Infinit Fall :Re   作:刀の切れ味

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夏が終わるというのに、本編はまだ夏休みですらない…
これも全て乾巧ってやつのせいなんだ。



Log.48 疲労値の蓄積を検知#リブート実行 ②

(ここが大浴場……一夏はもう上がった後か)

 

 俺は恐る恐る更衣室に足を踏み入れ、その中を見回す。浴室の方を覗いてみても、やはり誰もいない。

 一夏が誘ってきたときに一緒に行けばよかったと後悔してしまうものの、ここまで来たなら引き返すと言う選択肢はない。

 

「なんだ、この……初めての体験というかなんというか、ちょっとワクワクするな……」

 

 衣服を脱いで浴室に足を踏み入れると、大浴槽から沸き立つ湯気で視界が少し霞む。やはり、一人で占有するにはあまりにも広い空間である。

 先程一夏が部屋に来た際、自分が風呂に入る時のスタイルを熱く語っていた。取り敢えずそれを真似てみるとしよう。

 

(まずは髪と体を洗って綺麗にしてから浴槽に浸かる、だったかな?)

 

 一夏の言葉に従って体を洗い流した俺は、恐る恐ると浴槽に浸かってみる。やや熱く感じるお湯に少しずつ慣らしながら、俺は肩まで体をお湯の中に沈めていく。

 

「お、おお……これは……!」

 

 じんわりと体の芯まで温まる心地よい感覚、凝り固まっていた疲労が解けていく気持ち良さに、俺はうっとりとため息を吐く。

 そして、しばらくは何も言わず、何も考えずにその心地よさをじっくりと堪能するのだった。

 

(これが風呂……なるほど、一夏があれだけ熱く語るのも頷ける。これは良い、良いものだ)

 

 ぼんやりと大浴場の天井を眺めながら、自分を取り巻くしがらみや悩みを忘れて、ずっと強張っていた肩の力を抜く。

 しかし、それも束の間。不意に脱衣室から聞こえてきた物音に、俺は顔が一気に青ざめてしまう。

 

(……気のせい、か? いや、気のせいじゃないな……確かに誰かいる。一夏がまた風呂に入りに来たのか)

 

 もし、一夏じゃなかったら……それが例え誰であろうと、まず間違いなく女性になる。だが、今日は他の生徒は大浴場を使えないはずである。そう、この学園に()()しかいない男子だけが……

 

(まさか……だが、ありえないと否定しきれない! そうじゃないとしても、他の生徒が入浴に来てもおかしくない! すぐにここから逃げなくては……!)

 

 とは言っても、何処に逃げればいい? この素っ裸な状態で、広々としたこの浴場で、隠れる場所なんてあるわけないじゃないか。

 そうやって慌てふためいているうちに、大浴場のドアに来訪者のシルエットが映る。そのシルエットは……どう見ても、女性のそれだった。

 そして、大浴場のドアが音を立てて開けられた瞬間、俺は大きくを息を吸い込んで浴槽に深く潜るのだった。

 

「ごぼぼっ……!」

 

 浴槽の底に張り付いて、とにかく気配を消すことに努める。大浴場に入ってきた謎の人物は、まだ俺には気づいていないようだったが、やはりそのまま居座るようである。

 

(くっ……隠れたはいいが、どうすりゃいいんだこの状況! 結局浴槽まで来たらバレちまう──いや、待てよ……!)

 

 浴槽の中で見つからないよう息を潜める俺は、必死に手首のデバイスを操作して、リーゼに指示を送る。

 リーゼはまだシステムやデータの整理と再構築の途中。作業を中断して再起動させるにはやや時間がかかるかもしれない。なんとかパイロットスーツだけでも展開できれば……! 

 

(そうすれば、クロークで身を隠して誤魔化せるかもしれない! だからリーゼ! さっさと目を覚ませぇぇー!)

 

 システムを一新している最中のリーゼに、とにかく何度も指示を送る……が、帰ってきた返事は短く一言。

 

『現在、システムの再起動中。最低限の機能の復旧まで、およそ15分』

 

「ぅぼっ……!」

 

 現実は非情である。リーゼの助けも期待できない絶望感に、俺は肺の中の空気を吐き出してしまう。

 一気に呼吸が苦しくなり、目の前が真っ白になる。ああ、このまま溺れ死ぬのか、俺? いや、浴槽から出ても結局は社会的に抹殺されそうだよな。多分、すぐそこには一糸纏わぬあられもない姿の──

 

「ぶはっ⁉︎げほっ、げほっ! ぜぇ……ぜぇ……あっ」

 

 生存本能には抗えず、俺は浴槽から飛び出して盛大にむせ返る。しかし、ちょうど自分の視線の先にあるものに、言葉を失ってしまう。

 そこには、ちょうど浴槽に入ろうとしていた一人の少女がいた。水に濡れたブロンドの髪にタオル越しに見える艶かしい肢体、俺は思わず見惚れるもすぐに青かった顔が更に青くなる。

 対して、タオル一枚の恥ずかしい姿を見られてしまった少女──シャルロットはこれでもかというほど顔を真っ赤にして叫ぶのだった。

 

「……っ⁉︎うわああぁぁっ⁉︎」

 

 恐らくは反射的に出たのであろう右ストレート、それは見事に俺の顔面を捉え、鼻血を噴き出しながら浴槽内に打ち沈められるのだった。

 

 

 ──

 

 

 その昔、俺がまだライフルマンだったころ。育ての親であるエドに連れられて色街に行ったことがあった。

 20も超えて女を知らんのは人生の半分は損している、と半ば無理やりに大人の嗜みというものを教え込まれたのだ。

 しかし、そんなエドも今の俺の状況を見たら、まずこう言うだろう。『15歳の娘を前に何をしてるんだ』、と。

 

(本当に俺は何をやってるんだろうか……どうしてこうなった?)

 

 パイロットスーツを着用して、一切の素肌を隠した俺。それに対して、一糸纏わぬ姿のシャルロット。その二人が、何故か背中合わせに浴槽に浸かっていた。

 パイロットがその姿で風呂に入っているだけでもシュールではあるが、体育座りで縮こまっている様が尚更シュールだろう。

 

「その……なんか悪いな」

 

「う、ううん、僕の方こそごめん……レイは入ってないって一夏から聞いてたから、いないかと思って……」

 

 気まずい空気の中、浴槽に落ちる水滴の音だけが響く。その沈黙が余計にいたたまれないのだが、変に行動すると俺のタガが外れかねんぞ。ここは心頭滅却、己の熱を抑え込むのだ……心頭滅却の使い方間違えてないか? 

 

(……落ち着け、俺。間違っても絶対に手は出すんじゃないぞ……指一本でも触れたら、即刻お縄につくと思え……だから静まれ、俺の情欲!)

 

 シャルロットにはヘルメットで見えないかもしれないが、きっと俺は今、凄い表情をしているのだろう。これを見られるのはごめんこうむりたい。

 

「……と、とにかく、俺はもう上がるぞ。ここにいたら、色々と危ない。そう、色々とヤバイんだ。主に俺のメンタルが限界を迎えようとしている。いいか、俺は今、仏にでもなれそうなくらい己の煩悩を押さえつけてるんだ。それはもう、三界輪廻を充て何度も六道を行き来してるくらい……何で俺は仏教について語ってるんだ?」

 

「……な、何言ってるのさ」

 

「うん……何言ってるんだろうな」

 

「……」

 

 この状況でお喋りというわけにもいかず、口数の途絶える俺とシャルロット。そんな雰囲気に耐えきれず、俺は立ち上がって逃げようとするが、それを留めるかのようにシャルロットが口を開いた。

 

「あのね……今日、父から電話があったんだ」

 

「……!」

 

「そしたら……僕はもう男装なんてしなくていい、って。そう言われたんだ」

 

「そうか……」

 

 俺は持ち上げようしていた腰を再び下ろすと、静かにシャルロットの言葉に耳を傾ける。そして、シャルロットもそのまま言葉を紡いでいく。

 

「……本当に僕の断りなしに実行したんだ」

 

「いや、お前は勘違いをしているぞ。俺がお前に話した計画、お前はそれに賛同しなかった。だから……俺は俺の問題を解決するために、お前の父親に会いに行ったんだ。その結果、お前にも利があっただけ。それだけだよ」

 

「ふふっ、そう言うと思ったよ。そのずるい言い方……レイらしいね」

 

「悪いな、勝手なことしたのは謝る」

 

「ううん、お礼を言わなくちゃいけないのは僕の方だよ。レイのおかげで……僕はもう、自分を偽らなくていいんだもの。でも無茶のしすぎはダメだよ?」

 

「分かってるさ」

 

 背中を預けるようにもたれかかるシャルロットに、俺は短く返事しながら苦笑する。サラや本音にも散々釘を刺されたが、やはりシャルロットにも同じことを言われてしまった。我ながら、周りに心配をかけすぎたな。

 

「……まあ、いいじゃないか。これからは、お前はシャルルじゃなくて、シャルロットとして過ごせるんだ。なんて事のない、普通の学生として」

 

「僕の名前……!」

 

 俺がシャルルではなく、シャルロットと呼んだことに、シャルロットは驚いた表情を浮かべる。しかし、どこか嬉しそうではあった。

 男として名乗ったシャルルという名前ではなく、本来の女性としての名前であるシャルロットと呼ばれるのも久しぶりだったのだろう。

 

「アルベールさんから聞いた、こっちが本名なんだってな」

 

「……うん、そうなんだ。お母さんが付けてくれた、()の本当の名前……」

 

「私、か……なんだかんだ言って、お前も女の子なんだな」

 

「お、女の子って……私の裸、見たくせに」

 

「待て、そこは弁明させろ。俺はタオル越しにしか見えてない、決して全裸を見たわけじゃない」

 

「やっぱり見えたんだ……レイのえっち……」

 

「……」

 

 一瞬とはいえ、シャルロットの柔肌に見惚れたの事実。そう言われてしまうと、一切の言い訳ができない。

 

「まあ、良かったじゃないか。少なくとも、ここにいる三年間を窮屈に過ごすことはなくなった……改めてよろしくな、サラとも仲良くしてやってくれよ」

 

「うん。でも、それはレイも……あれ?」

 

 ふと背中にあった感触がなくなり、後ろを振り向くシャルロット。しかし、そこには俺の姿はなかった。

 いつのまにか浴槽から上がったのか、シャルロットは姿の見えなくなった俺にため息をつく。そして、改めて自分が同年代の男子とお風呂に入っていたことに、頰を赤くするのだった。

 

「な、何をしてたんだろうね、僕は……」

 

 お湯の熱気のせいか、それとも他に原因があるのか。熱くなった自分の頰を抑えて、シャルロットは一人悶絶する。

 

(本当に……何をしてたんだろうな、俺たち)

 

 俺もまた、クロークで透明化したまま大浴場の扉の向こうで頭を抱えて座り込む。そして、行き場のない熱を覚ますように、頭の上から冷水を被るのだった。

 

 

 ──

 

 

 がやがやと騒がしい朝の教室。今日からやっと復帰できた俺は、眠たげに目をこすりながら机に頬杖をついていた。

 復帰したとは言うものの体調は決して万全ではなく、まだ本調子ではない。しばらくは何事も起きず、ゆったりと過ごしたいと祈るばかりである。

 

「み、みなさん、おはようございます……」

 

 教室に入ってきた山田先生、しかし、何故かふらふらとして元気がない。また何かトラブルでもあったのだろうか? 

 

「今日は、ですね……皆さんに転校生を紹介します。転校生といいますか、すでに紹介は済んでるといぃますか、ええと……」

 

 どう説明すればいいか分からず、一人こんがらがる山田。その様子に一夏やその他クラスメイトたちも不思議そうに首を傾げる。

 しかし、俺だけはこの教室にシャルロットがいないことを確認すると、なんとなく察したようにニヤリと口角を釣り上げた。

 

(ああ、そりゃ山田先生も困惑するよな……また寮の部屋割りしなくちゃいけないもんな)

 

「うぅ〜……じゃあ、入ってください……」

 

「失礼します」

 

 教室に入ってきてぺこりと礼をするのは、スカート姿のシャルロット。それを見たクラスの皆は、ぽかんと口を開けて惚けてしまう。そりゃそうだろう、昨日までは男子だったシャルルが、女子のシャルロットになって戻ってきたんだからな。

 

「え? デュノア君って女……?」

 

「おかしいと思った! 美少年じゃなくて、美少女だったわけね!」

 

「って、織斑くん、同室だったから知らないってことは──」

 

「ちょっと待って! 昨日って確か、男子が大浴場使ってたわよね⁉︎」

 

 ザワザワと喧騒に包まれる教室の中、何故か矛先は一夏へと向く。しかし、あらぬ濡れ衣を着せられようとしている一夏は、言ってはならないことを言ってしまった。

 

「ま、待て! 俺は一人で風呂に入ってたぜ! あ、でも確かシャルル……じゃなくてシャルロットか? 確か昨日、大浴場でレイに会ったって言ってたような……」

 

「「「えっ……?」」」

 

 クラスの視線が、今度は俺へと向く。俺は何も言わずに頬杖をついたままだったが、その表情は引きつって固まっていた。

 そして、同じようにシャルロットも表情が固まっていたが、変わらず笑顔のまま。しかし、その笑顔はどこか黒い。

 

「酷いなぁ、一夏は……」

 

「全くだ……」

 

 無言で左腕だけ限定でISを展開するシャルロットと、懐から拳銃を取り出す俺。それに身の危険を感じた一夏は逃亡を試みるが、そんな一夏の前に突き立てられる日本刀。

 きっと何か勘違いしているのだろう、しかし、恋する乙女は盲目。一夏の前には、怒り心頭の箒とセシリアがいた。

 

「どういうことか、説明してもらいましょうか?」

 

「いや、待て待て! 俺は何もしてないって!」

 

「ほう……?」

 

 聞く耳を持たない箒とセシリア、そして更に、事態は混迷を極める。まるで蹴破られたかのように開かれるドア、そこには毛を逆立てた猫のように息を荒げた鈴がいた。

 しかも、その後ろには──鈴とは正反対に氷のように冷たい視線を俺に向けるサラもいた。

 

「一夏ぁっ‼︎」

 

「兄様、本当にシャルルさん……ではなくシャルロットさんとお風呂に入ったんですか……⁉︎」

 

「レイレイー、えっちなことしてない〜?」

 

 しれっと混ざった本音も加えて、俺にも向けられる非難の矛先。今度俺が必死に弁明する番らしい。

 

「俺は何もしてない、断じて何もしてない。寧ろ、あそこで我慢した俺を褒めろ!」

 

「……レイは悪い子だね。そんな肯定するようなこと言っちゃうなんて」

 

「やっぱり、シャルロットさんとお風呂に入ったんですね……」

 

「おわーいけないんだ〜、会長に報告しておくね〜」

 

「ま、待て、お前ら……目が怖いぞ……」

 

 ゆらりと左腕に取り付けられた六九口径パイルバンカー"灰色の鱗殻(グレー・スケール)"を構えるシャルロットに、俺はどこか本気の殺気を感じ取る。

 同じく、物騒なものを手にした少女たちに囲まれる一夏も、俺と全く同じことを考えただろう。

 

((ここは逃げないと……殺される!))

 

 俺は教室の窓へ、一夏は教室の後ろのドアから。それぞれの逃走経路へと走り出す。そして、それを追う乙女たち。

 しかし、皆ほぼ同時にその動きが停止する。まるで時間でも止められたかのようだ。俺は自由のきく首を動かして何が起きたかを確かめるが、それはすぐに判明する。

 

「……」

 

「お前……ラウラ……?」

 

 黒いIS、『シュバルツェア・レーゲン』を展開して、両腕を交差するように突き出したラウラが、そこにいた。動きを止めたのはラウラのAICだったのだ。

 

「もうISは直ったのか。早いな」

 

「と、ともかく助けてくれ……たのか? 俺たちまで動きを止められてるけど」

 

「ちょっとあんた! 何してんのよ!」

 

「くっ! ISを使うとは卑怯な……!」

 

 動きを止められたまま騒ぐ箒と鈴をよそに、一夏へと向き直るラウラ。最初の時のようにまた叩かれるのかと一夏は少しビビる。しかし、ラウラの取った行動は、全く予想外のものだった。

 

「織斑一夏、お前には、その……私の勝手な因縁で迷惑をかけてしまった、すまない」

 

「お、おう……?」

 

 まさか謝罪されるとは思ってなかった一夏は、驚きで中途半端な返事を返してしまう。そしてラウラは、今度は俺の方へと向くと……

 

「……Lehrer」

 

「……なんだって?」

 

 聞きなれないドイツ語に、俺は頭の上に疑問符を浮かべる。現時点でも困惑以外の反応ができないのだが──次にラウラの口から出た言葉に、俺は困惑を通り越して思考停止してまうのだった。

 

「私を……弟子にしてくれ」

 

「…………はぁっ⁉︎」

 

 Lehrerは、ドイツ語で師匠を意味するらしい。一体どのような心境の変化があったのか。あの抜き身のナイフのようだったラウラが、こうも丸くなってしまうなんて。

 

「全員っ! 席につけっっ! 馬鹿騒ぎもいい加減にしろ‼︎」

 

 いよいよ収拾がつかなくなってきた朝のHRは、織斑先生の一喝でようやく収まる。しかし、騒ぎが落ち着いて授業が始まっても、俺の頭の中はこんがらがったままだった

 これは諸々の問題が全部丸く収まった……ってことで良いんだろうか? いや、そういう事にしておこう。めでたしめでたし!




HALOのミョルニルアーマーを仮面ライダーみたいにアレンジすれば絶対に売れる!ってアメリカの友達が言ってました。
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