、哀れな娘だ……できればきちんと葬ってやってくれ』

 

「隊長と同じだと?」

 

『詳しいことは知らん。ただ、はっきりしていることが一つ、奴ら亡国機業が何か悪巧みしてたってことだけだ……奴らが何者かは知らんが、次に会った時はぶっ飛ばしてやらないとな』

 

「ふん……それにだけは同意しよう。奴らは我らドイツだけでなく世界の敵だ」

 

『……そうかい』

 

 亡国機業についてはそれ以上尋ねることもなく、レイはフェーズダッシュを起動して虚空へと姿を消す。

 後に残されたクラリッサは、脱力するように息を吐き出して力を抜く。油断をしてはならないと分かっていても、つい緊張の糸が切れてしまったのだ。

 

「副隊長ー! 兵舎の方に動ける兵が何人かいたので、負傷者の救護を開始するように指示してきました! ……あれ?」

 

 ラファール・リヴァイヴを飛翔させながら戻ってきたロミルダがクラリッサに報告すると、そこにいたはずのリーゼ・シエラの姿が消えてしまったことに気づく。

 

「副隊長、あの二人目のイレギュラーはどこに……副隊長?」

 

「……」

 

 何も言わずに腕組みをしたまま、クラリッサはすっかり静かになった夜空を見上げてため息をつく。そんな様子を見て、ロミルダはきょとんと首を傾げる。

 

「ドイツの精鋭を謳っておきながらこのザマか……情けないにも程がある」

 

「いやぁ、私たち頑張った方じゃないですか! あんな連中を相手によく生き残ったってことにしましょうよ。それに、そんな顔してると隊長に冷たい目で睨まれますよ!」

 

「ふっ、そうだな」

 

「じゃあ私はとりあえず、あの二人目のイレギュラーことレイ・オルタネイトを探してきますね! 彼がいないとこの事態を説明できないでしょうし。あと助けてもらったお礼も言わないと!」

 

 そう言って瓦礫の山の向こうへと駆けて行くロミルダに、クラリッサは思わず苦笑する。そして、上層部への言い訳を頭の中で試行錯誤しながら、遠い日本にいる隊長の身を案じるのだった。

 

 

 ──

 

 

「はぁ……はぁ……ぐぅっ……!」

 

 ドロップ・シップの中で滝のような汗を流しながら、傷口にめり込んでいた鉄片をナイフでくり抜き、それをマーヴィンが器用に縫い合わせていく。

 最後に止血消毒して包帯を巻き、顔についていた血を拭ったところで、俺は大きく息をついて体の力を抜いた。

 

『大丈夫ですか、パイロット』

 

「なんとかな……お前こそ大丈夫か?」

 

『機体がダメージを負いましたが、システムに問題はありません。それよりもパイロット、貴方は既に疲労レベルが限界に達しています。帰還し、休息を取りましょう』

 

「ああ、そうしたいのは山々だが……もう一仕事、しなくちゃいけないんだよ。ここまでは一応、楯無の立ててくれた計画通りだしな。マーヴィン、ドロップ・シップの行き先を変更してくれ」

 

「──? (はい、どちらに向かいますか?)」

 

「行き先は……フランスのパリ。リヨン駅から北に300mの高層ビル、そこの屋上だ」

 

 俺は壁に背中を預けながら、喉から声を絞り出すようにマーヴィンに指示を出す。このまま帰還するわけにはいかない。何故ならもう一人、助けを必要としているものがいるのだから。

 

(あいつは自分でなんとかするって言ってたが……まあ、これはあくまで俺の都合で動いているだけだ。あいつの為にやってるわけじゃないと言い訳しておこう)

 

 俺の指示を受けて指定した座標へのワープを始めるドロップ・シップ。船が目的地に着くまで、俺は先程の戦闘のことを思い出していた。

 

(亡国機業、奴らが何者かは知らんが……アッシュ、スローン、そして『アーク』。まるでタイフォンでの戦いをなぞる様だ)

 

 奴らは俺の知っているエイペックス・プレデターズとはまた異なる存在である、それはおそらく間違いない。だが、偶然というには出来すぎている。

 クラリッサの反応から見ても、かなりとんでもない連中のようだ。どこから手に入れたかは知らないが、国の軍事基地でISを用いた戦闘を繰り広げるのだから──俺も人のことは言えないが。

 

(奴らのことも調べたいが、とりあえずは目の前のことに集中するか。帰ったら楯無に聞いてみるとしよう……)

 

 これから会いに行くある人物、彼とは穏便に話を進めたい。ある意味では、国の正規兵を相手にするよりも慎重にいかなければ。

 

「うっ……ちと傷に響くが、もう一踏ん張りだ。お前ももう少しだけ付き合ってくれよ」

 

『了解です、サポートは任せてください』

 

 ワープで光をも置き去りにしていくドロップ・シップ。その向かう先はフランスの首都であるパリ。リヨン駅付近に構える巨大な高層ビルだ。

 何を隠そう、そこは……量産機ISのシェア世界3位の大企業、デュノア社の本社ビルだった。




ISを量産機として売り出すメリットってなんでしょうかね。
いざ戦争になった時に、敵も味方もラファール・リヴァイヴだらけだとシュールな絵面
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